外貨建取引の換算 — TTMが原則。届出をしないと、短期の債権債務だけ期末時換算法になる
結論から言うと、外貨建取引を円に直すレートは法人税法61条の8第1項が、その取引を行った時における外国為替の売買相場によるとしか書いておらず、どの相場かは条文に書かれていません。TTM・TTB・TTSという区別は条文ではなく法人税基本通達13の2-1-2にあります。原則は電信売買相場の仲値(TTM)で、継続適用を条件に、収益と資産は電信買相場(TTB)、費用と負債は電信売相場(TTS)によることもできます。
そして、いちばん誤解されているのが「期末の換算方法を届け出ていないから、うちは期末に換算し直さなくてよい」という理解です。届出をしなかった場合の法定換算方法を定めているのは法人税法施行令122条の7ですが、その中身は一様ではありません。短期の外貨建債権・債務と、満期が1年以内の外貨預金は期末時換算法、それ以外は発生時換算法と、同じ会社の中で反対の扱いになります。輸出入の売掛金・買掛金はたいてい決済期限が1年以内なので、何も届け出ていない会社でも、期末に洗い替えられて為替差損益が立つのが原則の姿です。
この記事では、①取引日にどのレートを使うか ②期末に換算し直すものとしないもの ③届出をしないとどうなるか ④選定と変更の手続 ⑤翌期の洗替え ⑥為替予約の振当処理 ⑦個人事業主との違い、を条文と通達の実物を引きながら順に見ます。
取引日の換算 — 条文は「売買相場」としか書いていない
法人税法61条の8第1項は次のとおりです。
内国法人が外貨建取引(外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れ、剰余金の配当その他の取引をいう。以下この目において同じ。)を行つた場合には、当該外貨建取引の金額の円換算額(外国通貨で表示された金額を本邦通貨表示の金額に換算した金額をいう。以下この目において同じ。)は、当該外貨建取引を行つた時における外国為替の売買相場により換算した金額とする。
読み取れることが2つあります。1つは外貨建取引の範囲がかっこ書きで列挙されていることで、資産の販売と購入、役務の提供、金銭の貸付けと借入れ、剰余金の配当が名指しされています。外貨で決済する取引は、売買だけでなく借入れや配当も含みます。
もう1つは、この条文が「外国為替の売買相場」としか言っていないことです。TTMを使えとも、TTBを使えとも書いていません。実務でどのレートを使うかは、次に見る通達で決まっています。条文だけを読んで「どのレートでもよい」と考えるのは危険で、通達がかなり細かく枠をはめています。
TTM・TTB・TTSの使い分けは通達にある
法人税基本通達13の2-1-2は、61条の8第1項に基づく円換算について次のように定めています。
その取引を計上すべき日(以下この章において「取引日」という。)における対顧客直物電信売相場(以下この章において「電信売相場」という。)と対顧客直物電信買相場(以下この章において「電信買相場」という。)の仲値(以下この章において「電信売買相場の仲値」という。)による。ただし、継続適用を条件として、売上その他の収益又は資産については取引日の電信買相場、仕入その他の費用(原価及び損失を含む。以下この章において同じ。)又は負債については取引日の電信売相場によることができるものとする。
ここで向きを取り違えやすいので、表に整理します。電信売相場(TTS)は銀行が外貨を「売る」ときのレートで、円換算額は高く出ます。電信買相場(TTB)は銀行が外貨を「買う」ときのレートで、円換算額は低く出ます。
| 対象 | 原則 | 継続適用を条件に認められる方法 | 円換算額への効き |
|---|---|---|---|
| 売上その他の収益・資産 | TTM(仲値) | TTB(電信買相場) | 低く計上される |
| 仕入その他の費用・負債 | TTM(仲値) | TTS(電信売相場) | 高く計上される |
収益は安く、費用は高くという組み合わせなので、この選択は所得を小さくする側に働きます。通達がこれを認めるかわりに「継続適用を条件として」と縛っているのは、期ごとに有利な方へ乗り換えることを防ぐためです。
あわせて、通達の注書きに2つ実務上重要なことが書かれています。1つ目は、どの銀行のレートを使うかについて、原則としてその法人の主たる取引金融機関のものによるとされていることです。ただし、同一の方法により入手した合理的なものを継続して使用している場合はそれも認められます。日本銀行や特定の情報ベンダーの公表値を使い続けることも、この枠内であれば否定されません。
2つ目は、取引日当日のレートでなくてもよい場合があることです。継続適用を条件に、取引日の属する月または週の前月・前週の末日、当月・当週の初日のレート、あるいは1か月以内の一定期間の平均相場も使えるとされています。毎日レートを拾う運用が現実的でない会社は、社内規程で「前月末日のTTM」と決めて継続するのが実務的です。
期末に換算し直すもの、しないもの(61条の9第1項の4区分)
取引日に円換算した金額は、そのまま帳簿に載ります。問題はその後で、期末にレートが動いていたら換算し直すのかです。法人税法61条の9第1項は、期末に保有する外貨建資産等を4つの号に分け、号ごとに使える方法を定めています。方法は2つあります。
- 発生時換算法 — 取引時に使ったレートのまま据え置く。期末に換算差額は出ない
- 期末時換算法 — 期末のレートで換算し直す。差額が為替差損益として出る
| 61条の9第1項の号 | 対象 | 使える方法 |
|---|---|---|
| 1号 | 外貨建債権・外貨建債務(外貨建ての売掛金・買掛金・貸付金・借入金) | 発生時換算法 または 期末時換算法(選べる) |
| 2号イ | 売買目的有価証券 | 期末時換算法のみ |
| 2号ロ | 売買目的外有価証券のうち償還期限・償還金額の定めのあるもの | 発生時換算法 または 期末時換算法(選べる) |
| 2号ハ | イ・ロ以外の有価証券(外国株式など) | 発生時換算法のみ |
| 3号 | 外貨預金 | 発生時換算法 または 期末時換算法(選べる) |
| 4号 | 外国通貨(手元の外貨現金) | 期末時換算法のみ |
ここで見落とされやすいのが3号と4号の非対称です。外貨預金は方法を選べるのに、手元に置いている外貨の現金は期末時換算法しか認められていません。金庫にある米ドル紙幣は、届出の有無にかかわらず期末レートで換算し直すことになります。
2号ハも同じ形で、外国株式のように償還期限のない有価証券は発生時換算法しかありません。期末に株価が動いても、為替の側での換算差額は出ない扱いです。「有価証券だから期末に時価評価するはず」という感覚で処理すると外します。
なお、期末時換算法を使う場合の期末レートについても通達に定めがあります。通達13の2-2-5は次のとおりです。
法人が期末時換算法により円換算を行う場合(法第61条の8第2項《先物外国為替契約等により円換算額を確定させた外貨建取引の換算》の規定の適用を受ける場合を除く。)の為替相場は、事業年度終了の日の電信売買相場の仲値による。ただし、継続適用を条件として、外国通貨の種類の異なるごとに当該外国通貨に係る外貨建資産等の全てについて、外貨建ての資産については電信買相場により、外貨建ての負債については電信売相場によることができる。
取引日と同じ構造で、原則はTTM、継続適用を条件に資産はTTB・負債はTTSです。ただし取引日の通達と違い、こちらは外国通貨の種類ごとに、その通貨に係る外貨建資産等の全部についてという縛りが明示されています。ドル建て資産の一部だけTTB、残りはTTM、という使い分けはできません。
届出をしないとどうなるか — 法定換算方法は一様ではない
61条の9第1項の柱書は、選べる区分について「当該内国法人が選定した方法とし、当該内国法人がその方法を選定しなかつた場合には、これらの規定に定める方法のうち政令で定める方法とする」としています。この政令が法人税法施行令122条の7です。中身は2つの号だけで、次のように分かれます。
| 届出をしなかった場合の区分 | 法定換算方法 | 期末に為替差損益が出るか |
|---|---|---|
| 短期の外貨建債権・債務(決済期限が期末日の翌日から1年以内に到来) | 期末時換算法 | 出る |
| 満期1年以内の外貨預金 | 期末時換算法 | 出る |
| 上記以外(長期の債権債務、長期の外貨預金、2号ロの有価証券) | 発生時換算法 | 出ない |
これがこの記事のいちばんの要点です。「届出をしていないから発生時換算法」は、半分しか当たっていません。短期のものだけが期末時換算法になります。
数値で見ます。3月決算の会社が2026年2月10日に10万米ドルの製品を輸出し、代金の入金が2026年5月末の場合を考えます。取引日のTTMが1ドル150円、期末(2026年3月31日)のTTMが1ドル155円だとします。
| 時点 | レート | 売掛金の円換算額 | 損益に立つ額 |
|---|---|---|---|
| 2026年2月10日(取引日) | 150円 | 15,000,000円 | 売上 15,000,000円 |
| 2026年3月31日(期末) | 155円 | 15,500,000円 | 為替差益 500,000円 |
この売掛金は決済期限が5月末で1年以内なので短期外貨建債権に当たり、届出をしていなければ法定換算方法は期末時換算法です。何も届け出ていない会社でも、50万円の為替差益が課税所得に乗ります。決算で初めて気づいて驚くのは、たいていこの経路です。
選定の単位は「通貨ごと・6区分ごと・事業所ごと」
方法を選ぶときの単位を定めているのが法人税法施行令122条の4です。柱書は次のとおりです。
内国法人が事業年度終了の時において有する法第六十一条の九第一項(外貨建資産等の期末換算)に規定する外貨建資産等(同項第一号、第二号ロ及び第三号に掲げるものに限る。次条までにおいて「外貨建資産等」という。)の金額を円換算額に換算する方法は、その外国通貨の種類ごとに、かつ、次に掲げる外貨建資産等の区分ごとに選定しなければならない。この場合において、二以上の事業所を有する内国法人は、事業所ごとに換算の方法を選定することができる。
単位は3つ重なっています。①外国通貨の種類ごと ②6つの区分ごと ③(2以上の事業所があれば)事業所ごとです。6つの区分は、短期の債権債務/長期の債権債務/満期保有目的等の外貨建有価証券/それ以外の2号ロ有価証券/満期1年以内の外貨預金/それ以外の外貨預金、です。
実務上の意味は明確で、「うちはドル建てしか扱っていないので1回届け出れば済む」という会社が、ユーロ建ての取引を始めたら、ユーロについて改めて選定が要るということです。通貨をまたいで自動的に適用されるものではありません。
届出の期限を定めているのは施行令122条の5で、外貨建資産等を取得した日の属する事業年度の確定申告書の提出期限までに、書面で納税地の所轄税務署長に届け出るとされています。事業年度が始まる前ではなく、取得した期の申告期限までという後ろ倒しの期限です。ただし、その前の事業年度に同じ通貨・同じ区分の外貨建資産等について届出をすべきだった場合は、この本文の適用はありません。
変更は事前の承認。ただし6か月でみなし承認になる
選定は事後の届出でよいのに対し、変更は向きが逆です。施行令122条の6第1項は次のとおりです。
内国法人は、第百二十二条の四(外貨建資産等の期末換算方法の選定の方法)に規定する外貨建資産等(第六項において「外貨建資産等」という。)につきその金額の事業年度終了の時における円換算額への換算の方法として選定した方法(その方法を届け出なかつた内国法人がよるべきこととされている次条各号に定める方法を含む。第六項において同じ。)を変更しようとするときは、納税地の所轄税務署長の承認を受けなければならない。
ここでかっこ書きが重要です。「その方法を届け出なかつた内国法人がよるべきこととされている次条各号に定める方法を含む」——つまり、届出をしていない会社が法定換算方法から別の方法へ移りたい場合も、単に届出を出せばよいのではなく、承認が要ります。「今まで出していなかったので今から出す」という発想で届出書を提出しても、それは変更の申請として扱われます。
申請の期限は同2項で、新たな換算の方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までです。同3項は、現在の方法を採用してから相当期間を経過していないとき、または変更後の方法では所得の計算が適正に行われ難いと認めるときは、税務署長が申請を却下できると定めています。
実務で助かるのが同5項のみなし承認です。申請書の提出があった場合に、その事業年度終了の日(中間申告書を提出すべき法人については事業年度開始の日以後6か月を経過した日の前日)までに承認も却下もなかったときは、その日に承認があったものとみなされます。返事が来ないまま期末を迎えても、宙に浮いたままにはなりません。
期末に立てた為替差損益は、翌期に戻す(洗替え)
期末時換算法で計上した換算差額は、そのまま置きっぱなしにはなりません。施行令122条の8第1項が次のように定めています。
内国法人が法第六十一条の九第二項(為替換算差額の益金又は損金算入)の規定により当該事業年度の益金の額又は損金の額に算入した金額に相当する金額は、当該事業年度の翌事業年度の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入する。
益金に算入した額は翌期に損金へ、損金に算入した額は翌期に益金へ、という洗替えです。先ほどの例(期末に為替差益50万円)でいえば、翌期の期首でこの50万円を戻し、売掛金の帳簿価額は取引日レートの1,500万円に戻ります。そのうえで5月末の実際の入金額との差が、翌期の実現した為替差損益になります。
為替予約 — 振当処理は「帳簿書類に記載したとき」だけ
為替予約(先物外国為替契約等)で円換算額を確定させた場合には、その確定した円換算額をそのまま使うことができます。これが振当処理で、根拠は法人税法61条の8第2項です。条文には要件が2つ書かれています。
- 先物外国為替契約等により、外貨建取引によって取得・発生する資産または負債の金額の円換算額を確定させたこと
- 当該先物外国為替契約等の締結の日において、その旨を財務省令で定めるところにより帳簿書類に記載したこと
2つ目が落とし穴です。予約を締結しただけでは足りず、締結の日に帳簿書類へ記載していなければ振当処理は使えません。決算のときに予約の存在に気づいて遡って適用する、ということができない作りになっています。為替予約を締結したら、その日のうちに記載を残す——これが実務のチェックポイントです。
なお、短期売買商品等と売買目的有価証券の取得・譲渡は、条文のかっこ書きで振当処理の対象から除かれています。
予約差額は、予約したタイミングで2つに割れる
振当処理をした場合、予約レートと取引時レートの差(為替予約差額)を、いつの期の損益にするかが問題になります。法人税法61条の10第1項は、原則として予約締結の日の属する事業年度から決済の日の属する事業年度までの各事業年度に配分するとしています。配分の計算方法は施行令122条の9第1項が定めていて、予約が取引の前か後かで扱いが分かれます。
| 予約のタイミング | 差額の内訳 | 損益への入れ方 |
|---|---|---|
| 取引の後に予約した(1号) | 取引時レート → 予約締結時レート の差(直直差額) | 締結の日の属する事業年度に一括 |
| 予約締結時レート → 予約レート の差(直先差額) | 締結日から決済日までの期間で日数按分 | |
| 取引の前に予約した(2号) | 取引時レート → 予約レート の差の全額 | 取引日から決済日までの期間で日数按分 |
つまり取引の後に予約すると、予約した瞬間までの相場の動きは、その期に一括で損益になります。取引の前に予約していれば、そういう一括計上部分は生じません。予約を「いつ」締結したかで、当期に乗る金額が変わります。
期間配分は原則として日数按分ですが、施行令122条の9第3項が月数によることもできると定めており、この場合の月数は暦に従って計算し、1か月に満たない端数は1か月とされます。
短期のものについては簡便な扱いがあります。法人税法61条の10第3項は、決済期限が期末日の翌日から1年以内に到来する短期外貨建資産等については、為替予約差額をその事業年度の損益に一括して算入できるとしています。ただし施行令122条の9第2項に注意が必要で、いったん61条の10第1項の配分を適用したものは、あとから短期に該当することになっても引き続き配分を続けると定められています。途中から一括処理へ乗り換えることはできません。
法人税額の目安を計算する(為替差損益を含めた課税所得から)個人事業主には、期末換算の規定がない
ここまでは法人の話です。個人事業主について定めているのは所得税法57条の3で、条文は次のとおりです。
居住者が、外貨建取引(外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいう。以下この条において同じ。)を行つた場合には、当該外貨建取引の金額の円換算額(外国通貨で表示された金額を本邦通貨表示の金額に換算した金額をいう。次項において同じ。)は当該外貨建取引を行つた時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとする。
法人税法61条の8第1項とほぼ同じ文言です。違いは、その先に何があるかです。法人には61条の9(期末換算)と61条の10(予約差額の配分)が続きますが、所得税法57条の3には期末換算に相当する条文がありません。2項は振当処理、3項は政令への委任で、条文は3項で終わります。
| 法人(法人税法) | 個人事業主(所得税法) | |
|---|---|---|
| 取引日の換算 | 61条の8第1項 | 57条の3第1項(ほぼ同文) |
| 期末の換算 | 61条の9(あり) | 相当する条文なし |
| 予約差額の期間配分 | 61条の10(あり) | 相当する条文なし |
| 振当処理 | 61条の8第2項 | 57条の3第2項 |
結果として、個人事業主は年末に外貨建ての売掛金・買掛金を換算し直しません。実際に決済したときに、取引時の円換算額との差が為替差損益として認識されます。法人と同じつもりで年末に洗い替えると、条文に根拠のない損益を計上することになります。
なお、振当処理については個人にも定めがあり、57条の3第2項は不動産所得・事業所得・山林所得・雑所得を生ずべき業務を行う居住者に限って認めています。法人と同じく先物外国為替契約等の締結の日に、財務省令で定めるところにより帳簿書類その他の書類に記載したときが要件です。
実務の落とし穴
- 「届出をしていないから期末換算は不要」は誤り。施行令122条の7により、短期の外貨建債権・債務と満期1年以内の外貨預金は、届出がなくても期末時換算法です。輸出入の売掛金・買掛金はほぼここに入ります
- 手元の外貨現金には選択肢がない。61条の9第1項4号の外国通貨は期末時換算法のみです。外貨預金(3号)は選べるので、同じ「外貨で持っている資産」でも扱いが違います
- 外国株式は換算し直さない。2号ハに当たる有価証券は発生時換算法のみです
- 通貨が増えたら選定も増える。施行令122条の4は外国通貨の種類ごとに選定させます。ドルで届け出ていても、ユーロには及びません
- 変更には承認が要る。施行令122条の6第1項のかっこ書きにより、法定換算方法によっていた会社が別の方法へ移る場合も承認が必要です。しかも申請は事業年度開始の日の前日までで、期中に思い立っても当期からは変えられません
- 翌期首の戻しを忘れない。施行令122条の8第1項の洗替えが抜けると、翌期の為替差損益が本来と違う額になります
- 為替予約は締結の日に記載する。61条の8第2項の要件で、後から遡れません
- 予約差額の一括処理へ後から乗り換えられない。施行令122条の9第2項が、いったん配分を適用したものは短期になっても配分を続けると定めています
- 個人事業主は期末換算しない。所得税法57条の3には期末換算の規定がありません
- 取引日の換算は法人税法61条の8第1項。レートの中身は通達13の2-1-2で、原則TTM、継続適用を条件に収益・資産はTTB、費用・負債はTTS
- 期末の扱いは61条の9第1項の号ごと。売買目的有価証券と外国通貨は期末時換算法のみ、その他の有価証券は発生時換算法のみで、選べるのは債権債務・2号ロ有価証券・外貨預金の3つ
- 届出がない場合の法定換算方法(令122条の7)は一様ではなく、短期の債権債務と満期1年以内の外貨預金だけ期末時換算法
- 選定は通貨ごと・6区分ごと・事業所ごとで、届出期限は取得した期の申告期限まで。変更は事業年度開始の前日までの申請+承認(6か月でみなし承認)
- 期末時換算法で立てた差額は翌期に洗い替える(令122条の8第1項)
- 為替予約の振当処理は締結の日の帳簿記載が要件。予約差額は取引の後に予約すると直直差額が当期一括になる
- 個人事業主には期末換算の規定がない(所得税法57条の3)
よくある質問
Q. 外貨建取引を円に直すとき、TTMとTTBとTTSのどれを使えばよいですか?
A. 原則は電信売買相場の仲値(TTM)です。法人税法61条の8第1項は「外国為替の売買相場」としか定めておらず、どの相場かは法人税基本通達13の2-1-2が定めています。同通達は、継続適用を条件として、売上その他の収益または資産については取引日の電信買相場(TTB)、仕入その他の費用または負債については取引日の電信売相場(TTS)によることもできるとしています。使う銀行は原則としてその法人の主たる取引金融機関のものによりますが、同一の方法により入手した合理的なものを継続して使用している場合も認められます。
Q. 期末の換算方法を税務署に届け出ていません。期末に換算し直さなくてよいですか?
A. 区分によって違います。法人税法施行令122条の7が定める法定換算方法は一様ではなく、施行令122条の4第1号の短期外貨建債権・短期外貨建債務と、同条第5号の満期が1年以内の外貨預金については期末時換算法、それ以外については発生時換算法とされています。輸出入の売掛金や買掛金は決済期限が1年以内であることが多く、その場合は届出をしていなくても期末レートで換算し直して為替差損益を計上することになります。自社の債権債務の決済期限が期末日の翌日から1年以内に到来するかどうかを、まず確認してください。
Q. 手元にある外貨の現金と、外貨預金で扱いは同じですか?
A. 違います。法人税法61条の9第1項3号の外貨預金は発生時換算法と期末時換算法のどちらかを選べますが、同項4号の外国通貨は期末時換算法しか定められていません。手元の外貨現金は、届出の有無にかかわらず期末レートで換算し直すことになります。同じ「外貨で持っている資産」でも条文上の号が違うため、区分ごとに確認する必要があります。
Q. 今まで届出をしていませんでしたが、来期から発生時換算法にしたい場合はどうすればよいですか?
A. 届出ではなく、変更の承認申請になります。法人税法施行令122条の6第1項は、選定した方法を変更しようとするときは所轄税務署長の承認を受けなければならないとしており、そのかっこ書きで、方法を届け出なかった法人がよるべきこととされている法定換算方法も「選定した方法」に含めています。申請書の提出期限は同2項により新たな換算の方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までです。なお同5項により、その事業年度終了の日(中間申告書を提出すべき法人は事業年度開始の日以後6か月を経過した日の前日)までに承認も却下もなかったときは、その日に承認があったものとみなされます。
Q. 期末に計上した為替差益は、翌期にどうなりますか?
A. 翌事業年度に戻します。法人税法施行令122条の8第1項が、期末換算差額として当該事業年度の益金の額または損金の額に算入した金額に相当する金額は、翌事業年度の所得の金額の計算上、損金の額または益金の額に算入すると定めています。これを洗替えといい、翌期首に帳簿価額は取引日のレートで換算した額に戻ります。会計ソフトが自動で戻さないこともあるため、期首の作業として手順書に残しておくと安全です。
Q. 為替予約をしたのに、予約レートで処理してよいと言われませんでした。なぜですか?
A. 帳簿書類への記載が要件になっているためと考えられます。法人税法61条の8第2項は、先物外国為替契約等により円換算額を確定させた場合において、当該先物外国為替契約等の締結の日においてその旨を財務省令で定めるところにより帳簿書類に記載したときに限り、その確定させた円換算額を用いるとしています。締結の日における記載が条文上の要件なので、決算の段階で遡って適用することはできません。為替予約を締結したら、その日のうちに記載を残す運用にしてください。
Q. 個人事業主ですが、年末に外貨建ての売掛金を換算し直す必要はありますか?
A. 所得税法には、法人税法61条の9に相当する期末換算の規定がありません。所得税法57条の3は1項で取引時の換算、2項で先物外国為替契約等による振当処理、3項で政令への委任を定めており、年末時点で保有する外貨建資産等を換算し直す条文は置かれていません。したがって、一般には取引時の円換算額のままとし、実際に決済したときに差額を為替差損益として認識することになります。個別の申告の判断については税理士にご相談ください。
Q. 為替予約差額は、いつの期の損益になりますか?
A. 原則として、予約締結の日の属する事業年度から決済の日の属する事業年度までの各事業年度に配分します(法人税法61条の10第1項)。配分の計算は法人税法施行令122条の9第1項が定めており、取引を行った後に予約を締結した場合は、取引時のレートと締結時のレートの差額を締結の日の属する事業年度に一括して計上し、締結時のレートと予約レートの差額を締結日から決済日までの期間で按分します。取引の前に予約していた場合は、差額の全額を取引日から決済日までの期間で按分します。なお同条3項により、日数ではなく月数によることもできます。
出典
- e-Gov法令検索「法人税法」(昭和四十年法律第三十四号)。法令API v2 の
law_data/340AC0000000034から全文を取得した。参照したのは61条の8第1項〜第4項(外貨建取引の換算)、61条の9第1項第1号〜第4号・第2項〜第4項(外貨建資産等の期末換算差益又は期末換算差損の益金又は損金算入等)、61条の10第1項・第3項・第5項(為替予約差額の配分)である。本文の引用はこの取得結果からの逐語である - e-Gov法令検索「法人税法施行令」(昭和四十年政令第九十七号)。法令API v2 の
law_data/340CO0000000097から全文を取得した。参照したのは122条の4(外貨建資産等の期末換算方法の選定の方法)、122条の5(外貨建資産等の期末換算の方法の選定の手続)、122条の6第1項〜第5項(外貨建資産等の期末換算の方法の変更の手続)、122条の7第1号・第2号(外貨建資産等の法定の期末換算方法)、122条の8第1項(外貨建資産等の為替換算差額の翌事業年度における処理等)、122条の9第1項第1号・第2号・第2項・第3項(為替予約差額の配分)である。本文の引用はこの取得結果からの逐語である - e-Gov法令検索「所得税法」(昭和四十年法律第三十三号)。法令API v2 の
law_data/340AC0000000033から全文を取得した。参照したのは57条の3第1項〜第3項(外貨建取引の換算)である。本文の引用は逐語である。期末換算に相当する条文が存在しないことは、同法の条文一覧に法人税法61条の9・61条の10に対応する規定が置かれていないことを確認したものである - 国税庁「法人税基本通達」第13章の2(外貨建取引の換算等)。
www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/13_2/の第1節・第2節の原文(14,095字)を取得した。参照したのは13の2-1-2(外貨建取引及び発生時換算法の円換算)、13の2-1-10(外貨建てで購入した原材料の受入差額)、13の2-2-5(期末時換算法-事業年度終了の時における為替相場)である。本文の引用はこの取得結果からの逐語である - この記事で扱っていない事項について。会計基準(外貨建取引等会計処理基準)は税務の取扱いと一致しない部分があるが、本稿は法人税法・所得税法の取扱いに絞っており、会計基準そのものには当たっていない。消費税の課税標準の外貨換算は消費税法の通達に別の定めがあり、本稿では扱っていない。外貨建の有価証券の評価損益(法人税法61条の3)、国外支店等の財務諸表の換算、ヘッジ会計・繰延ヘッジ(法人税法61条の6)も主題が別のため扱っていない。外国税額控除における換算も本稿の対象外である
この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する税務相談ではありません。自社の外貨建資産等がどの区分に当たるか、どの換算方法を選ぶべきか、届出や変更申請が必要かは事実関係によって変わりますので、実際の判断については税理士にご相談ください。