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貸倒損失とは — 9-6-1は強制で落ちる。9-6-2と9-6-3は損金経理が要る

結論から言うと、貸倒損失の入口は3つあり、そのうち1つは「落とすかどうかを選べない」ものです。法人税基本通達は9-6-1・9-6-2・9-6-3の3か条で貸倒れを定めていますが、語尾が3つとも違います。9-6-1は「貸倒れとして損金の額に算入する」、9-6-2は「貸倒れとして損金経理をすることができる」、9-6-3は「損金経理をしたときは、これを認める」です。

この差は実務に直結します。9-6-1に当たる事実(更生計画・再生計画の認可決定など)が起きたら、その金額は「その事実の発生した日の属する事業年度において」損金になると書かれています。帳簿に書いたかどうかは条件になっていません。逆に言えば、その期に気づかず翌期に計上しても、それは期ズレです。一方で9-6-2と9-6-3は損金経理が前提なので、決算で費用に計上していなければ落ちません。同じ「貸倒れ」という言葉で、動かす場所も、選べるかどうかも違います。

そしてもう1つ、見落とされやすい論点があります。消費税の貸倒れ控除は、法人税とは完全に別の条文で動いています。根拠は消費税法39条・同施行令59条・同施行規則18条で、通達9-6-1〜9-6-3ではありません。控除できる金額も税込価額の110分の7.8(軽減税率なら108分の6.24)で、税込330,000円が回収不能になったときに戻るのは30,000円ではなく23,400円です。以下、条文と通達の原文から確認できることと、確認範囲を超えるため断定を避けたことを分けて示します。

そもそも貸倒損失はどの条文で損金になるのか

法人税法22条3項は、損金の額に算入すべき金額を3つの号に分けて並べています。原文はこうです。

中身
1号当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
2号前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く)の額
3号当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

貸倒れは、2号の「費用」ではなく3号の「損失」として扱われます。ここが地味に効きます。2号にはカッコ書きで債務確定基準が置かれていますが、3号にはその限定がありません。費用であれば「事業年度終了の日までに債務が確定していること」が要りますが、損失にはその条文上の縛りがないということです。

では何が時期を決めているのか

3号に債務確定基準がない代わりに、いつの事業年度の損失なのかを決めているのが通達9-6-1〜9-6-3です。9-6-1は「その事実の発生した日の属する事業年度」、9-6-2は「その明らかになった事業年度」と明記されています。9-6-3だけは事業年度を名指ししておらず、「損金経理をしたときは、これを認める」という書き方になっています。

入口は3つ。まずどれに当たるかを決める

貸倒れの取扱いは、法人税基本通達 第9章第6節「貸倒損失」の第1款「金銭債権の貸倒れ」に、9-6-1・9-6-2・9-6-3の3か条だけが置かれています。実務ではこの3つを順に当てていくことになります。

回収できない売掛金がある ① 9-6-1 法律や協議で「切り捨てられた」か? 更生計画・再生計画・特別清算の協定の認可決定/債権者集会等の協議決定/書面による債務免除 → 該当すれば「損金の額に算入する」。選べない。損金経理は要件ではない 該当しない ② 9-6-2 資産状況・支払能力からみて「全額」が回収できないと明らかか? 担保物があるときは、処分した後でなければ計上できない/保証債務は現実に履行した後 → 該当すれば「損金経理をすることができる」。帳簿に費用計上して初めて落ちる 該当しない ③ 9-6-3 取引停止から1年以上、または取立費用のほうが高い 対象は売掛債権だけ(貸付金は含まない)/担保物があると使えない/備忘価額を残す → 「損金経理をしたときは、これを認める」
法人税基本通達9-6-1〜9-6-3の順に当てる。①は強制、②③は損金経理が前提。

9-6-1(切捨て)— 選べない。事実が起きた事業年度に落ちる

9-6-1の本文は「法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する」です。列挙されているのは次の4つです。

事実損金になる金額
(1)更生計画認可の決定 または 再生計画認可の決定があった場合これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(2)特別清算に係る協定の認可の決定があった場合この決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(3)法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定(イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの/ロ 行政機関・金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でイに準ずるもの)これらにより切り捨てられることとなった部分の金額
(4)債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額
「損金の額に算入する」は、経理処理を条件にしていない

9-6-2・9-6-3が「損金経理」を明示的に求めているのに対し、9-6-1にはその語がありません。切り捨てられた以上、その債権はもう存在しないので、帳簿に残しておく理由がないという建て付けです。実務上の意味は、計上を来期に回す選択肢がないということです。決算で見落として翌期に計上すると、本来落とすべき事業年度の所得が過大になったままになります。

(4)だけは性質が違うことにも注意が要ります。(1)〜(3)は裁判所や第三者の決定によって外から切り捨てられるのに対し、(4)は自社が書面で債務免除をするという能動的な行為です。したがって「債務超過が相当期間継続していること」「弁済を受けることができないと認められること」という要件を満たさないまま免除すると、貸倒れではなく寄附金として扱われる領域に入ります(後述)。

9-6-2(全額回収不能)— 「全額」と「担保物の処分」が壁になる

9-6-2の原文は次のとおりです。「法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。」

ここには壁が3つあります。

条文上の根拠実務での意味
「全額」であること「その全額が回収できないことが明らかになった場合」一部だけ回収できないケースは9-6-2では落ちない。半分回収できる見込みがあるなら対象外
担保物は処分が先「担保物を処分した後でなければ……損金経理をすることはできない」担保を持ったまま「回収不能」とは言えない。先に処分して回収額を確定させる
保証債務は履行後(注)「保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできない」保証しているだけの段階では貸倒れにできない。実際に払って求償権になってから
9-6-1と対象が違う

9-6-2の対象は「金銭債権」で、売掛金に限られません。貸付金でも、立替金でも、金銭債権であれば入ります。この点は次の9-6-3と決定的に違うところです。

9-6-3(1年取引停止)— 売掛債権だけ。備忘価額を残す

9-6-3は、金額の裏付けを取りにくい小口の売掛金を実務的に整理するための規定です。ただし対象が明文で絞られています。原文の定義部分はこうです。

「その債務者に対して有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。以下9-6-3において同じ。)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。」

該当する事実は2つです。

事実付いている条件
(1)債務者との取引を停止した時(最後の弁済期または最後の弁済の時が取引停止の時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合当該売掛債権について担保物のある場合を除く
(2)同一地域の債務者について有する売掛債権の総額が、その取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき
起算日は「取引停止の日」とは限らない

(1)のカッコ書きが効きます。最後の弁済期や最後の弁済の時が取引停止より後にあるなら、そのうち最も遅い時から1年を数えます。取引を止めた日から1年、と機械的に数えると早すぎることがあります。

そして(1)には注が付いていて、これがしばしば見落とされます。「(1)の取引の停止は、継続的な取引を行っていた債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至った場合をいうのであるから、例えば不動産取引のようにたまたま取引を行った債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権については、この取扱いの適用はない。」

つまり1回きりの取引の焦げ付きには9-6-3(1)は使えません。1年待っても要件を満たさないので、9-6-2の「全額回収不能」を立証する側に回ることになります。

売掛金 220,000円(担保なし・継続取引・取引停止から1年経過) 売掛債権の額 220,000円 9-6-3 により損金経理 貸倒損失 219,999円 1 ← 備忘価額 全額を落とさない 通達は「備忘価額を控除した残額を……損金経理をしたとき」とだけ定めており、金額は指定していない。 実務では1円を残すことが多い。9-6-1・9-6-2には備忘価額の定めがない。
9-6-3では備忘価額を残す。残額だけが貸倒損失になる。

3つの違いを1枚にまとめる

3か条は、対象・経理要件・時期・担保の扱いがそれぞれ違います。並べると差がはっきりします。

9-6-1(切捨て)9-6-2(全額回収不能)9-6-3(1年取引停止等)
語尾損金の額に算入する損金経理をすることができる損金経理をしたときは、これを認める
損金経理要件になっていない必要必要
対象債権金銭債権金銭債権売掛債権のみ(貸付金その他これに準ずる債権を含まない)
金額切り捨てられた部分/書面により明らかにされた債務免除額全額(一部は対象外)売掛債権の額から備忘価額を控除した残額
時期その事実の発生した日の属する事業年度その明らかになった事業年度条文上、事業年度の指定なし
担保物定めなし処分した後でなければ計上できない担保物のある場合は(1)の適用対象から除く
担保の扱いが2つで違う

9-6-2は「処分した後でなければ」=処分すれば使えるのに対し、9-6-3(1)は「担保物のある場合を除く」=そもそも1年基準の対象外という書き方です。担保付きの売掛債権を1年放置しても9-6-3(1)には乗らないので、担保を処分して9-6-2で判断する流れになります。

債権放棄は貸倒れか、寄附金か

取引先に「もう払わなくていい」と伝えると、それは債権放棄です。これが貸倒損失になるのは、9-6-1(4)の要件を満たすときに限られます。つまり「債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合」に「書面により」明らかにした債務免除額です。要件を満たさない債権放棄は、相手に経済的利益を与えたことになり、寄附金の領域に入ります。

ただし、法人税基本通達には寄附金にしないための逃げ道が2つ置かれています。第9章第4節「寄附金」の第1款にある9-4-1と9-4-2です。

9-4-1(子会社等を整理する場合)9-4-2(子会社等を再建する場合)
場面子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴う債務の引受けその他の損失負担または債権放棄等子会社等に対する無償・低利の貸付けまたは債権放棄等
認められる理由その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずしたこと等、相当な理由があると認められるとき例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので、合理的な再建計画に基づくものである等、相当な理由があると認められるとき
効果供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする
「子会社等」は資本関係だけではない

9-4-1の注が範囲を広げています。「子会社等には、当該法人と資本関係を有する者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる(以下9-4-2において同じ。)。」株を持っていない主要取引先でも、事業関連性があれば9-4-1・9-4-2の土俵に乗りうるということです。

また9-4-2の注は、合理的な再建計画かどうかを支援額の合理性・再建管理の有無・支援者の範囲の相当性・支援割合の合理性等から総合的に判断するとしたうえで、「利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと認められる再建計画は、原則として、合理的なものと取り扱う」としています。

整理すると、債権放棄の行き先は3つに分かれます。①9-6-1(4)の要件を満たす → 貸倒損失、②満たさないが9-4-1・9-4-2の相当な理由がある → 寄附金に該当しない、③どちらでもない → 寄附金。寄附金になれば損金算入限度額の制限がかかります。

消費税の貸倒れ控除は別の条文・別の要件

ここが本記事でいちばん誤解の多いところです。消費税の貸倒れ控除は、法人税基本通達9-6-1〜9-6-3で判定するものではありません。根拠は消費税法39条1項で、そこから政令(消費税法施行令59条)、さらに財務省令(消費税法施行規則18条)へと降りていく別系統です。

控除できる金額は「110分の7.8」

39条1項は、控除する金額を「当該領収をすることができなくなった課税資産の譲渡等の税込価額に係る消費税額(当該税込価額に百十分の七・八(当該税込価額が軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、百八分の六・二四)を乗じて算出した金額をいう)」と定めています。

税込 330,000円(標準税率10%)の売掛金が回収不能になった 本体 300,000円 消費税 30,000円 消費税法39条1項が控除する額 330,000円 × 7.8 ÷ 110 = 23,400円 上の「消費税 30,000円」の内わけ(下の帯だけ拡大している) 控除される(国税分 7.8%) 23,400円 6,600円 差の6,600円は地方消費税に相当する部分(300,000円 × 2.2%)。39条が定めるのは110分の7.8だけ。 軽減税率なら 324,000円 × 6.24 ÷ 108 = 18,720円。
「消費税30,000円がまるごと戻る」ではない。39条1項の算式は110分の7.8。

要件は政令と省令に降りている

39条1項は「更生計画認可の決定により債権の切捨てがあったことその他これに準ずるものとして政令で定める事実」という書き方をしています。更生計画だけが法律本文に直接書かれ、残りは政令送りです。その消費税法施行令59条は4つの事実を挙げています。

事実
1号再生計画認可の決定により債権の切捨てがあったこと
2号特別清算に係る協定の認可の決定により債権の切捨てがあったこと
3号債権に係る債務者の財産の状況、支払能力等からみて当該債務者が債務の全額を弁済できないことが明らかであること
4号前三号に掲げる事実に準ずるものとして財務省令で定める事実

さらに4号を受けた消費税法施行規則18条が、3つの事実を追加しています。

事実
1号法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定(イ 債権者集会の協議決定/ロ 第三者のあっせんによる契約でイに準ずるもの)により債権の切捨てがあったこと
2号債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その債務を弁済できないと認められる場合において、その債務者に対し書面により債務の免除を行ったこと
3号債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして経理したこと。イ=継続的な取引を行っていた債務者につきその資産の状況、支払能力等が悪化したことにより取引を停止した時(最後の弁済期または最後の弁済の時が取引停止以後ならこれらのうち最も遅い時)以後1年以上経過担保物がある場合を除く)/ロ=同一地域の債権総額が取立費用に満たず、督促しても弁済がないとき
同じ内容が、条文としての格の違う場所に置かれている

法人税では「継続的な取引を行っていた債務者につき資産状況・支払能力等が悪化したため取引を停止した場合」という限定が、通達9-6-3の(注)に書かれています。消費税では同じ限定が、消費税法施行規則18条3号イの本文そのものに組み込まれています。実質的な内容はほぼ同じですが、片方は通達の注記、片方は省令の要件文です。

法人税と揃わない3点

論点消費税法39条ほか法人税基本通達9-6-1〜3
使える事業者免税事業者は除く(39条1項が「第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く」と明記)そのような限定はない
書類の保存保存しない場合は適用しない(39条2項)。ただし災害その他やむを得ない事情により保存できなかったことを証明した場合を除く条文上、保存が適用要件として書かれてはいない
後から回収したら課税標準額に対する消費税額に加算する(39条3項)=戻し入れる明文がある通達9-6-1〜9-6-3に回収時の取扱いを定めた規定はない(本記事の確認範囲)

また、控除の対象は課税資産の譲渡等から生じた債権に限られます(39条1項)。免税取引(7条1項・8条1項ほか)は明文で除かれています。したがって、貸付金や非課税売上に係る債権が焦げ付いても、法人税では貸倒損失になっても消費税の貸倒れ控除は生じません。

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個人事業主は51条2項。事業以外は64条で「なかったこと」にする

個人事業主には法人税法がないので、根拠は所得税法になります。そして回収不能になったときの扱いが、事業か事業以外かで完全に分かれています。しかもその分岐は、条文のカッコ書きだけで書かれています。

条文射程効果
所得税法51条2項不動産所得・事業所得・山林所得を生ずべき事業について、その事業の遂行上生じた売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる債権の貸倒れその損失の生じた日の属する年分の当該所得の金額の計算上、必要経費に算入する
所得税法64条1項その年分の各種所得の金額(事業所得の金額を除く)の計算の基礎となる収入金額または総収入金額(不動産所得または山林所得を生ずべき事業から生じたものを除く)の全部・一部が回収できないこととなった場合回収できないこととなった金額に対応する部分の金額は、当該各種所得の金額の計算上、なかったものとみなす
回収できなくなった 事業(事業所得/不動産・山林の事業) 所得税法 51条2項 必要経費に算入する 経費として所得を減らす 事業以外の各種所得 所得税法 64条1項 なかったものとみなす 収入そのものを取り消す 64条1項は「事業所得の金額を除く」「不動産所得又は山林所得を生ずべき事業から生じたものを除く」と 2つのカッコ書きで事業を外している。外れた先が51条2項という住み分けになっている。
同じ「回収できない」でも、経費にするのか、収入をなかったことにするのかが分かれる。
51条2項も「必要経費に算入する」と書かれている

法人の9-6-1と同じく、語尾が「することができる」ではありません。要件を満たせば必要経費になる、という書き方です。なお51条2項は「その事業の遂行上生じた」債権に限っており、事業と無関係の個人的な貸付金の焦げ付きはここに入りません。

あわせて、所得税法施行令141条が51条2項の「その他政令で定める事由」を3つ挙げています。1号が販売した商品の返戻・値引き等による収入金額の減少、2号が保証債務の履行に伴う求償権の全部または一部を行使することができないこととなったこと、3号が無効な行為により生じた経済的成果が失われたことまたは取り消すことのできる行為が取り消されたことです。いずれも「不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業の遂行上生じたもの」に限られます。

保証債務は3通りに分かれる

保証人として肩代わりして払ったが、本人から回収できない——この場面の扱いは、法人か個人か、個人なら事業か事業以外かで3通りに分かれます。

根拠効果適用のための手続
法人法人税基本通達9-6-2(注)現実に履行した後でなければ貸倒れの対象にできない(履行後は求償権が金銭債権として9-6-1〜3の判定対象になる)条文上の特段の定めなし
個人・事業所得税法施行令141条2号 → 51条2項求償権の全部または一部を行使できないこととなったことにより生じた損失を必要経費に算入する条文上の特段の定めなし
個人・事業以外所得税法64条2項 → 1項保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合に求償権を行使できなくなったときは、その金額を回収不能額とみなしてなかったものとみなす64条3項=申告書への記載+書類の添付が適用要件
個人・事業以外だけ、手続が適用要件になっている

所得税法64条3項の原文は「前項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に同項の規定の適用を受ける旨の記載があり、かつ、同項の譲渡をした資産の種類その他財務省令で定める事項を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。」です。「限り」と書かれているので、記載と添付を落とすと、要件を実体的に満たしていても適用されません。事業側(51条2項ルート)にはこの縛りがありません。

なお64条2項は、資産の譲渡があった場合を前提にしている点にも注意が要ります。手持ちの現金で保証債務を履行しただけでは、この条文の形には乗りません。

間違えやすいところ

誤解条文・通達が実際に言っていること
1年経てば、どの債権でも貸倒れにできる9-6-3の対象は売掛債権だけで、「貸付金その他これに準ずる債権を含まない」と明文で除いている。貸付金は9-6-2で「全額回収不能」を立証する側に回る
1年の起算日は取引を止めた日最後の弁済期または最後の弁済の時が取引停止より後なら、そのうち最も遅い時から数える(9-6-3(1)のカッコ書き)
1回きりの取引の焦げ付きも1年で落とせる9-6-3(1)の(注)が「継続的な取引を行っていた債務者」に限り、不動産取引のようにたまたま取引を行った債務者には適用がないとしている
全額を貸倒損失にする9-6-3は「備忘価額を控除した残額」と書いている。全額を落とすと要件から外れる
半分だけ回収できないので、その分を9-6-2で落とす9-6-2は「その全額が回収できないことが明らかになった場合」。一部の回収不能はこの条には乗らない
担保はあるが、価値がないので無視してよい9-6-2は「担保物を処分した後でなければ」損金経理できないとし、9-6-3(1)は「担保物のある場合を除く」としている
切り捨てられたが、今期は赤字なので来期に計上する9-6-1は「その事実の発生した日の属する事業年度において……損金の額に算入する」。事業年度が指定されている
回収不能なので、消費税30,000円が戻る39条1項の算式は税込価額×110分の7.8。税込330,000円なら23,400円(軽減税率は108分の6.24)
法人税で貸倒損失にしたので、消費税も当然控除できる消費税は消費税法39条・同施行令59条・同施行規則18条という別系統。免税事業者は使えず、書類の保存が適用要件で(39条2項)、対象は課税資産の譲渡等から生じた債権に限られる
貸倒処理をした後で入金があったが、そのままにしておく消費税は39条3項が課税標準額に対する消費税額に加算すると定めている(戻し入れ)
取引先に免除したので貸倒損失になる9-6-1(4)は「債務超過の状態が相当期間継続し、弁済を受けることができないと認められる場合」の「書面により明らかにされた債務免除額」に限っている。要件を欠けば寄附金の領域(9-4-1・9-4-2の相当な理由があれば寄附金に該当しない)

よくある質問

Q. 貸倒損失はいつの事業年度に計上しますか?

A. 根拠となる通達によって書き方が違います。法人税基本通達9-6-1は「その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する」と事業年度を明示しており、更生計画認可の決定などの事実が起きた事業年度に損金になります。9-6-2は「その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる」で、全額が回収できないことが明らかになった事業年度が基準です。9-6-3は事業年度を名指しせず「法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める」という書き方になっています。特に9-6-1は損金経理を要件としていないため、その事業年度に計上しなかった場合は本来落とすべき年度で落ちていないことになります。

Q. 貸付金は1年経過で貸倒れにできますか?

A. 法人税基本通達9-6-3ではできません。9-6-3は対象を「売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。以下9-6-3において同じ。)」と定義しており、貸付金を明文で除いているためです。貸付金について貸倒れを計上する場合は、9-6-1に掲げる切捨て等の事実に該当するか、9-6-2の「その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合」に当たるかで判断することになります。9-6-2は対象を「金銭債権」としており、売掛債権に限られていません。なお9-6-2には担保物がある場合は処分した後でなければ損金経理をすることはできないという条件が付いています。

Q. 備忘価額はいくら残せばよいですか?

A. 法人税基本通達9-6-3は「当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたとき」とだけ定めており、金額を指定していません。消費税法施行規則18条3号も同じく「当該債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして経理したこと」という書き方で、金額の定めはありません。実務では1円を残す例が多く見られますが、本記事で確認した条文・通達の範囲内に具体的な金額を定めた規定は見当たりませんでした。なお備忘価額を残すことが要件になっているのは9-6-3および消費税法施行規則18条3号であり、9-6-1・9-6-2にはこれに当たる定めはありません。

Q. 回収不能が売掛金の一部だけの場合はどうなりますか?

A. 法人税基本通達9-6-2は「その全額が回収できないことが明らかになった場合」と定めているため、一部だけが回収できないケースはこの通達では対象になりません。9-6-1であれば、更生計画認可の決定などにより切り捨てられた部分の金額が損金になるので、切捨てが一部であればその一部が対象です。他方、消費税法39条1項は「当該課税資産の譲渡等の税込価額の全部又は一部の領収をすることができなくなつたとき」と定めており、条文の文言としては一部の領収不能も射程に入っています。ただし、その原因となる事実は消費税法施行令59条・同施行規則18条に掲げるものに限られ、たとえば施行令59条3号は「当該債務者が債務の全額を弁済できないことが明らかであること」を求めています。

Q. 消費税の貸倒れ控除はいくらになりますか?

A. 消費税法39条1項は、控除する金額を税込価額に110分の7.8(軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には108分の6.24)を乗じて算出した金額と定めています。標準税率10%の取引で税込330,000円が回収できなくなった場合、330,000円×7.8÷110=23,400円です。税込価額に含まれる消費税相当額30,000円との差の6,600円は、本体価額300,000円に地方消費税の税率2.2%を乗じた金額に一致します。消費税法39条が定めているのは110分の7.8までで、それ以外の割合は書かれていません。軽減税率8%の取引で税込324,000円なら、324,000円×6.24÷108=18,720円になります。

Q. 免税事業者でも消費税の貸倒れ控除は使えますか?

A. 使えません。消費税法39条1項は主語を「事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)」としており、免税事業者を明文で除いています。また同項は対象を「国内において課税資産の譲渡等(第七条第一項、第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。)を行つた場合」の「当該課税資産の譲渡等の相手方に対する売掛金その他の債権」に限っているため、輸出免税の取引や、そもそも課税資産の譲渡等に当たらない取引から生じた債権は対象になりません。なお同条2項は、財務省令で定めるところにより事実を証する書類を保存しない場合には適用しないと定めており、書類の保存が適用要件になっています。

Q. 貸倒処理した売掛金が後から入金されたらどうしますか?

A. 消費税については消費税法39条3項に明文があります。「第一項の規定の適用を受けた同項の事業者が同項の規定の適用を受けた課税資産の譲渡等の税込価額の全部又は一部の領収をしたときは、当該領収をした税込価額に係る消費税額を課税資産の譲渡等に係る消費税額とみなしてその事業者のその領収をした日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額に加算する」と定められており、控除した分を戻し入れる形になります。法人税については、本記事で確認した法人税基本通達9-6-1〜9-6-3の範囲内に回収時の取扱いを定めた規定はありませんでした。回収額の益金算入の時期や具体的な経理方法については、個別の状況によって判断が分かれうるため、税理士へご確認ください。

Q. 取引先に債務免除をしたら貸倒損失になりますか?

A. 要件を満たす場合に限られます。法人税基本通達9-6-1(4)は「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」を貸倒れとしています。債務超過が相当期間続いていること、弁済を受けられないと認められること、書面によることの3つが揃わなければこの号には当たりません。当たらない場合は相手に経済的利益を供与したことになり、寄附金の問題になります。ただし法人税基本通達9-4-1は子会社等の解散・経営権の譲渡等に伴う損失負担等について、9-4-2は子会社等に対する無利息貸付け等について、相当な理由があると認められるときは供与する経済的利益の額は寄附金の額に該当しないものとするとしています。

Q. 個人事業主の貸倒損失はどこで処理しますか?

A. 事業から生じたものかどうかで条文が分かれます。所得税法51条2項は、不動産所得・事業所得・山林所得を生ずべき事業について、その事業の遂行上生じた売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる債権の貸倒れにより生じた損失の金額を、その損失の生じた日の属する年分の当該所得の金額の計算上、必要経費に算入すると定めています。これに対して所得税法64条1項は、その年分の各種所得の金額(事業所得の金額を除く)の計算の基礎となる収入金額または総収入金額(不動産所得または山林所得を生ずべき事業から生じたものを除く)の全部または一部を回収することができないこととなった場合に、その金額に対応する部分をなかったものとみなすと定めています。64条1項が2つのカッコ書きで事業を除いており、除かれた側を51条2項が受ける関係になっています。

Q. 保証人として払った分が回収できない場合はどうなりますか?

A. 法人と個人で根拠が異なります。法人については法人税基本通達9-6-2の(注)が「保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する」としています。個人については、事業の遂行上生じたものであれば所得税法施行令141条2号が「保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなつたこと」を51条2項の政令事由に挙げており、必要経費に算入することになります。事業以外については所得税法64条2項が、保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合に求償権を行使できなくなったときの金額を回収不能額とみなすとしています。ただし同条3項により、この規定は確定申告書・修正申告書・更正請求書に適用を受ける旨の記載があり、かつ譲渡をした資産の種類その他財務省令で定める事項を記載した書類の添付がある場合に限り適用されます。

Q. 貸倒引当金とはどう違いますか?

A. 貸倒損失は既に回収できないことが確定した債権を落とすもので、貸倒引当金はまだ確定していない将来の貸倒れに備えて見積り計上するものです。貸倒損失の根拠は法人税法22条3項3号の損失と、その判定を示す法人税基本通達9-6-1〜9-6-3ですが、貸倒引当金の根拠は法人税法52条という別の条文で、繰入れができる法人の範囲が同条1項各号で限定されています。個別評価金銭債権と一括評価金銭債権に分けて繰入限度額を計算する点も、貸倒損失にはない仕組みです。両者の関係と貸倒引当金の計算方法については貸倒引当金とはで詳しく整理しています。

Q. 会計上の貸倒損失の仕訳や勘定科目はどうなりますか?

A. 本記事では扱っていません。本記事で確認したのは法人税法22条3項、法人税基本通達9-6-1〜9-6-3および9-4-1・9-4-2、消費税法39条、消費税法施行令59条、消費税法施行規則18条、所得税法51条・64条、所得税法施行令141条の範囲であり、これらは損金・必要経費になるかどうかとその要件を定めるものです。使用する勘定科目、貸倒引当金を取り崩す場合の処理、税抜経理と税込経理での違い、消費税の申告書における記載箇所については確認範囲を超えるため、断定を避けています。実際の経理処理にあたっては税理士へご確認ください。

出典

本記事は一般的な情報提供であり、個別の税務相談ではありません。記載は2026年8月16日時点で確認した法令・通達に基づいています。実際の処理にあたっては、顧問税理士または所轄の税務署へご確認ください。

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