偽装請負とは — 法令に一度も出てこない言葉。判定は37号告示の9項目で、いちばん重い結果は罰金ではない
結論から言うと、「偽装請負」は法律用語ではありません。労働者派遣法・職業安定法・職業安定法施行規則の全文212,486字を機械で走査したところ、「偽装請負」という語は3法令すべてで0回でした。この言葉を定義しているのは条文ではなく、厚生労働省が公開している疑義応答集の脚注です。
では何を見て判断するのか。昭和61年労働省告示第37号(37号告示)の9項目です。そして、この告示の書きぶりが実務でいちばん誤解されている点です。9項目は「これに当たったら偽装請負」というチェックリストではありません。逆で、9項目が全部そろって初めて「請負」と認められ、1つでも欠けたら労働者派遣事業として扱われるという建て付けになっています。証明する責任が請け負う側にある、という向きです。
もう一つ、発注者側の経理・総務にとって決定的なことがあります。偽装請負で発注者にいちばん重くのしかかるのは、罰金ではありません。労働者派遣法40条の6により、発注者がその派遣労働者に対して直接雇用の申込みをしたものとみなされ、しかもその申込みは1年間撤回できません。相手が承諾すれば、その時点の労働条件のままの労働契約が成立します。人件費と法定福利費が、外注費からそのまま自社の固定費に移るということです。この記事では、条文とPDF原文を並べてそこまで見ていきます。
結論 — 3つの法令が、それぞれ別の役割を持っている
偽装請負の話がわかりにくいのは、「何が違反なのか」「誰が罰せられるのか」「いくら払うことになるのか」が、それぞれ別の法令から出てくるからです。まず地図を置きます。
| 役割 | どの法令 | そこに書いてあること |
|---|---|---|
| 線を引く | 昭和61年労働省告示第37号 | 請負と労働者派遣事業を分ける9項目。全部そろわなければ労働者派遣事業 |
| 受注者を罰する | 労働者派遣法59条2号 | 許可を受けずに労働者派遣事業を行った者は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 |
| 発注者に人を渡す | 労働者派遣法40条の6 | 発注者が労働契約の申込みをしたものとみなす。1年間撤回できない |
| 発注者を罰する | 職業安定法44条・64条10号 | 供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させた者も1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 |
| 言葉を定義する | 厚生労働省の疑義応答集 | 「いわゆる偽装請負」の説明。条文には無い |
この表でいちばん見落とされるのが4行目です。職業安定法44条は、供給する側だけでなく「受け入れて指揮命令した側」も名宛人にしています。一方で労働者派遣法の罰則には、発注者が偽装請負で役務の提供を受けたこと自体を罰する条文がありません。同じ「偽装請負」でも、労働者派遣と評価されるか労働者供給と評価されるかで、発注者に刑事罰が来るかどうかが変わります。この分かれ目は後の節で条文を並べて見ます。
法令を全部数えた — 「偽装請負」は0回。定義しているのは脚注
3つの法令の全文を e-Gov法令API v2 で取得し、機械で語を数えました。結果です。
| 法令 | 全文の字数 | 偽装請負 | 偽装 | 請負 | 労働者供給 | 労働(対照) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 労働者派遣法 | 72,896字 | 0回 | 0回 | 3回 | 0回 | 1,333回 |
| 職業安定法 | 54,127字 | 0回 | 0回 | 0回 | 52回 | 415回 |
| 職業安定法施行規則 | 85,463字 | 0回 | 1回 | 1回 | 29回 | 400回 |
「労働」の列は対照です。同じ走査で1,333回・415回・400回と当たっているので、0回は「探せていない」ではなく「本当に無い」と言えます。
とくに目を引くのは2行目です。職業安定法には「請負」という言葉が1回も出てきません。偽装請負の刑事罰の根拠としてよく引かれる法律が、請負という言葉を使っていない。この法律が禁じているのは請負の偽装ではなく、あくまで労働者供給事業だからです。
「偽装」の唯一の1回は、職業安定法施行規則4条3項にあります。そこでも「偽装請負」という熟語ではなく、請負契約の形式が「故意に偽装された」という使われ方です。
では誰が定義しているのか。厚生労働省が2025年に公表した疑義応答集(第3集)の本文冒頭、Q1に付された脚注(※1)です。ここが実質的な公的定義になっています。
発注者と受注者との間において請負契約等の形式をとりながら、実態として発注者が受注者の雇用する労働者に対して直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合をいわゆる偽装請負といい、労働者派遣法に違反するものとなります。
「いわゆる」と付いているのは、行政自身がこれを法令用語として扱っていないからです。だから条文を探しても見つかりません。探すべき言葉は「労働者派遣」と「労働者供給」の2つです。
契約書や社内規程を作るときに「偽装請負に該当しないこと」と書いても、参照先が存在しないので何も定めたことになりません。書くなら「昭和61年労働省告示第37号第2条各号のいずれにも該当すること」と、告示を名指しします。監査や取引先の審査で根拠を聞かれたときも、この告示番号が答えになります。
37号告示の9項目 — 全部そろって初めて「請負」
37号告示の第2条が、判定の本体です。まず柱書を原文どおり引きます。
請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であつても、当該事業主が当該業務の処理に関し次の各号のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする。
読み方の順序が大事です。柱書の末尾は「該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする」となっています。つまり既定値が労働者派遣事業で、各号を全部満たしたときにだけそこから外れます。「偽装請負のチェックリストに引っかからなければ請負」ではなく、「請負であることを積み上げられなければ派遣」です。向きが逆であることを、まず押さえてください。
その各号を数えると、1号の下に6項目、2号の下に3項目で、合計9項目です。
| 号 | 枝 | 項目 | 中身 |
|---|---|---|---|
| 1号 労働力を自ら直接利用 | イ 業務の遂行 | (1) | 業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行う |
| (2) | 業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行う | ||
| ロ 労働時間等 | (1) | 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理を自ら行う(単なる把握を除く) | |
| (2) | 時間外労働・休日労働をさせる場合の指示その他の管理を自ら行う(単なる把握を除く) | ||
| ハ 企業秩序 | (1) | 服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行う | |
| (2) | 労働者の配置等の決定および変更を自ら行う | ||
| 2号 独立して処理 | イ 資金 | — | 業務の処理に要する資金を、すべて自らの責任の下に調達し支弁する |
| ロ 責任 | — | 民法・商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負う | |
| ハ 実体 | (1)(2) いずれか | 自己の責任と負担で準備・調達した機械・設備・器材・材料・資材で処理する、または自ら行う企画・専門的な技術・経験に基づいて処理する(単に肉体的な労働力を提供するものでない) |
9項目のうち「いずれか」でよいのは2号ハだけです。残り8項目はすべて「いずれにも該当する」ことが必要です。
ここで実務的に効くのが、1号ロの括弧書き「これらの単なる把握を除く」です。発注者が請負労働者の入退場時刻を記録すること、常駐している人数を把握することは、それ自体では指示や管理に当たりません。把握と管理は違うと告示が明記しています。逆に言えば、把握を超えて「今日は何時まで残ってほしい」と請負労働者に直接伝えた時点で、1号ロ(2)が崩れます。
9つそろえても崩れる — 告示3条と、1947年から同じ構造の施行規則4条
9項目を形式的に整えれば安全か、というと違います。告示の第3条がそれを封じています。
前条各号のいずれにも該当する事業主であつても、それが法の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたものであつて、その事業の真の目的が法第二条第一号に規定する労働者派遣を業として行うことにあるときは、労働者派遣事業を行う事業主であることを免れることができない。
ここが「偽装」という語の出どころです。形式が9つそろっていても、真の目的が労働力の提供であれば請負にならない。契約書とマニュアルだけを整備して実態を変えない、という対応が効かないのはこの一条があるからです。
そして、この構造は1986年に発明されたものではありません。39年前の1947年、職業安定法施行規則4条が、すでに同じ形をしていました。2項の柱書を引きます。
たとえその契約の形式が請負契約であつても、次の各号の全てに該当する場合を除き、法第四条第八項の規定による労働者供給の事業を行う者とする。
「たとえその契約の形式が請負契約であつても」「全てに該当する場合を除き」——37号告示2条とまったく同じ向きです。そしてその4条にも、告示3条と対になるただし書が3項にあります。
それが法第四十四条の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたものであつて、その事業の真の目的が労働力の供給にあるときは、法第四条第八項の規定による労働者供給の事業を行う者であることを免れることができない。
施行規則4条2項が挙げる4項目は、完成についての財政上・法律上のすべての責任/労働者の指揮監督/使用者としてのすべての義務/自ら提供する機械・設備・材料または企画・専門的な技術・経験です。37号告示2条2号のイ・ロ・ハと、ほぼそのまま対応しています。
37号告示ができたので施行規則4条が役目を終えた、ということはありません。どちらも現行法令です。労働者派遣法の適用があるかを見るのが37号告示、職業安定法の労働者供給に当たるかを見るのが施行規則4条で、後で見るとおり発注者の刑事責任は後者の側から来ます。
いちばん重いのは罰金ではない — 直接雇用の申込みがみなされる
発注者側の経理・総務が金額として身構えるべきなのは、罰金ではなく労働者派遣法40条の6です。この条文は、発注者が一定の行為をした「その時点において」、発注者が派遣労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなすと定めています。偽装請負に直接効くのは1項5号です。
この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第二十六条第一項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること。
読み解くと3つの要素です。①適用を免れる目的があること ②請負など派遣以外の名目で契約していること ③派遣法26条1項各号の事項を定めていないこと。③の26条1項各号とは、派遣労働者が従事する業務の内容、就業場所と組織単位、直接指揮命令する者、派遣期間と就業日、始業・終業時刻と休憩時間、安全衛生、苦情処理などです。請負契約書にこれらが書かれていないのは当たり前なので、③は実質的に自動で満たされます。争点になるのは①の目的です。
みなしが働くと何が起きるか。条文が続けて定めています。
前項の規定により労働契約の申込みをしたものとみなされた労働者派遣の役務の提供を受ける者は、当該労働契約の申込みに係る同項に規定する行為が終了した日から一年を経過する日までの間は、当該申込みを撤回することができない。
つまり1年間は取り下げられない申込みが、発注者の意思とは無関係に発生します。労働者がその期間内に承諾すれば、その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約が成立します(1項本文)。逆に、その期間内に承諾も拒絶も示されなければ申込みは効力を失います(3項)。
金額として何が変わるか。外注費として支払っていたものが、自社の給与と法定福利費になります。月額の外注費が同じでも、社会保険料の事業主負担と労働保険料はこれまで払っていなかった分がまるごと乗ります。
直接雇用に切り替わったら法定福利費がいくら乗るかを計算する40条の6第1項にはただし書があり、発注者が「その行つた行為が次の各号のいずれかの行為に該当することを知らず、かつ、知らなかつたことにつき過失がなかつたとき」は適用されません。ただし善意であるだけでは足りず、無過失まで求められます。現場の運用を確認していなかった、指揮命令の実態を把握していなかった、という説明は無過失の主張として弱くなる方向に働きます。
発注者に刑事罰が来るのはどの場合か — 派遣と供給で名宛人が違う
ここが、この記事でいちばん踏み込む一段です。偽装請負で発注者が刑事罰を受けるかどうかは、それが「労働者派遣」と評価されるか「労働者供給」と評価されるかで変わります。
まず、労働者派遣法の罰則(58条〜62条)を全部読むと、発注者が偽装請負で役務の提供を受けたこと自体を罰する条文はありません。59条2号が罰しているのは「第五条第一項の許可を受けないで労働者派遣事業を行つた者」=受注者側です。禁止業務の受入れ(4条3項)にも、無許可事業主からの受入れ(24条の2)にも、罰則は付いていません。付いているのは40条の6のみなしです。
ところが職業安定法44条は書きぶりが違います。
何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。
後段の「又は」以下が受け入れる側です。違反すると64条10号により1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金で、67条の両罰規定により行為者だけでなく法人にも罰金刑が科されます。
では、労働者派遣と労働者供給はどこで分かれるのか。2つの定義を並べると、分かれ目は1か所です。派遣法2条1号はこう定義しています。
自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。
そして職業安定法4条8項の労働者供給は、こう定義されています。
供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号。以下「労働者派遣法」という。)第二条第一号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする。
並べると、供給の定義は派遣の定義から「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に」だけが抜けた形で、そのうえで派遣に当たるものを除いています。したがって、間に立つ会社がその労働者を雇用していれば労働者派遣、雇用していなければ労働者供給という切り分けになります。
| 実態 | 間に立つ会社と労働者の関係 | 受注者への罰則 | 発注者への刑事罰 | 発注者へのみなし |
|---|---|---|---|---|
| 労働者派遣に当たる | 雇用している | 派遣法59条2号 1年以下の拘禁刑/100万円以下の罰金 | 条文なし | あり(40条の6) |
| 労働者供給に当たる | 雇用していない | 職安法64条10号 1年以下の拘禁刑/100万円以下の罰金 | あり(職安法44条後段・64条10号) | — |
なお、派遣法にも発注者側に付いている罰則はあります。派遣先責任者を選任する義務(41条)と派遣先管理台帳を作成・記載・3年間保存する義務(42条)で、これを怠ると61条3号により30万円以下の罰金です。どちらも条文の主語が「派遣先」です。偽装請負の状態にある発注者は、自分を派遣先だと思っていないので、この2つを行っていないのが通常です。
境界ケース — 厚労省が「これは偽装請負ではない」と言っている場面
厚生労働省は37号告示について、疑義応答集を3集にわたって公表しています。実務でいちばん役に立つのは「やってはいけないこと」より「やってもよいこと」の側です。過剰に萎縮して、必要な連絡すら止めてしまう現場が多いためです。主なものを整理します。
| 場面 | 行政の整理 | 崩れる線 |
|---|---|---|
| 発注者が請負労働者と日常的な会話をする | 業務に関係のない会話は指揮命令にならない | — |
| 欠陥品が出たので作業工程の見直しを求める | 請負事業主に対する要求・注文であれば該当しない | 直接、請負労働者に作業工程の変更や再製作を指示した時点 |
| 災害時など緊急時に安全・健康の確保のため直接指示する | そのことをもって直ちに労働者派遣事業と判断されない | — |
| 元請が労働安全衛生法29条に基づき下請の作業員へ直接指示する | 同法上の義務であり、業務の遂行に関する指示等に該当しない | — |
| 作業スペースをパーテーションで区切っていない/労働者が混在している | それだけをもって偽装請負と判断されない | 混在が原因で発注者が必然的に直接指示してしまう場合 |
| 工場の中間ラインの1つを請け負っている | それだけをもって偽装請負と判断されない | 他ラインの影響で作業の開始・終了時間が実質的に定まってしまう場合 |
| 発注量が日ごとに変動し、出来高で精算する | それだけをもって偽装請負と判断されない | 投入した労働者の人数を単位に受発注し、その単価で精算している場合 |
| 作業服を指定する | 企業機密の保護や安全衛生など合理的理由があり、双方合意のうえ請負契約であらかじめ定めているなら該当しない | 発注者が直接、請負労働者に作業服を指示した場合 |
| 設備の操作方法や新製品の仕様を説明する | 請負事業主の監督の下で説明を受けさせる形なら該当しない | 説明を超えて業務の遂行を指示した場合 |
| セキュリティのため入場する請負労働者の氏名を事前に提出させる | 疑義応答集第2集が扱う論点(問12・問13) | — |
この表で経理が最初に見るべきは7行目です。疑義応答集は、業務を処理するために費やす労働力すなわち労働者の人数について受発注を行い、投入した労働力の単価を基に請負料金を精算しているのであれば、それは単なる労働力の提供にすぎず偽装請負と判断されるとしています。これは契約実務ではなく請求書と精算方法の問題です。請求書が「作業員3名×20日×日額○○円」という形になっているなら、契約書の文言に関わらず危険側です。逆に、出来高精算や、業務の性質上やむを得ず人数・時間に比例する料金設定でも、合理的な理由があれば直ちに問題にはなりません。
疑義応答集の第1集が挙げている例で、意外に知られていないものがあります。注文が多くて請負労働者だけでは処理できないときに、発注者の従業員が請負事業主の作業場で応援に入るケースです。このとき請負事業主の指揮命令の下で働くと、発注者が派遣元、請負事業主が派遣先という労働者派遣になります。発注者は自社の人を出しているだけのつもりでも、無許可の労働者派遣になりうるということです。行政の整理では、請け負わせる範囲を契約変更で縮め、その分を発注者が自ら行う形にすれば問題ありません。
現場に1人だと自動的にアウトになる — 管理責任者の兼任
最後に、契約書をいくら整えても構造的に成立しない配置を1つ挙げます。請負作業場に労働者が1人しかいない場合です。
請負事業主は、作業の遂行に関する指示、請負労働者の管理、発注者との注文に関する交渉を行う管理責任者を置きます。この管理責任者が作業者を兼任すること自体は、これらの責任を果たせるのであれば問題ありません。休暇等で不在になるなら、代理の者を選任しておけば足ります。
ところが、作業者が1人だけで、その人が管理責任者を兼任している場合は事情が変わります。発注者から管理責任者への注文が、そのまま発注者から請負労働者への指揮命令になってしまうためです。疑義応答集第1集は、この場合は偽装請負と判断されるとしています。第2集の問8も、1人しかいない場合に当該労働者が管理責任者を兼任することはできないとしたうえで、当該労働者以外の管理責任者または請負事業主が指示・管理・交渉を行う必要があるとしています。
そのうえで第2集は、その管理責任者が業務遂行に関する指示や労働者の管理を自ら的確に行っているのであれば、管理責任者が発注者の事業所に常駐していないことだけをもって直ちに労働者派遣事業と判断されることはないとしています。つまり、常駐は必須ではないが、作業者本人以外の誰かであることは必須という整理です。
この記事の要点
- 「偽装請負」は法令用語ではない。労働者派遣法・職業安定法・職業安定法施行規則の全文212,486字に0回。定義しているのは厚生労働省の疑義応答集の脚注
- 判定基準は昭和61年労働省告示第37号の9項目(1号6項目+2号3項目)。既定値は労働者派遣事業で、9項目が全部そろって初めて請負になる
- 9項目をそろえても、故意に偽装され真の目的が労働者派遣であれば免れない(告示3条)。同じ構造は1947年の職業安定法施行規則4条にすでにある
- 発注者にとっていちばん重いのは罰金ではなく、労働者派遣法40条の6の労働契約申込みみなし。1年間撤回できず、承諾されればその時点の労働条件で労働契約が成立する
- 発注者への刑事罰は、労働者供給と評価される場合に職業安定法44条後段・64条10号から来る。労働者派遣と評価される場合、受け入れたこと自体を罰する条文は派遣法に無い
- 人数に単価を掛けて精算している請求書は、契約書の文言より強く実態を語る
よくある質問
Q. 偽装請負は法律の何条に書いてありますか?
A. 「偽装請負」という言葉が書かれた条文はありません。労働者派遣法・職業安定法・職業安定法施行規則の全文212,486字を機械で走査すると、この語の出現は3法令とも0回です。判定の基準を定めているのは昭和61年労働省告示第37号「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」で、その2条が9項目を挙げています。契約書や社内規程で参照するなら、偽装請負という言葉ではなくこの告示を名指しするのが確実です。
Q. 発注者が請負労働者に直接話しかけたら偽装請負になりますか?
A. 業務に関係のない日常的な会話は指揮命令に当たらないと、厚生労働省の疑義応答集が明示しています。また、災害時など緊急の必要により請負労働者の安全や健康を確保するために必要な指示を直接行った場合も、そのことをもって直ちに労働者派遣事業と判断されることはありません。労働安全衛生法29条に基づき元請事業者が下請の作業員へ行う安全衛生上の指導・指示も同様です。線が崩れるのは、業務の遂行方法、作業の順序、労働者の配置、労働時間について発注者が直接指示したときです。
Q. 偽装請負と判断されると、発注者にはどんな罰則がありますか?
A. 労働者派遣と評価される場合、発注者が役務の提供を受けたこと自体を罰する条文は労働者派遣法にありません。発注者に来るのは40条の6による労働契約申込みのみなしです。ただし派遣先責任者の選任(41条)と派遣先管理台帳の作成・保存(42条)を怠っていれば、61条3号により30万円以下の罰金の対象になります。一方、間に立つ会社がその労働者を雇用していない場合は労働者供給に当たり、職業安定法44条後段が受け入れて指揮命令した側も名宛人にしているため、64条10号により1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象となります。
Q. 労働契約申込みみなしとは何ですか?
A. 労働者派遣法40条の6が定める仕組みで、発注者が同条1項各号の行為を行った時点で、その派遣労働者に対して、その時点における労働条件と同一の内容の労働契約の申込みをしたものとみなされます。偽装請負に直接効くのは5号で、法の適用を免れる目的で請負など派遣以外の名目の契約を結び、26条1項各号の事項を定めずに役務の提供を受けた場合です。この申込みは行為が終了した日から1年を経過する日までの間、撤回できません。その期間内に労働者が承諾する旨も承諾しない旨も示さなかった場合は、申込みは効力を失います。
Q. 請負代金を作業員の人数と日数で計算していますが、問題がありますか?
A. 疑義応答集は、製品や作業の完成を目的として受発注しているのではなく、業務を処理するために費やす労働力すなわち労働者の人数について受発注を行い、投入した労働力の単価を基に請負料金を精算している場合は、単なる労働力の提供にすぎず偽装請負と判断されるとしています。一方で、販売やサービスなど仕事を完成させて目的物を引き渡す形態ではない請負業務では、日時・場所・標準的な必要人数を指定して発注したり、人数や労働時間に比例する料金設定にしたりすることに合理的な理由がある場合もあり、その場合は契約・精算の形態のみによって直ちに判断されるものではありません。前提として、請負事業主が自らの労働者の労働力を直接利用し、独立して業務を処理していることが必要です。
Q. 請負現場に作業者が1人しかいません。何か問題がありますか?
A. その1人が管理責任者を兼任している場合は、偽装請負と判断されると疑義応答集が明示しています。発注者から管理責任者への注文が、実態としてそのまま発注者から請負労働者への指揮命令になってしまうためです。この場合は、その作業者以外の管理責任者または請負事業主自身が、作業の遂行に関する指示、労働者の管理、発注者との注文に関する交渉を行う必要があります。その管理責任者が自ら的確に指示と管理を行っているのであれば、発注者の事業所に常駐していないことだけをもって直ちに労働者派遣事業と判断されることはありません。
Q. アジャイル開発の準委任契約でも37号告示は適用されますか?
A. 適用されます。厚生労働省の疑義応答集第3集は、委任および準委任も請負と同様に、発注者と受注者側の労働者との間に指揮命令関係を生じないという点で労働者派遣と異なるとしたうえで、アジャイル型開発が準委任契約で行われる場合でも、実態として発注者と受注者側の労働者との間に指揮命令関係があるときは、契約の形式を問わず労働者派遣事業に該当し労働者派遣法の適用を受けるとしています。判断は契約形式ではなく37号告示に基づいて実態に即して行われます。
Q. 契約書を請負から準委任に変えれば安全になりますか?
A. なりません。37号告示2条の柱書は「請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であつても」9項目に該当しなければ労働者派遣事業を行う事業主とすると定めており、判断の対象は契約の名前ではなく実態です。さらに3条は、9項目のすべてに該当する事業主であっても、それが法の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたものであって真の目的が労働者派遣にあるときは免れることができないとしています。契約書の書き換えだけで実態が変わらない場合、この3条の射程に入ります。
出典
- e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(昭和六十年法律第八十八号)第2条第1号(労働者派遣の定義)、第4条(適用除外業務)、第5条第1項(許可)、第24条の2(派遣元事業主以外からの受入れの禁止)、第26条第1項(労働者派遣契約で定める事項)、第40条の6(労働契約申込みみなし)、第41条(派遣先責任者)、第42条(派遣先管理台帳)、第59条〜第62条(罰則・両罰規定)。法令API v2 で法令全文(law_revision_id: 360AC0000000088_20260401_507AC0000000063・72,896字・2026年4月1日施行の現行版)を取得して確認
- e-Gov法令検索「職業安定法」(昭和二十二年法律第百四十一号)第4条第8項(労働者供給の定義)、第44条(労働者供給事業の禁止)、第45条(労働組合等による無料の労働者供給事業の許可)、第64条第10号(44条違反の罰則)、第67条(両罰規定)。法令API v2(law_revision_id: 322AC0000000141_20260401_506AC0000000050・54,127字・2026年4月1日施行の現行版)で取得して確認
- e-Gov法令検索「職業安定法施行規則」(昭和二十二年労働省令第十二号)第4条第2項(請負契約の形式であっても4号の全てに該当する場合を除き労働者供給の事業を行う者とする)、第4条第3項(故意に偽装されたものは免れない)。法令API v2(law_revision_id: 322M40002000012_20260401_508M60000100060・85,463字・2026年4月1日施行の現行版)で取得して確認
- 上記3法令の全文(合計212,486字)を機械で走査し、「偽装請負」の出現が3法令とも0回であること、「偽装」が職業安定法施行規則の1回のみであること、「請負」が労働者派遣法3回・職業安定法0回・同施行規則1回であることを確認。同じ走査で「労働」が1,333回・415回・400回当たることを対照として確かめた
- 厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号、最終改正 平成24年厚生労働省告示第518号)PDF原文。第1条(目的)、第2条第1号イ・ロ・ハおよび第2号イ・ロ・ハ(合計9項目)、第3条(故意に偽装された場合)
- 厚生労働省「『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』(37号告示)に関する疑義応答集」(第1集)。1. 発注者と請負労働者との日常的な会話、2. 発注者からの注文(クレーム対応)、3. 発注者の労働者による請負事業主への応援、4. 管理責任者の兼任、5. 発注者の労働者と請負労働者の混在、6. 中間ラインで作業をする場合の取扱、7. 作業工程の指示、8. 発注量が変動する場合の取扱、9. 請負労働者の作業服、10. 請負業務において発注者が行う技術指導
- 同(第2集)。問1・問2(発注者からの情報提供等)、問3・問4(緊急時の指示)、問5(法令遵守のために必要な指示・労働安全衛生法29条)、問6(業務手順の指示)、問7(発注・精算の形態)、問8(管理責任者の不在等)、問12・問13(発注者による請負労働者の氏名等の事前確認)、問14・問15(自らの企画又は専門的技術・経験に基づく業務処理)
- 同(第3集)。Q1・A1(アジャイル型開発と契約方式)および同答に付された注※1(いわゆる偽装請負の説明)・※2(アジャイル型開発の説明)
- 3法令の字数(72,896字・54,127字・85,463字)は、法令API v2 が返す本文テキストを空白を除いて数えたものです
この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案についての助言ではありません。自社の業務委託が37号告示の9項目を満たしているかの判断、契約書と実際の運用の見直し、労働契約申込みみなしへの対応については、所轄の都道府県労働局需給調整事業部(課)、または社会保険労務士・弁護士にご確認ください。