白色申告のやり方 — 記帳義務は青色と同じ。差がつくのは「見返り」の側
白色申告は「帳簿をつけなくてよい、簡単なほうの申告」として紹介されることがあります。制度の実物は違います。
結論から言うと、白色申告は選ぶものではありません。青色申告は税務署長の承認を受けて初めて青色の申告書を出せる制度(所得税法143条)で、その承認申請書を出していない状態が白色です。白色申告を始めるための届出は存在しません。
そして白色申告でも、帳簿を備え付けて記録し、保存する義務があります(所得税法232条1項)。法定帳簿の保存期間は7年間(所得税法施行規則102条4項)で、青色と同じです。差がつくのは記帳の手間ではなく見返りの側——青色申告特別控除も、赤字の3年繰越しも、白色にはありません。
- 白色申告に届出は無い。青色申告承認申請書を出していない状態が白色
- 白色でも記帳と保存は義務(法232条1項)。法定帳簿は7年・その他の帳簿と書類は5年(規則102条4項)
- 書類の保存期間だけを見ると、白色のほうが短いことがある。青色は「現金預金取引等関係書類」が原則7年(規則63条1項)
- 事業専従者控除は配偶者86万円・その他50万円。ただし控除前の所得 ÷(専従者の数+1)との低い方が上限(法57条3項)
- 「6か月超」の2分の1緩和は青色にしかない。施行令165条1項ただし書が「同条第一項の場合にあつては」と青色に限っている
- 赤字の繰越しは原則できない。白色で繰り越せるのは変動所得の損失と被災事業用資産の損失だけ(法70条2項)
白色申告とは — 「選ぶ」のではなく「申請していない」状態
所得税法143条は、青色申告をこう定めています。
不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務を行なう居住者は、納税地の所轄税務署長の承認を受けた場合には、確定申告書及び当該申告書に係る修正申告書を青色の申告書により提出することができる。
青色は承認を受けた場合に「できる」制度です。承認を受けていない人が普通の申告書を出す——それが白色申告です。したがって白色申告を選ぶ手続きも、やめる手続きもありません。
白色申告でも記帳と保存は義務。法定帳簿は7年
白色申告の記帳義務は、所得税法232条1項が定めています。条文はまず対象者から青色申告者を除いている——つまり白色申告者に向けた条文です。
その年において不動産所得、事業所得若しくは山林所得を生ずべき業務を行う居住者又は第百六十四条第一項各号(非居住者に対する課税の方法)に定める国内源泉所得に係るこれらの業務を行う非居住者(青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている者を除く。)は、財務省令で定めるところにより、帳簿を備え付けてこれにこれらの所得を生ずべき業務に係るその年の取引
記録の程度は「簡易な方法」で足ります。施行規則102条2項が「財務大臣の定める記録の方法とする」と受けており、複式簿記までは求められません。ただし1項は「正確に計算できるように、整然と、かつ、明瞭に記録しなければならない」としています。
保存の対象は帳簿だけではありません。施行規則102条3項が挙げるのは決算に関して作成した棚卸表その他の書類と、業務に関して作成・受領した請求書、納品書、送り状、領収書などです。
保存期間は白と青でどう違うか — 書類は白のほうが単純
ここが実務でいちばん誤解されている部分です。白色の法定帳簿は7年で、青色と変わりません。施行規則102条4項がそう書いています。
居住者等は、第一項の帳簿(その年において法第二百三十二条第一項に規定する業務に関して作成したその他の帳簿及び前項各号に掲げる書類を含む。次項において「帳簿等」という。)を、第六十三条第四項(青色申告者の帳簿書類の整理保存)に規定する起算日から七年間(その他の帳簿及び前項各号に掲げる書類にあつては、五年間)
起算日は白青とも同じです(規則63条4項)。整理すると次のようになります。
| 対象 | 白色申告(規則102条4項) | 青色申告(規則63条1項・2項) |
|---|---|---|
| 法定帳簿(232条1項の帳簿) | 7年 | 7年 |
| その他の帳簿 | 5年 | 7年 |
| 棚卸表・決算関係書類 | 5年 | 7年 |
| 領収書・請求書などのうち 現金預金取引等関係書類 | 5年 | 7年(前々年分の不動産所得と事業所得の合計が300万円以下なら5年) |
| 上記以外の請求書・見積書・納品書など | 5年 | 5年 |
事業専従者控除86万円 — 上限は割り算のほうで決まる
白色申告では、生計を一にする家族に払った給与を必要経費にできません。代わりに置かれているのが事業専従者控除です。所得税法57条3項は、次の2つのうちいずれか低い金額を必要経費とみなすとしています。
各事業専従者につき、次に掲げる金額のうちいずれか低い金額を必要経費とみなす。
- イ 配偶者である事業専従者は86万円、それ以外の事業専従者は50万円
- ロ その年分の当該事業に係る不動産所得・事業所得・山林所得の金額(この控除を適用しないで計算した金額)を、事業専従者の数に1を加えた数で除して計算した金額
実務で効くのはロです。86万円は「最高」であって、所得が小さいと自動的に下がります。
| 控除前の事業所得 | 専従者 | イ(定額) | ロ(割り算) | 控除額=低い方 |
|---|---|---|---|---|
| 500万円 | 配偶者1人 | 86万円 | 500万円÷2=250万円 | 86万円 |
| 120万円 | 配偶者1人 | 86万円 | 120万円÷2=60万円 | 60万円 |
| 300万円 | 配偶者+子1人 | 86万円/50万円 | 300万円÷3=100万円 | 86万円+50万円=136万円 |
| 150万円 | 配偶者+子1人 | 86万円/50万円 | 150万円÷3=50万円 | 50万円+50万円=100万円 |
なお国税庁タックスアンサーNo.2075は、不動産所得の場合、事業専従者控除は不動産貸付けが事業として行われている場合にのみ適用があるとしています。
6か月超の要件 — 2分の1の緩和は青色にしかない
事業専従者に当たるかどうかは、所得税法施行令165条1項で判定します。この条文は白色(法57条3項)と青色(法57条1項)の両方を受けているのですが、ただし書の適用範囲が違います。
法第五十七条第一項又は第三項(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)に規定する居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が専らその居住者の営むこれらの規定に規定する事業に従事するかどうかの判定は、当該事業に専ら従事する期間がその年を通じて六月をこえるかどうかによる。
ただし、同条第一項の場合にあつては、次の各号のいずれかに該当するときは、当該事業に従事することができると認められる期間を通じてその二分の一に相当する期間をこえる期間当該事業に専ら従事すれば足りるものとする。
ただし書の主語は「同条第一項の場合」=青色事業専従者だけです。開業・廃業・休業や季節営業を理由にした2分の1への緩和は、白色には及びません。
さらに165条2項は、専ら従事する期間に含めない期間を定めています。学校の学生・生徒である期間と、他に職業を有する者である期間です(いずれも、専ら従事することが妨げられないと認められる場合を除く)。パート勤めをしている配偶者を専従者にできないことがあるのは、この2号によります。
赤字は繰り越せない。ただし例外が2つある
純損失の繰越控除を定める所得税法70条1項は、対象年を「その年分の所得税につき青色申告書を提出している年に限る」と限定しています。赤字を翌年以後3年に繰り越せるのは青色だけ、というのはここから来ています。
ただし2項に例外があり、白色でも次の2つの損失に係るものは繰り越せます。
- 変動所得の金額の計算上生じた損失の金額(70条2項1号)
- 被災事業用資産の損失の金額(同2号)
被災事業用資産の損失とは、3項によれば棚卸資産や事業用資産の災害による損失のうち、保険金や損害賠償金で補塡される部分を除いたものです。
青色に切り替えるなら、いつまでに何を出すか
所得税法144条が期限を定めています。
その年分以後の各年分の所得税につき前条の承認を受けようとする居住者は、その年三月十五日まで(その年一月十六日以後新たに同条に規定する業務を開始した場合には、その業務を開始した日から二月以内)に、当該業務に係る所得の種類その他財務省令で定める事項を記載した申請書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
期限は「その年分」の3月15日です。前年ではありません。令和9年分から青色にするなら令和9年3月15日(月曜)までに青色申告承認申請書を出します。令和8年分の期限(令和8年3月15日)は既に過ぎています。
家族への給与を必要経費にしたい場合は、青色事業専従者給与に関する届出書も要ります。57条2項の期限は承認申請と同じ構造で、その年の3月15日まで(その年1月16日以後に事業を開始した場合などは、その日から2か月以内)です。
よくある質問
Q. 白色申告でも帳簿は必要ですか?
A. 必要です。所得税法232条1項が、青色申告の承認を受けている者を除いた上で、不動産所得・事業所得・山林所得を生ずべき業務を行う居住者に対し、帳簿を備え付けて総収入金額と必要経費に関する事項を記録し、保存することを義務づけています。記録の方法は施行規則102条2項の「簡易な方法」で足り、複式簿記までは求められません。
Q. 白色申告の帳簿は何年保存すればよいですか?
A. 所得税法施行規則102条4項により、232条1項の法定帳簿は起算日から7年間、その他の帳簿と請求書・領収書などの書類は5年間です。起算日は規則63条4項の定めによって、帳簿はその閉鎖の日の属する年の翌年3月15日の翌日、書類は作成または受領の日の属する年の翌年3月15日の翌日になります。
Q. 事業専従者控除は必ず86万円引けますか?
A. 引けるとは限りません。所得税法57条3項は、配偶者86万円・その他の親族50万円という定額と、この控除を適用しないで計算した事業所得等の金額を事業専従者の数に1を加えた数で割った金額との、いずれか低い金額を必要経費とみなすとしています。控除前の事業所得が120万円で配偶者1人なら120万円÷2=60万円が上限になります。
Q. 年の途中で開業した年でも事業専従者控除は受けられますか?
A. 白色申告では原則として受けられません。所得税法施行令165条1項本文は「その年を通じて六月をこえる」期間専ら従事したかで判定するとしており、ただし書が置く2分の1への緩和は「同条第一項の場合」すなわち青色事業専従者にのみ適用されるためです。国税庁タックスアンサーNo.2075も、青色の側にだけ2分の1のかっこ書きを置いています。
Q. 白色申告でも赤字を翌年に繰り越せますか?
A. 原則として繰り越せません。所得税法70条1項が、繰り越せる純損失を「その年分の所得税につき青色申告書を提出している年」に生じたものに限っているためです。例外として同条2項により、変動所得の金額の計算上生じた損失と、被災事業用資産の損失については白色でも繰り越せます。いずれも、損失の生じた年から連続して確定申告書を提出していることが条件です(同条4項)。
出典
- e-Gov法令検索「所得税法」(昭和40年法律第33号)第2条第1項第33号・第34号(同一生計配偶者・扶養親族の定義)、第57条(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)、第70条(純損失の繰越控除)、第143条(青色申告)、第144条(青色申告の承認の申請)、第148条(青色申告者の帳簿書類)、第232条(事業所得等を有する者の帳簿書類の備付け等)
- e-Gov法令検索「所得税法施行令」(昭和40年政令第96号)第165条(親族が事業に専ら従事するかどうかの判定)、第195条(小規模事業者の要件)
- e-Gov法令検索「所得税法施行規則」(昭和40年大蔵省令第11号)第63条(帳簿書類の整理保存)、第102条(事業所得等に係る取引に関する帳簿の記録の方法及び帳簿書類の保存)
- 国税庁 タックスアンサー「No.2070 青色申告制度」(令和7年4月1日現在法令等)
- 国税庁 タックスアンサー「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」(令和7年4月1日現在法令等)
- 条文は e-Gov法令API v2(
/api/2/law_data/{law_revision_id})で2026年8月19日に取得。所得税法は340AC0000000033_20261201_508AC0000000012、施行令は340CO0000000096_20261201_508CO0000000093、施行規則は340M50000040011_20261201_508M60000040017(いずれも令和8年12月1日施行のリビジョン)
本記事の確認範囲は上記3法令の条文本文と、国税庁のタックスアンサー No.2070・No.2075 です。記録の方法を定める財務大臣の告示の本文、所得税基本通達、消費税および住民税における取扱い、裁決例・裁判例は確認していません。電子帳簿保存法に基づく電子取引データの保存義務は本記事の対象外です。取得時点より後に施行される改正は反映していません。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。青色と白色のどちらが有利か、家族を専従者にできるかは、事業の規模や家族の就労状況によって異なります。個別の判断については税理士へご確認ください。