出金伝票の書き方 — 「出金伝票」という語は、日本の法令に一度も出てこない
結論から言うと、出金伝票は領収書の代わりにはなりません。条文の上で、出金伝票が入るのは「帳簿」の列で、領収書が入るのは「相手方から受け取つた……書類」の列です。保存を義務づけている号がそもそも別で、片方がもう片方を代替する関係になっていません。
そのうえで、出金伝票には意味があります。消費税法30条8項1号が帳簿に書けと求めている4項目——相手方の氏名、年月日、内容、支払対価の額——は、そのまま出金伝票の欄です。出金伝票は「領収書の代用品」ではなく「帳簿の記入用紙」だと考えると、条文と一致します。
そして、いちばん実務に効く変更点があります。2023年9月30日まで、消費税法施行令49条1項は「三万円未満である場合」と「やむを得ない理由があるとき」という2つの号を置いていて、その場合は帳簿だけを保存すれば仕入税額控除が受けられました。この2つの号は、どちらも現在の条文から消えています。いま帳簿だけで通るのは、同項1号がイからニまでに挙げる4類型に限られます。
「出金伝票」という語は、日本の法令に一度も出てこない
まず、事実の確認から始めます。e-Gov法令検索のキーワード検索APIで、日本の全法令の条文本文を対象に語を横断検索した結果が次の表です(2026年8月20日時点)。
| 検索語 | 該当法令 | 該当箇所 |
|---|---|---|
| 出金伝票 | 0本 | 0か所 |
| 入金伝票 | 0本 | 0か所 |
| 振替伝票 | 2本 | 2か所 |
| 伝票 | 14本 | 80か所 |
| 仕訳帳(対照用) | 6本 | 11か所 |
同じ手順で「出勤簿」を検索すると4法令7か所が返ります。検索経路そのものが生きていることを確かめたうえでの0件です。
さらに、経理に直接効く税法5本について、条文の全文を取得して「伝票」の出現回数を機械で数えました。目視では数えていません。
| 法令 | 全文の字数 | 「伝票」 | 「領収書」 |
|---|---|---|---|
| 法人税法施行令 | 1,719,930字 | 0回 | 0回 |
| 法人税法施行規則 | 835,630字 | 0回 | 6回 |
| 消費税法 | 375,824字 | 0回 | 0回 |
| 消費税法施行令 | 375,718字 | 0回 | 0回 |
| 電子帳簿保存法 | 22,117字 | 0回 | 1回 |
| 合計 約333万字 | 0回 | 7回 | |
三伝票制を条文で定めている唯一の例は、「入金・出金」と呼んでいない
「伝票」を条文に持つ14本のうち、三伝票制そのものを定義している法令が2本だけあります。国家公務員共済組合法施行規則と、地方公務員等共済組合法施行規程です。どちらも同じ一文を置いています。
まず、伝票会計を義務づけている条文です。国家公務員共済組合法施行規則56条1項は次のように定めます。
取引は、すべて、伝票によつて処理しなければならない。ただし、単位所属所以外の所属所においては、伝票に代え日記帳に記入して、処理することができる。
そして同条2項が、その伝票の種類を定義します。
伝票は、収入伝票、支払伝票及び振替伝票とする。
条文が採用している呼称は「収入・支払・振替」で、「入金・出金・振替」ではありません。市販の伝票用紙や会計ソフトが使う「入金伝票・出金伝票」という組み合わせは、法令の用語ではなく商慣行の呼称だということが、ここではっきりします。冒頭の検索で「振替伝票」だけが2件返り、「入金伝票」「出金伝票」が0件だった理由もこれです。3つのうち1つだけ、たまたま商慣行と条文の呼称が一致していたという関係になっています。
| 役割 | 市販の伝票・会計ソフトの呼称 | 条文の呼称(共済組合の2省令) | 全法令の出現 |
|---|---|---|---|
| 現金が入る取引 | 入金伝票 | 収入伝票 | 0件 |
| 現金が出る取引 | 出金伝票 | 支払伝票 | 0件 |
| 現金が動かない取引 | 振替伝票 | 振替伝票 | 2件(一致) |
同じ規則には、伝票が単なる記録ではなく支払の承認手続そのものとして組み込まれていることを示す条文もあります。
小切手は、出納役が印を押した当該取引に係る伝票に基かなければ振り出すことができない。
民間企業に同じ規定はありませんが、出金伝票に承認印欄がある理由は、この設計思想と同じところにあります。伝票は「支払ってよい」という決裁の記録でもあるという位置づけです。内部統制の観点から出金伝票を残す実務上の価値は、税法の要求とは別に存在します。
出金伝票は「帳簿」の列に入る。領収書は「書類」の列
ここが、この記事のいちばん重要なところです。法人税法施行規則59条1項は、青色申告法人が保存すべきものを3つの号に分けています。柱書はこうです。
青色申告法人は、次に掲げる帳簿書類を整理し、起算日から七年間、これを納税地(第三号に掲げる書類にあつては、当該納税地又は同号の取引に係る国内の事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地)に保存しなければならない。
そして1号が帳簿、3号が取引書類です。
第五十四条(取引に関する帳簿及び記載事項)に規定する帳簿並びに当該青色申告法人の資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引に関して作成されたその他の帳簿
取引に関して、相手方から受け取つた注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し
3号をよく読むと、対象は2種類しかありません。①相手方から受け取った書類と、②自己が作成した書類のうち、写しがあるもののその写しです。②は、自分が作って相手に渡した請求書や領収書の控えを指しています。
出金伝票は、このどちらにも当てはまりません。相手から受け取ったものではなく、相手に渡した書類の控えでもないからです。出金伝票が入れるのは3号ではなく、1号の「その他の帳簿」の側だけということになります。
伝票で記帳に代えると「帳簿代用書類」になり、緩和から外れる
一方で、税法は「書類を帳簿の代わりに使う」という形を想定していないわけではありません。法人税法施行規則59条4項が、その名前を定義しています。
前項の表の第一号の上欄に規定する帳簿代用書類とは、第一項第三号に掲げる書類のうち、別表二十四に定める記載事項の全部又は一部の帳簿への記載に代えて当該記載事項が記載されている書類を整理し、その整理されたものを保存している場合における当該書類をいう。
読み解くと、帳簿代用書類とは「3号の書類のうち、帳簿に書く代わりとして整理・保存しているもの」です。納品書の控えを売上帳の代わりに綴じている、といった実務がこれに当たります。
注目すべきは、この定義が置かれている場所です。59条3項は、保存期間の後半について負担を軽くする方法を認めているのですが、その1号の対象から帳簿代用書類は名指しで除かれています(条文は「帳簿代用書類に該当するものを除く」と書いています)。書類を帳簿の代わりに使うと、保存の要求はむしろ厳しい側に寄るという構造です。
ここで出金伝票に戻ると、出金伝票はそもそも3号の書類ではないため、この「帳簿代用書類」にも当たりません。最初から帳簿として、帳簿の期間だけ保存するのが素直な整理になります。なお、帳簿そのものに何を書くかを定める別表二十四の記載事項については、現金出納帳の書き方で5項目を条文の文言ごとに扱っているので、そちらに譲ります。
自分で作った書類が「請求書等」になる道は、条文上1本だけ
消費税の側に移ります。仕入税額控除の要件を定める消費税法30条7項は、こう書いています。
第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(請求書等の交付を受けることが困難である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。
原則は「帳簿及び請求書等」の両方で、括弧の中が例外です。出金伝票は帳簿の側を埋められますが、請求書等にはなりません。
ただし、条文をよく読むと自分で作った書類が「請求書等」になる道が1本だけあります。30条9項3号です。
事業者がその行つた課税仕入れ(他の事業者が行う課税資産の譲渡等に該当するものに限るものとし、当該課税資産の譲渡等のうち、第五十七条の四第一項ただし書又は第五十七条の六第一項本文の規定の適用を受けるものを除く。)につき作成する仕入明細書、仕入計算書その他これらに類する書類で課税仕入れの相手方の氏名又は名称その他の政令で定める事項が記載されているもの(当該書類に記載されている事項につき、当該課税仕入れの相手方の確認を受けたものに限る。)
末尾の括弧が決定的です。「当該課税仕入れの相手方の確認を受けたものに限る」。自分で作った書類が請求書等になるための条件は、相手方の確認です。仕入明細書はこの確認があるから請求書等になれます。
出金伝票には、この確認がありません。相手に見せず、自分の机の上で完結するのが出金伝票だからです。したがって、どれだけ丁寧に書いても、出金伝票が請求書等に昇格することはありません。「相手方の確認」の有無が、両者を分けている一線です。
「3万円未満なら領収書は要らない」は2023年9月30日で終わっている
実務でいまも語り継がれている「3万円未満なら領収書がなくても出金伝票でよい」という扱いは、根拠となる条文が存在した時期のものです。e-Gov法令API v2 で改正前後の版を取得して対照しました。
2023年9月30日まで有効だった消費税法施行令49条1項は、1号でこう定めていました。
法第三十条第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が三万円未満である場合
そして2号が、3万円以上の場合の受け皿を置いていました。
法第三十条第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が三万円以上である場合において、同条第七項に規定する請求書等の交付を受けなかつたことにつきやむを得ない理由があるとき(同項に規定する帳簿に当該やむを得ない理由及び当該課税仕入れの相手方の住所又は所在地(国税庁長官が指定する者に係るものを除く。)を記載している場合に限る。)。
この2つの号は、現在の条文にはどちらもありません。インボイス制度の開始に合わせて差し替えられ、いまの1号は類型を限定列挙する形になっています。
| 2023年9月30日まで | 2023年10月1日から(現行) | |
|---|---|---|
| 1号 | 三万円未満である場合 | イ〜ニの4類型に該当する場合(帳簿に該当する旨と住所の記載が必要) |
| 2号 | 三万円以上でやむを得ない理由があるとき | 特定課税仕入れに係るものである場合 |
| 3号 | 特定課税仕入れに係るものである場合 | (号なし) |
なお、この3万円という数字は現行法から完全に消えたわけではなく、別の場所に、別の意味で残っています。次章のイに当たる公共交通機関の特例は「税込価額が三万円未満のもの」という条件を持っています。かつての「支出全般が3万円未満」とは対象が違うので、同じ数字を見ても同じ基準だと読まないでください。
帳簿だけで通る4類型と、そのとき増える2つの記載事項
現行の消費税法施行令49条1項1号は、柱書に条件を書いたうえで、イからニまでの4類型を挙げています。柱書はこうです。
課税仕入れが次に掲げる課税仕入れに該当する場合(法第三十条第七項に規定する帳簿に次に掲げる課税仕入れのいずれかに該当する旨及び当該課税仕入れの相手方の住所又は所在地(国税庁長官が指定する者に係るものを除く。)を記載している場合に限る。)
4類型の中身は次のとおりです。
| 号 | 類型 | 身近な例 |
|---|---|---|
| イ | 適格請求書の交付が免除される課税資産の譲渡等(施行令70条の9第2項1号)に係る課税仕入れ | 税込3万円未満の公共交通機関の運賃、自動販売機での購入 |
| ロ | 入場券等が、譲渡等を受けた際に回収された課税仕入れ | 回収される半券のみが残る入場券 |
| ハ | 古物商・質屋・宅地建物取引業者・再生資源卸売業等が、適格請求書発行事業者でない者から買い受けた棚卸資産 | 中古品の買取仕入れ |
| ニ | 財務省令(消費税法施行規則15条の4)で定める課税仕入れ | 従業員の出張旅費・通勤手当など |
ニが指す財務省令の条文は、次のように始まります。
令第四十九条第一項第一号ニに規定する財務省令で定める課税仕入れは、次に掲げる課税仕入れとする。
この規則15条の4が挙げるのは3つで、自動販売機等・出張旅費等・通勤手当です。出張旅費と通勤手当の扱いは範囲が細かく、金額基準の有無が誤解されやすいところなので、出張旅費規程と日当の相場で条文ごとに扱っています。そちらを参照してください。
このとき帳簿に書く項目は、通常より2つ多い
帳簿だけで控除を受けるときは、普段の4項目に2つが上乗せされます。まず、通常の記載事項は消費税法30条8項1号のイからニまでで、イは次の一言です。
課税仕入れの相手方の氏名又は名称
ロも同じく短い規定です。
課税仕入れを行つた年月日
ハが資産または役務の内容、ニが支払対価の額で、合わせて4項目になります。これに、さきほどの柱書の括弧が求める「該当する旨」と「相手方の住所又は所在地」が加わります。
| 記載事項 | 根拠 | 市販の出金伝票に欄があるか | |
|---|---|---|---|
| 1 | 相手方の氏名又は名称 | 法30条8項1号イ | 支払先欄 |
| 2 | 課税仕入れを行った年月日 | 同ロ | 日付欄 |
| 3 | 資産又は役務の内容 | 同ハ | 摘要欄 |
| 4 | 支払対価の額 | 同ニ | 金額欄 |
| 5 | 特例のいずれかに該当する旨 | 令49条1項1号 柱書 | 無い(摘要欄に書く) |
| 6 | 相手方の住所又は所在地 | 同上 | 無い(摘要欄に書く) |
市販の出金伝票の様式は、4項目までは自然に埋まりますが、5と6の欄を持っていません。帳簿だけで控除する場面で出金伝票を使うなら、摘要欄にこの2つを書き足す運用が要ります。ここが、様式をそのまま使っているだけでは抜け落ちるところです。
6の住所は、国税庁長官が指定する者に係るものは除かれます(柱書の括弧書き)。同条2項は、その指定を受けた者から不特定多数を相手に行う課税仕入れについて、30条8項1号イ(相手方の氏名又は名称)の記載を省略できるとも定めています。省略できるものと、追加で要るものが同じ条文の中に同居しているので、どちらの話をしているかを取り違えないでください。
手書きの出金伝票は、スキャンして原本を捨てられない
紙の伝票を電子化したいという要望はよくありますが、手書きの出金伝票については、条文上その道がありません。理由は、電子帳簿保存法が帳簿と書類を別々の項で扱っているからです。
4条1項が帳簿の電子保存を定めています。
保存義務者は、国税関係帳簿(財務省令で定めるものを除く。以下この項、次条第一項及び第三項並びに第八条第一項及び第四項において同じ。)の全部又は一部について、自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成する場合には、財務省令で定めるところにより、当該国税関係帳簿に係る電磁的記録の備付け及び保存をもって当該国税関係帳簿の備付け及び保存に代えることができる。
条件は「自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成する場合」です。手書きで起票した時点で、最初の記録段階が紙になるため、この項には乗れません。
次に、いわゆるスキャナ保存を定める4条3項です。
前項に規定するもののほか、保存義務者は、国税関係書類(財務省令で定めるものを除く。以下この項において同じ。)の全部又は一部について、当該国税関係書類に記載されている事項を財務省令で定める装置により電磁的記録に記録する場合には、財務省令で定めるところにより、当該国税関係書類に係る電磁的記録の保存をもって当該国税関係書類の保存に代えることができる。
この項の対象は「国税関係書類」だけで、国税関係帳簿は入っていません。2条2号が両者を明確に別の概念として定義しているため、帳簿をスキャナ保存する余地はありません。
保存期間の起算日は、伝票を書いた日ではない
青色申告法人の保存期間は、規則59条1項の柱書のとおり起算日から7年間です。その起算日を定めるのが2項で、帳簿と書類で数え方が違います。
前項に規定する起算日とは、帳簿についてはその閉鎖の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月(次の各号に掲げる事業年度にあつては、当該各号に定める月数。以下この項において同じ。)を経過した日をいい、書類についてはその作成又は受領の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月を経過した日をいう。
出金伝票は帳簿の側なので、起算日は「その閉鎖の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月」を経過した日です。伝票を書いた日でも、支払った日でもありません。
3月決算の会社が、2026年4月10日に出金伝票を1枚起票した場合で数えてみます。
| 段階 | 日付 | 根拠 |
|---|---|---|
| 伝票を起票した日 | 2026年4月10日 | (起算日ではない) |
| 属する事業年度の終了の日 | 2027年3月31日 | 3月決算 |
| その翌日 | 2027年4月1日 | 規則59条2項 |
| 2月を経過した日=起算日 | 2027年6月1日 | 同上 |
| 7年間の満了 | 2034年5月31日 | 規則59条1項 |
起票から数えると約8年2か月になります。「7年」という数字だけを覚えていると、1年以上早く廃棄してしまうことになるので、決算月と2か月分を必ず足してください。なお、確定申告書の提出期限が延長されている事業年度については、括弧書きが月数を読み替えます。
電帳法の索引簿を作る(無料・登録不要)記入例 — 自動販売機・慶弔金・立替精算
ここまでの整理を、実際の3つの場面に当てはめます。3つとも領収書が手元に残らない支出ですが、条文上の扱いは3通りに分かれます。いずれも手元の現金から払う場面なので、その現金をどう管理するか——手元残高の上限、1件あたりの上限、実査で合わなかったときの処理——は小口現金と現金過不足で扱っています。
① 自動販売機で飲料を購入した(税込150円)
令49条1項1号イの類型に当たります。帳簿だけで仕入税額控除を受けられますが、前章の5と6が要ります。摘要欄はこう書きます。
| 欄 | 記入内容 |
|---|---|
| 日付 | 2026年8月20日 |
| 支払先 | 自動販売機 |
| 勘定科目 | 会議費 |
| 摘要 | 来客用飲料/自動販売機特例に該当/設置場所: 東京都◯◯区◯◯1-2-3 |
| 金額 | 150円 |
「該当する旨」と「所在地」を摘要に入れているのが要点です。この2つが無いと、柱書の括弧の条件を満たしません。
② 取引先へ慶弔金を包んだ(30,000円)
こちらは消費税の話がそもそも発生しません。慶弔金は対価を伴わない支出なので課税仕入れに当たらず、仕入税額控除の要件を検討する場面ではないからです。前章の5と6は不要です。
ただし、法人税の側では損金性の確認が要ります。出金伝票には相手先・関係・事由を残し、会葬礼状や案内状を一緒に保管するのが実務です。これらは相手方から受け取った書類なので、規則59条1項3号の側で保存されることになります。
③ 従業員が立て替えた支出を精算した
従業員が受け取った領収書が会社宛でなくても、その領収書は会社にとって3号の書類として保存対象になります。出金伝票は精算という現金の動きを記録するもので、領収書を置き換えるものではありません。2枚を一組で綴じるのが素直な整理です。
領収書が本当に存在しない立替(自動販売機など)であれば、①と同じ扱いになります。領収書があるのに出金伝票だけを残す、という運用にはしないでください。3号の保存義務が残ったままになります。
よくある質問
Q. 領収書をもらい忘れました。出金伝票を書けば経費として認められますか?
A. 法人税の側と消費税の側で結論が違うため、分けて考えるのが正確です。法人税の側では、出金伝票は法人税法施行規則59条1項1号の帳簿として保存対象になり、事実として支出があったのであれば損金性そのものが伝票の有無だけで否定される仕組みにはなっていません。一方、消費税の仕入税額控除については、30条7項が原則として帳簿と請求書等の両方の保存を求めており、出金伝票は同条9項の請求書等に当たりません。帳簿だけで足りるのは施行令49条1項1号がイからニまでに挙げる4類型に限られます。2023年9月30日まで置かれていた「三万円未満である場合」の号と「やむを得ない理由があるとき」の号は、現行の条文にはどちらもありません。一般に、金額の大小ではなく類型に当てはまるかで判断することになります。
Q. 出金伝票の保存期間は何年ですか?
A. 青色申告法人であれば、法人税法施行規則59条1項が起算日から7年間と定めています。ここで注意が要るのは起算日で、同条2項は帳簿について「その閉鎖の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月」を経過した日としています。伝票を書いた日から7年ではありません。3月決算の会社が2026年4月10日に起票した伝票であれば、その事業年度の終了は2027年3月31日、翌日が2027年4月1日、2か月を経過した2027年6月1日が起算日となり、7年後の2034年5月31日まで保存することになります。起票日から数えると約8年2か月です。なお同項の括弧書きは、確定申告書の提出期限が延長されている事業年度について月数を読み替えると定めています。
Q. 手書きの出金伝票をスキャンして、紙を捨ててもよいですか?
A. 出金伝票を帳簿として扱う限り、条文上その方法はありません。電子帳簿保存法4条3項のいわゆるスキャナ保存は、対象を「国税関係書類」と書いており、国税関係帳簿は含まれていません。同法2条2号が国税関係帳簿と国税関係書類を別の概念として定義しているためです。帳簿を電子で保存する道は4条1項ですが、こちらは「自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成する場合」という条件が付いており、手書きで起票した時点で最初の記録段階が紙になるため要件を満たしません。一般に、電子化したい場合は起票の段階から会計ソフトや表計算ソフトで作成する方法を採ることになります。なお、支出の相手方から受け取った領収書のほうは3号の書類なので、こちらはスキャナ保存の対象です。
Q. 「出金伝票」と「支払伝票」は違うものですか?
A. 実務上は同じ役割を指しますが、条文に現れるのは「支払伝票」のほうだけです。e-Gov法令検索で全法令の条文本文を横断すると、「出金伝票」も「入金伝票」も0件です。三伝票制を定義している法令は国家公務員共済組合法施行規則と地方公務員等共済組合法施行規程の2本で、どちらも「伝票は、収入伝票、支払伝票及び振替伝票とする」と定めています。市販の伝票用紙や会計ソフトが使う「入金伝票・出金伝票」という呼称は法令の用語ではなく商慣行のもので、3つのうち「振替伝票」だけが偶然一致している関係です。名称が違っても税務上の扱いが変わるわけではありませんが、条文を検索して根拠を確かめる場面では、この語の違いを知らないと0件という結果を誤読することになります。
Q. 3万円未満の支出なら、いまでも領収書なしで大丈夫ですか?
A. 一般的な金額基準としては、もう存在しません。2023年9月30日まで有効だった消費税法施行令49条1項1号は「三万円未満である場合」と定めており、この金額以下であれば帳簿の保存だけで仕入税額控除が受けられました。インボイス制度の開始に伴いこの号は差し替えられ、現行の1号はイからニまでの4類型を限定列挙する形になっています。同時に、旧2号の「三万円以上である場合において……やむを得ない理由があるとき」という受け皿も無くなりました。ただし3万円という数字自体は別の場所に残っており、現行1号イが指す公共交通機関の特例は「税込価額が三万円未満のもの」を条件としています。対象が支出全般から特定の役務に狭まっているため、同じ数字でも意味が違う点に注意が必要です。
出典
- e-Gov法令検索(デジタル庁)法令API v2 — 全法令キーワード検索、および各法令の条文全文(2026年8月20日取得)
- 法人税法施行規則(昭和四十年大蔵省令第十二号)第54条、第59条、別表二十四
- 消費税法(昭和六十三年法律第百八号)第30条第7項・第8項・第9項
- 消費税法施行令(昭和六十三年政令第三百六十号)第49条、第70条の9第2項 — 現行版および2023年6月1日施行版の両リビジョン
- 消費税法施行規則(昭和六十三年大蔵省令第五十三号)第15条の4
- 電子帳簿保存法(平成十年法律第二十五号)第2条第2号、第4条第1項・第3項
- 国家公務員共済組合法施行規則(昭和三十三年大蔵省令第五十四号)第56条
- 地方公務員等共済組合法施行規程(昭和三十七年総理府・文部省・自治省令第一号)
この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務相談ではありません。実際の判断にあたっては、顧問税理士または所轄税務署にご確認ください。