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小口現金とは — 条を割いた法令は1本だけ。定額資金前渡法と現金過不足の実務

結論から言うと、小口現金は「現金」という資産の内訳科目であって、独立した別の資産ではありません。そして小口現金を置くことを義務づける税法はありません。置くか置かないかは、会社が自分で決められます。

それでも「いくらまで持たせてよいのか」「何に使ってよいのか」「合わなくなったらどうするのか」は、多くの経理担当者が拠り所を探す論点です。e-Gov法令検索の全法令を機械的に検索すると、条文に「小口現金」という語を含む法令は3本・15センテンスしかありません。そのうち条の見出しに掲げているのは、地方公務員等共済組合法施行規程54条の3(小口現金支払)の1本きりです。

この1本は、共済組合という限られた相手に向けたものなので、民間企業を直接縛るものではありません。ただ読んでみると、実務者が知りたい5点——誰が持つか・いくらまで・何に使えるか・払ったら何を残すか・合わなくなったら何をするか——が、条文の側にひととおり揃っています。この記事では、その条文を出発点に、定額資金前渡法の1サイクルを実数で追い、現金過不足の期末処理が法人税法22条3項のどの号に入るのかまでを整理します。

小口現金とは — 「現金」の内訳であって、別の資産ではない

小口現金は、日々の少額な支払いに充てるために手元に置いておく現金のことです。切手代、来客用の茶菓、近距離の交通費、消耗品——金融機関を通して振り込むほどではない支払いを受けるための財布にあたります。

会計上の位置づけは明確で、貸借対照表では「現金及び預金」の中に入ります。厚生労働省令である「社会医療法人債を発行する社会医療法人の財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」の別表1が、流動資産の「現金及び預金」に何が入るかを列挙しており、その末尾に小口現金が置かれています。

現金、他人振出当座小切手、送金小切手、郵便振替小切手、送金為替手形、預金手形(預金小切手)、郵便為替証書、郵便振替貯金払出証書、期限到来公社債利札、官庁支払命令書等の現金と同じ性質をもつ貨幣代用物及び小口現金など

この列挙の並び方が要点です。小口現金は、当座預金や普通預金と並ぶ独立の科目としてではなく、現金・貨幣代用物と同じ袋の中の最後の項目として置かれています。つまり小口現金は「現金の一部を、使う人と場所を決めて切り出したもの」であって、性質が変わるわけではありません。

「小口現金」という科目を立てない会社も多い小規模な会社では、そもそも科目を分けず「現金」1本で処理していることが珍しくありません。これは誤りではありません。科目を分ける実益は、誰の管理下にある現金かを帳簿の上で区別できることにあります。金庫が1つしかなく管理者も1人なら、分ける理由は薄くなります。勘定科目一覧もあわせて参照してください。

「小口現金」を条文に持つ法令は3本、条を割いているのは1本だけ

e-Gov法令API v2 の全法令キーワード検索で「小口現金」を検索すると、返ってくるのは15センテンス・3法令です。内訳は次のとおりでした。

法令件数出てくる場所
地方公務員等共済組合法施行規程10条の見出し1か所(54条の3)+ 別表の勘定科目表
地方公務員等共済組合法施行規則4別表の勘定科目表のみ
社会医療法人債を発行する社会医療法人の財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則1別表1(貸借対照表に係る科目)のみ

同じ検索で「貸借対照表」は6,598件、「仮払金」は206件、「立替金」は89件が返ります(検索経路が生きていることの確認として同時に測ったものです)。一方「定額資金前渡」「定額資金前渡法」「経費精算」は0件でした。簿記の教科書で必ず出てくる「定額資金前渡法」という言葉は、日本の法令には一度も出てきません

ここから言えること・言えないこと言えるのは「小口現金の置き方を定めた一般的な法令は存在しない」ということです。言えないのは「だから何をしてもよい」ではありません。小口現金で払った支出も、帳簿への記録義務(法人税法150条の2、所得税法232条)と、消費税の仕入税額控除の要件からは逃れられません。制度が無いのは「小口現金という箱」についてであって、「そこから出ていくお金」についてではないという切り分けが要ります。

その1本に、実務の5点がそのまま書いてある

唯一、条の見出しに「小口現金」を掲げている地方公務員等共済組合法施行規程54条の3は、次の一文だけの短い条文です。

会計単位の長は、出納主任をして主務大臣が定める金額の範囲内で、現金を保管させ、常用の雑費で小口の現金支払を必要とするものの支払に充てさせることができる。

短いのに、小口現金制度の骨格が全部入っています。①出納主任という決まった担当者に、②定められた金額の範囲内で、③現金を保管させ、④常用の雑費という限られた用途に充てさせる、⑤しかも「できる」=任意である。

同じ規程の他の条を並べると、実務で決めるべきことがそのまま条文の形で出てきます。

実務で決めること条文が定めていること
誰が持つか18条1項会計単位の長が出納主任を任命し、取引の遂行・資産の保管・帳簿と証ひょう書類の保存をつかさどらせる
手元にいくら置くか54条の3主務大臣が定める金額の範囲内(=上限をあらかじめ決めておく)
1回あたりいくらまで現金で払えるか48条1項2号常用の雑費で1件5万円以下のとき(原則は金融機関経由)
何に使えるか54条の3常用の雑費で小口の現金支払を必要とするもの
払ったら何を残すか47条1項必ず領収証書を徴し、伝票に支払日付と職名を記載
合わなくなったら23条1項10項目を明らかにして事故報告

とくに実務の感覚に近いのが48条です。この条は原則として支払を金融機関経由で行うことを求めたうえで、ただし書で現金払いができる場合を7号挙げています(号の数は e-Gov が返す法令データの木構造から数えたもので、目で数えたものではありません)。その2号がこれです。

常用の雑費の支払で一件の取引金額が五万円を超えないとき。

金額の線が1件5万円で引かれていること、そして「常用の雑費」という用途の限定とセットになっていることが読み取れます。手元の残高の上限(54条の3)と、1回の支払の上限(48条1項2号)が別々の条で別々に決められているのがこの制度の形で、社内規程を作るときも同じ2本立てにしておくと運用が締まります。

払った後に何を残すかも、条文の側が具体的です。

出納主任は、支払をする場合には、必ず領収証書を徴し、当該取引に係る伝票に支払日付及び職名を記載しなければならない。

領収書をもらうだけでなく、伝票に「支払日付」と「職名」を書かせている点が特徴です。誰の権限で払ったかを後から追えるようにする、という設計です。伝票側の書き方は出金伝票の書き方で扱っています。

「資金前渡」と「小口現金」は、この規程では別の条ひとつ手前の54条の2は「資金前渡」という別の見出しで、遠隔地・交通不便な地域での支払や、非常災害のため即時支払を必要とする経費について、担当者に資金を前渡できると定めています。常用の雑費のための恒常的な小口現金(54条の3)と、特別な事情に対する都度の前渡(54条の2)が、条を分けて書き分けられているわけです。簿記でいう「定額資金前渡法」は前者にあたりますが、条文の言葉としての「資金前渡」は後者を指しています。用語が1対1で対応していないので、社内規程を書くときは言葉の定義を先に置いたほうが安全です。

定額資金前渡法の回し方 — 設例で数字を追う

定額資金前渡法(インプレスト・システム)は、手元残高をつねに同じ金額に戻すやり方です。月初に定額を渡し、月中に使った分だけを月末に補給する。すると翌月初の残高は必ず定額に戻ります。

① 月初:前渡 50,000円 月初 ② 月中:支払 合計 17,620円 ③ 月末:実査と報告 残 32,380円 月末 ④ 補給 17,620円 翌月初は再び50,000円
定額資金前渡法の1サイクル。補給額は「使った額」と必ず一致するので、補給額そのものが月次の小口経費の総額になる。

定額を50,000円として、8月の1か月を追ってみます。

日付内容支出残高
8/1前渡(定額)50,000
8/4郵便切手2,10047,900
8/8来客用茶菓3,24044,660
8/13電車代1,48043,180
8/21事務用品6,60036,580
8/27タクシー代4,20032,380
8/31支払合計17,62032,380
9/1補給(=支払合計と同額)50,000

補給の仕訳は、支払の中身を科目ごとに振り分けたうえで、相手科目を当座預金などにします。

借方金額貸方金額
通信費(切手)2,100当座預金17,620
会議費(茶菓)3,240
旅費交通費(電車・タクシー)5,680
消耗品費(事務用品)6,600
計 17,620

この方式の実務上の利点は、補給額がそのまま月次の小口経費の総額になることです。上の例なら「8月の小口経費は17,620円」と一目で分かります。残高がまちまちに動く随時補給方式だと、この読み取りができません。

定額の決め方には目安がある教科書的には「1か月分の小口経費を賄える額」です。上の例のように月17,620円の実績なら、5万円は余裕がありすぎるとも言えます。手元に置く現金は、盗難・紛失の損害額の上限そのものなので、少ないほど安全側です。一方で月中に足りなくなると臨時補給が発生し、定額方式の利点が消えます。実績の1.5か月分程度から始めて、3か月ほど回してから調整するのが現実的です。

小口現金出納帳は「帳簿」なのか

小口現金出納帳は、市販の帳簿でも会計ソフトでも用意されている補助簿です。ただし「小口現金出納帳」という帳簿名を義務として名指しする法令はありません。上で見たとおり、条文に出てくるのは科目名としての「小口現金」だけです。

参考になるのは、やはり地方公務員等共済組合法施行規程です。この規程の62条は帳簿の種類を定めていますが、そこに小口現金出納帳は出てきません。

各会計単位においては、経理単位ごとに、別紙様式第四号による元帳及び補助簿を備え、すべての取引を記入しなければならない。

つまり、名前を決めているのは元帳と補助簿までで、補助簿の内訳は列挙されていません。小口現金出納帳は「補助簿の1つ」という位置にとどまります。

民間企業の場合も構造は同じです。法人税法施行規則が求める帳簿の記載事項は「現金の出納に関する事項」という区分で定められており、小口現金だけを切り出した帳簿を別に要求してはいません。記載事項そのもの(取引の年月日・事由・出納先・金額・日々の残高)は現金出納帳の書き方で、帳簿全体の記載事項と保存年限は総勘定元帳の書き方で扱っているので、そちらに譲ります。

実務的な帰結はこうです。小口現金出納帳は、作らなくても違法ではないが、作らないと現金出納帳の「日々の残高」を担当者ごとに検算できなくなる。義務ではなく検算装置として持つ、という理解が実態に合います。

現金過不足 — 法令の科目表は借方にも貸方にも同じ名前を置いている

実査(金庫の中を数えること)の結果が帳簿残高と合わないとき、差額をいったん受けるのが現金過不足という科目です。

この語も法令にはほとんど出てきません。全法令キーワード検索で「現金過不足」は4センテンス・1法令のみ、しかもすべて地方公務員等共済組合法施行規程の別表(損益計算書の勘定科目表)の中です。条文の本文には一度も出てきません。

ただ、その勘定科目表の置き方が示唆的でした。保健・医療・宿泊・物資の4つの経理について科目表が用意されているのですが、そのどれもが、同じ表の中で「現金過不足」を2回、借方と貸方の両方に置いています(表の各行を木構造から取り出して列位置を判定したもので、目で読んだものではありません)。

大項目科目の位置意味
借方経常費用中項目「現金過不足」実査が帳簿より少ない(不足)ときの受け皿
貸方経常収益中項目「現金過不足」実査が帳簿より多い(過剰)ときの受け皿

同じ名前の科目を両側に用意しているのは、過不足がどちら向きにも起きる前提で設計されているということです。実務でも「不足しか起きない」ということはありません。釣り銭の受け取り間違い、記帳漏れ、二重記帳は、どちらの向きにも差額を生みます。

実査と帳簿残高が合わない 差額を「現金過不足」でいったん受ける 原因が分かった → 本来の科目へ振り替える 分からないまま期末 → 雑損失 / 雑収入 へ振り替える 「現金過不足」は決算書に残さない
現金過不足は期中の仮の受け皿。期末には必ず消して、雑損失または雑収入に振り替える。

先ほどの設例で、8月末の帳簿残高が32,380円のところ、実査したら32,000円だった場合を考えます。差額は380円の不足です。

場面借方貸方
① 差額を認識したとき現金過不足 380小口現金 380
② 原因が判明(電車代380円の記帳漏れ)旅費交通費 380現金過不足 380
②' 原因不明のまま期末を迎えた雑損失 380現金過不足 380

逆に実査が32,900円で520円多かった場合は、①が「小口現金 520/現金過不足 520」、②'が「現金過不足 520/雑収入 520」になります。

現金過不足を決算書に残してはいけない現金過不足は期中の仮の科目です。原因が分からないまま期末を迎えたら、金額の大小にかかわらず雑損失か雑収入に振り替えて消します。貸借対照表に「現金過不足」という科目が載っている状態は、原因不明の差額を放置したまま決算を締めたことを意味してしまいます。
差額の見つけ方には定番の当たりがある差額が9で割り切れるなら桁の入れ替わり(97,000と79,000を取り違えたときの差18,000は9の倍数)、差額の半分と同じ金額の取引があるなら貸借を逆に記帳している、差額と同額の取引があるなら片側の転記漏れ。同じ検算は試算表の見方でも扱っています。

なお、現金が「合わない」の程度が大きいときは、経理の問題ではなくなります。先ほどの規程は、出納職員が保管する資産を亡失したときに10項目を明らかにして報告せよと定めています(項目数は法令データの木構造から数えたものです)。

会計単位の長は、出納職員がその保管する資産又は第六十二条に規定する帳簿を亡失したときは、遅滞なく、その事実を調査し、次に掲げる事項を明らかにしてこれを組合の理事長に報告しなければならない。

10項目には「事故の日時及び場所」のような事実関係だけでなく、「平素における事故物件の管理状況」(4号)や「事故の発生にかんがみ制度上及び運営上の欠陥並びにこれらの改善に関する具体的意見」(9号)が含まれています。原因の特定にとどまらず、ふだんの管理がどうだったか・仕組みをどう直すかまで書かせる設計です。民間企業がこの様式に従う必要はありませんが、社内で紛失報告のひな形を作るときの項目としては、そのまま使える水準にあります。

期末に残った現金過不足は「費用」ではなく「損失」

原因不明の不足額を雑損失に振り替えたとき、それが法人税の計算上どう扱われるかは、法人税法22条3項のどの号に入るかで説明できます。同項は損金に算入すべき額を3つの号に分けています。

前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額

これが2号です。括弧書きに注目してください。「費用」については、事業年度終了の日までに債務が確定していないものは損金にならないという縛りがかかっています。ところが3号は、次の一文だけです。

当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

3号には「債務の確定」という条件がありません。 現金がなくなったという事実は、誰かに対する債務が確定したから生じるものではありません。相手方がいない以上、2号の債務確定要件を満たしようがない——だから費用ではなく損失として3号に入る、という筋道になります。

2号(費用)3号(損失)
対象販売費、一般管理費その他の費用損失の額(資本等取引以外)
債務確定の要件あり(償却費を除く)条文に無い
現金の不足額相手方がいないので入らないこちらに入る

ただし、これで無条件に損金になるわけではありません。同条4項が全体にかかります。

第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。

言い換えると、「調べたが分からなかった」と言える程度に調べたかが問われます。実務上つまずきやすいのは次の3つです。

消費税では、現金過不足は課税の対象外現金過不足は資産の譲渡等でも課税仕入れでもないため、消費税の課税対象になりません。雑損失・雑収入に振り替えたときも同じです。ただし原因が判明して本来の経費に振り替えた場合は、その経費本来の課税区分に戻る点に注意してください。上の設例なら、旅費交通費380円は課税仕入れです。

小口現金で払った経費の証憑 — インボイス以後に変わったこと

小口現金の実務でいちばん影響が大きかったのは、インボイス制度です。かつては3万円未満の課税仕入れなら請求書等の保存が不要とされていたため、少額の現金払いは領収書が無くても仕入税額控除ができました。この金額基準は現行の条文から消えています(詳細は出金伝票の書き方で条文の新旧を対照しています)。

代わりに、帳簿の保存だけで控除が認められる場合が個別に列挙される形になりました。小口現金でよく出てくるのは公共交通機関の運賃で、消費税法施行令70条の9第2項1号が対象を定めています。

次に掲げる役務の提供のうち当該役務の提供に係る税込価額(法第五十七条の四第一項第四号に規定する税込価額をいう。)が三万円未満のもの

ここに続くイ〜ニで、船舶・バス(一般乗合旅客自動車運送事業)・鉄道・軌道による旅客の運送が挙げられています。上の設例でいえば、電車代1,480円はこの特例に乗りますが、タクシー代4,200円は乗りません。タクシーは一般乗合旅客自動車運送事業ではないためです。金額が3万円未満でも、領収書(適格請求書)が要ります。

設例の支出領収書が無くても控除できるか理由
電車代 1,480円できる(帳簿の保存のみ)公共交通機関特例(3万円未満)
タクシー代 4,200円公共交通機関特例ではできない乗合ではないため同特例の対象外。ただし出張に伴うものなら別の道がある(下記)
郵便切手 2,100円購入時はそもそも課税仕入れではない郵便切手類の譲渡は非課税(消費税法別表第二第四号イ)
事務用品 6,600円できない通常の課税仕入れ。適格請求書が要る

「対象外」と書いた行にも、別の入口があります。消費税法施行規則15条の4は、公共交通機関とは別の号で、出張旅費等と通勤手当を帳簿のみ保存の対象に加えています。2号は役員・使用人が「勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし」た場合に支給する金品のうち「その旅行について通常必要であると認められる部分」、3号は通勤手当のうち「通常必要であると認められる部分」です。出張に伴うタクシー代は、公共交通機関特例ではなくこちらの道に乗る余地があります。一方、社内の近距離移動で使っただけのタクシー代は、どちらにも乗りません。

郵便については、同規則26条の6第2号が対象を「郵便切手類のみを対価とする」郵便の役務及び貨物の運送で、しかも郵便差出箱に差し出されたものに限るとしています。切手を買う行為ではなく、ポストに投函する郵便のほうが対象という点に注意が必要です。窓口で差し出したものは、この限定から外れます。

帳簿だけで通す場合は、記載しなければならない事項が通常より増えます。この点と、一定規模以下の事業者に認められている少額の特例については、インボイス制度をわかりやすく振込手数料の勘定科目で扱っているので、そちらを参照してください。出張の日当や通勤手当の扱いは出張旅費規程と日当の相場にあります。

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小口現金を廃止するとき、残る宿題

小口現金を廃止し、法人カードや立替精算に切り替える会社は増えています。判断材料を整理します。

小口現金を置く廃止して法人カード・立替精算
手元の現金ある(盗難・紛失の損害額の上限になる)無い
実査必要(差額が出ると原因調査)不要
証憑紙の領収書を集めるカード明細+領収書、または立替精算書
立替える人会社(先に現金を出す)従業員(一時的に自腹を切る)
支払えない場面ほぼ無いカードが使えない少額の現金払い

廃止に踏み切るときに見落としやすいのが、次の3点です。

廃止しても「現金を数える」がゼロになるわけではない店舗や窓口で売上を現金で受け取る事業なら、レジの現金は残ります。小口現金の廃止は「支払のための現金」を無くす話であって、「受け取る現金」とは別です。両方を混ぜて議論すると、レジ現金の実査まで一緒に止めてしまう事故が起きます。

よくある質問

Q. 小口現金はいくらまで置いてよいですか?

A. 民間企業について金額の上限を定めた法令はありません。金額は会社が自分で決めます。参考になるのは地方公務員等共済組合法施行規程で、54条の3が「主務大臣が定める金額の範囲内」として手元残高の上限をあらかじめ決めさせ、48条1項2号が現金で払える1回あたりの金額を「常用の雑費の支払で一件の取引金額が五万円を超えないとき」と定めています。手元残高の上限と1回の支払の上限を別々に決めるという二本立ての形は、社内規程を作るときにそのまま使えます。実務的には、手元に置く現金の額が盗難・紛失時の損害額の上限になるため、月次の実績の1.5か月分程度から始めるのが現実的です。

Q. 小口現金を置かないと違法ですか?

A. 違法ではありません。小口現金を置くことを義務づける税法はなく、e-Gov法令検索の全法令で「小口現金」という語を含むのは3法令15センテンスだけで、そのいずれも民間企業一般に向けたものではありません。法人カードや立替精算に切り替えても差し支えありません。ただし小口現金を置かないことと、支出を帳簿に記録しなくてよいことは別です。帳簿の備付けは法人税法150条の2や所得税法232条が求めており、消費税の仕入税額控除の要件も変わりません。

Q. 定額資金前渡法と随時補給法は、どちらを選ぶべきですか?

A. 一般に定額資金前渡法が勧められます。手元残高をつねに同じ額に戻す方式なので、補給額がそのまま月次の小口経費の総額になり、月ごとの比較ができるためです。また残高が定額と一致しているかどうかで、報告漏れがその場で分かります。随時補給法は残高がまちまちに動くため、この2つの利点が得られません。なお「定額資金前渡法」という言葉は日本の法令には出てきません。e-Gov法令検索の全法令キーワード検索で「定額資金前渡」「定額資金前渡法」はいずれも該当なしでした。簿記上の呼び名であって、法令用語ではありません。

Q. 現金過不足の原因が分からないまま決算になったら、どうしますか?

A. 金額の大小にかかわらず、不足なら雑損失、過剰なら雑収入に振り替えて、現金過不足の残高をゼロにします。現金過不足は期中の仮の科目なので、貸借対照表に残す科目ではありません。法人税の計算上、不足額は法人税法22条3項2号の「費用」ではなく3号の「損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」に入ります。2号には括弧書きで債務確定の要件がかかっていますが、3号にはその条件が書かれていません。ただし同条4項が一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算することを求めているため、原因調査を尽くしたと言える状態にしておく必要があります。

Q. 現金が合わない原因が、従業員の持ち出しだと分かった場合は?

A. その時点で「原因不明の損失」ではなくなるため、雑損失としての処理はできません。会社がその人に返還を求める立場になるので、一般には立替金や貸付金などの債権として処理し、返還されない部分をどう扱うかを別に検討することになります。相手が役員の場合は役員給与の損金不算入の論点に入り込むため、扱いが大きく変わります。金額が大きい場合は税務だけの問題ではなくなるので、税理士と弁護士の双方に相談する場面です。

Q. 小口現金出納帳はつけなければいけませんか?

A. 「小口現金出納帳」という帳簿名を義務として名指しする法令はありません。法人税法施行規則が求めているのは「現金の出納に関する事項」の記録であり、小口現金だけを切り出した帳簿を別に要求してはいません。ただし小口現金出納帳が無いと、担当者の手元の現金と帳簿を突き合わせる検算ができなくなります。義務としてではなく検算装置として持つ、という位置づけが実態に合います。記載する項目は現金出納帳と同じで、取引の年月日・事由・出納先・金額・日々の残高の5つが基本です。

Q. 小口現金で払った電車代は、領収書が無くても経費にできますか?

A. 消費税の仕入税額控除については、公共交通機関の旅客運送で税込3万円未満のものは、帳簿の保存だけで控除が認められます。消費税法施行令70条の9第2項1号が船舶・一般乗合旅客自動車運送事業・鉄道・軌道による旅客の運送を挙げており、金額の線は3万円未満です。ただしタクシーは一般乗合旅客自動車運送事業ではないため、この特例の対象外です。出張に伴うタクシー代であれば、消費税法施行規則15条の4第2号の出張旅費等として帳簿のみ保存の対象になる余地がありますが、社内の近距離移動で使っただけの場合はどちらにも乗らず、適格請求書が要ります。帳簿だけで通す場合は記載事項が通常より増える点にも注意が必要です。なお法人税・所得税の経費性は消費税の控除要件とは別の話で、支出の事実を出金伝票などで説明できることが前提になります。

Q. 小口現金と仮払金は、どう使い分けますか?

A. 小口現金は用途を特定せずに手元に置いておく資金で、常用の雑費に充てるものです。仮払金は、出張費のように用途と相手が決まっている支出について、金額が確定する前に概算で渡しておくものです。地方公務員等共済組合法施行規程でも、常用の雑費に充てる小口現金支払(54条の3)と、遠隔地や非常災害など特別な事情がある場合の資金前渡(54条の2)が別の条に分けて書かれています。仮払金は精算によって必ず消える一時的な科目である点でも、恒常的に残高を持つ小口現金とは性質が違います。仮払金と仮受金もあわせて参照してください。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・税理士にご確認ください。

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