取得費加算の特例:相続した株式を譲渡した例で按分額・期限・税額を検算
取得費加算の特例は、相続税が課税された本人が相続財産を所定期間内に譲渡し、必要書類を添えて確定申告すると、相続税の一部を譲渡所得の取得費に加えられる制度です。加算できる額は、その財産の特例適用前の譲渡益が上限です。
NISA等から相続で払い出された株式を除き、被相続人から引き継ぐ取得費と按分の評価額を分けて確認します。以下は上場株式の譲渡所得の一般解説です。事業所得・雑所得に当たる株式売却は特例の対象外です。
まず計算例、次に要件・期限・必要書類を確認できます。制度は国税庁No.3267、株式の取得費はNo.1464で確認しています。
株式の按分額と譲渡所得を検算する
対象の相続財産ごとに相続税の按分額と特例前の譲渡益を計算し、少ない方を取得費に加えます。遺産全体の相続税をそのまま引く計算ではありません。
令和8年分の架空の設例です。居住者本人に相続税が課税され、相続した上場株式の全部を適用期間内に売却したとします。取得財産は通常評価の株式と預金だけとし、贈与加算・債務・葬式費用・代償分割はありません。既保有の同一銘柄もないとします。NISAからの相続は除き、引き継ぐ取得費は資料で判明しているものとします。
| 項目 | 金額 | 確認する資料 |
|---|---|---|
| 本人の取得財産の価額 | 1億円 | 本人分の相続税申告資料 |
| 本人の相続税額 | 1,000万円 | 本人分の税額。遺産全体の税額ではない |
| 売却した株式の相続税評価額 | 2,000万円 | 相続税申告時の株式評価の明細 |
| 株式の売却代金 | 800万円 | 売却報告書 |
| 被相続人から引き継ぐ取得費 | 300万円 | 被相続人の購入資料等。購入手数料を含む |
| 今回の売却手数料等 | 10万円 | 売却報告書。取得費と重複させない |
相続税評価額は相続税の計算に使う額で、売却代金とも、譲渡所得から引く取得費とも異なります。相続時より値下がりしていても、取得費との比較では譲渡益が残ることがあります。
上の令和8年分の設例を使います。贈与加算・債務等がないため、按分の分母は本人の取得財産の価額です。加算額は譲渡した財産ごとに計算し、特例前の譲渡益を上限とします。この設例の計算では端数は出ません。根拠:国税庁No.3267。
| 段階 | 計算式と結果 |
|---|---|
| 相続税の按分額 | 1,000万円×2,000万円÷1億円=200万円 |
| 特例前の譲渡益 | 800万円−300万円−10万円=490万円 |
| 取得費への加算額 | 按分額200万円と譲渡益490万円の少ない方=200万円 |
| 加算後の譲渡所得 | 490万円−200万円=290万円 |
| 別の境界例:特例前譲渡益だけが100万円の場合 | 按分額が200万円でも、加算額は100万円まで |
贈与加算や債務等がある場合は、この設例の分母を転用しません。該当する場合は国税庁の算式・注記と計算明細書で確認します。
税額は所得税・復興税・住民税を分ける
取得費加算は相続税を返してもらう制度ではありません。加算後の株式の譲渡所得に対して、所得税等を計算します。
令和8年分の設例で、前節の上場株式の譲渡所得だけを比較します。他の譲渡損益・繰越損失・所得控除の残額・税額控除はなく、極めて高い所得への追加課税は対象外です。住民税は対応する翌年度の所得割です。税率の根拠:国税庁No.1463。
| 税の種類 | 計算する対象と税率 |
|---|---|
| 所得税 | 上場株式の課税譲渡所得×15% |
| 復興特別所得税 | 基準所得税額×2.1%。譲渡所得に直接掛けない |
| 住民税所得割 | 上場株式の課税譲渡所得×5% |
令和8年分の同じ設例です。他の損益・繰越・所得控除残額・税額控除はないものとし、源泉徴収や予定納税の精算前の算出額を比較します。住民税は翌年度の所得割です。いずれの計算にも端数は出ず、確定申告時の最終納付額を示すものではありません。
| 項目 | 加算なし | 加算あり |
|---|---|---|
| 株式の譲渡所得 | 490万円 | 290万円 |
| 所得税 | 735,000円 | 435,000円 |
| 復興特別所得税 | 15,435円 | 9,135円 |
| 住民税所得割 | 245,000円 | 145,000円 |
| 算出額の合計 | 995,435円 | 589,135円 |
| 設例の合計差額 | 995,435円−589,135円=406,300円 | |
特定口座の源泉徴収額と、特例を反映した申告計算は区別します。他の口座との通算や損失繰越は特定口座の確定申告で扱います。この表から個別の還付額や申告方法の有利不利は判断できません。
本人の課税と対象財産を確かめる
家族の誰かに相続税がかかっただけでは足りません。譲渡した財産を取得した本人に相続税が課税されていることが要件です。相続税が課税されていない本人には、加算する相続税額がありません。
| 確認点 | 内容 |
|---|---|
| 取得原因 | 相続または遺贈で取得した財産であること |
| 本人への課税 | その財産を取得した人に相続税が課税されていること |
| 譲渡期間 | 次節の期間内に譲渡していること |
| 所得の区分 | 譲渡所得が対象。株式売却による事業所得・雑所得は対象外 |
相続した通常の課税口座の株式は、被相続人の取得費を引き継ぎます。相続税評価額に置き換えるのではありません。NISA等から相続で払い出された株式は別の扱いなので、本記事の承継取得費の設例には含めていません(国税庁No.1464)。
もともと同一銘柄を持っていた人が、相続株式と合わせた保有分の一部を適用期間内に譲渡した場合、取得費加算の特例では相続株式から譲渡したものとして適用して差し支えないとされています(国税庁No.3267)。
これは取得費加算についての取扱いです。通常の取得費を銘柄ごとに計算する方法まで、売った順番だけで決まるという意味ではありません。同一銘柄の追加購入や株式分割がある場合は取得費の調整・計算方法も確認します。
譲渡期限を暦で確認する
対象の相続財産は、相続開始のあった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡している必要があります(国税庁No.3267)。実際に相続税申告書を提出した日を起点にはしません。
暦の設例です。死亡日と死亡を知った日がともに2026年1月15日で、申告期限の延長等がないとします。相続税の申告期限が土日祝等なら翌開庁日になる扱いを反映します。根拠:国税庁No.4205・No.3267。
| 日付 | この日の意味 |
|---|---|
| 2026年1月15日(木) | 死亡日・死亡を知った日 |
| 2026年11月15日(日) | 休日調整前の相続税申告期限に当たる日 |
| 2026年11月16日(月) | 休日調整後の相続税申告期限 |
| 2029年11月16日(金) | 取得費加算の対象となる株式の譲渡期限 |
譲渡期限と、譲渡所得を申告する期限は別です。譲渡期限の末日が休日の場合も、申告書を出す期限と同じように延びるとは考えず、取引の日付の扱いも含めて税務署等で確認します。死亡を知った日が異なる場合や期限延長がある場合は、この日付表を使いません。
申告では相続税と株式売却の資料をつなぐ
取得費加算の特例を受けるには確定申告が必要です。株式の譲渡所得については、確定申告書に次の明細書を添えます(国税庁No.3267)。
- 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
- 株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書
土地・建物用の内訳書を株式に流用せず、所得の区分に合った明細書を使います。相続税関係の資料と売却報告書から、同じ銘柄・数量に対応する金額をそろえます。
次の表は、贈与加算がなく、NISA等からの相続払出しもない場合の確認メモです。
| 資料 | 転記前に確認するもの |
|---|---|
| 相続税申告書・評価明細 | 本人分の相続税額、本人の取得財産、譲渡株式の相続税評価額 |
| 購入時の資料・保有履歴 | 取得費の計算根拠と、取得価額の調整の有無 |
| 売却報告書 | 売却した銘柄・数量・日付・代金・手数料 |
| 加算の計算明細書 | 譲渡財産ごとの按分額と特例前の譲渡益上限 |
相続税そのものの全体像は相続税計算機で確認できます。ただし、このツールは譲渡時の取得費加算を計算しません。実際の申告には、申告資料に基づく本人分の数字が必要です。
相続税計算機で相続税の計算の流れを確認するよくある質問
相続税評価額を株式の取得費にできますか?
通常の課税口座から相続した株式は、被相続人の取得費を引き継ぎます。相続税評価額は取得費加算の按分に使う額で、通常の取得費とは区別します。NISA等から相続で払い出された株式は別扱いです。
相続税の全額を引けますか?
全額をそのまま引く制度ではありません。本人の相続税から譲渡した財産に対応する額を計算し、特例前の譲渡益を上限に取得費へ加えます。財産ごとに計算します。
他の相続人に相続税がかかっていれば使えますか?
それだけでは使えません。譲渡した財産を取得した本人に相続税が課税されていることが要件です。家族全体の税額を本人の加算計算に使いません。
特定口座で源泉徴収済みなら手続きは終わりですか?
取得費加算の特例を受けるには、必要な明細書を添えて確定申告をします。源泉徴収済みであることと、特例の適用手続きが済んでいることは別です。
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出典
制度・税率の確認日:2026年10月20日。国税庁の取得費加算の説明などを参照しています。金額と暦の表は条件を固定した架空の計算例です。
- 国税庁No.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」:要件、算式、上限、株式の一部譲渡、必要書類。
- 国税庁No.1464「譲渡した株式等の取得費」:取得費の承継、NISA等の相続、同一銘柄の計算。
- 国税庁No.1463「株式等を譲渡したときの課税」:譲渡所得の計算、税率、復興特別所得税。
- 国税庁No.4205「相続税の申告と納税」:申告期限と休日の扱い。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・税理士にご確認ください。個別の税務・労務相談には応じられません。