譲渡制限付株式(RS)とは:交付・制限解除・売却時の給与税と取得費を検算
譲渡制限付株式(RS)は、先に株式を受け取り、勤務継続などの条件達成まで売却を制限する株式報酬です。
勤務対価の「特定譲渡制限付株式」を在職中の勤務条件達成で解除する場合、解除日の価額を給与収入に算入します。売却時は、その価額を取得費の基礎として譲渡損益を計算します(主な例外は退職・死亡と無償取得の節)。
このページでは、国内勤務の居住従業員を対象に、会社の解除通知から給与明細・売却明細へつなぐ確認表を掲載します。会社側の会計費用や法人税の損金算入は、本人の課税と分けて扱うため、計算対象に含めません。
交付・無償取得・制限解除・売却の早見表
勤務対価として交付された税務上の特定譲渡制限付株式が対象です。国内勤務の居住従業員が、死亡せず在職中に勤務条件を達成して解除される場合と、解除前に会社が無償取得する場合を分けます。取得費の欄は、同銘柄の他の取得・保有や株式分割等の単価調整がなく、全株を売却する場合です。
| 時点・分岐 | 本人の所得の整理 | 残す資料・取得費の扱い |
|---|---|---|
| 譲渡制限付きの交付 | 交付時点で給与収入に算入しない | 割当契約・交付株数を保管。交付時価を売却時の取得費にしない |
| 解除前に会社が無償取得 | 会社が無償取得する株式については課税しない | 無償取得の通知・対象株数を保管。解除株数と区別する |
| 在職中の勤務条件達成で解除 | 解除日の価額を給与収入に算入する。売却の有無とは別 | 解除日・解除株数・評価額の通知を保管。解除日の価額が取得費の基礎 |
| 解除後に課税口座で売却 | 売却金額から取得費と売却手数料等を引いて譲渡損益を計算 | 取得費の記録と売却明細を対応させる |
根拠は所得税基本通達23~35共-5の2・5の3と、国税庁「譲渡した株式等の取得費」です。
同じ株式で給与収入と取得費を検算する
売却時に差し引くのは、給与から徴収された税額ではなく、株式の取得費です。交付日の参考価額・解除日の価額・売却代金を別々に記録すると、混同を防げます。
令和8年分の架空の設例です。国内勤務の居住従業員が勤務対価として受けた特定譲渡制限付株式について、死亡・退職・無償取得はなく、在職中の勤務条件達成で解除されます。国内の単一市場に上場し解除日に終値がある株式で、同銘柄の他の取得・保有や単価調整はなく、課税口座で全株売却します。取得・売却の費用なし、計算上の端数なしとします。
| 時点・項目 | 仮定と計算 | 何の金額か |
|---|---|---|
| 交付 | 100株 × 10,000円 = 1,000,000円 | 交付日の株価による参考額。給与収入・売却時の取得費には使わない |
| 勤務条件達成による解除 | 100株 × 12,000円 = 1,200,000円 | 解除日の終値による給与収入への加算額。同額を取得費の基礎にする |
| 全株の売却 | 100株 × 14,000円 = 1,400,000円 | 売却代金。全額が利益になるわけではない |
| 譲渡損益 | 1,400,000円 − 1,200,000円 = 200,000円 | 費用なしの場合の譲渡益。給与とは区分して計算 |
死亡前に制限解除された特定譲渡制限付株式の取得費の基礎を、解除日の価額とする根拠は所得税法施行令109条です。本設例の課税口座で売却する株式の譲渡損益は申告分離課税で、給与とは分けて計算します。
課税口座の株式を売って損失になっても、その損失を解除時の給与収入から引き直す扱いにはなりません。上場株式等と一般株式等は課税区分も別です。
取得・売却の費用がある場合は、取得費に含める費用と売却手数料等を区別します。取得費には購入手数料とその消費税、名義書換料なども含まれます。同銘柄を複数回取得して一部を売る場合は、総平均法に準ずる方法など取得費の説明を確認します。
給与にかかる所得税本税の差をみる
給与収入への加算額は、納める税額と同じではありません。給与所得控除・所得控除を反映した課税所得を使うためです。
令和8年分の国内勤務の居住従業員の架空の設例です。上のRS分の加算前後で給与所得控除額と所得控除額は変わらず、控除後の課税所得を下表の額と仮定します。千円未満切捨て済みの課税所得から所得税本税だけを比較します。税額控除・高額所得者への追加課税・復興特別所得税・住民税・源泉税の精算は含めません。
| 設例の状態 | 課税所得と速算表の式 | 所得税本税 |
|---|---|---|
| RS加算前 | 4,000,000円 × 20% − 427,500円 | 372,500円 |
| RS加算後 | 5,200,000円 × 20% − 427,500円 | 612,500円 |
| 本税の差 | 612,500円 − 372,500円 | 240,000円 |
式は国税庁「所得税の税率」の速算表によります。この設例の本税差は、申告書の追加納付額や、株式売却分を含む税負担ではありません。実際に控除額が変わる場合は、課税所得も計算し直します。
給与収入と控除から所得税を試算する所得税計算機は株式売却の申告分離課税を計算しません。給与分と売却分は分けて確認します。
税務上のRSと、RSU・SOの違い
本記事の解除時課税は、所得税法施行令84条の特定譲渡制限付株式を対象とします。単に社内で売却承認が必要な保有株式まで、同じ扱いにはできません。
税務上の対象には、役務の対価として交付されること、譲渡制限期間があること、勤務状況や会社の業績等に応じた無償取得事由があることなどの条件があります。金銭報酬債権を現物出資する形のほか、実質的に役務の対価と認められる交付も定められています。
| 制度 | 最初に与えられるもの | 確認する境目 |
|---|---|---|
| RS | 譲渡に制限のある株式 | 株式交付と、交付後の制限解除を区別する |
| 株式決済のRSU | 条件達成後の株式交付を受けるユニット | 権利確定と株式交付の関係を契約で確認する |
| ストックオプション(SO) | 定められた価格で株式を取得する権利 | 権利付与と権利行使による株式取得を区別する |
RSUの権利確定と交付はRSUの税金と円換算例、権利行使益と税制適格要件はストックオプションの税金で扱います。本記事はRSの制限解除に範囲を絞ります。
解除日の評価額を確認する
死亡前に制限解除された上場の特定譲渡制限付株式は、解除日の最終価格(当日にない場合は直前の最も近い日のもの)で評価し、同一区分の価格が複数市場にあれば最高値を使います。交付通知の発行価格を、そのまま解除時の給与計算に使うわけではありません。
承継株式や非上場株式の価額は、この設例では計算しません。区分別の評価方法は所得税基本通達23~35共-5の4を確認します。本記事の国内上場株式の設例から、非上場株価を推定しません。
退職・死亡と無償取得は別に確認する
退職したという事実だけでは、給与課税・退職課税・無償取得のどれになるかは決まりません。特定譲渡制限付株式の契約条件と、実際に制限が解除された理由を確認します。
次は特定譲渡制限付株式等について、所得税基本通達23~35共-5の2・5の3にある主な例外・別区分です。交付法人が外国法人の場合も同様の所得区分ですが、国外勤務・非居住者・租税条約の課税範囲は本記事では判定しません。
| 条件 | 所得区分・計上時点等 |
|---|---|
| 雇用関係等で交付され、退職に基因して制限解除 | 退職所得。単に在職中の給与収入へ加算する表とは分ける |
| 解除前に死亡し、その時に会社が無償取得しないことが確定している株式 | 死亡日を収入計上・評価の基準日とし、故人の収入金額にする。取得価額も死亡日の価額 |
| 会社が無償取得する株式 | その株式について課税しない。死亡した株式が全部この扱いになるわけではない |
| 個人の営む業務に関連した交付 | 事業所得又は雑所得。従業員の給与計算表の対象外 |
| 雇用関係等・個人業務のどちらによる交付でもない | 基本通達では原則として雑所得とする区分。契約等の個別確認が必要 |
解除前の無償取得と、解除後に値下がりして売ることは異なります。前者は会社に取得される株式の課税の話で、後者は本人が保有する株式の譲渡損益の話です。
解除通知から給与・売却明細へつなぐ確認表
経理では、解除通知が給与計算へ届いたかを先に照合します。次の表は、本人と会社が数字を突き合わせるための実務上の確認表です。すべてが法定の提出書類という意味ではありません。
| 確認する資料 | 突き合わせる欄 | 混同を防ぐ点 |
|---|---|---|
| 割当契約・交付通知 | 対象銘柄、交付株数、譲渡制限期間、解除条件、無償取得事由 | 株式交付と解除を同日と決めつけない |
| 解除・無償取得の通知 | 解除日、解除株数、無償取得株数、解除理由、評価額 | 解除分と会社が取得する分を分ける |
| 給与明細・源泉徴収票 | RS分を給与収入へ含めたか、評価額、源泉税の徴収状況 | 会社が計上した分を本人が重ねて加算しない |
| 取得費の記録・売却明細 | 同銘柄の他の取得、単価調整、売却株数、売却金額、手数料 | 給与の税額と株式の取得費を混同しない |
給与の源泉徴収と年末調整で扱った範囲、本人が申告で扱う範囲は、支払者と処理の実態で確認します。源泉徴収額がないことだけで、課税されないとは判断できません。
源泉徴収義務のない者から給与等を受ける人は、所得税の確定申告が必要な類型です(申告すると還付になる人を除く)。ほかの申告要件も含む一覧は国税庁「給与所得者で確定申告が必要な人」で確認できます。
外国法人が交付する株式、国外勤務、外貨建ての評価、外国税額控除、配当、会社側の会計・損金算入は、この設例の計算対象外です。支払者・契約・居住区分が異なる場合は、資料をそろえて税務署・税理士に確認する範囲です。
まとめ
RSは株式の交付、譲渡制限の解除、解除後の売却を分けて記録します。経理では解除通知と給与への算入額を照合し、本人は売却計算の取得費と結び付けると、同じ報酬の二重算入や計上漏れを確認できます。
よくある質問
RSとRSUは同じですか?
異なります。RSは譲渡制限のある株式を先に交付し、株式決済のRSUは条件達成後に株式を交付する仕組みです。RSUのユニット付与と、RSの株式交付を区別して契約を読みます。
売っていないRSにも給与の課税がありますか?
売却していなくても、勤務対価の特定譲渡制限付株式が在職中の勤務条件達成で解除されれば、解除日の価額を給与収入に算入します。退職に基因する解除や解除前死亡、会社の無償取得は、本文の例外・別区分に分けて確認します。
現金を払っていないRSの取得費はゼロですか?
本記事の在職中に解除される特定譲渡制限付株式の設例では、解除日の価額が取得費の基礎です。同銘柄の他の取得・保有や単価調整がなく全株売却する場合の説明で、給与として徴収された税額を取得費にするのではありません。
退職したら全部が無償取得になりますか?
契約と退職時の条件によります。会社が無償取得する特定譲渡制限付株式については課税しませんが、雇用関係等で交付された株式が退職に基因して制限解除された場合は退職所得です。退職という事実だけでは処理を決められません。
関連記事・ツール
出典
確認基準日:2026年10月28日。金額は令和8年分の架空の設例です。
- e-Gov法令検索「所得税法施行令」84条:特定譲渡制限付株式の条件と評価時点。
- e-Gov法令検索「所得税法施行令」109条:特定譲渡制限付株式等の取得価額。
- 国税庁「所得税基本通達」23~35共-5の2〜5の4:所得区分、収入計上時期、無償取得、評価の別区分。
- 国税庁「租税特別措置法関係通達」37の10・37の11共-9:解除時の取得価額の評価。
- 国税庁「譲渡した株式等の取得費」:取得費、売却費用、複数取得時の計算。
- 国税庁「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」:給与と別に計算する株式譲渡の区分。
- 国税庁「所得税の税率」:所得税の速算表。
- 国税庁「給与所得者で確定申告が必要な人」:給与所得者の申告要件。
- 税務大学校「株式を利用したインセンティブ報酬の収入計上時期に関する一考察」:RS・RSU等の制度構造の区別を参照した研究論文。税務の説明は上記の法令・通達によります。
本記事は一般的な情報提供であり、個別の税務相談への回答ではありません。個別の税務・労務相談には応じられません。契約ごとの課税時期・所得区分・申告義務や税額は、税務署・税理士へご確認ください。