団信と相続税:住宅ローンの債務控除と税額差を検算
本人の死亡により団信で全額弁済され、相続人に返済負担が残らない住宅ローンは、相続税の債務控除に入れません。
団信は団体信用生命保険の略です。ここでは、貸し手が保険金を受け取り、借り手の住宅ローンへ充当する契約を対象にします。団信による弁済と返済義務の承継で、税額がどう変わるかを確かめます。
団信で弁済される場合・債務を承継する場合
相続税だけで団信加入の有利不利は判断できません。税額が低い側には返済債務が残るためです。
比較するのは、同じ財産と住宅ローンがある父の相続です。変えるのは、本人死亡時にローン全額が団信で弁済されるか、実子が返済義務を承継するかという点です。
以下は相続開始日を2026年10月28日とした架空の設例です。この設例の父は妻と死別しており、法定相続人は成人の実子1人のみです。この実子が全財産と残る債務を承継します。
| 項目 | 固定する前提 |
|---|---|
| 自宅の土地・建物 | 相続税評価額4,000万円 |
| 預金 | 4,000万円 |
| 財産額合計 | 8,000万円。自宅は父の単独所有 |
| 住宅ローン | 父の単独債務で死亡時残高2,000万円 |
| 団信で弁済する側の契約 | 契約者・保険金受取人は貸し手、被保険者は父 |
| 団信で弁済する側の支払条件 | 父の死亡が保障対象。保険金は借り手の債務全額へ充当し、実子の返済負担なし |
| 返済義務を承継する側 | 団信等による弁済・免除なし。死亡時に存在する確実な債務を実子が全額負担 |
設例には、他の相続人・養子・相続放棄・代襲相続・生前贈与・他の保険金・他の債務・葬式費用がありません。小規模宅地等の特例、税額控除・納税猶予も適用しません。財産額と残高は公表実績ではなく、計算のための仮定です。
次は上記の架空の設例の比較です。父と実子は日本国籍・国内居住です。法定相続人は成人の実子のみで、全財産と残る債務を承継します。団信側は本人死亡で全額弁済されることが確実で、返済負担はありません。承継側は死亡時の確実な債務を実子が負担します。他の加算・控除・特例はありません。金額は円単位で計算します。法定取得金額の千円未満と納付税額の百円未満の端数は生じません。
| 計算の段階 | 団信で全額弁済 | 返済義務を承継 |
|---|---|---|
| 相続財産の評価額合計 | 8,000万円 | 8,000万円 |
| 住宅ローンの債務控除 | 控除なし | 2,000万円 |
| 課税価格 | 8,000万円 | 6,000万円 |
| 基礎控除 | 3,600万円 | 3,600万円 |
| 課税遺産総額 | 4,400万円 | 2,400万円 |
| 実子の法定相続分に応ずる取得金額 | 4,400万円 | 2,400万円 |
| 相続税の総額 | 680万円 | 310万円 |
| 実子の納付税額 | 680万円 | 310万円 |
この表は保険の選択や解約を勧めるものではありません。
基礎控除から納付税額まで検算
各人の課税価格の合計額から基礎控除を差し引き、法定相続分に応ずる取得金額に税率を当てて計算します。
上の架空の設例で、法定相続人は成人の実子のみです。実子が全財産を取得し、税額控除等はありません。以下の課税価格は団信弁済側・返済承継側の順です。税率を当てるのは基礎控除差引後の法定相続分に応ずる取得金額で、端数は生じません。根拠は国税庁の相続税の計算と相続税の速算表です。
| 段階 | 計算式 |
|---|---|
| 基礎控除 | 3,000万円+600万円×1人=3,600万円 |
| 団信弁済側の法定取得金額 | 8,000万円-3,600万円=4,400万円 |
| 承継側の法定取得金額 | 6,000万円-3,600万円=2,400万円 |
| 団信弁済側の税額 | 法定取得金額4,400万円×20%-200万円=680万円 |
| 承継側の税額 | 法定取得金額2,400万円×15%-50万円=310万円 |
| 税額差 | 680万円-310万円=370万円 |
この設例では、全財産を取得する実子の課税価格が全体を占めるため、税総額がその実子に割り振られます。実子への税額加算はなく、税額控除等もない前提なので、上表の税額がそのまま納付税額です。
複数の法定相続人がいるときは、今回の単独相続の式をそのまま使いません。課税遺産総額を法定相続分で分けて税総額を計算し、実際の課税価格割合で各取得者に割り振る手順が必要です。
確認する順番は、返済負担の有無 → 債務控除 → 課税価格 → 税額です。自宅の価額から団信の保険金を差し引く計算ではありません。
保険金・自宅・借入金を分ける
団信の保険金が貸し手へ支払われることと、自宅を相続することは別です。住宅金融支援機構の新機構団信制度では、機構が保険契約者・保険金受取人、加入者が被保険者となります。保険金は加入者の債務に充当されます。この仕組みを、上の架空契約の前提にしています。
設例の団信保険金は、貸し手が受け取り、全額が借り手の債務に充当されます。実子が受け取る現金ではないため、遺族の死亡保険金として財産額に重ねて加えません。一方、実子が相続する自宅は財産に含めます。
遺族が指定受取人となる別契約の死亡保険金は、上の団信とは分けて集計します。保険料の負担者や受取人による税目・非課税額の計算は、死亡保険金の相続税で扱います。
残高証明と弁済通知を突き合わせる
死亡日の残高証明だけで債務控除を確定しないことが確認の要点です。後日団信で弁済されることが確実な住宅ローンでも、死亡日時点の書類には残高が記載されるためです。
国税庁の誤りやすい事例・申告書第13表関係は、団信で後日返済が免除された住宅ローンを、債務の明細へ記入する誤りを取り上げています。保険金による補填が確実で相続人が支払う必要のない債務は、債務控除に入れません。
書類の確認では、次のように契約と残高と弁済結果を対応させると、住宅ローンの二重控除や保険金の二重計上を見つけやすくなります。これは整理用の確認手順で、金融機関共通の請求書類一覧ではありません。
| 確認する資料の例 | 突き合わせる内容 |
|---|---|
| 金銭消費貸借契約書・残高証明 | 誰の債務か、相続開始日の残高はいくらか |
| 団信の加入内容・被保険者のしおり | 契約者・被保険者・受取人、死亡が保障対象か、弁済対象の借入れ |
| 保険金支払・弁済の通知 | どの借入れへ充当され、相続人の負担が残るか |
| 相続税申告書の債務明細 | 相続人が負担しない団信弁済分を入れていないか |
契約内容や支払可否が分からないときは、加入しているという事実だけで全額弁済と扱わず、借入先に弁済対象と手続状況を確認します。
この設例を使わないケース
この計算表を使えるのは、本人の死亡による単独債務の全額弁済を前提とする設例です。連帯債務・ペアローン・一部弁済・生存中の疾病による弁済・支払可否が未確定の案件は対象外です。名前が同じ団信でも、誰の借入れがどこまで弁済されるかを契約ごとに確かめる必要があります。
配偶者がいる、他の子がいる、相続放棄や養子があるといった場合も、この単独相続の納付額は使えません。財産評価や小規模宅地等の特例、贈与の加算、税額控除などがある場合は、それぞれを反映した課税価格と税額を計算します。
住宅ローン控除は所得税の制度であり、ここで扱う相続税の債務控除とは別です。要件は住宅ローン控除の要件で確認します。
相続税計算機へ進む場合は、団信の弁済分と控除できる債務を整理した後の「課税価格」を使います。計算機が保険契約を判定するわけではありません。団信の弁済額や債務控除を再度引かないようにします。
相続税計算機で課税価格から税総額を確認するよくある質問
死亡日にローン残高があれば債務控除できますか?
残高だけでは決まりません。本人死亡により団信で全額弁済されることが確実で、相続人が返済を負担しない住宅ローンは、後日の弁済でも債務控除に入れません。
団信に入っていれば自宅の相続税もかからなくなりますか?
団信の加入だけで自宅が相続税の対象外になるわけではありません。貸し手が受け取る保険金で本人のローンが弁済されても、相続した自宅は別に評価し、他の財産と合わせて課税価格を計算します。
団信の保険金は、遺族が受け取る生命保険金と同じように計算しますか?
貸し手が受取人となり全額を借り手の債務に充当する本記事の設例では、遺族が受け取る現金として計上しません。遺族が別の保険契約で受け取る死亡保険金は、団信と分けて計算します。
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出典
設例の制度確認日は2026年10月28日です。国税庁の相続税の計算などは令和8年4月1日現在法令等の説明を参照しています。財産額・残高・家族構成は架空の仮定です。
- 国税庁「誤りやすい事例・申告書第13表関係」:後日団信で返済が免除された住宅ローンの扱い。
- 国税庁「相続財産から控除できる債務」:死亡時の確実な債務と負担者の範囲。
- 国税庁「相続税の計算」:課税価格、基礎控除、税総額と納付税額の手順。
- 国税庁「相続税の税率」:法定相続分に応ずる取得金額に当てる速算表。
- e-Gov法令検索「相続税法」第13条〜第16条:債務控除・基礎控除・相続税の総額。
- 住宅金融支援機構「新機構団体信用生命保険制度」:契約者・受取人・被保険者と保険金の充当先。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・税理士にご確認ください。個別の税務・労務相談には応じられません。