相続税の障害者控除:年齢の端数・過去の控除・扶養義務者の税額を検算
相続税の障害者控除は、要件を満たす障害者本人の相続税額から差し引く制度です。本人から引き切れない額は、同じ被相続人から財産を取得した扶養義務者の相続税額から控除します。
年齢で計算した控除枠と、実際に税額から引ける額は分けて確認します。過去の相続でも適用していれば、本人だけでなく扶養義務者が使った控除額も今回の限度に関わります。
以下は2026年11月1日確認の一般解説です。預貯金の取得条件をそろえた設例で、初回と過去の使用がある場合を比べます。
控除枠と実際の控除の早見表
相続税の障害者控除の計算です。対象者は次節の要件を満たす人に限ります。相続税の一般障害者・特別障害者とも満85歳までの残年数は1年未満の端数を切り上げます。過去の適用がある場合は枠が制限されることがあり、実際の控除は本人・扶養義務者の各相続税額が限度です。
| 確認する額 | 計算・取扱い |
|---|---|
| 一般障害者の年齢による枠 | 10万円 × 満85歳までの残年数 |
| 特別障害者の年齢による枠 | 20万円 × 満85歳までの残年数 |
| 本人が引く額 | 適用できる控除枠と、本人の控除前税額の少ない方 |
| 本人から引き切れない額 | 同じ被相続人から財産を取得した扶養義務者の相続税額から控除 |
残年数を切り上げるのであり、生年月日そのものを変えるわけではありません。過去に使った額の確認は、今回の年齢から求めた枠を出した後に行います。
対象者と障害区分を確かめる
相続や遺贈で財産を取得した時点の状態で確かめます。所得税の障害者控除を受けていたことだけで、相続税でも対象になるとは判断できません。
相続税の障害者控除は、相続や遺贈で財産を取得し、次の要件を満たす人が対象です。一時居住者で、被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人のときは対象外です。根拠は国税庁「障害者の税額控除」です。
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 住所 | 財産取得時に日本国内に住所がある |
| 年齢・障害 | 財産取得時に85歳未満の障害者である |
| 相続人の資格 | 法定相続人である。相続放棄があれば、放棄がなかったものとして判定 |
国際相続の用語・区分は国税庁「相続人が外国に居住しているとき」で確認します。法定相続人でない人が遺贈を受けても、この控除の対象にはなりません。
障害区分の確認例として、精神障害者保健福祉手帳と身体障害者手帳では、特別障害者になる等級の範囲が異なります。常時就床を要し複雑な介護を要する人の類型では、市町村長等の認定も要件です。
ここで挙げたものは対象の例です。戦傷病者、厚生労働大臣の認定を受けた被爆者なども含む対象範囲と一般・特別の区分は、国税庁「障害者の税額控除の対象となる人の範囲」で確認できます。要介護認定だけを根拠に区分を決めないようにします。
相続開始時に手帳が交付されていない場合
相続開始時に精神障害者保健福祉手帳・身体障害者手帳・戦傷病者手帳が未交付でも、申告書提出時に交付済みか申請中で、所定資料から相続開始時に手帳記載相当の障害が明らかな場合は対象として扱います。根拠は相続税法基本通達19の4-3です。
設例の入力と控除前税額
比較するのは、初めて控除を使う場合と、過去に使ったことがある場合です。今回取得する預貯金と分け方は同じにし、相続税全体の計算と障害者控除の計算を切り分けます。
次は2026年中に開始した架空の相続の設例です。設例の相続人は成人の実子2人だけで、預貯金のみを等分します。被相続人に配偶者はおらず、他の財産、債務、葬式費用、加算する贈与、相続時精算課税の財産はありません。以下の設例では障害者控除以外の税額控除を適用しません。
| 設例の入力 | 内容 |
|---|---|
| 相続する預貯金の総額 | 8,000万円 |
| 各人の取得額 | 4,000万円ずつ |
| 障害者本人 | 相続開始時60歳4か月の一般障害者。国内居住で一時居住者ではない |
| もう一方の実子 | 本人の兄弟姉妹に当たる扶養義務者。国内居住の成人で障害者ではない |
同じ設例の障害者控除前税額を求めます。設例は成人の実子2人が預貯金を等分し、他の財産・債務・葬式費用・加算贈与・相続時精算課税財産・他の税額控除はない前提です。法定相続分に応ずる取得金額の千円未満切捨てによる端数は、この設例では生じません。
| 設例の計算段階 | 式と結果 |
|---|---|
| 基礎控除 | 3,000万円 + 600万円 × 2人 = 4,200万円 |
| 課税遺産総額 | 8,000万円 − 4,200万円 = 3,800万円 |
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 3,800万円 ÷ 2人 = 1,900万円 |
| 相続税の総額 | (1,900万円 × 15% − 50万円)× 2人 = 470万円 |
| 本人・扶養義務者の各控除前税額 | 470万円 × 4,000万円 ÷ 8,000万円 = 各235万円 |
相続した金額へ直接税率を掛ける計算ではありません。計算順序は国税庁「相続税の計算」、使う税率は「相続税の税率」で確認できます。
相続税計算機で全体の計算を確認するリンク先の計算機は障害者控除を反映しません。この先の控除計算とは分けて使います。
初回と過去適用ありの比較表
年齢による枠を出した後、過去適用による限度を確認し、本人の税額から先に差し引きます。
以下は前節の預貯金相続の設例です。この設例の本人は相続開始時60歳4か月の一般障害者で国内居住・一時居住者ではなく、同じ相続の扶養義務者は兄弟姉妹1人です。設例の控除前税額は両者とも235万円、他の税額控除はありません。設例Aは初回相続での適用、設例Bはちょうど10年前の50歳4か月で一般障害者として初めて適用し、本人100万円・扶養義務者200万円を使用後、ほかの適用がない場合です。年齢による枠と実際に引く額を分け、各人の税額を限度とします。
| 設例の段階 | A:初回適用 | B:過去に適用あり |
|---|---|---|
| 今回の満85歳までの残年数 | 24年8か月 → 端数切上げ25年 | 同じ |
| 今回の年齢による枠 | 25年 × 10万円 = 250万円 | 同じ |
| 過去適用による制限後の枠 | 250万円 | 50万円(過去の使用は次の表) |
| 本人が実際に引く額 | 235万円 | 50万円 |
| 本人から引き切れない額 | 15万円 | 0円 |
| 扶養義務者が実際に引く額 | 15万円 | 0円 |
| 本人の控除後税額 | 0円 | 185万円 |
| 扶養義務者の控除後税額 | 220万円 | 235万円 |
| 両者の控除後税額の合計 | 220万円 | 420万円 |
過去の控除枠からの差引きで済むとは限らない
旧単価の適用歴がなく一般障害者のまま再適用する場合、今回の年齢による枠に、過去の各相続から次の相続までの期間に応じた額を加え、本人・扶養義務者の既控除合計を引いた残額も限度になります。今回の年齢による枠自体も超えられません。
相続間の各期間も端数を切り上げるため、初回枠から既控除合計を引くだけの計算と一致しない場合があります。この設例Bは相続間がちょうどの年数なので、初回枠から差し引く計算と一致する例です。
一般障害者から特別障害者への変更などがある場合は別計算です。旧単価の適用がある場合や複数回適用した場合も、この表だけで限度額を決めず、過去の申告書をそろえて確認します。
過去の制限は相続税法19条の4第3項が準用する19条の3第3項、障害区分が変わったときの計算は相続税法施行令4条の4第4項に定めがあります。
扶養義務者へ回すときの確認
本人から引き切れない額を控除する先は、同じ被相続人から財産を取得した扶養義務者の相続税額です。別の相続の税額や所得税から差し引く制度ではありません。
相続税でいう扶養義務者には、配偶者、直系血族、兄弟姉妹などが含まれます。所得税の扶養控除の対象者になっているかどうかとは区別します。
控除できる扶養義務者が複数いる場合は、その全員が協議して配分額を定め、各人がその金額を記載した申告書を提出したときは、その配分によります。それ以外は、法定の計算順序で求めた各人の相続税額に応じて按分します。
按分の基になる税額は、配偶者の税額軽減・未成年者控除などを適用した後、障害者控除を適用する前の額です。取得財産の額でそのまま按分するわけではありません。
各人から引けるのは各人の相続税額までで、引き切れない控除枠が現金で給付されるわけではありません。根拠は相続税法施行令4条の4第3項で準用する4条の3です。
申告前にそろえる資料
過去の申告書は、本人の控除額と扶養義務者に回した額を両方確認できるものを用意します。「以前も障害者控除を使った」という記憶だけでは、今回の残額を計算できません。
| 確認する資料 | 見るところ |
|---|---|
| 生年月日・相続開始日の記録 | 満年齢と残年数。月単位で概算せず実際の日付で確認 |
| 手帳・認定書・所定の診断書等 | 相続開始時の障害の状態と一般・特別の区分 |
| 今回の財産取得・税額の計算書 | 本人と、控除を受ける扶養義務者の取得内容・控除前税額 |
| 過去の申告書と控除計算書 | 初回の年齢・区分・計算枠、本人と扶養義務者の既控除額 |
障害者控除の計算に用いるのは、相続税申告書の第6表「未成年者控除額・障害者控除額の計算書」です。様式は申告書の提出年ではなく、被相続人が亡くなった年分に対応するものを選びます。
本人の控除後税額だけで、相続全体の申告要否までは決まりません。他の相続人の税額や、申告が必要となる特例の利用も含めて確認します。申告・納付の一般的な案内は国税庁「相続税の申告と納税」にあります。
よくある質問
障害者本人から引き切れない分は家族なら使えますか?
家族であることだけでは決まりません。同じ被相続人から相続や遺贈で財産を取得した扶養義務者が、その相続税額を限度に控除します。控除できる人が複数いるときは、全員の協議と申告書への記載による配分、または法定の税額按分で決めます。
過去の相続で使った分は本人の控除額だけを確認すればよいですか?
扶養義務者が使った分も確認します。一般障害者のままでも、過去の相続から次の相続までの各期間の端数を切り上げて限度額を求めるため、初回枠から既控除合計を引くだけでは足りない場合があります。今回の年齢による枠も限度になり、障害区分が変わった場合は別計算です。
相続放棄をしたら障害者控除は使えませんか?
放棄したことだけで対象外にはなりません。放棄がなかったものとした場合の法定相続人で判定します。ただし、相続や遺贈で財産を取得し、住所・年齢・障害の要件も満たす必要があり、何も取得していない人に控除枠だけが生じる制度ではありません。
出典
- 国税庁 No.4167「障害者の税額控除」・同「障害者の税額控除の対象となる人の範囲」
- 国税庁 No.4138「相続人が外国に居住しているとき」
- 国税庁 No.4152「相続税の計算」・No.4155「相続税の税率」
- e-Gov法令検索「相続税法」19条の4・19条の3、「相続税法施行令」4条の4・4条の3
- 国税庁「相続税法基本通達」19の4-3〜19の4-5
- 国税庁「相続税の申告書等の様式一覧(令和8年分用)」・No.4205「相続税の申告と納税」
この記事は一般的な情報提供であり、個別の税務相談への回答ではありません。個別の税務・労務相談には応じられません。実際の適用可否や税額、申告要否は税理士または所轄の税務署にご確認ください。