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手形とは? 1つ欠ければ無効、裏書しても債務は消えない — でんさいとの違いまで

先に結論
  • 約束手形は手形法75条が定める7つの記載事項でできています。1つでも欠ければ効力がなく、救済されるのは満期・支払地・振出地の3つだけ振出日には救済がありません
  • 手形を渡しても、渡した側の債務は消えません。割引しても裏書譲渡しても、不渡りになれば手形法43条の遡求を受けます(=偶発債務)。
  • 不渡りが取引停止処分につながると、税務では債権額の50%を貸倒引当金に繰り入れる入口になります(法人税法施行令96条1項3号)。ただし使えるのは資本金1億円以下の普通法人などに限られます。
  • でんさい(電子記録債権)は紙ではなく「記録」で生まれます(電子記録債権法15条)。だから分割できて(43条)、印紙が要りません

手形は「もう使っていない」と思われがちですが、経理の現場ではまだ受け取ります。そして受け取ったとき困るのは、仕訳そのものより「これはいつ現金になるのか」「途中で渡してしまって大丈夫か」「不渡りになったら今期の損にできるのか」という3点です。どれも会計基準ではなく、手形法と法人税法の条文で決まっています。

この記事は、約束手形の作りを条文で確認したうえで、受取手形・支払手形の仕訳、割引と裏書譲渡で何が残るのか、不渡りが税務でどう扱われるのか、そしてでんさい(電子記録債権)とは法律の作りがどう違うのかまでを通しで見ます。印紙税の金額収入印紙の判定貸倒引当金の計算そのもの貸倒引当金とは支払期日の法規制中小受託取引適正化法に譲ります。

約束手形は7項目でできている — 救済されるのは3つだけ

約束手形に何を書くかは、手形法75条が定めています。いまだにカタカナ文語体のままです。

約束手形ニハ左ノ事項ヲ記載スベシ

続けて7つが並びます。順番に、手形であることを示す文字(手形文句)、一定の金額を支払うという単純な約束、満期、支払地、受取人、振出日と振出地、振出人の署名です。

約束手形 ① 手形文句(この語が無いと手形にならない) 支払金額 ¥1,200,000 ※ ② 一定の金額を支払う旨の単純な約束 満期(支払期日) 令和8年11月30日 ③ 記載が無ければ「一覧払」とみなす(76条2項) 支払地 東京都千代田区 ④ 振出地から補える(76条3項) 受取人 株式会社◯◯ 殿 ⑤ 救済なし 振出日・振出地 令和8年8月31日/東京 ⑥ 地は補えるが「日」は補えない 振出人 株式会社△△ 代表取締役 印 ⑦ 救済なし
手形法75条の7項目。③満期・④支払地と⑥のうち「地」は、欠けても76条2項〜4項が補います。①②⑤⑦と、⑥のうち「日」は、欠けると約束手形としての効力がありません(76条1項)。※金額は説明のための例です。

ここからが実務で効きます。76条1項は1つでも欠ければ効力がないと言い切り、そのうえで例外を置いています。

前条ニ掲グル事項ノ何レカヲ欠ク証券ハ約束手形タル効力ヲ有セズ但シ次ノ数項ニ規定スル場合ハ此ノ限ニ在ラズ

「次ノ数項」が救済規定で、3つあります。

満期ノ記載ナキ約束手形ハ之ヲ一覧払ノモノト看做ス
振出地ハ特別ノ表示ナキ限リ之ヲ支払地ニシテ且振出人ノ住所地タルモノト看做ス
振出地ノ記載ナキ約束手形ハ振出人ノ名称ニ附記シタル地ニ於テ之ヲ振出シタルモノト看做ス
救済されるのは満期・支払地・振出地の3つ。「振出日」は入っていない 75条6号は「手形ヲ振出ス日及地ノ表示」と、日と地をまとめて1項目にしています。ところが76条の救済は地についてしか置かれていません。つまり振出日が空欄の手形は、条文どおりに読めば無効です。実務では日付欄が空のまま回ることがありますが、それは次の「白地手形」の話であって、無効の例外ではありません。

白地手形は、手形法10条(77条2項により約束手形に準用)が前提にしています。

未完成ニテ振出シタル為替手形ニ予メ為シタル合意ト異ル補充ヲ為シタル場合ニ於テハ其ノ違反ハ之ヲ以テ所持人ニ対抗スルコトヲ得ズ

条文が想定しているのは「後で補充されること」であって、空欄のままでよいとは書いていません。受け取った手形の振出日が空欄なら、取り立てに回す前に補充してもらうのが安全です。

受取手形・支払手形の仕訳 — 振出から決済まで

仕訳そのものは素直です。売掛金・買掛金が手形に置き換わり、期日に預金で決済されます。

場面借方貸方
受取:売掛金の回収として手形を受け取った受取手形 1,200,000売掛金 1,200,000
受取:期日に当座へ入金された当座預金 1,200,000受取手形 1,200,000
支払:買掛金の支払として手形を振り出した買掛金 1,200,000支払手形 1,200,000
支払:期日に当座から引き落とされた支払手形 1,200,000当座預金 1,200,000

注意したいのは売上の計上時期とは関係がないことです。手形を受け取った時点で売上が立つのではなく、売上はすでに立っていて、その債権の形が売掛金から受取手形に変わっただけです。逆に、手形を振り出しても仕入や経費の計上が後ろにずれることはありません

そして支払う側にとって重要なのは、手形を渡したことは、法律上「支払った」ことにならないという点です。取引先が中小企業であれば、令和8年1月に下請法から改称された中小受託取引適正化法5条1項2号が、手形の交付を「支払期日の経過後なお支払わないこと」に含めています。詳しくは中小受託取引適正化法の記事で扱っています。

割引・裏書譲渡では債務が消えない — 遡求義務

受け取った手形は、期日を待たずに銀行で割り引いたり、仕入先への支払いに裏書譲渡したりできます。仕訳は次のとおりです。

場面借方貸方
割引:銀行で割り引いて入金された(割引料15,000)当座預金 1,185,000
手形売却損 15,000
受取手形 1,200,000
裏書:仕入先への買掛金の支払に充てた買掛金 1,200,000受取手形 1,200,000

ここで帳簿からは受取手形が消えます。しかし責任は消えていません。手形法43条1項(77条1項4号により約束手形に準用)はこう定めます。

満期ニ於テ支払ナキトキハ所持人ハ裏書人、振出人其ノ他ノ債務者ニ対シ其ノ遡求権ヲ行フコトヲ得

裏書をした人は「裏書人」ですから、振出人が払わなければ、裏書した自分に請求が来ます。割引も銀行への裏書譲渡なので同じです。つまり割引・裏書をした手形の金額は、条件付きで戻ってくる可能性のある債務=偶発債務として残ります。

帳簿から消えた金額こそ、期末に把握しておく 受取手形の残高だけを見ていると、割引・裏書した分の遡求リスクはどの科目にも現れません。期末には「割引手形」「裏書譲渡手形」の未決済残高を別途集計しておきます。金額が大きい会社では、注記や対照勘定で管理します。

なお、手形の所持人には一部払いを断る権利がありません。手形法39条2項(77条1項3号により準用)は「所持人ハ一部支払ヲ拒ムコトヲ得ズ」と定めています。通常の売掛金なら一部弁済を受け取る義務はありませんが、手形では逆になります。

紙の手形には印紙が要ります。金額から必要な収入印紙を判定する

不渡りと取引停止処分 — 税務では50%引当の入口

期日に決済されないことを不渡りと呼びます。会計上はまず、受取手形から振り替えて実態を見えるようにします。

場面借方貸方
不渡りになった(償還請求費用3,000を立替)不渡手形 1,203,000受取手形 1,200,000
現金 3,000
裏書譲渡した手形が不渡りになり、遡求を受けて支払った不渡手形 1,200,000当座預金 1,200,000

税務で問題になるのは「いつ損金にできるか」です。不渡りになっただけでは、まだ貸倒れではありません。ただし、不渡りが続いて取引停止処分を受けると、税務上の扱いが一段進みます。

法人税法施行令96条1項3号は、対象となる事由が生じている場合に引き当てられる金額を「百分の五十に相当する金額」と定め、その事由の一つを財務省令に委ねています。受けているのが法人税法施行規則25条の3です。

令第九十六条第一項第三号ホ(貸倒引当金勘定への繰入限度額)に規定する財務省令で定める事由は、次に掲げる事由とする。
手形交換所(手形交換所のない地域にあつては、当該地域において手形交換業務を行う銀行団を含む。)による取引停止処分

つまり取引停止処分は、更生手続開始の申立てなどと並ぶ「50%引当の入口」です。しかもこの条文には第2号があり、でんさい側も同じ扱いになることが明記されています。

電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)第二条第二項(定義)に規定する電子債権記録機関(次に掲げる要件を満たすものに限る。)による取引停止処分
誰でも使えるわけではない — 資本金1億円以下などの法人に限られる 貸倒引当金の損金算入は法人税法52条1項が定めており、対象は資本金・出資金1億円以下の普通法人(大通算法人などを除く)、公益法人等・協同組合等・人格のない社団等、銀行・保険会社などに限られます。大法人はこの規定を使えません。繰入限度額の計算そのものは貸倒引当金とはで扱っています。

取引停止処分そのものは法律ではなく電子交換所が自らの規則に基づいて行う処分です。回数などの要件は手形法にも法人税法にも書かれていません。税法の側は「処分があったこと」を要件にしているだけなので、処分の事実を証する書類の保存が必要になります(法人税法施行令96条2項は、書類の保存がないときはその事実は生じていないものとみなすと定めています)。

受取手形 1,200,000 期日に決済 責任は残らない 銀行で割引 遡求義務が残る(43条) 裏書譲渡 遡求義務が残る(43条) 不渡り 不渡手形へ振替。取引停止 処分まで進めば50%引当へ
受け取った手形がたどる道。割引・裏書は帳簿から受取手形を消しますが、遡求義務は残ります。

でんさいは「記録」で生まれる — 作りがそもそも違う

でんさい(電子記録債権)は「紙の手形を電子化したもの」と説明されがちですが、条文の作りは手形とまったく違います。手形は証券という物に権利がくっついていますが、電子記録債権は記録そのものから生まれます。電子記録債権法15条です。

電子記録債権(保証記録に係るもの及び電子記録保証をした者(以下「電子記録保証人」という。)が第三十五条第一項(同条第二項及び第三項において準用する場合を含む。)の規定により取得する電子記録債権(以下「特別求償権」という。)を除く。次条において同じ。)は、発生記録をすることによって生ずる。

「発生記録をすることによって生ずる」。手形が「7項目を書いた紙を交付する」ことで生まれるのに対し、でんさいは記録機関の帳簿に記録された瞬間に生まれます。譲渡も同じ考え方です。

電子記録債権の譲渡は、譲渡記録をしなければ、その効力を生じない。

だから裏書欄が足りなくなることも、紛失することもありません。手形法16条が「裏書ノ連続」で権利者を判定していたのに対し、でんさいは記録を見れば済みます。

記録すべき事項は電子記録債権法16条1項が8つ定めています。金額を支払う旨、支払期日、債権者の氏名・住所、債権者が複数のときの扱い、債務者の氏名・住所、債務者が複数のときの扱い、記録番号、電子記録の年月日です。手形の7項目とほぼ同じ役割を果たしていることが分かります。

約束手形でんさい(電子記録債権)
根拠法手形法(昭和7年法律第20号)電子記録債権法(平成19年法律第102号)
権利が生まれる時7項目を記載した証券を交付したとき(75条)発生記録をしたとき(15条)
譲渡の方法裏書(77条1項1号・11条以下)譲渡記録(17条)
分割できないできる(43条)
紛失・盗難あり得る(善意取得の問題が生じる)現物が無い
印紙税3号文書として課税(10万円未満は非課税)不要(課税されるのは文書)
不渡り/支払不能と税務手形交換所の取引停止処分(規則25条の3第1号)電子債権記録機関の取引停止処分(同第2号)

でんさいだけができること — 分割と、印紙が不要なこと

実務でいちばん効く差は分割です。電子記録債権法43条1項が正面から認めています。

電子記録債権は、分割(債権者又は債務者として記録されている者が二人以上ある場合において、特定の債権者又は債務者について分離をすることを含む。)をすることができる。

120万円のでんさいを受け取ったとして、そのうち50万円だけを仕入先へ譲渡し、残り70万円を期日まで持つ、という使い方ができます。紙の手形ではできません。手形は証券に権利が乗っているので、券面を割ることができないからです。前述のとおり手形法39条2項が一部払いの拒絶を禁じているのも、裏を返せば手形が金額を分けられない前提で作られていることの現れです。

もう一つが印紙です。印紙税は紙の文書に対して課される税なので、記録として存在するでんさいには課されません。約束手形は印紙税法別表第一の第3号文書で、手形金額に応じた印紙が必要です(10万円未満は非課税)。金額の判定は収入印紙の判定ツールで確認できます。

「でんさいだから何もしなくていい」ではない でんさいでも支払期日に決済されなければ支払不能となり、記録機関の処分の対象になります。上で見たとおり、法人税法施行規則25条の3第2号は電子債権記録機関の取引停止処分を手形交換所のそれと並べています。電子化しても、払えない相手が払えるようになるわけではありません。

手形交換所は107か所から、電子交換所1つになった

最後に、手形の周辺で起きた制度の入れ替わりを条文で確認します。手形の呈示は手形交換所で行えば足りる、というのが手形法38条2項(77条1項3号により約束手形に準用)です。

手形交換所ニ於ケル為替手形ノ呈示ハ支払ノ為ノ呈示タル効力ヲ有ス

その手形交換所を誰が決めるのかは、手形法83条が定めています。

第三十八条第二項(第七十七条第一項ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)ノ手形交換所ハ法務大臣之ヲ指定ス

この指定は、長らく昭和8年司法省令第38号が担っていました。条文は一行です。

手形法第八十三条及小切手法第六十九条ノ規定ニ依リ別表ノ手形交換所ヲ指定ス

その別表には、東京手形交換所・大阪手形交換所から那覇手形交換所まで107の手形交換所が名称と所在地つきで並んでいました(表の行数を機械的に数えた実測値です)。この省令は令和4年法務省令第39号によって全部改正されます。

手形法(昭和七年法律第二十号)第八十三条及び小切手法(昭和八年法律第五十七号)第六十九条の規定に基づき、昭和八年司法省令第三十八号の全部を改正する省令を次のように定める。

改正後の本文は、たった一文です。

手形法(昭和七年法律第二十号)第八十三条及び小切手法(昭和八年法律第五十七号)第六十九条の規定により指定する手形交換所は、電子交換所(一般社団法人全国銀行協会が設置するもの)とする。

施行は令和4年11月4日。89年続いた省令と107か所の交換所が、1か所に置き換わりました。

この省令の題名にあるとおり、指定の根拠は手形法83条だけではなく小切手法69条でもあります。手形と小切手は同じ交換所で決済される一方、条文の作りはかなり違います——小切手は一覧払いで満期が無く、引受もできず、受取人の記載すら必要的記載事項に入っていません。呈示期間10日の意味や、線引を消しても消えたことにならない理由は小切手とはで条文から整理しています。

だから法人税法施行規則25条の3第1号は、いまも生きている 先に見た条文は「手形交換所による取引停止処分」と書いており、「電子交換所」とは書いていません。ではこの号は空振りしているのかというと、そうではありません。電子交換所は、手形法83条の指定を受けた「手形交換所」そのものだからです。条文の言葉が古いまま残っているように見えても、指定の連鎖をたどれば同じものを指しています。

よくある質問

Q. 手形を振り出したら、支払いは終わったことになりますか?

A. 会計上は買掛金が支払手形に振り替わるだけで、現金は出ていません。取引先が中小企業の場合、中小受託取引適正化法5条1項2号は手形の交付を「支払期日の経過後なお支払わないこと」に含めており、法律の評価としても代金を支払ったことになりません。実際に支払いが完了するのは、期日に当座預金から引き落とされた時点です。

Q. 受け取った手形を銀行で割り引いたら、その時点で債権は消えますか?

A. 帳簿からは受取手形が消えますが、責任は残ります。手形法43条1項は、満期に支払がないとき所持人は裏書人・振出人その他の債務者に遡求できると定めており、割引は銀行への裏書譲渡なので、振出人が支払わなければ割り引いた側に請求が来ます。割引手形・裏書譲渡手形の未決済残高は、偶発債務として別に把握しておくのが安全です。

Q. 不渡りになったら、その場で貸倒損失にできますか?

A. 不渡りになっただけでは貸倒れではありません。まず受取手形から不渡手形へ振り替えて実態を見えるようにし、その後の状況に応じて判断します。取引停止処分まで進んだ場合は、法人税法施行令96条1項3号により債権額の50%を貸倒引当金に繰り入れる道があります。ただし対象は資本金1億円以下の普通法人などに限られ、事実を証する書類の保存も必要です。

Q. でんさいと手形は、どちらが有利ですか?

A. 一般に、でんさいは分割できる点と印紙が不要な点で有利です。電子記録債権法43条1項が分割を認めているため、受け取った債権の一部だけを譲渡して残りは期日まで持つことができます。印紙税は紙の文書に課される税なので、記録として存在するでんさいには課されません。一方で、支払期日に決済されなければ処分の対象になる点は手形と変わりません。

Q. 手形の代金はいつまで請求できますか?

A. 約束手形の振出人に対する請求権は、満期の日から3年で時効にかかります。手形法78条1項が約束手形の振出人は為替手形の引受人と同一の義務を負うと定め、77条1項8号によって時効の規定である70条が準用されるためです。裏書人に対する請求権はこれより短く、所持人からは1年です。

Q. 手形の一部だけ支払うと言われたら、断れますか?

A. 断れません。手形法39条2項は「所持人ハ一部支払ヲ拒ムコトヲ得ズ」と定めており、77条1項3号により約束手形にも準用されます。通常の売掛金であれば一部弁済を受け取る義務はありませんが、手形では逆になります。一部支払を受けた場合は、その旨の手形上の記載と受取証書の交付を請求できます。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・税理士にご確認ください。

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