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小切手とは — 残高がなくても有効。先日付でも呈示した日に支払われ、10日を過ぎても紙くずにはならない

結論から言うと、小切手は「銀行に残高があること」を成立の条件にしていません。小切手法3条は、資金のある銀行に宛てて振り出すべきだと定めたうえで、ただし書で「此ノ規定ニ従ハザルトキト雖モ証券ノ小切手タル効力ヲ妨ゲズ」と続けます。残高不足で不渡りになった小切手も、証券としては有効なままです。無効になるのではなく、振り出した人が払う義務を負い続けるだけです。

実務で最も多い誤解は、この点を含めて3つあります。①先日付小切手は、書いた日まで取り立てられない——違います。小切手法28条2項は、振出日付より前に呈示された小切手は呈示された日に支払うと定めています。②有効期限10日を過ぎたら紙くずになる——違います。32条2項により、振出人が支払委託を取り消していなければ、支払人は期間経過後でも支払えます。③線引は消せば普通の小切手になる——違います。37条5項は抹消は「之ヲ為サザルモノト看做ス」、つまり消したこと自体を無かったことにします。

小切手法は昭和8年の法律で、いまも片仮名の文語体のままです。読みにくいので実務は銀行の説明に頼りがちですが、上の3つはどれも条文を1行読めば決着します。この記事では、券面の6項目から、線引・支払保証・自己宛小切手、印紙税、仕訳、そして電子交換所への一本化までを、条文と国税庁の通達で整理します。約束手形との違いにも随時触れます。

券面に必ず書く6項目 — 受取人は入っていない

小切手法1条は、記載すべき事項を6つ挙げています。

小切手ニハ左ノ事項ヲ記載スベシ

続く各号が、①小切手であることを示す文字(小切手文句)、②一定の金額を支払うべき旨の単純な委託、③支払人の名称、④支払地の表示、⑤振出の日および地の表示、⑥振出人の署名です。ここで実務上いちばん意外なのは、「受取人」が6項目に入っていないことです。約束手形では受取人が必要的記載事項ですが、小切手では違います。5条3項が理由を示します。

受取人ノ記載ナキ小切手ハ之ヲ持参人払式小切手ト看做ス

受取人欄が空欄の小切手は、無効ではなく持参人払式になります。持参した人に払う小切手です。だからこそ、拾った人でも銀行に持ち込めてしまう——後述する線引が使われる理由がここにあります。

二条の平行線=線引(37条2項) ① 小切手 ③ 支払人(○○銀行○○支店) 金額 ¥1,320,000※ ② 一定の金額を支払うべき単純な委託 上記の金額をこの小切手と引替えに 持参人へお支払いください 受取人欄は必須ではない(5条3項) ④ 支払地 東京都中央区 ⑤ 振出日 令和8年8月28日/振出地 東京都 ⑥ 振出人 ㊞ ①〜⑥は小切手法1条各号。欠けると2条1項で小切手たる効力を有しないが、支払地・振出地は2条2項〜4項で補われる
小切手法1条の必要的記載事項6つ。受取人は入っていない。

6項目のどれかを欠くとどうなるか。2条1項が答えます。

前条ニ掲グル事項ノ何レカヲ欠ク証券ハ小切手タル効力ヲ有セズ但シ次ノ数項ニ規定スル場合ハ此ノ限ニ在ラズ

救済されるのは支払地と振出地の2つだけです。支払人の名称に地名が付いていればそこが支払地とみなされ(2条2項)、それも無ければ振出地で支払う(同3項)、振出地の記載が無ければ振出人の名称に付記した地で振り出したとみなす(同4項)。逆に言えば、金額・振出日・振出人の署名は補われません。ここを空欄にした小切手は、そのままでは小切手として無効です。

ただし「白地小切手」の慣行は条文に根拠がある金額や振出日を空欄で渡し、後から相手に補充してもらう振出し方があります。13条は「未完成ニテ振出シタル小切手」に予め合意したのと異なる補充がされた場合、その違反を所持人に対抗できない(所持人が悪意・重過失なら別)と定めています。つまり法は白地の存在を前提にしていますが、合意と違う金額を書かれても、善意の第三者には文句が言えないという危険とセットです。金額欄を空けて渡す実務は、ここを理解したうえで行うものです。

残高がなくても小切手は有効 — 不渡りは「無効」ではない

小切手を振り出すには、支払人である銀行に当座預金があり、資金があることが前提です。3条がそう定めています。

小切手ハ其ノ呈示ノ時ニ於テ振出人ノ処分シ得ル資金アル銀行ニ宛テ且振出人ヲシテ資金ヲ小切手ニ依リ処分スルコトヲ得シムル明示又ハ黙示ノ契約ニ従ヒ之ヲ振出スベキモノトス但シ此ノ規定ニ従ハザルトキト雖モ証券ノ小切手タル効力ヲ妨ゲズ

前段が原則、ただし書がすべてです。資金が無いのに振り出しても、小切手としての効力は妨げられません。銀行が支払いを拒めば不渡りになりますが、そのとき所持人は12条を根拠に振出人へ請求できます。

振出人ハ支払ヲ担保ス振出人ガ之ヲ担保セザル旨ノ一切ノ文言ハ之ヲ記載セザルモノト看做ス

「支払を担保しない」と書いても、書かなかったことにされます。振出人が支払責任から逃げる方法は、条文上ありません。

では、資金が無いのに振り出した振出人は何を負うのか。小切手法の附則71条が定めています。

小切手ノ振出人ガ第三条ノ規定ニ違反シタルトキハ五千円以下ノ過料ニ処ス

過料5,000円以下です。刑罰ではなく行政上の秩序罰で、前科にもなりません。「不渡りを出すと罪になる」という説明を聞くことがありますが、小切手法が用意しているのはこの過料だけです。実務で恐れられているのは条文の制裁ではなく、電子交換所の不渡処分——6か月以内に2回の不渡りで取引停止処分となり、銀行との当座勘定取引と貸出取引が2年間できなくなる仕組みのほうです。取引停止処分は、税務上も貸倒引当金の設定事由として法人税法施行規則に名前が出てきます。

もうひとつ、実務で効く条文が33条です。

振出ノ後振出人ガ死亡シ意思能力ヲ喪失シ又ハ行為能力ノ制限ヲ受クルモ小切手ノ効力ニ影響ヲ及ボスコトナシ

振り出した社長が亡くなっても、その小切手は有効なままです。代表者の死亡は支払拒絶の理由になりません

先日付小切手は、書いた日を待たずに支払われる

資金繰りの調整として、実際の振出日より後の日付を書いた先日付小切手が使われることがあります。「9月10日と書いてあるから、それまでは取り立てられない」と考えるのは誤りです。28条を読みます。

小切手ハ一覧払ノモノトス之ニ反スル一切ノ記載ハ之ヲ為サザルモノト看做ス
振出ノ日附トシテ記載シタル日ヨリ前ニ支払ノ為呈示シタル小切手ハ呈示ノ日ニ於テ之ヲ支払フベキモノトス

1項が小切手は一覧払い(持ち込まれたら払う)であると宣言し、これに反する記載を無効にします。2項は、それでも先日付が書かれた場合の処理を定め、呈示された日に支払うとしています。つまり先日付は、法律上は「お願い」にすぎません。

設例8月25日に、振出日付を9月10日と書いた小切手を取引先に渡した。取引先が8月26日に自分の取引銀行へ持ち込むと、28条2項により8月26日に支払われます。当座預金の残高が8月26日時点で足りなければ、そのまま不渡りです。「9月10日までに入金すればよい」という前提は、条文上どこにも支えられていません。先日付で払いたいのであれば、小切手ではなく支払期日を要素とする約束手形か、支払サイトを定めた振込みが本来の道具です。

あわせて、支払人が一部だけ払うと言ってきた場合の扱いも押さえておきます。34条2項は「所持人ハ一部支払ヲ拒ムコトヲ得ズ」と定めており、受け取る側は一部支払いを断れません。残額は遡求または振出人への請求で回収することになります。

「有効期限10日」は権利が消える日ではない

小切手には有効期限がある、と説明されます。根拠は29条1項です。

国内ニ於テ振出シ且支払フベキ小切手ハ十日内ニ支払ノ為之ヲ呈示スルコトヲ要ス

この10日を呈示期間といいます。数え方は2つの条文で決まります。61条が「本法ニ規定スル期間ニハ其ノ初日ヲ算入セズ」(初日不算入)、29条4項が「本条ニ掲グル期間ノ起算日ハ小切手ニ振出ノ日附トシテ記載シタル日トス」。起算日は実際に振り出した日ではなく、券面に書いた振出日付です。

末日が銀行の休みに当たったときは、60条2項が伸ばします。同項は期間の末日が法定の休日に当たる場合は満了に次ぐ第一の取引日まで伸長するとし、あわせて「期間中ノ休日ハ之ヲ期間ニ算入ス」としています。つまり途中の土日祝は10日に数え、末日だけ翌営業日にずれるという作りです。

券面の振出日付起算呈示期間の末日
令和8年8月3日(月)初日不算入で8月4日から8月13日(木)
令和8年8月28日(金)初日不算入で8月29日から9月7日(月)

問題はこの先です。10日を過ぎたら小切手は無効になるのか。32条が答えます。

小切手ノ支払委託ノ取消ハ呈示期間経過後ニ於テノミ其ノ効力ヲ生ズ
支払委託ノ取消ナキトキハ支払人ハ期間経過後ト雖モ支払ヲ為スコトヲ得

1項は、振出人が「払わないでくれ」と銀行に言っても、呈示期間中はその取消しが効かないことを意味します。2項は逆で、取消しが無ければ期間が過ぎても銀行は払える。つまり呈示期間は「銀行が必ず払う期間」であって、権利そのものの期限ではありません。実務でも、期間経過後に持ち込まれた小切手が支払われることは珍しくありません。

では権利はいつ消えるか。51条1項です。

所持人ノ裏書人、振出人其ノ他ノ債務者ニ対スル遡求権ハ呈示期間経過後六月ヲ以テ時効ニ罹ル

呈示期間の経過から6か月で遡求権が時効にかかります。8月28日振出(末日9月7日)なら、翌年3月7日ごろが目安です。支払督促内容証明で動くなら、この6か月が実質的な持ち時間になります。

そしてここが最後の砦です。時効で小切手上の権利が消えても、附則72条が別の請求権を残しています。

小切手ヨリ生ジタル権利ガ手続ノ欠缺又ハ時効ニ因リテ消滅シタルトキト雖モ所持人ハ振出人、裏書人又ハ支払保証ヲ為シタル支払人ニ対シ其ノ受ケタル利益ノ限度ニ於テ償還ノ請求ヲ為スコトヲ得

利得償還請求権と呼ばれるものです。呈示期間を過ぎ、6か月の時効も過ぎた小切手でも、振出人が現に利益を受けている限度で償還を請求できます。「期限切れの小切手=紙くず」は、この条文の存在を知らない説明です。なお、この条文は本則ではなく附則に置かれています。小切手法は本則が62条までで、63条以下が附則です。条番号だけを見て本則の規定だと思い込むと、条文集の該当ページにたどり着けません。

呈示期間 10日(29条1項) 経過後6か月(51条1項) 振出日付 期間満了 遡求権が時効 その後 銀行は必ず支払う 取消が無ければ支払える 利得償還請求権 (32条2項) (附則72条) 振出人が支払委託を取り消せるのは、呈示期間が過ぎた後だけ(32条1項) 初日は算入しない(61条)。末日が法定の休日なら次の取引日まで伸長し、期間中の休日は算入する(60条2項)
呈示期間10日は「銀行が必ず払う期間」であって、権利が消える日ではない。

線引 — 消しても、消したことにならない

受取人欄が空欄でも持参人払式として通用してしまう以上、盗難・紛失への備えが要ります。それが線引小切手です。37条が方式を定めます。

線引ハ小切手ノ表面ニ二条ノ平行線ヲ引キテ之ヲ為スベシ線引ハ一般又ハ特定タルコトヲ得

二本の平行線を表面に引くだけです。線の中に何も書かないか「銀行」と書けば一般線引、銀行名を書けば特定線引になります(37条3項)。効力は38条です。

一般線引小切手ハ支払人ニ於テ銀行ニ対シ又ハ支払人ノ取引先ニ対シテノミ之ヲ支払フコトヲ得

一般線引小切手は、銀行か、支払人(=その銀行)の取引先にしか支払えません。窓口で現金化できる相手が絞られるので、拾った第三者がそのまま換金することが難しくなります。取引先とは口座を持っている顧客のことなので、実務上は自分の口座に入金して取り立てる形になります。

ここで実務が間違えやすいのが、線引の消し方です。

一般線引ハ之ヲ特定線引ニ変更スルコトヲ得ルモ特定線引ハ之ヲ一般線引ニ変更スルコトヲ得ズ
線引又ハ被指定銀行ノ名称ノ抹消ハ之ヲ為サザルモノト看做ス

変更は一般→特定の一方通行で、逆はできません。そして線を二重線で消して訂正印を押しても、「抹消は無かったこと」にされます。線引小切手は線引小切手のままです。実務で「線引を消してもらえば窓口で現金にできる」と言われることがありますが、条文上そうはなりません。現金で受け取れる形にしたいなら、振出人が最初から線引をしない小切手を振り出すか、いわゆる裏判(振出人が裏面に署名して持参人に支払ってよいと示す銀行との特約上の運用)によることになります。

違反した場合の責任も明記されています。

前四項ノ規定ヲ遵守セザル支払人又ハ銀行ハ之ガ為ニ生ジタル損害ニ付小切手ノ金額ニ達スル迄賠償ノ責ニ任ズ

賠償の上限が小切手の金額と定められています。線引に反して支払った銀行が、実損の範囲でその額まで責任を負う仕組みです。

引受はできない。だから支払保証と自己宛小切手がある

手形には「引受」があります。支払人が支払義務を引き受ける手続きです。小切手にはありません。4条が正面から禁じています。

小切手ハ引受ヲ為スコトヲ得ズ小切手ニ為シタル引受ノ記載ハ之ヲ為サザルモノト看做ス

銀行が「この小切手は必ず払います」と引き受けることはできない、ということです。では受け取る側はどうやって安全を確保するのか。用意されているのが支払保証(53条)と自己宛小切手(6条3項)です。

支払人ハ小切手ニ支払保証ヲ為スコトヲ得

支払保証は、支払人である銀行が券面に「支払保証」と表示し、日付を付けて署名するものです(53条2項)。ただし守備範囲は狭く、55条1項が限定します。

支払保証ヲ為シタル支払人ハ呈示期間ノ経過前ニ小切手ノ呈示アリタル場合ニ於テノミ其ノ支払ヲ為ス義務ヲ負フ

呈示期間内に持ち込んだ場合にしか義務を負いません。10日を過ぎると、保証があっても支払義務は消えます。ここは32条2項(取消しが無ければ期間経過後も支払える)とは別の話なので、混同しないようにします。

そして実務でよく使われるのが自己宛小切手です。根拠は6条3項です。

小切手ハ振出人ノ自己宛ニテ之ヲ振出スコトヲ得

振出人と支払人が同一の小切手を認める規定で、これを銀行が使うと預金小切手(預手・プリカ)になります。銀行が自分を支払人として振り出すので、資金は銀行の中にあり、事実上不渡りになりません。不動産の決済など、確実な支払いが要る場面で使われます。受け取る側の目線では、「銀行名が振出人にも支払人にも入っているか」を見るのが見分け方です。

比較小切手約束手形
支払時期一覧払い(28条1項)券面の満期
引受できない(4条)為替手形では可能
受取人の記載不要(5条3項で持参人払式)必要的記載事項
呈示の期限振出日付から10日(29条1項)満期の日および以後2取引日内
印紙不要(課税物件表に無い)200円〜(別表第一第3号)

印紙が要るのは小切手ではなく、受け取った側の領収書

小切手を振り出すときに収入印紙は要りません。理由を「非課税だから」と説明されることがありますが、正確には違います。印紙税法の課税物件表に小切手という文書が存在しないのです。

これは実測できます。e-Gov 法令API v2 で印紙税法の全文(別表第一の課税物件表を含む75,219字)を取得し、機械で走査すると、「小切手」という語は1回も出てきません。一方で「約束手形」は4回出てきます。別表第一第3号が約束手形又は為替手形を課税文書とし、手形金額100万円以下200円から段階的に税額を定めているためです。手形には印紙が要り、小切手には要らないという差は、この一覧に載っているかどうかから来ています。

ただし受け取った側は別小切手で代金を受け取り、領収書を書けば、その領収書は第17号文書「金銭又は有価証券の受取書」です。国税庁の印紙税法基本通達 別表第一 第17号文書の18が、小切手を名指しで挙げています。
小切手等の有価証券を受け取る場合の受取書で、受取に係る金額の記載があるものについては当該金額を、また、第17号の2文書に該当する有価証券の受取書で、受取に係る金額の記載がなく当該有価証券の券面金額の記載があるものについては当該金額を、それぞれ記載金額として取り扱う。
記載金額は受取に係る金額です。売上代金の受取書なら5万円未満は非課税、5万円以上100万円以下で200円、100万円超200万円以下で400円と続きます。収入印紙はいくらで文書区分ごとの税額を確認できます。

つまり1枚の小切手をめぐって、振り出す側に印紙は不要、受け取って領収書を出す側に印紙が必要という非対称が生じます。132万円の小切手を受け取って領収書を出すなら、記載金額132万円の売上代金の受取書として400円の印紙を貼ることになります。領収書の書き方印紙の割印もあわせて確認しておくと、貼り忘れと消印漏れを防げます。

収入印紙はいくら — 文書区分と金額から税額を出す

仕訳 — 「他人振出は現金」は条文ではなく簿記の慣行

簿記では、他人が振り出した小切手を受け取ったら「現金」勘定で処理すると教わります。銀行にすぐ持ち込めば通貨と同じように使えるので、通貨代用証券として現金に含めるという考え方です。

この扱いの根拠を探すと、意外な場所に行き着きます。上場企業などが従う財務諸表等規則の全文(173,686字)を機械で走査しても、「小切手」という語は1回も出てきません。小切手法にも会計処理の規定はありません。それでも、列挙している法令が1本だけあります——厚生労働省令「社会医療法人債を発行する社会医療法人の財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」の別表1です。「現金及び預金」の摘要に、次のように並んでいます。

現金、他人振出当座小切手、送金小切手、郵便振替小切手、送金為替手形、預金手形(預金小切手)、郵便為替証書、郵便振替貯金払出証書、期限到来公社債利札、官庁支払命令書等の現金と同じ性質をもつ貨幣代用物及び小口現金など

ここで見ておきたいのは、列挙されているのが「他人振出」当座小切手だと明記されていることです。自己振出小切手はこの列挙に入っていません。簿記が「他人振出は現金、自己振出は当座預金」と教える区別は、この摘要の書き方と一致しています。

ただし、この省令は一般の会社には適用されない上の別表1は社会医療法人債を発行する社会医療法人の財務諸表について定めたものです。株式会社の会計処理を直接拘束するものではありません。つまり一般の会社にとって「他人振出小切手=現金」は、法令の命令ではなく簿記の慣行であり、上の省令はその慣行が行政の側でも同じ内容で書かれていることの傍証にとどまります。社内の会計方針に書くときは、条文を根拠に掲げるのではなく自社の処理として定めるのが正確です。小口現金でも、この別表1の同じ列挙を扱っています。
場面借方貸方
売掛金を他人振出小切手で回収現金 1,320,000売掛金 1,320,000
その小切手を銀行へ預け入れ当座預金 1,320,000現金 1,320,000
買掛金を自己振出小切手で支払買掛金 1,320,000当座預金 1,320,000
自分が振り出した小切手が戻ってきた当座預金 1,320,000売掛金 1,320,000

3行目が要点です。自己振出小切手は「現金」ではなく「当座預金」の減少で処理します。振り出した時点ではまだ銀行から資金は出ていませんが、支払いの委託が済んでいるので当座預金を減らしておく、という考え方です。4行目は、自分が過去に振り出した小切手が回りまわって自分の手元に戻ってきた場合で、当座預金の減少を取り消す形になります。

なお、当座預金は残高を超えて振り出すと当座借越になります。当座借越契約があれば銀行が立て替えますが、決算では短期借入金として負債に振り替えるのが一般的な処理です。当座預金の残高が貸方に立ったまま「現金及び預金」に含めると、資産と負債を相殺したことになります。貸借対照表の見方で流動負債の並びを確認できます。

手形交換所は107か所から電子交換所ひとつになった

小切手は、受け取った側が自分の取引銀行に持ち込み、銀行間で決済されます。その決済の場が手形交換所です。誰が交換所になるかは、小切手法69条と手形法83条により法務大臣が指定します。現在の指定は令和4年法務省令第39号です。

手形法(昭和七年法律第二十号)第八十三条及び小切手法(昭和八年法律第五十七号)第六十九条の規定により指定する手形交換所は、電子交換所(一般社団法人全国銀行協会が設置するもの)とする。

この省令は昭和8年司法省令第38号の全部改正で、令和4年11月4日に施行されました。それまでは全国107か所の手形交換所が指定されており、実物の証券を持ち寄って交換していました。いまは券面のイメージデータをやり取りする電子交換所ひとつです。持ち込む側の実務は変わりませんが、券面が汚れていたり記載がかすれていたりするとイメージが読めず差し戻されるため、記載の鮮明さが以前より重要になっています。経緯の詳細は約束手形で扱っています。

小切手法は当分動かないe-Gov 法令API v2 の law_revisions で小切手法の全リビジョンを列挙すると、返ってくるのは3件だけで、最新は令和2年4月1日施行版(民法改正に伴い52条が「時効ノ完成猶予又ハ更新」に改められたもの)です。未施行のリビジョンは1件もありません。将来改正されないという意味ではなく、公表済みのリビジョンの範囲では条文が動いていないということです。この記事の条文引用は、その令和2年4月1日施行版によります。

よくある質問

Q. 受け取った小切手はどこで換金できますか?

A. 線引が無い小切手であれば支払人として書かれている銀行の窓口で現金化でき、線引がある場合は自分が口座を持っている銀行に持ち込んで取り立てる形になります。小切手法38条1項は、一般線引小切手について支払人は銀行に対してか支払人の取引先に対してのみ支払うことができると定めているためです。取立てに出した場合、口座に入金されるのは持ち込んだ当日ではなく、電子交換所を通じた決済が済んでからになります。金額の大きい小切手や、振出人と面識のない小切手では、取立てに出して着金を確認してから商品を引き渡す運用が安全とされています。

Q. 有効期限の10日を過ぎた小切手は、もう使えませんか?

A. すぐに無効になるわけではありません。小切手法32条2項は、支払委託の取消がないときは支払人は期間経過後でも支払をすることができると定めています。実務でも期間経過後の小切手が支払われることはあります。ただし銀行に支払義務がある期間は過ぎていますので、支払われない可能性は高くなります。振出人に事情を伝えて振り出し直してもらうか、同法51条1項の6か月の時効が来る前に請求する方が確実です。時効が完成した後でも、附則72条の利得償還請求権が残る場合があります。

Q. 先日付小切手を渡しました。その日まで取り立てないよう言えますか?

A. 相手にお願いすることはできますが、法律上の効力はありません。小切手法28条1項は小切手は一覧払のものであり、これに反する一切の記載はしなかったものとみなすと定め、同条2項は振出の日付として記載した日より前に呈示された小切手は呈示の日に支払うと定めています。したがって相手が早く持ち込めば、その日に支払われます。当座預金の残高が足りなければ不渡りになりますので、資金繰りの調整に先日付小切手を使う場合は、この点を理解したうえで行うことになります。

Q. 線引を消してもらえば、窓口で現金にできますか?

A. できません。小切手法37条5項は、線引または被指定銀行の名称の抹消はしなかったものとみなすと定めています。二重線を引いて訂正印を押しても、線引小切手のままです。また同条4項により一般線引を特定線引に変更することはできますが、特定線引を一般線引に変更することはできません。現金で受け取れる形にしたい場合は、振出人に線引のない小切手を振り出し直してもらうか、振出人が裏面に署名する運用を銀行に確認することになります。

Q. 残高が足りないまま小切手を振り出すと、罪になりますか?

A. 小切手法が定めている制裁は、附則71条の5,000円以下の過料です。これは刑罰ではなく行政上の秩序罰で、前科にはなりません。ただし実務上の影響は別で、電子交換所の不渡処分の対象となり、6か月以内に2回の不渡りを出すと取引停止処分を受け、当座勘定取引と貸出取引が2年間できなくなります。また、支払う意思も能力もないのに小切手を渡して商品を受け取った場合には、小切手法とは別に刑法上の詐欺の問題になりえます。

Q. 小切手に収入印紙は必要ですか?

A. 小切手そのものには不要です。印紙税法別表第一の課税物件表に小切手という文書が挙げられていないためで、法令の全文を機械で走査しても「小切手」という語は1回も出てきません。一方、約束手形と為替手形は別表第一第3号の課税文書ですので、手形金額に応じた印紙が必要です。なお、小切手で代金を受け取った側が作成する領収書は第17号文書の金銭又は有価証券の受取書に該当します。印紙税法基本通達 別表第一 第17号文書の18が小切手等の有価証券を受け取る場合の受取書の記載金額の扱いを定めています。

Q. 他人振出小切手は現金と預金のどちらで処理しますか?

A. 簿記の慣行では、他人が振り出した小切手は通貨代用証券として現金勘定で処理し、銀行に預け入れた時点で当座預金へ振り替えます。自分が振り出した小切手は現金ではなく当座預金の減少として処理します。上場企業などが従う財務諸表等規則の全文を走査しても小切手という語は出てきませんが、厚生労働省令である社会医療法人債を発行する社会医療法人の財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の別表1が、現金及び預金の摘要に他人振出当座小切手や預金手形を貨幣代用物として列挙しています。この省令は一般の会社を拘束するものではありませんので、社内の会計方針に書く場合は条文を根拠に掲げるのではなく自社の処理として定める形になります。

Q. 小切手を振り出した後に代表者が亡くなりました。支払は止まりますか?

A. 止まりません。小切手法33条は、振出の後に振出人が死亡し、意思能力を喪失し、または行為能力の制限を受けても小切手の効力に影響を及ぼさないと定めています。したがって支払人である銀行は、その事情を理由に支払を拒むことはできません。相続が発生した場合、振り出された小切手による支払は被相続人の債務の弁済として処理されることになりますので、相続財産の把握にあたっては未決済の小切手の有無を確認しておくことになります。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法律相談ではありません。小切手が有効かどうか、線引の効力、不渡り後の回収方法は、券面の記載と事実関係によって結論が変わります。実際の判断については弁護士に、印紙税の具体的な取扱いについては所轄の税務署に、口座の取扱いについては取引銀行にご確認ください。

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