通勤災害とは — 業務災害との違いは給付の名前だけではない。待期3日・解雇制限・200円の一部負担金
通勤災害は、通勤労災とも呼ばれます。労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」)7条1項3号が「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」と定義しており、同項1号の業務災害とは別の類型として並べられているのが出発点です。同じ労災保険から給付が出るので実務では一括りに「労災」と呼ばれますが、条文上は最初から別の箱に入っています。
そして、業務災害との違いを「給付の名前から補償の2文字が落ちるだけ」と説明している解説をよく見ます。名称が変わるのは事実ですが、それは違いの一部です。実務で金額と雇用に効いてくるのは、休業した最初の3日間に事業主の休業補償義務がないことと、労働基準法19条の解雇制限が及ばないことの2つで、どちらも条文の文言が「業務上」と書いてあることから来ています。
もうひとつ、検索でよく尋ねられる200円の一部負担金についても、条文を読むと通説の説明とずれます。200円は病院の窓口で払うものではなく、あとで支払われる休業給付から差し引かれるものです。そして休業給付を受けない人からは徴収されません。この記事では、通勤の定義と寄り道の扱いを条文で確定させたうえで、業務災害との違いを3つに分けて整理します。
通勤災害の「通勤」は3つの移動に限られる
労災保険法7条2項が定義しています。「前項第三号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする」。まず押さえたいのは、この一文に絞り込みが3つ入っていることです。移動の型に当てはまるだけでは足りず、就業との関連性があり、経路と方法が合理的で、かつ業務の性質を持たないことが求められます。
そのうえで、対象となる移動は次の3類型です。
| 号 | 移動の型 | 条文の限定 |
|---|---|---|
| 1号 | 住居と就業の場所との間の往復 | いわゆる通常の通勤。往路・復路の両方 |
| 2号 | 就業の場所から他の就業の場所への移動 | 厚生労働省令で定める就業の場所からのものに限る(施行規則6条) |
| 3号 | 1号の往復に先行し、または後続する住居間の移動 | 厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る(施行規則7条) |
3号は単身赴任を想定した規定です。施行規則7条は、転任に伴って住居を移転した労働者が、配偶者の介護・就学中の子の養育・配偶者の就業継続・住宅の管理といった事情で別居することになった場合などを、号ごとに細かく列挙しています。赴任先と帰省先を行き来する移動が通勤に含まれるのは、この要件に当てはまるときだけです。単身赴任であれば常に対象になる、という書き方は条文の構造と合いません。
2号は複数の事業所で働く場合の事業所間の移動です。この移動中の災害は、後から見る給付の名称のうえでも通勤災害として扱われます。日雇いや副業を含めて働き方が分かれてきたことに合わせて、通勤の範囲が住居と職場の往復だけではなくなっている、という理解になります。
寄り道(逸脱・中断)— 原則は「その後も通勤に戻らない」
ここが、通勤災害でいちばん誤解されている論点です。労災保険法7条3項の本文はこう書かれています。
労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第一項第三号の通勤としない。
読みどころは「及びその後」の4文字です。原則は、寄り道をしている間だけが通勤から外れるのではなく、寄り道以降の帰り道が最後まで通勤ではなくなるという扱いです。「寄り道した部分だけが対象外で、経路に戻ればまた通勤」という直感的な理解は、原則としては条文と逆になっています。
これを戻すのが、同項のただし書です。
ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。
ここでも読みどころは限定の言葉です。ただし書が救うのは「間を除き」であって、寄り道をしている最中まで通勤になるわけではありません。つまり条文は、寄り道の性質によって次の2つを切り替えています。
なお、条文は「逸脱」と「中断」を分けて書いていますが、効果は同じです。経路を外れるのが逸脱、経路上にとどまったまま移動をやめるのが中断という整理になります。どちらも本文の対象で、どちらもただし書で救われ得ます。
例外になる5つの行為と、3つの条件
ただし書が言う「厚生労働省令で定めるもの」は、労災保険法施行規則8条が5つ列挙しています。この条文は短く、追加もされていないので、そのまま読むのが早いです。
| 号 | 日常生活上必要な行為(施行規則8条) |
|---|---|
| 1号 | 日用品の購入その他これに準ずる行為 |
| 2号 | 職業訓練、学校教育法1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって、職業能力の開発向上に資するものを受ける行為 |
| 3号 | 選挙権の行使その他これに準ずる行為 |
| 4号 | 病院または診療所において診察または治療を受けることその他これに準ずる行為 |
| 5号 | 要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹ならびに配偶者の父母の介護(継続的にまたは反復して行われるものに限る) |
5号には限定が2つ入っています。ひとつは「継続的に又は反復して行われるものに限る」で、たまたま一度だけ様子を見に行くという行為はこの号の書き方には乗りません。もうひとつは親族の範囲で、条文が挙げているのは配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹と、配偶者の父母までです。配偶者の祖父母や配偶者の兄弟姉妹は列挙に入っていません。2号も同様に「職業能力の開発向上に資するもの」という限定があるので、趣味の講座は書きぶりから外れます。
そして見落としやすいのが、ただし書の要件は行為の種類だけではないことです。条文は3つを重ねて要求しています。
① 施行規則8条が列挙する行為であること ②「やむを得ない事由により」行うためであること ③「最小限度のもの」であること
3つのうちどれかが欠ければ、ただし書は働きません。ただし書が働かなければ本文の原則に戻り、その後の移動も通勤ではなくなります。日用品を買ったかどうかだけでは決まらない、というのが条文の構造です。なお条文は「最小限度」の具体的な時間や距離を書いていません。ここは個別の事案ごとの判断になるため、迷う場合は所轄の労働基準監督署に確認するのが確実です。
違い① 給付の名前から「補償」が消える
業務災害の給付は労災保険法12条の8第1項、通勤災害の給付は21条が定めています。並べると次のようになります。
| 業務災害(法12条の8第1項) | 通勤災害(法21条) |
|---|---|
| 療養補償給付 | 療養給付 |
| 休業補償給付 | 休業給付 |
| 障害補償給付 | 障害給付 |
| 遺族補償給付 | 遺族給付 |
| 葬祭料 | 葬祭給付 |
| 傷病補償年金 | 傷病年金 |
| 介護補償給付 | 介護給付 |
7つ中6つは「補償」が落ちるだけですが、葬祭だけは語そのものが変わります。業務災害は「葬祭料」、通勤災害は「葬祭給付」です。「補償を消せばよい」と機械的に置き換えると、葬祭料から補償を消しても通勤災害の給付名にはたどり着きません。書類の名称を取り違えると別の給付の請求になるため、実務では確認しておきたい1点です。
名称が分かれているのは、様式の都合ではありません。労災保険法12条の8第2項は、業務災害の保険給付を「労働基準法第七十五条から第七十七条まで、第七十九条及び第八十条に規定する災害補償の事由……が生じた場合に」行うと定めています。つまり業務災害の給付は、労働基準法が使用者に負わせた災害補償責任に対応しており、労働基準法84条1項がその範囲で使用者を補償責任から解放する、という組み立てです。通勤災害の給付にはこの対応関係がありません。「補償」の2文字が落ちているのは、肩代わりすべき使用者の補償責任がそこにないから、と読めます。次に見る2つの違いは、すべてここから派生します。
違い② 最初の3日間が無給になり得る
休業給付の支給開始日は、業務災害と同じです。労災保険法22条の2第2項が14条を準用し、「業務上の」を「通勤による」と読み替えているためで、14条1項の「賃金を受けない日の第四日目から支給するものとし、その額は、一日につき給付基礎日額の百分の六十に相当する額とする」がそのまま働きます。待期3日間は労災保険から出ない、という点は共通です。
分かれるのは、その3日間を誰が埋めるかです。業務災害であれば労働基準法76条1項が「労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない」と定めています。ところが、この「前条」である75条は「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合」を対象としています。
通勤による負傷は労働基準法75条の「業務上」に当たらないため、76条1項の休業補償義務が発生しません。結果として、通勤災害で休んだ最初の3日間は無給になり得ます。年次有給休暇を充てることも、就業規則で独自の補償を設けることもできますが、それは会社の判断であって労働基準法が求めているものではありません。給与計算の担当としては、労災だから最初の3日も会社が60%を払う、という処理を通勤災害にそのまま流さないことが実務上の要点になります。なお、この60%の水準そのものについては休業手当(労働基準法26条)とも混同されやすいので、あわせて整理しておくと安全です。
4日目以降の額は、業務災害・通勤災害のいずれも給付基礎日額の60%です(このほか特別支給金の制度が別にありますが、労災保険法本体の給付とは根拠が分かれます)。休業した日の所得補償という観点では、健康保険の傷病手当金と役割が近く、どちらを使うのかを取り違えないことが大切です。金額の感覚をつかむには、傷病手当金の側から計算してみるのが分かりやすいと思います。
傷病手当金 計算機 — 標準報酬月額から支給日額と支給総額を計算する違い③ 解雇制限(労基法19条)が及ばない
労働基準法19条1項は「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない」と定めています。ここでも限定は「業務上」です。
通勤災害は労災保険法7条1項3号の類型であって、同項1号の業務災害ではありません。したがって、通勤災害で療養のため休業している期間について、労働基準法19条の解雇制限は働きません。給付の面では労災保険が業務災害とほぼ同等に手当てしているのに、雇用の保護という面では扱いが分かれる — ここが通勤災害のいちばん大きな特徴です。
ただし、19条が適用されないことは解雇が有効になることを意味しません。解雇権濫用法理をはじめ、別の規律は残ります。ここは条文の適用範囲の話に限った整理です。
200円の一部負担金は窓口で払うものではない
通勤災害に固有の負担として「200円」が挙げられます。金額そのものは条文にあります。労災保険法31条2項が「政府は、療養給付を受ける労働者(厚生労働省令で定める者を除く。)から、二百円を超えない範囲内で厚生労働省令で定める額を一部負担金として徴収する」と定め、労災保険法施行規則44条の2第2項がその額を確定させています。
施行規則44条の2第2項:一部負担金の額は200円(健康保険法3条2項に規定する日雇特例被保険者である労働者については100円)。ただし、現に療養に要した費用の総額がこの額に満たない場合には、当該総額に相当する額とする。
問題は支払い方です。よくある説明は「初診時に窓口で200円を負担する」というものですが、条文はそう書いていません。労災保険法22条の2第3項が、療養給付を受ける労働者に支給する休業給付のうち「最初に支給すべき事由の生じた日に係るもの」の額から、この額に相当する額を減じると定めています。そして31条2項のただし書が「第二十二条の二第三項の規定により減額した休業給付の支給を受けた労働者については、この限りでない」として、重ねて徴収しないことを確認しています。つまりあとから支払われる休業給付の中で精算されるのが条文上の建て付けです。
さらに、徴収されない人が明示されています。施行規則44条の2第1項が3つ挙げています。
| 号 | 一部負担金を徴収しない者(施行規則44条の2第1項) | 実務でよくある場面 |
|---|---|---|
| 1号 | 第三者の行為によって生じた事故により療養給付を受ける者 | 相手のいる交通事故で通勤中に負傷した場合 |
| 2号 | 療養の開始後3日以内に死亡した者その他休業給付を受けない者 | 通院はしたが仕事は休まなかった場合 |
| 3号 | 同一の通勤災害に係る療養給付についてすでに一部負担金を納付した者 | 同じ災害で2回目以降の療養 |
2号の「その他休業給付を受けない者」が効きます。同条3項も「法第三十一条第三項の規定による控除は、休業給付を支給すべき場合に、当該休業給付について行う」として、控除の場面を休業給付に限定しています。条文を素直に読むかぎり、一部負担金は療養給付を受ければ必ず生じるものではなく、休業給付を受ける人に紐づいた仕組みです。通勤中にケガをして通院したが仕事は休まなかった、というケースでは2号に該当します。1号があるため、相手のいる交通事故も対象から外れます。「通勤災害なら必ず200円かかる」という説明は、この2つの号を落としています。
健康保険を使えない根拠は1条ではなく55条1項
通勤中のケガに健康保険証を使ってはいけない、という点はよく知られています。ただ、その根拠として健康保険法1条が挙げられることがあり、これは条文と合いません。1条はこう書かれています。
この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法……第七条第一項第一号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
括弧書きが名指ししているのは労災保険法7条1項1号、すなわち業務災害だけです。通勤災害は同項3号なので、1条の文言では除外されていません。実際に働いているのは健康保険法55条1項の調整規定です。
被保険者に係る療養の給付又は……傷病手当金、埋葬料……の支給は、同一の疾病、負傷又は死亡について、労働者災害補償保険法……の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない。
読みどころは「受けることができる場合」です。実際に労災保険へ請求したかどうかではなく、受けられる状態にあるかどうかで判断される書き方になっています。通勤災害は労災保険法21条により療養給付の対象なので、この調整が働き、健康保険の給付は行われません。窓口で健康保険証を使ってしまった場合に、あとから健康保険が負担した分を返す扱いになるのはこのためです。同項は傷病手当金も列挙しているので、休業給付を受けられる場面では傷病手当金も出ません。
請求書の様式番号は施行規則に書かれていない
通勤災害の請求書として様式の番号で検索されることがよくあります。ここで一度、労災保険法施行規則の条文そのものを機械で数えてみました。結果は次のとおりです。
労災保険法施行規則の全文(本則 約112,664字を含む取得テキスト全体 約225,684字)に「様式第十六号」は0回。「様式」という語自体が17回しか現れず、番号付きで登場するのは様式第一号から第六号までだけ。しかもその6つはすべて標札(指定病院等が見やすい場所に掲げる札。施行規則11条3項・11条の2第3項)であって、請求書ではありません。
理由は施行規則54条にあります。「法、この省令並びに労働者災害補償保険特別支給金支給規則の規定による申請書、請求書、証明書、報告書及び届書のうち厚生労働大臣が別に指定するもの……の様式は、厚生労働大臣が別に定めて告示するところによらなければならない」。つまり請求書の様式は省令の外、厚生労働大臣の告示で定められています。番号を省令の中で探しても見つからないのは、そもそも省令に書かれていないからです。
では省令は何を定めているかというと、請求書に書くべき事項です。通勤災害の療養給付については施行規則18条の5第1項が、業務災害用の記載事項(施行規則12条1項の6項目)に加えて、次の4つを求めています。
| 号 | 通勤災害で追加される記載事項(施行規則18条の5第1項) |
|---|---|
| 1号 | 災害の発生の時刻および場所 |
| 2号 | 災害が発生した場面の区分(イ〜ホの5類型)に応じた事項。往路・復路・事業場間の移動・住居間の移動(先行/後続)ごとに、就業開始や就業終了の年月日時、住居や就業の場所を離れた年月日時など |
| 3号 | 通常の通勤の経路および方法 |
| 4号 | 住居または就業の場所から災害の発生の場所に至った経路、方法、所要時間その他の状況 |
3号と4号が並んでいる意味は明確です。普段の経路(3号)と、その日に実際に通った経路(4号)を書き分けさせているのであって、この2つのずれこそが、前半で見た逸脱・中断の判断材料になります。用紙を前にして何を書けばよいか迷ったときは、番号よりもこの4項目を思い出すほうが早いはずです。
もうひとつ、事業主の証明の範囲が業務災害より狭い点も条文に書かれています。施行規則18条の5第2項は、1号から3号までの事項について事業主の証明を求めつつ、住居を離れた年月日時などを対象から外し、さらに1号と3号については「事業主が知り得た場合に限る」と限定しています。会社は従業員が何時に家を出たかを知りようがないので、証明を求められる範囲がそこで切られています。
よくある質問
Q. 帰りにスーパーへ寄って買い物をしたあと、家に向かう途中でケガをしました。通勤災害になりますか?
A. 条文の組み立てとしては、通勤に戻ったあとの災害として扱われる方向になります。労災保険法7条3項の本文は、経路を逸脱し、または移動を中断した場合には「当該逸脱又は中断の間及びその後」の移動を通勤としない、と定めています。原則だけを読むと、一度寄り道をした時点でその日の帰り道は最後まで通勤ではなくなります。これを戻すのがただし書で、逸脱・中断が「日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるもの」を「やむを得ない事由により行うための最小限度のもの」である場合には、「当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない」とされています。日用品の購入は労災保険法施行規則8条1号に挙げられている行為なので、この経路に乗ります。ポイントは「間を除き」という限定で、店内にいる間は通勤ではないが、経路に戻ったあとは再び通勤になる、という切り分けです。ただし条文はただし書の適用に3つの条件をすべて求めているため、行為の種類だけで自動的に決まるわけではありません。
Q. 同僚と居酒屋で飲んでから帰宅する途中の事故はどうなりますか?
A. 労災保険法施行規則8条が列挙する5つの行為に、飲食や懇親は含まれていません。同条が挙げているのは、日用品の購入その他これに準ずる行為、職業訓練や学校教育法1条の学校で行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為、選挙権の行使その他これに準ずる行為、病院または診療所において診察または治療を受けることその他これに準ずる行為、そして要介護状態にある一定の親族の介護の5つです。列挙に乗らない場合、労災保険法7条3項のただし書が働かないので、本文の原則がそのまま適用されます。原則は「当該逸脱又は中断の間及びその後」の移動を通勤としない、というものなので、店を出たあとの帰り道も通勤には戻りません。寄り道の種類によって、その後の扱いが変わるという構造です。
Q. 通勤災害でも、業務災害と同じ給付を受けられますか?
A. 給付の種類は7つで同じ数ですが、名称が変わります。労災保険法12条の8第1項が業務災害について療養補償給付・休業補償給付・障害補償給付・遺族補償給付・葬祭料・傷病補償年金・介護補償給付を挙げるのに対し、21条は通勤災害について療養給付・休業給付・障害給付・遺族給付・葬祭給付・傷病年金・介護給付を挙げています。多くは「補償」の2文字が落ちるだけですが、葬祭だけは業務災害が「葬祭料」、通勤災害が「葬祭給付」で語そのものが違います。書類上で名称を取り違えると別の給付の請求になるため、実務では確認したい点です。なお名称の違いは形式的なものではなく、業務災害の保険給付が労働基準法75条から77条まで、79条、80条に定める使用者の災害補償責任を肩代わりする建て付けである(労災保険法12条の8第2項)のに対し、通勤災害にはその対応関係がないことの表れです。
Q. 通勤災害で休んだ最初の3日間は、給与が出ますか?
A. 条文上、事業主に支払義務のある補償はありません。休業給付は労災保険法22条の2第2項が14条を準用しているため、業務災害と同じく「賃金を受けない日の第四日目から」支給されます。つまり最初の3日間は労災保険からは出ません。業務災害であればこの3日間を労働基準法76条1項の休業補償で埋め、使用者が平均賃金の60%を支払う義務を負います。ところが76条1項は「前条の規定による療養のため」と定めており、前条である75条は「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合」を対象としています。通勤による負傷はここに入らないため、使用者の休業補償義務が発生しません。結果として、通勤災害の待期3日間は無給になり得ます。有給休暇を充てるか、就業規則で独自の補償を設けているかは会社ごとの判断であって、労働基準法が求めているものではありません。
Q. 通勤災害で長期療養している間、会社は解雇できますか?
A. 労働基準法19条の解雇制限は、通勤災害には及びません。同条1項は「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間」と定めており、条文が限定しているのは業務上の負傷・疾病です。通勤災害は労災保険法7条1項3号の類型であって、同項1号の業務災害とは別に整理されているため、19条の文言には該当しません。同条が並べて保護しているもう一方は産前産後の女性が65条により休業する期間およびその後30日間で、こちらも通勤とは無関係です。給付の面では労災保険が業務災害とほぼ同等に手当てしているのに対し、雇用の保護という面では扱いがはっきり分かれている点が、通勤災害の特徴です。もっとも19条が適用されないことは、解雇が有効になることを意味しません。解雇権濫用法理など別の規律は残ります。
Q. 通勤災害では200円を病院の窓口で払うと聞きましたが本当ですか?
A. 200円という金額は条文にありますが、支払い方が違います。労災保険法31条2項が「療養給付を受ける労働者から、二百円を超えない範囲内で厚生労働省令で定める額を一部負担金として徴収する」と定め、労災保険法施行規則44条の2第2項がその額を200円(健康保険法3条2項の日雇特例被保険者である労働者は100円)としています。ただし現に療養に要した費用の総額がこの額に満たない場合は、その総額に相当する額です。徴収の方法は22条の2第3項が定めており、最初に支給すべき事由の生じた日に係る休業給付の額から、この額に相当する額を減じます。つまり窓口で現金を渡すのではなく、あとで支払われる休業給付から差し引かれる形です。31条2項ただし書は、この減額を受けた労働者からは重ねて徴収しないことも定めています。
Q. 通勤災害でも200円がかからない場合はありますか?
A. 労災保険法施行規則44条の2第1項が、一部負担金を徴収しない者を3つ挙げています。第1号は第三者の行為によって生じた事故により療養給付を受ける者、第2号は療養の開始後3日以内に死亡した者その他休業給付を受けない者、第3号は同一の通勤災害に係る療養給付についてすでに一部負担金を納付した者です。実務上効いてくるのは第1号と第2号です。第1号があるため、相手のいる交通事故で通勤中にケガをした場合は対象から外れます。第2号は「休業給付を受けない者」を含んでいるので、通院はしたが仕事は休まなかったというケースも対象外になります。同条3項も「法第三十一条第三項の規定による控除は、休業給付を支給すべき場合に、当該休業給付について行う」として、控除の場面を休業給付に限定しています。一部負担金は療養給付を受けたら必ず発生するものではなく、休業給付を受ける人に紐づいた仕組みだと読めます。
Q. 通勤中のケガに健康保険証を使ってはいけない根拠はどこにありますか?
A. 健康保険法55条1項です。健康保険法1条は目的規定で、労災保険法7条1項1号に規定する業務災害「以外」の負傷等に保険給付を行うと書いてあり、この条文の文言だけを見ると通勤災害は除外されていません。実際に働いているのは55条1項で、療養の給付、療養費、傷病手当金、埋葬料などの支給は「同一の疾病、負傷又は死亡について、労働者災害補償保険法……の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない」と定めています。注意したいのは「受けることができる場合」という書き方で、実際に労災保険へ請求したかどうかではなく、受けられる状態にあるかどうかで判断される構造になっている点です。通勤災害は労災保険法21条により療養給付の対象なので、この調整規定が働きます。窓口で健康保険証を使ってしまった場合に、あとから健康保険が負担した分を返す扱いになるのはこのためです。同項は傷病手当金も列挙しているので、休業給付を受けられる場面では傷病手当金も対象になります。
出典
- e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法」(昭和二十二年法律第五十号)第7条(第1項=保険給付の類型。第1号「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付」/第3号「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付」、第2項=「前項第三号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。」として第1号「住居と就業の場所との間の往復」/第2号「厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動」/第3号「第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)」、第3項=逸脱・中断の本文およびただし書)・第12条の8(第1項=業務災害に関する7つの保険給付、第2項=「労働基準法第七十五条から第七十七条まで、第七十九条及び第八十条に規定する災害補償の事由……が生じた場合に……行う」)・第14条第1項(「賃金を受けない日の第四日目から支給するものとし、その額は、一日につき給付基礎日額の百分の六十に相当する額とする。」)・第21条(通勤災害に関する7つの保険給付=療養給付・休業給付・障害給付・遺族給付・葬祭給付・傷病年金・介護給付)・第22条(療養給付)・第22条の2(第2項=14条および14条の2の準用と「業務上の」を「通勤による」と読み替える旨、第3項=最初に支給すべき事由の生じた日に係る休業給付からの減額)・第31条第2項(「政府は、療養給付を受ける労働者(厚生労働省令で定める者を除く。)から、二百円を超えない範囲内で厚生労働省令で定める額を一部負担金として徴収する。ただし、第二十二条の二第三項の規定により減額した休業給付の支給を受けた労働者については、この限りでない。」)・第3項(保険給付の額からの控除)。API v2の
law_data/322AC0000000050で取得 - e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法施行規則」(昭和三十年労働省令第二十二号)第6条(法7条2項2号の就業の場所)・第7条(法7条2項3号の要件。転任に伴う住居移転と、配偶者の介護・子の養育・配偶者の就業継続・住宅の管理などの別居事情を号ごとに列挙)・第8条(日常生活上必要な行為。第1号 日用品の購入その他これに準ずる行為/第2号 職業訓練、学校教育法第一条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であつて職業能力の開発向上に資するものを受ける行為/第3号 選挙権の行使その他これに準ずる行為/第4号 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為/第5号 要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。))・第12条第1項(療養補償給付たる療養の給付の請求書の記載事項6号)・第18条の5(第1項=通勤災害で追加される記載事項4号、第2項=事業主の証明の範囲と「事業主が知り得た場合に限る」の限定)・第44条の2(第1項=一部負担金を徴収しない者3号、第2項=「法第三十一条第二項の一部負担金の額は、二百円(健康保険法……第三条第二項に規定する日雇特例被保険者である労働者については、百円)とする。ただし、現に療養に要した費用の総額がこの額に満たない場合には、当該現に療養に要した費用の総額に相当する額とする。」、第3項=「法第三十一条第三項の規定による控除は、休業給付を支給すべき場合に、当該休業給付について行う。」)・第54条(「法、この省令並びに労働者災害補償保険特別支給金支給規則の規定による申請書、請求書、証明書、報告書及び届書のうち厚生労働大臣が別に指定するもの並びにこの省令の規定による年金証書の様式は、厚生労働大臣が別に定めて告示するところによらなければならない。」)。API v2の
law_data/330M50002000022で取得。様式に関する記述は、取得したテキスト全体(約225,684字。うち本則 約112,664字)に対して語を計数して確認した。「様式第十六号」は0回、「様式」は17回、番号付きで現れるのは様式第一号から第六号までの6種のみで、いずれも施行規則11条3項・11条の2第3項が定める標札である - e-Gov法令検索「労働基準法」(昭和二十二年法律第四十九号)第19条第1項(解雇制限。「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。」)・第75条(療養補償。「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合」)・第76条第1項(休業補償。「労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。」)・第84条第1項(他の法律との関係。「この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法……に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる。」)。API v2で取得
- e-Gov法令検索「健康保険法」(大正十一年法律第七十号)第1条(目的。「労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)第七条第一項第一号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い……」)・第55条第1項(他の法令による保険給付との調整。「被保険者に係る療養の給付又は入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、移送費、傷病手当金、埋葬料、家族療養費、家族訪問看護療養費、家族移送費若しくは家族埋葬料の支給は、同一の疾病、負傷又は死亡について、労働者災害補償保険法……の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない。」)。API v2の
law_data/211AC0000000070で取得。1条の括弧書きが名指ししているのが労災保険法7条1項1号(業務災害)のみであり、通勤災害(同項3号)が1条の文言では除外されていないことを条文の対照で確認した - 請求書の様式番号については、施行規則54条が厚生労働大臣の告示に委任しているため、告示に当たらないかぎり番号を条文から確認することはできない。この記事では確認できなかった番号を記載していない。実際に提出する様式は、所轄の労働基準監督署または厚生労働省が公表する様式一覧で確認していただきたい
この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する助言ではありません。通勤災害に当たるかどうかは経路・時間・行為の態様などの具体的な事情によって判断されるため、実際の請求にあたっては所轄の労働基準監督署または社会保険労務士にご確認ください。