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役員の社会保険(健康保険・厚生年金)— 雇用保険と結論が逆になる理由と、令和8年3月18日通達が明文化した「適用がない」場合

結論から言うと、法人の役員は、健康保険・厚生年金保険の被保険者になります。取締役でも代表取締役でも、法人から労務の対償として報酬を受けているなら加入します。従業員がゼロで社長ひとりの会社でも同じです。

ここで戸惑うのは、雇用保険とは結論が逆になることです。同じ「役員」なのに、雇用保険は原則として入れず、社会保険は入る。理由は条文の言葉にあります。雇用保険法4条1項が被保険者を「適用事業に雇用される労働者」と定めているのに対し、健康保険法3条1項は「適用事業所に使用される者」、厚生年金保険法9条は「適用事業所に使用される70歳未満の者」と書いています。「使用される」には雇用契約が要りません。だから、会社と委任関係にある役員でも入口を通れるのです。

そして2026年(令和8年)3月18日、厚生労働省がこの分野の通達を新たに出しました。「どういう場合に適用がないと判断されるか」を、初めて表の形で明文化したものです。社会保険料の削減を謳って個人事業主を名ばかりの役員に据える事業所が出てきたことが背景にあります。実務では「非常勤役員は入らなくてよい」と雑に扱われがちですが、判定の物差しは以前からあり、今回それが具体化されました。この記事では、条文・通達・実数の3つで整理します。

結論 — 役員は社会保険に入る。入口は「使用」であって「雇用」ではない

健康保険法3条1項は、被保険者を次のように定義しています。

この法律において「被保険者」とは、適用事業所に使用される者及び任意継続被保険者をいう。

(健康保険法3条1項)

厚生年金保険法9条はさらに短く、こう書いています。

適用事業所に使用される七十歳未満の者は、厚生年金保険の被保険者とする。

(厚生年金保険法9条)

どちらにも「雇用」「労働契約」という語はありません。そして健康保険法3条1項ただし書の各号(日雇い・2か月以内の期間雇用・所在地が一定しない事業所・季節的業務・臨時的事業・国民健康保険組合の事業所・後期高齢者医療の被保険者)にも、厚生年金保険法12条の適用除外の各号にも、「役員」は1つも出てきません。

では役員が入ることを、誰がどこで言っているのか。根拠は昭和24年7月28日 保発第74号(厚生省保険局長通知「法人の代表者又は業務執行者の被保険者資格について」)です。

法人の理事、監事、取締役、代表社員及び無限責任社員等法人の代表者又は業務執行者であつて、他面その法人の業務の一部を担任している者は、その限度において使用関係にある者として、健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取扱つて来たのであるが、今後これら法人の代表者又は業務執行者であつても、法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者の資格を取得させるよう致されたい。

(昭和24年7月28日 保発第74号)

ポイントは「法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として」という一文です。77年前の通達が、いまも判定の起点になっています。

同じ「役員」が、2つの制度で逆の結論になる 法人の取締役 (会社とは委任関係) 雇用保険法4条1項「適用事業に雇用される労働者 → 委任なので入口に入らない = 原則、被保険者にならない 健保3条1項・厚年9条「適用事業所に使用される者 → 雇用契約は不要 = 報酬を受けていれば被保険者になる ※ 分かれ目は役員の働き方ではなく、条文が使っている語(雇用/使用)の違い。
雇用保険と社会保険で結論が逆になるのは、被保険者の入口を定める条文の語が違うため。

1語の差で結論が分かれる — 雇用保険と社会保険の条文を並べる

3つの制度の入口を並べると、違いがはっきりします。

制度入口の条文条文の言葉役員の扱い
健康保険 健康保険法3条1項 適用事業所に使用される者 報酬があれば被保険者
厚生年金保険 厚生年金保険法9条 適用事業所に使用される70歳未満の者 報酬があれば被保険者(70歳未満)
雇用保険 雇用保険法4条1項 適用事業に雇用される労働者 原則ならない(兼務役員は例外)
労災保険 労働基準法9条の労働者 事業に使用される者で、賃金を支払われる者 原則ならない(特別加入で入る)

労災保険も「使用される者」ですが、「賃金を支払われる者」という要件が加わっており、賃金は労働契約を前提とした語なので、役員報酬はこれに当たりません。社会保険の側だけが「使用される者」で止まっている、というのが正確な読み方です。

日本年金機構も、被保険者となる「常用的に使用される」の意味をこう説明しています。

雇用契約書の有無などとは関係なく、適用事業所で働き、労務の対償として給与や賃金を受ける使用関係をいいます。試用期間中でも報酬が支払われる場合は、使用関係が認められることとなります。

(日本年金機構「適用事業所と被保険者」)

ここが実務の分かれ目

雇用保険は「雇用の実態があるか」を見るので、兼務役員かどうかが論点になります。社会保険は「使用の実態と報酬があるか」を見るので、兼務役員かどうかは論点になりません。非常勤か常勤か、経営に参画しているか、報酬が対価と言えるか、を見ます。同じ「役員」でも、2つの制度で問われている問いが違います。

雇用保険側の詳しい取扱い(兼務役員雇用実態証明書、労災の特別加入)は、役員は雇用保険に入れるかで扱っています。

判定の2基準 — 経営参画と、その対価としての経常的な報酬

役員が被保険者になるかどうかは、昭和27年12月4日 保文発第7241号および昭和32年2月21日 保文発第1515号以来、次の2つを基準に総合判断することとされています。令和8年3月18日の通達も、この2基準をそのまま引き継いで確認しています。

① その業務が実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であるか、

② その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものであるか

(令和8年3月18日 保保発0318第1号・年管管発0318第1号)

言い換えると、①は「仕事の中身」、②は「お金の性格」です。どちらも満たして初めて「法人に使用される者」になります。役職名や登記の有無ではなく、実態で見ます。

基準見ているもの満たさない典型
① 経営参画を内容とする経常的な労務の提供 指揮監督・決裁・連絡調整といった、経営の一部を担う継続的な仕事があるか 会議に出て意見を述べるだけ/自己研さんにとどまる
② 業務の対価としての経常的な報酬 その仕事の対価として、継続的に支払われているか 出席1回いくらの手当/旅費などの実費弁償

令和8年3月18日通達 — 「適用がない」場合が初めて表になった

2026年(令和8年)3月18日、厚生労働省保険局保険課長・年金局事業管理課長の連名で「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」(保保発0318第1号・年管管発0318第1号)が全国健康保険協会・健康保険組合・日本年金機構あてに発出されました。同日に報道発表もされています。

通達が出た背景は、通達自身がはっきり書いています。

今般、社会保険料の削減を謳い、個人事業主やフリーランス等(以下「個人事業主等」という。)を法人の役員とし、当該個人事業主等に係る健康保険等の被保険者資格を届け出る一方で、当該個人事業主等から会費等と称して役員としての報酬を上回る額を支払わせている事業所が存在している。

(同通達)

つまり、報酬より高い「会費」を払わせて役員に据え、国民健康保険・国民年金より安い保険料で社会保険に入れるという設計への対応です。通達はこれに対して「本来国民健康保険及び国民年金の適用を受けるべき者」であると指摘しています。

実務にとって重要なのは、通達がこの機会に2基準それぞれについて「適用がないと判断される場合」を列挙したことです。従来は「総合的に判断」としか書かれていなかった部分が、具体例の形になりました。

①その業務が経営参画を内容とする経常的な労務の提供に該当しないと考えられるもの②その報酬が業務の対価としての経常的な支払いに該当しないと考えられるもの
・当該法人の役員会等に出席しているが、当該法人の役員への連絡調整や職員に対する指揮監督に従事していない場合
・当該法人において求めに応じて意見を述べる立場にとどまっている場合
・役員会等への出席について支払われる報酬等
・旅費など実費弁償的な支払い
・退職手当(※)

※ 退職手当は、毎月の給与や賞与に上乗せして前払いされる場合には報酬等に該当する、と通達に注記されています。「退職金の前払い」という名目で毎月払っているものは、報酬として扱われるということです。

そのうえで通達は、届出の是正まで踏み込んでいます。

法人に使用されている実態がない者については、健康保険等の被保険者資格を有さず、事実と異なる資格取得の届出は健康保険法第48条及び厚生年金保険法第27条の規定に反することとなるため、法人の役員である個人事業主等について法人に使用されている実態がないことが確認された場合は、当該個人事業主等の資格喪失の届出を提出させ、その被保険者資格を喪失させること。

(同通達)

会費が報酬を上回ると、②を満たさない

通達は「個人事業主等が法人に対して、役員としての報酬を上回る額の会費等を支払っている場合は、実質的に業務の対価に見合った報酬を受けているものとは言えず、原則として、業務の対価としての経常的な支払いがあるものとは認められない」としています。関連法人へ会費を払わせている場合も、それが役員となる上での実質的な条件になっていて、単に資金を移動させているにすぎないと想定されるときは、同じ扱いです。迂回しても結論は変わらない、と明示されています。

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非常勤役員は入るか — 総合判断で見る4つの事実

「非常勤役員は社会保険に入らない」という言い方をよく見ますが、条文にも通達にも「非常勤役員は適用しない」という規定はありません。非常勤という肩書きではなく、上の2基準を実態で見た結果として、適用がないと判断されることがある、というのが正確です。

令和8年3月18日通達は、①(経営参画を内容とする経常的な労務の提供に当たるか)を判断するにあたって踏まえる事実を、4つ挙げています。

見る事実通達の説明
指揮命令権を有する職員の有無 具体的な業務について指揮監督する従業員や他の役員がいるか
決裁権を有する所管業務の有無 担当する業務について決裁権があるか
役員間の取りまとめや、代表者への報告業務の有無 役員会等に出席し、役員への連絡調整などを行っているか
定期的な会議への出席頻度、それ以外の業務の有無と出勤頻度 会議に参加し求めに応じて意見を述べるにとどまっていないか、会議に参加する以外の業務は他にあるか、その業務のためにどのくらい出勤しているか

あわせて通達は、労務の提供に当たらない典型も3つ挙げています。「知識向上のためのアンケートへの回答や勉強会への参加等、その業務の実態が単なる自己研さんに過ぎないもの」「単なる活動報告や情報共有等、役員としての具体的な指揮監督や権限の行使に当たらず、それ自体が直接的に法人の経営に参画しているとは認められないもの」「当該法人の事業の紹介等についての単なる協力やお願いにとどまっており、労務を提供する義務を負っているとは認められないもの」です。

4つの事実を裏返すと、実務で残しておくべき記録が見えてきます。組織図(誰が誰を指揮するか)・職務権限規程(何を決裁できるか)・取締役会議事録(連絡調整や報告の中身)・出勤の記録です。いずれも会社側が普段から作っている書類で、判定のために新しく作るものではありません。

よくある誤解2つ — 出勤していない/報酬が少ない

日本年金機構が公開している疑義照会回答(厚生年金保険 適用)に、この2つがそのまま質問として載っており、どちらにも否定的な回答が返っています。

誤解1: 定期的に出勤していないから被保険者にならない。

本来法人の代表者としての職務は事業所に出勤したうえでの労務の提供に限定されるものではないことから、定期的な出勤がないことだけをもって被保険者資格がないという判断にはならないと考えます。定期的な出勤は、経常的な労務の提供を判断する一つの要素であり、定期的な出勤がないことだけをもって、被保険者資格がないとするものではありません。

(日本年金機構 疑義照会回答/厚生年金保険 適用)

誤解2: 報酬が少額だから被保険者にならない。「最低いくら必要」という線がある。

総合的な判断が必要であり、最低金額を設定し、その金額を下回る場合は、被保険者資格がないとするのは妥当ではありません。

(同上)

同じ回答は、経営状況に応じて役員報酬を下げる例は多く、「今後支払われる見込みがあり、一時的であると考えられるため、低報酬金額をもって資格喪失させることは妥当でない」とも述べています。金額のしきい値は存在しません。

ただし同じ回答には続きがあり、業務の内容に対して1円しか報酬がないなど内容に相応しいか疑わしい場合は、報酬決定に至った経過や、多くの職を兼ねていないかどうか・業務の内容等を調査して判断する、とされています。「下限がない」は「いくらでもよい」ではありません。

なお、実費弁償の水準について同回答は、主に会議に出席するための旅費や、業務を遂行するために必要となった経費を指すとしています。通勤手当は実費弁償的なものとは異なり報酬に含める、という取扱いと区別されます。

一人社長でも強制適用 — 「事業主のみの場合を含む」

従業員がひとりもいない会社について、「従業員がいないなら社会保険に入らなくてよい」と誤解されがちですが、法人の場合は違います。健康保険法3条3項2号・厚生年金保険法6条1項2号が、適用事業所をこう定めています。

前号に掲げるもののほか、国、地方公共団体又は法人の事業所であって、常時従業員を使用するもの

(健康保険法3条3項2号)

そして日本年金機構は、この「法人の事業所」について明確に書いています。

厚生年金保険の適用事業所となるのは、株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)です。

(日本年金機構「適用事業所と被保険者」)

「事業主のみの場合を含む」——ここが一人社長の会社の結論です。役員報酬を受けている代表取締役が1人いれば、その人が「常時使用される従業員」に当たり、強制適用事業所になります。

形態社会保険(健保・厚年)根拠
法人・役員1人(報酬あり)・従業員0人 強制適用 健保3条3項2号/厚年6条1項2号。「事業主のみの場合を含む」
法人・役員1人・報酬0円 被保険者にならない 労務の対償としての報酬がない(保発74号)
個人事業(法定16業種)・常時5人以上 強制適用 健保3条3項1号/厚年6条1項1号
個人事業・常時5人未満 任意適用(認可が要る) 従業員の半数以上の同意+厚生労働大臣の認可

個人事業主本人は、従業員が何人いても社会保険の被保険者になりません。事業主は「使用される者」ではないためです。この点は法人成りしたときに扱いが変わる代表的な項目です。

無報酬の役員はどうなるか

保発74号が求めているのは「法人から、労務の対償として報酬を受けている者」であることなので、報酬がまったくない役員は被保険者になりません。非常勤の社外取締役を無報酬で置いている場合や、休眠中の会社の代表者などがこれに当たります。

ここで実務上気をつけたいのは、報酬をゼロにすると、その会社では健康保険の資格を失うという点です。他社で被保険者になっているか、家族の被扶養者になるか、国民健康保険・国民年金に入るか、いずれかの手当てが要ります。「役員報酬を0円にして社会保険料をなくす」は、保険料が消えると同時に、その会社経由の保障も消えるということです。

報酬を「下げる」と「ゼロにする」は別の話

前節のとおり、金額の下限は設定されていないので、報酬を下げただけでは資格は失いません(疑義照会回答も、一時的な低報酬で資格喪失させることは妥当でないとしています)。一方、ゼロは「報酬を受けている」に当たらないので、資格喪失の届出が要ります。連続した話に見えて、境目は0円のところにあります。

2社の役員を兼ねるとき — 報酬は合算される

A社の役員をしながらB社を設立して役員報酬を受け取る場合、B社でも新規適用届と資格取得届が必要です。日本年金機構のQ&Aは、この設例に対してそう回答しています。

そのうえで、本人(役員)が「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」(二以上届)を提出して、主となる事業所を選びます。提出期限は事実発生から10日以内、提出先は選択事業所の所在地を管轄する事務センターです(令和2年2月に送付先が変更されています)。

経理として押さえておきたいのは、保険料の決まり方です。

保険料額計算の基礎となる標準報酬月額は、それぞれの事業所で受ける報酬月額を合算した月額により決定されます。保険料額は、この標準報酬月額に社会保険料率、選択した事業所の健康保険料率をかけ、それぞれの事業所で受ける報酬月額に基づき按分し決定します。

(日本年金機構「A法人事業所で社会保険に加入している事業主が新たにB法人事業所を設立し…」)

合算してから按分するので、報酬を2社に分けても標準報酬月額は下がりません。1社あたりの報酬額だけを見て等級を判定すると、実際の保険料と合わなくなります。会社をもう1つ作って役員報酬を分散させても、社会保険料は原則として変わらない、というのがこの仕組みの帰結です。

標準報酬月額 — 役員報酬の改定は随時改定を起こす

役員も従業員と同じ仕組みで標準報酬月額が決まります。条文も共通です。

手続条文内容いつから
定時決定
(算定基礎届)
健保41条
厚年21条
毎年7月1日現在で、同日前3か月(4・5・6月)に受けた報酬の総額を月数で除した額を報酬月額とする。支払基礎日数17日未満の月は除く その年の9月から翌年8月まで
随時改定
(月額変更届)
健保43条
厚年23条
継続した3か月(各月とも支払基礎日数17日以上)に受けた報酬の総額を3で除した額が、標準報酬月額の基礎となった報酬月額に比べて著しく高低を生じた場合 著しく高低を生じた月の翌月から

役員特有の注意点はここです。役員報酬は、法人税法上の定期同額給与の要件から、事業年度開始の日から3か月以内に年1回改定するのが通例です(役員報酬の決め方)。この改定は固定的な報酬の変動なので、随時改定の起点になります。

3月決算の会社が6月の株主総会で役員報酬を改定した場合を例にすると、変動後の報酬を受けた6月・7月・8月の3か月平均で判定し、条件を満たせば9月から標準報酬月額が改定されます。定時決定(9月から適用)とちょうど重なる時期なので、健康保険法41条3項・厚生年金保険法21条3項が「7月から9月までのいずれかの月から改定される(べき)被保険者については、その年に限り定時決定を適用しない」と定めています。両方を出すのではなく、随時改定が優先します。

「役員報酬を年1回しか変えないから、社会保険の手続きは算定基礎届だけ」という運用は、この点を落としています。改定した年は月額変更届の判定が要ります。

役員賞与と社会保険料 — 上限と、実数で見た効き方

役員賞与にも社会保険料がかかります。標準賞与額の上限は、健康保険と厚生年金で単位が違います。

制度条文標準賞与額の上限単位
健康保険 健保45条1項 573万円 年度(4月1日〜翌年3月31日)の累計
厚生年金保険 厚年24条の4第1項 150万円 1か月(賞与を受けた月ごと)

どちらも1,000円未満は切り捨てです。厚生年金の上限は1か月あたりなので、賞与を分けて別々の月に支給すれば上限は月ごとに立ちます。ただし、分ける回数には制限があります。

この法律において「賞与」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのもののうち、三月を超える期間ごとに受けるものをいう。

(健康保険法3条6項)

つまり年4回以上支給されるものは「賞与」ではなく「報酬」になり、標準報酬月額の計算に入ります(同3条5項が報酬から「三月を超える期間ごとに受けるもの」を除いているため、両者は裏表の関係です)。賞与として扱われるのは年3回までです。

「月額を下げて賞与に寄せると社会保険料が下がる」という話をよく見ますが、効き方は報酬水準によってまったく違います。令和8年度の協会けんぽ東京支部の料率(健康保険9.85%・厚生年金18.300%、いずれも労使折半前の全額。介護保険第2号被保険者に該当しない場合)で、年間報酬1,200万円をどう配分するかだけを変えて計算すると、次のようになります。

配分(年1,200万円)健康保険(年・全額)厚生年金(年・全額)合計
A 月100万円 × 12・賞与なし 1,158,360円 1,427,400円 2,585,760円
B 月50万円 × 12 + 賞与600万円(年1回) 1,155,405円 1,372,500円 2,527,905円(Aとの差 57,855円・2.2%)
C 月8.8万円 × 12 + 賞与1,094.4万円(年1回) 668,421円 467,748円 1,136,169円(Aとの差 1,449,591円・56.1%)

内訳をたどると、なぜBがほとんど効かないのかが分かります。

この計算から読み取れること

効いているのは「賞与に寄せたこと」そのものではなく、月額報酬をどこまで下げたかです。BとCの賞与部分の保険料は完全に同額(838,905円)で、差の1,391,736円はすべて月額部分から出ています。「賞与に寄せれば下がる」という説明は、実際には「月額を下げれば下がる」と言っているにすぎません。
そして月額を下げれば、傷病手当金・出産手当金・厚生年金の給付額といった標準報酬月額に連動する給付も同じだけ下がります。保険料と給付は同じ数字から計算されるので、片方だけを動かすことはできません。

なお、役員賞与を法人の損金にするには法人税法34条1項2号の事前確定届出給与の届出が要り、届け出た日と額のとおりに支給しないと全額が損金不算入になります(役員報酬の決め方)。社会保険料は届出の有無に関係なくかかるので、損金にならないうえに社会保険料だけかかるという状態が起こり得ます。

経理処理 — 勘定科目と、いつの費用になるか

役員の社会保険料も、従業員と同じ処理です。役員報酬から本人負担分を預り金で控除し、会社負担分を法定福利費で計上します。

場面借方貸方注意点
役員報酬の支給 役員報酬 預り金(社会保険料・源泉所得税・住民税)/現金預金 控除するのは前月分の保険料(翌月控除が一般的)
会社負担分の計上 法定福利費 未払金 その月の保険料はその月の費用。納付月の費用ではない
納付(翌月末日) 預り金/未払金 現金預金 本人負担分と会社負担分を合わせて事業主が納付する

役員特有の論点は2つあります。

1つめは勘定科目を「役員報酬」と分けることです。会社負担分は役員報酬ではなく法定福利費なので、定期同額給与の判定(毎月同額かどうか)には入りません。法定福利費に含めて処理していれば、料率改定で会社負担額が変わっても定期同額給与の要件には影響しません。

2つめは決算期をまたぐときの未払計上です。たとえば3月決算なら、3月分の社会保険料は4月末納付ですが、3月の費用です。会社負担分を未払金(または未払費用)で立てないと、法定福利費が1か月分ずれます。役員しかいない会社でも金額が小さくないので、影響が出ます。

令和8年4月分(5月納付分)から、子ども・子育て支援金が始まりました。協会けんぽ東京支部の子ども・子育て支援金率は0.23%で、健康保険料率9.85%とは別枠の欄として保険料額表に載っています。既存の子ども・子育て拠出金(事業主全額負担)とは別のものです。処理を分ける必要があるかは、使っている給与計算ソフトの様式に合わせて確認してください。

社会保険料 計算機で、役員報酬から引く額を等級表どおりに確認する

よくある質問

Q. 非常勤役員は社会保険に加入しなくてよいのですか?

A. 「非常勤だから加入しない」という規定はありません。健康保険法3条1項・厚生年金保険法9条の「使用される者」に当たるかを、①経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供があるか、②その対価として経常的に報酬が支払われているか、の2基準で実態から総合的に判断します。令和8年3月18日通達は、この判断で踏まえる事実として、指揮命令権を有する職員の有無・決裁権を有する所管業務の有無・役員間の取りまとめや代表者への報告業務の有無・定期的な会議への出席頻度とそれ以外の業務の有無を挙げています。

Q. 役員報酬を月1万円まで下げたら、社会保険から外れますか?

A. 金額の下限は設定されていません。日本年金機構の疑義照会回答は「最低金額を設定し、その金額を下回る場合は、被保険者資格がないとするのは妥当ではありません」としており、経営状況に応じた一時的な低報酬をもって資格喪失させることも妥当でないとしています。ただし同回答は、業務の内容に相応しいか疑わしい場合には、報酬決定に至った経過や働き方を調査して判断するとも述べています。

Q. 従業員がいない一人社長の会社でも、社会保険に入る義務がありますか?

A. 法人であれば強制適用事業所です。日本年金機構は適用事業所を「株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)」と説明しています。役員報酬を受けている代表取締役が1人いれば、その人が被保険者になります。ただし役員報酬が0円の場合は、労務の対償としての報酬がないため被保険者になりません。

Q. 2つの会社で役員をしています。社会保険はどちらか一方でよいですか?

A. どちらの会社でも加入手続きが必要です。そのうえで本人が「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を事実発生から10日以内に提出し、主となる事業所を選びます。標準報酬月額は両社の報酬月額を合算した額で決定され、保険料は各社の報酬月額に応じて按分されます。報酬を2社に分けても標準報酬月額は下がりません。

Q. 役員報酬を年1回改定しました。算定基礎届を出せば足りますか?

A. 改定によって報酬が著しく高低を生じた場合は、随時改定(月額変更届)の対象になります。変動後の報酬を受けた月から継続した3か月の平均で判定し、条件を満たせばその翌月から標準報酬月額が改定されます。7月から9月までのいずれかの月から随時改定される被保険者は、健康保険法41条3項・厚生年金保険法21条3項により、その年の定時決定を適用しないこととされています。

Q. 役員賞与にも社会保険料はかかりますか?

A. かかります。標準賞与額は1,000円未満切り捨てで、上限は健康保険が年度累計573万円(健康保険法45条1項)、厚生年金保険が1か月あたり150万円(厚生年金保険法24条の4第1項)です。なお、年4回以上支給されるものは健康保険法3条6項の「三月を超える期間ごとに受けるもの」に当たらないため、賞与ではなく報酬として標準報酬月額の計算に入ります。

Q. 令和8年3月18日の通達は、普通に事業をしている会社にも関係しますか?

A. 通達の直接の対象は、社会保険料の削減を謳って個人事業主等を役員とし、報酬を上回る会費等を支払わせている事業所です。ただし通達の(1)は法人の役員一般の被保険者資格の取扱いを整理しており、「適用がないと判断される場合」の列挙は非常勤役員の判定にもそのまま当てはまります。従来「総合的に判断」としか書かれていなかった部分が具体化されたという意味で、通常の会社にも判断材料が増えています。

Q. 役員が70歳・75歳になったら、社会保険はどうなりますか?

A. 厚生年金保険は、厚生年金保険法9条が被保険者を「70歳未満の者」としているため、70歳到達で被保険者資格を失います。引き続き適用事業所に使用される場合は「70歳以上被用者」として届出の対象になり、厚生年金保険法27条がその届出義務を定めています。健康保険は75歳から後期高齢者医療制度の被保険者となり、健康保険法3条1項ただし書7号により健康保険の被保険者ではなくなります。

出典

この記事は令和8年(2026年)8月17日時点の法令・通達に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務・社会保険相談ではありません。役員の被保険者資格は実態に基づく総合判断であり、個別の判断は年金事務所・健康保険組合、または社会保険労務士・税理士にご確認ください。確認範囲は健康保険・厚生年金保険における法人の役員の被保険者資格と標準報酬月額・標準賞与額の取扱いであり、健康保険組合が独自に定める規約、船員保険、共済組合、被扶養者の認定基準、社会保険の適用拡大(短時間労働者)の要件、および役員報酬の法人税法上の損金算入要件の詳細は扱っていません。

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