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税務調査とは — 国税通則法に「税務調査」という語は1度も出てこない

結論から言うと、税務調査の手続は法律で決まっています。いつ何を通知するか(国税通則法74条の9)、何年分さかのぼれるか(同70条)、終わるときに何を渡すか(同74条の11)は、すべて条文に書かれています。調査官の裁量で決まるのは、条文が「認めるとき」と書いた部分だけです。

ところが、その条文を「税務調査」で検索しても1件も当たりません。本記事で国税通則法の全文(本則・附則を含む157,211字)を取得して数えたところ、「税務調査」は0回でした。「任意調査」も0回、「反面調査」も0回、「強制調査」も0回です。国税通則法施行令(59,170字)にも「税務調査」はありません。条文が使っているのは「実地の調査」(5回)「質問検査等」(17回)という言葉です。私たちが日常で使う3つの言葉は、いずれも実務の呼び名であって法律用語ではありませんでした。

この記事では、条文から確認できたことだけを書きます。読んだ範囲で確認できなかったことは、末尾の出典欄に「確認していないこと」として分けて挙げました。

条文の言葉は「実地の調査」と「質問検査等」

国税通則法の第七章の二の表題は「国税の調査」です。この章に、調査に関する手続がまとまっています。条文を読むときは、日常語と条文語の対応を先に押さえておくと迷いません。

日常で使う言葉通則法の全文での出現回数条文が使っている言葉
税務調査0回国税に関する調査(5回)/実地の調査(5回)
任意調査0回質問検査等(17回)=質問、検査、提示・提出の要求
反面調査0回74条の2第1項各号の「ロ」「ハ」に掲げる者への質問検査等
強制調査0回(第十一章の犯則事件の調査は別の手続として置かれている)
事前通知4回納税義務者に対する調査の事前通知等(74条の9の見出し)

計数は、e-Gov法令API v2 で国税通則法の全文(law_full_text)を取得し、本則・附則を通して数えたものです。計数の経路が生きていることを確かめるため、同じ範囲で「更正決定等」が44回、「国税通則法」が219回、「附則」が171回出ることを併せて確認しました。母集合が途中で切れていれば、これらも0に近づくはずです。

「質問検査等」は74条の9第1項が定義しています。質問すること、検査すること、そして帳簿書類その他の物件の提示・提出を求めること。この3つをまとめた呼び名です。調査官ができることは、条文上はこの3つに整理されています。

事前通知される事項は10項目(法律6つ+政令4つ)

実地の調査で質問検査等を行わせる場合、税務署長等はあらかじめ、納税義務者(税務代理人がいる場合はその税務代理人を含む)に対し、その旨と次の事項を通知するものとされています(74条の9第1項)。

根拠通知される事項
法74条の9第1項1号調査を開始する日時
同2号調査を行う場所
同3号調査の目的
同4号調査の対象となる税目
同5号調査の対象となる期間
同6号調査の対象となる帳簿書類その他の物件
同7号(政令への委任。中身は下の4つ)
施行令30条の4第1項1号納税義務者の氏名および住所または居所
同2号調査を行う当該職員の氏名および所属官署(複数のときは代表者の氏名と所属官署)
同3号日時・場所の変更に関する事項
同4号法74条の9第4項の規定の趣旨

法律の7号は政令への委任なので、実際に通知される事項は法律の6つ(1〜6号)と政令の4つを合わせた10項目です。

施行令30条の4第2項は、そのうち3つについて中身を具体化しています。「場所」は、調査を開始する日時において質問検査等を行おうとする場所を通知します。「目的」は、納税申告書の記載内容の確認、または申告書の提出がない場合における納税義務の有無の確認、その他これらに類する目的を通知します。そして「帳簿書類その他の物件」については、それが法令上の備付け・保存の義務があるものである場合には、その旨も併せて通知するとされています。3つ目は見落とされがちですが、通知の時点で「これは保存義務のある帳簿だ」と告げられている、ということです。

政令4号の「74条の9第4項の趣旨」が、あとで効いてくる

施行令30条の4第1項4号は、事前通知の時点で「法74条の9第4項の規定の趣旨」を伝えることを求めています。4項は、通知した税目・期間・帳簿以外の事項について非違が疑われた場合には、その事項についても質問検査等ができるという規定です(詳しくは後述)。つまり調査の範囲が通知の外へ広がりうることは、最初の通知の時点で告げられている構造になっています。

通知の相手方についても条文があります。税務代理人が数人いる場合、納税者がそのうちから代表する税務代理人を定めた場合として財務省令で定める場合に当たるときは、代表する税務代理人に通知すれば足ります(74条の9第6項)。また、納税者の同意がある場合として財務省令で定める場合に該当するときは、納税者本人への通知は税務代理人に対してすれば足ります(同5項)。

そもそも誰が「税務代理人」なのかは、74条の9第3項2号が税理士法30条の書面を提出している税理士と定義しています。その書面が税務代理権限証書で、5項・6項の「財務省令で定める場合」も、国税通則法施行規則11条の4によりこの証書への記載の有無で決まります。顧問税理士がいることと、この証書が出ていることは条文上は別なので、通知の届き先を左右するのは契約ではなく提出の有無です。

日程は変更できるか — 条文の義務は「協議するよう努める」

74条の9第2項は、通知を受けた納税義務者から合理的な理由を付して変更を求められた場合には、「当該事項について協議するよう努めるものとする」と定めています。ここで条文を正確に読むと、実務上の意味が2つ出てきます。

  1. 変更を求められるのは1号と2号だけです。つまり日時と場所。税目(4号)・期間(5号)・対象帳簿(6号)の変更を求める規定は置かれていません。
  2. 税務署長等に課されているのは「協議するよう努める」ことであって、変更に応じる義務ではありません。条文の語尾は「努めるものとする」で、これは努力義務の書き方です。

逆に言えば、日時と場所については合理的な理由を付ければ協議を求められることが法律に書いてあるということでもあります。理由を添えずに「都合が悪い」とだけ伝えるのと、条文の枠に乗せて申し出るのとでは、位置づけが違います。

事前通知が要らない場合(74条の10は1文しかない)

いわゆる無予告調査の根拠は74条の10です。この条は項も号も無く、1文で終わります。全文を引くと次のとおりです。

前条第一項の規定にかかわらず、税務署長等が調査の相手方である同条第三項第一号に掲げる納税義務者の申告若しくは過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報その他国税庁等若しくは税関が保有する情報に鑑み、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、同条第一項の規定による通知を要しない。

読み取れることは3つです。判断の材料は「申告」「過去の調査結果の内容」「その営む事業内容に関する情報」「その他国税庁等若しくは税関が保有する情報」に限定して書かれていること。判断するのは税務署長等であって現場の調査官ではないこと。そして「要しない」のは74条の9第1項の通知であって、それ以外の手続(終了の際の手続など)を省いてよいとは書かれていないことです。

通知された税目・期間の「外」は調べられるのか

結論から言うと、条文は広げられると書いています。74条の9第4項です。

第一項の規定は、当該職員が、当該調査により当該調査に係る同項第三号から第六号までに掲げる事項以外の事項について非違が疑われることとなつた場合において、当該事項に関し質問検査等を行うことを妨げるものではない。この場合において、同項の規定は、当該事項に関する質問検査等については、適用しない。

3号から6号は、目的・税目・期間・帳簿書類です。それ以外について非違が疑われることとなった場合には、その事項に質問検査等を行える。そしてその事項については事前通知の規定を適用しない——つまり、広がった部分について改めて事前通知は行われません。

条件は「非違が疑われることとなつた場合」であり、最初から広く調べてよいという規定ではありません。順序としては、通知した範囲の調査の結果として疑いが生じ、その疑いに対応する範囲で広がる、という書き方になっています。

何年分さかのぼるか — 5年・7年・10年

「何年分見られるのか」の答えは、調査の手続ではなく更正・決定ができる期間(70条)で決まります。調査それ自体の年数制限は条文にありません。更正も決定もできない期間について調べても、税額を動かせないからです。

更正・決定等ができる期間(国税通則法70条) 起点 3年 5年 7年 10年 更正・決定(原則) 偽りその他不正の行為 法人税の欠損金の増減 賦課決定のうち一定のもの 5年(70条1項1号) 7年(70条5項1号) 10年(70条2項) 3年(70条1項かっこ書き) ※ 起点は70条1項各号が定める期限または日(更正・決定は法定申告期限)。縦線は1年ごと。 ※ 3年の帯は、課税標準申告書の提出があった国税に係る賦課決定の一部だけに適用される。
図1:さかのぼれる年数は4種類ある。原則は5年で、7年になるのは「偽りその他不正の行為」があった場合に限られる。10年は法人税の欠損金の額を動かす更正だけの期間。

条文の中身をもう少し正確に見ておきます。

ここで注意したいのは、法律に「3年」という一般的な区切りは存在しないことです。上に挙げたとおり、3年が出てくるのは賦課決定の一部だけで、更正・決定は最初から5年です。「調査は普通3年分」という説明を見かけますが、それは条文の定めではありません。

なお70条3項・4項には、期間の末尾を延ばす規定があります。更正ができなくなる日の前6か月以内に更正の請求があった場合、その請求に係る更正等は請求の日から6か月を経過する日までできます(3項)。賦課決定ができなくなる日の前3か月以内に申告書が提出された場合、それに伴う無申告加算税等の賦課決定は提出の日から3か月を経過する日までできます(4項)。期限ぎりぎりの申告や請求が、その分だけ処分できる期間を後ろへずらす作りです。

更正の請求そのものの期限(原則5年)と、そこから生じる加算税・延滞税の計算は別の話になります。そちらは修正申告と更正の請求|加算税と延滞税はいくらにまとめてあります。

取引先への調査に、事前通知の規定は及ばない

いわゆる反面調査に独立した条文はありません。根拠は74条の2第1項で、質問検査等の相手方として、納税者本人と並べて取引先が列挙されているだけです。所得税・法人税・消費税それぞれについて、次のように並んでいます。

調査の区分ロ・ハ
所得税(1号)納税義務がある者・あると認められる者ほかロ=支払調書・源泉徴収票等の提出義務者/ハ=イに金銭・物品の給付をする義務があったと認められる者、イから給付を受ける権利があったと認められる者
法人税・地方法人税(2号)法人ロ=イに対し金銭の支払・物品の譲渡をする義務があると認められる者、または支払・譲渡を受ける権利があると認められる者
消費税(3号)納税義務がある者・あると認められる者ほかロ=適格請求書類似書類等を交付したと認められる者/ハ=イに金銭の支払・資産の譲渡等をする義務があると認められる者ほか

ここからが条文の作りの話です。事前通知を定める74条の9は、第3項1号で「納税義務者」の意味を自分で定義しています。その定義は——

第七十四条の二第一項第一号イ、第二号イ、第三号イ及び第四号イ並びに第七十四条の三第一項第一号イ及び第二号イに掲げる者、第七十四条の四第一項並びに第七十四条の五第一号イ及びロ、第二号イ及びロ、第三号イ及びロ、第四号イ及びロ、第五号イ並びに第六号イの規定により当該職員による質問検査等の対象となることとなる者並びに第七十四条の六第一項第一号イ及び第二号イに掲げる者

——というように、74条の2第1項については各号の「イ」しか引いていません。取引先に当たるロもハも入っていません。つまり取引先は、事前通知の対象である「納税義務者」の定義に含まれていないということです。74条の11(調査の終了の際の手続)も第1項でこの同じ定義を引き継いでいます。

同じ定義は、たばこ税等の質問検査権を定める74条の5については「第一号イ及びロ」のようにイとロの両方を引いています。ただしこれは74条の5の号が「対象者」ではなく「できる行為」を列挙する構造だからで、たとえば同条1号のうち、取引のある者への質問検査を定めるニと、見本の採取を定めるハは引かれていません。取引先に当たる部分が外れているという点は共通しています。

条文から言えること/言えないこと

言えるのは「74条の9の事前通知と74条の11の終了通知は、条文上、取引先への質問検査等を対象にしていない」までです。取引先へ連絡が行くかどうか、行く前に本人へ知らせがあるかどうかは、条文の外にある運用の問題で、本記事で確認した範囲では判断できません。ここは断定を避けます。

なお、取引先の側にも罰則は及びます(128条2号・3号)。取引先が「自分は納税者本人ではないから関係ない」と言えるわけではない、という点は条文から読み取れます。

名指しされない照会 — 「千万円超の過半数」という数値要件

あまり知られていない条文に74条の7の2(特定事業者等への報告の求め)があります。これは特定の納税者を名指しせず、「範囲」を定めて事業者に報告を求める仕組みです。

所轄国税局長は、特定取引の相手方となる事業者、または特定取引の場を提供する事業者(特別の法律により設立された法人を含む)もしくは官公署に対して、特定取引者に係る氏名(名称)・住所または居所・番号(個人番号または法人番号)の報告を求めることができます(1項・3項4号)。期日は60日を超えない範囲内で、準備に通常要する日数を勘案して定められます。

「特定取引」の定義(3項2号)は、電子情報処理組織を使用して行われる事業者等との取引、事業者等が電子情報処理組織を使用して提供する場を利用して行われる取引、その他この処分によらなければ取引を行う者を特定することが困難である取引です。オンラインの取引の場を想定した書き方になっています。

そして2項が、この処分をできる場合を3つに限定しています。1号がとくに具体的です。

当該特定取引者が行う特定取引と同種の取引を行う者に対する国税に関する過去の調査において、当該取引に係る所得の金額その他の特定の税目の課税標準が千万円を超える者のうち半数を超える数の者について、当該取引に係る当該税目の課税標準等又は税額等につき更正決定等(中略)をすべきと認められている場合

「千万円を超える者のうち半数を超える数」という数値の要件が法律の本文に書かれているのは珍しい形です。2号は特定取引に係る物品・役務を用いることで違反事実を生じさせることが推測される場合、3号は取引の態様が経済的必要性の観点から通常はとられない不合理なものである場合。いずれも「推測される場合」という緩やかな要件ですが、処分の手続の側には歯止めが置かれています。

この報告の要求に正当な理由なく応じない場合や、偽りの報告をした場合も、128条3号の罰則の対象です。

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終わるときの手続 — 唯一の「しなければならない」

調査の終わり方は74条の11に書かれています。分岐は2つです。

時間 → 事前通知(74条の9第1項・令30条の4) 法6つ+政令4つ = 10項目 うちこの3つ=調査通知(65条6項・令27条4項) 税目 / 期間 / 実地の調査で質問検査等を行う旨 加算税がゼロでなくなる分岐点はここ 実地の調査 質問検査等 74条の2 更正決定等をすべきと認められない → その時点においてその旨を   書面により通知(74条の11第1項) 更正決定等をすべきと認める ① 調査結果の内容を説明(2項) ② 修正申告を勧奨できる(3項) ③「出せば不服申立てはできないが   更正の請求はできる」旨の書面を   交付しなければならない(3項) 上のどちらの結末の後でも、新たに得られた情報に照らし非違があると認めるときは、再び質問検査等ができる (74条の11第5項)。上段の書面による通知は「その時点において」と限定されている。
図2:調査の手続の流れ。左の破線は入れ子で、加算税の分岐点になる「調査通知」は事前通知より前の別の連絡ではなく、事前通知10項目のうち3つを指す呼び名。右の下側にある書面の交付だけが「しなければならない」と書かれた義務。

更正決定等をすべきと認められない場合は、質問検査等の相手方となった納税義務者に対し、その時点において更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知するものとされています(1項)。実務でいう是認の通知です。条文が「実地の調査を行つた結果」と限定している点に注意が必要で、実地でない調査についてこの書面の規定は置かれていません。

更正決定等をすべきと認める場合は、当該職員が調査結果の内容(認めた額とその理由を含む)を説明するものとされます(2項)。こちらは1項と違い「実地の調査」に限定されていません。そのうえで3項が、修正申告または期限後申告を勧奨することができると定め、続けてこう書いています。

この場合において、当該調査の結果に関し当該納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない
三か条を通して「しなければならない」はここだけ

事前通知から終了までを定める74条の9・74条の10・74条の11の三か条について、語尾を数えました。「しなければならない」は合計1回——74条の11第3項の書面の交付だけです。ほかは「通知するものとする」「説明するものとする」(合計2回ずつ)、「協議するよう努めるものとする」(努力義務)、「勧奨することができる」「質問検査等を行うことができる」(可能規定)です。納税者に対して交付が義務づけられている書面は、この1枚ということになります。

この書面が意味するのは、修正申告に応じても更正の請求という道は残るということです。修正申告は提出した時点で税額が確定する行為なので不服申立ての対象になりませんが、あとから「やはり払いすぎだった」となれば、通則法23条の更正の請求はできます。法律は、その説明と書面の交付を義務にしています。

なお4項により、税務代理人がいて納税者の同意がある場合は、1〜3項の通知・説明・交付を税務代理人に対して行うことができます

「問題なし」は将来を保証しない

74条の11第1項の書面には、条文上「その時点において」という限定が入っています。そして5項が、その後のことを定めています。

第一項の通知をした後又は第二項の調査(実地の調査に限る。)の結果につき納税義務者から修正申告書若しくは期限後申告書の提出(中略)があつた後若しくは更正決定等をした後においても、当該職員は、新たに得られた情報に照らし非違があると認めるときは、(中略)質問検査等を行うことができる。

要件は「新たに得られた情報に照らし非違があると認めるとき」です。同じ資料をもう一度見直した結果ではなく、新たに得られた情報が必要だと読める書き方になっています。この要件が満たされれば、是認の通知を受けた後でも、修正申告を出した後でも、更正決定等を受けた後でも、再び質問検査等ができます。

加算税の分岐点は「事前通知」ではなく「調査通知」

過少申告加算税は、修正申告書を出した時期によって0%・5%・10%と変わります。その0%になる境目を「事前通知の前」と説明されることがありますが、条文が書いているのは「調査通知」の前です。この2つは同じものではありません

65条6項の定義を分解すると、調査通知とは次の3つの通知です。

根拠調査通知の中身
74条の9第1項4号調査の対象となる税目
74条の9第1項5号調査の対象となる期間
施行令27条4項(法65条6項の政令委任)実地の調査において質問検査等(中略)を行わせる旨(74条の10に該当する場合は「調査(中略)を行う旨」)

つまり調査通知は、事前通知の10項目のうち3つで成立します。日時も場所も調査の目的も対象帳簿も、調査通知の要件には入っていません。実務上は事前通知の連絡の中で同時に伝えられることが多いと思われますが、条文が加算税の分岐点として指しているのは、この3つの通知です。施行令27条5項により、税務代理人に対してした通知もこの通知に含まれます。

もうひとつ、施行令27条4項のかっこ書きが効いてきます。74条の10に該当する場合(事前通知を要しない場合)には、調査通知は「調査(中略)を行う旨」の通知になります。事前通知が省略される場合であっても、調査通知という概念そのものは残る作りです。

加算税の率が0%・5%・10%とどう積み上がるか、無申告加算税や重加算税、延滞税の計算は修正申告と更正の請求|加算税と延滞税はいくら(令和8年は2.8%・9.1%)で扱っています。

帳簿を預けたとき(預り証は施行令の義務)

74条の7は1文だけの条文です。「国税庁等又は税関の当該職員は、国税の調査について必要があるときは、当該調査において提出された物件を留め置くことができる」。法律にはこれしか書かれていません。

手続は施行令30条の3にあり、こちらは3項とも語尾が「しなければならない」です。

法律側は「できる」、政令側は「しなければならない」。権限は法律に、手続の義務は政令に置かれている構造です。預り証の記載事項が政令に列挙されているので、何が書かれているべきかは条文で確かめられます。

「任意だから断れる」の実際 — 令和7年6月に懲役から拘禁刑へ

質問検査等に応じない場合の罰則は128条にあります。1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。該当するのは次の行為です。

行為「正当な理由」の定めの有無
1号更正請求書に偽りの記載をして提出した
2号質問に答弁せず、または偽りの答弁をした/検査、採取、移動の禁止、封かんの実施を拒み、妨げ、忌避した置かれていない
3号物件の提示・提出または報告の要求に応じない/偽りの記載・記録をした物件を提示・提出した/偽りの報告をした「正当な理由がなく」と限定

条文を並べると、2号と3号で書き方が違うことが分かります。3号には「正当な理由がなくこれに応じず」という限定がありますが、2号にはその文言がありません。この非対称は条文上のものです。

「懲役」と書かれた説明は古い可能性があります

本記事で e-Gov法令API v2 により128条の新旧リビジョンを取得して突き合わせたところ、2025年4月1日施行版は「一年以下の懲役」、2025年6月1日施行版(337AC0000000066_20250601_504AC0000000068)は「一年以下の拘禁刑」でした。刑法の改正に伴う施行日が2025年6月1日なので、それより前に書かれた解説は「懲役」のままになっています。罰の重さ(1年以下・50万円以下)は変わっていません。

実務でよく言われる「任意調査」という言い方は、令状に基づく犯則事件の調査(第十一章)と区別するためのものですが、その言葉自体は通則法に1度も出てきません。条文の側から見えるのは、質問検査等には応じる建て付けになっていて、応じない場合の罰則が置かれている、という構造です。

よくある質問

Q. 税務調査は何年分さかのぼりますか?

A. 一般に、更正・決定ができる期間の範囲で行われます。国税通則法70条1項は、更正または決定は法定申告期限などから5年を経過した日以後はできないと定めています。偽りその他不正の行為により税額を免れた場合などは同条5項により7年、法人税に係る純損失等の金額を増加または減少させる更正は同条2項により10年です。なお課税標準申告書の提出を要する国税で提出があったものに係る賦課決定の一部は3年ですが、これは限定された場合であり、法律に「調査は3年分」といった一般的な区切りは置かれていません。

Q. 事前通知では何を教えてもらえますか?

A. 一般に10項目です。国税通則法74条の9第1項が、調査を開始する日時、調査を行う場所、調査の目的、調査の対象となる税目、調査の対象となる期間、調査の対象となる帳簿書類その他の物件の6つを挙げ、7号で政令に委任しています。委任を受けた国税通則法施行令30条の4第1項が、納税義務者の氏名および住所または居所、調査を行う職員の氏名および所属官署、日時・場所の変更に関する事項、法74条の9第4項の規定の趣旨の4つを定めています。

Q. 調査の日程は変更してもらえますか?

A. 国税通則法74条の9第2項は、通知を受けた納税義務者から合理的な理由を付して1号(開始する日時)または2号(場所)の変更を求められた場合には、その事項について協議するよう努めるものとすると定めています。条文の語尾は「努めるものとする」であり、変更に応じる義務としては書かれていません。また変更を求められる対象は日時と場所に限られており、税目や対象期間について変更を求める規定は置かれていません。

Q. 事前通知なしで来ることはありますか?

A. 国税通則法74条の10に定めがあります。税務署長等が、納税義務者の申告もしくは過去の調査結果の内容、営む事業内容に関する情報、その他国税庁等が保有する情報に鑑み、違法または不当な行為を容易にし、正確な課税標準等または税額等の把握を困難にするおそれ、その他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、74条の9第1項の通知を要しないとされています。省略されるのはこの通知であり、他の手続を省いてよいとは書かれていません。

Q. 通知された税目や期間以外のことも調べられますか?

A. 国税通則法74条の9第4項は、調査により通知した3号から6号までの事項(目的・税目・期間・帳簿書類)以外の事項について非違が疑われることとなった場合において、その事項に関し質問検査等を行うことを妨げないと定めています。あわせて、その事項に関する質問検査等については事前通知の規定を適用しないとされているため、広がった範囲について改めて事前通知は行われません。なお、この4項の規定の趣旨自体が、施行令30条の4第1項4号により事前通知の項目に含まれています。

Q. 取引先に問い合わせが行くとき、事前に知らされますか?

A. 条文から言えるのは、事前通知の規定が取引先を対象にしていないという点までです。国税通則法74条の2第1項は質問検査等の相手方を各号のイ・ロ・ハで列挙しており、取引先はロまたはハに当たります。一方、事前通知を定める74条の9は第3項1号で「納税義務者」を定義しており、その定義は74条の2第1項の各号の「イ」だけを引いています。調査終了の際の手続を定める74条の11も同じ定義を用いています。実際の運用がどうかは、本記事で確認した条文の範囲では判断できません。

Q. 調査が終わったら何か書面はもらえますか?

A. 場合によって異なります。実地の調査の結果、更正決定等をすべきと認められない場合には、国税通則法74条の11第1項により、その時点において更正決定等をすべきと認められない旨が書面により通知されます。更正決定等をすべきと認める場合には、同条2項により調査結果の内容が説明され、3項により修正申告等が勧奨されることがあります。勧奨がされる場合には、納税申告書を提出したときは不服申立てはできないが更正の請求はできる旨を記載した書面を交付しなければならないとされています。

Q. 修正申告を勧められました。応じると、もう争えなくなりますか?

A. 国税通則法74条の11第3項は、勧奨に応じて納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明し、その旨を記載した書面を交付しなければならないと定めています。修正申告は提出した時点で税額が確定する行為であるため不服申立ての対象にはなりませんが、同法23条による更正の請求の道は残ります。この説明と書面の交付は、74条の9から74条の11までの三か条の中で唯一「しなければならない」と書かれた義務です。

Q. 加算税がかからないのは「事前通知の前」ですか?

A. 条文が定めているのは「調査通知」の前です。国税通則法65条6項は、更正があるべきことを予知してされたものでない修正申告について、74条の9第1項4号および5号に掲げる事項(調査の対象となる税目・期間)その他政令で定める事項の通知がある前に行われたものであるときは過少申告加算税を適用しないと定めています。政令で定める事項は、国税通則法施行令27条4項により「実地の調査において質問検査等(中略)を行わせる旨」です。つまり調査通知は税目・期間・実地の調査で質問検査等を行う旨の3つで成立し、事前通知の10項目すべてを指すものではありません。

Q. 帳簿を持ち帰られました。返してもらえますか?

A. 国税通則法74条の7は、調査について必要があるときは提出された物件を留め置くことができると定めています。手続は国税通則法施行令30条の3にあり、留め置く場合には物件の名称または種類、数量、提出年月日、提出した者の氏名および住所または居所その他必要な事項を記載した書面を作成して交付しなければならないとされています。また留め置く必要がなくなったときは遅滞なく返還しなければならず、留め置いた物件は善良な管理者の注意をもって管理しなければならないと定められています。

Q. 「任意調査だから断ってよい」と聞きましたが本当ですか?

A. 「任意調査」という語は国税通則法には1度も出てきません。条文の建て付けとしては、74条の2から74条の6までが質問検査等の権限を定め、128条2号が質問に答弁せずもしくは偽りの答弁をした場合、検査等を拒み、妨げ、忌避した場合について、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金を定めています。同条3号は物件の提示・提出または報告の要求について「正当な理由がなく」応じない場合を対象としており、2号にはこの限定が置かれていません。

Q. 一度「問題なし」と言われた年分を、もう一度調べられることはありますか?

A. 国税通則法74条の11第1項の通知は「その時点において更正決定等をすべきと認められない旨」と限定されています。そのうえで同条5項が、その通知をした後、修正申告書もしくは期限後申告書の提出があった後、または更正決定等をした後においても、新たに得られた情報に照らし非違があると認めるときは質問検査等を行うことができると定めています。要件は「新たに得られた情報」があることです。

出典

本記事は一般的な情報提供であり、個別の税務相談ではありません。記載は2026年8月16日時点で確認した法令に基づいています。調査の対象期間、事前通知の要否、手続の進め方、加算税の要否と金額は、税目、申告の内容、事実関係によって変わりますので、実際の対応にあたっては顧問税理士または所轄の税務署へご確認ください。

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