原価計算 — 税法は原価の積み方を定めていない。書いてあるのは「外していい費用」と「ズレの始末」だけ
原価計算は簿記のテキストでは「材料費・労務費・経費を集めて製品に配賦する手続」と説明されます。ところが実際に製造業の決算を組むと、まず出てくる疑問は配賦の方法ではありません。「この積み方で税務署に通るのか」です。
結論から言うと、法人税法は原価の積み方を定めていません。法人税法施行令32条2項は、法人が算定した製造原価が施行令の定める金額と異なっていても、次の条件を満たすかぎりその金額をそのまま取得価額とみなす、と書いています。
内国法人が前項第二号に掲げる棚卸資産につき算定した製造等の原価の額が同号イ及びロに掲げる金額の合計額と異なる場合において、その原価の額が適正な原価計算に基づいて算定されているときは、その原価の額に相当する金額をもつて当該資産の同号の規定による取得価額とみなす。
「適正な原価計算に基づいて算定されているとき」——これだけです。何が適正な原価計算かを、条文も政令も定義していません。税法は原価の計算そのものを企業の会計に委ねています。
では税法は原価について何も言っていないのかというと、そうではありません。書いてあるのは2つだけです。ひとつは「原価から外していい費用」(法人税基本通達5-1-3・5-1-4)、もうひとつは「自社の原価と条文の原価がずれたときの始末」(同5-3-1以下の原価差額の調整)です。この記事は、その2つを条文と通達の原文で確かめていきます。
- 原価計算の方法は条文にない。施行令32条2項が「適正な原価計算」なら自社の計算額を取得価額とみなす
- 製造原価に算入しないことができる費用が通達5-1-4に13項目。事業税・借入金利子・工場の寄附金などが並ぶ
- 製造後の検査・移管・長期保管の費用は、製造原価のおおむね3%以内なら取得価額に入れなくてよい(通達5-1-3)
- 原価差額が総製造費用のおおむね1%以内で、かつ明細書を確定申告書に添付すれば調整不要(通達5-3-3)
- 1%の判定単位は、事業の種類ごと→製品の種類ごと→工場ごと→上期・下期と細分できる
- 調整が義務づけられているのは原価が過小な側だけ。過大な側は通達5-3-9が限定的に認めるにとどまる
税法は原価計算の方法を定めていない
法人税法29条は、期末棚卸資産の価額を「政令で定める評価の方法のうちからその内国法人が……選定した評価の方法により評価した金額」とし、計算の中身を政令に投げています。その政令が法人税法施行令32条で、条文はまず取得価額の作り方を資産の区分ごとに定めます。
第二十八条第一項(棚卸資産の評価の方法)又は第二十八条の二第一項(棚卸資産の特別な評価の方法)の規定による棚卸資産の評価額の計算の基礎となる棚卸資産の取得価額は、別段の定めがあるものを除き、次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
2号が自社で製造したものです。イとして掲げられているのがこれです。
当該資産の製造等のために要した原材料費、労務費及び経費の額
原材料費・労務費・経費——原価計算でいう原価の3要素が、そのまま条文に置かれています。ここまでは条文が原価の中身を決めているように読めます。ところが直後の2項が、この1項2号の金額を上書きできるようにしています(冒頭に引いた条文)。
1項2号は「条文が定める取得価額」、2項は「自社の原価計算による取得価額」です。両者が一致しないことは条文が織り込み済みで、2項は一致しない場合の扱いをわざわざ書いています。つまり原価計算の結果が条文の金額とずれること自体は、異常ではありません。異常なのはそのずれを放置することで、それが後半で扱う原価差額の話になります。
製造原価に算入しないことができる13項目(通達5-1-4)
税法が原価について明示的に書いている1つ目が、これです。法人税基本通達5-1-4は次のように始まります。
次に掲げるような費用の額は、製造原価に算入しないことができる。
「算入しないことができる」——義務ではなく任意です。入れてもよいし、外してもよい。実際に掲げられているのは13項目で、経理の直感からは意外なものが混じっています。
| 号 | 費用の内容(要旨) | 実務での位置づけ |
|---|---|---|
| (1) | 創立何周年記念賞与のように特別に支給されることが明らかな賞与(通常賞与相当額を除く) | 通常の賞与は労務費のまま。特別分だけを外せる |
| (2) | 試験研究費のうち、基礎研究・応用研究の費用と、工業化研究に該当することが明らかでないもの | 製品に紐づかない研究は原価に乗せなくてよい |
| (3) | 特別償却の適用を受ける資産の償却費のうち特別償却限度額に係る部分 | 政策的な上乗せ償却が製品原価を膨らませない |
| (4) | 工業所有権等の使用料が売上高等に基づく場合のその使用料と、頭金の償却費 | 売上連動のロイヤルティは製造原価の外に置ける |
| (5) | 生産数量等に基づく使用料に最低使用料の定めがある場合の、生産数量等による計算額を超える部分 | 最低保証の上乗せ分だけを切り離せる |
| (6) | 複写して販売するための原本となるソフトウエアの償却費 | マスター原本の償却は複製品の原価に乗せなくてよい |
| (7) | 事業税及び特別法人事業税 | 工場に課される税でも製造原価から外せる |
| (8) | 事業の閉鎖・規模縮小等のため大量に整理した使用人に支給する退職給与 | リストラ費用が製品原価に混ざらない |
| (9) | 生産を相当期間にわたり休止した場合の、その休止期間に対応する費用 | 操業休止中の固定費を在庫に閉じ込めない |
| (10) | 償却超過額その他税務計算上の否認金 | 否認された額が在庫に残って翌期へ繰り越されない |
| (11) | 障害者雇用促進法53条1項に規定する障害者雇用納付金 | 納付金は製品原価の外に置ける |
| (12) | 工場等が支出した寄附金 | 支出した場所が工場でも、原価にしなくてよい |
| (13) | 借入金の利子 | 金利負担は製品原価に含めなくてよい |
項目の個数は、国税庁の通達原文を取得して本文の「(1)」〜「(13)」を機械的に数えた実測値です(2026年8月19日取得)。目で数えると枝番号や項目の折り返しで数え違えるため、この記事では条文・通達の項目数はすべて機械で数えています。
並べてみると1つの方針が見えます。製品を1個作るという事実と結びつかない支出は、原価から外してよいということです。借入金の利子(13号)はいくら工場の設備資金でも製品の量とは無関係ですし、休止期間の費用(9号)は作っていない期間の費用です。これらを製造原価に入れると、期末在庫に配賦されてその分だけ当期の損金が減ります。外せるということは、当期の損金にできるということです。
13項目はいずれも任意です。原価に入れても誤りではありません。ただし棚卸資産の評価は継続性が問われる領域なので、期ごとに入れたり外したりすると、原価計算そのものが「適正」と言いにくくなります。どちらを採るかより、採った側を続けているかが問われる場面が多いのが実務です。
製造後の費用は「製造原価の3%以内」なら外せる(通達5-1-3)
5-1-4が費目そのものを外す規定なのに対し、5-1-3は金額の小ささを理由に外す規定です。
自己の製造等に係る棚卸資産の取得価額には、その製造等のために要した原材料費、労務費及び経費の額の合計額のほか、これを消費し又は販売の用に供するために直接要した費用の額が含まれるのであるが、次に掲げる費用については、これらの費用の額の合計額が少額(当該棚卸資産の製造原価のおおむね3%以内の金額)である場合には、その取得価額に算入しないことができるものとする。
掲げられているのは3つです。
- 製造等の後において要した検査、検定、整理、選別、手入れ等の費用
- 製造場等から販売所等へ移管するために要した運賃、荷造費等
- 特別の時期に販売するなどのため、長期にわたって保管するために要した費用
ここで見落とされやすいのが分母です。購入した棚卸資産についても同じ構造の規定(通達5-1-1)がありますが、2つは分母が違います。
| 購入した棚卸資産(5-1-1) | 製造等に係る棚卸資産(5-1-3) | |
|---|---|---|
| 3%の分母 | 購入の代価 | 製造原価 |
| 掲げられている費用 | 3項目(買入事務・検収・整理・選別・手入れ等/販売所間の移管/長期保管) | 3項目(製造後の検査・検定・整理・選別・手入れ等/製造場から販売所への移管/長期保管) |
| 判定の単位(注1) | 事業年度ごと、かつ種類等を同じくする棚卸資産ごと(事業所別に異なる評価方法を選定していれば事業所ごと) | 事業年度ごと、かつ種類等を同じくする棚卸資産ごと(工場別に原価計算を行っている場合は工場ごと) |
製造の側は、判定の単位が工場別に原価計算を行っているかどうかで変わります。原価計算の作り方が、そのまま税務上の判定単位を決めているわけです。この「原価計算の単位が判定の単位になる」という発想は、次に見る原価差額の1%基準でさらに強く出てきます。
原価差額 — 自社の原価と条文の原価がずれたとき
税法が原価について書いている2つ目が、こちらです。標準原価や予定価格で日々の計算を回していれば、期末には必ず実際額との差が出ます。それを通達は原価差額と呼びます。
法人が各事業年度において製造等をした棚卸資産につき算定した取得価額が、令第32条第1項《棚卸資産の取得価額》に規定する取得価額に満たない場合には、その差額(以下この節において「原価差額」という。)のうち期末棚卸資産に対応する部分の金額は、当該期末棚卸資産の評価額に加算する。
読むときに大事なのは、この条文が「満たない場合」しか書いていないことです(この非対称は後で扱います)。そして「差額」の範囲は狭くありません。
原価差額には、材料費差額、労務費差額、経費差額等のほか、内部振替差額を含むことに留意する。
内部振替差額まで含む、と念を押しています。工程間や工場間で振り替えるときに社内振替価格を使っていれば、そこで出る差も原価差額です。原価計算を細かく作り込んでいる会社ほど、拾うべき差額の種類が増えるという関係になります。
1%以内なら調整不要。ただし明細書の添付が条件(通達5-3-3)
原価差額が出るたびに期末棚卸資産へ配賦していては実務が回りません。そこで通達は少額のものを外します。
原価差額が少額(総製造費用のおおむね1%相当額以内の金額)である場合において、法人がその計算を明らかにした明細書を確定申告書に添付したときは、原価差額の調整を行わないことができるものとする。
条文は「原価差額が少額(総製造費用のおおむね1%相当額以内の金額)である場合において、法人がその計算を明らかにした明細書を確定申告書に添付したときは」という書き方です。金額の要件と書類の要件が両方かかっています。1%以内であることを確かめただけで何も添付していなければ、この取扱いの前提を満たしていません。
そして、この1%の判定単位が段階的に細かくできるのが通達の作りです。
| 単位 | 根拠 | 条件 |
|---|---|---|
| 事業の種類ごと | 5-3-3(注) | 原則の単位 |
| 製品の種類の異なるごと | 5-3-3(注) | 製品の種類別に原価計算を行っており、継続してその判定を行う場合 |
| 工場ごと | 5-3-4 | 原価差額の調整単位を更に工場ごとに細分している場合 |
| 上期・下期 | 5-3-2の2 | 事業年度が1年の法人が、継続適用を条件に期間を区分する場合 |
工場ごとの規定は、全体で1%を超えてもなお救う形になっています。
原価差額が事業の種類ごと又は製品の種類の異なるごとの総製造費用のおおむね1%相当額を超える場合においても、法人が原価差額の調整単位を更に工場ごとに細分しているときは、各工場における当該調整単位ごとの原価差額のうちそれぞれの総製造費用の1%相当額以内のものについては、5-3-3に準じて調整を行わないことができるものとする。
「1%相当額を超える場合においても」——全体で超えていることを前提にした規定です。ただし救われるのは各工場のうち1%以内に収まっている分だけで、超えている工場の差額はそのまま残ります。また「5-3-3に準じて」とあるので、明細書の添付という条件も引き継ぎます。
数字で見る — 総製造費用8,000万円のケース
金額を置いて追ってみます。総製造費用8,000万円、期末の製品・半製品・仕掛品の合計が1,200万円、売上原価が4,800万円の会社を想定します(いずれも法人の計算額)。
| 原価差額 | 総製造費用に対する割合 | 通達5-3-3の判定 |
|---|---|---|
| 60万円 | 0.75% | おおむね1%以内 → 明細書を確定申告書に添付すれば調整しないことができる |
| 100万円 | 1.25% | 1%超 → 調整が必要(下記の工場別・簡便法へ進む) |
差額100万円のケースを、工場別に分けてみます。A工場の総製造費用5,000万円・差額30万円(0.60%)、B工場の総製造費用3,000万円・差額70万円(2.33%)だったとします。全体では1.25%で超えていますが、調整単位を工場ごとに細分していれば、通達5-3-4によりA工場の30万円は1%以内なので調整しないことができ、残るB工場の70万円を調整することになります。
この配分は説明のために置いた数値例です。実際にどの単位で判定できるかは、その会社が原価計算をどの単位で行っているかによって決まります。
簡便調整方法の算式と、直接原価計算だと使えないこと
調整が必要になったとき、仕掛品→半製品→製品と順に配賦していくのが本来の姿ですが、通達5-3-5は一括で配賦する簡便法を認めています。通達に掲げられている算式は次のとおりです。
原価差額 × 期末の製品、半製品、仕掛品の合計額 ÷(売上原価 + 期末の製品、半製品、仕掛品の合計額)
先ほどのB工場の差額70万円をこの式に当てはめると、期末の製品・半製品・仕掛品の合計が1,200万円、売上原価が4,800万円なら、70万円 × 1,200万円 ÷(4,800万円+1,200万円)= 14万円が期末棚卸資産に配賦されます。残る56万円は当期の売上原価に対応する部分として、当期の損金のまま残る計算です。
この算式には注が3つ付いており、3つ目が実務で効きます。
法人が直接原価計算制度を採用している場合には、この調整方法の適用はない。ただし、この調整方法を適用することについて、合理性があると認めて所轄税務署長(国税局の調査課所管法人にあっては、所轄国税局長)が承認をした場合には、この限りではない。
直接原価計算は固定製造費を製品原価に配賦せず期間費用として処理する方法なので、期末棚卸資産に固定費が乗りません。そのため「期末棚卸資産に一括配賦する」という簡便法の前提が成り立たない、という整理と理解されます。ただし通達は完全に閉ざしてはおらず、合理性があると認めて所轄税務署長(国税局の調査課所管法人にあっては所轄国税局長)が承認した場合には適用できるとしています。
なお、注1は「算式中の分母及び分子の金額は、法人の計算額による」、注2は「この算式は、事業の種類ごと(法人が原価差額が少額かどうかの判定を製品の種類の異なるごとに行うこととしている場合には、製品の種類の異なるごと)に適用する」としています。1%の判定をどの単位で行ったかが、そのまま算式を当てる単位を決めます。
調整が義務づけられているのは、原価が過小な側だけ
ここまで見てきた5-3-1から5-3-5までは、すべて自社の原価が条文の原価に「満たない」場合の話です。では逆に、自社が原価を高く積みすぎていたら(貸方原価差額)どうなるのか。通達は節の最後に、限定的な規定を置いているだけです。
法人が棚卸資産につき算定した取得価額が令第32条第1項《棚卸資産の取得価額》に規定する取得価額を超える場合のその差額のうち、法又は措置法の規定により損金の額に算入されないため確定申告に際して自己否認した金額から成る部分の金額については、当該申告に係る申告書においてその調整を行うことができるものとする。
調整できるのは差額の全部ではなく、「法又は措置法の規定により損金の額に算入されないため確定申告に際して自己否認した金額から成る部分の金額」に限られます。たとえば償却超過額のように、税務上すでに否認して所得に加算している額が製造原価に含まれていたなら、その分は棚卸資産の評価から抜ける、という趣旨です。
| 原価が過小(借方原価差額) | 原価が過大(貸方原価差額) | |
|---|---|---|
| 根拠 | 通達5-3-1 | 通達5-3-9 |
| 条文の書きぶり | 期末棚卸資産の評価額に加算する | 申告書においてその調整を行うことができる |
| 対象 | 差額のうち期末棚卸資産に対応する部分(要旨) | 差額のうち自己否認した金額から成る部分に限る(要旨) |
| 1%の少額基準 | あり(5-3-3・5-3-4) | 規定なし |
| 所得への向き | 調整すると所得が増える | 調整すると所得が減る |
並べると、扱いの違いが所得の向きと一致していることが分かります。所得が増える方向の調整は「加算する」と言い切り、減る方向の調整は対象を絞って「できる」にとどめている——原価計算をどう組むかは企業に委ねる一方で、原価を低く積んで在庫の評価を下げる経路だけは塞いでおく、という構えです。冒頭の「税法は原価の積み方を書いていない」は、放任という意味ではありませんでした。
小規模な会社・副産物・助成金・見積りの扱い
第5章第1節第2款には、原価計算の実務でよく当たる場面の規定がいくつか置かれています。
製造間接費の配賦が難しい場合(通達5-1-5)
法人の事業の規模が小規模である等のため製造間接費を製品、半製品又は仕掛品に配賦することが困難である場合には、その製造間接費を半製品及び仕掛品の製造原価に配賦しないで製品の製造原価だけに配賦することができる。
半製品と仕掛品への配賦を省いて、製品だけに配賦してよいという規定です。前提は「事業の規模が小規模である等のため……困難である場合」なので、規模の大きい会社が手間を理由に使えるものではありません。
副産物・作業くず・仕損じ品(通達5-1-7)
製品の製造工程から副産物、作業くず又は仕損じ品(以下5-1-7において「副産物等」という。)が生じた場合には、総製造費用の額から副産物等の評価額の合計額を控除したところにより製品の製造原価の額を計算するのであるが、この場合の副産物等の評価額は、継続して当該副産物等に係る実際原価として合理的に見積った価額又は通常成立する市場価額によるものとする。
副産物等の評価額を総製造費用から控除して製品の製造原価を計算します。評価額は継続して実際原価として合理的に見積った価額か、通常成立する市場価額によります。同通達のただし書は、価額が著しく少額である場合には備忘価額で評価することができるとしています。
雇用調整助成金などを受け取ったとき(通達5-1-6)
休業手当・賃金・職業訓練費等の経費を補塡するために雇用保険法などの法令に基づく給付金の交付を受けた場合で、その対象となった経費を製造原価に算入しているときは、交付を受けた金額のうち製造原価に算入した経費に対応する金額を製造原価の額から控除することができるとされています。収益に立てるか原価から引くかで、期末在庫に乗る金額が変わります。
購入代価が期をまたいで確定した場合(通達5-1-2)
見積価額で取得価額を計算していて後の事業年度に代価が確定したときは、確定した金額と見積価額との差額を、その確定した日の属する事業年度の益金又は損金に算入します。ただし、と続きます。
ただし、その差額が多額である場合には、その差額については、原価差額の調整方法に準じて調整する。
差額が多額なら、期ズレで一括処理するのではなく原価差額の調整方法に準じる——ここでも原価差額の枠組みが呼び出されます。
法人税の簡易計算 — 所得金額から税額を試算するよくある質問
Q. 原価計算の方法は税法で決まっていますか?
A. 決まっていません。法人税法施行令32条1項2号は、製造等に係る棚卸資産の取得価額を「原材料費、労務費及び経費の額」の合計額などと定めていますが、同条2項は、法人が算定した製造等の原価の額が1項2号の金額と異なる場合でも「その原価の額が適正な原価計算に基づいて算定されているとき」はその金額を取得価額とみなすとしています。つまり原価計算の方法そのものは条文に書かれておらず、適正であることを条件に企業の計算が受け入れられる建て付けです。
Q. 原価差額とは何を指しますか?
A. 法人が算定した取得価額が、法人税法施行令32条1項に規定する取得価額に満たない場合のその差額をいいます(法人税基本通達5-3-1)。標準原価や予定価格で計算していると実際額との差が出ますが、同5-3-2は「原価差額には、材料費差額、労務費差額、経費差額等のほか、内部振替差額を含むことに留意する」としており、材料・労務・経費の差だけでなく社内の振替から生じる差額も含まれます。
Q. 原価差額が少額なら調整しなくてよいと聞きましたが、条件はありますか?
A. 金額の要件のほかに、書類の要件があります。法人税基本通達5-3-3は、原価差額が少額(総製造費用のおおむね1%相当額以内の金額)である場合において「法人がその計算を明らかにした明細書を確定申告書に添付したとき」は調整を行わないことができるとしています。1%以内であれば自動的に不要になるのではなく、明細書を確定申告書に添付することが条件として書かれています。
Q. 原価差額が1%を超えたら、必ず全部調整するのですか?
A. 通達は判定の単位を細分することを認めています。法人税基本通達5-3-3の注は、判定は事業の種類ごとに行うが、製品の種類別に原価計算を行っている場合には継続して製品の種類の異なるごとに判定できるとしています。さらに同5-3-4は、事業の種類ごと又は製品の種類ごとで1%を超える場合でも、調整単位を更に工場ごとに細分しているときは、各工場で1%相当額以内のものについて5-3-3に準じて調整を行わないことができるとしています。
Q. 原価を高く積みすぎていた場合も調整が必要ですか?
A. 通達が調整を定めているのは、原価が過小な側だけです。法人税基本通達5-3-1は、算定した取得価額が施行令32条1項の取得価額に「満たない場合」の処理を定めています。逆に超える場合については同5-3-9が、その差額のうち法又は措置法の規定により損金に算入されないため確定申告に際して自己否認した金額から成る部分について申告書で調整を行うことができるとしており、扱いが対称ではありません。
Q. 直接原価計算を採用していると、何か制約がありますか?
A. 原価差額の簡便調整方法が使えません。法人税基本通達5-3-5は、原価差額を仕掛品・半製品・製品の順に調整せず一括して期末棚卸資産に配賦する簡便法を認めていますが、その注3は「法人が直接原価計算制度を採用している場合には、この調整方法の適用はない」としています。ただし、適用することに合理性があると認めて所轄税務署長(国税局の調査課所管法人にあっては所轄国税局長)が承認をした場合は、この限りではないとされています。
出典
- e-Gov法令検索「法人税法」(昭和40年法律第34号)第29条(棚卸資産の売上原価等の計算及びその評価の方法)
- e-Gov法令検索「法人税法施行令」(昭和40年政令第97号)第28条(棚卸資産の評価の方法)、第32条(棚卸資産の取得価額)第1項第2号・第2項
- 国税庁「法人税基本通達」第5章第1節第1款 購入した棚卸資産 5-1-1(購入した棚卸資産の取得価額)、5-1-2(取得後の事業年度において購入代価が確定した場合の調整)
- 国税庁「法人税基本通達」第5章第1節第2款 製造等に係る棚卸資産 5-1-3(製造等に係る棚卸資産の取得価額)、5-1-4(製造原価に算入しないことができる費用)、5-1-5(製造間接費の製造原価への配賦)、5-1-6(法令に基づき交付を受ける給付金等の額の製造原価からの控除)、5-1-7(副産物、作業くず又は仕損じ品の評価)
- 国税庁「法人税基本通達」第5章第3節 原価差額の調整 5-3-1(原価差額の調整)、5-3-2(原価差額の範囲)、5-3-2の2(原価差額の調整期間)、5-3-3(原価差額の調整を要しない場合)、5-3-4(原価差額の調整を工場ごとに行っている場合の調整の省略)、5-3-5(原価差額の簡便調整方法)、5-3-9(申告調整できる貸方原価差額)
- 条文は e-Gov法令API v2(
/api/2/law_data/{law_id}?elm=Article_N)で条単位に取得(2026年8月19日取得)。通達は国税庁サイトの原文(Shift_JIS)を取得し、本記事の引用は取得した原文と機械で逐語照合した。通達5-3-5の算式は国税庁が画像で掲載しているため、掲載画像そのものを確認して転記した
本記事の確認範囲は、上記の各条文および通達の本文です。原価計算基準(企業会計審議会)、企業会計原則、企業会計基準委員会の各会計基準(棚卸資産の評価に関する会計基準を含む)、中小企業の会計に関する基本要領および指針、原価計算に関する消費税法上の取扱い、建設業などの業種別の会計処理、および法人税基本通達第5章第2節(原価法・低価法の各評価方法)の詳細は確認していません。棚卸資産の評価方法そのものについては棚卸資産の評価方法6種の違いを、売上原価がいつ損金になるかについては売上原価とはをご覧ください。また法人税法・法人税法施行令は取得時点の現行リビジョンで確認しており、これより後に施行される改正は反映していません。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。ある費用を製造原価に算入するかどうか、原価差額の調整単位をどう取るかは、その会社の原価計算の実態によって異なります。個別の判断については税理士へご確認ください。