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業務改善助成金【令和8年度】— 受付開始は9月1日、締切は都道府県ごとに違う。対象は事業場内最低賃金が令和7年度額以上・令和8年度額未満の事業場だけ

結論から言うと、業務改善助成金の令和8年度分は、交付申請の受付が令和8年9月1日に始まります。そして締切は全国一律ではありません。申請する事業場の都道府県で令和8年度の地域別最低賃金が発効する日の前日か、令和8年11月30日か、そのどちらか早い日までです。発効日は都道府県ごとに違うので、締切も都道府県ごとに違います。

もうひとつ、パンフレットの表面だけを読むと落としやすい要件があります。対象になる事業場は、事業場内最低賃金が令和8年度の地域別最低賃金より低い、というだけでは足りません。交付要綱の別表第1は、対象事業場を令和7年度地域別最低賃金以上・令和8年度地域別最低賃金未満と定めています。上限だけでなく下限もある「帯」です。いま払っている時給が去年の最低賃金にも届いていない事業場は、この助成金の対象になりません。

助成される額は、設備投資などにかかった費用に助成率を掛けた額と、コースごとの上限額を比べて安いほうの額です。上限額は30万円から600万円、助成率は事業場内最低賃金が1,050円未満なら4/5、1,050円以上なら3/4。この記事では、上限額と助成率の表を交付要綱の別表から起こしたうえで、リーフレットには書かれていない助成対象経費の下限10万円事業主単位の年間上限600万円約1年間は解雇も賃金引下げもできなくなる不交付事由まで、要綱・要領の条文で確かめられる範囲を示します。

対象になる事業場には、上限だけでなく下限もある

厚生労働省のリーフレットは、対象事業者の要件を3つ挙げています。中小企業・小規模事業者であること、事業場内最低賃金が令和8年度地域別最低賃金未満であること、解雇や賃金引下げなどの不交付事由がないことです。ここだけを読むと、要件は「令和8年度の最低賃金より低ければよい」と読めます。

しかし交付要綱の別表第1を見ると、第1欄の「対象事業場」の欄にはこう書かれています。

令和7年度地域別最低賃金以上令和8年度地域別最低賃金未満

つまり下限もあります。いま事業場で最も低い時給が、令和7年度の地域別最低賃金にすら届いていない場合、その事業場はこの助成金の対象外です。理屈としては分かりやすい話で、そもそも最低賃金法4条1項に違反している状態だからです。助成の対象は「これから引き上げる会社」であって「すでに払っていない会社」ではない、という線引きになっています。

事業場内最低賃金(事業場でいちばん低い時給) 対象外 最低賃金法違反の状態 ここだけが対象 交付要綱 別表第1 第1欄 対象外 すでに今年度の額に達している 時給が高い → 令和7年度の 地域別最低賃金(以上) 令和8年度の 地域別最低賃金(未満)
対象事業場は帯で決まる。地域別最低賃金は都道府県ごとに額が違うので、この帯の位置も幅も都道府県ごとに違う。

なお、この判定に使う「事業場内最低賃金」は事業場ごとに見ます。交付要綱4条1項が「当該事業場における雇入れ後6月を経過した労働者の当該事業場で最も低い時間当たりの賃金額」を事業場内最低賃金と定義しており、交付要領第2の6も申請と審査を事業場単位で行うと定めています。工場と事務所が別の場所にあるなら、別々に申請します。

受付は9月1日から。締切は都道府県ごとに違い、賃金引上げの締切とは1本ずれている

交付要綱5条は申請期間を「別途定める期間」とだけ書いており、実際の日付は交付要領にあります。交付要領は同じ「別途定める期間」という言葉を2か所で別々に定義していて、ここが実務でいちばん取り違えやすいところです。

まず、賃金を引き上げる期間(交付要領 第2の3)。

第1項の「別途定める期間」は、令和8年9月1日から申請事業場の都道府県において適用される令和8年度地域別最低賃金の発効日の前日までとする。

次に、申請そのものの期間(交付要領 第3の1)。

第1項の「別途定める期間」は、令和8年9月1日から申請事業場の都道府県において適用される令和8年度地域別最低賃金の発効日の前日又は同年 11月30日のいずれか早い日までとする。

始まりはどちらも令和8年9月1日で同じですが、終わりが違います。申請のほうにだけ「又は同年11月30日のいずれか早い日」という頭打ちが付いています。地域別最低賃金の発効日が11月30日より前にある都道府県では、どちらも同じ日になって差は出ません。差が出るのは発効日が12月以降にずれ込んだ都道府県で、その場合、申請は11月30日で締め切られる一方、賃金引上げ自体は発効日の前日まで認められることになります。

発効日の「当日」に引き上げると対象外になる

厚生労働省のリーフレットは、令和8年度の地域別最低賃金が10月1日に発効する場合を例に挙げています。発効日の前日である9月30日までに事業場内最低賃金の引上げを完了していれば対象、発効日当日の10月1日に実施すると対象外です。1日の違いで結論が変わります。理由は制度の目的にあります。この助成金は最低賃金の引上げに「先んじて」賃上げする事業場を支援するもので、発効日に引き上げたのでは法律に従っただけになるからです。

ここに、もうひとつ順序の縛りが重なります。交付要領 第2の7は次のように定めています。

事業場内最低賃金引上げの実施時期は、交付申請後から第2の3に定める期間に実施し、複数回に分けて事業場内最低賃金を引き上げることは認められない。

つまり賃金引上げは交付申請より後でなければなりません。先に上げてから申請することはできず、また「まず30円上げて、あとで20円上げて合計50円」という積み上げも認められません。就業規則等の改正と適用も、交付申請後に行います。

設備投資のほうにも別の縛りがあり、こちらは交付決定より後です。交付要領 第2の8が、設備投資等の実施と助成対象経費の支出を交付決定後から交付決定の属する年度の1月31日までに行う必要があると定めています。令和8年度に交付決定を受けたなら令和9年1月31日(日曜)までです。やむを得ない理由があるときは、理由書を添えて申請すれば3月31日まで延長される場合があります。

令和8年度の順序 — 上から順に、どれが先で どれが後か ① 交付申請できる期間 ← 申請の締切(発効日の前日か11/30の早い日) ② 賃金引上げ(申請より後・1回で) ← 賃金引上げの締切(発効日の前日) ③ 設備投資・支払(交付決定より後) 9/1 受付開始 交付決定 1/31 事業完了期限
申請の締切(①の右端)と賃金引上げの締切(②の右端)は同じではない。発効日が11月30日より後にずれた都道府県だけ、この2本が離れる。

助成上限額と助成率 — 1,050円という同じ数字が、2か所で別々に効く

交付要綱4条2項は、交付額の決め方をこう定めています。

助成対象経費の下限は10万円とし、助成金の交付の額は、助成対象経費に別表第1の第3欄に定める助成率を乗じた額又は同第4欄に定める引上げ労働者数に応じて、同第5欄に定める各コースの上限額のいずれか低い額とする。 なお、当該額に 1,000円未満の端数があるときは、その端数は切り捨てる。

「かけ算の結果」と「上限額」を比べて安いほうが交付額です。1,000円未満の端数は切り捨てという規定は、リーフレットには書かれていません。

コースは引上げ額で3つに分かれ、上限額は引き上げる労働者数で刻まれます。交付要綱の別表第1と別表第2を1つの表にすると次のとおりです。カッコ内は事業場規模30人未満の事業者に適用される額です。

引き上げる労働者数50円コース70円コース90円コース
1人30万円(40万円)40万円(50万円)90万円(100万円)
2〜3人40万円(70万円)50万円(100万円)150万円(240万円)
4〜5人70万円130万円270万円
6〜7人90万円180万円360万円
8人以上110万円230万円450万円
10人以上(特例事業者のみ)130万円300万円600万円

表を縦に見ると、規模30人未満のカッコ書きが効いているのは1人と2〜3人の行だけだと分かります。4人以上の行では両者が同じ額になります。小規模な事業場ほど、対象者が1〜3人にとどまりやすいので、その帯を厚くしている作りです。90円コースの2〜3人が150万円から240万円へ、1.6倍になるところが最も差の大きい箇所です。

助成率は別表第1の第3欄で、こちらは労働者数ではなく申請する事業場の引上げ前の事業場内最低賃金で決まります。

引上げ前の事業場内最低賃金助成率
1,050円未満4/5
1,050円以上3/4

ここで気づいておきたいのが、1,050円という同じ数字が、この制度の2か所に別々の意味で置かれていることです。ひとつは今見た助成率の境目(4/5か3/4か)。もうひとつは後述する特例事業者の賃金要件で、1,050円未満なら上限額の「10人以上」区分が使えるようになります。同じ境目をまたぐと、助成率と上限額が同時に動きます。時給1,049円の事業場と1,051円の事業場では、率も天井も違う制度が適用されると考えておくのが正確です。

厚生労働省が示している計算例

事業場内最低賃金が1,040円(助成率4/5)、8人の労働者を1,130円まで引き上げ(90円コースなので上限額450万円)、設備投資などの額が600万円というケースでは、600万円×4/5=480万円と、上限額450万円を比べて安いほうの450万円が支給されます。設備投資を増やしても、上限額に当たっている限り交付額は増えません。逆に言えば、上限額に届いていない場合は、投資額の5分の1(または4分の1)は必ず自己負担になります。

最低賃金チェッカーで、自分の時給が都道府県の最低賃金を満たしているか確かめる

「引き上げる労働者数」は、追い抜かれた人も数える

上限額を決めるのは「引き上げる労働者数」です。ここを事業場内最低賃金の人だけと考えると、実際より小さい上限額で申請してしまいます。厚生労働省のリーフレットは、事業場内最低賃金である労働者の賃金を引き上げることで賃金額が追い抜かれる労働者も算入されると説明しています。ただし、その人についても申請コースと同額以上の引上げが必要です。

リーフレットが挙げている例(事業場内最低賃金1,050円の事業場で70円コースを申請する場合)を整理すると、次の4通りになります。

区分状況算入
A事業場内最低賃金である労働者算入できる
B申請コース以上の引上げをしていない算入できない
CAに賃金額が追い抜かれる労働者で、かつ申請コース以上引き上げている算入できる
Dすでに引上げ後の事業場内最低賃金以上である算入できない

数える対象になる労働者にも条件があります。交付要領 第2の4は、引上げ労働者数の対象となる労働者を、雇用保険被保険者であって時間当たりの賃金額が最低賃金額以上であり、別表第1の第1欄の要件を満たす者としています。あわせて、賃金額の引上げは所定労働時間の短縮や所定労働日の減少を伴わないものである必要があるとも定めています。時給だけ上げて日数を減らせば、それは引上げとして数えません。リーフレットは対象を週所定労働時間20時間以上の雇用保険加入者と説明しています。

なお、令和7年度から令和8年度への変更点として、リーフレットは「引き上げる対象労働者は、雇用保険被保険者が対象となりました」と明記しています。前年度の感覚のまま人数を数えると、上限額の区分を1つ2つ取り違える可能性があります。

特例事業者の2つの要件 — 賃金要件と物価高騰等要件

上限額の表にあった「10人以上」の区分は、誰でも使えるものではありません。交付要綱4条3項が定める特例事業者だけが対象で、その中身は交付要領の別紙2にあります。要件は次の2つで、どちらか一方に当てはまれば特例事業者です。

要件内容受けられる拡充
① 賃金要件事業場内最低賃金が1,050円未満の事業場上限額の「10人以上」区分
② 物価高騰等要件原材料費の高騰など外的要因により、最近6か月間平均の売上高総利益率または売上高営業利益率が前年同期に比べ3%ポイント以上低下上限額の「10人以上」区分に加えて、助成対象経費の拡大

②の物価高騰等要件は、交付要領の別紙2が「事業場内最低賃金が 1,050円以上の事業場を含む」と明記しています。つまり時給1,050円以上を払っていても、利益率が落ちていればこちらの入口から特例事業者になれます。事業を始めて1年に満たず前年同期と比較できない場合は、事業開始日以降で適切と認められる期間の値と比較するとされています。賃金締切日がある場合は直前の賃金締切日から起算します。

②に該当する場合だけ、通常は対象外のパソコン・スマホ・タブレット等の端末と周辺機器の新規導入が助成対象経費に加わります。新規導入に限られるので、買い替えは対象になりません。申請にあたっては、交付要領の別添1-1(売上高総利益率)または別添1-2(売上高営業利益率)の申出書と、その証拠書類の提出が必要です。

令和7年度からの変更点として、物価高騰等要件の判定期間が「最近3か月間のうち任意の1月」から「最近6か月間平均」に変わっています。1か月だけ悪い月を選ぶことができなくなった、という向きの改正です。

助成対象経費は9区分。下限10万円と、10万円以上の相見積もり

助成対象経費は交付要綱の別表第3に列挙されています。9つです。

謝金、旅費、借損料、印刷製本費、原材料費、機械装置等購入費、造作費、経営コンサルティング経費、委託費

リーフレットは具体例として、POSレジシステム導入による在庫管理の短縮、リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮、国家資格者による顧客回転率の向上を目的とした業務フロー見直し、顧客管理情報のシステム化を挙げています。逆に、令和7年度に助成対象経費の特例となっていた自動車(特殊用途自動車を除く)は令和8年度から対象外になりました。

金額の面では2つの線があります。ひとつは前述の下限10万円(交付要綱4条2項)。これを下回る設備投資では、そもそも助成の対象になりません。もうひとつは契約の手続で、交付要領 第4の1が次のように定めています。

随意契約を行おうとする場合においては、契約予定額が10 万円未満の場合を除き、原則として、同一条件により二者以上の見積もりを徴し、交付決定がされた場合には、最低価格を提示した者と契約すること。

相見積もりを取るだけでなく、最低価格を提示した者と契約するところまでが条件です。付き合いのある業者に決めているなら、この点は事前に社内で共有しておく必要があります。中古品の場合はさらに厳しく、交付要領 第4の2は、価格設定の適正性が明確でない中古品については三者以上の古物商の許可を得ている中古品流通業者から型式や年式が記載された相見積もりを求めています。

交付決定より前に買うと、対象にならない

リーフレットの注意事項の筆頭がこれです。交付決定前に助成対象設備の導入を行った場合は助成の対象となりません。申請してから交付決定が出るまでの間に、良い条件の設備が見つかっても発注できないということです。あわせて、同一事業所の申請は年度内1回まで、予算の範囲内で交付するため申請期間内に募集を終了する場合がある、という2点も押さえておく必要があります。

複数の事業場を持っている場合の上限も決まっています。交付要領 第2の6は「事業主単位において、申請額の年間上限額は 600万円までとする。」と定めています。事業場ごとに申請できるとはいえ、事業主全体では年600万円が天井です。

中小企業事業者の線は「又は」。課税所得15億円超はみなし大企業

対象は中小企業事業者です。交付要綱2条1項が業種ごとに線を引いています。

業種資本金の額または出資の総額常時使用する労働者の数
卸売業・サービス業・小売業以外3億円以下300人以下
卸売業1億円以下100人以下
サービス業5千万円以下100人以下
小売業5千万円以下50人以下

条文は2つの基準を「又は」で結んでいます。資本金の基準か労働者数の基準か、どちらか一方を満たせば中小企業事業者に当たる読み方です。資本金3億円超でも労働者300人以下なら当たる、ということになります。業種の区分は日本標準産業分類(第14回改定・令和6年4月1日施行)に基づくと交付要領 第1が定めています。

ただし、これに当たってもみなし大企業として除かれる場合があります。交付要綱2条2項が6つ挙げており、一号から三号までは株式の所有や役員の兼任による支配関係、四号・五号はそれをもう一段たどった関係です。異質なのが六号です。

確定している(申告済みの)直近過去3年分の各年又は各事業年度の課税所得の年平均額が 15億円を超える中小企業事業者

資本金でも人数でも支配関係でもなく、課税所得で切っています。資本金5千万円・従業員30人の小売業でも、直近3年の課税所得の年平均が15億円を超えていれば大企業扱いです。少人数で高収益の事業を営んでいる会社は、ここで外れる可能性があります。なお同項は、中小企業投資育成株式会社と投資事業有限責任組合については大企業として取り扱わないという例外も置いています。

不交付事由 — 約1年間、解雇も賃金引下げもできなくなる

交付要綱4条4項は不交付事由を10号にわたって列挙しています。実務上いちばん重いのは一号で、対象となる期間が長いことが特徴です。条文は、様式第1号による申請書の提出日の前日から起算して6月前の日から、実績報告手続を行った日の前日または賃金額を引き上げてから6月を経過した日のいずれか遅い日までを対象期間としています。

つまり申請より前の6か月にさかのぼり、賃金引上げの後も6か月続くので、通算すると1年を超える期間が縛られます。この期間に次のいずれかがあると不交付です。

アの対象は当該事業場の一部の労働者ではありません。交付要領 第2の11が、一号中の労働者を当該事業場に所属するすべての労働者を対象とすると明示しています。同 第2の12は「その者の非違による」を労働者の責に帰すべき事由がある場合、「主として企業経営上の理由」をいわゆるリストラと説明しています。

イとウについては、交付要領 第2の13が救いを置いています。ここでいう引下げとは所定労働時間の短縮または所定労働日の減少が要因となっていわゆる手取り額を引き下げた場合を指すのであって、手当の支給要件の見直しや人事評価制度による賃金額の見直し等、正当な理由による要因であると所轄労働局長が認める場合は含まないとされています。制度の見直しが一律に不交付事由になるわけではない、ということです。ただし認めるかどうかを判断するのは労働局です。

エは併給の禁止です。交付要領 第2の14は、国または地方公共団体から同様の事由で補助金等の交付を受けていた場合は併給調整の対象となる場合があると補足しています。ものづくり補助金など他の制度と同じ設備を対象にしようとするときは、先に確認が必要です。

もう1つ見落とされやすいのが二号で、過去に業務改善助成金の交付を受けた事業場において、その助成事業完了日以後の労働者の賃金額がそのとき定めた事業場内最低賃金額を下回っている場合も不交付になります。過去の申請で約束した水準が、その後も生き続けるということです。七号の労働保険料の継続滞納は、交付決定までに納付を行った場合が除かれています。

事業場内最低賃金の計算 — 除外6項目のうち、省令にあるのは5つだけ

事業場内最低賃金は「事業場で最も低い時間給」ですが、支払っている賃金の全部を足して時給に直すわけではありません。厚生労働省は最低賃金の対象となる賃金から次の6つを除外するとしています。(1)臨時に支払われる賃金(結婚手当など)、(2)1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)、(3)所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)、(4)所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)、(5)午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)、(6)精皆勤手当、通勤手当及び家族手当。

ここで一段踏み込みます。この6項目のうち省令に書かれているのは5つだけです。最低賃金法4条3項は、算入しない賃金を次のように定めています。

次に掲げる賃金は、前二項に規定する賃金に算入しない。 一 一月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの 二 通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの 三 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金

受けた最低賃金法施行規則1条1項は、一号の賃金を次のように定めます。

最低賃金法(以下「法」という。)第四条第三項第一号の厚生労働省令で定める賃金は、臨時に支払われる賃金及び一月をこえる期間ごとに支払われる賃金とする。

これが(1)と(2)です。続く同条2項が二号を受けて3つの号を置き、所定労働時間をこえる時間の労働に対して支払われる賃金、所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金、そして深夜の割増部分を挙げます。これが(3)(4)(5)です。合計5つ。(6)の精皆勤手当・通勤手当・家族手当は、法にも省令にも書かれていません。

では根拠はどこかというと、4条3項三号の「当該最低賃金において算入しないことを定める賃金」です。個々の最低賃金の決定そのものが、算入しない賃金を定めている、という構造になっています。省令が全国一律に決めているのは(1)〜(5)だけで、(6)は最低賃金の決定の側にある、という違いです。実務では6つまとめて覚えて差し支えありませんが、根拠の階層が違うことは知っておくと、条文を引いたときに(6)が見つからなくて戸惑わずに済みます。

なお、時給以外の形で賃金を定めている場合の時給への換算方法は、最低賃金法施行規則2条が定めています。日給はその金額を1日の所定労働時間数で、月給は月における所定労働時間数(月によって異なる場合は1年間における1月平均所定労働時間数)で除する、という具合です。交付要領 第2の1も、時間当たりの賃金の算定に最低賃金法4条3項・4項および同施行規則2条を適用すると明示しています。この点は固定残業代(みなし残業)の記事で扱っている論点とも重なります。固定残業代は(3)に当たるため、最低賃金の計算では除外されます。

もうひとつ、深夜割増の時間帯について施行規則1条2項3号には例外があります。

午後十時から午前五時まで(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第三十七条第四項の規定により厚生労働大臣が定める地域又は期間については、午後十一時から午前六時まで)の間の労働に対して支払われる賃金のうち通常の労働時間の賃金の計算額をこえる部分

括弧書きの中に、時間帯が1時間ずれる地域・期間があることが書き込まれています。

名前は「助成金」だが、法令上は補助金である

最後に経理の観点から1つ。この制度の正式名称は中小企業最低賃金引上げ支援対策費補助金(業務改善助成金)です。交付要綱1条は、この助成金に適用される法令として、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(適正化法)とその施行令、そして厚生労働省所管補助金等交付規則の3つを最初に挙げ、そのうえで交付要綱の定めによるとしています。

ここは、キャリアアップ助成金のような雇用関係助成金との構造上の違いです。雇用関係助成金は雇用保険法とその施行規則に根拠を持つ給付ですが、業務改善助成金は国の補助金で、適正化法の適用対象です。実際に交付要綱4条4項四号は、過去5年以内に所轄労働局長から適正化法17条に規定する補助金等の決定の取消しその他これに準ずる処分を受けている場合を不交付事由に挙げています。

税務上の扱いは一般的な補助金と同じ考え方になります。法人税では受け取った額が益金に算入され、消費税では資産の譲渡等の対価ではないため不課税取引として扱うのが一般的です。この助成金は設備投資の費用に対する助成なので、キャリアアップ助成金のような人件費への助成と違い、固定資産の取得に充てた部分については圧縮記帳(法人税法42条以下)を検討する余地があります。ただし機械装置等購入費のほかに経営コンサルティング経費や委託費といった費用性の経費も対象になるので、交付額のうちどこまでが固定資産の取得に対応するかを整理する必要があります。個別の事業年度の処理は顧問税理士にご確認ください。

消費税については、課税仕入れに補助金が充てられた場合の仕入控除税額の返還という論点もあります。この助成金は設備投資という課税仕入れに直接対応するので、該当するかどうかを申告前に確かめておくのが安全です。

よくある質問

Q. 令和8年度の業務改善助成金は、いつから申請できますか?

A. 交付申請の受付開始日は令和8年9月1日です。厚生労働省は令和8年4月22日に令和8年度の交付要綱・交付要領を公開しており、その時点で受付開始日を9月1日と告知しています。締切は全国一律ではなく、申請する事業場の都道府県において適用される令和8年度地域別最低賃金の発効日の前日か、令和8年11月30日か、いずれか早い日までです。地域別最低賃金の発効日は都道府県ごとに違いますので、自社の事業場がある都道府県の発効日を確認してください。なお、予算の範囲内で交付する制度なので、申請期間内であっても募集が終了する場合があるとされています。受付開始からできるだけ早く動くことが実務上は安全です。

Q. すでに時給を引き上げてしまいました。あとから申請できますか?

A. できません。交付要領 第2の7が、事業場内最低賃金の引上げは交付申請後に実施するものと定めています。就業規則等の改正と適用についても、交付申請後に実際に引き上げた事業場内最低賃金を規定しなければならないとされています。同じ条項は、複数回に分けて事業場内最低賃金を引き上げることも認めていません。設備投資のほうはさらに一段厳しく、交付決定より後でなければ対象になりません。厚生労働省のリーフレットも、交付決定前に助成対象設備の導入を行った場合は助成の対象とならないと注意事項の筆頭に置いています。順序は、交付申請、交付決定、設備投資と賃金引上げ、事業実績報告、という流れになります。

Q. 事業場内最低賃金が今の地域別最低賃金と同額です。対象になりますか?

A. 交付要綱の別表第1第1欄は、対象事業場を令和7年度地域別最低賃金以上・令和8年度地域別最低賃金未満としています。令和7年度の額とちょうど同額であれば「以上」に当たるため、下限側の要件は満たします。上限側については、令和8年度の額に達していれば対象外です。令和8年度の地域別最低賃金がまだ発効していない時点では、いま払っている額が令和8年度の額に届いているかどうかで判断することになりますので、自社の都道府県の答申額を確認してください。なお判定に使う事業場内最低賃金は、雇用保険被保険者で雇入れ後6か月を経過した労働者のうち最も低い時間給です。入社直後の人の時給が最も低くても、その人は判定に入りません。

Q. パートが5人いますが、時給はばらばらです。上限額はどの区分になりますか?

A. 上限額を決める「引き上げる労働者数」は、事業場内最低賃金である労働者だけではありません。その人の賃金を引き上げることによって賃金額が追い抜かれる労働者も算入できます。ただし追い抜かれる側についても、申請コースと同額以上の引上げを行う必要があります。逆に、すでに引上げ後の事業場内最低賃金以上を払っている人は算入できません。また、対象となる労働者は雇用保険被保険者であることが必要で、リーフレットは週所定労働時間20時間以上の雇用保険加入者と説明しています。人数の詳しい数え方は厚生労働省の申請マニュアルに整理されていますので、区分の境目にあたる場合は労働局にご確認ください。

Q. 上限額の「10人以上」の区分を使いたいのですが、条件はありますか?

A. 特例事業者に該当し、かつ10人以上の労働者の賃金を引き上げる場合に限られます。特例事業者は2つあり、ひとつは賃金要件で、事業場内最低賃金が1,050円未満の事業場です。もうひとつは物価高騰等要件で、原材料費の高騰など社会的・経済的環境の変化等の外的要因により、最近6か月間平均における売上高総利益率または売上高営業利益率が前年同期に比べ3%ポイント以上低下している事業者です。物価高騰等要件のほうは、事業場内最低賃金が1,050円以上の事業場も対象に含まれると交付要領の別紙2が明記しています。物価高騰等要件で申請する場合は、売上高総利益率または売上高営業利益率の申出書と証拠書類の提出が必要です。

Q. パソコンを買いたいのですが、対象になりますか?

A. 原則として対象外です。パソコン、スマートフォン、タブレット等の端末と周辺機器は、特例事業者のうち物価高騰等要件に該当する場合に限って助成対象経費に加わります。しかも新規導入に限られるので、いま使っているパソコンの買い替えは対象になりません。賃金要件(事業場内最低賃金1,050円未満)だけで特例事業者になっている場合は、上限額の拡大は受けられますが、助成対象経費の拡大は受けられません。なお、令和7年度に助成対象経費の特例となっていた自動車(特殊用途自動車を除く)は、令和8年度から対象外になっています。前年度の情報を見て計画を立てると外しますので、必ず令和8年度の交付要綱・要領で確認してください。

Q. 助成金を受け取ったとき、経理ではどう扱いますか?

A. 一般に、受け取った額は法人税法上の益金(個人事業主であれば事業所得の総収入金額)に算入されます。消費税については、資産の譲渡等の対価ではないため不課税取引として扱うのが一般的です。この助成金は設備投資等の費用に対する助成なので、交付額のうち固定資産の取得に対応する部分については、国庫補助金等で取得した固定資産の圧縮記帳(法人税法42条以下)の適用を検討する余地があります。ただし助成対象経費には機械装置等購入費のほかに経営コンサルティング経費・委託費・原材料費といった費用性のものも含まれますので、交付額を按分して考える必要があります。また、課税仕入れに補助金が充てられた場合の仕入控除税額の調整という論点もあります。個別の事業年度における具体的な処理は顧問税理士にご確認ください。

Q. 複数の店舗を持っています。まとめて申請できますか?

A. 申請と審査は事業場単位で行いますので、店舗ごとに申請します。ただし交付要領 第2の6は、同一事業主が複数の事業場において申請を行う場合には、事業主単位において申請額の年間上限額を600万円までとすると定めています。事業場ごとの上限額を積み上げても、事業主全体では年600万円が天井です。また、同一年度内の同一事業場における申請は1回が上限とされています。過去に業務改善助成金を受給した事業場でも支給対象にはなりますが、その助成事業で定めた事業場内最低賃金額を下回っている場合は不交付事由に当たります。どの事業場から申請するかは、上限額の区分と設備投資の規模を見ながら決めることになります。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する助言ではありません。自社が中小企業事業者に当たるか、特定の事業場が対象事業場の要件を満たすか、実際に交付を受けられるかは、個別の事情および交付要綱・交付要領の定めによって結論が変わります。申請の可否・期限・必要書類については所轄の都道府県労働局(雇用環境・均等部室)へ、就業規則の改正については社会保険労務士へ、交付を受けた場合の税務処理については税理士へご確認ください。

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