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配偶者居住権 — 途中でやめると贈与税がかかる。短期居住権は登記できず、評価の耐用年数は1.5倍する

結論から言うと、配偶者居住権でいちばん税額を動かすのは、取得のしかたではなくやめ方です。配偶者が亡くなるまで持ち続けて消えたのなら、そこで課税は起きません。ところが同じ「消滅」でも、途中で所有者と合意して解除したり、配偶者が放棄したりすると、建物の所有者の側に贈与税がかかります。分けているのは条文ではなく、相続税法基本通達9-13の2と、その末尾に付いた(注)の1文です。

もう一つ、名前が似ているために混同されやすいのが配偶者短期居住権です。こちらは別の権利で、期間は最長でも遺産分割の確定まで。そして登記ができません。不動産登記法の全文を取得して数えたところ、「配偶者居住権」は3回出てくるのに対し、「配偶者短期居住権」は0回でした。登記できる権利を並べた3条の列挙にも、9号として入っているのは配偶者居住権だけです。

金額の計算でつまずきやすいのは耐用年数です。ここで使うのは減価償却でおなじみの年数そのものではなく、それを1.5倍した年数。木造住宅なら22年ではなく33年で計算します。相続税法施行令5条の7第2項が「一・五を乗じて計算した年数」と明記しています。この一手を忘れると、配偶者居住権の価額が実際より小さく出ます。

結論 — 消え方で税が変わる

配偶者居住権は、被相続人が所有していた建物に住んでいた配偶者が、その建物に無償で住み続けられる権利です。所有権は子などが取得し、住む権利だけを配偶者が持つ、という分け方ができます。2020年4月1日に施行された民法1028条から1036条までがこの権利を定めています。

この権利がよく「節税になる」と言われるのは、二次相続のときの姿によります。配偶者が亡くなると配偶者居住権は消滅し、建物の所有者は制約のない完全な所有権を回復しますが、そのとき所有者に相続税も贈与税もかかりません。配偶者が持っていた価値が、課税を受けずに所有者へ戻る形になります。

ところが、同じ消滅でも扱いが正反対になる消え方があります。分岐は次のとおりです。

配偶者居住権が消滅した (民法1028条〜1036条) 期間が満了して消えた 配偶者が亡くなって消えた 建物が全部滅失して消えた = 通達9-13の2 の (注) の場面 所有者と合意して解除した 配偶者が放棄した 1032条4項で所有者が消滅させた = 通達9-13の2 の本文の場面 所有者に課税は生じない (この扱いはないと明記) 対価が無い・著しく低いなら 建物等所有者に贈与税
配偶者居住権の消滅のしかたと課税。左は自然に消えた場面で課税されず、右は当事者が動いて消した場面で建物等所有者に贈与税が生じる。
「住まなくなったから返す」がいちばん危ない配偶者が高齢者施設へ移り、空いた家を売るために配偶者居住権を放棄する、という流れは実務でよく起こります。このとき所有者が対価を払わなければ、所有者は配偶者から利益を贈与により取得したものとして扱われます。相続のときに「二次相続で有利だから」と設定した権利が、途中でたたむと贈与税の課税を呼ぶ、という向きの逆転が起きます。

成立する入口は2つ。共有だと成立しない

民法1028条1項は、配偶者居住権を取得できる場合を2つの号で限定しています。遺産の分割によって取得するものとされたときと、遺贈の目的とされたときです。加えて1029条が、遺産分割の請求を受けた家庭裁判所が審判で取得を定められる場合を、さらに2つの号で限定しています。

ここで見落とされやすいのが、1028条1項のただし書です。被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合には、配偶者居住権は成立しません。前妻との子と共有していた、兄弟と共有していた、といったケースがこれに当たります。逆に、被相続人が配偶者と共有していた場合は成立します。この違いは評価にも表れていて、相続税法施行令5条の7第1項2号が、被相続人の持分の割合を乗じて価額を計算するよう定めています。

存続期間は、何も定めなければ終身です。

配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。

「10年間」「妻が80歳になるまで」といった有期の定めも置けますが、有期にすると評価が変わります(後述の存続年数のところで扱います)。なお、いったん設定した存続期間を後から延長することは、この条文の枠組みでは想定されていません。

配偶者短期居住権は別の権利

民法1037条から1041条までが定める配偶者短期居住権は、名前は似ていますが別の権利です。いちばん大きな違いは、取得の手続がいらないことと、期間が短いことです。

項目配偶者居住権配偶者短期居住権
条文民法1028条〜1036条民法1037条〜1041条
取得のしかた遺産分割・遺贈・審判要件を満たせば当然に発生
期間原則として終身(別段の定め可)分割で帰属が確定した日か、相続開始から6か月を経過する日の遅い方
できること使用および収益(賃貸も所有者の承諾があれば可)使用のみ(収益は含まれない)
登記できる(不動産登記法3条9号)できない
相続税の評価相続税法23条の2に規定あり規定なし(相続税法に0回)

1037条1項は、居住建物の帰属が遺産分割で決まる場合について、分割で帰属が確定した日相続開始の時から6か月を経過する日いずれか遅い日までと定めています。分割が3か月で終わっても6か月は住めますし、2年かかれば2年間住めます。分割の対象にならない場合(全部が遺贈された場合など)は、所有者からの消滅の申入れの日から6か月を経過する日までです。

1037条1項のただし書は、この権利が発生しない場合として、相続開始の時に配偶者居住権を取得したときと、891条(相続人の欠格事由)に該当し、または廃除によって相続権を失ったときの2つだけを挙げています。条文を機械で数えると、1037条の中に「廃除」は1回、「第八百九十一条」は1回出てくるのに対し、「放棄」は0回です。民法の本則全体では「放棄」は62回出てくるので、語そのものが検索から漏れているわけではありません。

相続税法にも不動産登記法にも「配偶者短期居住権」は無い民法・相続税法・相続税法施行令・不動産登記法・借地借家法の全文を取得して数えた結果は、民法12回・相続税法0回・施行令0回・不動産登記法0回・借地借家法0回でした。同じ走査で「配偶者」は135回・45回・35回・12回・0回、「相続」は615回・1528回・516回・28回・2回と返るので、探し方が死んでいるわけではありません。短期居住権は財産として評価されず、登記もできない——このことが、条文の側からそのまま読み取れます。

登記できるのは長期だけ。しかも自分では申請できない

不動産登記法3条は、登記することができる権利を10個の号で列挙しています。所有権・地上権・永小作権・地役権・先取特権・質権・抵当権・賃借権と並んで、9号に配偶者居住権が入っています。登記事項は81条の2が定めていて、存続期間と、第三者に使用・収益させることを許す旨の定めがあるときはその定めの2つが、通常の登記事項に加えて記録されます。

ここで実務上いちばん効いてくるのが、登記を備えさせる義務を誰が負っているかです。

居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。以下この節において同じ。)に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。

義務を負うのは所有者の側です。裏を返すと、配偶者が単独で登記を入れることはできず、所有者の協力が要るということでもあります。所有者が子であれば普通は問題になりませんが、所有者が前妻の子であるようなときは、遺産分割の合意書に登記への協力まで書き込んでおかないと、後で動かなくなります。

登記が入っていないと何が困るか。1031条2項が民法605条(不動産賃貸借の対抗力)を準用しているので、登記があれば建物が第三者に売られても住み続けられます。登記が無いままだと、その対抗ができません。設定しただけで登記していない配偶者居住権は、いちばん守ってほしい場面で守ってくれないということになります。

一方、配偶者短期居住権については、準用の条文が対抗力を持ち込んでいません。

第五百九十七条第三項、第六百条、第六百十六条の二、第千三十二条第二項、第千三十三条及び第千三十四条の規定は、配偶者短期居住権について準用する。

この列挙に1031条(登記等)は入っていません。代わりに1037条2項が、居住建物取得者に対して「第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない」という義務を課しています。これは取得者に向けられた義務であって、買った第三者に直接ぶつけられる対抗力とは作りが違います。

評価 — 相続税法23条の2の式を分解する

相続税での評価は相続税法23条の2が定めています。この条が扱うのは4つの価額です。配偶者居住権そのもの、配偶者居住権が付いた建物、敷地を使う権利(敷地利用権)、そして敷地の土地。相続税法の全文で「配偶者居住権」が出てくるのは23条の2の1か条だけで、出現回数は18回でした。つまり相続税法が配偶者居住権について書いているのは、評価の方法だけです。

1項の構造を式にすると次のようになります。

配偶者居住権の価額= 建物の相続税評価額 −
建物の相続税評価額 × (耐用年数 − 経過年数 − 存続年数)÷(耐用年数 − 経過年数) × 複利現価率

建物の価額(所有者側)= 建物の相続税評価額 − 配偶者居住権の価額

敷地利用権の価額= 土地の相続税評価額 − 土地の相続税評価額 × 複利現価率

土地の価額(所有者側)= 土地の相続税評価額 − 敷地利用権の価額

引き算の形になっているのが要点です。配偶者居住権を先に求め、残りが所有者側になります。建物と土地の合計は動かないので、配偶者の取り分が増えれば所有者の取り分はその分だけ減ります。

式に出てくる3つの数の意味は次のとおりです。

複利現価率は、23条の2第1項3号が「法定利率による複利の計算で現価を算出するための割合」と定め、具体的な数値は財務省令に委ねています。法定利率は民法404条2項が年3パーセントと定め、同条3項以下が3年を一期として変動する仕組みを置いています。相続税法基本通達23の2-4は、ここでいう法定利率は配偶者居住権が設定された時における民法404条の利率だと念を押しています。

耐用年数は1.5倍する。構造別の一覧

相続税法施行令5条の7第2項が、この1.5倍を定めている条文です。

法第二十三条の二第一項第二号イに規定する耐用年数に準ずるものとして政令で定める年数は、所得税法施行令第百二十九条(減価償却資産の耐用年数、償却率等)に規定する耐用年数のうち居住建物に係るものとして財務省令で定めるものに一・五を乗じて計算した年数(六月以上の端数は一年とし、六月に満たない端数は切り捨てる。)とする。

元になる年数は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の別表第一です。建物の「住宅用」の行を取り出して1.5倍し、端数処理をかけると次の表になります。掛け算と端数処理はこの記事で行ったものです。

構造住宅用の耐用年数1.5倍評価に使う年数
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造47年70.5年71年
れんが造・石造・ブロック造38年57年57年
金属造(骨格材の肉厚4mm超)34年51年51年
金属造(骨格材の肉厚3mm超4mm以下)27年40.5年41年
木造・合成樹脂造22年33年33年
木骨モルタル造20年30年30年
金属造(骨格材の肉厚3mm以下)19年28.5年29年

端数処理は施行令の括弧書きどおりで、0.5年は6か月ですから「六月以上の端数」に当たり、1年に切り上がります。鉄筋コンクリート造の70.5年が71年になるのはこのためです。

1.5倍を忘れるとどちらに外れるか耐用年数が大きくなるほど、式の中の割合(耐用年数 − 経過年数 − 存続年数)÷(耐用年数 − 経過年数)は1に近づきます。控除する額が大きくなるので、配偶者居住権の価額は小さく出ます。逆に1.5倍を忘れて22年のまま計算すると、配偶者居住権を実際より大きく評価することになります。築年数が古い木造では、22年のままだと耐用年数を経過年数が上回って割合がマイナスになり、条文が「零以下である場合には、零」としている扱いに落ちてしまいます。

「設定された時」がいつかで金額が動く

経過年数も存続年数も複利現価率も、すべて「配偶者居住権が設定された時」を基準に決まります。その時がいつなのかを定めているのが相続税法基本通達23の2-2で、1028条1項の号ごとに違います

取得のしかた設定された時実務上の意味
遺産の分割によって取得した(1028条1項1号)遺産の分割が行われた時分割が長引くほど後ろへずれる
遺贈の目的とされた(1028条1項2号)相続開始の時死亡の日で固定される

遺産分割で取得する場合、分割が1年遅れれば経過年数は1年増え、配偶者はその分だけ年齢を重ねて平均余命が短くなります。両方とも配偶者居住権の価額を押し下げる向きに効きます。同じ家・同じ人でも、分割の時期が違えば金額が違うということです。

もう1つ、増改築の扱いにも注意が要ります。相続税法基本通達23の2-3は、経過年数について、相続開始前に増改築がされた場合であっても増改築部分を区分することなく、新築時からの経過年数によると定めています。大規模なリフォームをしたから経過年数をリセットする、ということはできません。

平均余命は、相続税法基本通達23の2-5により、配偶者居住権が設定された時の属する年の1月1日現在において公表されている最新の完全生命表によります。年をまたぐと使う表が入れ替わることがあるので、年末年始に分割協議がまとまるときは確認が要ります。

実数で計算してみる

次の前提で計算します。数値は説明のための仮のものです。

耐用年数は木造住宅の22年を1.5倍して33年です。まず割合を出します。

(33 − 10 − 12)÷(33 − 10)= 11 ÷ 23

建物から控除する額は、2,300万円 × 11 ÷ 23 × 0.701 = 7,711,000円。したがって配偶者居住権の価額は 23,000,000円 − 7,711,000円 = 15,289,000円、建物の所有権は 7,711,000円 です。

土地の側は複利現価率だけで按分します。3,000万円 × 0.701 = 21,030,000円 が土地の所有権、残りの 8,970,000円 が敷地利用権です。

建物 23,000,000円 配偶者居住権 15,289,000円 所有権 7,711,000円 土地 30,000,000円 敷地利用権 8,970,000円 所有権 21,030,000円 配偶者が取得する課税価格 24,259,000円 所有者が取得する課税価格 28,741,000円 合計 53,000,000円
建物2,300万円・土地3,000万円を、経過年数10年・存続年数12年・複利現価率0.701で分けた場合の内訳。合計は変わらず、どちらに寄せるかだけが動く。

この例で配偶者が取得するのは 15,289,000円 + 8,970,000円 = 24,259,000円、所有者が取得するのは 7,711,000円 + 21,030,000円 = 28,741,000円 です。合計は 53,000,000円 で、分ける前と一致します。

そして配偶者が亡くなったとき、この 24,259,000円 に相当する価値は所有者の側へ移りますが、そこで課税は生じません。「節税になる」と言われているのは、この一次相続で配偶者に寄せた分が二次相続の課税を通らないことを指しています。ただし配偶者には相続税の配偶者に対する税額軽減があるため、一次相続で配偶者に寄せること自体の効果は元々小さい場合もあります。どちらが有利かは家族の構成と財産の規模で変わります。

端数処理は評価明細書の様式に従う上の計算は割り切れる数字を選んでいるため端数が出ていませんが、実際の申告では国税庁の「配偶者居住権等の評価明細書」の様式に沿って各段階の端数処理を行います。手計算の結果と明細書の結果が数円ずれることがありますので、申告書に載せる金額は明細書の側に合わせてください。
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消滅のしかたと課税 — 通達9-13の2

ここが、この記事でいちばん実害の出やすいところです。相続税法で配偶者居住権を扱っているのは23条の2の1か条だけで、消滅したときにどうなるかを定めた条文はありません。その空白を埋めているのが、相続税法9条(その他の利益の享受)に関する基本通達9-13の2です。

9-13の2が課税の対象として挙げているのは、次の3つの消え方です。

  1. 配偶者と建物所有者との間の合意により消滅した場合
  2. 配偶者による配偶者居住権の放棄により消滅した場合
  3. 民法1032条4項(建物所有者による消滅の意思表示)により消滅した場合

この3つのいずれかに当たり、かつ建物や敷地の所有者が対価を支払わなかったとき、または著しく低い価額の対価を支払ったときは、その所有者が、消滅の直前に配偶者が有していた配偶者居住権および敷地利用権の価額に相当する利益を、配偶者から贈与により取得したものとして取り扱うとされています。対価の支払があった場合は、その価額を控除した残りが対象です。

そして9-13の2には(注)が付いていて、この扱いが及ばない消え方を名指しで外しています。民法1036条が準用する597条1項(期間満了)・597条3項(借主の死亡)・616条の2(賃借物の全部滅失等)によって消滅した場合について、次のように書かれています。

の規定により配偶者居住権が消滅した場合には、上記の取り扱いはないことに留意する。

597条3項が準用されているところが要点です。使用貸借は借主の死亡によって終了する、という条文を配偶者居住権に持ち込んでいるので、配偶者が亡くなったことによる消滅はこの(注)の側に入り、贈与税の扱いを受けません。期間を定めていた場合の期間満了と、建物が全部滅失した場合も同じです。

消え方根拠建物等所有者への課税
配偶者が亡くなった民法1036条が準用する597条3項生じない
定めた存続期間が満了した民法1036条が準用する597条1項生じない
建物が全部滅失した民法1036条が準用する616条の2生じない
所有者と合意して消滅させた相続税法9条・通達9-13の2対価が無い・著しく低ければ贈与税
配偶者が放棄した相続税法9条・通達9-13の2対価が無い・著しく低ければ贈与税
用法違反で所有者が消滅させた民法1032条4項・通達9-13の2対価が無い・著しく低ければ贈与税

整理すると、自然に消えたものは課税されず、当事者が動いて消したものは課税されるという線引きです。相続税法9条は「対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合」を捉える一般規定ですから、通達はその一般規定を配偶者居住権の場面に当てはめたものだと読めます。

住み続ける側の義務 — 修繕・費用・譲渡禁止

配偶者居住権は「無償で住める」権利ですが、無償なのは対価であって、住むためにかかる費用まで免除されるわけではありません。民法1034条1項は、配偶者が居住建物の通常の必要費を負担すると定めています。日常の修繕や維持にかかる費用は配偶者の側です。

1033条は修繕について、配偶者が必要な修繕をすることができること、配偶者が相当の期間内に修繕をしないときは所有者が修繕できること、修繕を要するときや第三者が権利を主張するときは配偶者が所有者に遅滞なく通知しなければならないこと、の3項を置いています。通知義務が配偶者の側にあるのは、建物の状態を実際に知っているのが住んでいる人だからです。

そして、この権利の性質を決めているのが次の1文です。

配偶者居住権は、譲渡することができない。

売れません。担保にも入れられません。これが「デメリット」として語られることの中身です。住まなくなったときに換価する手段が無いので、たたむには所有者との合意か放棄しかなく、そこで前節の贈与税の話につながります。

1032条3項は、改築・増築第三者への使用・収益について所有者の承諾を要求しています。子ども夫婦を同居させる、空いた部屋を貸す、といった行為は承諾が要ります。1032条4項は、配偶者が用法遵守義務や3項に違反した場合に、所有者が相当の期間を定めて是正を催告し、期間内に是正されないときは意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができると定めています。この4項が、先ほどの贈与税の3つ目の場面です。

実務でつまずきやすい7点

  1. 被相続人が配偶者以外と共有していたら成立しない。1028条1項ただし書。登記簿の共有者欄を先に見ます。
  2. 設定しただけで登記しないと、第三者に対抗できない。登記義務は所有者の側なので、遺産分割協議書に協力義務を書いておきます。
  3. 短期居住権は登記できない。不動産登記法3条の列挙に入っていません。1037条2項の義務は取得者に向けられたものです。
  4. 評価の耐用年数は1.5倍。木造住宅は22年ではなく33年。忘れると配偶者居住権を過大に評価します。
  5. 「設定された時」は遺贈なら相続開始時、分割なら分割時。分割が長引くと金額が動きます。
  6. 増改築しても経過年数は新築時から。通達23の2-3。
  7. 途中でやめると所有者に贈与税。通達9-13の2。施設入居で家を売りたくなったときに効いてきます。

相続を放棄するかどうかの判断は相続放棄で、合意の書き方は遺産分割協議書で扱っています。本記事は配偶者居住権という個別の権利を担当しています。

よくある質問

Q. 配偶者居住権を設定すると、必ず相続税が安くなりますか?

A. 必ず安くなるとは言えません。一次相続の課税価格の合計は、配偶者居住権を設定してもしなくても変わりません。効果が出るのは二次相続の側で、配偶者に寄せた配偶者居住権と敷地利用権の価額が、配偶者の死亡による消滅では課税を受けずに所有者へ移るためです。ただし一次相続では配偶者に対する相続税額の軽減があるため、配偶者に寄せること自体の効果はもともと限定的な場合があります。家族の構成と財産の規模で結論が変わりますので、具体的な有利不利は税理士にご確認ください。

Q. 配偶者居住権を途中で放棄したら、税金はかかりますか?

A. 対価の授受がなければ、建物や敷地の所有者の側に贈与税がかかる扱いになります。相続税法基本通達9-13の2が、配偶者による放棄、所有者との合意、民法1032条4項による消滅の3つの場面について、所有者が対価を支払わなかったときや著しく低い価額の対価を支払ったときは、消滅の直前に配偶者が有していた配偶者居住権および敷地利用権の価額に相当する利益を、配偶者から贈与により取得したものとして取り扱うと定めています。他方で、配偶者が亡くなったことによる消滅、定めた期間の満了、建物の全部滅失については、同じ通達の注が、この取扱いはないと明記しています。

Q. 配偶者短期居住権は登記できますか?

A. できません。不動産登記法3条は登記することができる権利を列挙していますが、9号に入っているのは配偶者居住権だけで、配偶者短期居住権は挙げられていません。不動産登記法の全文を取得して数えたところ、「配偶者居住権」は3回出てくるのに対し「配偶者短期居住権」は0回でした。民法1041条の準用の列挙にも、登記について定めた1031条は含まれていません。

Q. 評価に使う耐用年数は、減価償却で使う年数と同じですか?

A. 違います。相続税法施行令5条の7第2項が、減価償却資産の耐用年数等に関する省令の年数のうち居住建物に係るものに1.5を乗じた年数によると定めています。端数は6月以上なら1年とし、6月に満たなければ切り捨てます。木造の住宅用は22年ですので、評価に使うのは33年です。鉄筋コンクリート造の住宅用は47年なので、1.5倍した70.5年の端数が6月以上に当たり、71年になります。

Q. 相続を放棄した配偶者にも、配偶者短期居住権はありますか?

A. 民法1037条1項のただし書が発生しない場合として挙げているのは、相続開始の時に配偶者居住権を取得したときと、891条に該当しまたは廃除によって相続権を失ったときの2つで、相続の放棄は挙げられていません。1037条の条文の中に「放棄」という語は0回で、民法の本則全体では62回出てくるため、語が検索から漏れているわけではありません。もっとも、放棄をした場合に実際にどう扱われるかは個別の事情と解釈にかかわりますので、判断は弁護士または税理士にご確認ください。

Q. 遺産分割が長引くと、配偶者居住権の評価額は変わりますか?

A. 変わります。相続税法基本通達23の2-2が、遺産の分割によって取得する場合の「配偶者居住権が設定された時」を遺産の分割が行われた時としているため、分割が遅れるほど建築からの経過年数が増え、同時に配偶者の年齢が上がって平均余命が短くなります。どちらも配偶者居住権の価額を小さくする向きに働きます。遺贈によって取得する場合は相続開始の時で固定されますので、この影響を受けません。

Q. 配偶者居住権が付いた家の固定資産税は誰が払いますか?

A. 固定資産税の納税義務者は登記簿上の所有者ですので、市区町村からの納税通知は所有者に届きます。他方で民法1034条1項は、配偶者が居住建物の通常の必要費を負担すると定めています。この2つの関係をどう整理するかは、実務では遺産分割の合意の中で取り決めておくのが一般的です。本記事は条文の定めまでを扱っており、当事者間の精算方法や地方税法上の取扱いには立ち入っていません。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の税務相談ではありません。具体的な申告や判断は、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。

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