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相続放棄の期限と手続き — 「3か月」は死亡日から数えない。放棄しても消えない義務が民法940条に残る

結論から言うと、相続放棄の「3か月」は、亡くなった日から数えるものではありません。民法915条1項が起算点として書いているのは「自己のために相続の開始があったことを知った時」です。死亡を知らなかった期間、自分が相続人になったと知らなかった期間は、この3か月には入りません。疎遠だった親族の債権者から突然通知が届いた、というよくある場面で、死亡から半年が経っていても直ちに手遅れとは限らないのは、この文言のためです。

もうひとつ、実務で取り違えられやすい点があります。相続放棄をしても、財産に触れなくてよくなるわけではありません。民法940条1項は、放棄した人がその時点で現に占有している財産については、次の相続人か相続財産の清算人に引き渡すまでの間、保存する義務を負うと定めています。空き家の鍵を持ったまま放棄しても、義務は消えるのではなく条文が入れ替わるだけです。

この記事では、期限の数え方、申述先と費用、放棄すると誰が相続人になるか、放棄しても残る義務、うっかり放棄できなくなる行為、限定承認との違い、そして相続税では「相続人」の意味が場面ごとに変わることまでを、条文の逐語で整理します。数字と条文番号はすべて e-Gov 法令API v2 で取得した原文で確認しています。遺産分割協議書法定相続情報一覧図との関係にも随時触れます。

「熟慮期間」という言葉は、条文には1回も出てこない

解説記事でよく使われる「熟慮期間」という語は、民法の条文テキスト226,737字を機械で走査しても0回です。さらに e-Gov 法令検索の全法令横断キーワード検索でも該当0件でした(同じ検索で「相続の放棄」は38件、「限定承認」は113件が返るので、検索経路自体は生きています)。条文が使っている言葉は、915条の見出しにある「相続の承認又は放棄をすべき期間」です。呼び名が通称であることを知っておくと、条文を探すときに迷いません。

期限は「死亡日から3か月」ではない — 915条1項の起算点

民法915条1項は、次のように定めています。

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

読み落とされやすいのは「自己のために」の5文字です。単に「被相続人が亡くなったことを知った時」ではありません。自分が相続人になったことを知った時という意味を含んでいます。第1順位の子が全員放棄したことで第2順位・第3順位に相続権が回ってきた場合、その人の3か月は、被相続人の死亡日でも、子が放棄した日でもなく、自分が相続人になったと知った時から進みます。

死亡=相続開始 882条 自己のために相続の開始が あったことを知った時 =ここが起算点 三箇月を経過 三箇月(915条1項) この間は期間に入らない 伸長:家庭裁判所へ申立て(915条1項ただし書・別表第一 九十の項) 再転相続:相続人が承認も放棄もせずに死亡したときは、その相続人の「知った時」から起算(916条)
図1 3か月の起算点は死亡日ではなく「自己のために相続の開始があったことを知った時」。期間の伸長と再転相続の起算点も条文が別に定めている。

起算点をずらす条文が、915条のほかに2本あります。

ひとつは916条です。相続人が承認も放棄もしないまま亡くなってしまった場合(再転相続と呼ばれる場面)の起算点を、次のように定めています。

相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

もうひとつは917条で、相続人が未成年者または成年被後見人であるときは、その法定代理人が知った時から起算すると定めています。本人が事情を知っていたかどうかではなく、代理人の認識で数える構造です。

917条は2028年12月23日施行の改正で語が入れ替わる

公表済みの未施行リビジョンを機械で突き合わせたところ、917条だけが将来の版で変わります。2028年12月23日施行の版では「成年被後見人」が「第十条第一項の規定による審判を受けた者」という表現に置き換わります。ただし起算点を法定代理人の認識で数えるという仕組みは変わりません。この記事が引用している民法20条分のうち、これ以外の19条は5つの未施行リビジョンすべてで本文が1文字も変わっていないことを確認しています。

3か月で調査が終わらない場合、915条1項ただし書により家庭裁判所に期間の伸長を申し立てることができます。請求できるのは「利害関係人又は検察官」で、相続人自身も利害関係人にあたります。この申立ては家事事件手続法の別表第一 九十の項「相続の承認又は放棄をすべき期間の伸長」として掲げられており、根拠条文として民法915条1項ただし書が明記されています。

なお915条2項は、承認や放棄をする前に相続財産の調査をすることができると定めています。調べること自体は、承認したことにはなりません。ただし調べ方によっては次章以降で扱う法定単純承認に触れることがあるため、そこは切り分けて考える必要があります。

手続きは家庭裁判所への申述 — どこに・何を書き・いくらかかるか

相続放棄の方式を定めているのは民法938条で、条文はこれだけです。

相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

ここで押さえておきたいのは、民法は「どの家庭裁判所か」を書いていないことです。管轄を定めているのは家事事件手続法201条1項です。

相続の承認及び放棄に関する審判事件(別表第一の九十の項から九十五の項までの事項についての審判事件をいう。)は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。

そして「相続が開始した地」がどこかは、民法883条が定めています。

相続は、被相続人の住所において開始する。

3本つなぐと、申述先は、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所になります。申述する側の住所ではありません。遠方に住んでいても、その家庭裁判所に申述します(書類の郵送で進められるのが通例です)。

申述書に書く事項は、家事事件手続法201条5項が2つだけ挙げています。

限定承認及びその取消し並びに相続の放棄及びその取消しの申述は、次に掲げる事項を記載した申述書を家庭裁判所に提出してしなければならない。

挙げられている号は「当事者及び法定代理人」「限定承認若しくはその取消し又は相続の放棄若しくはその取消しをする旨」の2つです。放棄する理由は、法律が求める記載事項には入っていません。実際の申述書の書式は各家庭裁判所が用意しており、条文に挙がっていない欄が含まれることがありますが、それは書式の作りであって、法律上の要件とは別のものです。

費用は、民事訴訟費用等に関する法律の別表第一で決まっています。同表一五の項「家事事件手続法別表第一に掲げる事項についての審判の申立て」の手数料を八百円と定めています。

相続放棄まわりの手続きと、法律上の手数料
手続き別表第一の項根拠条文手数料
相続の放棄の申述の受理九十五の項民法938条800円
相続の承認又は放棄をすべき期間の伸長九十の項民法915条1項ただし書800円
限定承認又は相続の放棄の取消しの申述の受理九十一の項民法919条4項800円

いずれも一律800円です。少額訴訟のように請求額に応じて階段状に上がるのとは違い、遺産の額がいくらであっても手数料は動きません。これは別表第一の一五の項が、家事事件手続法別表第一に掲げる事項をひとまとめにして800円と定めているためです。なお、このほかに裁判所へ納める郵便切手(予納郵券)が必要になりますが、その額は法律ではなく各裁判所の運用で決まるため、申述先の家庭裁判所に確認することになります。戸籍謄本などの添付書類の取得費用も別にかかります。

受理の効力が生じるタイミングも条文にあります。家事事件手続法201条7項は、受理の審判をするときは申述書にその旨を記載しなければならず、当該審判は申述書にその旨を記載した時に効力を生ずると定めています。申述人に通知が届いた時ではありません。なお、この7項は2028年6月13日施行の改正で、申述書への記載ではなく、最高裁判所規則で定めるところにより電磁的記録を作成してファイルに記録し、その記録をした時に効力が生じる形へ変わります(裁判手続のデジタル化に伴うものです)。

申述が却下された場合は、201条9項3号により申述人が即時抗告をすることができます。同項1号は期間伸長の申立てを却下する審判についても申立人の即時抗告を認めています。

放棄したことは戸籍には出てこない

相続放棄は家庭裁判所への申述なので、戸籍には何も記録されません。そのため法定相続情報一覧図には、放棄した人も相続人として記載されます(一覧図は戸除籍謄本等の記載に基づく書面だからです)。放棄したことを他の手続きで示すには、相続放棄申述受理証明書を別に取ることになります。遺産分割協議で相続人が結果的に1人になった場合も同じで、登記には放棄した人の受理証明書が別途必要になります。

放棄すると誰が相続人になるか — 放棄は代襲の原因ではない

放棄の効果を定めているのが民法939条です。

相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

「初めから」という言葉が効きます。放棄した時点から相続人でなくなるのではなく、最初から相続人ではなかったことになるのです。ここから、実務で最も誤解される帰結が出てきます。

子が相続放棄をしても、その子(被相続人から見た孫)は代襲相続しません。 代襲相続の原因を定める887条2項を読むと、理由がはっきりします。

被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。

代襲の原因として挙げられているのは①相続の開始以前の死亡 ②891条の欠格事由に該当 ③廃除の3つだけで、放棄はどこにも書かれていません。放棄は「相続権を失った」場面ではなく「初めから相続人でなかった」場面なので、代襲の入り口に立たないという整理です。

では誰に相続権が移るのか。889条1項が順位を定めています。

配偶者 常に相続人(890条) 第1順位 子 887条1項 第2順位 直系尊属 889条1項1号 第3順位 兄弟姉妹 889条1項2号 子が全員放棄 直系尊属も放棄/不在 孫へは行かない 887条2項に放棄が無い 甥・姪は代襲する 889条2項(一代限り)
図2 放棄で相続権は次順位へ移る。子の放棄では孫へ代襲しない一方、兄弟姉妹の死亡による代襲は889条2項が887条2項を準用して認めている。

889条1項は、887条によって相続人となるべき者がない場合に、1号 直系尊属(親等の近い者が先)、2号 兄弟姉妹の順で相続人になると定めます。そして同条2項が887条2項を兄弟姉妹について準用しているため、兄弟姉妹が先に亡くなっていれば甥・姪が代襲します。ただし準用されているのは2項だけで3項ではないので、甥・姪の子へさらに代襲することはありません。

配偶者は890条により常に相続人で、順位のある相続人がいればその者と同順位になります。したがって「配偶者と子」の家庭で子が全員放棄すると、相続人は配偶者と直系尊属、直系尊属もいなければ配偶者と兄弟姉妹という組み合わせに変わります。

借金を理由に放棄するなら、順位の全員で考える

債務を理由に子が放棄すると、その債務は次順位の親や兄弟姉妹に回ります。しかも次順位の人の3か月は、自分が相続人になったと知った時から進むため、放棄したことを伝えていないと知らないまま期間が過ぎることになりかねません。一方で、次順位の人が知らされないまま3か月が過ぎても、915条1項の起算点は「知った時」なので、直ちに期間が満了しているとは限りません。この点は事実関係で結論が変わるため、弁護士に確認することになります。

放棄しても消えない義務 — 940条の保存義務

「放棄すれば一切関係なくなる」という理解は、条文と食い違います。民法940条1項は次のとおりです。

相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

この条文の構造を、承認・放棄をするの義務を定めた918条と並べると、はっきりします。

相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。

918条のただし書は、放棄をすればこの管理義務が外れると書いています。にもかかわらず940条が別に保存義務を課している——つまり義務が消えるのではなく、根拠条文が918条から940条へ入れ替わるのが条文の作りです。

放棄の前後で、義務の根拠条文がどう入れ替わるか
場面根拠義務を負う対象いつまで
承認も放棄もしていない間918条本文相続財産(占有の有無を問わない)承認または放棄をするまで
放棄をした後940条1項放棄の時に現に占有している財産に限る次の相続人か相続財産の清算人に引き渡すまで

940条の要件は「現に占有している」ことです。遠方の不動産の存在すら知らなかった、鍵も持っていない、という状態であれば、この条文の義務は生じません。逆に、同居していた実家、預かっていた通帳や自動車のように手元にあるものは、放棄しても引き渡すまで面倒を見る必要があります。求められている水準は「自己の財産におけるのと同一の注意」で、自分の物と同じ程度に扱えばよく、他人の財産を預かるときのより重い注意(善良な管理者の注意)までは求められていません。

引き渡す相手として条文が挙げているのは「相続人」「第九百五十二条第一項の相続財産の清算人」です。全員が放棄して相続人がいなくなった場合、952条1項により利害関係人または検察官の請求で家庭裁判所が相続財産の清算人を選任します。同条2項は、選任したときは家庭裁判所が遅滞なく公告しなければならず、その期間は六箇月を下ることができないと定めています。相続人がいないまま片が付くには、少なくともこの期間がかかるということです。

費用の扱いも条文にあります。940条2項は、委任の規定である645条(報告義務)・646条(受取物の引渡し)・650条1項2項(費用の償還・債務の弁済)を準用しています。したがって、保存のために支出した費用は、相続人や相続財産の清算人に対して償還を請求できる建て付けになっています。ただし請求できるかどうかと、実際に回収できるかどうかは別の話です。

うっかり放棄できなくなる行為 — 法定単純承認

民法921条は、一定の行為があると単純承認をしたものとみなすと定めています。単純承認とは、920条により無限に被相続人の権利義務を承継することです。つまり借金も全部引き継ぎます。921条が挙げる場面は3つです。

1号は、財産を処分したときです。

相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

ただし書が2つの例外を挙げています。保存行為と、602条の期間を超えない賃貸です。602条は短期賃貸借の期間を次のように定めています。

民法602条が定める、処分にあたらない短期賃貸借の期間
対象上限期間
樹木の栽植または伐採を目的とする山林の賃貸借10年
それ以外の土地の賃貸借5年
建物の賃貸借3年
動産の賃貸借6か月

2号は、915条1項の期間内に限定承認も放棄もしなかったときです。何もしないことが、承認したことになるという規定で、3か月を意識しなければならない実質的な理由がここにあります。

3号が、この条の中でいちばん見落とされます。

相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

条文が明示しているとおり、放棄をした後であっても適用されます。放棄が家庭裁判所に受理されて安心し、遺品を売却した、預金を引き出して使った、という行為が3号に当たれば、単純承認したものとみなされます。前章の940条の保存義務と合わせて読むと、放棄した後こそ、財産に手を触れないことが重要という帰結になります。

ただし書も実務的です。放棄によって相続人となった次順位の人が承認した後は、3号は適用されません。次の相続人が確定して引き継いだ後まで、前の人を単純承認に引き戻さない、という切り分けです。

そして919条1項が、いったんした承認・放棄の後戻りを封じます。

相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。

3か月が残っていても撤回はできません。ただし919条2項により、総則編・親族編の規定による取消し(詐欺・強迫などによるもの)は妨げられません。この取消権は3項により、追認をすることができる時から6か月行使しないと時効で消滅し、承認または放棄の時から10年を経過したときも同様です。4項により、取消しもまた家庭裁判所への申述で行います。

限定承認との違い — 「全員で」「目録を付けて」

922条は、限定承認を「相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して」する承認と定めています。プラスの範囲で債務を払い、残ればもらえる、足りなくても持ち出しはない、という制度です。理屈のうえでは放棄より有利に見えますが、条文が2つの重い条件を課しています。

ひとつは923条です。

相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。

もうひとつは924条で、915条1項の期間内に相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出したうえで申述しなければならないと定めています。

相続放棄と限定承認の、条文上の違い
項目相続の放棄限定承認
単独でできるかできる(938条)できない。共同相続人全員が共同してのみ(923条)
財産目録条文上の要件ではない(938条)作成して家庭裁判所に提出(924条)
期限915条1項の期間内915条1項の期間内(924条が明示)
効果初めから相続人とならなかったものとみなす(939条)得た財産の限度でのみ債務と遺贈を弁済(922条)
被相続人に対する権利義務相続人でなくなるので承継しない消滅しなかったものとみなす(925条)
清算人の選任全員放棄なら利害関係人等の請求で選任(952条1項)相続人が数人なら裁判所が職権で選任(家事事件手続法201条3項)
手数料800円800円

923条の「全員が共同してのみ」という要件が、限定承認が使われにくい最大の理由です。相続人のうち1人でも協力しなければ選べません。逆に相続放棄は938条のとおり1人で申述できます。制度としての難易度がまるで違うことは、条文の書きぶりからそのまま読み取れます。

925条も特徴的で、限定承認をしたときは、相続人が被相続人に対して有していた権利義務は消滅しなかったものとみなすと定めています。相続人が被相続人にお金を貸していた場合、通常は相続によって債権者と債務者が同一人になり債権が消えますが、限定承認では消えず、他の債権者と並んで弁済を受ける立場が残るという趣旨です。

相続税では「相続人」の意味が場面ごとに違う

ここからは相続税の話です。相続税法では、同じ「相続人」という語が、条文の場面ごとに違う人の集合を指します。 起点は3条1項の柱書に置かれた括弧書きです。

この場合において、その者が相続人(相続を放棄した者及び相続権を失つた者を含まない。第十五条、第十六条、第十九条の二第一項、第十九条の三第一項、第十九条の四第一項及び第六十三条の場合並びに「第十五条第二項に規定する相続人の数」という場合を除き、以下同じ。)であるときは当該財産を相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは当該財産を遺贈により取得したものとみなす。

整理すると、こうなります。相続税法で「相続人」というときは、原則として放棄した人を含みません。ただし括弧書きが名指しで挙げた15条・16条・19条の2第1項・19条の3第1項・19条の4第1項・63条と、「第十五条第二項に規定する相続人の数」という場面だけは例外で、そこでは放棄した人も数に入ります。

この分岐が、実務でよく混乱する2つの結論を同時に生みます。

基礎控除では数える。 15条2項は、相続人の数について「相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人の数とする」と書いています。15条は括弧書きの例外リストに入っているので、放棄があっても基礎控除の額は減りません(15条1項は基礎控除額を、三千万円と六百万円に相続人の数を乗じた金額との合計額と定めています)。

生命保険金の非課税枠では数えない。 12条1項6号が非課税とするのは「相続人の取得した第三条第一項第一号に掲げる保険金」です。12条は例外リストに入っていないので、ここでの「相続人」からは放棄した人が外れます。したがって放棄した人が受け取る死亡保険金には、500万円×法定相続人の数の非課税枠が使えません

放棄しても保険金を受け取ること自体は、条文が前提にしています。3条1項柱書は、その者が「相続人以外の者であるとき」は当該財産を遺贈により取得したものとみなすと続けており、放棄した受取人が保険金を取得する場面がここに収まるからです。受け取れないのではなく、受け取れるが非課税枠の外、というのが条文の姿です。

死亡退職金も同じ構造 — 会社の総務が押さえておきたい点

12条1項7号は、非課税の対象を「相続人の取得した第三条第一項第二号に掲げる給与」としています。3条1項2号の給与とは、被相続人に支給されるべきであった退職手当金・功労金等で死亡後3年以内に支給が確定したものです。つまり死亡退職金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)も、受け取った遺族が相続放棄していれば使えません。会社が遺族に死亡退職金を支払う場面では、支給の可否と税務上の扱いは別問題ですが、遺族側の申告に影響することは知っておくと説明の助けになります。

逆方向の例外もあります。未成年者控除を定める19条の3第1項は、括弧書きの例外リストに入っているだけでなく、その条文自身が「相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人」と重ねて書いています。放棄した人が遺贈で財産を取得した場合、未成年者控除の対象からは外れないという建て付けです。19条の2第1項(配偶者の税額軽減)と19条の4第1項(障害者控除)も、同じ例外リストに挙がっています。

2割加算はまた別の考え方です。18条1項は、加算の対象を一親等の血族および配偶者「以外の者」と定めており、放棄したかどうかを条件にしていません。放棄した子が遺贈で財産を取得しても、一親等の血族であることに変わりはないため、この条文の文言からは加算の対象になりません。身分で決まる規定と、「相続人」の定義で決まる規定が混在していることが、相続税を分かりにくくしています。

相続放棄した人が、相続税の各規定でどう扱われるか
規定条文放棄した人の扱い根拠
遺産に係る基礎控除の人数15条2項数える3条1項括弧書きの例外リストに15条が明記
生命保険金の非課税枠12条1項6号使えない12条は例外リストに無い=原則どおり「相続人」から除外
死亡退職金の非課税枠12条1項7号使えない同上
未成年者控除19条の3第1項対象になりうる例外リストに明記+条文自身の括弧書き
配偶者の税額軽減・障害者控除19条の2第1項・19条の4第1項例外リストに明記3条1項括弧書き
相続税額の2割加算18条1項放棄を条件にしていない一親等の血族・配偶者かどうかという身分で判定

なお、被相続人に所得があった場合の準確定申告や、贈与税との関係は別の枠組みで動きます。放棄をしたからといって、生前に受けた贈与が自動的に無かったことになるわけではありません。

相続税はいくらか — 基礎控除・配偶者の税額軽減まで試算する

よくある質問

Q. 亡くなってから3か月を過ぎてしまいました。もう相続放棄はできませんか?

A. 期間の起算点は死亡日ではないため、直ちにできないとは限りません。民法915条1項が定める起算点は「自己のために相続の開始があったことを知った時」で、死亡を知らなかった期間や、自分が相続人になったと知らなかった期間はこの3か月に含まれません。第1順位の相続人が放棄したことで自分に相続権が回ってきた場合も、自分が相続人になったと知った時から数えます。ただし実際に受理されるかどうかは、いつ何を知ったかという事実関係と、その間に相続財産に触れていないかによって変わりますので、具体的な見通しについては弁護士にご相談ください。

Q. 相続放棄はどこの家庭裁判所に申し立てますか?

A. 亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。民法938条は家庭裁判所に申述するとしか書いておらず、どこの裁判所かを定めているのは家事事件手続法201条1項で、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属するとしています。そして民法883条が、相続は被相続人の住所において開始すると定めています。申述する側の住所地ではありませんので、遠方であってもその家庭裁判所に申述することになります。書類の郵送で進められるのが通例ですが、取扱いは裁判所に確認してください。

Q. 相続放棄の費用はいくらかかりますか?

A. 裁判所に納める手数料は800円です。民事訴訟費用等に関する法律の別表第一の一五の項が、家事事件手続法別表第一に掲げる事項についての審判の申立ての手数料を八百円と定めており、相続の放棄の申述の受理は同法別表第一の九十五の項に掲げられています。遺産の額がいくらであっても手数料は変わりません。このほかに裁判所へ納める郵便切手が必要で、その額は法律ではなく各裁判所の運用で決まるため申述先に確認することになります。戸籍謄本など添付書類の取得費用も別途かかります。

Q. 子が全員相続放棄したら、孫が相続人になりますか?

A. なりません。民法939条は、相続の放棄をした者はその相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなすと定めています。そして代襲相続の原因を定める887条2項が挙げているのは、相続の開始以前に死亡したとき、891条の欠格事由に該当したとき、廃除によって相続権を失ったときの3つで、放棄は挙げられていません。したがって子が全員放棄した場合、相続権は孫ではなく次順位へ移り、889条1項により直系尊属、直系尊属もいなければ兄弟姉妹が相続人になります。

Q. 相続放棄をすれば、実家の管理はしなくてよくなりますか?

A. 放棄の時点でその財産を現に占有している場合は、管理から完全に解放されるわけではありません。民法940条1項は、放棄した者がその放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人または952条1項の相続財産の清算人に引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存しなければならないと定めています。同居していた実家のように手元にある財産が対象で、存在も知らず鍵も持っていない遠方の不動産であればこの義務は生じません。保存に要した費用は、940条2項が準用する650条により償還を請求できる建て付けになっています。

Q. 相続放棄をした後に遺品を処分したら、どうなりますか?

A. 民法921条3号により、単純承認をしたものとみなされる可能性があります。同号は、限定承認または相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部もしくは一部を隠匿し、ひそかにこれを消費し、または悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったときを挙げています。放棄が受理された後であっても適用される点が重要です。単純承認とみなされると920条により無限に権利義務を承継することになります。ただし同号ただし書により、放棄によって相続人となった者が相続の承認をした後は適用されません。何が処分にあたるかは事実関係によりますので、弁護士にご確認ください。

Q. 一度した相続放棄を、3か月以内なら取り消せますか?

A. 撤回はできません。民法919条1項が、相続の承認および放棄は915条1項の期間内でも撤回することができないと明記しています。ただし同条2項により、詐欺や強迫を理由とする総則編・親族編の規定による取消しは妨げられません。この取消権は3項により、追認をすることができる時から6か月行使しないと時効で消滅し、承認または放棄の時から10年を経過したときも同様です。4項により、取消しをしようとする者もその旨を家庭裁判所に申述することになります。

Q. 相続放棄した人がいると、相続税の基礎控除は減りますか?

A. 減りません。相続税法15条2項が、相続人の数について、相続の放棄があった場合にはその放棄がなかったものとした場合における相続人の数とすると定めているためです。ただし同じ相続税法の中でも扱いは一様ではありません。3条1項の柱書に置かれた括弧書きは、相続税法でいう相続人には相続を放棄した者を含まないとしたうえで、15条・16条・19条の2第1項・19条の3第1項・19条の4第1項・63条だけを例外として挙げています。12条1項6号の生命保険金の非課税枠はこの例外に入っていないため、放棄した人が受け取る保険金には500万円に相続人の数を乗じた非課税枠が使えません。

Q. 相続放棄したことは戸籍に載りますか?

A. 載りません。相続放棄は民法938条により家庭裁判所への申述で行うもので、戸籍に記録される届出ではないためです。そのため法定相続情報一覧図には、放棄した人も相続人として記載されます。一覧図は戸除籍謄本等の記載に基づいて法定相続人を明らかにする書面だからです。放棄したことを示すには、相続放棄申述受理証明書を別に取得することになります。遺産分割の結果として相続人が1人になった場合の相続登記でも、放棄した人の受理証明書が別途必要になります。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法律相談ではありません。相続放棄ができるかどうか、期間の起算点がいつになるか、どの行為が法定単純承認にあたるかは、事実関係によって結論が変わります。実際の判断については弁護士に、相続税の具体的な取扱いについては税理士または所轄の税務署に、手続きの詳細については申述先の家庭裁判所にご確認ください。

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