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事業譲渡とは — 株主総会が要るのは5つの場合だけ。「重要な一部」でも総資産の5分の1以下なら決議は要らない

結論から言うと、事業譲渡そのものを定義した条文は会社法にありません。会社法が定めているのは「事業を譲渡したらどうなるか」という効果と、「どの場合に株主総会の承認が要るか」という手続だけです。したがって「これは事業譲渡に当たるのか」を条文の定義文で判定することはできず、実務では467条1項の各号のどれかに当たるかどうかを見ることになります。

そして、いちばん取り違えられているのが「重要な一部を譲るなら株主総会が要る」という理解です。467条1項2号には長いかっこ書きが付いていて、譲り渡す資産の帳簿価額が総資産額の5分の1を超えないものは、そこから除かれます。つまり「重要な一部」であっても5分の1以下なら、条文の上では株主総会の決議は要りません。逆に定款でこの割合を下げていれば、下げた割合が基準になります。

さらにその「総資産額」は、貸借対照表の資産合計ではありません。会社法施行規則134条1項が、10個の号を足し引きする算式を置いています。資産の部の合計を分母に置いて5分の1を計算すると、判定そのものがずれます。この記事では、決議の要否・反対株主の買取請求・商号続用の責任・何が承継されないか・税金の5つを、条文の実物を引きながら順に見ます。

会社法に「事業譲渡とは」の定義はない

会社法の第二編第七章は「事業の譲渡等」という表題で、467条から470条までの4か条で構成されています。この章に、事業譲渡を定義する条文は置かれていません。定義に近いものとしては468条1項が、467条1項1号から4号までに掲げる行為をまとめて「事業譲渡等」と呼ぶと述べているだけです。つまり会社法は、行為を列挙することで範囲を画しています

一方で、第一編の21条から24条までには「事業譲渡」を前提とした規定が置かれています。21条の見出しは「譲渡会社の競業の禁止」、22条は「譲渡会社の商号を使用した譲受会社の責任等」です。これらは株主総会の承認が要るかどうかとは無関係に、事業を譲渡した事実があれば当たります。467条の手続だけを見て「決議は要らないから何もしなくてよい」と考えると、21条と22条を見落とします。

実務上の言い換えとして、事業譲渡とは一定の営業目的のために組織化された有機的一体としての機能的財産を、個々の資産の集合ではなく一体として移す取引だと説明されます。ただしこれは条文の文言ではありません。この記事では、条文に書いてあることと、条文に書いていないことを区別して書きます。

合併・会社分割とは、財産の移り方が違う会社分割や合併では、権利義務が法律の規定によってまとめて移ります(包括承継)。事業譲渡では、そういう規定がありません。不動産は不動産で登記し、債権は債権で対抗要件を備え、契約は契約ごとに相手方の同意を取ることになります。移すものを1つずつ数え上げる必要があるという点が、経理・総務にとっていちばん重い違いです。

株主総会が要るのは5つの場合だけ(467条1項)

467条1項の柱書はこう定めています。

株式会社は、次に掲げる行為をする場合には、当該行為がその効力を生ずる日(以下この章において「効力発生日」という。)の前日までに、株主総会の決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない。

「次に掲げる行為」は5つです。番号は1号・2号・2号の2・3号・4号・5号の6つに見えますが、これは2号の2という枝番号が後から挿し込まれたためで、条文の号としては6つ、実務上の類型としては次のように整理できます。

行為閾値
1号事業の全部の譲渡閾値なし(常に必要)
2号事業の重要な一部の譲渡譲り渡す資産の帳簿価額が総資産額の5分の1超のときだけ
2号の2子会社の株式または持分の全部または一部の譲渡帳簿価額が総資産額の5分の1超、かつ譲渡後に議決権の過半数を持たなくなるとき
3号他の会社の事業の全部の譲受け閾値なし(ただし468条2項の簡易がある)
4号事業の全部の賃貸、経営の委任、損益共通契約などの締結・変更・解約閾値なし
5号設立後2年以内に、設立前から存在する財産を継続使用のために取得(事後設立)対価の帳簿価額の合計が純資産額の5分の1超のとき

ここで見落とされるのが2号のかっこ書きです。条文の実物を引きます。

事業の重要な一部の譲渡(当該譲渡により譲り渡す資産の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えないものを除く。)

「重要な一部の譲渡」と書いた直後に、5分の1を超えないものを除くと書いてあります。つまり2号は、①事業の重要な一部であること と ②5分の1を超えること の両方を満たしたときにだけ当たります。重要性の判断は事業の性質や会社に占める地位から総合的に行われるもので、数字だけで決まるわけではありませんが、数字の側は条文が切っているので、まずそこで足切りができます。

さらに、かっこ書きの中にもう一段のかっこ書きがあります。「これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合」。定款で10分の1と定めていれば、10分の1が基準になります。この方向は下げる一方通行で、5分の1より大きい割合を定款で定めることはできません。条文が「これを下回る割合」としか書いていないからです。買い手として調査するなら、譲渡会社の定款にこの定めがあるかを見ます。

なお、決議の種類は特別決議です。309条2項11号が「第六章から第八章までの規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会」を特別決議の対象に挙げており、事業の譲渡等は第二編の第七章なので、この11号に入ります。議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が要ります(定款で定足数を3分の1以上まで下げることは可能です)。

事業の一部を譲渡する それは「事業の重要な一部」か はい いいえ 譲り渡す資産の帳簿価額 ÷ 総資産額(規則134条) が 5分の1 を超えるか(定款で下げていればその割合) 超える 超えない 467条1項2号に当たる 株主総会の特別決議が必要(309条2項11号) 決議は不要 決議は不要 ※ 決議が不要でも、21条の競業避止と22条の商号続用の責任は別に当たる
467条1項2号の判定。「重要な一部」であることと「5分の1超」であることの両方が要る。かっこ書きが後半を切っている。

「総資産額」は貸借対照表の資産合計ではない(施行規則134条)

5分の1の分母になる「総資産額」は、会社法施行規則134条1項が算定方法を定めています。1号から9号までを足して、10号を引く、という形です。次の表は各号の要点を並べたもので、条文にあるかっこ書きは省いています。

足す/引く項目
1号資本金の額
2号資本準備金の額
3号利益準備金の額
4号446条に規定する剰余金の額
5号最終事業年度の末日における評価・換算差額等に係る額
6号株式引受権の帳簿価額
7号新株予約権の帳簿価額
8号最終事業年度の末日において負債の部に計上した額
9号最終事業年度の末日後に吸収合併・吸収分割による承継、または他の会社の事業の全部の譲受けをしたときの、承継・譲受けをした負債の額
10号自己株式および自己新株予約権の帳簿価額の合計額

読むと分かるとおり、これは純資産の構成要素(1号〜7号)に負債(8号・9号)を足し戻して、自己株式を引くという組み立てです。結果は貸借対照表の資産合計に近い数字になりますが、同じにはなりません。ずれるのは次の2か所です。

算定基準日は「契約を締結した日」が原則134条1項のかっこ書きは、算定基準日を譲渡に係る契約を締結した日としたうえで、契約でそれと異なる時を定めた場合はその時としています。ただし定められる範囲は「当該契約を締結した日後から当該譲渡の効力が生ずる時の直前までの間の時に限る」とされていて、契約日より前に遡ることはできません。5分の1のすぐ近くで判定が割れる案件では、この時点をどこに置くかが結論を動かします。

数値例で見ます。資本金3,000万円、資本準備金1,000万円、利益準備金200万円、その他の剰余金(446条の剰余金の額)1億2,000万円、評価・換算差額等ゼロ、株式引受権・新株予約権ゼロ、負債の部の計上額2億円、期末後の承継なし、自己株式の帳簿価額3,000万円の会社を考えます。134条の算式では、3,000万+1,000万+200万+1億2,000万+2億=3億6,200万円から自己株式3,000万円を引いて3億3,200万円が総資産額です。5分の1は6,640万円。譲り渡す資産の帳簿価額が6,700万円なら、2号に当たり特別決議が要ります。一方、貸借対照表の資産合計を分母にすると3億6,200万円となり、5分の1は7,240万円ですから、同じ6,700万円が「5分の1以下」に見えてしまいます。決議を省いてよいという逆の結論が出るということです。

不動産を移すときの登録免許税を計算する →

決議が要らなくなる2つの例外 — 略式と簡易(468条)

467条に当たる場合でも、468条が2つの例外を置いています。

1つ目は略式事業譲渡(468条1項)です。契約の相手方が、その会社の特別支配会社であるときは467条が適用されません。特別支配会社とは、総株主の議決権の10分の9以上(定款でこれを上回る割合を定めた場合はその割合以上)を持っている会社などを指します。すでに9割を握られているのだから総会を開いても結論が変わらない、という趣旨です。注意すべきは10分の9が「以上」で、定款で動かせる方向が上向きだという点です。2号のかっこ書きの5分の1が下向きにしか動かせないのと逆で、条文を並べて読むと混乱しやすいところです。

2つ目は簡易な事業の全部の譲受け(468条2項)です。他の会社の事業の全部を譲り受ける側(467条1項3号の行為をする会社)で、対価として交付する財産の帳簿価額の合計額が、自社の純資産額の5分の1(定款で下回る割合を定めればその割合)を超えないときは、467条が適用されません。ここでの分母は総資産額ではなく純資産額です。2号の判定と分母が違うので、同じ5分の1という割合でも意味が別物です。

簡易は、株主の反対で覆る468条3項は、法務省令で定める数の株式を持つ株主が、469条3項の通知または4項の公告の日から2週間以内に反対する旨を通知したときは、会社は効力発生日の前日までに株主総会の決議による承認を受けなければならない、と定めています。簡易だから総会は開かなくてよい、と決め打ってスケジュールを組むと、反対通知が来た時点で日程が破綻します。効力発生日は、この2週間と総会の招集期間を後ろに置けるように設計します。

反対株主の買取請求 — 全部譲渡と同時に解散すると請求できない

469条1項は、事業譲渡等をする場合には反対株主が自己の株式を公正な価格で買い取るよう請求できる、と定めています。ただし柱書に「次に掲げる場合を除く」というかっこ書きが付いていて、2つが除かれています。除かれる1号の実物です。

第四百六十七条第一項第一号に掲げる行為をする場合において、同項の株主総会の決議と同時に第四百七十一条第三号の株主総会の決議がされたとき。

467条1項1号は事業の全部の譲渡、471条3号は解散の決議です。つまり事業の全部を譲渡し、その総会で同時に解散も決議したときは、反対株主は買取請求ができません。解散すれば清算手続の中で残余財産の分配を受けられるので、別に株式を買い取らせる必要がないという整理です。会社をたたむ前提の事業譲渡では、この1号に当たるかどうかで買取請求への備えが要るかどうかが変わります。「同時に」と書かれているので、後日の別の総会で解散を決議した場合はこの除外に入りません。

除かれるもう1つ(2号)は、468条2項の簡易に当たる場合です。ただし同条3項の反対通知があって総会を開くことになった場合は、除外から外れます。

手続の期日は次のとおりです。会社は効力発生日の20日前までに株主へ通知します(469条3項)。公開会社である場合、または総会の決議で承認を受けた場合は、公告で代えることができます(同4項)。株主が請求できるのは効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までで、株式の数を明らかにして行います(同5項)。請求はいったんすると、会社の承諾がなければ撤回できません(同7項)。

価格の決定は470条です。協議が調ったときは効力発生日から60日以内に支払い、効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、その期間の満了の日後30日以内に裁判所へ価格決定の申立てができます。会社は、裁判所が決めた価格に対して、60日の期間の満了の日後の法定利率による利息も払わなければなりません(470条4項)。年6%の商事法定利率は民法改正でなくなっており、現在は民法404条の法定利率が適用されますが、裁判所の決定が長引くほど利息が積み上がるという構造は残っています。470条5項は、価格の決定があるまで、会社が公正な価格と認める額を先に支払うことを認めており、これは利息の発生を止めるための実務上の手当てです。

譲った側は20年間、同じ事業をしてはいけない(21条)

21条1項の実物です。

事業を譲渡した会社(以下この章において「譲渡会社」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(特別区を含むものとし、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあっては、区又は総合区。以下この項において同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から二十年間は、同一の事業を行ってはならない。

読みどころが3つあります。

加えて3項は、1項・2項にかかわらず、譲渡会社は不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならないと定めています。この3項は「別段の意思表示」で外せません。契約で競業避止を外していても、不正競争目的の競業までは許されないということです。

商号を続けて使うと、譲受会社が債務を負う(22条・23条・23条の2)

ここが、買い手にとって最も費用の大きい落とし穴です。22条1項の実物です。

事業を譲り受けた会社(以下この章において「譲受会社」という。)が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う。

事業譲渡では、契約で引き継がないと決めた債務は移らないのが原則です。ところが商号を続けて使うと、契約で引き継がないと決めた債務についても、譲受会社が弁済の責任を負います。取引先から見れば看板が同じままなので、債務者が入れ替わったことが分からない。その外観を保護する規定です。

免れる方法は2項に書かれています。

前項の規定は、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社がその本店の所在地において譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、適用しない。

登記のほかに、譲受会社と譲渡会社の両方から第三者に通知した場合も、その通知を受けた第三者については適用されません(同項後段)。どちらも「遅滞なく」が条件です。譲り受けてから何か月も経ってから登記しても、2項の要件を満たしません。商号を続用する取引では、クロージング当日の作業リストにこの免責登記を入れておくのが安全です。

なお、22条1項で譲受会社が責任を負う場合、譲渡会社の側の責任は、事業を譲渡した日後2年以内に請求または請求の予告をしない債権者に対しては、その期間の経過時に消滅します(22条3項)。買い手が負い、売り手は2年で抜ける、という構図です。

商号を続用しない場合でも、債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲渡会社の債権者は譲受会社に弁済を請求できます(23条1項)。この場合も譲渡会社の責任は広告の日後2年で消滅します(同2項)。挨拶状に「従来のお取引はすべて弊社が引き継ぎます」と書くと、23条の広告と評価されうるという点は、実務でよく指摘されるところです。

さらに23条の2は、債権者を害することを知って事業を譲渡した場合の規定です。

譲渡会社が譲受会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って事業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。

ただし書きで、譲受会社が事業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない、とされています。買い手が善意であれば当たりませんが、裏を返せば、売り手の資力が悪化していることを知りながら安値で優良事業だけを買うと、この条文の射程に入ります。責任の期間は、害することを知って譲渡したことを知った時から2年、かつ事業の譲渡の効力が生じた日から10年です(23条の2第2項)。10年のほうは知不知に関係なく走る客観的な上限です。

倒産手続が始まると、この請求権は行使できない23条の2第3項は、譲渡会社について破産手続開始・再生手続開始・更生手続開始の決定があったときは、残存債権者は1項の請求権を行使できないと定めています。個別の債権者が抜け駆けするのではなく、否認権の枠組みで管財人が一括して処理する、という切り分けです。

何が承継されないか — 労働契約・契約・許認可

事業譲渡には包括承継の規定がありません。移すものは1つずつ、それぞれの法律のルールに従って移します。

移すもの必要な手当て根拠・注意
労働契約労働者個人の承諾が要る民法625条1項。会社分割の労働契約承継法のような当然承継の仕組みが無い
売掛金などの債権債務者への通知または債務者の承諾民法467条の対抗要件。譲渡人からの通知でなければならない
買掛金などの債務債権者の承諾(免責的債務引受)承諾が取れなければ譲渡会社に残る
賃貸借・取引基本契約契約上の地位の移転に相手方の承諾チェンジオブコントロール条項の有無を先に確認する
不動産所有権移転登記登録免許税がかかる(後述)
許認可原則として承継されない。取り直し業法ごとに承継の特則がある場合を除く。取得までのリードタイムが日程を決めることが多い

労働契約の根拠となる民法625条1項の実物です。

使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。

「その権利」とは、労務の提供を受ける権利です。従業員が承諾しなければ、その従業員の労働契約は譲受会社に移りません。移らなかった従業員は譲渡会社に残るので、譲渡会社の側でその後の雇用をどうするかという問題が生じます。会社分割であれば労働契約承継法の手続に乗せられますが、事業譲渡ではその経路がありません。ここが、事業譲渡と会社分割を選ぶときに最も実務差が出るところです。

「転籍に同意しない人がいる」を日程に織り込む承諾は一人ずつ取ります。譲受会社の労働条件を提示して個別に同意を得る手順になるので、対象人数が多いほど時間がかかります。クロージング日を先に決めてから同意取得を始めると、間に合わない人が出た時点で事業が回らなくなります。同意取得の完了を効力発生日の条件(前提条件)として契約に書く例が多いのは、このためです。

税金 — 消費税は区分して按分、登記は「その他の原因」

消費税。事業譲渡は、包括承継ではなく個々の資産の譲渡の集まりですから、事業として対価を得て行われる資産の譲渡(消費税法2条1項8号)に当たり、課税の対象になります。ただし譲渡する財産の中身によって課税・非課税が分かれます。

譲渡するもの消費税根拠
建物・機械・車両・棚卸資産課税2条1項8号の資産の譲渡
のれん(営業権)課税権利の譲渡として課税対象
土地・借地権非課税消費税法6条1項・別表第二1号
売掛金・貸付金などの金銭債権非課税別表第二2号、消費税法施行令9条1項4号

ここで効いてくるのが消費税法施行令45条3項です。課税資産と非課税資産を同一の者に対して同時に譲渡し、その対価の額が資産ごとに合理的に区分されていないときは、譲渡の時におけるそれぞれの価額の合計額に占める割合で按分して課税標準を計算する、と定めています。事業譲渡契約書に「事業一式 1億円」とだけ書いて内訳を置かないと、この3項に落ちます。時価で按分し直すことになるので、当事者が意図した金額の割り付けが通らなくなります。契約書に資産ごとの内訳を書くことは、値段の交渉であると同時に税額の確定作業でもあります。

登録免許税。不動産の所有権移転登記の税率は、登録免許税法の別表第一第一号(二)が3つに分けています。

区分原因税率(本則)
相続または法人の合併による移転1000分の4
共有物の分割による移転1000分の4
その他の原因による移転1000分の20

イに列挙されているのは相続と合併だけで、会社分割も事業譲渡も入っていません。どちらもハの「その他の原因」に落ちて1000分の20です。「組織再編なら登記が安い」という理解は、合併にしか当たりません

ただし土地には租税特別措置法72条1項1号の軽減があります。

個人又は法人が、平成二十五年四月一日から令和十一年三月三十一日までの間に、土地に関する登記で次の各号に掲げるものを受ける場合には、当該各号に掲げる登記に係る登録免許税の税率は、登録免許税法第九条の規定にかかわらず、当該各号に掲げる登記の区分に応じ、当該各号に定める割合とする。

この1号が売買による所有権の移転の登記で、税率は1000分の15です。事業譲渡による土地の移転は売買ですからこの軽減に乗りますが、会社分割による移転は売買ではないので乗りません。土地に関しては事業譲渡のほうが1000分の5だけ安いという、直感と逆の関係になります。時限措置なので、適用期限(令和11年3月31日)と実行時期の関係は必ず確かめてください。

法人税。譲渡会社では、譲渡した資産の譲渡対価と帳簿価額との差額が譲渡損益として計上されます。譲受会社では、支払対価が受け入れた資産・負債の時価純額を超える部分が資産調整勘定(法人税法62条の8)となり、60か月で均等に損金算入されます。会計上の「のれん」とは償却期間の考え方が違うので、のれんの記事で扱っている論点をあわせて確認してください。

事業譲渡と会社分割を1枚で比べる

項目事業譲渡会社分割(吸収分割)
財産の移り方個別承継(1つずつ移す)包括承継(分割契約の定めに従いまとめて移る)
労働契約労働者個人の承諾が要る(民法625条1項)労働契約承継法の手続に乗る
債務の移転債権者の承諾が要る債権者保護手続(異議申述の公告・催告)
債権者保護手続不要(そのかわり22条・23条の2がある)必要
株主総会467条1項に当たる場合に特別決議原則として特別決議(簡易・略式あり)
対価金銭が一般的株式でも可
消費税課税(土地・金銭債権は非課税)不課税(包括承継)
登録免許税(建物)1000分の201000分の20
登録免許税(土地)1000分の15(措置法72条・売買)1000分の20
許認可原則として取り直し業法により承継できる場合がある
簿外債務引き継がないのが原則(22条の商号続用に注意)分割契約の定めによる

ひとことで言えば、事業譲渡は「引き継ぐものを選べるが、1つずつ移す手間がかかる」、会社分割は「まとめて移せるが、選べない部分が残る」という関係です。簿外債務のリスクを切りたい買い手は事業譲渡を選び、従業員が多くて個別同意が現実的でない案件は会社分割を選ぶ、という判断がよく見られます。

実務の落とし穴

よくある質問

Q. 事業の一部を売りますが、株主総会は必ず必要ですか?

A. 必ずしも必要ではありません。会社法467条1項2号は「事業の重要な一部の譲渡」を挙げていますが、そのかっこ書きで「当該譲渡により譲り渡す資産の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えないものを除く。」としています。つまり重要な一部であることと、5分の1を超えることの両方を満たしたときに決議が要ります。定款で5分の1より低い割合を定めている会社はその割合が基準になりますので、自社の定款を先に確認してください。なお決議が不要でも、21条の競業避止と22条の商号続用の責任は別に当たります。

Q. 5分の1を判定するときの「総資産額」は貸借対照表の資産合計でよいですか?

A. 違います。会社法施行規則134条1項が算定方法を定めており、資本金の額・資本準備金の額・利益準備金の額・446条の剰余金の額・評価換算差額等に係る額・株式引受権の帳簿価額・新株予約権の帳簿価額・最終事業年度の末日に負債の部へ計上した額・期末後に承継した負債の額の9つを合計し、そこから自己株式および自己新株予約権の帳簿価額の合計額を減じた額とされています。自己株式を持っている会社では、貸借対照表の資産合計より小さい数字になり、5分の1の閾値も小さくなります。閾値の近くで判定が割れる場合は、この算式で計算し直してください。

Q. 譲渡した事業と同じ商売を、別の場所でならすぐ始めてよいですか?

A. 会社法21条1項は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村およびこれに隣接する市町村の区域内において、譲渡した日から20年間は同一の事業を行ってはならないと定めています。地理の範囲は行政区画で切られているので、隣接していない市町村であればこの1項には当たりません。ただし3項が、1項・2項にかかわらず不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならないと定めており、こちらは契約でも外せません。実際にどこまでが許されるかは事実関係によりますので、具体的な計画については弁護士にご相談ください。

Q. 買い手ですが、譲渡会社の屋号をそのまま使いたい。何に気をつければよいですか?

A. 会社法22条1項により、譲渡会社の商号を引き続き使用すると、契約で引き継がないと決めた債務についても譲受会社が弁済の責任を負います。これを避けるには、同2項により、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社の本店の所在地で「譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨」を登記します。あるいは譲受会社と譲渡会社の両方から第三者へ通知した場合も、その通知を受けた第三者については適用されません。いずれも「遅滞なく」が条件なので、クロージング当日の作業として日程に組み込むのが安全です。

Q. 従業員は自動的に移りますか?

A. 移りません。事業譲渡には会社分割のような包括承継の規定がなく、労働契約については民法625条1項が「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。」と定めているため、従業員一人ひとりの承諾が必要です。承諾しなかった従業員の労働契約は譲渡会社に残ります。人数の多い事業では同意取得に時間がかかるため、効力発生日をあとから逆算して設計するか、会社分割を検討することになります。

Q. 事業譲渡の対価に消費税はかかりますか?

A. 譲渡する資産の中身によって分かれます。建物・機械・棚卸資産やのれん(営業権)は課税、土地と借地権は消費税法6条1項および別表第二1号により非課税、売掛金などの金銭債権は別表第二2号と消費税法施行令9条1項4号により非課税です。契約書で一括の金額しか定めず資産ごとに合理的に区分していない場合は、消費税法施行令45条3項により、譲渡の時における価額の割合で按分して課税標準を計算することになります。契約書に資産ごとの内訳を書いておくことが、税額を確定させるうえで重要です。

Q. 会社分割のほうが登記の税金は安いのですか?

A. 建物については同じで、土地については事業譲渡のほうが安くなります。登録免許税法別表第一第一号(二)は、イに相続または法人の合併による移転(1000分の4)、ロに共有物の分割による移転(1000分の4)、ハにその他の原因による移転(1000分の20)を置いており、会社分割も事業譲渡もイには列挙されていないためハに当たります。さらに土地については租税特別措置法72条1項1号が売買による所有権の移転の登記を1000分の15としており、事業譲渡は売買なのでこれに乗りますが、会社分割は売買ではないので乗りません。なお不動産取得税の取扱いは地方税法に別の定めがあり、この記事では扱っていません。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法律相談や税務相談ではありません。自社の譲渡が467条1項各号のどれに当たるか、株主総会の決議が要るか、契約書にどの条項を置くかは事実関係によって変わりますので、実際の判断については弁護士または司法書士に、税務上の処理については税理士にご相談ください。

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