決算公告とは — 資本金1円の会社にも義務がある。要旨で足りるのは官報・新聞の会社だけで、電子公告なら貸借対照表そのもの
結論から言うと、決算公告は、規模にかかわらずすべての株式会社に義務があります。会社法440条1項は主語を「株式会社は」としか書いておらず、資本金でも従業員数でも売上でも例外を作っていません。資本金1円で設立した一人会社にも、そのまま当たります。よく言われる「決算公告は上場企業の話」は誤りで、条文の上では逆です。有価証券報告書を出す会社のほうが、440条4項で適用除外になっています。
そして、実務でいちばん取り違えられているのが「要旨でいい」という理解です。要旨で足りるのは、公告方法が官報か日刊新聞紙の会社だけです(440条2項)。公告方法を電子公告にしている会社は、この2項の対象に入っていないので、要旨では足りません。貸借対照表そのものを載せることになります。「電子公告のほうが手軽だから」という理由で定款を変えた会社が、載せる分量は逆に増えていた、ということが起こります。
もう一つ、こちらは逆向きの誤解です。「電子公告は調査機関の調査を受けなければならないから、費用がかかって中小企業には無理」——決算公告に限れば、調査は要りません。941条が、電子公告調査の対象から「第四百四十条第一項の規定による公告を除く。」とかっこ書きで外しているからです。この一節を読んだかどうかで、公告方法を選ぶときの判断が変わります。
誰に義務があるか — 決まるのは「株式会社は」の5文字
会社法440条1項の全文です。
株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない。
読み取れることは3つあります。第一に、主語が「株式会社は」であって、大会社でも公開会社でもありません。規模の下限が書かれていないので、資本金1円の会社にも当たります。第二に、時期は「定時株主総会の終結後遅滞なく」です。決算日からでも、申告期限からでもありません。第三に、原則として公告するのは貸借対照表で、損益計算書まで求められるのは大会社だけです。
大会社の定義は会社法2条6号にあり、次のどちらかに当たる株式会社をいいます。イとして、最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上であること。ロとして、同じ貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上であること。どちらか一方に当たれば大会社です。この2つは資本金と負債で、売上高や利益は入っていません。売上が大きくても資本金1000万円・負債10億円の会社は大会社ではないので、公告するのは貸借対照表だけです。
では、義務が無いのはどこか。3つあります。
1つ目が特例有限会社です。会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律28条が、正面から適用除外を置いています。
特例有限会社については、会社法第四百四十条及び第四百四十二条第二項の規定は、適用しない。
2006年5月の会社法施行の際に有限会社だった会社は、株式会社に一本化されつつも「特例有限会社」として旧来の扱いを一部引き継いでいます。決算公告はその一つで、条文上まったく義務がありません。商号に「有限会社」が残っている会社は、まずここを確認することになります。
2つ目が持分会社——合同会社・合名会社・合資会社です。440条の主語は株式会社で、持分会社に決算公告を求める規定は置かれていません。合同会社に決算公告義務が無いことは、法人形態を選ぶときの実務上の差の一つとして挙げられますが、その根拠は特別な免除規定があるからではなく、そもそも義務を課す条文が無いからです。
3つ目が有価証券報告書の提出会社です。440条4項が、金融商品取引法24条1項により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社について「前三項の規定は、適用しない。」と定めています。有報のほうが決算公告よりはるかに詳しい開示なので、重ねて求める必要が無いという整理です。
| 会社の種類 | 決算公告の義務 | 根拠 |
|---|---|---|
| 株式会社(資本金1円でも) | ある | 会社法440条1項 |
| 株式会社のうち大会社 | ある(損益計算書も) | 440条1項かっこ書き・2条6号 |
| 株式会社のうち有報提出会社 | ない | 440条4項 |
| 特例有限会社 | ない | 整備法28条 |
| 合同会社・合名会社・合資会社 | ない | 440条の主語が株式会社 |
| 一般社団法人・一般財団法人 | 会社法の対象外(別の法律に定めがある) | — |
何を公告するのか — 貸借対照表だけ、では終わらない
440条1項だけを読むと「貸借対照表を載せればよい」と見えます。ところが同項は「法務省令で定めるところにより」と受けており、その法務省令である会社計算規則136条1項が、貸借対照表とは別に明らかにすべき事項を8つ挙げています。
株式会社が法第四百四十条第一項の規定による公告(同条第三項の規定による措置を含む。以下この項において同じ。)をする場合には、次に掲げる事項を当該公告において明らかにしなければならない。この場合において、第一号から第七号までに掲げる事項は、当該事業年度に係る個別注記表に表示した注記に限るものとする。
1号から8号までは次のとおりです。継続企業の前提に関する注記、重要な会計方針に係る事項に関する注記、貸借対照表に関する注記、税効果会計に関する注記、関連当事者との取引に関する注記、一株当たり情報に関する注記、重要な後発事象に関する注記、そして8号が当期純損益金額です。
1号から7号までの注記は「当該事業年度に係る個別注記表に表示した注記に限る」とされているので、そもそも個別注記表に載せていない注記まで新たに作る必要はありません。中小企業の会計では、税効果会計に関する注記や一株当たり情報に関する注記を置いていないことが多く、その場合は該当なしとして公告にも現れません。実務で必ず出るのは、重要な会計方針に係る事項に関する注記と、当期純損益金額です。
もう一つ、会計監査人設置会社だけに当たる規定として会社計算規則148条があります。会計監査人が存しない場合、監査を受けたものとみなされた場合、会計監査報告に不適正意見がある場合、会計監査報告が126条1項3号に掲げる事項を内容としている場合には、それぞれその旨を公告で明らかにしなければなりません。監査の結果が芳しくないことも公告に出る、ということです。
公告方法は3つ。何も決めていない会社は自動的に官報になる
公告方法そのものは440条ではなく、939条が定めています。
会社は、公告方法として、次に掲げる方法のいずれかを定款で定めることができる。
続く1号から3号が、官報に掲載する方法、時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法、電子公告の3つです。「定めることができる」なので、定款に書かない自由もあります。ただし書かなかった場合の帰結が4項に置かれています。
第一項又は第二項の規定による定めがない会社又は外国会社の公告方法は、第一項第一号の方法とする。
1項1号は官報です。つまり公告方法を決めていない会社は、決めていないだけで官報の会社になっています。「うちは定款に公告方法を書いていないから、公告方法が無い」ということにはなりません。この点は登記にも反映されていて、911条3項29号が、公告方法の定款の定めが無いときは939条4項により官報に掲載する方法を公告方法とする旨を登記事項としています。
電子公告を選ぶ場合には939条3項に細かい配慮があります。定款には「電子公告を公告方法とする旨を定めれば足りる」ので、URLまで定款に書き込む必要はありません(URLは後述のとおり登記事項です)。あわせて、事故その他やむを得ない事由によって電子公告ができない場合の予備の公告方法として、官報または日刊新聞紙を定めることもできます。サーバー障害でサイトが落ちている間に公告期間が来てしまう、という事態への備えです。
要旨で足りるのは官報・日刊新聞紙の会社だけ(440条2項)
ここが、この記事でいちばん伝えたい一段です。440条2項の全文を見ます。
前項の規定にかかわらず、その公告方法が第九百三十九条第一項第一号又は第二号に掲げる方法である株式会社は、前項に規定する貸借対照表の要旨を公告することで足りる。
要旨で足りる会社の範囲が、「第九百三十九条第一項第一号又は第二号に掲げる方法である株式会社」と限定されています。1号は官報、2号は日刊新聞紙です。3号の電子公告は、この列挙に入っていません。
したがって、公告方法を電子公告と定めている会社には440条2項が当たらず、440条1項がそのまま当たります。1項が求めているのは要旨ではなく貸借対照表そのものですから、電子公告の会社は貸借対照表の全体を掲載することになります。大会社であれば損益計算書も同じです。
要旨とは何かは、会社計算規則137条以下が定めています。137条が「法第四百四十条第二項の規定により貸借対照表の要旨又は損益計算書の要旨を公告する場合」の様式をこの章に委ね、138条が資産・負債・純資産の3つの部への区分を、139条が資産の部を流動資産・固定資産・繰延資産に区分することを求めています。公開会社であれば、139条3項により固定資産をさらに有形固定資産・無形固定資産・投資その他の資産に区分し、4項により財産の状態を明らかにするため重要な適宜の項目に細分することになります。裏を返せば、非公開会社の要旨は3項目まで丸めてよいということで、官報でよく見る簡素な表はこの規定の帰結です。
公告に出てくる金額の単位が円ではなく百万円や十億円であること、損益計算書の要旨の区分が通常の損益計算書と違うことについては、当サイトの損益計算書の見方で会社計算規則143条・144条まで踏み込んで扱っていますので、そちらに譲ります。
440条3項のウェブ開示は「電子公告」ではない
ここまでで公告方法は3つと書きましたが、決算公告に限っては4つ目の経路があります。440条3項です。これは公告方法の一種ではなく、公告に代わる「措置」として置かれています。
前項の株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、第一項に規定する貸借対照表の内容である情報を、定時株主総会の終結の日後五年を経過する日までの間、継続して電磁的方法により不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置く措置をとることができる。この場合においては、前二項の規定は、適用しない。
1文が長いので、分解します。
| 条文の語 | 意味するところ |
|---|---|
| 前項の株式会社は | 2項の会社=公告方法が官報か日刊新聞紙の会社だけが使える。電子公告を公告方法にしている会社は、この措置の対象ではない |
| 貸借対照表の内容である情報 | 要旨ではない。2項の「貸借対照表の要旨」と書き分けられている |
| 定時株主総会の終結の日後五年を経過する日までの間、継続して | 1回載せて終わりではなく、5年間ずっと置き続ける |
| 電磁的方法により不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置く | 会社計算規則147条により、インターネットに接続された自動公衆送信装置を使う方法。自社サイトが典型 |
| 前二項の規定は、適用しない。 | 官報にも新聞にも載せなくてよくなる。掲載料が発生しない |
中小企業にとって費用面でいちばん軽いのは、この経路です。公告方法は官報のままにしておき、実際の決算公告は自社サイトで5年間置く。官報の掲載料はかからず、後述のとおり電子公告調査の対象にもなりません。
ただし、ただで手に入るわけではありません。URLが登記事項になります。911条3項26号がこう定めています。
第四百四十条第三項の規定による措置をとることとするときは、同条第一項に規定する貸借対照表の内容である情報について不特定多数の者がその提供を受けるために必要な事項であって法務省令で定めるもの
つまり、この措置を使うと決めた時点で変更登記が必要になり、登録免許税がかかります。金額は当サイトの登録免許税の計算ツールで確認できます。また、登記した以上、サイトをリニューアルしてURLが変わったら登記も直すことになります。5年という期間の長さを考えると、ここは実務上の負担として見込んでおく必要があります。
なお、公告方法として電子公告を選ぶ場合のURLは、26号ではなく911条3項28号イの登記事項です。26号と28号は別の号で、根拠となる制度も別です。登記簿を読むときに、どちらの根拠で載っているURLなのかを取り違えないようにします。
電子公告調査は、決算公告には要らない(941条のかっこ書き)
電子公告について「調査機関の調査が必要で、そのぶん費用がかかる」という説明を見かけます。根拠は941条です。全文を読みます。
この法律又は他の法律の規定による公告(第四百四十条第一項の規定による公告を除く。以下この節において同じ。)を電子公告によりしようとする会社は、公告期間中、当該公告の内容である情報が不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置かれているかどうかについて、法務省令で定めるところにより、法務大臣の登録を受けた者(以下この節において「調査機関」という。)に対し、調査を行うことを求めなければならない。
柱の部分にかっこ書きがあります。「第四百四十条第一項の規定による公告を除く。」——決算公告は、電子公告調査の対象から外されています。しかも「以下この節において同じ。」と続くので、この除外は941条だけでなく、電子公告調査に関する節の全体に及びます。
理由は制度の趣旨から理解できます。電子公告調査は、たとえば合併や資本金の額の減少で債権者が異議を述べられる期間に、公告が本当に掲載され続けていたかを第三者に確かめさせるものです。掲載の有無が債権者の権利行使の機会に直結するので、事後に「載っていた」「載っていなかった」で争わせないための仕組みです。これに対して決算公告は、特定の期間内に何かを述べさせる性質のものではありません。
掲載期間についても確認しておきます。940条1項が公告の区分ごとに継続すべき期間を定めており、その2号が440条1項の規定による公告について、その定時株主総会の終結の日後5年を経過する日までとしています。電子公告として決算公告をする場合も、5年間の掲載が要るということです。440条3項の措置と同じ長さです。
電子公告には、もう一つ940条3項という救済規定があります。公告期間中に公告の中断——情報が提供を受けられる状態でなくなったり、置かれた後に改変されたりすること——が生じても、次の3つのいずれにも当たるときは公告の効力に影響しないというものです。会社が善意でかつ重大な過失がないことまたは正当な事由があること。中断が生じた時間の合計が公告期間の10分の1を超えないこと。そして、中断を知った後速やかに、その旨・中断が生じた時間・中断の内容を当該公告に付して公告したこと。公告期間が5年であれば10分の1は約6か月にあたりますが、3号が求めているのは時間の長短ではなく手当てのほうです。中断を知った後に速やかに、その旨と中断が生じた時間と中断の内容を、当該公告に付して公告しておく必要があります。これを実際にやっていなければ、中断の時間がどれだけ短くても救済されません。時間の要件だけを見て安心する規定ではありません。
なお940条は「電子公告により……公告をする場合」の規定です。440条3項の措置は公告方法としての電子公告ではないため、940条3項と同じ中断の救済規定は条文上置かれていません。自社サイトで5年間置く方式を選ぶときは、サーバーの可用性を自前の問題として抱えることになります。
やらないとどうなるか — 過料の名宛人は会社ではない
決算公告を怠った場合の制裁は976条にあります。同条の柱書は、発起人・設立時取締役から始まる長い列挙で名宛人を定め、次のいずれかに該当する場合には「百万円以下の過料に処する。」とし、ただし書で「その行為について刑を科すべきときは、この限りでない。」としています。そして2号がこれです。
この法律の規定による公告若しくは通知をすることを怠ったとき、又は不正の公告若しくは通知をしたとき。
2つ、注意すべき点があります。
1つ目は名宛人です。976条の柱書が主語として並べているのは、発起人、設立時取締役、取締役、会計参与、監査役、執行役、清算人といった自然人です。会社ではありません。決算公告を怠ったときに100万円以下の過料に処せられるのは、会社の経費としてではなく取締役個人としてです。
2つ目は過料と罰金の違いです。過料は行政上の秩序罰で、刑罰ではありません。前科にはならず、非訟事件手続として裁判所が決定します。976条のただし書が「その行為について刑を科すべきときは、この限りでない」としているのは、同じ行為に刑罰が用意されている場合には過料と重ねないという趣旨です。
あわせて、公告に関して過料の対象になる行為はもう1つあります。前述の35号、941条に違反して電子公告調査を求めなかったときです。決算公告を電子公告で行うだけなら調査は要りませんが、公告方法を電子公告にした会社が債権者保護手続の公告で調査を飛ばすと、こちらに当たります。
4つの経路を1枚で比べる
ここまでの条文を、選べる4つの経路として並べます。②を選べるのは公告方法が官報か日刊新聞紙の会社だけである点が、表の上でも効いてきます。
| ① 官報 | ② 日刊新聞紙 | ③ 440条3項のウェブ開示 | ④ 電子公告 | |
|---|---|---|---|---|
| 根拠 | 440条1項・2項 | 440条1項・2項 | 440条3項 | 440条1項 |
| 公告方法の定款の定め | 官報(定めが無ければ自動的にこれ) | 日刊新聞紙 | 官報または日刊新聞紙のまま | 電子公告 |
| 載せるもの | 要旨でよい | 要旨でよい | 貸借対照表の内容である情報(全文) | 貸借対照表(全文) |
| 掲載しつづける期間 | 掲載回で完結 | 掲載回で完結 | 定時総会終結の日後5年 | 定時総会終結の日後5年(940条1項2号) |
| 電子公告調査 | 対象外 | 対象外 | 不要(電子公告ではない) | 不要(941条かっこ書き) |
| 決算公告以外の公告の調査 | 不要 | 不要 | 不要(公告方法は官報等のまま) | 必要(941条・976条35号) |
| 登記 | 公告方法(911条3項27号)または定めなしの旨(29号) | 公告方法(27号) | URL(26号)+公告方法 | URL(28号イ)+公告方法 |
| 掲載の実費 | 官報販売所に支払う掲載料 | 新聞社に支払う掲載料 | かからない | かからない |
| 中断が起きたときの救済 | — | — | 条文上の定めなし | 940条3項(3要件すべて) |
官報と日刊新聞紙の掲載料は、法律が定めた額ではありません。官報であれば官報販売所が枠の数に応じて見積もる料金で、新聞であれば各社の広告料金です。年度や紙面によって変わりますので、実際に発生する額は掲載先に見積もりを取って確かめることになります。この記事では、条文で確かめられない金額は書きません。
公告方法を変えるときの登録免許税を計算する実務の落とし穴
条文を読んで初めて分かる、間違えやすい点をまとめます。
| よくある理解 | 条文上はどうか | 根拠 |
|---|---|---|
| 決算公告は大会社・上場企業の話 | 逆。440条1項の主語は「株式会社は」で規模の例外が無く、有報提出会社のほうが除外 | 440条1項・4項 |
| うちは有限会社だから株式会社と同じ義務がある | 特例有限会社は440条が適用されない | 整備法28条 |
| 電子公告にすれば要旨で足りて楽になる | 要旨で足りるのは官報・日刊新聞紙の会社だけ。電子公告は貸借対照表そのもの | 440条2項 |
| 電子公告は調査費用がかかるから中小には無理 | 決算公告は調査の対象外。ただし決算公告以外の公告には調査が要る | 941条かっこ書き・976条35号 |
| 自社サイトに決算書を載せているから公告している | 公告方法が官報のままで26号の登記もしていなければ、440条3項の措置になっていない | 440条3項・911条3項26号 |
| 貸借対照表だけ出せば利益は分からない | 当期純損益金額を明らかにしなければならない | 会社計算規則136条1項8号 |
| 1回載せれば終わり | 440条3項の措置と電子公告は5年間の継続が要る | 440条3項・940条1項2号 |
| 過料は会社が払う | 976条の柱書が並べる名宛人は取締役などの自然人 | 976条柱書・2号 |
| 決算日から2か月以内に公告する | 起点は決算日でも申告期限でもなく定時株主総会の終結後 | 440条1項 |
実務でとくに事故になりやすいのが、上から5つ目です。自社サイトの会社案内に「決算公告」というページを作り、貸借対照表を置いている会社は少なくありません。しかし公告方法が官報のままで、440条3項の措置をとる旨の登記(911条3項26号)をしていなければ、条文上それは決算公告ではありません。登記されたURLで、その内容が置かれているという組み合わせが揃って初めて、この措置になります。逆に言えば、この経路を選ぶときにやるべきことは「サイトに載せる」ではなく「登記してから、そのURLに載せて5年間置く」です。
もう一つ、9つ目に挙げた起点も見落とされます。440条1項の起点は「定時株主総会の終結後遅滞なく」です。役員が実質的に1人で、定時株主総会を実際には開いていない会社では、この起点そのものが曖昧になります。書面決議(会社法319条)で承認しているのであればその効力が生じた日が終結にあたる日と整理できますが、何もしていない場合は、決算公告の前に定時株主総会の運用を整えるところから戻ることになります。関連して、当サイトの株主総会議事録の記事も参考にしてください。
よくある質問
Q. 資本金300万円の一人株式会社ですが、本当に決算公告が必要ですか?
A. 会社法440条1項は主語を「株式会社は」としており、資本金の額や株主の人数による例外を置いていません。したがって条文の上では必要です。義務が無いのは、整備法28条で440条の適用が除外されている特例有限会社と、そもそも440条の主語に含まれない合同会社などの持分会社、それに440条4項で除外されている有価証券報告書の提出会社の3つだけです。なお実際には決算公告をしていない中小企業が多いと指摘されることがありますが、それは義務が無いということではなく、義務が履行されていないという別の話です。
Q. 公告方法を電子公告に変えると、決算公告は要旨で足りますか?
A. 足りません。要旨で足りると定めているのは440条2項で、その対象は「第九百三十九条第一項第一号又は第二号に掲げる方法である株式会社」すなわち官報または日刊新聞紙の会社に限られています。電子公告は939条1項3号なので、この列挙に入っていません。電子公告の会社には440条1項がそのまま当たり、貸借対照表そのものを掲載することになります。掲載料はかからなくなりますが、開示する分量は増えます。
Q. 自社のホームページに貸借対照表を載せるだけでよいのですか?
A. 公告方法が官報または日刊新聞紙の会社であれば、440条3項の措置としてそれが認められますが、条件があります。会社計算規則147条により、インターネットに接続された自動公衆送信装置を使う方法によることに加え、会社法911条3項26号により、その情報の提供を受けるために必要な事項が登記事項になります。つまり変更登記が必要です。さらに、定時株主総会の終結の日後5年を経過する日まで継続して置き続ける必要があり、掲載するのは要旨ではなく貸借対照表の内容である情報です。登記をしないままサイトに載せているだけでは、条文上の措置をとったことになりません。
Q. 電子公告にすると、調査機関に費用を払う必要がありますか?
A. 決算公告についてはありません。941条が電子公告調査の対象となる公告から「第四百四十条第一項の規定による公告を除く。」とかっこ書きで除いており、この除外は「以下この節において同じ。」とされているため電子公告調査の節全体に及びます。ただし外れているのは決算公告だけです。公告方法を電子公告と定めた会社が、合併や資本金の額の減少などの債権者保護手続の公告を電子公告で行う場合には941条が当たり、調査を求めなければなりません。求めなかった場合は976条35号により過料の対象になります。
Q. 貸借対照表だけ公告すれば、利益額は公表されずに済みますか?
A. 済みません。会社計算規則136条1項が、440条1項の公告において明らかにすべき事項として8つを挙げており、その8号が当期純損益金額です。これは大会社に限った要求ではなく、440条1項の公告一般に当たります。したがって貸借対照表しか公告しない会社でも、当期純利益または当期純損失の額は公告に現れます。なお1号から7号までの注記は、当該事業年度に係る個別注記表に表示した注記に限られますので、個別注記表に置いていない注記まで新たに作る必要はありません。
Q. 過去何年分もまとめて公告することはできますか?
A. 440条1項が求めているのは各事業年度の貸借対照表を定時株主総会の終結後遅滞なく公告することなので、複数年分を後からまとめて掲載しても、過去の年度について遅滞なく公告したことにはなりません。ただし、公告していない状態を続けるよりは、掲載しないままにしないほうがよいという実務的な判断はありえます。過去分の取扱いや過料のリスクについては事実関係によって評価が変わりますので、司法書士または弁護士にご相談ください。
出典
- e-Gov法令検索「会社法」(平成十七年法律第八十六号)。法令API v2 の
law_data/417AC0000000086から全文を取得した。参照したのは2条6号(大会社の定義)、440条1項〜4項(計算書類の公告)、911条3項26号・27号・28号・29号(株式会社の設立の登記における登記事項)、939条1項〜4項(会社の公告方法)、940条1項・3項(電子公告の公告期間等)、941条(電子公告調査)、976条柱書・2号・35号(過料に処すべき行為)である。本文の引用はこの取得結果からの逐語である - e-Gov法令検索「会社計算規則」(平成十八年法務省令第十三号)。法令API v2 の
law_data/418M60000010013から全文を取得した。参照したのは136条1項・2項・3項(公告において明らかにすべき事項)、137条(要旨の様式の委任)、138条(貸借対照表の要旨の区分)、139条1項〜5項(資産の部)、147条(貸借対照表等の電磁的方法による公開の方法)、148条(不適正意見がある場合等における公告事項)である - e-Gov法令検索「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成十七年法律第八十七号)。法令API v2 の
law_data/417AC0000000087から取得した28条(計算書類の公告等に関する規定の適用除外)を参照した。本文の引用は逐語である - 官報および日刊新聞紙の掲載料は法令が定める額ではなく、官報販売所または新聞社が定める料金であるため、この記事では具体的な金額を書いていない。実際の額は掲載先に見積もりを取って確認されたい
- この記事で扱っていない事項について。債権者保護手続の公告(449条、627条、789条ほか)は決算公告とは別の制度であり、期間や記載事項も別に定められているため、本稿では電子公告調査の要否に関係する範囲でしか触れていない。計算書類の備置きと閲覧(442条)、臨時計算書類(441条)、連結計算書類(444条)も主題が別のため扱っていない。公告を怠った状態が続いた場合の具体的な過料の額や、実際に科される頻度については、裁判所の判断によるものであり条文からは決まらないため、記載していない。一般社団法人・一般財団法人の貸借対照表の公告は一般社団法人及び一般財団法人に関する法律に別の定めがあり、会社法440条の対象外である
この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法律相談ではありません。自社がどの経路を選ぶべきか、過去に公告していない年度をどう扱うか、定款変更と登記をどの順序で行うかは事実関係によって変わりますので、実際の判断については司法書士または弁護士にご相談ください。税務上の処理については税理士にご確認ください。