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のれんとは — 税法に「のれん」は0回。会計は任意計上、税務は60ヶ月で必ず落とす

結論から言うと、のれんとは、他社の事業を取得したときに支払った対価が、受け入れた資産と負債の差額(純資産)を上回る部分です。会社計算規則11条が計上を認めていますが、条文は「計上することができる」とだけ書いていて、何年で償却するかには触れていません。

そして実務で最初につまずくのが、税法には「のれん」という語が一度も出てこないことです。法人税法・法人税法施行令・所得税法・消費税法の本文を全文検索しても、「のれん」は0回。税法が使うのは「資産調整勘定」「営業権」という別の名前です。同じ経済実態を指しているのに、会計法令と税法で語彙がまったく重なっていません。

この語彙の分断が、そのまま実務の分断になります。会計では償却期間を会社が決められるのに、税務では法人税法62条の8第4項が「六十で除して」計算した額を「減額しなければならない」と命じます。60で除す、つまり60ヶ月=5年の月割で、選択の余地なく損金に落ちる。会計で10年償却を選べば、その差はすべて申告調整になります。この記事では、計上の根拠・償却・営業権との使い分け・負ののれん・消費税・配当への影響までを、条文を引用しながら順に整理します。

「のれん」は税法に0回 — 語彙が法令ごとに分かれている

e-Gov法令検索から各法令の全文を取得して、「のれん」「資産調整勘定」「営業権」の3語を数えました(令和8年8月22日時点の現行法令)。結果ははっきり分かれます。

法令本文の字数のれん資産調整勘定営業権
会社計算規則112,44228回0回0回
財務諸表等規則173,38631回0回0回
会社法457,3930回0回0回
法人税法600,5200回12回1回
法人税法施行令1,184,2210回30回30回
所得税法1,095,6380回0回0回
所得税法施行令695,0930回2回7回
消費税法228,8920回0回0回
消費税法施行令0回0回2回
耐用年数省令50,0380回0回1回
重なっている語が1つもない 会計法令(会社計算規則・財務諸表等規則)は「のれん」しか使わず、「資産調整勘定」も「営業権」も0回。税法(法人税法・同施行令・所得税法施行令・消費税法施行令)は「資産調整勘定」「営業権」しか使わず、「のれん」は0回。両側に登場する語が1つも存在しません。会計の本と税務の本で言葉が食い違って見えるのは、書き手の趣味ではなく、根拠となる法令がそもそも別の語を使っているからです。

なお、会社法本体には「のれん」が0回です。のれんを扱っているのは会社法の委任を受けた法務省令(会社計算規則)の側で、これは勘定科目の名前が法律ではなく省令のレベルで決まっているという、勘定科目一覧で見たのと同じ構造です。

同じ「対価 − 時価純資産」の差額を、法令ごとに別の名前で呼んでいる 事業を取得したときの 対価 − 受け入れた時価純資産 会計法令 会社計算規則・財務諸表等規則 「のれん」 計上できる(計算規則11条) 償却期間は条文に無い 資産調整勘定・営業権は 0回 税法 法人税法・同施行令ほか 「資産調整勘定」「営業権」 減額しなければならない(62条の8) 60ヶ月/営業権は5年 のれんは 0回
会計法令と税法に共通して現れる語は1つも無い。実測(e-Gov法令検索の全文・令和8年8月22日時点)。

計上の根拠 — 会社計算規則11条は「できる」規定

のれんの計上を認めているのは、会社計算規則の第2編第2章第2節(見出しも「のれん」)に置かれた11条です。条文はこれだけです。

会社は、吸収型再編、新設型再編又は事業の譲受けをする場合において、適正な額ののれんを資産又は負債として計上することができる。

短い条文ですが、読み取れることが3つあります。

株式を買っただけでは、のれんは立たない 11条が挙げるのは組織再編と事業の譲受けです。他社の株式を100%取得しても、単体の貸借対照表に載るのは「子会社株式」であって、のれんではありません。のれんが単体で出るのは、合併して資産と負債を自社に受け入れたときや、事業そのものを買ったときです。連結貸借対照表ののれんは会社計算規則85条が別に定めており、そちらは投資と資本の相殺から生じるものです。M&A の場面で「のれんが出るか」を考えるときは、まず株式を買ったのか、事業を買ったのかを確かめることになります。

貸借対照表のどこに載るかは、会社計算規則74条3項3号リ(無形固定資産)と75条2項2号ヘ(固定負債)が定めています。同じ「のれん」という語が資産の部と負債の部の両方に置かれている点は、貸借対照表の見方で詳しく扱っています。

償却 — 会計は任意、税務は60ヶ月で強制

会社計算規則は償却期間を定めていません。会計上の償却は会計基準の領域で、条文を読んでも答えは出てきません。ところが税務は、条文が期間まで書いています。法人税法62条の8第4項です。

第一項の資産調整勘定の金額を有する内国法人は、各資産調整勘定の金額に係る当初計上額(非適格合併等の時に同項の規定により当該資産調整勘定の金額とするものとされた金額をいう。)を六十で除して計算した金額に当該事業年度の月数(当該事業年度が当該資産調整勘定の金額に係る非適格合併等の日の属する事業年度である場合には、同日から当該事業年度終了の日までの期間の月数)を乗じて計算した金額(当該内国法人が自己を被合併法人とする合併(適格合併を除く。)を行う場合又は当該内国法人の残余財産が確定した場合にあつては、当該合併の日の前日又は当該残余財産の確定の日の属する事業年度終了の時の金額)に相当する金額を、当該事業年度(当該内国法人が当該合併を行う場合又は当該内国法人の残余財産が確定した場合にあつては、当該合併の日の前日又は当該残余財産の確定の日の属する事業年度)において減額しなければならない。

長い条文ですが、骨格は単純です。当初計上額を「六十で除して」計算した金額に、その事業年度の「月数」を乗じた金額を「減額しなければならない」。60で除して月数を掛ける、つまり60ヶ月=5年の均等月割。そして減額した額の扱いを、続く第5項が定めます。

前項の規定により減額すべきこととなつた資産調整勘定の金額に相当する金額は、その減額すべきこととなつた日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。

月数の数え方は第11項にあります。

第四項及び第七項の月数は、暦に従つて計算し、一月に満たない端数を生じたときは、これを一月とする。

端数は切り捨てではなく切り上げです。月の途中で事業を譲り受けても、その月は1ヶ月として数えます。

「することができる」ではなく「しなければならない」 減価償却資産の償却費は、法人税法31条1項が「損金経理をした金額のうち」償却限度額に達するまでの金額を損金算入する仕組みで、償却するかどうかに会社の選択(任意償却)の余地があります。資産調整勘定はそれと違い、62条の8第4項が「減額しなければならない」と命じる強制償却です。会計で償却しなくても、税務では5年で必ず落ちていきます。
会計(のれん)税務(資産調整勘定)
根拠会社計算規則11条+会計基準法人税法62条の8第4項・第5項
計上計上することが「できる」要件を満たせば自動的に生じる
償却期間条文に定めなし(会計基準の領域)60ヶ月の均等月割
償却の強制力会計方針として選択減額しなければならない
初年度会計方針による取得の日から期末までの月数(端数は1月に切上げ)
ズレの処理会計の償却費と税務の減額額の差は、申告書別表四で加算・減算する

営業権と「独立取引営業権」 — 同じ語で扱いが分かれる

税法にはもう1つ「営業権」という語があります。法人税法施行令13条は減価償却資産の範囲を定めた条文で、その柱書はこうです。

法第二条第二十三号(定義)に規定する政令で定める資産は、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(事業の用に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする。

そして8号(無形固定資産)の中に、イの鉱業権から順に並ぶ列挙のとして営業権が挙がっています。営業権は減価償却資産であり、耐用年数省令の別表第三(無形減価償却資産の耐用年数表)は営業権の耐用年数を5年としています。

ここで混乱しやすいのが、営業権にも2種類あることです。法人税法62条の8第1項は、差額を計算するときの資産について「(営業権にあつては、政令で定めるものに限る。)」という括弧書きを置いています。その「政令で定めるもの」を定義しているのが法人税法施行令123条の10第3項です。

法第六十二条の八第一項に規定する政令で定める営業権は、営業権のうち独立した資産として取引される慣習のあるもの(第十六項第一号イ及び第二号イにおいて「独立取引営業権」という。)とする。
独立取引営業権それ以外
意味独立した資産として取引される慣習のあるもの単なる超過収益力
差額計算での扱い個別の資産として時価純資産価額に算入する算入しない(差額に吸収される)
結果として立つ勘定営業権(無形固定資産)資産調整勘定
期間耐用年数5年(別表第三)60ヶ月(62条の8第4項)
償却の強制力損金経理が前提(法人税法31条1項)減額しなければならない

どちらも期間は5年ですが、強制力が違います。営業権は減価償却資産なので損金経理を通じて償却する一方、資産調整勘定は会社の経理に関係なく減額されます。「5年だから同じ」と考えると、申告調整の要否を取り違えることになります。

号の中の記号は法令ごとに違う 営業権は法人税法施行令13条8号ではですが、消費税法施行令5条8号ではです。同じ無形固定資産の列挙でも、消費税法施行令の側にはソフトウエアが入っていないため、以降の記号が1つずつ前にずれています。条文をメモするときに「8号ヨ」とだけ控えると、別の法令を引いたときに合いません。

負ののれん — 税務では「負債調整勘定」が3種類ある

受け入れた純資産より安く買えたときの差額が、負ののれんです。税務では法人税法62条の8第3項が受けます。

内国法人が非適格合併等により当該非適格合併等に係る被合併法人等から資産又は負債の移転を受けた場合において、当該非適格合併等に係る非適格合併等対価額が当該被合併法人等から移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額に満たないときは、その満たない部分の金額は、負債調整勘定の金額とする。

この第3項の負債調整勘定に「差額負債調整勘定」という名前を付けたうえで、第7項が資産調整勘定と同じ扱いを定めます。

第三項の負債調整勘定の金額(以下この条において「差額負債調整勘定の金額」という。)を有する内国法人は、各差額負債調整勘定の金額に係る当初計上額(非適格合併等の時に同項の規定により当該差額負債調整勘定の金額とするものとされた金額をいう。)を六十で除して計算した金額に当該事業年度の月数(当該事業年度が当該差額負債調整勘定の金額に係る非適格合併等の日の属する事業年度である場合には、同日から当該事業年度終了の日までの期間の月数)を乗じて計算した金額(当該内国法人が自己を被合併法人とする合併(適格合併を除く。)を行う場合又は当該内国法人の残余財産が確定した場合にあつては、当該合併の日の前日又は当該残余財産の確定の日の属する事業年度終了の時の金額)に相当する金額を、当該事業年度(当該内国法人が当該合併を行う場合又は当該内国法人の残余財産が確定した場合にあつては、当該合併の日の前日又は当該残余財産の確定の日の属する事業年度)において減額しなければならない。
前二項の規定により減額すべきこととなつた負債調整勘定の金額に相当する金額は、その減額すべきこととなつた日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。
会計は一時の利益、税務は5年がかりの益金 会計では、負ののれんが生じた事業年度の利益として処理されます。会社計算規則88条2項が特別利益の細分の例として「負ののれん発生益」を名指ししているのは、その表れです。一方の税務は、差額負債調整勘定として60ヶ月に分けて益金算入します。会計は一時、税務は5年。ここは資産側(のれん)よりも差が目立つ場面で、負ののれんが出た年度は会計上の利益が大きく出るのに課税所得はそこまで増えない、という形になります。

もう1つ、税務側にだけある構造があります。負債調整勘定は3種類あることです。会計の「負ののれん」に対応するのは、そのうち差額負債調整勘定だけです。

種類根拠中身取り崩し
退職給与負債調整勘定62条の8第2項1号引き継いだ従業者の退職給与債務引受額その従業者が退職・退職給与の支給を受けたとき(第6項1号)
短期重要負債調整勘定62条の8第2項2号おおむね3年以内に履行が見込まれる、事業の利益に重大な影響を与える将来債務損失が生じたとき、または3年経過(第6項2号)
差額負債調整勘定62条の8第3項対価が時価純資産価額に満たない部分=負ののれん60ヶ月の均等月割(第7項)

短期重要負債調整勘定には金額の足切りがあります。法人税法施行令123条の10第8項は、その債務の額に相当する損失の見込額が、移転を受けた「資産の取得価額の合計額の百分の二十に相当する金額を超える場合」の債務に限る、としています。小さな将来債務は対象になりません。

対価 と 時価純資産価額 を比べる 対価 − 時価純資産価額 プラス マイナス 超える部分の金額(62条の8第1項) 資産調整勘定 60ヶ月で減額 損金(第5項) 資産等超過差額 施行令123条の10④ 損金にならない 満たない部分の金額(第3項) 差額負債調整勘定 60ヶ月で減額 益金(第8項) 独立取引営業権に当たるものは、差額に入る前に個別の資産として時価純資産価額に算入される (施行令123条の10第3項/耐用年数5年・別表第三)
差額のうち資産等超過差額に当たる部分は資産調整勘定から外れ、60ヶ月の損金算入の対象にならない。

落とし穴3つ — 資産等超過差額・明細書・株式取得

① 差額の全部が損金になるとは限らない。62条の8第1項は「その超える部分の金額のうち政令で定める部分の金額」を資産調整勘定とする、という書き方をしています。その政令が法人税法施行令123条の10第4項です。

法第六十二条の八第一項に規定する政令で定める部分の金額は、同項に規定する超える部分の金額のうち、資産等超過差額(同項に規定する非適格合併等(以下この条において「非適格合併等」という。)により交付された同項の内国法人の株式その他の資産の当該非適格合併等の時における価額が当該非適格合併等により当該株式その他の資産を交付することを約した時の価額と著しい差異を生じている場合におけるこれらの価額の差額その他の財務省令で定める金額に相当する金額をいう。次項及び第六項において同じ。)に相当する金額以外の金額とする。

交付した株式の価額が、交付を約した時と実際の時とで著しく違っていた場合、その差額(資産等超過差額)は資産調整勘定から除かれます。除かれるということは、60ヶ月の損金算入の対象にならないということです。株式を対価にする組織再編で、合意から実行までの間に株価が大きく動いたときに効いてきます。

② 明細書の添付が要る。法人税法施行令123条の10第9項です。

法第六十二条の八第一項に規定する資産調整勘定の金額又は同条第二項若しくは第三項に規定する負債調整勘定の金額を有する内国法人は、その有することとなつた事業年度(同条第九項に規定する適格合併等によりこれらの金額の引継ぎを受けた事業年度を含む。)及び同条第四項、第六項又は第七項の規定によりこれらの金額を減額する事業年度の確定申告書に、その有することとなつた金額(その引継ぎを受けた金額を含む。)の計算又は同条第五項若しくは第八項の規定により損金の額若しくは益金の額に算入される金額の計算に関する明細書を添付しなければならない。

添付が要るのは最初の年度だけではありません。減額する事業年度の確定申告書にもと書かれているので、5年間ずっと必要です。

③ 事業の「おおむね全部」が移転していないと、そもそも対象外。62条の8第1項の「事業の譲受けのうち、政令で定めるもの」を受けた施行令123条の10第1項は、譲渡側が直前に行う事業と、その事業に係る主要な資産又は負債のおおむね全部が移転するものに限っています。事業の一部だけを買った場合や、資産を選んで買った場合は、この条文の土俵に乗りません。

のれんは配当できる額を減らす — のれん等調整額

あまり知られていませんが、のれんは配当できる額にも効きます。会社法461条2項6号が分配可能額から差し引く「法務省令で定める各勘定科目に計上した額」を受けているのが、会社計算規則158条です。その1号にこの定義があります。

のれん等調整額(資産の部に計上したのれんの額を二で除して得た額及び繰延資産の部に計上した額の合計額をいう。以下この号及び第四号において同じ。)

のれんの額を2で除した額と、繰延資産の額の合計。これがのれん等調整額です。そのうえで、同じ1号のイがこう定めます。

当該のれん等調整額が資本等金額(最終事業年度の末日における資本金の額及び準備金の額の合計額をいう。以下この号において同じ。)以下である場合零

のれん等調整額が資本金と準備金の合計以下であれば、差し引く額は零。超えたときにはじめて、超過分が分配可能額から差し引かれます(ロ・ハがその額を定めます)。

会計方針の選択が配当に効く のれんを短い期間で償却すれば帳簿価額は早く減り、のれん等調整額も早く小さくなります。逆に長期間で償却すると、のれんが資本金と準備金の合計を超えている間は分配可能額が圧縮され続けます。のれんの償却期間は損益だけの問題ではなく、配当できる額の問題でもあるということです。なお、この規定は「のれんの額を二で除して」いる点が独特で、繰延資産のように全額を差し引くわけではありません。

消費税 — 営業権は100万円以上で調整対象固定資産

消費税法にも消費税法施行令にも「のれん」は0回です。ただし施行令には「営業権」が2回出てきます。その1つが調整対象固定資産の範囲を定めた5条で、柱書はこうです。

法第二条第一項第十六号に規定する政令で定める資産は、棚卸資産以外の資産で次に掲げるもののうち、当該資産に係る法第三十条第八項第一号ニに規定する課税仕入れに係る支払対価の額の百十分の百に相当する金額、当該資産に係る同条第一項に規定する特定課税仕入れに係る支払対価の額又は保税地域から引き取られる当該資産の課税標準である金額が、一の取引の単位(通常一組又は一式をもつて取引の単位とされるものにあつては、一組又は一式)につき百万円以上のものとする。

この列挙の8号(無形固定資産)のカに営業権が入っています。つまり、営業権を税抜100万円以上で取得すると調整対象固定資産に当たります。調整対象固定資産は仕入税額控除の調整の対象となる資産なので、営業権の取得が課税仕入れになることを条文が前提にしていることも読み取れます。

調整対象固定資産に該当すると、課税売上割合が著しく変動した場合の仕入控除税額の調整(消費税法33条)などの対象になります。事業譲受けの対価が大きいときは、法人税の資産調整勘定だけでなく、消費税側でこの判定が要ることになります。消費税計算ツールで税抜金額を確かめられます。

事業譲渡は「まとめて1つ」ではない 事業譲渡の対価を一括で決めても、消費税は個々の資産ごとに課税・非課税を判定します。土地は非課税、建物や棚卸資産や営業権は課税、というように分かれるので、契約書で対価の内訳を定めていないと、仕入税額控除の計算ができません。インボイス登録番号チェックで、譲渡側が適格請求書発行事業者かどうかも確かめておくことになります。

設例と仕訳

3月決算の法人が、令和8年10月1日に他社から事業の譲受けを行ったとします。譲受けの内容は次のとおりで、独立取引営業権に当たるものは無かったものとします。

項目金額
支払対価120,000,000円
移転を受けた資産の時価90,000,000円
移転を受けた負債の額20,000,000円
時価純資産価額(90,000,000 − 20,000,000)70,000,000円
差額(120,000,000 − 70,000,000)50,000,000円

会計上は、この50,000,000円をのれんとして無形固定資産に計上します。

借方貸方
諸資産90,000,000諸負債20,000,000
のれん50,000,000現金預金120,000,000

税務上は、同じ50,000,000円が資産調整勘定になります。当期は令和8年10月1日から令和9年3月31日までの6ヶ月なので、62条の8第4項の計算はこうなります。

50,000,000円 ÷ 60 × 6ヶ月 = 5,000,000円(当期の損金算入額)

翌期以降は 50,000,000円 ÷ 60 × 12ヶ月 = 10,000,000円 が5年目まで続く

ここで、会計の償却期間を10年と決めていたとします。会計上の償却費は 50,000,000円 ÷ 120ヶ月 × 6ヶ月 = 2,500,000円。税務は5,000,000円を減額しますから、差の2,500,000円は申告書別表四で減算します。

年度会計の償却費(10年)税務の減額額(60ヶ月)申告調整
初年度(6ヶ月)2,500,000円5,000,000円減算 2,500,000円
2〜5年度(各12ヶ月)各 5,000,000円各 10,000,000円各 減算 5,000,000円
6年度(6ヶ月分で完了)5,000,000円5,000,000円
7〜10年度各 5,000,000円0円(既に全額減額済み)各 加算 5,000,000円

税務が先に落ちきり、あとから会計が追いかける形になります。合計は一致しますが、期間のズレは10年続きます。この差は将来加算一時差異として税効果会計の対象にもなります(税効果会計とは)。なお、この設例では6ヶ月をちょうど数えていますが、譲受けが月の途中であれば62条の8第11項により端数は1ヶ月として数えます。

事業譲受けの対価から税抜金額・消費税額を計算する

よくある質問

Q. のれんとは何ですか?

A. 他社の事業を取得したときに支払った対価が、受け入れた資産と負債の差額(時価純資産)を上回る部分です。会社計算規則11条が「会社は、吸収型再編、新設型再編又は事業の譲受けをする場合において、適正な額ののれんを資産又は負債として計上することができる。」と定めています。超過収益力の対価と説明されることが多い項目ですが、条文はその中身を定義しておらず、計上できる場面(組織再編と事業の譲受け)と、資産にも負債にもなりうることだけを書いています。

Q. 税法に「のれん」という言葉は出てきますか?

A. 出てきません。法人税法・法人税法施行令・所得税法・消費税法・消費税法施行令の本文を全文検索すると「のれん」は0回です。税法が使うのは「資産調整勘定」(法人税法62条の8第1項)と「営業権」(法人税法施行令13条8号ヨほか)です。逆に会社計算規則と財務諸表等規則には「のれん」がそれぞれ28回・31回ある一方、「資産調整勘定」「営業権」は0回で、会計法令と税法に共通して現れる語がありません。

Q. のれんの税務上の償却期間は何年ですか?

A. 資産調整勘定として60ヶ月(5年)の均等月割です。法人税法62条の8第4項が、当初計上額を「六十で除して計算した金額」に当該事業年度の月数を乗じた金額を「減額しなければならない」と定めており、減額した額は同条第5項により損金算入されます。月数は同条第11項により暦に従って計算し、1ヶ月に満たない端数は1ヶ月として数えます。会計上の償却期間をどう決めても、税務上の期間はこれとは無関係に決まります。

Q. 会計の償却期間と税務の期間が違うとどうなりますか?

A. 差額を申告書別表四で加算・減算して調整します。たとえば会計で10年償却、税務で60ヶ月であれば、最初の5年間は税務の減額額が会計の償却費を上回るので減算調整、税務の減額が終わったあとの5年間は会計の償却費だけが残るので加算調整になります。損金算入される総額はどちらも同じですが、計上される期がずれるため、その差は将来加算一時差異として税効果会計の対象になります。

Q. 資産調整勘定と営業権はどう使い分けますか?

A. 営業権のうち独立した資産として取引される慣習のあるものは「独立取引営業権」として個別の資産に計上し、それ以外は差額に吸収されて資産調整勘定になります。法人税法施行令123条の10第3項が「法第六十二条の八第一項に規定する政令で定める営業権は、営業権のうち独立した資産として取引される慣習のあるもの」と定めています。期間はどちらも5年ですが、独立取引営業権は減価償却資産なので法人税法31条1項により損金経理が前提となるのに対し、資産調整勘定は経理に関係なく減額される点が違います。

Q. 株式を100%取得したら、のれんは計上できますか?

A. 単体の貸借対照表には計上されません。会社計算規則11条がのれんの計上を認めているのは吸収型再編・新設型再編・事業の譲受けの場面で、株式の取得はこれに当たらないためです。株式を取得した場合、単体では子会社株式として計上されます。連結貸借対照表に表示されるのれんについては同規則85条が別に定めており、こちらは連結子会社に係る投資の金額と、それに対応する資本の金額との差から生じるものです。

Q. 負ののれんは会計と税務でどう違いますか?

A. 会計では生じた事業年度の特別利益になり、税務では60ヶ月に分けて益金算入します。会社計算規則88条2項が特別利益の細分の例として「負ののれん発生益」を挙げているのが会計側で、税務側は法人税法62条の8第3項が差額を負債調整勘定とし、同条第7項が60で除して月数を乗じた額を減額、第8項がその額を益金算入すると定めています。会計は一時、税務は5年に分割という形で、資産側ののれんよりも差が目立ちます。

Q. のれんがあると配当できる額は減りますか?

A. のれんが大きいと減ることがあります。会社計算規則158条1号が「のれん等調整額」を、資産の部に計上したのれんの額を2で除して得た額と繰延資産の部に計上した額の合計と定義しており、同号イはこの額が資本金と準備金の合計額(資本等金額)以下である場合は差し引く額を零としています。裏を返せば、のれん等調整額が資本等金額を超えたときには超過分が分配可能額から差し引かれます。のれんの償却期間は損益だけでなく、配当できる額にも影響します。

Q. 営業権を取得したとき、消費税で気をつけることはありますか?

A. 税抜100万円以上なら調整対象固定資産に該当します。消費税法施行令5条が、同条各号に掲げる資産のうち一の取引の単位につき100万円以上のものを調整対象固定資産とし、その8号カに営業権が挙げられているためです。該当すると、課税売上割合が著しく変動した場合の仕入控除税額の調整などの対象になります。なお同じ営業権でも、法人税法施行令13条8号では記号が「ヨ」、消費税法施行令5条8号では「カ」で、列挙にソフトウエアが含まれるかどうかの差で記号がずれています。

出典

条文の計数は、e-Gov法令検索のAPIで取得した各法令の本文全文に対して行ったものです(令和8年8月22日時点の現行法令)。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・税理士にご確認ください。

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