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繰延資産とは — 開業費・創立費はいつでも全額落とせる。礼金は20万円で扱いが分かれる

結論から言うと、税法上の繰延資産は2つのグループに分かれ、償却の自由度が正反対です。創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債等発行費(法人税法施行令14条1項1号〜5号)は、償却限度額が「その繰延資産の額」と定められています(同令64条1項1号)。上限が全額ということは、今期は0円、来期に全額、といった配分が選べるということです。これがいわゆる任意償却です。

これに対して、建物を借りるときの礼金や同業者団体の加入金など、同令14条1項6号のものは扱いが違います。償却限度額は「その繰延資産の額を支出の効果の及ぶ期間の月数で除して計算した金額に当該事業年度の月数を乗じた金額」(同令64条1項2号)で、月数で按分する均等償却です。好きな年に好きなだけ落とすことはできません。ただし20万円未満なら支出した事業年度に全額落とせます(同令134条)。

そして法人と個人事業主では、範囲も要件も違います。個人には創立費・株式交付費・社債等発行費がそもそもありません(所得税法施行令7条1項)。任意償却ができる根拠も別で、法人は「償却費として損金経理をした金額」が起点(法人税法32条1項)、個人は「確定申告書に記載した金額」が起点(所得税法施行令137条3項)です。どちらも結果として自由に選べますが、効かせるために動かす場所が帳簿と申告書で違います。以下、条文から確認できることと、確認範囲を超えるため断定を避けたことを分けて示します。

結論:繰延資産は2つのグループに分かれる

法人税法2条24号は繰延資産を「法人が支出する費用のうち支出の効果がその支出の日以後一年以上に及ぶもので政令で定めるもの」と定義しています。中身を決めているのは政令で、法人税法施行令14条1項が6つの号に分けて列挙しています。

実務でいちばん効くのは、この6つの号が「1号から5号まで」と「6号」の2グループに割れていることです。割っているのは範囲を定める14条ではなく、償却限度額を定める64条1項です。64条1項は1号で「14条1項1号から5号までに掲げる繰延資産」、2号で「14条1項6号に掲げる繰延資産」と受けたうえで、それぞれに違う計算方法を与えています。

2つのグループの違い

グループA(令14条1項1〜5号)=創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債等発行費。償却限度額はその繰延資産の額(既に損金算入した額を控除した残り)。上限が残額全部なので、実質的に任意償却になります。

グループB(令14条1項6号)=公共的施設・共同的施設の負担金、資産を賃借するための権利金、役務の提供を受けるための権利金、広告宣伝用資産の贈与、その他自己が便益を受けるための費用。償却限度額は効果の及ぶ期間で月数按分した金額。均等償却です。

なお「支出の効果が1年以上に及ぶもの」という条件は、政令の側では6号にだけ明文で置かれています。6号は「前各号に掲げるもののほか、次に掲げる費用で支出の効果がその支出の日以後一年以上に及ぶもの」という書き方で、イからホまでを受けています。つまり賃借期間が1年に満たない契約の権利金のようなものは、この入口で6号に入りません。

費用を支出した 資産の取得価額とされるべき費用か、 前払費用に当たるか(令14条1項 柱書) 当たる 繰延資産にならない (入口で除かれる) 当たらない グループA(令14条1項1〜5号) 創立費・開業費・開発費・ 株式交付費・社債等発行費 グループB(同項6号) 効果が1年以上に及ぶもの。 礼金・加入金・負担金など 任意償却(令64条1項1号) 償却限度額=その繰延資産の額 0円から全額まで選べる 20万円未満の特例は使えない 均等償却(令64条1項2号) 効果の及ぶ期間の月数で按分 月数の端数は1月に切り上げ 20万円未満なら全額(令134条)
繰延資産の判定と償却方法。分岐は範囲を定める14条ではなく、償却限度額を定める64条1項で入る。20万円未満の特例(令134条)が使えるのはグループBだけで、グループAには適用がない。

何が繰延資産になるか(法人と個人で範囲が違う)

法人税法施行令14条1項と所得税法施行令7条1項は、よく似た構造でありながら並んでいる号の数が違います。個人の側には創立費・株式交付費・社債等発行費がありません。法人が「設立」「増資」「社債発行」を行う主体であることを考えれば当然ですが、個人事業主に税法上の「創立費」という区分は存在しないという点は、開業前の支出を整理するときに効いてきます。

区分法人(法人税法施行令14条1項)個人(所得税法施行令7条1項)
創立費1号(発起人報酬、設立登記の登録免許税など)規定なし
開業費2号(設立後事業を開始するまでの間に開業準備のため特別に支出)1号(事業を開始するまでの間に開業準備のため特別に支出)
開発費3号(新技術・新経営組織の採用、資源の開発、市場の開拓)2号(同左)
株式交付費4号(株券印刷費、増資の登録免許税など)規定なし
社債等発行費5号(社債券印刷費など)規定なし
その他(均等償却)6号イ〜ホ3号イ〜ホ(内容は同一)

開業費の定義にも差があります。法人は「法人の設立後事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用」と、始期が設立日で区切られています。設立より前の支出は開業費ではなく、創立費の側で拾う建て付けです。一方、個人の定義は「不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用」で、始期を区切る文言が置かれていません。個人には「設立」という起点がないためです。

「特別に支出する」が効いている

開業費の定義には特別に支出するという限定が入っています。開業準備期間中に生じた支出であれば何でも開業費になるわけではない、という趣旨の文言です。なお、国税庁の法人税基本通達 第8章(繰延資産の償却)には創立費・開発費・6号の各項目についての取扱いが置かれていますが、「開業費」という語は第1節・第2節を通じて1度も出てきません。開業費の範囲について通達による具体的な解釈が示されていないため、判断の手がかりは条文のこの文言そのものになります。

グループAは任意償却。0円でも全額でもよい

法人税法施行令64条1項1号は、グループAの償却限度額を次のように定めています。

第十四条第一項第一号から第五号まで(繰延資産の範囲)に掲げる繰延資産 その繰延資産の額(既にした償却の額で各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの(略)がある場合には、当該金額を控除した金額)

償却限度額は「限度」なので、そこまでなら自由という意味です。上限が残額の全部である以上、1年目に全額落としてもよいし、1円も落とさなくてもよいことになります。設立初年度が赤字で、翌々年に利益が出る見込みなら、その年まで持ち越して落とすという配分が制度上できます。

個人の側も結論は同じですが、条文の作りは違います。所得税法施行令137条1項1号は原則として60か月の均等償却を定めています。「その繰延資産の額を六十で除し、これにその年において(略)業務を行つていた期間の月数を乗じて計算した金額」です。そのうえで同条3項が次のように上書きします。

居住者が、第一項第一号に掲げる繰延資産につきその年分の(略)必要経費に算入すべき金額として、当該繰延資産の額の範囲内の金額をその年分の確定申告書に記載した場合には、同号に掲げる金額は、同号の規定にかかわらず、当該金額として記載された金額とする。

つまり個人の開業費・開発費は、原則は60か月均等、申告書に金額を書けばその額という二段構えです。「5年で償却しなければならない」という説明を見かけますが、それは137条1項1号だけを読んだ場合の姿で、3項まで読むと任意償却になります。

任意償却の要件は、法人が帳簿・個人が申告書

ここは実務で取り違えやすいところです。どちらも「任意償却ができる」という結論は同じですが、その自由を成立させている条文上の要件が違います

法人の場合、損金算入額を決めているのは法人税法32条1項です。「その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(損金経理額)のうち、(略)償却限度額に達するまでの金額とする」。つまり損金になるのは損金経理額と償却限度額のいずれか小さい方で、限度額が全額であっても、帳簿に費用として計上していなければ損金になりません。決算書で資産に置いたまま申告書だけで落とす、ということはできない建て付けです。

個人の場合、所得税法施行令137条3項の要件は「確定申告書に記載した場合」です。条文が求めているのは申告書への記載であって、損金経理に相当する文言は置かれていません。

法人 法人税法32条1項 + 施行令64条1項1号 損金経理額 償却限度額 =残額の全部 の、いずれか小さい方が損金 動かす場所は帳簿。費用計上して いない額は損金にできない 個人事業主 所得税法施行令137条1項1号・3項 原則は60か月 の均等償却 記載すれば その額(3項) 繰延資産の額の範囲内なら自由 動かす場所は確定申告書。条文に 損金経理に当たる要件は無い
同じ「任意償却できる」でも、要件の置かれている場所が違う。法人は損金経理(法人税法32条1項)、個人は確定申告書への記載(所得税法施行令137条3項)。なお個人の側も、原則の姿は60か月の均等償却であって、3項がそれを上書きする形になっている。

20万円未満は全額。ただし対象はグループBだけ

法人税法施行令134条は「繰延資産となる費用のうち少額のものの損金算入」として、20万円未満なら支出時に全額落とせると定めています。ただし条文をよく読むと、対象が限定されています。

内国法人が、第六十四条第一項第二号(均等償却を行う繰延資産)に掲げる費用を支出する場合において、当該費用のうちその支出する金額が二十万円未満であるものにつき、その支出する日の属する事業年度において損金経理をしたときは、その損金経理をした金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。

「64条1項2号に掲げる費用」=グループB(14条1項6号)だけです。グループAには適用がありません。もっともグループAはもともと任意償却で全額落とせるので、この特例を必要としない、という関係になっています。

個人の側は所得税法施行令139条の2で、やはり7条1項3号(=グループBに相当)の費用のうち20万円未満のものが対象です。ただし条文の書きぶりが法人と違い、損金経理に当たる要件が書かれていません。「前款(繰延資産の償却)の規定にかかわらず、その支出する金額に相当する金額を、(略)必要経費に算入する」と、言い切りの形になっています。

同じ「20万円未満」でも、減価償却資産とは結果が逆になる

20万円という数字は減価償却資産の側にも出てきますが、向きが逆です。減価償却資産で取得価額20万円未満のものは、法人税法施行令133条の2の一括償却資産にできますが、これは「一括償却対象額を三十六で除しこれに当該事業年度の月数を乗じて計算した金額」まで、つまり3年かけて均等償却する制度です。すぐには落ちません。一方、繰延資産で20万円未満のもの(令134条)はその事業年度に全額落ちます。同じ20万円という線でも、繰延資産なら即時、減価償却資産なら36か月按分と結果が反対になります。なお減価償却資産を即時に落とせるのは10万円未満の場合(同令133条)です。

減価償却資産の側の10万円・20万円・30万円の判定については、少額減価償却資産と一括償却資産で別途整理しています。

グループBの償却期間(通達の一覧)

グループBの償却限度額は「支出の効果の及ぶ期間」で按分します。この期間の測り方について、法人税基本通達8-2-1は「固定資産を利用するために支出した繰延資産については当該固定資産の耐用年数、一定の契約をするに当たり支出した繰延資産についてはその契約期間をそれぞれ基礎として適正に見積った期間による」としたうえで、8-2-3が主要なものについて具体的な年数を示しています。

種類償却期間
公共的施設の設置・改良の負担金(専ら自己が使用)その施設・工作物の耐用年数の7/10
公共的施設の設置・改良の負担金(上記以外)その施設・工作物の耐用年数の4/10
共同的施設(負担者・構成員の共同の用、協会等の本来の用)建設・改良部分は施設の耐用年数の7/10/土地の取得に充てられる部分は45年
商店街のアーケード・日よけ・すずらん灯など5年(耐用年数が5年未満ならその年数)
建物を賃借するための権利金等(下記2つ以外の一般の場合)5年(賃借期間が5年未満で、更新時に再び権利金を要することが明らかならその賃借期間)
建物の新築に際し支払い、建設費の大部分に相当し存続期間中賃借できるものその建物の耐用年数の7/10
明渡しに際し借家権として転売できることになっているもの賃借後の見積残存耐用年数の7/10
電子計算機その他の機器の賃借に伴う費用機器の耐用年数の7/10(賃借期間を超えるときは賃借期間)
ノウハウの頭金等5年(有効期間が5年未満で更新時に再び支払を要することが明らかならその期間)
広告宣伝用資産を贈与したことにより生ずる費用その資産の耐用年数の7/10(5年を超えるときは5年
スキー場のゲレンデ整備費用12年
出版権の設定の対価設定契約に定める存続期間(定めがなければ3年
同業者団体等の加入金5年
職業運動選手等の契約金等契約期間(定めがなければ3年
公共下水道の受益者負担金(通達8-2-5)6年
年の端数は切り捨て、月の端数は切り上げ — 向きが逆

8-2-3の注2は「償却期間に1年未満の端数があるときは、その端数を切り捨てる」と定めています。耐用年数の7/10のような計算では端数が出るので、たとえば耐用年数22年の建物であれば 22×7/10=15.4年 → 15年になります。
一方、法人税法施行令64条4項は「第一項及び前項の月数は、暦に従つて計算し、一月に満たない端数を生じたときは、これを一月とする」=切り上げです(個人も所得税法施行令137条2項に同じ規定があります)。期間の年は切り捨て、按分の月は切り上げと、同じ計算の中で丸めの向きが逆になっている点に注意が必要です。

なお通達8-2-4は、企業合理化促進法に基づく港湾しゅんせつの受益者負担金と、協会等の本来の用に供される会館等の建設・改良の負担金について、8-2-3の償却期間が10年を超える場合は当分の間10年とする、という上限を置いています。

同じ請求書で扱いが3つに割れる — 礼金・仲介手数料・敷金

事務所や店舗を借りるとき、契約時の請求書には礼金・仲介手数料・敷金がまとめて並ぶのが普通です。同じ日に同じ相手方へ支払うのに、税務上の扱いは3つに分かれます。

まず礼金(権利金)は繰延資産です。法人税基本通達8-1-5は「建物を賃借するために支出する権利金、立退料その他の費用」が令14条1項6号ロの繰延資産に該当するとしています。20万円以上なら償却期間は原則5年です。

ところが同じ8-1-5の注書きが、仲介手数料を切り離しています

(注) 建物の賃借に際して支払った仲介手数料の額は、その支払った日の属する事業年度の損金の額に算入することができる

そして敷金・保証金は、返還されるものである限りそもそも費用ではありません。差入保証金などの資産として計上され、繰延資産にも損金にもなりません。令14条1項の柱書が「資産の取得に要した金額とされるべき費用及び前払費用を除く」として費用の側から入口を絞っているのも、この整理と同じ方向です。

事務所の賃貸借契約で、同じ日に支払った120万円 礼金 30万円 仲介手数料 30万円 敷金 60万円 繰延資産 令14条1項6号ロ 5年で月数按分 (通達8-2-3) 20万円未満なら全額 支払時に全額損金 通達8-1-5 の注書き 繰延資産にしない 30万円がその年の費用 資産(差入保証金など) 返還されるものは費用でない 繰延資産にも損金にもならない 退去時に精算する
同じ契約・同じ日の支払いでも、税務上の行き先は3つに分かれる。礼金だけが繰延資産で、仲介手数料は通達8-1-5の注書きにより支払時の損金にできる。敷金は返還される限り費用ではない。

実際に計算してみる

例1:3月決算の法人が、10月に礼金30万円を支払った

礼金は令14条1項6号ロの繰延資産、償却期間は原則5年=60か月です。20万円以上なので令134条の特例は使えません。償却限度額は「繰延資産の額 ÷ 効果の及ぶ期間の月数 × その事業年度の月数」で計算します。支出した事業年度については、条文が「同日から当該事業年度終了の日までの期間の月数」としているので、支出月から期末までを数えます。

事業年度対象月数計算償却限度額
1期目(10月〜翌3月)6か月300,000 ÷ 60 × 630,000円
2期目12か月300,000 ÷ 60 × 1260,000円
3期目12か月300,000 ÷ 60 × 1260,000円
4期目12か月300,000 ÷ 60 × 1260,000円
5期目12か月300,000 ÷ 60 × 1260,000円
6期目(残り)6か月300,000 ÷ 60 × 630,000円
合計60か月300,000円

償却期間は5年ですが、期中に支出しているため6事業年度にまたがります。「5年償却だから5期で終わる」とは限りません。なお法人の場合、これはあくまで限度額なので、損金経理した額がこれより少なければ少ない方が損金になります(法人税法32条1項)。

6万円 3万円 0 30,000 1期目 6か月 60,000 2期目 12か月 60,000 3期目 12か月 60,000 4期目 12か月 60,000 5期目 12か月 30,000 6期目 6か月 償却期間は5年(60か月)だが、期中に支出したため6事業年度にまたがる
礼金30万円・3月決算・10月支出の場合の各期の償却限度額。合計は60か月ぶんで30万円になる。20万円未満であれば、この按分をせず支出した事業年度に全額を落とせる(令134条)。

例2:個人事業主が10月1日に開業し、開業費60万円があった

開業費は所令7条1項1号の繰延資産です。原則の姿は所令137条1項1号の60か月均等償却で、その年の業務を行っていた期間は10月・11月・12月の3か月なので、600,000 ÷ 60 × 3 = 30,000円が原則の必要経費算入額になります。

ただし所令137条3項により、繰延資産の額の範囲内で、確定申告書に記載した金額にできます。開業初年度が赤字であれば0円としておき、利益が出た年に必要経費に算入する、という配分が制度上できます。60万円を一度に落とすことも、初年度は落とさないことも、いずれも条文の範囲内です。

減価償却費の計算機で償却スケジュールを試算する(グループBの均等償却も、月数按分という点では定額法と同じ考え方です)

繰延資産にならないもの・例外

通達には「繰延資産に見えるが違う」「原則から外れる」ものがいくつか置かれています。

繰延資産と前払費用の切り分けについては、令14条2項が前払費用を「一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出する費用のうち、その支出する日の属する事業年度終了の日においてまだ提供を受けていない役務に対応するもの」と定義しています。前払費用と短期前払費用もあわせて確認してください。

よくある質問

Q. 開業費は5年で償却しなければいけませんか?

A. いいえ、任意償却が可能です。個人事業主の場合、所得税法施行令137条1項1号が原則として「その繰延資産の額を六十で除し」た金額を必要経費とすると定めているため60か月均等が原則の姿ですが、同条3項が、繰延資産の額の範囲内の金額を確定申告書に記載した場合にはその記載した金額を必要経費算入額とすると定めています。したがって初年度に全額を必要経費にすることも、0円として翌年以降に回すこともできます。法人の場合はさらに直接的で、法人税法施行令64条1項1号が償却限度額を「その繰延資産の額」(既に損金算入した額を控除した残額)としているため、限度額が残額の全部になります。ただし法人は法人税法32条1項により損金経理をした金額の範囲でしか損金になりません。

Q. 個人事業主に創立費はありますか?

A. 税法上はありません。所得税法施行令7条1項が個人の繰延資産として挙げているのは、1号の開業費、2号の開発費、3号のイからホまで(公共的施設・共同的施設の負担金、資産を賃借するための権利金、役務の提供を受けるための権利金、広告宣伝用資産の贈与、その他自己が便益を受けるための費用)の3種類だけで、創立費・株式交付費・社債等発行費に相当する号は置かれていません。これらは法人税法施行令14条1項の1号・4号・5号にあり、法人の設立・増資・社債発行に対応する区分だからです。個人が開業前に支出したものは、開業準備のために特別に支出した費用であれば開業費(所令7条1項1号)として整理することになります。

Q. 法人の開業費は、会社を作る前に使ったお金も入りますか?

A. 条文上、法人の開業費は「法人の設立後事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用」(法人税法施行令14条1項2号)と定義されており、設立後という限定が付いています。設立前の支出は、法人の設立のために支出する費用で当該法人の負担に帰すべきものであれば同項1号の創立費の側で扱う建て付けです。なお法人税基本通達8-1-1は、法人がその設立のために通常必要と認められる費用を支出した場合、その費用を法人の負担とすべきことが定款等に定められていないときであっても創立費に該当するとしています。個人の開業費(所得税法施行令7条1項1号)にはこの「設立後」に当たる限定がなく、そこは法人と作りが異なります。

Q. 事務所の礼金と仲介手数料は同じ扱いですか?

A. 違います。礼金(権利金)は法人税基本通達8-1-5により法人税法施行令14条1項6号ロの繰延資産に該当し、20万円以上であれば原則5年で月数按分して償却します。これに対して同じ8-1-5の注書きが「建物の賃借に際して支払った仲介手数料の額は、その支払った日の属する事業年度の損金の額に算入することができる」と定めているため、仲介手数料は支払時に全額を費用にできます。同じ契約の同じ日の支払いでも扱いが分かれます。なお敷金や保証金は返還されるものである限りそもそも費用ではないので、繰延資産にも損金にもならず、差入保証金などの資産として計上します。

Q. 20万円未満なら、どの繰延資産でもすぐに費用にできますか?

A. できるのは均等償却の対象になるものだけです。法人税法施行令134条は対象を「第六十四条第一項第二号(均等償却を行う繰延資産)に掲げる費用」と限定しており、これは同令14条1項6号のもの、つまり礼金や加入金、負担金などのグループを指します。創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債等発行費には適用がありません。もっともこれらはもともと任意償却で全額を落とせるため、この特例を使う必要がない関係になっています。個人の場合も所得税法施行令139条の2が対象を7条1項3号の費用に限っています。なお法人の134条は「損金経理をしたとき」という要件を置いていますが、個人の139条の2にはこれに当たる文言がありません。

Q. 20万円未満の資産を買ったときと、同じ扱いになりますか?

A. 結果は逆になります。減価償却資産で取得価額が20万円未満のものは、法人税法施行令133条の2の一括償却資産にできますが、これは一括償却対象額を36で除して事業年度の月数を乗じた金額まで損金にする制度で、3年かけて償却します。すぐに全額は落ちません。一方、繰延資産で20万円未満のもの(同令134条)は支出した事業年度に全額が損金になります。同じ20万円という線でありながら、繰延資産なら即時、減価償却資産なら36か月按分と反対の結果になります。なお減価償却資産を即時に損金にできるのは、原則として取得価額10万円未満または使用可能期間1年未満の場合(同令133条)です。

Q. 礼金の償却期間は必ず5年ですか?

A. 一般の場合が5年で、例外があります。法人税基本通達8-2-3は、建物を賃借するために支出する権利金等のうち、建物の新築に際しその所有者に支払った権利金等でその額が建物の賃借部分の建設費の大部分に相当し実際上その建物の存続期間中賃借できる状況にあると認められるものはその建物の耐用年数の10分の7、明渡しに際して借家権として転売できることになっているものは賃借後の見積残存耐用年数の10分の7、それ以外のものは5年としています。さらに5年とされる場合でも、契約による賃借期間が5年未満で、契約の更新に際して再び権利金等の支払を要することが明らかであるときは、その賃借期間によります。なお同通達の注2により、償却期間に1年未満の端数があるときは切り捨てます。

Q. 償却期間が5年なら、5事業年度で終わりますか?

A. 期首に支出した場合を除き、通常は6事業年度にまたがります。法人税法施行令64条1項2号は、支出した事業年度の償却限度額を計算するとき、乗じる月数を「同日から当該事業年度終了の日までの期間の月数」としているためです。3月決算の法人が10月に礼金30万円を支払った場合、1期目は6か月ぶんで30,000円、2期目から5期目までが12か月ぶんで各60,000円、6期目に残りの6か月ぶん30,000円となり、合計で60か月ぶんの30万円になります。なお同条4項により、月数は暦に従って計算し、1月に満たない端数が生じたときは1月とします。切り上げなので、月の途中に支出した場合その月は1か月として数えます。

Q. 繰延資産と前払費用はどう違いますか?

A. 前払費用は繰延資産の定義から明文で除かれています。法人税法施行令14条1項の柱書が、繰延資産となる費用から「資産の取得に要した金額とされるべき費用及び前払費用」を除くとしており、同条2項が前払費用を「法人が一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出する費用のうち、その支出する日の属する事業年度終了の日においてまだ提供を受けていない役務に対応するもの」と定義しています。継続的な役務提供の対価を先に払っただけのものは前払費用であり、繰延資産ではないという切り分けです。なお法人税基本通達8-1-6のただし書は、ノウハウの設定契約の頭金のうち使用料に充当される部分などについて、繰延資産とせず前払費用として処理できるとしています。

Q. 償却期間の途中で解約したら、残りはどうなりますか?

A. 本記事では扱っていません。中途解約や契約終了があった場合の未償却残額の処理については、本記事で確認した法人税法32条・同施行令14条・64条・134条、所得税法50条・同施行令7条・137条・139条の2、および法人税基本通達第8章第1節・第2節の範囲内に一般的な取扱いを定めた規定を確認できなかったため、断定を避けています。個別の契約内容によって結論が変わりうる部分でもありますので、実際の処理にあたっては税理士へご確認ください。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する助言ではありません。ある支出が繰延資産に当たるか、どのグループに入るか、償却期間を何年と見積もるべきかは、契約の内容・支出の目的・事業の実態といった個別の事情によって結論が変わります。実際の申告や会計処理については税理士へご確認ください。

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