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税効果会計 — 納める税金は1円も変わらない。変わるのは「税引後」の見え方だけ

税効果会計は、経理の実務でいちばん「何のためにやっているのか分からないまま手を動かしている」処理かもしれません。繰延税金資産という見慣れない資産が貸借対照表に載り、損益計算書には法人税等調整額という科目がマイナスで出てくる。そして決算のたびに「回収可能性はどうか」と問われます。

結論から言うと、税効果会計を適用しても、税務署に納める税金は1円も変わりません。納税額は法人税の申告書(別表四以下)で決まっており、会計上どんな仕訳を切っても動きません。税効果会計が動かすのは、損益計算書の税引後の見え方だけです。

そのことは、税効果会計を義務づけている条文自身がはっきり書いています。財務諸表等規則8条の11は、税効果会計をこう定義しています。

法人税その他利益に関連する金額を課税標準として課される租税(以下「法人税等」という。)については、税効果会計(貸借対照表に計上されている資産及び負債の金額と課税所得の計算の結果算定された資産及び負債の金額との間に差異がある場合において、当該差異に係る法人税等の金額を適切に期間配分することにより、法人税等を控除する前の当期純利益の金額と法人税等の金額を合理的に対応させるための会計処理をいう。以下この編において同じ。)を適用して財務諸表を作成しなければならない。

キーワードは「期間配分」「合理的に対応させる」の2つです。税金の総額を減らすとも増やすとも書いていません。どの期に計上するかを配分し直して、税引前当期純利益と法人税等を対応させる——それが目的のすべてです。

この記事の要点
  • 税効果会計は納税額を変えない。財規8条の11の目的は期間配分税引前利益との対応
  • 対象は一時差異だけ。交際費の損金不算入のような永久差異は対象外(いつまでも解消しない)
  • 法定実効税率の分母に事業税が入るのは、法人税法38条が事業税を挙げていない=事業税だけが損金になるから
  • 令和8年4月1日以後に開始する事業年度から防衛特別法人税4%。標準税率の中小法人で33.58%→34.43%
  • ただし防衛特別法人税には年500万円の基礎控除があり、法人税額500万円以下なら課税されない
  • 繰延税金資産は将来の課税所得がなければ回収できない。控除した額が評価性引当額(財規8条の12第2項)
  • 繰延税金資産と繰延税金負債は相殺して純額で、投資その他の資産か固定負債に表示(財規54条)

なぜ「税額は変わらない」と言い切れるのか

理由は単純で、法人税等も法人税等調整額も、課税所得の計算に一切入らないからです。法人税法38条1項は次のように定めています。

内国法人が納付する法人税(延滞税、過少申告加算税、無申告加算税及び重加算税を除く。以下この項において同じ。)の額及び地方法人税(延滞税、過少申告加算税、無申告加算税及び重加算税を除く。以下この項において同じ。)の額は、第一号から第三号までに掲げる法人税の額及び第四号から第六号までに掲げる地方法人税の額を除き、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

同条2項2号では、住民税も同じく損金不算入とされています。

地方税法の規定による道府県民税及び市町村民税(都民税を含むものとし、退職年金等積立金に対する法人税に係るものを除く。)

つまり、損益計算書に「法人税、住民税及び事業税」としていくら計上しようと、その金額は課税所得の計算では加算されて消えます。会計側の税金の科目は、税額の計算に影響を与えられない構造になっているのです。法人税等調整額はそもそも税法に存在しない科目ですから、なおさらです。

納税額を決めるのは申告書です。税効果会計が動かせるのは、その申告で確定した税額をどの期の費用として見せるかだけになります。

申告書(税額が決まる場所) 税引前当期純利益 + 加算(賞与引当金・交際費 …) − 減算 = 課税所得 → 納税額 税効果会計は、この箱には入れない 法人税法38条:法人税・地方法人税・住民税は損金不算入 損益計算書(見え方が変わる場所) 税引前当期純利益 △ 法人税、住民税及び事業税 △ 法人税等調整額 ← ここだけ動く = 当期純利益 財規95条の5の並び順 納付する金額は左の箱で確定済み。 右で調整しても納税額は変わらない。
税額が決まるのは申告書の側で、税効果会計が触れるのは損益計算書の表示だけ。

会計の利益と税務の所得は、なぜズレるのか

会計は「その期の業績を正しく示すこと」を目的にし、税務は「課税の公平と確実な徴収」を目的にしています。目的が違うので、同じ取引でも計上する時期が食い違います。

典型的なのが引当金です。会計では、来期に支払う賞与のうち当期の労働に対応する部分を賞与引当金として費用にします。しかし税務では、まだ支給していない賞与は原則として損金になりません。その結果、会計の費用が先、税務の損金が後になります。

このとき当期の課税所得は会計の利益より大きくなり、当期の税額も大きくなります。ところが会計の損益計算書には、その大きくなった税額がそのまま載ります。税引前利益は小さいのに税金は大きいという、対応が取れていない状態です。

税効果会計は、この「先に払わされた分」を繰延税金資産として貸借対照表に載せ、同額を法人税等調整額として損益計算書の税負担から差し引きます。逆に税務のほうが先に損金になるケース(会計より先に費用化される場合)では、繰延税金負債を計上します。

一時差異と永久差異 — 対象になるのは解消するものだけ

ここが実務でいちばん間違えやすいところです。会計と税務のズレのうち、税効果会計の対象になるのは「いつか解消するズレ」だけです。永久に解消しないズレは対象になりません。

理由は考えてみれば当然で、繰延税金資産は「税金の前払い」です。将来それが戻ってこないのなら、資産として計上する根拠がありません。

区分意味税効果会計
一時差異今期はズレるが、将来の期に解消する賞与引当金、貸倒引当金の繰入超過額、減価償却の償却超過額、棚卸資産の評価損の否認額、繰越欠損金対象になる
永久差異解消する時期が来ない。ズレたまま終わる交際費等の損金不算入額、受取配当等の益金不算入額、寄附金の損金不算入額、罰科金対象外

減価償却の償却超過額を例に取ると、税務上の限度額を超えて償却した分は当期に否認されますが、その資産の耐用年数が進めば税務上の償却がまだ残っているため、いずれ認容されます。だから一時差異です。

一方、交際費の損金不算入額は、翌期以降に「あのとき否認した交際費を今期は損金にしてよい」という扱いが来ることはありません。永久にズレたままなので、繰延税金資産の対象にはなりません。

一時差異(賞与引当金 1,000万円) 当期:会計で費用 翌期:税務で損金 解消する → 繰延税金資産を計上できる 永久差異(交際費の損金不算入 200万円) 当期:会計で費用 翌期:損金にならない 解消しない → 繰延税金資産の対象外
戻ってこないズレに「税金の前払い」という資産は立てられない。

数字で見る — 税引前利益5,000万円のケース

抽象論だけでは実感が湧かないので、実際に数字を入れてみます。標準税率の中小法人(資本金1億円以下・外形標準課税の対象外)で、法定実効税率を後述の34.43%とします。

課税所得は 5,000万+1,000万=6,000万円。納める税額は 6,000万×34.43%=2,065万7,880円です。繰延税金資産は一時差異1,000万円に実効税率を掛けて344万2,980円。仕訳は次のとおりです。

借方金額貸方金額
繰延税金資産3,442,980円法人税等調整額3,442,980円

損益計算書の下のほうは、こうなります。

項目税効果会計あり税効果会計なし
税引前当期純利益50,000,000円50,000,000円
法人税、住民税及び事業税20,657,880円20,657,880円
法人税等調整額△3,442,980円
当期純利益32,785,100円29,342,120円
税引前利益に対する税負担率34.43%41.32%

注目してほしいのは最下行です。税効果会計を適用すると、税負担率がちょうど法定実効税率34.43%に一致します。これが「法人税等を控除する前の当期純利益の金額と法人税等の金額を合理的に対応させる」(財規8条の11)ということの意味です。適用しないと41.32%という、実際の税率とは無関係な数字が出てきます。

納税額はどちらも同じ税効果会計を適用してもしなくても、税務署に納めるのは2,065万7,880円で同額です。変わったのは当期純利益(2,934万円→3,278万円)と負担率の見え方だけです。

永久差異を混ぜると、負担率は実効税率からズレる

ここに交際費の損金不算入額200万円(永久差異)を加えると、様子が変わります。課税所得は6,200万円になり税額は2,134万6,476円。繰延税金資産は一時差異1,000万円分のままなので344万2,980円です。

差し引いた税負担は1,790万3,496円、税引前利益5,000万円に対する負担率は35.81%。法定実効税率34.43%との差は1.38ポイントです。この差の原因が永久差異であり、財務諸表等規則8条の12第1項2号が注記を求めているのは、まさにこの差の内訳です。

当該事業年度に係る法人税等の計算に用いられた税率(以下この条において「法定実効税率」という。)と法人税等を控除する前の当期純利益に対する法人税等(税効果会計の適用により計上される法人税等の調整額を含む。)の比率(以下この条において「税効果会計適用後の法人税等の負担率」という。)との間に差異があるときは、当該差異の原因となつた主な項目別の内訳

ただし、差が小さければ書かなくてよいという規定があります。

第一項第二号に掲げる事項については、法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との間の差異が法定実効税率の百分の五以下である場合には、注記を省略することができる。

この例では、法定実効税率34.43%の100分の5は1.72ポイント。実際の差は1.38ポイントなので、注記を省略できる水準に収まっています。「差異があれば必ず注記」ではない、という境界がここにあります。

法定実効税率の分母に事業税が入る理由

税効果会計で使う税率は、法人税の税率23.2%ではありません。地方税まで含めた法定実効税率を使います。そしてその算式は、初めて見ると奇妙な形をしています。

法定実効税率の算式{法人税率×(1+地方法人税率+住民税法人税割率)+事業税率+特別法人事業税率} ÷ (1+事業税率+特別法人事業税率)

分子は素直です。法人税に対して地方法人税と住民税法人税割が上乗せされ、そこに事業税と特別法人事業税が加わるだけです。分からないのは分母でしょう。なぜ事業税だけが分母に現れるのか。

答えは、法人税法38条に事業税が書かれていないことにあります。先ほど引用したとおり、38条1項が損金不算入としているのは法人税と地方法人税、2項2号が道府県民税と市町村民税です。事業税と特別法人事業税は、この一覧のどこにもありません。つまり事業税は損金になります。

しかも、損金になるのは翌期です。法人税基本通達9-5-1は、租税の損金算入時期をこう定めています。

法人が納付すべき国税及び地方税(法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されないものを除く。)については、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に定める事業年度の損金の額に算入する。

そのうえで、申告納税方式による租税は「当該納税申告書が提出された日」の属する事業年度の損金とされます。事業税は申告納税方式ですから、当期の所得に対する事業税は、申告書を提出する翌期の損金になるわけです。

そうすると、当期の所得が100増えたときに起きることは2段階になります。まず当期の事業税が増えます。そしてその増えた事業税は翌期の損金になり、翌期の所得を減らします。この「翌期に戻ってくる分」を割り引いておくのが、分母の(1+事業税率+特別法人事業税率)の正体です。

見積計上を認める特例もある法人税基本通達9-5-2は、直前年度分の事業税及び特別法人事業税について、期末までに申告等がされていない場合であっても当該事業年度の損金の額に算入することができるとしています。この特例を使うかどうかで、実際の申告調整の姿は変わります。

実際の税率を当てはめる

標準税率(超過税率を採用していない自治体を前提)で計算します。数字はいずれも条文で確認したものです。

税目税率根拠
法人税23.2%法人税法66条1項
地方法人税法人税額の10.3%地方法人税法10条1項
道府県民税法人税割法人税額の1.0%(標準税率)地方税法51条1項
市町村民税法人税割法人税額の6.0%(標準税率)地方税法314条の4第1項
事業税所得割(外形対象外・所得年800万円超)7.0%(標準税率)地方税法72条の24の7第1項3号
事業税所得割(外形標準課税法人)1.0%(標準税率)地方税法72条の24の7第1項1号ハ
特別法人事業税(外形対象外の普通法人)基準法人所得割額の37%特別法人事業税法7条3号
特別法人事業税(外形標準課税法人)基準法人所得割額の260%特別法人事業税法7条1号

外形標準課税の対象外の普通法人(所得年800万円超の部分)なら、所得に対する特別法人事業税の率は 7.0%×37%=2.59%。算式に入れると次のようになります。

計算分子 = 23.2%×(1+0.103+0.07)+7.0%+2.59% = 36.8036%
分母 = 1+0.07+0.0259 = 1.0959
法定実効税率 = 36.8036 ÷ 1.0959 = 33.58%

外形標準課税法人(資本金1億円超)は事業税所得割が1.0%、特別法人事業税がその260%=2.6%なので、同じ算式で29.74%になります。

防衛特別法人税で法定実効税率が変わる(33.58%→34.43%)

ここまでの33.58%・29.74%は、長く使われてきた数字です。しかし令和8年4月1日以後に開始する事業年度からは、この数字が変わります。防衛特別法人税が創設されたためです。

根拠は「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法」(令和5年法律第69号)で、税率は同法14条が定めています。

防衛特別法人税の額は、各課税事業年度の課税標準法人税額に百分の四の税率を乗じて計算した金額とする。

法人税額に対する4%の付加税です。地方法人税(10.3%)と同じ乗り方をするので、法定実効税率の分子にそのまま加わります。

区分防衛特別法人税なし防衛特別法人税あり
外形対象外の普通法人(所得800万円超・標準税率)33.58%34.43%+0.85pt
外形標準課税法人(標準税率)29.74%30.64%+0.90pt
この税そのものの仕組みは別記事に譲ります課税事業年度の定義(同法11条)、課税標準と年500万円の基礎控除(同13条)、負担が生じ始める所得の目安、地方法人税との課税ベースの違いは法人税率は何%?で条文とともに解説しています。ここでは税効果会計に効く部分だけを扱います。なお基礎控除があるため、法人税額が年500万円以下の会社ではそもそも防衛特別法人税が生じず、実効税率は33.58%のままです。中小企業の多くはこの範囲に収まります。

法人税法を検索しても「防衛特別法人税」は出てこない

ここに、条文を追うときの落とし穴があります。法人税法の条文を全文検索しても「防衛特別法人税」という語は1回も出てきません。それでは損金算入されるのかというと、そうではありません。

損金不算入にしているのは、特別措置法43条(防衛特別法人税に係る法人税法の適用の特例等)の読替え規定です。同条の表は、法人税法38条1項の「額は」を「額並びに防衛特別法人税(延滞税、過少申告加算税、無申告加算税及び重加算税を除く。)の額は」と読み替えると定めています。法人税法の側を見ているだけでは、この税の扱いが分からない構造になっているわけです。

これは法定実効税率の算式にとって重要です。損金不算入である以上、防衛特別法人税は分子にだけ入り、分母には入りません。事業税とは扱いが逆になります。

実際、この税は財務諸表の様式にも入りました。財務諸表等規則95条の5第1項1号は、損益計算書に記載する項目を次のように定めています。

当該事業年度に係る法人税、地方法人税、防衛特別法人税、住民税並びに利益に関連する金額を課税標準として課される事業税及び特別法人事業税(以下「法人税、住民税及び事業税」という。)(次号に掲げる項目に該当するものを除く。)

税率が変わったら、繰延税金資産を計算し直す

実務でいちばん効いてくるのはここです。繰延税金資産・繰延税金負債は将来解消するときの税率で計算します。したがって実効税率が33.58%から34.43%に上がるなら、前期末に33.58%で計算していた繰延税金資産は、新しい税率で計算し直さなければなりません。

財務諸表等規則8条の12第1項3号は、その場合の注記を求めています(「法人税等の税率の変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときは、その旨及び修正額」)。同項4号は、決算日後に税率変更があった場合の内容と影響の注記も求めています。

3月決算なら今まさに最初の年度3月決算の法人にとって、令和8年4月1日から令和9年3月31日までの事業年度が防衛特別法人税の最初の課税事業年度に当たります。決算はまだ先でも、四半期・中間の段階で税率の見直しが必要になります。
法人税の概算を試算する(無料ツール)

繰延税金資産は「回収可能性」がなければ計上できない

繰延税金資産は「将来、税金が安くなる権利」です。しかし将来に課税所得が出なければ、安くなる税金そのものが存在しません。赤字が続いている会社が繰延税金資産を積み上げても、それは回収できない資産です。

そこで、回収が見込めない部分は繰延税金資産から控除します。控除した額のことを評価性引当額といい、財務諸表等規則8条の12第2項がこの語を定義しています。

繰延税金資産の算定に当たり繰延税金資産から控除された額(以下この条において「評価性引当額」という。)がある場合には、次の各号に掲げる事項を前項第一号に掲げる事項に併せて注記しなければならない。

同項は、評価性引当額そのものと、重要な変動が生じた場合はその主な内容を注記させます。評価性引当額が急に増えたということは、会社が「将来の利益予想を下方修正した」ことの表れなので、財務諸表を読む側にとっては重要な情報です。

繰越欠損金についてはさらに踏み込んだ注記が求められています。同条3項は、繰越欠損金が重要な場合に、繰越期限別の内訳(繰越欠損金に法定実効税率を乗じた額・評価性引当額・繰延税金資産の額)と、「当該繰延税金資産を回収することが可能と判断した主な理由」を注記させます。判断の根拠まで書かせる規定です。

貸借対照表と損益計算書のどこに出るか

表示場所は条文で決まっています。繰延税金資産は投資その他の資産(財規32条1項13号)、繰延税金負債は固定負債(同52条1項6号)です。流動・固定に分けることはしません。

そして両方ある場合は、相殺して純額で表示します。

第三十二条第一項第十三号に掲げる繰延税金資産と第五十二条第一項第六号に掲げる繰延税金負債とがある場合には、その差額を繰延税金資産又は繰延税金負債として投資その他の資産又は固定負債に表示しなければならない。

損益計算書では、法人税等調整額を税引前当期純利益の次に記載します。財規95条の5第1項3号は、この科目を次のように定義しています。

法人税等調整額(税効果会計の適用により計上される第一号の法人税、住民税及び事業税の調整額をいう。)

並び順は、①法人税、住民税及び事業税 →(②国際最低課税額に対する法人税等)→ ③法人税等調整額 の順で、これらを税引前当期純利益に加減した金額が当期純利益になります(同条3項)。

義務づけられているのは誰か — 中小企業の場合

ここまで財務諸表等規則を根拠にしてきましたが、この規則がすべての会社に適用されるわけではありません。財規1条は、金融商品取引法の規定により提出される財務計算に関する書類について、この規則の定めるところによると規定しています。有価証券報告書などを提出する会社が対象です。

それ以外の会社の会計は、会社法431条が定めています。

株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする。

条文はこれだけで、税効果会計を適用せよとも、しなくてよいとも書いていません。中小企業がどの会計の慣行に従うかは、実際には中小企業向けの会計のルール(中小企業の会計に関する基本要領・中小企業の会計に関する指針)に沿って判断されることになります。本記事はこれらの内容までは確認していないので、適用の要否については顧問税理士に確認してください。

ただし、税効果会計を適用していない会社でも、この記事の内容が無関係になるわけではありません。法定実効税率は納税額の見込みを立てるときの基本的な道具ですし、令和8年4月1日以後に開始する事業年度から防衛特別法人税が加わることは、税効果会計の有無にかかわらず資金繰りに影響します。

よくある質問

Q. 税効果会計を適用すると、納める税金は安くなりますか?

A. 変わりません。納税額は法人税の申告書で確定しており、会計上の仕訳では動きません。法人税法38条1項は法人税及び地方法人税の額を、同条2項2号は道府県民税及び市町村民税を、それぞれ所得の金額の計算上損金の額に算入しないと定めています。損益計算書に計上した税金の科目は課税所得の計算では加算されて消えるため、法人税等調整額を計上しても税額には影響しません。財務諸表等規則8条の11も、税効果会計の目的を「当該差異に係る法人税等の金額を適切に期間配分する」ことと「法人税等を控除する前の当期純利益の金額と法人税等の金額を合理的に対応させる」ことと定義しています。

Q. 交際費の損金不算入額にも繰延税金資産を計上できますか?

A. 計上できません。繰延税金資産の対象になるのは、将来に解消する一時差異だけです。交際費等の損金不算入額や受取配当等の益金不算入額は、翌期以降に反対の調整が行われることがなく永久に解消しないため、永久差異として税効果会計の対象外になります。繰延税金資産は将来の税負担が減ることを前提とした資産なので、減る場面が来ないズレには計上する根拠がありません。

Q. 法定実効税率の算式で、なぜ分母に事業税が入るのですか?

A. 事業税だけが損金になり、しかも翌期の損金になるからです。法人税法38条が損金不算入として挙げているのは法人税・地方法人税・道府県民税・市町村民税で、事業税と特別法人事業税は挙げられていません。さらに法人税基本通達9-5-1により、申告納税方式による租税は納税申告書が提出された日の属する事業年度の損金とされるため、当期の所得に対する事業税は翌期の損金になります。当期の所得が増えると事業税が増え、その分だけ翌期の所得が減るという往復が生じるので、その効果を織り込むために分母で割り戻します。

Q. 防衛特別法人税は、法定実効税率にどう影響しますか?

A. 分子にだけ加わります。防衛特別法人税は法人税額を課税ベースとする付加税で、税率は特別措置法14条により課税標準法人税額の4%です。地方法人税と同じ乗り方をするため、法定実効税率の算式では法人税率に掛かる係数に加わります。また同法43条の読替え規定により法人税法38条1項の損金不算入の対象とされているので、事業税のように分母へは入りません。標準税率の外形対象外の普通法人では33.58%から34.43%へ、外形標準課税法人では29.74%から30.64%へ変わる計算になります。

Q. 防衛特別法人税が生じない会社でも、実効税率を見直す必要がありますか?

A. 課税が生じないのであれば、その会社の法定実効税率は従来のままです。特別措置法13条3項は通算法人以外の法人の基礎控除額を年500万円と定めており、課税標準は基準法人税額からこの額を控除した金額とされています(同条2項1号)。法人税額が年500万円以下であれば課税標準がゼロになるため防衛特別法人税は生じず、標準税率の外形対象外の普通法人であれば33.58%のままです。負担が生じ始める所得の目安については法人税率の記事をご覧ください。

Q. 実効税率が変わったとき、前期に計上した繰延税金資産はどうしますか?

A. 新しい税率で計算し直します。繰延税金資産及び繰延税金負債は将来その差異が解消するときの税率で算定するためです。財務諸表等規則8条の12第1項3号は「法人税等の税率の変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときは、その旨及び修正額」を注記するよう求めており、同項4号は決算日後に税率の変更があった場合の内容及び影響の注記も求めています。

Q. 法定実効税率と実際の税負担率がズレたら、必ず注記が必要ですか?

A. 差が小さければ省略できます。財務諸表等規則8条の12第5項は、法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との間の差異が法定実効税率の百分の五以下である場合には注記を省略することができると定めています。法定実効税率が34.43%であれば、その100分の5に当たる1.72ポイント以内の差であれば省略できる計算になります。

Q. 繰延税金資産は貸借対照表のどこに表示しますか?

A. 投資その他の資産です。財務諸表等規則32条1項13号が繰延税金資産を投資その他の資産に属するものとして掲げ、同52条1項6号が繰延税金負債を固定負債に属するものとして掲げています。流動・固定に区分することはしません。また同54条は、繰延税金資産と繰延税金負債の両方がある場合には、その差額を繰延税金資産又は繰延税金負債として投資その他の資産又は固定負債に表示しなければならないと定めており、純額での表示になります。

出典

本記事の確認範囲は、上記の各条文および通達の本文です。企業会計基準委員会の「税効果会計に係る会計基準」および各適用指針(繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針の企業分類を含む)、中小企業の会計に関する基本要領および指針、会社計算規則、連結財務諸表における税効果会計、組織再編・グループ通算制度に係る税効果会計、外国法人税に係る税効果、および各都道府県が条例で定める超過税率は確認していません。本記事の法定実効税率は標準税率を用いた計算例であり、東京都をはじめ超過税率を採用している自治体では実際の税率が異なります。また各法令は取得時点の現行リビジョンで確認しており、これより後に施行される改正は反映していません。

この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。税効果会計を適用するかどうか、繰延税金資産の回収可能性をどう判断するかは、その会社の状況によって異なります。個別の判断については税理士へご確認ください。

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