人材開発支援助成金【令和8年度】— よく使う2コースは令和9年3月31日で切れる暫定措置で、本則に書いてある教育訓練休暇の助成は附則で止まっている
結論から言うと、人材開発支援助成金を条文で読むときにいちばん先に知っておくべきことは、コースの置き場所が3か所に分かれていることです。厚生労働省の制度ページはコースを7つ並べていますが、根拠である雇用保険法施行規則125条の本則が名前を挙げているのは3コースだけです。実際によく使われる人への投資促進コースと事業展開等リスキリング支援コースは、本則ではなく附則の「暫定措置」に置かれています。
暫定措置には期限があります。附則34条は人への投資促進コースを「令和四年四月一日から令和九年三月三十一日までの間」、附則35条は事業展開等リスキリング支援コースを「令和九年三月三十一日までの間」支給するものと定めています。この記事を公開した2026年8月24日から数えて、残り219日です。
そしてもうひとつ、条文を順番に読まないと必ず外すところがあります。本則125条には「30日以上の教育訓練休暇を与えた場合」「所定労働時間を短縮した場合」の助成が書かれているのに、附則34条1項のただし書きが、その2つを「支給しない」と打ち消しています。本則だけを読んで制度設計をすると、支給されないものを前提に就業規則を変えることになります。この記事では、条文の所在・期限・年度の頭打ち・オンライン訓練の扱い・不支給事由まで、雇用保険法施行規則の条文で確かめられる範囲を整理します。
省令の本則が名前を挙げるコースは3つだけ
厚生労働省の「人材開発支援助成金」のページは、コース一覧をこう書いています。人材育成支援コース、教育訓練休暇等付与コース、人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コース、建設労働者認定訓練コース、建設労働者技能実習コース、障害者職業能力開発コースの7コースです。
ところが、この助成金の根拠である雇用保険法施行規則125条1項は、こう定めています。
人材開発支援助成金は、人材育成支援コース助成金、建設労働者認定訓練コース助成金及び建設労働者技能実習コース助成金とする。
3つしか挙げていません。残りの4つがどこにあるかを追うと、次のようになります。
| コース | 根拠の場所 | 期限 |
|---|---|---|
| 人材育成支援コース | 雇保則125条2項(本則) | 期限の定めなし |
| 教育訓練休暇等付与コース | 同125条2項1号ホ・2号チ(本則) | 期限の定めなし(ただし一部が停止中/後述) |
| 人への投資促進コース | 附則34条(暫定措置) | 令和9年3月31日まで |
| 事業展開等リスキリング支援コース | 附則35条(暫定措置) | 令和9年3月31日まで |
| 建設労働者認定訓練コース | 同125条4項 →「建労則に定めるところによる」 | 期限の定めなし |
| 建設労働者技能実習コース | 同125条4項 →「建労則に定めるところによる」 | 期限の定めなし |
| 障害者職業能力開発コース | 雇保則125条には規定なし | — |
建設労働者の2コースについては、125条4項が「建設労働者認定訓練コース助成金及び建設労働者技能実習コース助成金の支給については、建労則に定めるところによる」と書くだけで、金額も要件も書いていません。雇用保険法施行規則をいくら読んでも、この2コースの助成額は出てきません。別の省令(建設労働者の雇用の改善等に関する法律施行規則)を見に行く必要があります。
障害者職業能力開発コースは、そもそも125条に登場しません。厚生労働省のページ自身が「人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コース)は令和6年4月から独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が支給業務を行う」と注記しており、支給の窓口が労働局ではなくなっています。
2コースは令和9年3月31日で切れる暫定措置
附則34条1項の書き出しは次のとおりです。
第百二十五条の人材開発支援助成金として、同条に規定するもののほか、令和四年四月一日から令和九年三月三十一日までの間、人への投資促進コース助成金を支給するものとする。
附則35条1項も同じ形で、「同条及び前条に規定するもののほか、令和九年三月三十一日までの間、事業展開等リスキリング支援コース助成金を支給するものとする」と定めています。
令和9年3月31日は令和8年度の末日です。つまりこの2コースは、条文上は令和8年度いっぱいで終わる建て付けになっています。延長されるのか、本則に格上げされるのか、そのまま終わるのかは、現在の条文からは分かりません。分かるのは、いまの条文には令和9年4月1日以降の根拠が無いということだけです。
実務上の意味は、訓練の計画を年度をまたいで組むときに出てきます。この助成金は、職業訓練実施計画を都道府県労働局長に提出し、その計画に基づいて訓練を開始したものが対象です。年度末をまたぐ長期の訓練を、暫定措置の2コースで組む場合は、令和9年度以降の取り扱いが決まっているかどうかを労働局に確かめてから動くのが安全です。
本則に書いてあるのに、いま支給されない2つの制度
ここがこの助成金でいちばん間違えやすいところです。附則34条1項には、ただし書きが付いています。
ただし、当該期間、同条第二項第一号ホ(2)及び(3)並びに同項第二号チ(2)及び(3)の規定に基づく同項の人材育成支援コース助成金は、支給しない。
「同条第二項」は本則125条2項のことです。止められている中身は次の2つです。
| 本則125条の条項 | 制度の中身 | 本則が定める額 | 令和9年3月31日までの扱い |
|---|---|---|---|
| 2項1号ホ(1)→ 2号チ(1) | 自発的な職業能力開発のための有給休暇の付与などの制度を新たに設けた | 30万円(賃金を増額した事業主は36万円) | 支給される |
| 2項1号ホ(2)→ 2号チ(2) | 30日以上の休暇の付与による制度を新たに設けた | 20万円(同24万円)+ 与えた休暇日数×6,000円(同7,200円) | 支給しない |
| 2項1号ホ(3)→ 2号チ(3) | 所定労働時間の短縮による制度を新たに設けた | 20万円(同24万円) | 支給しない |
止められた分がどこへ行ったかというと、附則34条(人への投資促進コース)に移っています。附則34条2項1号ヘは、30日以上の長期教育訓練休暇と、所定労働時間の短縮および所定外労働時間の免除を、あらためて要件として定め直しています。しかも金額の作りが本則と違います。
| 本則125条(停止中) | 附則34条 ヘ(実際に動いているほう) | |
|---|---|---|
| 制度導入の助成 | 20万円(賃金増額なら24万円) | 20万円(同24万円) |
| 休暇に対する助成の単位 | 日数×6,000円(同7,200円) | 時間数×800円(賃金増額または中小企業事業主なら1,000円) |
| 助成の限度 | 1人につき150日/1事業主につき1人(被保険者100人以上なら2人)まで | 1人につき1,200時間(中小企業事業主は1,600時間) |
| 代替要員を雇い入れた場合 | 定めなし | 30日以上90日未満27万円/90日以上180日未満45万円/180日以上67万5,000円 |
| 他の従業員に手当を出して業務を代行させた場合 | 定めなし | 手当額の75%(1人あたり月16万円が上限・月数は10月まで) |
本則の作りは、日数あたりの単価に人数の枠をかぶせるもので、1事業主あたり原則1人分しか出ません。附則34条のほうは、時間数あたりの単価に1人あたりの時間上限をかぶせるもので、人数の枠がありません。同じ長期教育訓練休暇でも、数える単位も限度の付け方も違います。
厚生労働省の資料の側にも、この関係がそのまま現れています。パンフレットのタイトルが「令和8年度版 教育訓練休暇等付与コース・人への投資促進コース(長期教育訓練休暇等制度)のご案内」という2コース合体の名前になっており、1冊で両方を扱う形になっています。
人材育成支援コースの助成率と上限 — 令和8年度に中高年齢者実習型訓練が加わった
本則125条2項の人材育成支援コースは、訓練の類型ごとに助成率と上限額が違います。経費助成の額は「実際にかかった経費×助成率」と「1人あたりの上限額」を比べて、低いほうになります。
| 訓練の類型 | 対象 | 経費助成率(中小企業事業主) | 1人あたり上限(10〜100時間/100〜200時間/200時間以上) |
|---|---|---|---|
| 人材育成訓練 | 雇用する労働者 | 30%(45%)。有期契約労働者等が対象なら70% | 10万/20万/30万円(中小は15万/30万/50万円) |
| 人材育成訓練(事業主団体等) | 構成事業主の労働者 | 45%。有期契約労働者等が対象なら70% | 15万/30万/50万円(規模による区別なし) |
| 特定雇用型訓練 | 15歳以上45歳未満 | 30%(45%) | 10万/20万/30万円(中小は15万/30万/50万円) |
| 有期実習型訓練 | 有期契約労働者等 | 75% | 同上 |
| 中高年齢者実習型訓練(令和8年度に新設) | 45歳以上 | 45%(60%) | 同上 |
括弧内は中小企業事業主の率です。さらに、その雇用する労働者の賃金を人材開発統括官が定める割合以上で増額した事業主(条文の言葉で「その雇用する労働者に係る賃金を増額した事業主」)には、上乗せがあります。人材育成訓練なら30%が45%に、中小企業事業主の45%が60%に、有期契約労働者等を対象とする70%が85%に上がります。有期実習型訓練は75%が100%になります。
年齢の境目に注意してください。特定雇用型訓練の対象は「十五歳以上四十五歳未満」、中高年齢者実習型訓練の対象は「四十五歳以上」です。45歳ちょうどの人は中高年齢者実習型訓練の側に入ります。この2つは助成率が違う(30%と45%)ので、対象者の年齢が境目にかかる場合は結論が変わります。
中高年齢者実習型訓練は令和8年度に新しく設けられたもので、厚生労働省も「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)改正:中高年齢者実習型訓練を新設しました」という改正資料を掲げています。条文上の要件は有期実習型訓練とよく似ていて、実習と座学等が効果的に組み合わされていること、実施期間が2か月以上であること、総訓練時間数を6か月当たりに換算して425時間以上であること、実習の割合が総訓練時間数の1割以上9割以下であることなどが並びます。
雇用関係助成金の一覧(厚生労働省の制度名と公式ページ)を見る賃金助成の時間上限は、訓練の種類によって「無い」ことがある
人材育成支援コースには、経費助成とは別に賃金助成があります。訓練を受けている時間について、1時間あたりの定額を助成するものです。単価は400円(賃金を増額した事業主は500円)、中小企業事業主は800円(同1,000円)です。
問題は時間の上限です。条文を類型ごとに見ると、上限の書き方が揃っていません。
| 訓練の類型 | 賃金助成の対象時間の上限 |
|---|---|
| 人材育成訓練 | 1人につき1,200時間(専門実践教育訓練を受けさせる場合は1,600時間) |
| 特定雇用型訓練 | 1人につき1,200時間 |
| 有期実習型訓練 | 条文に限度の定めがない |
| 有期実習型訓練(紹介予定派遣) | 条文に限度の定めがない |
| 中高年齢者実習型訓練 | 1人につき1,200時間 |
他の類型では「(当該労働者一人につき、千二百時間……を限度とする。)」という括弧が入っているのに、有期実習型訓練の2か所だけ、その括弧がありません。条文の文言としては、賃金助成の対象時間に上限が置かれていない形になっています。
ただし、上限が無いといっても青天井ではありません。年度あたりの頭打ち(後述の1,000万円)は経費助成と賃金助成を合わせた額にかかりますし、有期実習型訓練そのものに「実習の割合は1割以上9割以下」「実施期間は2か月以上」といった枠があります。この読みで支給申請を組む場合は、支給要領の定めもあわせて労働局に確認してください。
もうひとつ、専門実践教育訓練という言葉が本則に出てくることも押さえておく価値があります。専門実践教育訓練は、労働者本人が受け取る教育訓練給付金の枠組みで指定される講座です。事業主向けの人材開発支援助成金と、労働者向けの教育訓練給付金は別の制度ですが、専門実践教育訓練を受けさせる場合だけ賃金助成の時間上限が1,200時間から1,600時間に伸びるという形で、講座の指定が事業主側の助成額にも効いてきます。
オンライン訓練の頭打ち — 同じ助成金の中で書き方が3通りある
経費助成の上限額は、1回の訓練の実施時間数を10時間以上100時間未満・100時間以上200時間未満・200時間以上に分けた3区分で決まりますが、オンライン訓練や通信制訓練にはこの区分と別の頭打ちが置かれています。ここも条文ごとに揃っていません。
| 条文と訓練 | オンライン・通信制の扱い |
|---|---|
| 本則125条(人材育成支援コースの経費助成6か所すべて) | 「オンライン訓練又は通信制訓練のうち、人材開発統括官が定める訓練を実施した場合は、十万円(中小企業事業主にあつては、十五万円)」 |
| 附則34条ロ(自発的職業能力開発訓練) | 同じ書き方で7万円 |
| 附則34条ハ(高度デジタル人材訓練) | 同じ書き方で20万円(中小企業事業主は30万円) |
| 附則35条イ(事業展開等に伴う訓練) | 「オンライン訓練又は通信制訓練を実施した場合は、十万円(中小企業事業主にあつては、十五万円)」=「人材開発統括官が定める訓練」という絞り込みが挟まっていない |
| 附則35条ロ(人事等に関する計画に基づく訓練) | この頭打ちが置かれていない |
実務での効き方はこうです。事業展開等リスキリング支援コースで200時間以上の訓練をオンラインで実施した場合、事業展開等に伴う訓練なら上限が30万円(中小企業事業主は50万円)ではなく10万円(同15万円)まで下がります。ところが同じコースの人事等に関する計画に基づく訓練には、条文上その打ち切りがありません。同じコース、同じ200時間、同じオンラインでも、どちらの類型で申請するかで上限が10万円(同15万円)と30万円(同50万円)に分かれることになります。
年度の頭打ちは3段階。1,000万円と1億円が同じ助成金の中に並ぶ
コースごとに、1年度・1事業所あたりの上限が定められています。いちばん小さい枠といちばん大きい枠で10倍ひらきます。
| コース | 1年度・1事業所あたりの上限 | 条文 |
|---|---|---|
| 人材育成支援コース | 1,000万円 | 125条3項 |
| 人への投資促進コース(成長分野等人材訓練を除く) | 2,500万円(うち自発的職業能力開発訓練は300万円) | 附則34条3項 |
| 人への投資促進コース(成長分野等人材訓練に限る) | 1,000万円 | 附則34条4項 |
| 事業展開等リスキリング支援コース | 1億円 | 附則35条3項 |
人への投資促進コースの枠が2つの項に分けて書かれているところが要点です。附則34条3項は「人への投資促進コース助成金(成長分野等人材訓練を除く。この項において同じ。)の額が二千五百万円を超えるときは……二千五百万円を……支給する」と定め、続く4項が「人への投資促進コース助成金(成長分野等人材訓練に限る。)の額が一千万円を超えるときは……一千万円を……支給する」と定めています。別々の項に、別々の対象で置かれているので、成長分野等人材訓練の1,000万円は2,500万円の内枠ではありません。
一方、自発的職業能力開発訓練の300万円は3項のただし書きとして置かれているので、こちらは2,500万円の内枠です。同じ条の中に「別枠」と「内枠」が混在しています。
大学院は別枠。同じ「外国の大学院」で200万円と500万円に分かれる
人への投資促進コースには、大学・大学院での訓練に対する助成があります。ここは時間区分ではなく1人・1年度あたりの定額の上限で切られています。
| 訓練 | 実施場所 | 1人・1年度あたりの上限 | 助成率 |
|---|---|---|---|
| 自発的職業能力開発訓練 | 国内の大学・大学院 | 60万円 | 45%(賃金を増額した事業主は60%) |
| 外国の大学院 | 200万円 | 45%(同60%) | |
| 高度デジタル人材訓練 | 大学 | 100万円(中小企業事業主は150万円) | 60%(中小企業事業主は75%) |
| 成長分野等人材訓練 | 国内の大学院 | 150万円 | 75% |
| 外国の大学院 | 500万円 | 75% |
同じ「外国の大学院」でも、自発的職業能力開発訓練なら200万円、成長分野等人材訓練なら500万円で、2.5倍違います。分かれ目は、その訓練が誰の発意によるものかです。自発的職業能力開発訓練は、被保険者が自発的に受けた訓練の費用を事業主が補助する形で、労働協約または就業規則に費用を負担する制度を整備していることが要件です。成長分野等人材訓練は、事業主が職業訓練実施計画に基づいて受けさせる形で、大学院で実施するものに限られます。
高度デジタル人材訓練にはさらに要件があります。附則34条2項1号ハ(2)は、次のいずれかを満たす事業主であることを求めています。情報通信業を主たる事業とすること(統計法2条9項の日本標準産業分類の大分類Gをいう、と条文が定義しています)、産業競争力強化法21条の22に基づく事業適応計画(情報技術適応)の認定を受けていること、情報処理の促進に関する法律28条の認定を受けていること、または、最新の情報処理技術の変化を踏まえて企業経営と情報処理技術の活用の方向性を検討し、その結果に基づいて事業内職業能力開発計画を作成したこと、です。
社労士や研修会社の過去5年で、自社が不支給になることがある
雇用保険法施行規則139条の4は、人材開発支援助成金の不支給事由を定めています。3つの項があり、3項目とも過去5年以内という物差しで切られています。
- 1項:労働保険料の納付の状況が著しく不適切である、または過去5年以内に偽りその他不正の行為により雇用調整助成金その他の給付金の支給を受け、もしくは受けようとした事業主等には支給しない
- 2項:過去5年以内に不正を行った事業主等の役員等(不正に関与した者に限る)が、いま申請する会社の役員等である場合は支給しない
- 3項:過去5年以内に代理人等または訓練機関が偽りの届出・報告・証明等を行い、それによって給付金が支給されたことがあり、その代理人等または訓練機関が今回の助成金に関与している場合は支給しない
2項と3項が独特です。2項は不正が「人」について回るという規定で、過去に不正に関与した役員を迎え入れた会社は、自社に落ち度がなくても不支給になります。3項は不正が「支援者」について回るという規定で、申請を依頼した社会保険労務士等や、訓練を委託した研修会社に過去5年以内の不正があると、その支援者が関与しているというだけで自社が不支給になります。
さらに140条の3は、不正受給があった場合に、都道府県労働局長が返還を命じることができ、あわせて返還を命ずる額の2割に相当する額以下の納付を命じることができると定めています。そして2項は、代理人等または訓練機関が偽りの届出等をしたために支給されたものであるときは、その代理人等または訓練機関に対し、支給を受けた者と連帯して納付を命じることができるとしています。
これらは附則34条6項・附則35条5項によって、人への投資促進コースと事業展開等リスキリング支援コースにも読み替えのうえ準用されています。暫定措置の2コースだけ規律が緩いということはありません。
なお、解雇の有無を見る期間も長めに取られています。条文は「職業訓練実施計画を提出した日の前日から起算して六箇月前の日から都道府県労働局長に対する人材育成支援コース助成金の受給についての申請書の提出日までの間」を基準期間とし、その間に当該事業所の労働者を解雇した事業主(天災その他やむを得ない理由のために事業の継続が不可能となつたこと、または労働者の責めに帰すべき理由による解雇を除く)以外の事業主であることを要件に置いています。計画を出す半年前までさかのぼり、支給申請の日まで続きます。
訓練を修了した人を正社員にすると、キャリアアップ助成金の額が上がる
最後に、他の助成金とのつながりを1つ。附則17条の2の8は、人材開発支援助成金の訓練を修了した者(条文の言葉で「訓練修了者」)を、キャリアアップ助成金の正社員化コースの措置によって転換または雇入れした場合に、令和9年3月31日までの間、支給額を別に定めています。
| 正社員化コースの措置 | 訓練修了者・母子家庭の母等 | その他の対象者 |
|---|---|---|
| 118条の2第2項1号ハ(1)の措置 | 60万円(中小企業事業主は80万円) | 30万円(同40万円) |
| 同ハ(2)(3)(6)の措置 | 対象者1人につき60万円(中小企業事業主は80万円) | |
| 同ハ(4)(5)の措置 | 30万円(中小企業事業主は40万円) | 15万円(同20万円) |
| 同ハ(7)(8)の措置 | 対象者1人につき30万円(中小企業事業主は40万円) | |
ハ(1)の措置では、訓練修了者かどうかで額が2倍違います。そして条文は、訓練修了者を母子家庭の母等・父子家庭の父である対象者と同じ枠に置いています。人数には上限があり、「一の事業所につき、一の年度における当該措置の対象となる労働者の数が二十人を超える場合は、当該事業所につき二十人までの支給に限る」とされています。
ひとつ条件があります。この加算を受けられるのは、その訓練修了者について人材開発支援助成金の支給を受けた事業主に限られます。訓練を実施しただけでは足りず、訓練側の助成金を実際に受給していることが必要です。キャリアアップ助成金の正社員化コースそのものの支給額と要件はキャリアアップ助成金の支給額で扱っています。
よくある質問
Q. 人材開発支援助成金は令和9年3月で終わるのですか?
A. 助成金そのものが終わるわけではありません。終わる期限が条文に書かれているのは、附則34条の人への投資促進コースと附則35条の事業展開等リスキリング支援コースの2つで、どちらも「令和九年三月三十一日までの間」支給するものとする、と定められています。本則125条にある人材育成支援コース、教育訓練休暇等付与コース、建設労働者の2コースには、そのような期限の定めがありません。ただし、令和9年4月1日以降に暫定措置の2コースがどうなるかは、現在の条文からは分かりません。延長された前例はありますが、それは将来を保証するものではありませんので、年度をまたぐ長期の訓練計画を暫定措置の2コースで組む場合は、所轄の都道府県労働局に取り扱いを確認したうえで進めるのが安全です。
Q. 30日以上の教育訓練休暇の制度をつくれば助成が受けられると聞きました。本当ですか?
A. 制度そのものは助成の対象になりますが、根拠になる条文は本則ではなく附則です。雇用保険法施行規則125条2項1号ホ(2)が30日以上の休暇の付与について定め、2号チ(2)が20万円と1日あたり6,000円という額を定めていますが、附則34条1項のただし書きが、令和4年4月1日から令和9年3月31日までの間はこれらの規定に基づく人材育成支援コース助成金を支給しないと定めています。実際に動いているのは附則34条2項1号ヘ(人への投資促進コースの長期教育訓練休暇等制度)のほうで、こちらは休暇の日数ではなく時間数に単価を掛ける作りになっており、1人あたり1,200時間(中小企業事業主は1,600時間)が限度です。本則の額を前提に見積もると実際の支給額と食い違います。
Q. オンラインの研修を200時間受けさせます。上限額はいくらですか?
A. どのコース・どの訓練類型で申請するかによって変わります。本則125条の人材育成支援コースでは、経費助成の上限は200時間以上で1人30万円(中小企業事業主は50万円)ですが、オンライン訓練または通信制訓練のうち人材開発統括官が定める訓練を実施した場合は10万円(同15万円)が上限になります。附則35条の事業展開等リスキリング支援コースでは、事業展開等に伴う訓練について同じ趣旨の打ち切りが置かれている一方、人事等に関する計画に基づく訓練の側には、条文上その打ち切りが置かれていません。同じコースの中で扱いが分かれる形になっていますので、オンライン中心で長時間の訓練を組む場合は、どの類型で申請することになるかと、上限額がいくらになるかを、計画届の提出前に労働局へ確認してください。
Q. 年度の上限額は、事業所ごとですか、会社ごとですか?
A. 条文は「一の事業所」を単位にしています。人材育成支援コースについては125条3項が、職業訓練実施計画等に基づく一の事業所または事業主団体等に係る助成金の額が1,000万円を超えるときは1,000万円を支給する、と定めています。人への投資促進コースは附則34条3項が2,500万円(うち自発的職業能力開発訓練は300万円)、同4項が成長分野等人材訓練について1,000万円、事業展開等リスキリング支援コースは附則35条3項が1億円を、それぞれ一の事業所を単位として定めています。なお、業務改善助成金のように事業主単位の年間上限を置いている制度もありますので、複数の助成金を併用する場合は制度ごとに単位を確かめる必要があります。
Q. 45歳の従業員に実習型の訓練を受けさせたい場合、どの類型になりますか?
A. 条文の区分では中高年齢者実習型訓練の側になります。特定雇用型訓練の対象は125条2項1号ロ(1)が「十五歳以上四十五歳未満」と定めており、45歳ちょうどの人は含まれません。中高年齢者実習型訓練は同号ニ(2)が「その雇用する被保険者であつて四十五歳以上のもの」を対象としています。助成率は特定雇用型訓練が30%(中小企業事業主は45%)、中高年齢者実習型訓練が45%(同60%)ですので、中高年齢者実習型訓練のほうが率は高くなります。中高年齢者実習型訓練は令和8年度に新設された類型で、実施期間が2か月以上であること、総訓練時間数を6か月当たりに換算して425時間以上であることなどの要件があります。
Q. 申請を社労士に頼む予定ですが、注意することはありますか?
A. 雇用保険法施行規則139条の4第3項が、過去5年以内に代理人等または訓練機関が偽りの届出、報告、証明等を行い、それによって給付金が支給され、または支給を受けようとしたことがあり、当該代理人等または訓練機関が今回の助成金に関与している場合には、その事業主に対して助成金を支給しないと定めています。自社に落ち度がなくても不支給になり得る規定です。また140条の3第2項は、代理人等または訓練機関が偽りの届出等をしたために支給されたときは、支給を受けた者と連帯して返還または納付を命じることができるとしています。委託先の選定にあたっては、これらの条文があることを踏まえて確認しておくことになります。手続の具体的な進め方については所轄の都道府県労働局にご相談ください。
Q. 受け取った助成金は、経理ではどう扱いますか?
A. 一般に、受け取った額は法人税法上の益金(個人事業主であれば事業所得の総収入金額)に算入されます。消費税については、資産の譲渡等の対価ではないため不課税取引として扱うのが一般的です。人材開発支援助成金は訓練の経費と賃金に対する助成であって、固定資産の取得に対する助成ではありませんので、国庫補助金等で取得した固定資産の圧縮記帳を検討する場面は基本的にありません。ただし事業展開等リスキリング支援コースの設備投資加算のように、機器の導入費用に対して助成される部分がある場合は、扱いが変わり得ます。また、助成の対象となった経費が課税仕入れである場合には、仕入控除税額の調整という論点もあります。計上時期を含め、個別の事業年度における具体的な処理は顧問税理士にご確認ください。
Q. 訓練を始めてから計画届を出しても間に合いますか?
A. 条文は、職業訓練実施計画を都道府県労働局長に提出している事業主であることを要件として並べています(125条2項1号イ(1)(iii)ほか)。また附則17条の2の8は、加算の対象となる訓練を「職業訓練実施計画を都道府県労働局長に提出し、当該職業訓練実施計画に基づき開始したもの」に限ると明記しています。計画の提出が先で、訓練の開始が後という順序です。あわせて、解雇に関する要件の判定期間は「職業訓練実施計画を提出した日の前日から起算して六箇月前の日から都道府県労働局長に対する人材育成支援コース助成金の受給についての申請書の提出日までの間」とされており、計画提出の半年前までさかのぼります。提出期限の日数など手続の細部は支給要領の定めによりますので、所轄の都道府県労働局にご確認ください。
出典
- e-Gov法令検索「雇用保険法施行規則」(昭和五十年労働省令第三号)。法令API v2 で
laws?law_num=昭和五十年労働省令第三号から法令ID350M50002000003を特定し、law_revisions/350M50002000003でリビジョン一覧(159件・2026年に入ってからの施行日は令和8年2月2日/4月1日/4月8日/5月1日/5月13日/5月21日/6月14日/8月1日の8回)を確認したうえ、law_data/350M50002000003_20260801_508M60000100031(令和8年8月1日施行の現行版)から全文(約2.8MB・条文810条)を取得した。参照した条は、124条(法63条1項1号・4号・5号・9号に掲げる事業として支給する旨)、125条(1項=コースの列挙、2項1号イ〜ホ=支給要件、2項2号イ〜チ=支給額、3項=年度1,000万円、4項=建設2コースは建労則による)、139条の3(国等に対する不支給)、139条の4(1項=労働保険料の納付状況と過去5年の不正、2項=役員等、3項=代理人等・訓練機関)、140条の3(1項=返還命令と返還額の2割以下の納付命令、2項=代理人等・訓練機関の連帯)、附則17条の2の8(訓練修了者を正社員化コースで転換・雇入れした場合の額と20人までの限度)、附則34条(人への投資促進コース。1項=期間と本則の一部を支給しないただし書き、2項=要件と額、3項=年度2,500万円と自発的職業能力開発訓練300万円、4項=成長分野等人材訓練1,000万円、5項=国等に対する不支給、6項=139条の4・140条の3の準用)、附則35条(事業展開等リスキリング支援コース。1項=期間、2項=要件と額、3項=年度1億円、4項=国等に対する不支給、5項=準用) - 厚生労働省「人材開発支援助成金」(雇用・労働>事業主への支援>助成金等一覧)。コース一覧が7コース(人材育成支援コース/教育訓練休暇等付与コース/人への投資促進コース/事業展開等リスキリング支援コース/建設労働者認定訓練コース/建設労働者技能実習コース/障害者職業能力開発コース)であること、障害者職業能力開発コースは令和6年4月から独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が支給業務を行うこと、令和8年度の改正資料として「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)改正:中高年齢者実習型訓練を新設しました」「人材開発支援助成金(人への投資促進コース)改正:新規採用助成・職務代行助成を追加しました」「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)改正:設備投資加算を新設しました」「人材開発支援助成金(コース共通)改正:令和8年4月8日からの変更点について」が掲げられていること、令和8年5月14日より支給申請時に「受講料等の価格設定に関する疎明書」(様式28号)の提出が必要になったこと、および「令和8年度版 教育訓練休暇等付与コース・人への投資促進コース(長期教育訓練休暇等制度)のご案内」という2コース合体のパンフレットが置かれていることを確認した
- 厚生労働省「雇用関係助成金」(対象者別・取組内容別の一覧)。人材開発支援助成金の各コースの公式ページの所在を確認した。当サイトはこの一覧を機械で取得して雇用関係助成金の一覧として掲載している(制度名と公式URLのみ。金額・要件は各制度ページの正本による)
- この記事で扱っていない事項について。支給要領および人材開発統括官が定める事項(賃金の増額割合、オンライン訓練のうち定める訓練の範囲、一定数の被保険者の数など)は条文が委任しており、この記事では踏み込んでいない。建設労働者認定訓練コース・建設労働者技能実習コースの助成額は建設労働者の雇用の改善等に関する法律施行規則の定めによるため扱っていない。障害者職業能力開発コース、様式・添付書類・提出期限などの手続の細部、令和9年4月1日以降の暫定措置の取り扱いも扱っていない。本文中の金額はすべて令和8年8月1日施行の雇用保険法施行規則の条文によるもので、実際の支給額は支給要領および個別の審査によって決まる
この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する助言ではありません。自社が中小企業事業主に当たるか、特定の訓練が支給対象になるか、実際にいくら支給されるかは、個別の事情および支給要領の定めによって結論が変わります。計画届・支給申請の可否や期限、必要書類については所轄の都道府県労働局(職業安定部訓練課・助成金センター)へ、就業規則や労働協約の改正については社会保険労務士へ、受給した助成金の税務処理については税理士へご確認ください。