教育訓練給付金とは — 20%と80%を分けるのは講座ではなく「賃金が5%上がったか」
結論から言うと、教育訓練給付金は「厚生労働大臣が指定した講座」を受けて修了したときに、払った受講料の20〜80%が戻ってくる雇用保険の給付です。根拠は雇用保険法60条の2。失業していなくても、在職中のまま受け取れます。
ところが、あちこちで見る「20%」「40%」「50%」「70%」「80%」という数字は、法律には1つも書かれていません。法が定めているのは「百分の二十以上百分の八十以下の範囲内において厚生労働省令で定める率」という枠だけで、実際の率を6つの区分で決めているのは雇用保険法施行規則101条の2の7です。上限額(10万円・20万円・25万円・120万円・168万円・192万円)も同じく施行規則101条の2の8にあります。法律を読んでも金額は出てきません。
そして最高率の80%は、受けた講座の種類では決まりません。専門実践教育訓練を修了して資格を取り、就職したうえで、訓練後の賃金日額が受講前の105%以上になったときだけ80%になります。つまりこの制度の一番上の段は、「何を学んだか」ではなく「賃金が5%上がったか」で判定されています。
この記事は、①誰がもらえるか、②3つの講座区分と6つの率、③上限額と10年の枠、④80%の正体、⑤在職者が落ちる14日前の壁、⑥「初回は1年」の本当の条文、⑦離職者向けの教育訓練支援給付金(令和9年3月31日開始分まで)、⑧2025年に新設された教育訓練休暇給付金、の順に条文を引用しながら整理します。
誰がもらえるか — 在職者も離職者も対象、鍵は「支給要件期間」
雇用保険法60条の2第1項が、対象者と要件をまとめて定めています。
教育訓練給付金は、次の各号のいずれかに該当する者(以下「教育訓練給付金支給対象者」という。)が、厚生労働省令で定めるところにより、雇用の安定及び就職の促進を図るために必要な職業に関する教育訓練として厚生労働大臣が指定する教育訓練を受け、当該教育訓練を修了した場合(当該教育訓練を受けている場合であつて厚生労働省令で定める場合を含み、当該教育訓練に係る指定教育訓練実施者により厚生労働省令で定める証明がされた場合に限る。)において、支給要件期間が三年以上であるときに、支給する。
ここから読み取れる要件は4つです。
| 要件 | 中身 | 条文 |
|---|---|---|
| 身分 | 受講開始日(=基準日)に一般被保険者または高年齢被保険者であること。または、直前に被保険者でなくなった日から一定期間内であること | 法60条の2第1項1号・2号 |
| 講座 | 厚生労働大臣が指定した講座であること | 法60条の2第1項 |
| 修了 | 修了したこと(専門実践教育訓練は受講中でも可) | 法60条の2第1項、施行規則101条の2の3 |
| 期間 | 支給要件期間が3年以上(初回は後述の暫定措置で1年) | 法60条の2第1項、法附則11条 |
「離職者は一定期間内」の一定期間は1年です(施行規則101条の2の5第1項)。つまり退職後1年以内に受講を開始すれば、離職していても対象になります。さらにこの1年は、妊娠・出産・育児・疾病・負傷などで引き続き30日以上受講を開始できないときは最長20年まで延ばせます(同項。教育訓練給付適用対象期間延長申請書=様式第16号)。20年という長さは、この制度の中で目立って寛大な部分です。
支給要件期間は「同一の事業主の適用事業に引き続いて被保険者として雇用された期間」を基礎に、前の会社の被保険者期間も通算して数えます(法60条の2第2項)。ただし通算が切れる場合が2つあります。
- 空白が1年を超えたとき — 被保険者になった日の直前の「被保険者でなくなった日」が、その1年前より古いときは、それ以前の期間を全部除きます(同項1号)
- 前に教育訓練給付金をもらったとき — その受給に係る基準日より前の被保険者期間を全部除きます(同項2号)。受給するたびに支給要件期間はゼロから積み直しになります
3つの講座区分と、施行規則が決めている6つの率
法60条の2第4項は、金額の決め方をこう書いています。
教育訓練給付金の額は、教育訓練給付金支給対象者が第一項に規定する教育訓練の受講のために支払つた費用(厚生労働省令で定める範囲内のものに限る。)の額(当該教育訓練の受講のために支払つた費用の額であることについて当該教育訓練に係る指定教育訓練実施者により証明がされたものに限る。)に百分の二十以上百分の八十以下の範囲内において厚生労働省令で定める率を乗じて得た額(その額が厚生労働省令で定める額を超えるときは、その定める額)とする。
施行規則101条の2の7が定める6区分は次のとおりです。いずれも支給要件期間3年以上(初回は1年)が前提です。
| 号 | 講座区分 | 追加の条件 | 率 | 上限額 |
|---|---|---|---|---|
| 1号 | 一般教育訓練 | 修了 | 20% | 10万円 |
| 2号 | 特定一般教育訓練 | 修了 | 40% | 20万円 |
| 3号 | 特定一般教育訓練 | 修了+資格の取得等+雇用された/されている | 50% | 25万円 |
| 4号 | 専門実践教育訓練 | 修了(受講中を含む) | 50% | 120万円 |
| 5号 | 専門実践教育訓練 | 修了+資格の取得等+雇用された/されている | 70% | 168万円 |
| 6号 | 専門実践教育訓練 | 5号の条件+賃金日額が受講前の105%以上 | 80% | 192万円 |
3つの講座区分は、条文上こう定義されています(いずれも101条の2の7の各号の括弧書き)。
- 一般教育訓練 … 「雇用の安定及び就職の促進を図るために必要な職業に関する教育訓練」のうち、特定一般でも専門実践でもないもの
- 特定一般教育訓練 … そのうち「速やかな再就職及び早期のキャリア形成に資する教育訓練」として指定されたもの
- 専門実践教育訓練 … そのうち「中長期的なキャリア形成に資する専門的かつ実践的な教育訓練」として指定されたもの
どれに当たるかは受講者が選ぶものではなく、厚生労働大臣が講座ごとに指定するときに決まっています(施行規則101条の2の2第1項3号が、講座指定通知書の記載事項として「第百一条の二の七第一号に規定する一般教育訓練、同条第二号に規定する特定一般教育訓練又は同条第四号に規定する専門実践教育訓練のいずれであるかの別」を挙げています)。同条2項により、指定内容はインターネットで公表されます(厚生労働省「教育訓練講座検索システム」)。
戻る「費用」の範囲は狭い
率を掛ける相手は受講にかかった費用すべてではありません。施行規則101条の2の6が範囲を2つに限定しています。
入学料及び受講料(短期訓練受講費の支給を受けているものを除く。)
もう1つが、一般教育訓練に限って認められるキャリアコンサルティング費用です。
次条第一号に規定する一般教育訓練の受講開始日前一年以内にキャリアコンサルタント(職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第三十条の三に規定するキャリアコンサルタントをいう。以下同じ。)が行うキャリアコンサルティング(同法第二条第五項に規定するキャリアコンサルティングをいう。以下同じ。)を受けた場合は、その費用(その額が二万円を超えるときは、二万円)
つまり教材費・受験料・交通費・パソコン代は対象外です。「受講料」に含めて請求書を作ってもらえば通る、という話ではなく、指定教育訓練実施者の証明が付いた入学料と受講料だけが対象になります(法60条の2第4項の括弧書き)。
さらに一般教育訓練の期間が1年を超えるときは、1年を超える部分の受講料が除かれます(施行規則101条の2の2第1項6号)。2年コースなら、対象になるのは実質1年分です。
上限額と「10年の枠」— 192万円はどう積み上がるか
専門実践教育訓練の上限額(120万円・168万円・192万円)は、1回の講座に対する上限であると同時に、10年間の総枠でもあります。施行規則101条の2の8第2項が「支給限度期間」を定義しています。
前項の支給限度期間とは、基準日から十年を経過する日までの一の期間をいう。
そして101条の2の8第1項4号は、120万円のあとに括弧書きで細かい刻みを置いています。
百二十万円(連続した二支給単位期間(第百一条の二の十三第四項に規定する支給単位期間をいう。以下この条において同じ。)(当該専門実践教育訓練を修了した日が属する場合であつて、支給単位期間が連続して二ないときは一支給単位期間)ごとに支給する額は、四十万円を限度とし、一の支給限度期間ごとに支給する額は、百九十二万円を限度とする。)
支給単位期間は6か月です(施行規則101条の2の13第4項)。整理すると次のようになります。
| 区分 | 率 | 1講座の上限 | 連続2支給単位期間(=1年)ごとの上限 | 10年の総枠 |
|---|---|---|---|---|
| 専門実践(4号) | 50% | 120万円 | 40万円 | 192万円 |
| 専門実践(5号) | 70% | 168万円 | 56万円 | |
| 専門実践(6号) | 80% | 192万円 | 64万円 |
4年制の課程には別枠があります。施行規則101条の2の8第3項は、管理栄養士養成施設のように法令で4年の修業年限が定められている「長期専門実践教育訓練」について、120万円を160万円に、168万円を224万円に、192万円を256万円に読み替えると定めています。ただし適用には3つの条件が全部そろう必要があり、そのうち1つは、基準日から30か月を経過する日の属する支給単位期間の賃金の日額が、基本手当の日額の算定で80%を乗じることとされている賃金日額の下限を下回っていること、という低所得要件です。誰でも256万円になるわけではありません。
80%の正体は講座ではなく「賃金が105%以上になったか」
この制度でいちばん誤解されているのが80%です。施行規則101条の2の7第6号は、率80%の対象者をこう定めます。
支給要件期間が三年以上である者であつて、専門実践教育訓練を受け、修了し、当該専門実践教育訓練に係る資格の取得等をし、かつ、一般被保険者又は高年齢被保険者として雇用された者(第百一条の二の五第一項の規定により加算された期間が二年を超える者を除く。)又は雇用されている者のうち、イに掲げる額がロに掲げる額の百分の百五に相当する額以上である者
ここで比べているイとロは、どちらも賃金日額です。
- イ(訓練後) … 資格を取って雇用された日(在職者は資格取得日)から1年を経過する日までの間の連続する6か月間に支払われた賃金を、法17条の賃金とみなして計算した賃金日額。臨時に支払われる賃金と、3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は除くので、賞与は入りません
- ロ(訓練前) … 基準日に雇用されている人は「基準日の前日を離職の日とみなして」計算した賃金日額。雇用されていない人は、基準日前の直近の離職に係る賃金日額
イ ≧ ロ × 105% なら80%になります。つまり賃金が5%上がったかどうかが、追加の10ポイント(と上限24万円)を決めているということです。学んだ内容でも、講座の値段でも、資格の難易度でもありません。
括弧書きの除外もあります。適用対象期間の延長(施行規則101条の2の5第1項の20年の延長)で加算された期間が2年を超える人は、80%の対象から外れます。長く延長した人ほど、賃金の比較が実態から離れるためと考えられます。
在職者が一番落ちるのは14日前の壁
手続きの締切は、講座区分によってまったく別の設計になっています。ここが実務で最も事故が多い部分です。
一般教育訓練(20%)は事前の手続きがありません。施行規則101条の2の11第1項が、修了後の申請だけを定めています。
教育訓練給付金支給対象者は、一般教育訓練に係る教育訓練給付金の支給を受けようとするときは、当該教育訓練給付金の支給に係る一般教育訓練を修了した日の翌日から起算して一箇月以内に、教育訓練給付金(第百一条の二の七第一号及び第二号関係)支給申請書(様式第三十三号の二)に次の各号に掲げる書類を添えて管轄公共職業安定所の長に提出しなければならない。
ところが特定一般教育訓練(40%・50%)と専門実践教育訓練(50%・70%・80%)は、受講を始める前にハローワークへ行かなければなりません。施行規則101条の2の13第1項(専門実践)はこう定めます。
教育訓練給付金支給対象者であつて、専門実践教育訓練に係る教育訓練給付金の支給を受けようとするもの(以下この条において「専門実践教育訓練受講予定者」という。)は、当該専門実践教育訓練を開始する日の十四日前までに、次の各号に掲げる書類及び運転免許証その他の専門実践教育訓練受講予定者が本人であることを確認することができる書類を添えて、又は次の各号に掲げる書類の添付に併せて個人番号カードを提示して教育訓練給付金及び教育訓練支援給付金受給資格確認票を管轄公共職業安定所の長に提出しなければならない。
特定一般教育訓練も同じ14日前です(施行規則101条の2の12第1項)。しかも添付する職務経歴等記録書は、キャリアコンサルタントによるキャリアコンサルティングを踏まえて記載されている必要があります(同項1号・101条の2の13第1項1号)。予約から面談までに日数がかかるので、実際には受講開始の1か月前には動き出す必要があります。
専門実践教育訓練は、修了後に一度で精算するのではなく6か月ごとに申請します。施行規則101条の2の13第3項が、支給申請期間は「当該支給単位期間の末日の翌日から起算して一箇月を超えない範囲で」定めると規定しており、支給単位期間ごとに約1か月の申請窓が開いては閉じます。
そのうえで、率が上がる分の追加申請にはさらに別の締切があります。
| 申請 | いつまで | 条文 |
|---|---|---|
| 受給資格確認(特定一般・専門実践) | 受講開始日の14日前まで | 施行規則101条の2の12第1項・101条の2の13第1項 |
| 一般教育訓練の支給申請 | 修了日の翌日から1か月以内 | 施行規則101条の2の11第1項 |
| 専門実践 50%分(支給単位期間ごと) | 支給単位期間の末日の翌日から1か月以内 | 施行規則101条の2の13第3項 |
| 専門実践 70%への追加分 | 資格取得+雇用された日の翌日から1か月以内 | 施行規則101条の2の13第5項 |
| 専門実践 80%への追加分 | 資格取得+雇用された日の翌日から6か月を経過した日から6か月以内 | 施行規則101条の2の13第6項 |
80%分だけ「6か月を経過した日から6か月以内」という変わった書き方になっているのは、賃金が105%以上になったかの判定に就職後の連続6か月の賃金が要るためです。6か月経たないと数字が出ないので、窓が開くのも6か月後になります。就職した直後に窓口へ行っても受け付けられません。
「初めてなら1年でよい」は本則ではなく附則の暫定措置
支給要件期間は法60条の2第1項で3年以上とされていますが、初回に限って1年でよい、という説明を多く見ます。これは正しいものの、根拠は本則ではありません。雇用保険法附則11条が置いている暫定措置です。
教育訓練給付金支給対象者であつて、第六十条の二第一項第一号に規定する基準日前に教育訓練給付金の支給を受けたことがないものに対する同項の規定の適用については、当分の間、同項中「三年」とあるのは、「一年」とする。
読み落としやすい点が2つあります。
- 「当分の間」 … 恒久措置ではありません。附則に置かれた読み替えなので、廃止・変更されれば本則の3年に戻ります
- 「支給を受けたことがない」 … 直近3年ではなく、生涯で一度もという意味です。10年前・20年前に一度でも教育訓練給付金を受けていれば、この暫定措置は使えず、支給要件期間は3年必要になります
ここは法60条の2第5項の「3年ルール」と混同されがちですが、別物です。第5項は次のように定めます。
第一項及び前項の規定にかかわらず、同項の規定により教育訓練給付金の額として算定された額が厚生労働省令で定める額を超えないとき、又は教育訓練給付金支給対象者が基準日前厚生労働省令で定める期間内に教育訓練給付金の支給を受けたことがあるときは、教育訓練給付金は、支給しない。
ここでいう期間は3年(施行規則101条の2の10)、金額は4,000円(同101条の2の9)です。2つの「3年」の役割は次のように違います。
| 何を決めているか | 数え方 | 条文 | |
|---|---|---|---|
| 支給要件期間の3年 | もらう資格があるか(初回は附則11条で1年) | 被保険者だった期間の通算 | 法60条の2第1項・附則11条 |
| 再受給制限の3年 | 前回の受給から間隔が空いているか | 前回の受給から基準日まで | 法60条の2第5項・施行規則101条の2の10 |
| 4,000円 | 計算額が小さすぎないか | 率を掛けた後の額 | 法60条の2第5項・施行規則101条の2の9 |
4,000円の下限は、一般教育訓練(20%)なら受講料が2万円を超えないと1円も出ないということです。1万5,000円の講座なら計算額は3,000円で、支給されません。
教育訓練支援給付金 — 45歳未満・令和9年3月31日までに開始した人だけ
教育訓練給付金は受講料に対する給付なので、生活費は出ません。離職して専門実践教育訓練に専念する人向けに、生活費側を支える教育訓練支援給付金が別にあります。根拠は雇用保険法附則11条の2で、こちらも本則ではなく附則です。
教育訓練支援給付金は、教育訓練給付金支給対象者(前条に規定する者のうち、第六十条の二第一項第二号に該当する者であつて、厚生労働省令で定めるものに限る。)であつて、厚生労働省令で定めるところにより、令和九年三月三十一日以前に同項に規定する教育訓練であつて厚生労働省令で定めるものを開始したもの(当該教育訓練を開始した日における年齢が四十五歳未満であるものに限る。)が、当該教育訓練を受けている日(当該教育訓練に係る指定教育訓練実施者によりその旨の証明がされた日に限る。)のうち失業している日(失業していることについての認定を受けた日に限る。)について支給する。
条文から読み取れる要件です。
- 離職者限定 … 法60条の2第1項2号に該当する者、つまり被保険者でなくなった人だけ。在職者は対象外
- 45歳未満 … 判定するのは教育訓練を開始した日の年齢。申請日でも離職日でもありません
- 令和9年3月31日以前に開始 … この日までに受講を開始した人が対象。申請期限ではなく開始期限です
- 失業の認定が要る … 基本手当と同じく、失業していることの認定を受けた日について支給されます(附則11条の2第2項)
金額は附則11条の2第3項が定めます。
教育訓練支援給付金の額は、第十七条に規定する賃金日額(以下この項において単に「賃金日額」という。)に百分の五十(二千四百六十円以上四千九百二十円未満の賃金日額(その額が第十八条の規定により変更されたときは、その変更された額)については百分の八十、四千九百二十円以上一万二千九十円以下の賃金日額(その額が第十八条の規定により変更されたときは、その変更された額)については百分の八十から百分の五十までの範囲で、賃金日額の逓増に応じ、逓減するように厚生労働省令で定める率)を乗じて得た金額に百分の六十を乗じて得た額とする。
前半は法16条1項(基本手当の日額)とまったく同じ文言です。つまり教育訓練支援給付金の日額=基本手当の日額×60%という構造になっています。
60%という率にも注意が要ります。以前は80%でした。改正法の附則は一貫して「施行日以後に…教育訓練を開始した者について適用し、施行日前に…開始した者については、なお従前の例による」という形を取っており、どちらの率になるかは受講を開始した日で決まります。申請日でも、離職日でもありません。
また、基本手当が支給される期間には教育訓練支援給付金は支給されません(附則11条の2第4項)。両方は重ならず、基本手当を受け終わってからの期間を支える給付という位置づけです。
2025年10月に新設された教育訓練休暇給付金
ここまでは「離職者が学ぶ」か「在職者が働きながら学ぶ」かの2択でしたが、2025年10月1日に第3の選択肢が加わりました。教育訓練休暇給付金(雇用保険法60条の3)です。在職のまま無給の休暇を取って学ぶ人に、基本手当に相当する日額を支給します。
教育訓練休暇給付金は、一般被保険者が、厚生労働省令で定めるところにより、職業に関する教育訓練を受けるための休暇(以下「教育訓練休暇」という。)を取得した場合に、当該教育訓練休暇(当該教育訓練休暇を開始した日から起算して一年を経過する日までに二回以上の教育訓練休暇を取得した場合にあつては、初回の教育訓練休暇)を開始した日(以下「休暇開始日」という。)から起算して一年の期間内の教育訓練休暇を取得している日(教育訓練休暇を取得していることについての認定を受けた日に限る。)について、第六項の規定による日数に相当する日数分を限度として支給する。
教育訓練給付金との違いは大きく3つあります。
| 教育訓練給付金(法60条の2) | 教育訓練休暇給付金(法60条の3) | |
|---|---|---|
| 何に対する給付か | 受講費用の20〜80% | 休暇中の生活費(基本手当の日額相当) |
| 講座の指定 | 厚生労働大臣の指定講座に限る | 条文上「職業に関する教育訓練」とあり、指定の限定は置かれていない |
| 要件 | 支給要件期間3年(初回1年) | みなし被保険者期間12か月以上、かつ算定基礎期間相当が5年以上 |
| 離職・在職 | どちらも可 | 一般被保険者のみ(在職者限定) |
日額は基本手当の日額に相当する額(法60条の3第5項)、支給日数は基本手当の所定給付日数に相当する日数(同6項)です。教育訓練支援給付金のような60%の減額はありません。
もう1つ、見落とされやすい仕掛けが法60条の4です。教育訓練休暇給付金を受けた人が、休暇終了から6か月以内に倒産・解雇などで離職した場合、その人(特定教育訓練休暇給付金受給者)については所定給付日数を90日(就職困難者は150日)に固定し、給付制限(法23条1項)を適用しないという特例が働きます。休暇給付金を使ったあとに失業した場合の基本手当が、通常より短くなり得るということなので、制度を選ぶ段階で見ておく必要があります。
実務の落とし穴
条文を読んで初めて分かる、間違えやすい点をまとめます。
| 誤解 | 条文上の正解 | 根拠 |
|---|---|---|
| 率と上限額は法律に書いてある | 法律は「20%以上80%以下」の枠だけ。率も上限額も省令 | 法60条の2第4項、施行規則101条の2の7・101条の2の8 |
| 80%は難しい講座を選べばもらえる | 講座ではなく賃金日額が受講前の105%以上になったかで決まる | 施行規則101条の2の7第6号 |
| 105%は年収で比べる | 賃金日額で比べる。賞与は除外される | 施行規則101条の2の7第6号イ |
| 初回1年は恒久ルール | 附則の「当分の間」の暫定措置。しかも生涯で受給歴ゼロの人だけ | 法附則11条 |
| 手続きが遅れても率が下がるだけ | 特定一般・専門実践は14日前を過ぎたら支給なし | 施行規則101条の2の12第1項・101条の2の13第1項 |
| 教材費・受験料も戻る | 戻るのは入学料と受講料だけ(一般教育訓練はキャリアコンサルティング費用2万円まで加算可) | 施行規則101条の2の6 |
| 2年コースなら2年分が対象 | 一般教育訓練は1年を超える部分の受講料が除かれる | 施行規則101条の2の2第1項6号 |
| 安い講座でも2割は戻る | 計算額が4,000円以下なら不支給(20%なら受講料2万円が分岐点) | 法60条の2第5項、施行規則101条の2の9 |
| 退職したらもう使えない | 離職から1年以内の受講開始なら対象。延長すれば最長20年 | 施行規則101条の2の5第1項 |
| 教育訓練支援給付金は令和9年3月末まで申請できる | 令和9年3月31日は受講開始の期限 | 法附則11条の2第1項 |
| 教育訓練支援給付金は基本手当の80% | 現在は60%。どちらの率かは受講を開始した日で決まる | 法附則11条の2第3項、改正法附則の経過措置 |
制度を横断して効いている1つの原則
改正法の附則を並べると、教育訓練給付についての経過措置は例外なく同じ文型で書かれています。いずれも、施行日以後に教育訓練を開始した者について改正後の規定を適用し、施行日前に開始した者についてはなお従前の例による、という形です。率が変わるときも、上限額が変わるときも、支援給付金の60%化のときも、基準は受講開始日です。
実務上の意味は明快で、制度が有利に変わると分かっているなら開始を遅らせ、不利に変わるなら開始を前倒しするのが効きます。申請のタイミングを調整しても率は動きません。逆に、今日の条文を見て決めた率は、受講を開始した瞬間に固定されるとも言えます。
よくある質問
Q. 教育訓練給付金は在職中でももらえますか?
A. もらえます。雇用保険法60条の2第1項1号が、受講開始日(基準日)に一般被保険者または高年齢被保険者である者を対象に挙げており、失業していることは要件になっていません。会社を辞める必要も、会社の許可も条文上は不要です。離職者の場合は同項2号が受け皿になり、被保険者でなくなった日から1年以内に受講を開始することが条件です(施行規則101条の2の5第1項)。この1年は、妊娠・出産・育児・疾病・負傷などで引き続き30日以上受講を開始できないときに申し出れば最長20年まで延長できます。
Q. 受講料の何%が戻りますか?
A. 講座区分と、修了後にどうなったかで6段階に分かれます。一般教育訓練は20%(上限10万円)、特定一般教育訓練は修了で40%(上限20万円)・資格を取って就職すれば50%(上限25万円)、専門実践教育訓練は修了で50%(上限120万円)・資格を取って就職すれば70%(上限168万円)・さらに賃金が上がれば80%(上限192万円)です。これらの率と金額は雇用保険法には書かれておらず、雇用保険法施行規則101条の2の7(率)と101条の2の8(上限額)にあります。法律の側は「百分の二十以上百分の八十以下の範囲内において厚生労働省令で定める率」という枠を定めているだけです。
Q. 80%になるのはどういう場合ですか?
A. 専門実践教育訓練を修了し、その訓練に係る資格を取得等し、一般被保険者または高年齢被保険者として雇用され、そのうえで訓練後の賃金日額が受講前の賃金日額の105%以上になった場合です(雇用保険法施行規則101条の2の7第6号)。比べるのは年収ではなく賃金日額で、しかも臨時に支払われる賃金と3か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与)は除かれます。したがって月給が据え置きで賞与だけ増えた場合は105%に届きません。なお、適用対象期間の延長で加算された期間が2年を超える人はこの区分から除かれます。
Q. 「初めてなら雇用保険1年でよい」というのは本当ですか?
A. 本当ですが、根拠は本則ではなく雇用保険法附則11条の暫定措置です。同条は法60条の2第1項の「三年」を当分の間「一年」と読み替えるという形を取っており、恒久的な制度ではありません。さらに対象は「基準日前に教育訓練給付金の支給を受けたことがないもの」に限られます。これは直近3年ではなく生涯で一度もという意味なので、過去に一度でも受給していれば支給要件期間は3年必要です。前回の受給から3年空いていなければそもそも支給されない、という別のルール(法60条の2第5項・施行規則101条の2の10)とは条文も役割も異なります。
Q. 手続きはいつまでにすればよいですか?
A. 一般教育訓練は事前手続きが不要で、修了した日の翌日から1か月以内に支給申請書を提出します(施行規則101条の2の11第1項)。一方、特定一般教育訓練と専門実践教育訓練は受講開始日の14日前までに受給資格確認票を管轄公共職業安定所へ提出しなければなりません(同101条の2の12第1項・101条の2の13第1項)。添付する職務経歴等記録書はキャリアコンサルタントによるキャリアコンサルティングを踏まえて記載する必要があるため、面談の予約期間を含めると受講開始の1か月前には動き始める必要があります。この14日を過ぎた場合に率が下がって支給されるという救済規定はありません。
Q. 教材費や受験料も対象になりますか?
A. なりません。雇用保険法施行規則101条の2の6が対象となる費用を入学料および受講料に限定しており、これに加算できるのは一般教育訓練を受ける場合の、受講開始日前1年以内に受けたキャリアコンサルティングの費用(2万円が上限)だけです。教材費・受験料・交通費・パソコン等の購入費は含まれません。また一般教育訓練の期間が1年を超えるときは、1年を超える部分に係る受講料が除かれます(同101条の2の2第1項6号)。
Q. 受講料が安い講座でも支給されますか?
A. 計算した額が4,000円以下の場合は支給されません。雇用保険法60条の2第5項が、算定された額が厚生労働省令で定める額を超えないときは支給しないと定めており、その額は施行規則101条の2の9で4,000円とされています。率20%の一般教育訓練であれば、受講料が2万円を超えないと支給対象になりません。たとえば受講料1万5,000円の講座は計算額が3,000円となり、支給されません。
Q. 教育訓練支援給付金はいつまで使えますか?
A. 令和9年3月31日以前に教育訓練を開始した人までです。雇用保険法附則11条の2第1項が「令和九年三月三十一日以前に…教育訓練…を開始したもの」と定めており、これは申請の期限ではなく受講開始の期限です。開始さえこの日までであれば訓練期間が令和9年4月以降に及んでも対象になりますが、令和9年4月1日以降に開始した人は対象外です。あわせて、離職者であること、開始日の年齢が45歳未満であることが条件で、日額は基本手当の日額の60%です。専門実践教育訓練は受講開始日の14日前までの手続きが必要なため、実際に動くべき時期はさらに前になります。
Q. 教育訓練休暇給付金とは別の制度ですか?
A. 別の制度です。教育訓練給付金(雇用保険法60条の2)が受講費用に対する給付であるのに対し、2025年10月に新設された教育訓練休暇給付金(同60条の3)は、在職のまま無給の教育訓練休暇を取得した一般被保険者に対して、休暇中の生活費として基本手当の日額に相当する額を支給するものです。要件も異なり、休暇開始日前2年間のみなし被保険者期間が通算12か月以上あること、かつ算定基礎期間に相当する期間が5年以上あることが必要です。両方の要件を満たせば、費用は教育訓練給付金、生活費は教育訓練休暇給付金という組み合わせも条文上は妨げられていません。
出典
- e-Gov法令検索 雇用保険法(昭和四十九年法律第百十六号) — 第16条(基本手当の日額)、第18条(基本手当の日額の算定に用いる賃金日額の範囲等の自動的変更)、第60条の2(教育訓練給付金)、第60条の3(教育訓練休暇給付金)、第60条の4(特定教育訓練休暇給付金受給者に対する失業等給付の特例)、附則第11条(教育訓練給付金に関する暫定措置)、附則第11条の2(教育訓練支援給付金)、および改正法附則の経過措置
- e-Gov法令検索 雇用保険法施行規則(昭和五十年労働省令第三号) — 第101条の2の2(指定の通知等)、第101条の2の3(受講中の支給)、第101条の2の5(法第60条の2第1項第2号の期間・適用対象期間の延長)、第101条の2の6(費用の範囲)、第101条の2の7(率)、第101条の2の8(上限額・支給限度期間・長期専門実践教育訓練)、第101条の2の9(4,000円)、第101条の2の10(3年)、第101条の2の11(一般教育訓練の支給申請手続)、第101条の2の12(特定一般教育訓練の支給申請手続)、第101条の2の13(専門実践教育訓練の支給申請手続・支給単位期間)
条文はいずれも e-Gov 法令API v2 で全文を取得し、引用は原文と逐語で照合しています。指定講座の区分・名称は厚生労働省の教育訓練講座検索システムで公表されているものによります。賃金日額の範囲等の額は法18条により毎年8月1日以後に変更されるため、実際の適用額は当年度の公表値をご確認ください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断はハローワーク(公共職業安定所)・社会保険労務士にご確認ください。