公益通報者保護法とは|内部通報窓口・従事者指定・調査対応の実務表
公益通報者保護法は、公益通報を理由とする不利益取扱いを防ぎ、法令遵守につなげるための法律です。
この記事では、社内窓口を運用する労務担当者向けに、通報者情報の扱い、調査・是正の担当、是正後の確認方法を整理します。
以下は民間企業の内部通報への対応を扱います。外部への通報や役員の通報には別の保護条件があるため、内部窓口への通報と同じ条件で判断しません。
令和8年12月1日に施行される改正法への準備は、末尾の節にまとめました。現行制度と施行前の準備を区別して確認できます。
会社が整える体制の早見表
現行の内部公益通報対応体制では、常時使用する労働者が300人を超える事業者に、次の措置が義務付けられています。常時使用する労働者が300人以下の事業者は、規模・業種等に応じて可能な限り整備・運用する努力義務です。
| 確認するもの | 会社で決める内容 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 受付窓口 | 部門をまたいで受け付ける窓口、調査・是正を担う部署と責任者 | 上司が関わる通報にも対応できる経路を用意する |
| 従事者指定 | 窓口で受けた通報の受付・調査・是正のいずれかを主体的に行うか重要部分に関与し、通報者を特定させる事項を伝達される人を指定する | 指定された地位が本人に明らかになる方法をとる |
| 独立性・利益相反 | 幹部に関わる事案では独立性を確保。事案の関係者は、公正な対応を阻害しない措置がある場合を除き、対応から外す | 公正さ・独立性を確保する措置なしに通常の決裁経路へ回さない |
| 通報者の保護 | 不利益取扱い、必要範囲を超える情報共有を防ぐ措置 | 受け付けた後も、不利益取扱いが起きていないかを把握する |
| 調査・是正 | 正当な理由がある場合を除き必要な調査を行い、法令違反が明らかなら速やかに是正する | 是正が機能するか確認し、機能しなければ改めて措置をとる |
| 規程と記録 | 内部規程の策定・運用、対応記録の作成と適切な期間の保管 | 保存期間と閲覧権限を社内規程で確認する |
| 是正結果の通知 | 書面の内部公益通報の是正・対象事実なしは、業務や関係者の秘密等に支障のない範囲で通報者へ速やかに通知する(本人が望まない・匿名で困難な場合等は除く) | 調査資料をそのまま渡すこととは分ける |
| 教育・周知 | 派遣労働者を含む労働者、役員、退職後1年以内の退職者が対象。従事者の情報管理は特に十分に教育する | 窓口の連絡先だけでなく、仕組みも伝える |
| 点検・改善 | 内部公益通報対応体制を定期的に評価・点検し、必要に応じて改善する | 規程と実際の運用のずれも確かめる |
| 運用実績の開示 | 窓口の内部公益通報の運用実績概要を、業務や関係者の秘密等に支障のない範囲で、派遣労働者を含む労働者・役員へ開示する | 集計情報から通報者が特定されないよう配慮する |
人数による区分の根拠は公益通報者保護法11条です。指針は体制整備の具体的な内容を定めています。この人数区分は、通報者への不利益取扱いを認める線引きではありません。小規模な会社でも、社長や直属上司にしか連絡できない状態では、当人に関わる通報を受け止めにくくなります。
何が公益通報に当たるのか
公益通報に当たるかは、対象者・通報内容・目的・通報先を確かめて判断します。会社への不満には、この法律の公益通報に当たらないものもあります。単なる社内規則違反と、法の対象となる法令違反は区別が必要です。
現行法の対象者には、労働者、派遣労働者、一定の退職者、役員が含まれます。退職者等については、通報日前1年以内に使用されていた、派遣の役務を提供していた、契約先の事業に従事していたといった関係が対象です。
通報対象事実は、法の対象となる法律に規定された犯罪行為や過料の理由となる事実、そのような事実につながる処分の理由となる事実などです。不正の利益を得る目的や、他人に損害を加える目的などの不正の目的による通報は、この法律の公益通報に当たりません。
労働者が内部通報で保護されるには、通報対象事実が生じた、又はまさに生じようとしていると思って通報することが必要です。内部通報では、対象事実があると信じる相当の理由までを保護の条件として求めてはいません。
一方、行政機関や報道機関等への通報では保護条件が異なります。社内で通報してからでなければ外部通報が保護されない、という制度でもありません。詳しい条件は同法3条を確認します。
ハラスメント相談と同じ窓口にできるか
窓口を共通にする場合も、相談の名称だけで保護対象から外さず、内容で確認します。ハラスメント相談に法の対象となる違反の通報が含まれることもあれば、法定の公益通報には当たらない相談もあります。
受付時に法律上の区分が確定できなくても、まず情報の共有先を絞り、確認の担当者につなぐ運用にすると扱いやすくなります。これは受付の実務例であり、通報が法的保護を受けるかどうかの個別判断を省くものではありません。
窓口と従事者を決める
従事者の指定対象は、受付担当という肩書だけでは決まりません。調査・是正を担う他部門の担当者についても、指定の要否を確かめます。
指定は、書面で通知するなど、本人が従事者の地位に就いたと分かる方法で行います。外部委託先を従事者とする場合も同じです。指針解説は、本人に従事者の地位を明らかにする方法として、部署や役職等による指定も例示しています。
実務では、担当業務、取り扱う情報、共有できる相手、異動・退任時の引継ぎを指定の記録と一緒に確認します。これは指定や情報管理を実行するための整理例です。法律が統一の指定書様式を定めているという意味ではありません。
経営者や窓口担当者が通報対象の場合
幹部からの独立性と、調査担当者の利益相反を分けて確認します。事実確認を頼む相手と、調査の方針を決める相手を混同しないようにします。
例えば、経理責任者による不正を窓口が受け付けたとします。いつもの決裁だからとその責任者に通報メールを転送すると、利益相反と情報共有の問題が生じます。通常の報告経路を外す条件と代替の責任者を、内部規程で決めておく運用が考えられます。
通報者の秘密と不利益取扱いを防ぐ
従事者と元従事者は、対応業務で知った通報者を特定させる事項を、正当な理由なく漏らしてはいけません。同法12条の守秘義務は、担当を外れた後も続きます。
通報者の氏名を消すだけでは足りない場合があります。所属、担当業務、通報した経緯の組合せから、誰か分かることもあるためです。受付メールの宛先や添付資料の閲覧権限まで、共有の範囲を確かめます。
通報者の探索も防止する対象ですが、特定しなければ必要性の高い調査ができないなど、やむを得ない場合は現行指針に例外があります。
通報の後の人事処分をどう見るか
解雇の無効と、降格・減給・退職金の不支給などの不利益取扱いの禁止は、民間企業の労働者が保護要件を満たす公益通報をしたことを理由とする場合に適用されます。通報後に行う処分が、時系列だけで自動的に無効になるという説明とは区別します。
役員の保護は労働者と異なります。保護要件を満たす公益通報を理由とする報酬減額等が禁じられ、解任された場合には損害賠償を請求できる制度です。役員の解任まで労働者の解雇と同じ無効の扱いにしません。
通報者を保護する運用には、通報後の不利益取扱いの把握と、発生した場合の救済・回復も含まれます。受付担当だけで完結させず、人事措置を行う部署との連携方法を、情報の共有範囲に配慮して定めます。
受け付けてから調査・是正まで
内部公益通報を受け付けた後は、情報を管理しながら、正当な理由がある場合を除き必要な調査を行います。法令違反が明らかなら是正し、是正後はその効果も確認します。
匿名の内部公益通報も受け付ける
消費者庁の指針解説は、制度の実効性を確保するため、匿名の内部公益通報も受け付ける必要があるとしています。返信用の匿名メールアドレスなど、本人の氏名を知らなくても追加確認できる連絡手段が例示されています。
調査をしない正当な理由の例には、通報者と連絡が取れず事実確認が困難な場合があります。解決済みかは客観的に判断し、新情報・再発を慎重に確認します。
結果を知らせる範囲を決める
通知でどこまで伝えるかは、調査結果と共有範囲を分けて記録すると確認しやすくなります。
調査資料や関係者の供述をそのまま渡すことと、対応結果を通知することは別です。通知の担当者が、伝える内容と保護が必要な情報を分けて確認する運用が考えられます。
対応記録と規程の確認表
現行指針は、内部公益通報への対応記録を作成し、適切な期間保管することを求めています。この指針には共通の保存年数は示されていないため、会社の規程で保管期間やアクセス権限を定めます。
次は対応記録の項目例です。法定の様式ではなく、受付・調査・是正の経過を確認するための整理に使います。
| 記録する場面 | 記録項目の例 |
|---|---|
| 受付 | 受付経路、連絡方法、通報内容、共有を認める範囲についての意向 |
| 担当者の決定 | 責任者、従事者指定の確認、利益相反の確認、閲覧権限 |
| 調査 | 調査の範囲、確認資料、確認できた事実と未確認の点、不調査ならその理由 |
| 是正と通知 | 是正措置、担当部署、効果確認の方法、通報者への通知内容 |
| 事後の確認 | 再発の有無、不利益取扱いの有無、追加措置、制度の改善点 |
内部規程を配布した記録だけでなく、窓口の連絡方法や情報がどう扱われるかが伝わっているかを確かめます。
少人数の部署では集計情報から通報者が分かることもあるため、開示する粒度にも配慮します。
改正法の施行前に準備すること
令和8年12月1日施行の改正法に備え、会社は窓口の対象者、社内規程、従事者指定の運用を見直します。施行前の現行義務と区別し、具体的な変更点は消費者庁の改正概要で確認できます。
施行前の準備では、窓口の案内先や周知方法、通報を妨げる社内ルールの有無を点検する運用が考えられます。従事者の指定記録と実際の担当範囲が一致しているかも確認します。
適用対象や細かな要件は、施行時に改正後の条文・指針で確認する必要があります。施行前後には消費者庁の制度概要・法定指針で、現行版と改正版の区分を確認してください。
営業日計算機で社内の調査日程を整理するよくある質問
小規模な会社は通報者の保護をしなくてもよいですか?
いいえ。事業規模で努力義務になるのは従事者指定・体制整備です。保護要件を満たす公益通報を理由とする解雇や不利益取扱いを認める例外ではありません。
受付を外部委託すれば従事者の指定は不要ですか?
外部委託だけで指定の検討が不要になるわけではありません。指定の対象者は上の早見表で、担当業務と取り扱う情報から確認できます。委託先についても、従事者の地位が本人に明らかになる方法で指定します。
通報した人の氏名を消せば社内で共有できますか?
氏名を消すだけでは十分とは限りません。所属や経緯などで特定されることもあるため、通報者を特定させる事項は必要最小限の共有範囲で管理します。従事者・元従事者には、正当な理由のない漏えいを禁じる守秘義務があります。
調査で違反が見つからなければ労働者を処分できますか?
違反が確認できなかったという結果だけで、不正目的の通報と判断することはできません。民間企業の労働者による内部通報の保護は、対象事実が生じた、又はまさに生じようとしていると思うことなどが条件で、保護要件を満たす公益通報を理由とする不利益取扱いは禁止されます。
調査日程を営業日で整理する際は、休日を除く日数を確認できます。公益通報への対応期限を法律上の営業日数で計算するツールではありません。
出典
- e-Gov法令検索「公益通報者保護法」(定義、解雇の無効、不利益取扱いの禁止、事業者の措置、従事者の義務)
- 消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針」現行版
- 消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針の解説」現行版
- 消費者庁「改正概要(公益通報者保護法、法定指針)」
本ページは一般的な情報提供を目的としています。個別の税務・労務相談には応じられません。実際の対応や法的判断は、弁護士等の専門家や関係行政機関にご確認ください。