マイナ保険証とは何か — 健康保険法に「マイナ保険証」という言葉は一度も出てこない
結論から言うと、「マイナ保険証」は法律用語ではありません。健康保険法にも健康保険法施行規則にも、この言葉は一度も出てきません。e-Gov 法令API v2 で両方の全文を取得して数えると、いずれも0回です。「マイナンバーカード」という語も、法律の側には出てきません。
法律が定めているのは「電子資格確認」という仕組みで(健康保険法3条13項)、そこで送信されるのはカードそのものではなく、カードに記録された利用者証明用電子証明書です。マイナ保険証とは、この電子資格確認を受けられる状態にしたマイナンバーカードのことを指す通称にすぎません。厚生労働省の説明も「健康保険証の利用登録がされたマイナンバーカードのこと」です。
そして2026年8月現在、従来の健康保険証はもう使えません。2024年12月2日以降は新たに発行されず、有効期限は2025年12月1日で終了しました。期限切れに気付かず持参した場合に受け付けるという暫定対応も、2026年7月31日で終了しています。いま医療機関の窓口で通用するのは、マイナ保険証か資格確認書のどちらかだけです。この記事では、条文がどう組み替えられたのかと、会社の実務で何が変わり何が変わっていないのかを整理します。
法律上の名前は「電子資格確認」— 送っているのはカードではなく電子証明書
健康保険法3条は、この法律で使う言葉の定義を並べた条文です。その13項が電子資格確認を次のように定義しています。長い条文ですが、実務で効くのは真ん中あたりの一節です。
この法律において「電子資格確認」とは、保険医療機関等(第六十三条第三項各号に掲げる病院若しくは診療所又は薬局をいう。以下同じ。)から療養を受けようとする者又は第八十八条第一項に規定する指定訪問看護事業者から同項に規定する指定訪問看護を受けようとする者が、保険者に対し、個人番号カード(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成二十五年法律第二十七号)第二条第七項に規定する個人番号カードをいう。)に記録された利用者証明用電子証明書(電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(平成十四年法律第百五十三号)第二十二条第一項に規定する利用者証明用電子証明書をいう。)を送信する方法その他の厚生労働省令で定める方法により、被保険者又は被扶養者の資格に係る情報(保険給付に係る費用の請求に必要な情報を含む。)の照会を行い、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により、保険者から回答を受けて当該情報を当該保険医療機関等又は指定訪問看護事業者に提供し、当該保険医療機関等又は指定訪問看護事業者から被保険者又は被扶養者であることの確認を受けることをいう。
読みどころは、送信の対象が個人番号カードに記録された利用者証明用電子証明書だと名指しされている点です。条文が指しているのは、電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律22条1項の電子証明書であって、健康保険の資格情報そのものではありません。
もう1つ、条文から直接読み取れることがあります。送信されるのは電子証明書であって、診療の履歴や薬の情報ではありません。それらは照会に対して保険者から回答される情報および医療機関側の仕組みを通じて共有されるもので、カードに書き込まれているわけではないというのが、条文上の建て付けです。
原則と例外が入れ替わった — 資格確認書は「その他厚生労働省令で定める方法」の側
健康保険法63条は療養の給付を定める条文で、その3項が、窓口でどうやって被保険者だと確認してもらうかを書いています。
第一項の給付を受けようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる病院若しくは診療所又は薬局のうち、自己の選定するものから、電子資格確認その他厚生労働省令で定める方法(以下「電子資格確認等」という。)により、被保険者であることの確認を受け、同項の給付を受けるものとする。
先に来ているのが電子資格確認で、それ以外はその他厚生労働省令で定める方法としてまとめられています。かつてこの位置には被保険者証の提出が書かれていました。原則と例外が入れ替わったのは、この一文です。
では資格確認書の根拠はどこにあるのか。健康保険法51条の3第1項です。ところが、ここを読んでも「資格確認書」という言葉は出てきません。
被保険者又はその被扶養者が電子資格確認を受けることができない状況にあるときは、当該被保険者は、厚生労働省令で定めるところにより、保険者に対し、当該状況にある被保険者若しくはその被扶養者の資格に係る情報として厚生労働省令で定める事項を記載した書面の交付又は当該事項の電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって厚生労働省令で定めるものをいう。以下この条において同じ。)による提供を求めることができる。
条文が書いているのは「書面の交付」までで、その書面に名前は付いていません。資格確認書という名称を与えているのは施行規則47条の見出し以下であって、法律の側ではないのです。実際、健康保険法の全文を検索しても「資格確認書」は0回、施行規則では72回ヒットします。
保険証はいつ終わったのか — 2024年12月2日・2025年12月1日・2026年7月31日
切り替えの日付は3つあり、混同されがちです。順に押さえます。
① 2024年12月2日 — 新規発行の終了。改正を実施した令和6年8月30日厚生労働省令第119号の附則1条が、施行日をこの日と定めています。この日以降、健康保険証は新たに発行されなくなりました。
② 2025年12月1日 — 手元にある証の失効。同省令の附則2条が経過措置を置き、施行日に既に交付されていた被保険者証は、従前の効力の残り期間はそのまま使えるとしました。ただし上限があります。
当該期間の末日が施行日から起算して一年を経過する日の翌日以後であるときは、施行日から起算して一年間とする。
施行日から起算して1年ですから、上限は2025年12月1日です。有効期限が2027年と印字された証を持っていた人でも、そこで切れました。
③ 2026年7月31日 — 暫定対応の終了。厚生労働省は、有効期限切れに気付かず従来の健康保険証を持参した場合も利用可能としていましたが、同省の案内は「その対応も、2026年7月31日で終了します」と明記しています。この日をもって、紙の健康保険証にまつわる猶予はすべて無くなりました。
条文は「申請しなければならない」、運用は「申請によらず」
マイナ保険証を持たない人がどう受診するか。受け皿が資格確認書です。ここに、条文だけを読んでいると必ず引っかかる落差があります。施行規則47条1項は、こう書いています。
法第五十一条の三第一項の規定により同項に規定する書面の交付又は同項に規定する事項の電磁的方法による提供を求める被保険者(以下この条において「申請者」という。)は、次に掲げる事項を記載した申請書を保険者に提出して、その交付又は提供を申請しなければならない。
そして続く一文が、会社にとって重要です。
この場合において、当該申請書の提出は、申請者が任意継続被保険者である場合を除き、事業主を経由して行うものとする。
条文の建て付けは申請主義で、しかも申請書は事業主を経由して出すことになっています。ここだけ読むと、総務は全社員に交付申請の要否を確認し、申請書を集めて回らなければならないように見えます。
ところが実際の運用は違います。厚生労働省は、マイナンバーカードの健康保険証利用登録をしていない人などに対して、資格確認書が「無償で申請によらず交付されます」と説明しています。当分の間の取扱いとして、申請を待たずに保険者の側から交付する形が採られているためです。
資格確認書そのものの記載事項や有効期限、よく混同される「資格情報のお知らせ」との違いについては、資格確認書と資格情報のお知らせは何が違うかで扱っています。この記事では、以下、マイナ保険証の側から見た会社の実務に絞ります。
会社の実務で変わったこと・変わっていないこと
「保険証が無くなったので手続きが減った」と言われることがありますが、正確ではありません。減ったのは証の交付と回収だけで、届出そのものは何も変わっていません。
| 場面 | 従来 | 現在(マイナ保険証の社員) | 現在(資格確認書の社員) |
|---|---|---|---|
| 入社 | 資格取得届 + 保険証を受け取って本人へ交付 | 資格取得届のみ | 資格取得届。資格確認書は保険者から交付 |
| 退職 | 資格喪失届 + 保険証を回収して返納 | 資格喪失届のみ(回収する物が無い) | 資格喪失届 + 資格確認書を回収して返納 |
| 扶養家族の異動 | 異動届 + 該当者の保険証を回収 | 異動届のみ | 異動届 + 資格確認書を回収して返納 |
| 氏名の変更 | 変更届 + 保険証の書換え | 変更届のみ | 変更届 + 資格確認書を提出して訂正 |
回収と返納の根拠は施行規則51条1項です。
事業主は、次に掲げる場合においては、遅滞なく、資格確認書を回収して、これを保険者に返納しなければならない。
対象として挙げられているのは、資格の喪失・保険者の変更・被扶養者の異動・29条の2第1項の届出を行うときの4つです。任意継続被保険者だけは事業主を経由しません。
前項の場合において、被保険者が任意継続被保険者であるときは、当該被保険者は、五日以内に、これを保険者に返納しなければならない。
もう1つ、忘れられがちな条文があります。施行規則50条1項の検認・更新です。
保険者は、毎年一定の期日を定め、資格確認書の検認若しくは更新又は被扶養者に係る確認をすることができる。
同条2項以下は、保険者から求められたときに事業主が被保険者から資格確認書を集めて提出する義務を定めています。資格確認書は「渡して終わり」の書面ではなく、従来の保険証と同じように会社が預かって回す場面が残っているということです。
もう1つの有効期限 — 電子証明書が切れると保険証も止まる
紙の保険証には有効期限が印字されていました。マイナ保険証にはそれがありません。代わりに、カードに記録された利用者証明用電子証明書の有効期限が効いてきます。前掲の健康保険法3条13項が送信対象として名指ししているのが、まさにこの電子証明書だからです。証明書が失効すれば、電子資格確認は成立しません。
ただし即座に使えなくなるわけではありません。厚生労働省は、有効期限までに更新ができないまま受診しても、有効期限が切れてから3か月間は健康保険証として利用可能としています。一方で、期限が切れるとマイナンバーカードの健康保険証以外の機能は利用できなくなるため、速やかに市区町村の窓口で更新手続をするよう案内しています。
なお、窓口で何らかの事情によりマイナ保険証で受付ができなかった場合でも、他の方法で資格確認を行うため、自己負担が10割になるわけではなく、適切な自己負担割合で保険診療を受けられると厚生労働省は説明しています。
限度額適用認定証の経過措置は「保険証の寿命」に連動していた
健康保険証の廃止は、保険証だけの話では終わりませんでした。高齢受給者証・特定疾病療養受療証・限度額適用認定証・限度額適用標準負担額減額認定証も、同じ省令の附則5条で経過措置の対象になっています。そしてその期間の設定が独特です。
附則5条は、これらの証について「当該被保険者証が効力を有するとされた間は、なお従前の例による」と定めています。別の書面なのに、期限が保険証の寿命に紐づけられていたわけです。ただし、そこにはただし書きが付いています。
ただし、当該被保険者若しくはその被扶養者が電子資格確認を受けることができる状況にある場合又は第一条の規定による改正後の健康保険法施行規則第四十七条第二項に規定する資格確認書の交付又は提供を受けている場合は、この限りでない。
電子資格確認を受けられる状況にある人、または資格確認書の交付を受けている人は、この経過措置に乗れません。マイナ保険証を使える人ほど、先に新しい仕組みへ移されたという構造です。オンライン資格確認では限度額の情報が医療機関へ提供されるため、限度額適用認定証を別に申請する必要がなくなります。
高額療養費そのものの計算や、認定証が必要になる場面については高額療養費の記事で詳しく扱っています。
実務の落とし穴
① 「まだ保険証が使える」と思っている社員がいる。2025年12月1日の失効から、期限切れ持参の暫定対応終了(2026年7月31日)まで8か月の猶予があったため、その間に受診できてしまった人ほど気付いていません。この記事の時点で、猶予が終わってからまだ1か月足らずです。
② 施行規則47条だけを読んで申請書を配る。条文は申請主義ですが、運用は当分の間の職権交付です。保険者からの案内を確認せずに社内手続きを組むと、無い仕事を作ります。
③ 退職時の回収漏れ。資格確認書の交付を受けている社員からは回収と返納が必要で(施行規則51条1項)、マイナ保険証だけの社員からは不要です。同じ退職でも手順が分岐します。
④ 任意継続だけルートが違う。任意継続被保険者は事業主を経由せず、本人が5日以内に保険者へ返納します(同条2項)。退職者が任意継続に移った後の返納を会社が引き受けようとすると、かえって手続きが止まります。任意継続の記事もあわせて確認してください。
⑤ 電子証明書の期限切れ。保険証としての機能は失効から3か月は残りますが、その後は使えません。会社側からは見えない期限です。
⑥ 「資格情報のお知らせ」を保険証だと思っている。あの書面は資格情報を本人が確認するためのもので、それだけを提示して受診することはできません。詳しくは資格確認書と資格情報のお知らせの違いを参照してください。
よくある質問
Q. 「マイナ保険証」は法律上どう呼ばれていますか?
A. 法律に「マイナ保険証」という名前の制度はありません。健康保険法にも健康保険法施行規則にも、この語は一度も登場しません。法律が定めているのは健康保険法3条13項の「電子資格確認」で、保険医療機関等から療養を受けようとする者が、個人番号カードに記録された利用者証明用電子証明書を送信する方法などにより資格情報の照会を行い、保険者からの回答を医療機関へ提供して被保険者であることの確認を受ける仕組みを指します。マイナ保険証は、この電子資格確認を受けられる状態にしたマイナンバーカードの通称です。厚生労働省も「健康保険証の利用登録がされたマイナンバーカードのこと」と説明しています。
Q. 従来の健康保険証はもう使えないのですか?
A. 使えません。2024年12月2日以降は新規に発行されず、既に交付されていた証も令和6年8月30日厚生労働省令第119号の附則2条により最長で施行日から1年、すなわち2025年12月1日で効力を失いました。その後、有効期限切れに気付かず持参した場合は利用可能とする暫定対応が続いていましたが、厚生労働省の案内によれば、その対応も2026年7月31日で終了しています。したがって2026年8月現在、医療機関の窓口で提示できるのはマイナ保険証か資格確認書のどちらかです。
Q. マイナンバーカードを持っていない社員はどうなりますか?
A. 資格確認書が交付されます。根拠は健康保険法51条の3第1項で、条文自体は「電子資格確認を受けることができない状況にあるとき」に書面の交付を求めることができるという書き方をしており、「資格確認書」という名称は施行規則47条以下で与えられています。条文上は被保険者が申請する形ですが、厚生労働省は当分の間、マイナ保険証を保有していない方などに無償で申請によらず交付されると説明しています。会社としては、保険者から届く案内に従って対応することになります。
Q. 社員が退職するとき、会社は何を回収すればよいですか?
A. その社員が資格確認書の交付を受けている場合は、資格確認書を回収して保険者へ返納します。施行規則51条1項が、資格の喪失・保険者の変更・被扶養者の異動・29条の2第1項の届出を行うときの4つの場面で、事業主が遅滞なく回収して返納しなければならないと定めています。一方、マイナ保険証だけを使っている社員からは回収する物がありません。資格喪失届の提出義務はどちらの場合も変わりません。なお任意継続被保険者は事業主を経由せず、本人が5日以内に保険者へ返納します。
Q. マイナンバーカードの電子証明書が切れたらどうなりますか?
A. 電子資格確認は電子証明書の送信を前提とする仕組みなので、証明書が失効すると成立しなくなります。ただし厚生労働省は、有効期限までに更新ができないまま受診しても、有効期限が切れてから3か月間は健康保険証として利用可能としています。期限が切れるとマイナンバーカードの健康保険証以外の機能は利用できなくなるため、市区町村の窓口で速やかに更新手続をする必要があります。会社側からこの期限を把握する手段はないため、本人に確認を促す以外の管理方法はありません。
Q. 限度額適用認定証は今も必要ですか?
A. マイナ保険証を使って受診する場合は、原則として必要ありません。オンライン資格確認では限度額の情報も医療機関へ提供されるためです。令和6年8月30日厚生労働省令第119号の附則5条は、高齢受給者証・特定疾病療養受療証・限度額適用認定証などについて、被保険者証が効力を有するとされた間はなお従前の例によるという経過措置を置いたうえで、電子資格確認を受けることができる状況にある場合または資格確認書の交付もしくは提供を受けている場合はこの限りでないというただし書きを付けています。認定証が別に必要かどうかは、加入している保険者に確認するのが確実です。
Q. マイナ保険証で受付ができなかったら、医療費は全額自己負担になりますか?
A. なりません。厚生労働省は、医療機関・薬局で何らかの事情によりマイナ保険証で受付ができなくても、他の方法で資格確認を行うため、自己負担10割ではなく適切な自己負担割合で保険診療を受けられると説明しています。窓口で提示するものや受付できない場合の対応については、同省が資格確認方法に関する案内とリーフレットを公開しています。
出典
- e-Gov法令検索 健康保険法(大正十一年法律第七十号) — 第3条第13項(電子資格確認の定義)、第51条の3(資格に係る情報の提供等)、第63条第3項(療養の給付を受ける手続)、第85条・第85条の2・第86条・第88条(電子資格確認等による確認)
- e-Gov法令検索 健康保険法施行規則(大正十五年内務省令第三十六号) — 第47条(資格確認書の交付等)、第48条(資格確認書の訂正)、第49条(資格確認書の再交付)、第50条(資格確認書の検認又は更新等)、第50条の2(被保険者資格証明書)、第51条(資格確認書の返納)、第51条の3(資格情報通知書による通知)、および令和6年8月30日厚生労働省令第119号の附則第1条・第2条・第4条・第5条
- 厚生労働省 マイナンバーカードの健康保険証利用(マイナ保険証)について — 従来の健康保険証の取扱い、資格確認書の交付、電子証明書の有効期限、受付ができない場合の対応
条文はいずれも e-Gov 法令API v2 で全文を取得し、引用は原文と逐語で照合しています。「マイナ保険証」「マイナンバーカード」「資格確認書」「被保険者証」の出現回数は、取得した法令全文に対する機械的な計数によります。運用上の取扱い(申請によらない交付、暫定対応の終了日、電子証明書失効後3か月の取扱い)は厚生労働省の公表資料によるもので、今後変更される可能性があります。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は加入している健康保険の保険者(全国健康保険協会・健康保険組合)・社会保険労務士にご確認ください。