内定の取消しと辞退 — 「内定期間」は法令用語。取り消す側は解雇と同じ規制、辞める側は2週間
結論から言うと、採用内定は、労働契約が成立したと見られる場合があります。そう見られる以上、会社の側から取り消すことは解雇と同じ規制の中に入ります(労働契約法16条)。逆に本人の側から辞退するときは、期間の定めのない雇用の解約の申入れとして、申入れの日から2週間で終了します(民法627条1項)。同じ「内定を白紙に戻す」でも、どちら向きかで根拠条文がまったく違います。
そして、新規学校卒業者の内定を取り消す会社には、労働法とは別系統の義務がもう1本かかります。あらかじめハローワークと学校へ通知することです(職業安定法施行規則35条2項2号)。これは取消しだけの話ではなく、募集の中止・募集人員の削減・内定期間の延長も同じ条文の通知対象になっています。
- 内定は労働契約が成立したと見られる場合がある。労働契約法6条は、合意だけで労働契約が成立すると書いている(書面も就労開始も要件ではない)
- 会社からの取消しは解雇と同じ枠。客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当でなければ無効(労働契約法16条)。30日前の予告か30日分以上の平均賃金も要る(労働基準法20条1項)
- 「内定期間」は法令用語。職業安定法施行規則35条2項2号のかっこ書きが定義している
- 通知が要る場面は3つ。①募集の中止・人員削減 ②内定の取消し・撤回 ③内定期間の延長(同項1号〜3号)。宛先はハローワークと学校の両方、タイミングはあらかじめ
- 公表される道がある。厚生労働大臣は通知内容を公表でき、公表されるとハローワークが学校へ内容を提供する(同規則17条の4)
- 入社日を後ろ倒しにするなら休業手当の話になる。会社都合の休業は平均賃金の60%以上(労働基準法26条)
- 辞退は2週間。民法627条1項。会社の承諾は要件になっていない
この記事のいちばん踏み込んだところは、内定に関する会社の義務が、労働法ではなく「雇入方法等の指導」という一般的な行政指導の条文にぶら下がっているという点です。職業安定法54条は、厚生労働大臣が工場事業場等を指導することができる、としか書いていません。内定取消しの通知義務は、その法律ではなく、その条を受けた省令の中にあります。条番号を追って法律だけを読んでも、この義務には到達できません。
内定はいつ契約になるのか — 労働契約法6条は「合意」しか要求していない
「まだ入社していないのだから契約ではない」という感覚は、条文の作りとは合いません。労働契約法6条は次の一文です。
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
成立の要件として書かれているのは「合意」だけです。書面を交わすことも、実際に働き始めることも、賃金を1円でも払うことも、条文には出てきません。だから、募集に応じた人が応募し、会社が採用内定を通知し、本人が入社の意思を示した、という往復があれば、そこで合意が成立したと見られる場面が出てきます。
厚生労働省も、事業主向けの整理としてこの見方を示しています。「新規学校卒業者の採用に関する指針」を紹介した同省の資料は、採用内定の時点で労働契約が成立したと見られる場合には、採用内定取消しは労働契約の解除に相当し、解雇の場合と同様、合理的理由がない場合には取消しが無効とされる、として、事業主に十分留意するよう求めています。
労働契約法6条が要求しているのは合意であって、書面ではありません。逆に、労働基準法15条1項は労働条件の明示を義務づけており、賃金や労働時間などについては厚生労働省令で定める方法によることまで求めています。書面を出していないことは、契約が無いことの証明ではなく、明示義務を果たしていないことの証明になりかねません。
「内定期間」は法令に定義がある
実務で何気なく使う「内定期間」は、実は法令用語です。定義しているのは職業安定法施行規則35条2項2号で、次のように書かれています。
新規学卒者の卒業後当該新規学卒者を労働させ、賃金を支払う旨を約し、又は通知した後、当該新規学卒者が就業を開始することを予定する日までの間(次号において「内定期間」という。)に、これを取り消し、又は撤回するとき。
読み解くと、内定期間の始まりは「労働させ、賃金を支払う旨を約し、又は通知した」時点です。約束(合意)だけでなく、一方的な通知でも始まります。そして終わりは「就業を開始することを予定する日」です。つまり、内定式でも入社式でもなく、賃金を払う旨を伝えた日から、予定していた入社日の前日までが内定期間ということになります。
通知が要る3つの場面 — 取消しだけではない
同じ35条2項の柱書は、通知の相手と時期を次のように定めています。
学校(小学校(義務教育学校の前期課程及び特別支援学校の小学部を含む。)及び幼稚園(特別支援学校の幼稚部を含む。)を除く。)、専修学校、職業能力開発促進法第十五条の七第一項各号に掲げる施設又は職業能力開発総合大学校(以下この条において「施設」と総称する。)を新たに卒業しようとする者(以下この項において「新規学卒者」という。)を雇い入れようとする者は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、あらかじめ、公共職業安定所及び施設の長(業務分担学校長及び法第三十三条の二第一項の規定により届出をして職業紹介事業を行う者に限る。)に人材開発統括官が定める様式によりその旨を通知するものとする。
読むべき語が3つあります。「あらかじめ」(事後報告ではない)、「公共職業安定所及び施設の長」(ハローワークと学校の両方であって、片方ではない)、「人材開発統括官が定める様式により」(自由な書面ではなく所定の様式がある)です。
そして、この通知が必要になる場面は3つあります。
| 号 | 場面 | 時期の目安 |
|---|---|---|
| 1号 | 募集を中止し、又は募集人員を減ずるとき(厚生労働大臣が定める新規学卒者について人員を減ずる場合は、厚生労働大臣が定める場合に限る) | 内定を出す前の段階 |
| 2号 | 内定期間に、これを取り消し、又は撤回するとき | 内定期間中 |
| 3号 | 内定期間を延長しようとするとき | 内定期間中 |
ここで見落とされやすいのが3号です。入社日を「4月1日から7月1日に変更したい」というのは、感覚としては取消しより軽い話に見えます。しかし条文の上では、取消し(2号)と並んで同じ通知義務の対象に置かれています。「取り消したわけではないから通知は要らない」という整理は、条文と合いません。
通知を受けたあとの流れも書かれています。同条3項は、公共職業安定所長が通知の内容を都道府県労働局長を経て厚生労働大臣に報告しなければならないとしています。「ものとする」ではなく「しなければならない」で、ハローワーク止まりにはなりません。
企業名が公表される道 — 施行規則17条の4
厚生労働大臣に上がった報告は、そこで終わりません。同じ施行規則の17条の4第1項が、公表の根拠になっています。
厚生労働大臣は、第三十五条第三項の規定により報告された同条第二項(第二号に係る部分に限る。)の規定による取り消し、又は撤回する旨の通知の内容(当該取消し又は撤回の対象となつた者の責めに帰すべき理由によるものを除く。)が、厚生労働大臣が定める場合に該当するとき(倒産(雇用保険法第二十三条第二項第一号に規定する倒産をいう。)により第三十五条第二項に規定する新規学卒者に係る翌年度の募集又は採用が行われないことが確実な場合を除く。)は、学生生徒等の適切な職業選択に資するよう学生生徒等に当該報告の内容を提供するため、当該内容を公表することができる。
この一文には、公表の範囲を狭める限定が3つ折り込まれています。
- 対象は2号だけ — 「同条第二項(第二号に係る部分に限る。)」とあるので、公表の入口になるのは取消し・撤回だけです。募集の中止(1号)や内定期間の延長(3号)は、通知の対象ではあっても公表の対象としては書かれていません
- 本人に責めがある場合は除く — 「当該取消し又は撤回の対象となつた者の責めに帰すべき理由によるものを除く」
- 倒産で翌年度の募集・採用が行われないことが確実な場合は除く — 公表の目的が「学生生徒等の適切な職業選択に資するよう」情報を提供することなので、来年もう募集しない会社を公表しても学生の役に立たない、という筋が通っています
そして「厚生労働大臣が定める場合に該当するとき」という一句が残ります。この中身は条文の本文には無く、告示に委ねられています。職業安定法を読み、施行規則を読み、17条の4までたどり着いても、「どういうときに公表されるのか」という肝心の基準そのものには、条文だけを追っても到達できません。この記事でその基準の中身を書いていないのは、条文で確かめられる範囲を超えるからです。
公表されたあとの動きも書かれています。
公共職業安定所は、前項の規定による公表が行われたときは、その管轄区域内にある適当と認める学校に、当該公表の内容を提供するものとする。
公表は「官報や役所のサイトに載って終わり」ではなく、ハローワークが学校へ届けるところまでが制度に組み込まれています。翌年以降の採用活動に効いてくるのは、むしろこちらです。
取り消す側にかかる規制 — 労働契約法16条と労働基準法20条
ここまでは職業安定法の系統の話でした。労働法の系統では、内定が労働契約であると見られる以上、取消しは解雇にあたるという整理になります。効いてくる条文は2本です。
1本目は、解雇の有効性を判定する労働契約法16条です。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
効果が「無効」である点が実務では重い意味を持ちます。無効なら契約は続いているので、取り消したはずの人が労働者のままだったということになり、その間の賃金の問題が残ります。金銭を払えば清算できる話とは限りません。
2本目は、手続を定める労働基準法20条1項です。
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
この条には適用除外があり、労働基準法21条が4つの類型を並べています。日日雇い入れられる者・2箇月以内の期間を定めて使用される者・季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者・試の使用期間中の者の4つです。4号の「試の使用期間中の者」は、試用期間を勤め始めた人のことなので、まだ就業を開始していない内定者は、ここには当たらないと整理するのが一般的です。「試用期間中は14日まで予告が要らない」という知識をそのまま内定に持ち込むと、前提の異なる話になります。
職業安定法施行規則の通知義務(新規学卒者のとき)、労働契約法16条の有効性、労働基準法20条の予告は、互いに代わりになりません。ハローワークへ通知したから取消しが有効になるわけではなく、予告手当を払ったから通知が不要になるわけでもありません。3つとも別に確認する必要があります。
入社日を後ろ倒しにするとき — そこから先は休業手当の話
取り消すのではなく、入社日を遅らせる。この選択は、内定者にとっては雇用が残る分だけましに見えますし、会社にとっても穏当な手段に見えます。ただし、条文の上では2つの義務が同時に立ちます。
1つは、すでに見た職業安定法施行規則35条2項3号の通知です。内定期間を延長しようとするときも、あらかじめハローワークと学校へ通知することになります。
もう1つが、労働基準法26条です。
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
労働契約が成立していると見られるなら、予定していた入社日を過ぎてから会社の都合で就労させない期間は、休業として扱う余地が出てきます。厚生労働省の事業主向けの整理も、入職時期の繰下げを検討するときに解雇予告(労働基準法20条)と休業手当(同26条)に抵触することのないよう十分留意するよう求めています。
ここは金額に直結する分かれ目です。数字を並べてみます。所定の賃金が月25万円で、平均賃金が日額8,300円と算定されたとして、当初の入社日が4月1日、繰下げ後が6月1日だった場合を考えます。4月1日から5月31日までの間、就労させないのが会社の都合であれば、その期間の労働日について平均賃金の60%以上が問題になります。1か月の労働日を20日とすれば、8,300円 × 60% × 20日 × 2か月 = 199,200円です。「まだ入社していないのだから払うものは無い」という前提で予算を組むと、この金額が丸ごと抜け落ちます。
平均賃金は労働基準法12条の定義に従って算定します。入社前で支払実績が無い場合の算定は簡単ではなく、個別の事情によります。上の数字は計算の構造を示すための設例で、実額の目安ではありません。
30日前の予告と、2週間の経過を実際の日付で数える(営業日・期限計算ツール)辞退する側 — 民法627条1項の2週間
向きが逆になると、根拠条文も変わります。本人からの内定辞退は、期間の定めのない雇用の解約の申入れとして扱われます。民法627条1項です。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
この条文で確認しておきたいのは「各当事者は、いつでも」という書き方です。相手方の承諾は要件になっていません。会社が「認めない」と言っても、申入れから2週間で終了するという効果は条文から出ます。実務でしばしば語られる「辞退は認められない」という言い方は、この条文の構造とは合いません。
ただし、会社と本人では条件が対称ではありません。同じ627条1項を根拠にできるのは本人の側だけで、会社の側は労働契約法16条と労働基準法20条という別の網が上からかぶさります。2週間で辞められる関係は、2週間で辞めさせられる関係ではありません。
| 会社から(取消し) | 本人から(辞退) | |
|---|---|---|
| 根拠 | 解雇として扱われる(労働契約法16条) | 解約の申入れ(民法627条1項) |
| 要件 | 客観的に合理的な理由+社会通念上の相当性 | 条文上は要件が置かれていない |
| 予告 | 30日前の予告か30日分以上の平均賃金(労働基準法20条1項) | 申入れの日から2週間の経過(民法627条1項) |
| 行政への通知 | 新規学卒者ならハローワークと学校へ、あらかじめ(職業安定法施行規則35条2項2号) | 条文上の義務は置かれていない |
| 公表 | 取消し・撤回は公表されうる(同17条の4第1項) | 公表の枠組みは無い |
中途採用の内定取消しは、この通知義務の外にある
ここまで見てきた職業安定法施行規則35条2項の通知義務は、条文の柱書が「新たに卒業しようとする者」を対象にしています。中途採用の内定取消しは、この通知義務の対象として書かれていません。17条の4の公表も、35条3項の報告を入口にしている以上、同じ範囲の外です。
ただし、外れるのは職業安定法の系統だけです。労働契約法16条にも労働基準法20条にも「新規学卒者に限る」という限定はありません。中途採用でも、内定が労働契約であると見られるなら、取消しは解雇と同じ枠の中で判断されます。「学生ではないから自由に取り消せる」という理解は、外れている条文と外れていない条文を取り違えたものです。
むしろ中途採用のほうが、実務上は不利になりうる要素があります。在職中の会社を退職して入社を待っている人のケースでは、取消しによって失われるものが具体的に存在します。労働基準法15条2項が、明示された労働条件が事実と相違する場合に労働者が即時に労働契約を解除できるとし、同3項が、就業のために住居を変更した労働者が契約解除の日から14日以内に帰郷する場合の旅費を使用者に負担させているのも、採用をきっかけに生活を動かしてしまった人を想定した規定です。
採用日程のルール — 正式な内定日は10月1日以降
新規学卒者の採用は、法令とは別に、開始時期の申し合わせがあります。大学等の卒業予定者については、広報活動は卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降、採用選考活動は卒業・修了年度の6月1日以降、正式な内定日は卒業・修了年度の10月1日以降とされています。
| 段階 | 開始時期(大学等卒業予定者) |
|---|---|
| 広報活動 | 卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降 |
| 採用選考活動 | 卒業・修了年度の6月1日以降 |
| 正式な内定日 | 卒業・修了年度の10月1日以降 |
| ハローワークでの求人の受理開始 | 卒業・修了年度に入る直前の2月1日以降 |
| ハローワークでの求人の公開 | 卒業・修了年度の4月1日以降 |
ここで注意したいのが、「正式な内定日は10月1日以降」は、内定期間が10月1日に始まるという意味ではないということです。内定期間の始まりを決めているのは、繰り返しになりますが、労働させ賃金を支払う旨を約し、又は通知した時点です(施行規則35条2項2号)。10月1日より前に事実上その内容を伝えていれば、日程の申し合わせがどうであれ、条文が定義する内定期間はそこから始まっていると読むのが自然です。
高等学校卒業予定者の日程は都道府県ごとの申し合わせで決まります。東京都の例では、令和9年3月卒業予定者について、推薦開始が9月5日以降、選考活動開始が9月16日以降、一人2社までの複数応募開始が10月1日以降とされています。都道府県で異なるので、自社の所在地の労働局の公表内容を確認してください。
まとめ
- 労働契約法6条が成立の要件として書いているのは合意だけ。書面も就労開始も条文には無い
- だから会社からの取消しは解雇と同じ枠に入る。合理的理由と相当性を欠けば無効(労働契約法16条)、手続として30日前の予告か30日分以上の平均賃金(労働基準法20条1項)
- 「内定期間」は職業安定法施行規則35条2項2号のかっこ書きが定義する法令用語。始まりは賃金を払う旨を約し又は通知した時点、終わりは就業開始の予定日
- 新規学卒者について通知が要るのは3場面(募集の中止・人員減/取消し・撤回/内定期間の延長)。宛先はハローワークと学校の両方、時期はあらかじめ、様式は所定のもの
- 報告は都道府県労働局長を経て厚生労働大臣へ上がり、取消し・撤回については公表されうる。公表されるとハローワークが学校へ内容を提供する(同17条の4)
- 入社日の後ろ倒しは、通知(3号)と休業手当(労働基準法26条・平均賃金の60%以上)の2つが同時に立つ
- 本人からの辞退は民法627条1項で、申入れの日から2週間。会社の承諾は条文上の要件ではない
- 中途採用は職業安定法の通知義務の外だが、労働契約法16条と労働基準法20条の外ではない
よくある質問
Q. 内定を出しただけで、労働契約が成立しているのですか?
A. 労働契約法6条は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって労働契約が成立する、と定めています。成立の要件として条文に書かれているのは合意だけで、書面の作成も、実際に働き始めることも、要件にはなっていません。したがって、会社が採用内定を通知し、本人が入社の意思を示していれば、労働契約が成立したと見られる場合があります。厚生労働省も事業主向けの整理として、採用内定の時点で労働契約が成立したと見られる場合には、採用内定取消しは労働契約の解除に相当し、解雇の場合と同様、合理的理由がない場合には取消しが無効とされる、として留意を求めています。成立しているかどうかは、通知の文言や、そこまでのやり取りの内容といった個別の事情によります。
Q. 新規学卒者の内定を取り消すとき、どこに何を届け出るのですか?
A. 職業安定法施行規則35条2項が、あらかじめ、公共職業安定所と施設の長の両方に、人材開発統括官が定める様式で通知するものと定めています。条文でいう施設の長には、業務分担学校長と、職業安定法33条の2第1項の規定により届出をして職業紹介事業を行う者に限る、というかっこ書きが付いています。宛先はハローワークと学校の両方で、片方だけでは条文の求めるところを満たしません。タイミングは「あらかじめ」なので、取り消してから報告するのではなく、取り消す前に通知することになります。同項が通知の対象としているのは3つの場面で、1号が募集の中止または募集人員の削減、2号が内定期間中の取消しまたは撤回、3号が内定期間を延長しようとするときです。取消しだけでなく、入社日の後ろ倒しも同じ通知の対象である点は見落とされやすいところです。通知を受けた公共職業安定所長は、その内容を都道府県労働局長を経て厚生労働大臣に報告しなければならないとされています。
Q. 内定を取り消すと会社名が公表されるというのは本当ですか?
A. 公表できるという規定は実在します。職業安定法施行規則17条の4第1項が、厚生労働大臣は報告された取消しまたは撤回の通知の内容が厚生労働大臣が定める場合に該当するときは、学生生徒等の適切な職業選択に資するよう学生生徒等に当該報告の内容を提供するため、当該内容を公表することができる、としています。ただし条文には3つの限定があります。第一に公表の入口になるのは35条2項2号の取消し・撤回だけで、募集の中止や内定期間の延長は書かれていません。第二に取消しの対象となった者の責めに帰すべき理由によるものは除かれます。第三に倒産により翌年度の募集または採用が行われないことが確実な場合も除かれます。なお、どういう場合に公表するかという基準そのものは条文の本文ではなく告示に委ねられており、法令の条文を追うだけでは中身に到達できません。公表が行われたときは、公共職業安定所がその管轄区域内にある適当と認める学校に、公表の内容を提供するものとされています。
Q. 内定を取り消さずに入社日を遅らせる場合も、何か義務がありますか?
A. 一般に2つの義務が同時に立ちます。1つは職業安定法施行規則35条2項3号の通知で、新規学卒者について内定期間を延長しようとするときは、取消しの場合と同じく、あらかじめハローワークと学校へ通知することになります。もう1つは労働基準法26条の休業手当です。同条は、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない、と定めています。労働契約が成立していると見られるなら、当初予定していた入社日を過ぎてから会社の都合で就労させない期間について、休業として扱う余地が出てきます。厚生労働省の事業主向けの整理も、入職時期の繰下げを検討する場合には解雇予告を定めた労働基準法20条と休業手当を定めた同法26条等の関係法令に抵触することのないよう十分留意するよう求めています。
Q. 内定を辞退したいのですが、何日前までに伝えればよいですか?
A. 民法627条1項が、当事者が雇用の期間を定めなかったときは各当事者はいつでも解約の申入れをすることができ、雇用は解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する、と定めています。したがって一般には、申入れの日から2週間を経過すれば終了することになります。条文が「各当事者は、いつでも」と書いているとおり、相手方の承諾は効果の発生要件として置かれていません。ただし、内定期間中に辞退を申し出た場合の具体的な扱いや、会社が支出した費用の負担をめぐる争いについては、個別の事情によります。就業を開始する予定日が近いほど会社側の準備も進んでいるので、実務としては早く伝えるほど摩擦が小さくなります。
Q. 中途採用の内定なら、自由に取り消せますか?
A. いいえ。職業安定法施行規則35条2項の通知義務は柱書が新たに卒業しようとする者を対象にしているので、中途採用はその通知義務の対象としては書かれていません。同17条の4の公表も、35条3項の報告を入口にしているので同じ範囲の外です。しかし、労働契約法16条にも労働基準法20条にも新規学卒者に限るという限定はありません。中途採用でも内定が労働契約であると見られるなら、取消しは解雇と同じ枠の中で判断され、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合は無効になります。予告についても、少なくとも30日前の予告か30日分以上の平均賃金の支払いが問題になります。外れているのは職業安定法の系統だけで、労働法の系統は外れていません。
Q. 「正式な内定日は10月1日以降」なら、内定期間も10月1日から始まりますか?
A. 別の話です。大学等の卒業予定者について、広報活動は卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降、採用選考活動は卒業・修了年度の6月1日以降、正式な内定日は卒業・修了年度の10月1日以降とされていますが、これは採用活動の開始時期に関する取り決めです。一方、内定期間の始まりを決めているのは職業安定法施行規則35条2項2号で、新規学卒者の卒業後にその者を労働させ賃金を支払う旨を約し、又は通知した後から、就業を開始することを予定する日までの間、と書かれています。約束だけでなく一方的な通知でも始まる書き方になっているので、10月1日より前に事実上その内容を伝えていれば、日程の取り決めがどうであれ、条文が定義する内定期間はその時点から始まっていると読むのが自然です。
関連する記事
出典
- e-Gov法令検索「職業安定法」(昭和二十二年法律第百四十一号)第5条の3(労働条件等の明示)、第54条(雇入方法等の指導)。法令API v2 で条単位に取得
- e-Gov法令検索「職業安定法施行規則」(昭和二十二年労働省令第十二号)第17条の4(公表と学校への提供)、第35条(法第五十四条に関する事項。2項の柱書と1号〜3号、3項の報告)。法令API v2(law_revision_id: 322M40002000012_20260401_508M60000100060)で条単位に取得
- e-Gov法令検索「労働契約法」(平成十九年法律第百二十八号)第6条(労働契約の成立)、第16条(解雇)。法令API v2 で条単位に取得
- e-Gov法令検索「労働基準法」(昭和二十二年法律第四十九号)第15条(労働条件の明示)、第20条(解雇の予告)、第21条(適用除外の4類型)、第26条(休業手当)。法令API v2 で条単位に取得
- e-Gov法令検索「民法」(明治二十九年法律第八十九号)第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)、第628条(やむを得ない事由による雇用の解除)。法令API v2 で条単位に取得
- 厚生労働省 政策レポート「新規学校卒業者の採用内定取消しへの対応について」。「新規学校卒業者の採用に関する指針」の内容として、採用内定の時点で労働契約が成立したと見られる場合には採用内定取消しは労働契約の解除に相当すること、入職時期繰下げを検討する場合には労働基準法20条・26条等に抵触しないよう留意することが示されています
- 東京労働局「新規学校卒業者の採用について」。大学等卒業予定者の広報活動・採用選考活動・正式な内定日の開始時期、ハローワークにおける求人の受理開始・公開の時期、および東京都における令和9年3月高等学校卒業予定者の推薦・選考・複数応募の開始期日を確認
この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案についての助言ではありません。個々の内定について労働契約が成立していると見られるか、取消しに客観的に合理的な理由があるか、休業手当の要否や平均賃金の算定については、管轄の労働基準監督署、公共職業安定所(ハローワーク)、または社会保険労務士・弁護士にご確認ください。