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年俸制でも残業代は出る|割増賃金の単価と、分割回数で変わる社会保険料

結論から言うと、年俸制でも時間外・休日・深夜の割増賃金は支払う必要があります。労働基準法に「年俸制」という制度は存在しません。年俸制は賃金の決め方と支払い方の取り決めであって、労働時間の規制を外す仕組みではないからです。年俸額を決めた時点で残業代も込みになる、ということは条文のどこにも書かれていません。

経理の現場で実際に迷うのは「出るか出ないか」ではなく、1時間あたりの単価をいくらで計算するかです。年俸を16分割して2回を賞与として払っている場合、確定した賞与部分も単価に含めます。誤って除外すると不足が生じます。年俸600万円・月平均所定労働時間160時間・月20時間の残業という条件では、その差は月19,531.25円、年間234,375円になります。

もう一つ、年俸制に固有の論点があります。年俸を何回に分けて払うかで、社会保険上の扱いが「賞与」から「報酬」に変わることです。境界は健康保険法3条が定めており、年3回以下の賞与と、規程等で年4回以上支給する賞与は扱いが異なるということです。その年限りの臨時支給には例外があります。賞与の回数を増やしただけのつもりが、届出も保険料の計算方法も変わります。この記事では、この2つを条文で確認します。

労働基準法に「年俸制」という制度はない

労働基準法を通して読んでも「年俸制」という語は出てきません。あるのは、賃金をどう支払うかの原則(24条)と、法定労働時間を超えて働かせたときに割増賃金を支払う義務(37条)です。年俸制は、この枠組みの中で賃金額を年単位で決め、それを分割して毎月支払っている状態にすぎません。

したがって、年俸制を採用しても次の4つはそのまま残ります。労働基準法37条が定める割増賃金の率です。

種類率根拠
時間外労働2割5分以上5割以下の範囲で政令が定める率以上(現行の政令は2割5分)労基法37条1項
休日労働3割5分以上(政令)労基法37条1項
1か月60時間を超える時間外労働5割以上労基法37条1項ただし書
深夜労働(原則22時〜翌5時)2割5分以上労基法37条4項

「年俸に残業代を含む」という定めを置くこと自体は否定されていませんが、その場合は年俸のうちいくらが割増賃金にあたるのかが金額として区分されていること、そして実際の残業がその金額に対応する時間を超えたときは差額を支払うことが前提になります。年俸額を1本で決めているだけでは、どこまでが割増賃金なのかを誰も計算できないため、区分されているとは言えません。

年俸制と管理監督者は別の話

年俸制の社員に残業代を払っていない運用の多くは、実は「管理監督者だから払っていない」という説明とセットになっています。しかしこの2つは無関係です。管理監督者(労基法41条2号)に当たれば時間外・休日の割増賃金は不要になりますが、深夜の割増賃金は管理監督者でも必要です。年俸制であることは、管理監督者かどうかの判断に影響しません。

1時間あたりの単価 — 確定賞与を外すと年約23万円不足

割増賃金は「通常の労働時間の賃金の計算額」に率を掛けて計算します。月給制であれば、月給を1か月平均所定労働時間で割って1時間あたりの単価を出します。年俸制でも考え方は同じですが、年俸を16分割している場合に、賞与として払う2回分を分子に入れるかどうかで答えが変わります。

年俸600万円を16分割し、毎月375,000円を12回、賞与として750,000円を2回支払っている例で計算します。1か月平均所定労働時間は160時間とします。

単価の出し方分子(年額)1か月あたり1時間あたり
誤って確定賞与を除外4,500,000円375,000円2,343.75円
年俸の全額で計算6,000,000円500,000円3,125円
差1,500,000円125,000円781.25円

1時間あたり781.25円の差は、時間外労働(1.25倍)を月20時間したとすると 781.25 × 1.25 × 20 = 19,531.25円です。12か月では 234,375円。確定年俸から賞与部分を除外すると、この額が不足します。

年俸 6,000,000円 を16分割 毎月 375,000円 × 12回 = 4,500,000円 賞与 750,000円 × 2回 A. 誤って確定賞与を除外 4,500,000 ÷ 12 ÷ 160 = 2,343.75円/時 B. 年俸の全額で計算 6,000,000 ÷ 12 ÷ 160 = 3,125円/時 差 781.25円/時 → 月20時間の時間外で 月19,531.25円・年234,375円
確定賞与の誤った除外により、1時間あたり781.25円の不足が生じる例。

この例では、賞与部分も含めた年俸600万円を算定基礎とするのが正しい扱いです。厚生労働省の通達(平成12年3月8日基収78号)は、確定年俸の賞与部分は「臨時に支払われた賃金」「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」のいずれにも該当せず、割増賃金の算定基礎から除外できないとしています。

実務では、自社が確定賞与を誤って除外していないかを確認します。給与規程に年俸の内訳(月額部分と賞与部分)が書かれているか、割増賃金の単価の算式が書かれているかを見れば分かります。給与ソフトの設定も、確定賞与を含める取扱いと一致しているか確認します。

単価から外せる賃金は7つだけ(限定列挙)

労働基準法37条5項は「第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない」と定めています。そして労働基準法施行規則21条が、その「厚生労働省令で定める賃金」を次のように列挙しています。

#外せる賃金根拠
1家族手当労基法37条5項
2通勤手当労基法37条5項
3別居手当労基則21条1号
4子女教育手当労基則21条2号
5住宅手当労基則21条3号
6臨時に支払われた賃金労基則21条4号
71か月を超える期間ごとに支払われる賃金労基則21条5号

条文は「家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は……算入しない」という書き方をしています。これは限定列挙で、ここに無い手当は外せません。役職手当・資格手当・精勤手当・営業手当といった名前の手当は、この7つのどれにも当たらないので、単価の分子に入れることになります。

名前ではなく中身で判断する

「家族手当」という名前でも、扶養家族の有無や人数に関係なく全員に一律で支給していれば、家族手当として外すことはできないと一般に解されています。逆に「調整手当」という名前でも、扶養家族の人数に応じて支給していれば家族手当にあたります。住宅手当も同様で、住宅費用に応じて変動するものか、全員一律かで扱いが分かれます。給与明細の項目名を並べて「この7つに当たるか」を1つずつ確かめるのが確実です。

分割回数で「賞与」が「報酬」になる — 境界は3か月

ここからは社会保険の話です。年俸制では「年俸を何回に分けて払うか」を自由に決められますが、健康保険法3条が定める境界をまたぐと、社会保険上の扱いが変わります。

健康保険法3条5項は「報酬」を、労働の対償として受けるすべてのものと定義したうえで、「臨時に受けるもの及び三月を超える期間ごとに受けるものは、この限りでない」として除いています。そして同条6項が「賞与」を、労働の対償として受けるもののうち「三月を超える期間ごとに受けるもの」と定義しています。つまり、報酬と賞与を分ける唯一の物差しは支給の間隔が3か月を超えるかどうかです。

年俸の分け方支給の間隔3か月を超えるか社会保険上の扱い
賞与 年2回(夏・冬)6か月超える賞与(標準賞与額)
賞与 年3回4か月超える賞与(標準賞与額)
賞与 規程等で年4回(四半期ごと)3か月超えない報酬(標準報酬月額)
年俸を12分割のみ1か月超えない報酬(標準報酬月額)

規程等で年4回以上の賞与支給を定めている場合は、賞与を報酬に含めて算定します。ただし、その年限りの臨時の支給で翌年以降の支払いが未定なら、年間の賞与支給回数に含めず、賞与支払届で届け出ます。

年俸を分割して支給する 支給の間隔は3か月を超えるか 超える 賞与 年3回以下 超えない 報酬 規程等で年4回以上
健康保険法3条5項・6項。報酬と賞与を分ける物差しは支給の間隔だけで、名称は関係しない。

標準賞与額の上限は健保と厚年で違う

賞与として扱われる場合、保険料の対象になるのは「標準賞与額」です。この上限が健康保険と厚生年金保険で違います。年俸のうち賞与部分が大きい設計では、ここで差が出ます。

標準賞与額の上限端数根拠
健康保険年度の累計で573万円(4月1日〜翌年3月31日)1,000円未満切り捨て健保法45条1項
厚生年金保険1か月あたり150万円1,000円未満切り捨て厚年法24条の4第1項

単位が違うことに注意してください。健康保険は年度を通した累計で頭打ちになり、その年度でそれ以降に受ける賞与の標準賞与額はゼロになります。厚生年金は同月内の賞与を合算して月ごとに150万円で切られるので、年度の累計には上限がありません。

たとえば年俸2,000万円を、月100万円×12回と賞与400万円×2回に分けた場合。厚生年金では400万円が各回150万円に切り下げられるので、賞与部分で保険料の対象になるのは300万円だけです。健康保険では800万円が年度累計573万円で頭打ちになります。同じ年俸でも、月額側に寄せるか賞与側に寄せるかで、保険料の対象になる金額が変わります。

標準報酬月額の等級表は、法律の本則では途中で終わっている

健康保険法40条1項の等級表は第1級58,000円から第50級1,390,000円まであります。一方、厚生年金保険法20条1項の等級表は第1級88,000円から第31級620,000円で終わっています。厚生年金にはこの上に等級がありますが、それは同条2項にもとづいて政令で加えられたもので、法律の本文には載っていません。条文だけを見て「厚生年金の上限は62万円」と読むと誤ります。現に適用される最高等級は政令で確認してください。

社会保険料計算ツールで、標準報酬月額から保険料を計算する

年俸制でつまずきやすい4点

1. 年俸を途中で下げられるか。 年俸額は労働条件そのものなので、使用者が一方的に引き下げることは原則としてできません。年俸制でよくある「毎年、評価に応じて改定する」仕組みを機能させるには、改定の手続きと、決まらなかったときにどうするかを、あらかじめ定めておく必要があります。定めがないまま前年より低い額を提示しても、合意がなければ前年の額が続くと解されるのが通常です。

2. 年度の途中で入社・退職したとき。 年俸は年額なので、月割りの端数処理を決めておかないと計算できません。特に賞与部分を含む場合、在籍期間に応じて按分するのか、支給日に在籍している人にだけ払うのかで結論が変わります。支給日在籍要件を置くなら、それを規程に書いておくことです。

3. 賞与部分の源泉徴収。 年俸の一部を賞与として支払う場合、その源泉徴収は月額表ではなく賞与の算出率の表で計算します。前月の給与がない場合など、計算の分岐がいくつかあります。詳しくは賞与の源泉所得税の記事にまとめています。

4. 年俸が変わったときの社会保険。 年俸の改定で月額部分が変われば、固定的賃金の変動として随時改定(月額変更届)の対象になりえます。改定月から3か月の平均で2等級以上動いたかどうかを見ます。年俸制は改定のタイミングが期首に集中するため、対象者がまとまって出ることがあります。

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よくある質問

年俸制なら残業代を払わなくてよいのではないですか?

そうではありません。労働基準法に「年俸制」という制度はなく、年俸制は賃金の決め方と支払い方の取り決めにすぎないため、労働時間の規制はそのまま適用されます。労働基準法37条により、時間外労働には2割5分以上5割以下の範囲で政令が定める率以上(現行の政令は2割5分)、休日労働には3割5分以上、1か月60時間を超える部分には5割以上、深夜労働には2割5分以上の割増賃金が必要です。年俸の中に割増賃金を含める設計にすること自体は否定されていませんが、その場合は年俸のうちいくらが割増賃金にあたるのかが金額として区分されていて、実際の残業がその金額に対応する時間を超えたときは差額を支払うことが前提になります。年俸額を1本で決めているだけでは、どこまでが割増賃金なのかを計算できないため、区分されているとは言えません。

割増賃金の単価から外せる手当を教えてください。

労働基準法37条5項と労働基準法施行規則21条により、家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の7つです。条文は「家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は算入しない」という書き方をしており、限定列挙と解されています。したがって役職手当・資格手当・精勤手当・営業手当といった名前の手当は、この7つのどれにも当たらないため単価の分子に入ります。なお判断は名称ではなく中身で行われるのが一般的で、「家族手当」という名前でも扶養家族の有無や人数に関係なく全員に一律で支給していれば家族手当として外すことはできないと解されています。

年俸を16分割して2回を賞与として払っています。その賞与は割増賃金の単価に入りますか?

毎月払い部分と賞与部分を合わせて年俸額があらかじめ確定している場合、賞与時支給部分も含めて割増賃金の算定基礎に入れます。厚生労働省の通達(平成12年3月8日基収78号)は、臨時に支払われた賃金にも1か月を超える期間ごとに支払われる賃金にも該当せず、除外できないとしています。業績等によって額が未確定の通常の賞与とは扱いが異なります。給与規程やソフトの設定で任意に除外できるものではありません。年俸600万円・月平均所定労働時間160時間なら、1時間あたり2,343.75円と3,125円で781.25円の差が出ます。

賞与の支給回数を年3回から年4回に増やすと何が変わりますか?

規程等で年4回以上の賞与支給を定めている場合は、賞与を報酬に含めて算定します。ただし、その年限りの臨時の支給で翌年以降の支払いが未定なら、年間の賞与支給回数に含めず、賞与支払届で届け出ます。なお、この境界は支給の名称とは無関係で、「賞与」「一時金」「決算手当」といった呼び方では決まりません。

標準賞与額の上限は健康保険と厚生年金で同じですか?

違います。健康保険法45条1項は、その年度(4月1日から翌年3月31日まで)における標準賞与額の累計額が573万円を超えることとなる場合には、累計額が573万円となるようその月の標準賞与額を決定し、その年度においてその月の翌月以降に受ける賞与の標準賞与額はゼロとする、と定めています。一方、厚生年金保険法24条の4第1項は、標準賞与額が150万円を超えるときはこれを150万円とする、と定めています。健康保険は年度の累計で頭打ちになり、厚生年金は1か月あたりで切られるという違いです。どちらも1,000円未満の端数は切り捨てます。年俸のうち賞与部分が大きい設計では、この差が保険料の対象額に表れます。

年俸制の社員は管理監督者として扱ってよいですか?

年俸制であることと管理監督者に当たるかどうかは無関係です。管理監督者は労働基準法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」で、職務内容・権限・待遇の実態から判断されます。年俸制を採用したことによって管理監督者になるわけではありません。また、仮に管理監督者に当たる場合でも、時間外・休日の割増賃金が不要になるだけで、深夜労働の割増賃金は必要です。労働基準法37条4項は深夜の割増賃金を定めており、41条による適用除外の対象は労働時間・休憩・休日に関する規定であって、深夜業の規定はここに含まれないと解されています。

出典

労働基準法・労働基準法施行規則・健康保険法・厚生年金保険法をe-Gov法令検索で読んで確認しています。

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する助言ではありません。年俸制における割増賃金の計算方法、年俸の賞与部分の取扱い、社会保険上の報酬と賞与の区分は、賃金規程の定め方と実際の支給の仕方によって結論が変わります。実際の取扱いにあたっては、労働基準監督署、年金事務所、または社会保険労務士にご確認ください。

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