労働施策総合推進法とは|会社の義務・努力義務と確認書類の対応表
労働施策総合推進法は、雇用の安定と職業生活の充実などを図る法律です。会社には、採用時の年齢、外国人の雇用状況の届出、離職時の再就職援助、治療との両立支援、ハラスメント対策などの規定が関わります。
対応を整理するには、義務か努力義務か、どの業務で、何の書類を確認するかを分けます。以下は一般の民間会社向けに、主な規定と確認資料をまとめた参照表です。
会社に関わる義務・努力義務の早見表
2026年10月25日時点の主な規定です。一般の民間会社を対象とし、公務員・船員の特例は扱いません。社内書類は確認に使う例であり、法定様式とは区別しています。
| 場面 | 位置付け・主な内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 募集・採用 | 年齢にかかわりない均等な機会の確保が義務。省令の例外事由あり。 | 9条 |
| 中途採用比率の公表 | 対象人数・算定年度・公表方法は、厚生労働省の案内で確認。 | 27条の2 |
| 外国人の雇入れ・離職 | 雇用状況の届出が義務。外交・公用の在留資格の者と特別永住者は対象外。 | 28条 |
| 事業規模の縮小等 | 縮小等で離職を余儀なくされる労働者への再就職援助は努力義務。 | 6条・24条・27条 |
| 治療と就業の両立 | 相談対応体制の整備など、両立支援の措置を講ずる努力義務。 | 27条の3 |
| パワハラ対策 | 雇用管理上の措置が義務。相談や相談対応に協力して事実を述べたことを理由とする不利益取扱いは禁止。 | 31条 |
| カスハラ対策 | 相談対応・抑止などの措置が義務。相談や相談対応に協力して事実を述べたことを理由とする不利益取扱いは禁止。 | 33条 |
| 働きやすい環境の整備 | 雇用する労働者の労働条件の改善や、仕事と生活を両立できる環境整備の努力義務。 | 6条 |
法律全体には、国の労働政策、職業能力の開発、職業転換の支援などの規定もあります。この表は、会社の日常の確認に関わる主な項目に絞っています。
義務と確認書類を結び付ける
届出書を出す業務と、社内の体制を動かす業務を分けると、何を確かめるかが明確になります。規程があるかに加え、担当者・周知先・実際の運用記録を確認する方法があります。
以下は、公式の手続案内と社内で確認する資料を対応させた例です。各案内で対象・書類を確認し、会社の運用記録と照合します。この一覧自体は法定様式ではありません。
| 業務 | 公式の案内・資料 | 社内で確認するものの例 |
|---|---|---|
| 募集・採用 | 年齢制限該当事由の一覧 | 求人票、選考基準、年齢条件を設定した理由 |
| 中途採用比率 | 正規雇用労働者の中途採用比率の公表:概要・Q&A | 対象者の集計、採用区分、算定期間、公表日と掲載先 |
| 外国人雇用 | 外国人雇用状況の届出の案内:雇用保険の区分別 | 在留カード・旅券等による確認、入退社情報、届出済みの記録 |
| 離職への対応 | 再就職援助計画の提出手続/大量雇用変動の届出の案内 | 事業所別の対象者・離職予定日・離職理由、意見聴取の記録 |
| 治療との両立支援 | 治療と就業の両立支援指針 | 相談案内、本人の申出、勤務情報、主治医意見、支援プラン等 |
| ハラスメント対策 | パワハラ対策の措置/カスハラ防止指針 | 方針・規程、相談窓口の案内、研修資料、対応記録、再発防止の確認 |
外国人雇用では、確認した在留資格等と届出内容を照合します。厚生労働省の外国人雇用状況届出の案内は、届出時に在留カード等の写しを添付する必要はないとしています。確認に使う資料と、提出する書類を混同しないようにします。
ハラスメントの相談記録や治療に関する情報は、通常の業務一覧へ内容を丸ごと載せず、必要な担当者の間で扱います。両立支援の健康情報については、取得と共有の同意、閲覧範囲、漏えい防止を確認します。
採用・外国人雇用・離職で確認すること
求人票を年齢不問にするだけで終わらせない
募集・採用では、求人票の表示と実際の選考基準をそろえます。省令の例外事由を用いる場合は、その事由の条件を確認します。例えば、定年を上限とする例外や長期勤続によるキャリア形成の例外は、期間の定めのない労働契約が対象です。
主な例外には、このほか法令による年齢制限、技能・ノウハウの継承、芸術・芸能の要請、特定年齢層の雇用促進があります。各例外の年齢範囲や雇用形態等の条件は、ハローワークの年齢制限該当事由の一覧で確認できます。会社の都合で任意の例外を作れるわけではありません。
中途採用比率と、社内に在職する人の割合を混同しない
公表するのは、採用した正規雇用労働者に占める中途採用者の比率です。中途採用は新規学卒等採用以外の雇入れを指し、在職者全体に占める中途入社者の割合とは異なります。
義務対象を判定する常時雇用する労働者の範囲と、比率を計算する採用者の範囲も別です。厚生労働省の中途採用比率の公表の案内で対象者・算定期間・公表方法を確認し、集計に使った資料を公表値と照合します。
外国人の届出書類は雇用保険の区分で分ける
以下は一般の民間会社の外国人雇用状況の届出書類です。在留資格が「外交」「公用」の人と特別永住者は届出対象外です。
| 外国人労働者の区分 | 使う書類 |
|---|---|
| 雇用保険の被保険者となる人 | 雇入れは雇用保険被保険者資格取得届、離職は資格喪失届 |
| 雇用保険の被保険者とならない人 | 外国人雇用状況届出書 |
届出期限も区分と雇入れ・離職の別で異なります。入退社時に、公式案内の該当区分から使用する書類と期限を一緒に確認します。在留資格による就労可能な範囲の確認と、雇用状況の届出は別々の確認事項です。
離職予定がまとまる場合は、発生前に手続を確認する
事業規模の縮小等で離職を余儀なくされる場合は、一の事業所の離職予定について、省令の要件に応じて再就職援助計画の作成・認定が必要になります。作成時には、過半数労働組合があればその組合、なければ過半数代表者の意見を聴き、変更時にも意見聴取と認定が必要です。
大量雇用変動の届出は、その変動前に行う手続です。計画の認定申請をした事業主は、申請日に大量雇用変動の届出をしたものとみなされます。縮小等で離職を余儀なくされる労働者の計画は、人数等の義務作成要件を満たさなくても任意に認定を受けられます(船員を除く民間会社)。
人数の算定範囲と提出期限の確認は、再就職援助計画の提出手続と従業員が離職する際に必要な措置に分けて行います。計画と届出では、対象となる離職や期限の基準日が異なるためです。
民間会社の両立支援は努力義務(船員を除く)
船員を除く民間会社の労働者について、治療と就業の両立支援のための措置は、2026年4月1日から事業主の努力義務です。根拠は27条の3です。
厚生労働省の治療と就業の両立支援指針は、国際疾病分類に掲げられた疾病・負傷のうち、医師が反復・継続した治療を必要と判断し、就業の継続に配慮が必要なものを対象としています。私傷病の両立支援は、本人から支援を求める申出を端緒として、業務内容と治療上の配慮をすり合わせることが基本です。
社内では、主治医へ伝える勤務情報、主治医からの意見、産業医等の意見、本人との話合い、支援プランなどを確認します。指針の様式例を活用できますが、書類をそろえることと、就業上の配慮を実施することは区別します。
健康情報の取得は、法定健診で把握する場合を除き、原則として本人の同意が必要です。支援のための共有は本人同意の下で必要な範囲にし、情報を扱う人と管理方法も決めます。
給与担当には、勤務時間・休暇の扱いなど計算に必要な情報を渡す運用が考えられます。私傷病で休む人の給付額を確認する場合は、傷病手当金の計算機で対象条件を確認できます。本法の両立支援と健康保険の給付要件は別です。
休業中の傷病手当金の額と対象条件を確認するハラスメント対策の位置付け
民間会社のハラスメント対策では、パワハラ対策の措置義務は31条、カスハラ対策の措置義務は33条です。民間会社のカスハラ対策の義務は2026年10月1日施行で、相談対応体制に加え、言動の抑止などの措置が求められます。
パワハラは、職場で優越的な関係を背景として行われ、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動によって、労働者の就業環境が害されるものです。職場におけるカスハラは、顧客や取引先等による、業務の性質等に照らして社会通念上許容される範囲を超えた言動によって、就業環境が害されるものです。
民間会社では、いずれの対策でも、相談したことや、相談対応に協力して事実を述べたことを理由とする解雇などの不利益取扱いは禁止されます。また、民間の事業主には、他社が行うカスハラ対策の措置に必要な協力を求められた場合に応ずる努力義務があります。社外からの連絡先も整理できます。
民間会社では、従業員が取引先等の労働者への言動に注意を払うための研修・配慮と、役員自身が言動に注意を払うことが努力義務です。根拠は34条で、購買・発注など自社が顧客になる業務も確認に含めます。
カスハラ防止指針は、発生のおそれがある場合や該当するか微妙な場合にも広く相談へ対応することを求めています。また、派遣先にも派遣労働者についての措置が必要で、相談等を理由とする派遣受入れの拒否なども禁止されます。
正当な苦情までカスハラとして扱うことはできません。消費者の権利や障害への合理的配慮、業法上のサービス提供義務、提供が途絶えることによる生命・健康への影響にも留意が必要です。
カスハラの対象範囲、措置の根拠や社内規程の条番号の確認は、カスハラ対策の義務化の記事にまとめています。本記事では、法律全体の中で確認する業務として位置付けます。
罰則は違反した規定によって異なる
本法に罰則がない、と一括りにはできません。ハラスメントの措置義務違反そのものと、届出・報告の違反を分けて確認します。
2026年10月25日時点の本法による主な行政対応と罰則です。一般の民間会社についての整理で、別の法令や個別事案の民事責任の有無を判断するものではありません。
| 対象となる行為 | 本法の扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| ハラスメントの措置義務違反そのもの | その違反だけを理由とする罰金規定はない。助言・指導・勧告等の対象となる。 | 42条、罰則規定 |
| パワハラ・カスハラの措置義務や不利益取扱い禁止への違反に対する勧告に従わない | その旨を公表されることがある。 | 42条2項 |
| 大量雇用変動又は外国人雇用状況について、未届・虚偽の届出 | 30万円以下の罰金。業務に関する違反は法人等への両罰規定もある。 | 50条 |
| ハラスメント等に関し、法45条1項により求められた報告をしない・虚偽の報告をする | 20万円以下の過料。 | 45条1項・51条 |
経理から人事へ渡す確認表の例
入退社・勤怠・給与の処理中に気付いたことは、制度の判断に必要な事実と、未確認の項目を分けて渡す方法があります。次は、経理と人事を兼務する会社を想定した架空の運用例です。法令が部署の分担やこの書式を指定しているわけではありません。
以下は社内の引継ぎメモの架空例です。記載された事実から、届出義務や制度の適用が確定するわけではありません。
| 気付いたこと | そろえる事実 | 人事等への確認事項 |
|---|---|---|
| 外国人の入社情報が届いた | 雇入れ日、在留資格等の確認状況、雇用保険の区分 | 届出対象、使う書類、提出期限、届出の担当者 |
| 退職予定者がまとまっている | 事業所別の離職予定日と理由 | 再就職援助計画・大量雇用変動届の要件と事前手続 |
| 通院に伴う勤務変更がある | 承認された勤務時間・休暇区分 | 本人への支援、勤怠と給与の扱い、情報共有の範囲 |
| 取引先対応で従業員から相談があった | 相談窓口へ引き継ぐべき内容と本人の状況 | 対応担当、関係部門との連携、記録の閲覧範囲 |
会社の確認表には、対象となる業務、義務の種類、参照資料、担当者、確認時期を残すと整理しやすくなります。法定の手続と社内の記録例を分け、未確認の項目は確認先へつなぎます。
よくある質問
労働施策総合推進法はパワハラ防止だけの法律ですか?
いいえ。雇用の安定と職業生活の充実などを目的とし、採用、外国人雇用、離職時の再就職援助、治療と就業の両立なども扱う法律です。パワハラ・カスハラの対策は、その一部です。
中小企業も対応が必要ですか?
はい。例えば、パワハラ・カスハラ対策や対象となる外国人の雇用状況の届出は、中小企業にも関わります。一方、中途採用比率の公表は事業主の規模要件があるため、制度ごとに対象を確認します。
治療と就業の両立支援も、ハラスメント対策と同じ義務ですか?
いいえ。両立支援のための措置は事業主の努力義務で、船員を除く民間会社の労働者が対象です。私傷病の両立支援では本人の申出を基本に、主治医等の意見や本人との話合いを通じて支援を検討します。
この確認表を埋めれば法令対応は完了しますか?
いいえ。この表は主な規定と確認資料を整理する例です。実際の対象者や手続の要件を確認し、相談に対応する体制などを運用する必要があります。
民間会社の外国人雇用状況の届出は、雇用保険に入らない人も必要ですか?
必要です。届出対象となる外国人で雇用保険の被保険者とならない人は、外国人雇用状況届出書を使います。在留資格が外交・公用の人と特別永住者は届出対象から除かれます。
出典
法律の参照時点は2026年10月25日です。書類の対応表と社内の引継ぎ例は、確認作業を整理するための例です。
- e-Gov法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」:目的、事業主の責務、募集・採用、再就職援助、届出、公表、両立支援、ハラスメント対策、罰則。
- ハローワーク「年齢制限該当事由について」:年齢制限が認められる場合の条件。
- 厚生労働省「正規雇用労働者の中途採用比率の公表」:対象・算定・公表方法の概要とQ&A。
- 厚生労働省「外国人雇用状況の届出について」:対象外の区分、雇用保険の区分別の届出、確認資料。
- 厚生労働省「再就職援助計画の提出手続」:対象要件、手続、様式。
- 厚生労働省「従業員が離職する際に必要な措置」:再就職援助計画と大量雇用変動の届出の違い。
- 厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」:対象、本人の申出、情報管理、支援の進め方。
- 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」:カスハラの定義、相談体制、派遣労働者の扱い。
この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案への助言や適法性の判断を行うものではありません。実際の制度運用は、管轄の労働局・ハローワーク、社会保険労務士・弁護士などにご確認ください。個別の税務・労務相談には応じられません。