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社員旅行は経費になるか — 4泊5日と参加50%は通達2行だけ。少額不追求はそこに書かれていない

結論から言うと、社員旅行(慰安旅行)の費用を会社が負担しても、4泊5日以内・参加者が全体の50%以上という2つを満たしていれば、参加した人の給与として課税しなくて差し支えない、というのが実務の扱いです。ただしこの2つの数字がどこから来ているかを知っておくと、境界のときの判断がまるで変わります。出どころは昭和63年5月25日付の直法6-9という通達で、その本体はわずか2行です。

そして、その通達には少額不追求という言葉が一度も出てきません。世の中の解説はほぼ例外なく「4泊5日・50%・少額不追求の3つ」と書きますが、3つ目を足しているのは通達ではなく国税庁のタックスアンサー No.2603 のほうです。条件が2つなのか3つなのかは、社内で「うちの旅行は要件を満たしているか」を検討するときに直接効いてきます。2つを満たしていても非課税が保証されるわけではない——通達自身が、まず総合的に勘案して実態に即した処理を行うと書いているからです。

実務でいちばん高くつくのは、期間でも参加率でもなく不参加者にお金を渡してしまうことです。所得税基本通達36-30は、自己都合の不参加者に参加に代えて金銭を支給した場合を非課税の扱いから外しています。国税庁 No.2603 はさらに踏み込み、その場合は参加者と不参加者の全員に、その金額と同額の給与の支給があったものとされるとしています。従業員40人の会社が、不参加者1人に3万円を渡しただけで、120万円分の給与課税が生まれるという構造です。会社が実際に払ったお金の40倍が課税対象になります。

根拠は通達の2行しかない — 昭63直法6-9の全文

社員旅行の話に必ず出てくる「4泊5日」「50%」の出どころは、国税庁のウェブサイトに置かれている1ページの通達です。正式には所得税基本通達36-30(課税しない経済的利益……使用者が負担するレクリエーションの費用)の運用についてといい、昭和63年5月25日付の直法6-9(例規)、直所3-13として発出されました。その後、平成元年3月10日直法6-2と平成5年5月31日課法8-1により改正されています。

この通達には(趣旨)という短い節があり、何のために作られたかが1文で書かれています。

慰安旅行に参加したことにより受ける経済的利益の課税上の取扱いの明確化を図ったものである。

慰安旅行という語は、通達自身の言葉です。社員旅行という呼び名のほうが日常的ですが、税務の文書では慰安旅行のほうが本来の用語だと分かります。

そして本体である「記」の部分は、次の1文と2つの号だけです。

使用者が、従業員等のレクリエーションのために行う旅行の費用を負担することにより、これらの旅行に参加した従業員等が受ける経済的利益については、当該旅行の企画立案、主催者、旅行の目的・規模・行程、従業員等の参加割合・使用者及び参加従業員等の負担額及び負担割合などを総合的に勘案して実態に即した処理を行うこととするが、次のいずれの要件も満たしている場合には、原則として課税しなくて差し支えないものとする。
この1文の構造を読み違えない

前半が原則で、後半が例外という順番ではありません。前半(総合的に勘案して実態に即した処理)が本体で、後半の2要件は、これを満たしていれば原則として課税しなくてよいという目安として置かれています。総合的に勘案する要素として通達が挙げているのは、企画立案・主催者・目的・規模・行程・参加割合・負担額・負担割合の8つです。期間と参加率は、このうち2つが数値化されたものにすぎません。

2つの要件の条文は次のとおりです。どちらも短い1文ですが、括弧書きが判断を決めています。

当該旅行に要する期間が4泊5日(目的地が海外の場合には、目的地における滞在日数による。)以内のものであること。
当該旅行に参加する従業員等の数が全従業員等(工場、支店等で行う場合には、当該工場、支店等の従業員等)の50%以上であること。

ここまでが通達の全部です。前置きと(趣旨)を含めても1,000字に届きません。なお同通達は、昭和61年12月24日付の直法6-13、直所3-21という前身の通達を廃止して置き換えたものであり、適用については今後処理するものから適用するとされました。

少額不追求という3つ目の条件は、通達ではなくタックスアンサーが足している

上の全文を読むと分かるとおり、昭63直法6-9に少額不追求という語は出てきません。この語が出てくるのは、国税庁のタックスアンサー No.2603(従業員レクリエーション旅行や研修旅行)のほうです。No.2603 は、少額の現物給与は強いて課税しないという少額不追求の趣旨を逸脱しないものであると認められ、かつ、その旅行が2要件のいずれも満たすときは、原則として給与としなくてよい、という書き方をしています。

つまり No.2603 の構造は「少額不追求」と「4泊5日」と「50%」の3つがANDで並んでいるのに対し、通達の側は総合勘案が本体で、2要件はその目安という構造です。実務上の帰結は同じ方向を向きますが、2要件を満たすことは非課税の十分条件ではないという点は、どちらの読み方でも変わりません。

「原則として」の外側に何があるか

通達も No.2603 も、非課税の扱いを原則としてと限定しています。この語は、原則の外があることを書き手自身が認めている印です。外側にあるのは、要件を形式的に満たしていても、費用の水準や旅行の実態が社会通念上一般に行われているレクリエーション旅行と認められない場合です。No.2603 の事例3は、5泊6日以上の旅行について、社会通念上一般に行われている旅行とは認められないことから課税されるとしています。参加率100%・4泊5日でも、金額が突出していれば総合勘案の側で拾われる余地が残ります。

No.2603が示す3つの事例

No.2603 は具体例を3つ挙げています。金額は1人あたりの旅行費用と、そのうち会社が負担した額です。

旅行期間旅行費用うち会社負担参加割合結論
事例13泊4日15万円7万円100%原則として課税しなくてよい
事例24泊5日25万円10万円100%原則として課税しなくてよい
事例35泊6日30万円15万円50%課税される

注目したいのは事例3が課税される理由です。会社負担15万円は事例2の10万円より高く、参加割合50%はぎりぎり要件を満たしています。それでも課税されるとされた理由として No.2603 が挙げているのは期間だけで、金額でも参加率でもありません。5泊6日以上になった時点で、社会通念上一般に行われている旅行とは認められないという判断です。期間の1泊の差は、他の要素で埋め合わせが効きません。

【本体】企画立案・主催者・目的・規模・行程・参加割合・負担額・負担割合を総合的に勘案(昭63直法6-9) ↓ その目安として、次の2つが置かれている 要件(1) 期間が4泊5日以内 海外は「目的地における滞在日数」で数える 要件(2) 参加者が全従業員等の50%以上 工場・支店ごとに行うならその単位の人数が分母 + 少額不追求の趣旨を逸脱しないこと(← 通達には無い。国税庁 No.2603 が足している層) 事例3は5泊6日という「期間」だけを理由に課税とされた 【別枠の遮断】自己都合の不参加者に金銭を支給 → 参加者を含む全員に同額の給与(No.2603 注1) 役員だけの旅行/取引先の接待/私的旅行/金銭との選択が可能な旅行 → そもそも該当しない
判定は「2要件を満たすか」だけでは終わらない。総合勘案が本体で、金銭の支給と4つの非該当類型は別枠で結論を覆す。

4泊5日の数え方と、50%の分母 — 効いているのは2つの括弧書き

海外旅行は「目的地における滞在日数」で数える

要件(1)は、旅行に要する期間が4泊5日以内であることを求めるものですが、その4泊5日という語のすぐ後ろに目的地が海外の場合には、目的地における滞在日数によるという括弧書きが入っています。読み飛ばしやすい位置ですが、これは数え方そのものを入れ替える規定です。

国内旅行なら、旅行に要する期間はそのまま出発から帰着までです。海外旅行では、移動に費やした日は目的地における滞在日数に入りません。機内泊も同じ考え方になります。したがって、日程表の上では6日間の海外旅行であっても、現地での滞在が4泊5日以内に収まっていれば要件(1)は満たしうるということです。国内旅行より海外旅行のほうが、暦の上で長い日程を組めることになります。

この括弧書きは要件を緩める方向にしか働かない

移動日を数えないという規定なので、同じ日程なら海外のほうが日数は少なく出ます。逆に国内旅行で「移動日は除いてよいはずだ」と考えるのは誤りです。括弧書きは目的地が海外の場合と明示しており、国内旅行には数え方の特則がありません。

50%の分母は、旅行の単位で入れ替わる

要件(2)にも括弧書きがあります。分母は原則として全従業員等ですが、工場、支店等で行う場合には、当該工場、支店等の従業員等が分母になります。ここも判断が変わる場所です。

設例1:従業員120人の会社が慰安旅行を行い、参加者は54人でした。全社を分母にすると 54 ÷ 120 = 45% で、要件(2)を満たしません。ところが同じ旅行を大阪支店の行事として企画し、大阪支店の従業員30人のうち18人が参加したのであれば、分母は支店の30人になり 18 ÷ 30 = 60% で要件(2)を満たします。参加した人数が同じでも、旅行を誰の行事として行うかで結論が変わります。

ただしこれは形式を整えれば通るという話ではありません。分母を支店に置けるのは工場、支店等で行う場合、つまり実際にその単位の行事として企画・実施されている場合です。全社行事として案内しておきながら、参加率の計算のときだけ支店単位に切り替えることはできません。ここでも通達の本体である総合勘案(企画立案・主催者・規模)が効いてきます。

分母に誰を入れるか

通達は従業員等という語を使い、その定義を冒頭で役員又は使用人としています。つまり分母にも分子にも役員が含まれます。パート・アルバイトを分母から外してよいという規定は通達にはありません。役員が参加していること自体は要件に反しません。問題になるのは役員だけを対象とする場合で、それは後述の非該当類型です。

3万円が120万円になる — 36-30は本文と注で括弧書きが逆を向く

ここが本題です。土台になっているのは所得税基本通達36-30で、昭63直法6-9はこの通達の運用について定めたものでした。36-30の本文は次のとおりです。

使用者が役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる会食、旅行、演芸会、運動会等の行事の費用を負担することにより、これらの行事に参加した役員又は使用人が受ける経済的利益については、使用者が、当該行事に参加しなかった役員又は使用人(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を除く。)に対しその参加に代えて金銭を支給する場合又は役員だけを対象として当該行事の費用を負担する場合を除き、課税しなくて差し支えない。

非課税の扱いから外れるのは2つの場合です。①参加しなかった者に、参加に代えて金銭を支給する場合。②役員だけを対象として費用を負担する場合。そして①には(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を除く。)という括弧書きが付いています。出張や当直で参加できなかった人にお金を渡しても、参加者の非課税が壊れないようにするための救済です。

問題はこの直後に置かれた(注)です。

上記の行事に参加しなかった者(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を含む。)に支給する金銭については、給与等として課税することに留意する。

同じ括弧書きが、本文では「除く」、注では「含む」になっています。括弧の中身の文言は一字一句同じで、末尾の2文字だけが逆を向いています。

【36-30 本文】参加者の経済的利益を課税しなくてよいか、という問い 参加しなかった者(業務の必要に基づき参加できなかった者を 除く 。)に金銭を支給する場合は課税 → 出張で行けなかった人に渡しても、参加者の非課税は壊れない → 自己都合で行かなかった人に渡すと、No.2603 注1 により全員に同額の給与 【36-30 注】その金銭そのものが給与か、という別の問い 参加しなかった者(業務の必要に基づき参加できなかった者を 含む 。)に支給する金銭は給与等 → 救済された人でも、受け取った金銭は本人の給与として課税される 同じ文言の括弧書きが、末尾の2文字だけ逆を向いている(除く/含む)
本文と注は違う問いに答えている。本文は「参加者を課税するか」、注は「渡した金銭を課税するか」。だから括弧書きの向きが逆になる。

矛盾ではありません。2つは違う問いに答えています。本文が答えているのは旅行に参加した人の経済的利益を課税するかという問いで、注が答えているのは参加しなかった人に渡した金銭を課税するかという別の問いです。整理すると次のようになります。

誰に金銭を渡したか参加者の経済的利益渡した金銭そのもの
自己都合で参加しなかった人課税される(非課税の扱いから外れる)給与等として課税
業務の必要で参加できなかった人課税しなくて差し支えない(括弧書きで除かれる)給与等として課税(注で含まれる)
誰にも渡していない課税しなくて差し支えない

設例2:3万円の支給が120万円の給与を生む

従業員40人の会社が慰安旅行(3泊4日・国内)を行い、39人が参加、1人が自己都合で不参加でした。会社はその1人に、参加しない代わりとして3万円を支給しました。

国税庁 No.2603 の注1は、この場合、参加者と不参加者の全員に、その不参加者に対して支給する金銭の額に相当する額の給与の支給があったものとされるとしています。したがって40人全員に3万円ずつ、合計 3万円 × 40人 = 120万円 の給与があったものとして源泉徴収の対象になります。会社が実際に支出した現金は3万円ですが、課税対象はその40倍です。

これに対し、その1人が出張のため参加できず、同じ3万円を受け取った場合はどうなるか。36-30本文の括弧書きにより参加者の非課税は維持され、注によりその3万円だけが本人の給与になります。同じ3万円の支出でも、120万円と3万円で117万円の差が出ます。分かれ目は金額でも人数でもなく、不参加の理由が自己都合か業務の必要かという1点です。

いちばん安全なのは、渡さないこと

本文の非課税が壊れるのは参加に代えて金銭を支給する場合です。渡さなければこの枝には入りません。また No.2603 は、金銭との選択が可能な旅行を、そもそも従業員レクリエーション旅行に該当しないものの1つに挙げています。旅行に行くか現金3万円を受け取るかを選べる、という案内をした時点で、参加した人まで含めて枠の外に出ます。制度の設計段階で決まってしまう部分です。

給与課税になった分の源泉徴収税額を計算する(月額表・甲欄乙欄に対応)

従業員レクリエーション旅行に該当しない4つ

No.2603 は注2で、次の4つを従業員レクリエーション旅行に該当しないものとして挙げ、その費用は給与、交際費などとして適切に処理する必要があるとしています。該当しないので、4泊5日や50%の判定にそもそも入りません。

  1. 役員だけで行う旅行 — 36-30本文の後段が、役員だけを対象として費用を負担する場合を非課税の扱いから外しています。役員が参加すること自体は問題ありませんが、対象が役員だけになると枠の外です。
  2. 取引先に対する接待、供応、慰安等のための旅行 — 従業員の慰安ではないので、行き先は交際費等です。
  3. 実質的に私的旅行と認められる旅行 — 形式が社内行事でも、実態が私的な旅行であれば該当しません。
  4. 金銭との選択が可能な旅行 — 参加と現金受領を選べる形にすると、現物給与としての性格を失います。

1つ目については、同じ所得税基本通達の中に並行する規定があります。36-29(用役の提供等)は、福利厚生のための施設の運営費等の負担について、経済的利益の額が著しく多額であると認められる場合又は役員だけを対象として供与される場合を除いて課税しなくて差し支えないとしています。役員だけを対象とする場合を外すという設計は、36-29と36-30に共通の作りです。会社が役員だけに何かを与える形になった瞬間に、福利厚生の枠から出る、という一貫した考え方が置かれています。

役員だけの旅行は、二重に不利になりうる

役員だけの旅行は、まず参加した役員の給与として課税されます。そのうえで、役員に対する給与は法人税法34条により損金にできる形が限られているため、課税される給与であると同時に、会社側では損金にならないという組み合わせになるおそれがあります。従業員向けの旅行が枠を外れた場合(給与課税になるが会社側では給与として損金)とは、会社にとっての痛みが違います。

個人事業主のとき、根拠は海外渡航費の通達に飛ぶ

No.2603 の根拠法令等の欄には、36-30と昭63直法6-9のほかに所得税基本通達37-17〜37-19が挙げられています。この3つは〔海外渡航費〕という見出しの下に置かれた、法第37条(必要経費)関係の通達です。給与課税の話をしているページが、必要経費の通達を根拠に挙げているのは意外に見えますが、従業員を旅行に連れて行くのが個人事業主の場合、費用の側の判定はこちらで行うからです。

事業を営む者がその使用人(事業を営む者と生計を一にする親族で法第57条第1項又は第3項の規定の適用を受けるものを含む。)の海外渡航に際し支給する旅費(支度金を含む。以下37-22までにおいて同じ。)は、その海外渡航が事業を営む者の当該事業の遂行上直接必要であり、かつ、当該渡航のため通常必要と認められる部分の金額に限り、旅費として必要経費に算入する。

この37-17には(注)が付いており、事業の遂行上直接必要と認められない海外渡航の旅費の額、および通常必要と認められる金額を超える部分の金額は、その支給を受ける者に対して支給した給与等又は役務の報酬として必要経費に算入されるとしています。必要経費から落ちるのではなく、旅費から給与へ科目が移るという書き方です。事業専従者に支給したものとされる部分については、所得税法57条1項・3項の適用があるという但し書きも付いています。

研修旅行の3類型は、この通達から来ている

No.2603 の後半には研修旅行の話があり、原則として業務を行うために直接必要なものとはならない例として、同業者団体の主催する主に観光旅行を目的とした団体旅行・旅行のあっせん業者などが主催する団体旅行・観光渡航の許可をもらい海外で行う研修旅行の3つが挙げられています。この3つは、37-19の柱書に続く3つの号とほぼそのまま対応しています。

事業を営む者又はその使用人(事業を営む者と生計を一にする親族を含む。以下37-22までにおいて同じ。)の海外渡航が当該事業の遂行上直接必要なものであるかどうかは、その旅行の目的、旅行先、旅行経路、旅行期間等を総合勘案して実質的に判定するものとするが、次に掲げる旅行は、原則として、当該事業の遂行上直接必要な海外渡航に該当しないものとする。

ここでも判定の本体は総合勘案して実質的に判定するで、3つの類型はその中の目安です。昭63直法6-9と同じ構造です。

通達見出し何を決めているか
37-16事業を営む者等の海外渡航費事業主本人の海外渡航費。事業の遂行上直接必要な場合に限る(家事上の経費に属するものを除く)
37-17使用人に支給する海外渡航旅費従業員に支給する旅費。直接必要かつ通常必要と認められる部分に限る。外れた分は給与等へ
37-18旅行期間のおおむね全期間を通じて事業の遂行上直接必要と認められる場合不当に多額でない限り全額を旅費に算入できる
37-19事業の遂行上直接必要な海外渡航の判定総合勘案して実質判定。観光渡航の許可を得て行う旅行など3類型は原則として該当しない
37-20同伴者の旅費親族や事業に常時従事していない者を同伴した費用は必要経費に算入しない(3つの例外あり)
37-21直接必要と認められる旅行と認められない旅行とを併せて行った場合期間の比等によってあん分する
事業主本人の慰安旅行費用は、そもそも36-30の枠に入らない

36-30は使用者が役員又は使用人のレクリエーションのために負担する費用の話です。個人事業主本人は自分の使用人ではないので、本人の分についてこの通達を当てはめる場面がありません。従業員を慰安旅行に連れて行った場合の従業員の分と、事業主本人の分は、最初から別の規定で扱われます。詳しくは福利厚生費とはの個人事業主の項をご覧ください。

法人税では条文の主語が専ら従業員に変わる

ここまでは所得税(参加した人に給与課税が生じるか)の話でした。会社側で交際費等になるかどうかは法人税の話で、根拠は租税特別措置法61条の4第6項1号です。同項は交際費等の定義を置いたうえで、そこから除かれる費用を号で列挙しており、その1号がこれです。

専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用

短い1号ですが、主語が従業員になっている点に注意が必要です。所得税側の36-30と昭63直法6-9は、対象を一貫して役員又は使用人(=従業員等)と書いていました。2つの法律は、同じ社員旅行について同じ言葉を使っていません。この違いをどう読むかは通達の領域に入るため、本記事では条文の文言がこうなっているという事実にとどめ、交際費等との区分そのものは交際費と会議費の違い福利厚生費とはに譲ります。

条番号は令和8年12月1日の改正後も動いていない

租税特別措置法は条番号そのものが別の制度に付け替わることがあるため、令和8年分の判断で番号だけを頼りにするのは危険です。今回は e-Gov 法令API v2 で現行施行版と令和8年12月1日施行版(332AC0000000026_20261201_508AC0000000012)の両方を取得し、61条の4の本文を突き合わせました。両者は完全に一致しており、見出しも(交際費等の損金不算入)のままです。なお同条1項は適用年度を平成26年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度と区切っており、この制度自体に期限が置かれています。

出勤扱いになるか — 税法の4泊5日は労働時間を決めない

社員旅行でよく聞かれるのが、参加は出勤扱いになるのか、参加を強制してよいのか、旅行中の時間に賃金は発生するのか、という問いです。ここまで見てきた通達は、この問いに何も答えていません。昭63直法6-9も36-30も、扱っているのは参加した人が受ける経済的利益を課税するかという所得税の問題だけです。

労働時間に当たるかどうかは労働基準法の問題で、一般に、その時間が使用者の指揮命令下に置かれていたと評価できるかどうかで判断されます。参加が任意のレクリエーション行事であれば労働時間として扱われないのが通常ですが、参加が事実上強制され、欠席に不利益が伴うような運用になっていれば、評価は変わりえます。

税務の要件を満たすことと、労務上安全であることは別

参加率50%以上という税務の要件を満たそうとして参加を強く促すと、労務の側では指揮命令の色が濃くなる、という方向に働きます。2つの要請は同じ方向を向いていません。個別の運用が労働時間に当たるかどうかの判断は社会保険労務士にご確認ください。本記事は税務上の取扱いに絞っています。

帳簿の作り方と、残しておく記録

要件を満たす社員旅行の費用は、会社の負担分を福利厚生費で処理するのが一般的です。従業員から旅行代金の一部を集めた場合は、その分を預り金で受けて費用と相殺するか、雑収入で受けるかを社内で決めておきます。

場面借方貸方注記
旅行会社へ支払(会社負担分)福利厚生費 ×××普通預金 ×××要件を満たす場合
従業員の自己負担分を給与から控除給与手当 ×××預り金(旅行費)×××控除には労使協定が要る点に注意
要件を外れた部分給与手当 ×××普通預金 ×××源泉徴収の対象。会社側は損金
役員だけの旅行役員報酬 ×××普通預金 ×××法人税法34条により損金不算入となるおそれ

証拠として残しておきたいのは、通達が総合勘案の要素として名指ししているものです。すなわち企画立案の記録、主催者が誰か、旅行の目的・規模・行程が分かる資料、参加割合を後から再現できる名簿(分母に誰を入れたか、どの単位の行事だったか)、そして会社と参加者それぞれの負担額・負担割合です。参加率は後から作れないので、案内文と参加者名簿を旅行のたびに保存しておくのが実務上いちばん確実です。

消費税の仕入税額控除の取扱いは、国内旅行と海外旅行とで分かれます。本記事は所得税・法人税の取扱いに絞っており、消費税法の条文までは確認していないため立ち入っていません。

給与課税が乗ったときの手取りへの影響を試算する

よくある質問

Q. 4泊5日以内で参加率50%以上なら、必ず非課税になりますか?

A. 必ずとは言えません。昭和63年5月25日直法6-9は、旅行の企画立案・主催者・目的・規模・行程・参加割合・負担額・負担割合などを総合的に勘案して実態に即した処理を行うことを本体とし、2つの要件を満たす場合は原則として課税しなくて差し支えないという書き方をしています。国税庁 No.2603 はこれに加えて、少額の現物給与は強いて課税しないという少額不追求の趣旨を逸脱しないことを求めています。要件は非課税の目安であって、十分条件ではありません。

Q. 海外旅行の4泊5日は、出発から帰国までの日数で数えますか?

A. 数えません。要件の括弧書きが、目的地が海外の場合には目的地における滞在日数によると定めています。移動に費やした日は滞在日数に含まれないため、暦の上では6日間の日程でも、現地滞在が4泊5日以内であれば要件を満たしうることになります。国内旅行にはこのような数え方の特則が置かれていません。

Q. 参加率が全社では50%に届きませんでした。もう課税ですか?

A. 直ちに課税と決まるわけではありません。まず要件の括弧書きにより、工場・支店等で行う旅行については、その工場・支店等の従業員等が分母になります。実際にその単位の行事として企画・実施されているなら、分母はその人数です。また要件を外れた場合でも、判定の本体は総合勘案なので、一律に給与とされるとは限りません。ただし要件という目安を外している以上、説明できる材料を残しておく必要は高くなります。

Q. 都合が悪くて行けなかった人に、代わりに現金を渡してもよいですか?

A. 税務上は避けるのが安全です。所得税基本通達36-30は、参加しなかった者に参加に代えて金銭を支給する場合を非課税の扱いから外しています。国税庁 No.2603 の注1は、自己の都合で参加しなかった人に金銭を支給する場合、参加者と不参加者の全員にその金額に相当する額の給与の支給があったものとされるとしています。従業員40人の会社で3万円を渡すと、合計120万円の給与があったものとして扱われる計算になります。

Q. 出張のため参加できなかった人に旅行代相当額を渡した場合はどうなりますか?

A. 参加した人の経済的利益については、36-30本文の括弧書きが使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を除いているため、非課税の扱いは維持されます。ただし同通達の注は、参加しなかった者に支給する金銭について、業務の必要に基づき参加できなかった者を含むとしたうえで、給与等として課税することに留意すると書いています。渡した金銭そのものは、その人の給与になります。

Q. 役員が一緒に参加しても大丈夫ですか?

A. 一般に問題ありません。昭和63年5月25日直法6-9は対象を従業員等とし、これを役員又は使用人と定義しています。所得税基本通達36-30も役員又は使用人を並べて書いています。非課税の扱いから外れるのは、役員だけを対象として費用を負担する場合です。国税庁 No.2603 も、役員だけで行う旅行を従業員レクリエーション旅行に該当しないものの1つに挙げています。

Q. 個人事業主が従業員を慰安旅行に連れて行った場合、自分の分はどうなりますか?

A. 事業主本人は自分の使用人ではないため、使用者が役員又は使用人に供与する経済的利益を扱う所得税基本通達36-30の枠組みは、本人の分には当てはまりません。従業員に支給する海外渡航の旅費については所得税基本通達37-17が、事業の遂行上直接必要でありかつ通常必要と認められる部分に限って必要経費に算入するとしており、そこから外れた部分は給与等または役務の報酬として扱われます。

Q. 研修を兼ねた旅行にすれば、全額を経費にできますか?

A. できるとは限りません。国税庁 No.2603 は、研修旅行の費用に業務を行うために直接必要な部分と直接必要でない部分がある場合、直接必要でない部分は参加する人の給与として課税されるとしています。所得税基本通達37-19も、観光渡航の許可を得て行う旅行、旅行あっせんを行う者等が行う団体旅行に応募してする旅行、同業者団体等が主催して行う団体旅行で主として観光目的と認められるものを、原則として事業の遂行上直接必要な海外渡航に該当しないものとしています。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の税務についての助言ではありません。社員旅行の費用が給与として課税されるかどうかは、旅行の企画立案・主催者・目的・規模・行程・参加割合・負担額および負担割合を総合的に勘案して判定されるため、要件の形式的な充足だけで結論が決まるものではありません。実際の処理については税理士に、参加の強制や労働時間の取扱いについては社会保険労務士にご確認ください。数値例は理解のための設例であり、実際の税額を示すものではありません。

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