旅費交通費とは — 範囲・仕訳・通勤手当/交際費との境界・消費税区分を条文で
結論から言うと、旅費交通費とは、業務のために人が移動し、滞在するのにかかった費用をまとめる費用科目です。電車・バス・タクシー・航空券・新幹線の運賃、出張先の宿泊費、旅費規程にもとづく出張の日当、社用車や自家用車のガソリン代・駐車場代・高速道路料金が、実務では一般にここに入ります。境界になるのは「人の移動か、物の輸送か」「業務の移動か、通勤か」「自社の人のためか、得意先のためか」の3つで、物の輸送は荷造運賃・運搬費、毎日の通勤は通勤手当、得意先を連れて行く費用は交際費等へ分かれます。
ただし、「旅費交通費」という科目名を法律が定義しているわけではありません。法人税法・所得税法・それぞれの施行令・消費税法・会社法・会社計算規則・財務諸表等規則の条文本文を e-Gov 法令API で全文検索しても、この語は0回です。勘定科目一覧の記事で実測したとおり、毎日使う費用科目ほど条文に名前がありません。それでも法人税法施行規則の別表二十四(十四)・別表二十五(二)・別表二十六の3か所には「旅費交通費」が名指しで出てきます。本文には無いが別表には在る、というのがこの科目の法令上の位置です。
この記事は、①法令の中の「旅費交通費」の位置、②範囲と隣の科目との境界、③仕訳の型(立替精算・仮払・交通系ICカード)、④消費税の区分(国内・国際線・通勤手当・ガソリンと軽油)、⑤個人事業主の家事按分、⑥東京→大阪の日帰り出張を使った設例、の順で整理します。出張の日当の非課税判定・旅費規程の作り方・インボイスの出張旅費特例は出張旅費規程と日当の記事に、通勤手当の非課税限度額は通勤手当の記事に、領収書の出ない支出の帳簿の書き方は出金伝票の記事に譲ります。
法令の中の「旅費交通費」 — 条文本文は0回、法人税法施行規則の別表に3回
まず法令上の位置を確かめます。法人税法施行規則54条は、青色申告法人に仕訳帳・総勘定元帳・その他必要な帳簿を備え、別表二十四に定めるところにより記載するよう求めています。
青色申告法人は、全ての取引を借方及び貸方に仕訳する帳簿(次条において「仕訳帳」という。)、全ての取引を勘定科目の種類別に分類して整理計算する帳簿(次条において「総勘定元帳」という。)その他必要な帳簿を備え、別表二十四に定めるところにより、取引に関する事項を記載しなければならない。
その別表二十四の(十四)「(十三)に掲げるもの以外の経費に関する事項」に、費目の例示として旅費交通費が出てきます。
賃金、給料手当、法定福利費、厚生費、外注工賃、動力費、消耗品費、修繕費、減価償却費、繰延資産の償却費、地代家賃、保険料、旅費交通費、通信費、水道光熱費、手数料、倉敷料、荷造包装費、運搬費、広告宣伝費、公租公課、機密費、接待交際費、寄附金、利子割引料、雑費等に、それぞれ適当な名称を付して区分し、それぞれ、その取引の年月日、支払先、事由及び金額。
2か所目は決算書の科目です。同規則57条が、青色申告法人の貸借対照表と損益計算書を「おおむね別表二十五に掲げる科目に従い」作るよう定めています。
青色申告法人は、各事業年度終了の日現在において、その業種、業態及び規模等の実情により、おおむね別表二十五に掲げる科目に従い貸借対照表及び損益計算書を作成しなければならない。
その別表二十五(二)損益計算書の「損失の部」に並ぶ科目の中に、旅費交通費があります。
商品製品原材料等仕入高、期首商品製品原材料等棚卸高、賃金、給料手当、法定福利費、厚生費、外注工賃、動力費、消耗品費、地代家賃、保険料、修繕費、減価償却費、繰延資産の償却費、旅費交通費、通信費、水道光熱費、手数料、倉敷料、荷造包装費、運搬費、広告宣伝費、公租公課、機密費、接待交際費、寄附金、利子割引料、雑費
3か所目は青色申告でない法人(白色申告の普通法人等)の帳簿です。法人税法150条の2が財務省令で定める「簡易な方法」で記録せよと命じ、同規則66条2項がその方法を別表二十六に委ねています。
法第百五十条の二第一項に規定する財務省令で定める簡易な方法は、別表二十六の区分の欄に掲げる事項の区分に応じ同表の記録方法の欄に定める方法とする。
別表二十六の(十四)も別表二十四と同じ費目の例示を持ち、旅費交通費を挙げています。つまり、青色でも白色でも、法人の帳簿は「旅費交通費」を1つの区分として記録することが規則の別表で想定されているということです。一方、所得税法・所得税法施行令・所得税法施行規則には、本文にも別表にもこの語はありません。個人事業主が使う「旅費交通費」は、青色申告決算書の費目欄にならった慣行の名前です。
範囲 — 何が旅費交通費に入るか
法令は費目の名前を例示するだけで、中身を定義していません。そこで実務の整理を表にします。法人税法22条3項2号が損金とする「販売費、一般管理費その他の費用」、所得税法37条1項が必要経費とする「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」の一部を、移動と滞在の費用として切り出したものが旅費交通費だと考えると位置づけがはっきりします。
前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
| 支出 | 一般的な科目 | 補足 |
|---|---|---|
| 電車・バス・地下鉄・新幹線の運賃 | 旅費交通費 | 業務のための移動。通勤は通勤手当へ |
| タクシー代 | 旅費交通費 | 得意先を送るためのタクシーは交際費等の側で検討 |
| 航空券(国内線・国際線) | 旅費交通費 | 消費税の区分が違う(国内線は課税・国際線は免税) |
| 出張先の宿泊費 | 旅費交通費 | 朝食付きプランの食事分も通常は分けない |
| 出張の日当(旅費規程に基づくもの) | 旅費交通費 | 受け取る側は所得税法9条1項4号で非課税。範囲は出張旅費規程の記事へ |
| ガソリン代・駐車場代・高速道路料金(業務使用分) | 旅費交通費 または 車両費 | 社有車の維持費をまとめて車両費にする会社もある。どちらでも税額は変わらない。決めたら継続する |
| レンタカー・カーシェア代 | 旅費交通費 | 業務のための一時利用 |
| 交通系ICカードへのチャージ | 前払金・仮払金など(チャージ時) | 乗車した時点で旅費交通費へ。チャージは物品切手等の購入で非課税 |
| 引越費用(転勤に伴うもの) | 旅費交通費 | 転任に伴う転居の旅行は所得税法9条1項4号・消費税法施行規則15条の4第2号の対象 |
| 宅配便・郵送・商品の配送料 | 荷造運賃・運搬費・通信費 | 物の輸送は旅費交通費ではない(別表二十五も荷造包装費・運搬費を別に挙げる) |
表の右列にあるとおり、旅費交通費か車両費か、旅費交通費か研修費か(研修会場までの交通費)は、法令上どちらでも損金・必要経費の結論は変わりません。大事なのは一度決めた分け方を毎期続けることで、期によって科目が動くと前期比較ができなくなり、税務調査でも説明を求められます。
隣の科目との境界 — 通勤手当・出張の日当・交際費・会議費・福利厚生費・荷造運賃・車両費
科目の境界は、多くが条文の側に根拠を持っています。1つずつ条文で確かめます。
通勤手当 — 毎日の通勤は「旅行」ではない
所得税法9条1項は、4号で出張などの「旅行」に伴う金品を、5号で通勤手当を、別々の号で非課税にしています。5号はこう書かれています。
給与所得を有する者で通勤するもの(以下この号において「通勤者」という。)がその通勤に必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のために支出する費用(自動車その他の交通用具の駐車のための施設の利用のために支出する費用を含む。)に充てるものとして通常の給与に加算して受ける通勤手当(これに類するものを含む。)のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定めるもの
「通常の給与に加算して受ける」とあるように、通勤手当は給与の一部です。科目は通勤手当(給与手当の内訳)か旅費交通費かで会社ごとに分かれますが、源泉所得税の計算では非課税限度額(月15万円)があり、社会保険料の計算では報酬に含める、という扱いは科目名で変わりません。限度額の早見表と落とし穴は通勤手当の非課税限度額の記事にまとめています。
出張の日当 — 旅費交通費に入るが、非課税の判定は別の話
同じ9条1項4号が、出張に伴い支給される金品を非課税にしています。
給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの
会社側の科目は旅費交通費で、実費精算の交通費・宿泊費と同じ行に並びます。ただし「通常必要であると認められる」かどうかは支給する側の規程と相場で決まり、超えた部分は給与として課税されます。日当の相場・超えた部分の所得区分・旅費規程の書き方は出張旅費規程と日当の記事に譲ります。
交際費等 — 得意先のための移動は交際費等の定義に当たる
租税特別措置法61条の4第6項が交際費等を定義しています。
交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(以下この項において「接待等」という。)のために支出するもの
接待の席へ得意先を送り迎えするタクシー代、得意先を招待する旅行の費用は、この定義の「接待等のために支出するもの」に当たります。措置法関係通達 61の4(1)-4 は、売上割戻しと同じ基準で行う招待でも交際費等だと明記しています。
得意先を旅行、観劇等に招待する場合には、たとえその物品の交付又は旅行、観劇等への招待が売上割戻し等と同様の基準で行われるものであっても、その物品の交付のために要する費用又は旅行、観劇等に招待するために要する費用は交際費等に該当するものとする。
一方、自社の担当者がその接待の場所まで行く交通費は、自社の人の業務上の移動なので旅費交通費で差し支えないとする整理が一般的です。ただし1人1万円以下の飲食費の判定や損金算入限度額との関係は、交際費と会議費の違いの記事で条文から確認してください。
会議費・福利厚生費 — 「交際費等から外れる費用」の側にある
同じ61条の4第6項は、交際費等から除かれる費用を号で挙げています。1号が従業員の慰安旅行です。
専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用
社員旅行の交通費・宿泊費は、人の移動・滞在の費用ですが、目的が慰安なので福利厚生費に集めるのが一般的です。また施行令37条の5第2項2号が会議の飲食を交際費等から外しています。
会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用
これは飲食物の話で、会議場まで移動する交通費は会議費ではなく旅費交通費に入れるのが通常です。会議費に交通費を混ぜると、1人あたり飲食費の判定資料が作りにくくなります。
荷造運賃・運搬費 — 物の輸送は別の科目
先に引いた別表二十四(十四)・別表二十五は、旅費交通費と並べて「荷造包装費、運搬費」を別の例示として挙げています。宅配便で商品や書類を送る費用は荷造運賃(または通信費)で、旅費交通費には入れません。人が動いたか、物が動いたかで分けます。
仕訳の型 — 立替精算・仮払金・交通系ICカード
旅費交通費の仕訳は、お金の流れが3通りあります。
| 場面 | 支出時 | 精算時 |
|---|---|---|
| 従業員が立て替え、後日精算 | (会社側の仕訳なし。従業員が精算書と領収書を提出) | 旅費交通費 / 未払金(または現金・普通預金) |
| 出張前に概算で渡す(仮払) | 仮払金 / 現金 | 旅費交通費 / 仮払金 不足分は現金を追加、余りは現金で戻す |
| 交通系ICカードにチャージ | 前払金(または仮払金・貯蔵品) / 現金 | 乗車ごと、または月末に利用履歴で 旅費交通費 / 前払金 |
| 法人カードで航空券・新幹線を予約 | 旅費交通費 / 未払金(カード引落日に 未払金 / 普通預金) | — |
立替精算の要は、旅費交通費を計上する日付を精算日ではなく出張した日(または精算書の承認日)に揃えることです。期末をまたぐ出張を翌期の精算日で計上すると、費用が1期ずれます。仮払金の性格と精算の考え方は仮払金・仮受金の記事に書きました。
交通系ICカードは仕訳より消費税の側が大事です。チャージは「物品切手等」の購入で、消費税法基本通達 6-4-4 の注は、いわゆるプリペイドカードが物品切手等に当たると書いています。
いわゆるプリペイドカードは、物品切手等に該当する。
そして同通達 11-3-7 が、物品切手等は購入時ではなく引換給付を受けた時に課税仕入れになると定めています。
法別表第二第4号イ又はハ《郵便切手類等の非課税》に規定する郵便切手類又は物品切手等は、購入時においては課税仕入れには該当せず、役務又は物品の引換給付を受けた時に当該引換給付を受けた事業者の課税仕入れとなるのであるから留意する。
したがって原則は、チャージ時は前払金(非課税仕入れ)、乗車時に旅費交通費(課税仕入れ)です。同通達のただし書は、継続適用を条件に支払日の課税仕入れとする扱いを認めていますが、その対象として挙げているのは(1)郵便切手類と(2)施行令49条1項1号ロ(入場券などが回収される課税仕入れ)の2つで、鉄道運賃が当たる同号イ(公共交通機関特例)は列挙されていません。チャージ額を丸ごとチャージ日の旅費交通費・課税仕入れにしてしまう処理は、この文言から見ると原則どおりではないので、利用履歴(券売機やアプリで出力できる)で乗車分を月末にまとめて振り替える運用が文言に忠実です。物販や飲食の自動販売機でICカードを使った分は旅費交通費ではないので、履歴で分けます。
なお、電車代に領収書が無くても帳簿だけで仕入税額控除ができる公共交通機関特例(税込3万円未満)と、その場合に帳簿へ足す記載事項は、出金伝票の記事で条文から整理しています。
消費税の区分 — 国内は課税、国際線は免税、チャージは非課税、軽油引取税は対価に含めない
旅費交通費は金額の大半が課税仕入れですが、中に区分の違うものが混ざります。表にします。
| 支出 | 消費税の区分(支払う側) | 根拠 |
|---|---|---|
| 国内の電車・バス・タクシー・国内線航空券・宿泊・高速・駐車場・レンタカー | 課税仕入れ(10%) | 国内の役務の提供。税込3万円未満の船舶・バス・鉄道・軌道は帳簿のみで控除可(施行令70条の9第2項1号、49条1項1号イ) |
| 国際線の航空券・国際線に乗り継ぐ国内区間(24時間以内・一体の契約) | 免税(仕入税額控除の対象にならない) | 消費税法7条1項3号、基本通達7-2-4 |
| 海外出張先での交通費・宿泊費 | 不課税(国外取引) | 国内取引ではない。海外出張の日当の扱いは出張旅費規程の記事へ |
| 出張の日当・宿泊費の定額支給(通常必要と認められる部分) | 課税仕入れ。帳簿のみで控除可 | 施行令49条1項1号ニ → 施行規則15条の4第2号、基本通達11-6-4 |
| 通勤手当(通常必要と認められる部分) | 課税仕入れ。帳簿のみで控除可 | 施行規則15条の4第3号、基本通達11-6-5 |
| 交通系ICカードへのチャージ | 非課税(物品切手等の購入)。乗車時に課税仕入れ | 消費税法 別表第二 4号ハ、施行令11条、基本通達6-4-4・11-3-7 |
| ガソリン(揮発油税込み) | 課税仕入れ。揮発油税を含む全額が対価 | 基本通達10-1-11 |
| 軽油(軽油引取税が区分記載されているもの) | 軽油引取税の部分は対価に含めない(不課税) | 基本通達10-1-11 |
国際線が免税になる根拠は消費税法7条1項3号です。
国内及び国内以外の地域にわたつて行われる旅客若しくは貨物の輸送又は通信
売る側(航空会社)にとっての免税なので、買う側の旅費交通費には消費税が乗っておらず、仕入税額控除の対象になりません。会計ソフトで「課税仕入れ10%」に初期設定されたまま国際線を入力すると、控除しすぎになります。
通勤手当が課税仕入れになるのは、消費税法施行規則15条の4第3号が、請求書等の交付を受けることが困難な課税仕入れとして明記しているからです。
事業者がその使用人等で通勤する者(以下この号において「通勤者」という。)に対して支給する所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第九条第一項第五号(非課税所得)に規定する通勤手当のうち、通勤者につき通常必要であると認められる部分に係る課税仕入れ
所得税では「非課税」、消費税では「課税仕入れ」。同じ通勤手当に2つの税法がそれぞれ別の言葉を当てているので、混同しないことが大切です。
ガソリンと軽油の差は、基本通達10-1-11 が個別消費税の扱いを分けているためです。
法第28条第1項《課税標準》に規定する課税資産の譲渡等の対価の額には、酒税、たばこ税、揮発油税、石油石炭税、石油ガス税等が含まれるが、軽油引取税、ゴルフ場利用税及び入湯税は、利用者等が納税義務者となっているのであるから対価の額に含まれないことに留意する。ただし、その税額に相当する金額について明確に区分されていない場合は、対価の額に含むものとする。
社有車がディーゼル車なら、給油レシートの「軽油引取税」の行は課税仕入れから外します。ガソリン車のレシートにある揮発油税は外しません。どちらも旅費交通費(車両費)の金額には入りますが、消費税の集計だけが違います。
公共交通機関特例の対象は、施行令70条の9第2項1号が列挙しています。
次に掲げる役務の提供のうち当該役務の提供に係る税込価額(法第五十七条の四第一項第四号に規定する税込価額をいう。)が三万円未満のもの
続くイからニまでが船舶・バス(一般乗合旅客自動車運送事業)・鉄道・軌道で、タクシーと航空機は含まれていません。タクシー代は領収書(適格簡易請求書で足ります)を受け取り、航空券は予約サイトや航空会社の領収書データを保存します。
税込金額から消費税額と税抜金額を出す・税率ごとに1回の端数処理で集計する(消費税計算機)個人事業主の旅費交通費 — 必要経費と家事按分
個人事業主の旅費交通費は、所得税法37条1項の必要経費に当たります。
その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
法人と違うのは2点です。第一に、事業主本人に日当を支給して経費にする仕組みはありません。所得税法9条1項4号は「給与所得を有する者」の旅行についての規定で、事業主本人は給与所得者ではないからです。出張の実費(交通費・宿泊費)が必要経費になります。第二に、自家用車のガソリン代や自宅兼事務所から使う定期券のように、事業と家事が混ざる支出は家事関連費として按分が要ります。所得税法施行令96条1号の要件はこうです。
家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
所得税基本通達45-2は「主たる部分」を50%超で判定するとしつつ、ただし書で区分できれば50%以下でも必要経費にできると書いています。
ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。
自家用車なら走行記録(業務での走行距離÷総走行距離)、定期券なら業務で使った日数の記録が「明らかに区分」の材料です。仮に月のガソリン代が20,000円で、走行記録から業務使用が60%なら、旅費交通費(車両費)12,000円、残り8,000円は事業主貸です。按分の根拠の強弱と、按分基準の選び方は家事按分の記事で条文と通達から整理しています。
設例 — 東京→大阪 日帰り出張の仕訳と消費税区分
金額は仮の数字です。従業員Aが東京から大阪へ日帰りで得意先を訪問し、次の支出を立て替えて、翌週に精算書と領収書を提出したとします。
| 支出 | 金額(税込・仮) | 科目 | 消費税 | 保存する書類 |
|---|---|---|---|---|
| 新幹線 東京⇔新大阪 往復 | 28,000円 | 旅費交通費 | 課税仕入れ10% | 税込3万円未満の鉄道なので帳簿のみで可。券売機の領収書があれば保存 |
| 在来線(交通系ICカード) | 600円 | 旅費交通費 | 課税仕入れ10% | 帳簿のみで可(公共交通機関特例)。利用履歴を添付 |
| 得意先までのタクシー | 2,200円 | 旅費交通費 | 課税仕入れ10% | タクシーの領収書(適格簡易請求書) |
| 日当(旅費規程 日帰り) | 2,000円 | 旅費交通費 | 課税仕入れ10%(出張旅費特例・帳簿のみ) | 精算書と旅費規程 |
| 合計 | 32,800円 |
精算日の仕訳は 旅費交通費 32,800 / 未払金 32,800、支払日に 未払金 32,800 / 普通預金 32,800 です。消費税は4行とも課税仕入れ10%なので、税込32,800円を課税仕入れとして集計します。Aの昼食代は日当に含まれる前提なので別に計上しません。もしこの出張で得意先を昼食に招いたなら、その飲食代は旅費交通費ではなく交際費等(または1人1万円以下の飲食費)の側で判定します。帰りの新幹線を得意先の担当者の分まで買ったなら、その分も交際費等です。
逆方向の確認として、この出張が海外(東京→ソウル 日帰り)なら、国際線航空券は免税で課税仕入れから外れ、現地のタクシー代は不課税、日当は出張旅費特例の対象でも国外での支出に充てる部分は課税仕入れにならない、と区分が3種類に割れます。海外出張の扱いは出張旅費規程の記事の「海外出張の日当」の節をご覧ください。
よくある質問
Q. 旅費交通費とは何ですか?
A. 業務のために人が移動し滞在するのにかかった費用(電車・バス・タクシー・航空券・新幹線の運賃、宿泊費、旅費規程に基づく出張の日当、業務使用分のガソリン代・駐車場代・高速道路料金)をまとめる費用科目です。法令に定義はなく、法人税法施行規則の別表二十四(十四)・別表二十五(二)・別表二十六が帳簿の記載区分と損益計算書の科目として名前を挙げています。
Q. 通勤手当は旅費交通費ですか、給与ですか?
A. 所得税法9条1項5号は通勤手当を「通常の給与に加算して受ける」ものとしており、性質は給与です。科目を旅費交通費にするか給与手当の内訳にするかは会社の方針で、どちらでも非課税限度額(月15万円)の判定と社会保険料の算定への算入は変わりません。
Q. 得意先を接待する場所へ行くタクシー代は旅費交通費ですか?
A. 自社の担当者が移動する分は旅費交通費で差し支えないとする整理が一般的です。得意先を送り迎えする分や得意先を招待する旅行の費用は、租税特別措置法61条の4第6項の「接待等のために支出するもの」に当たるので交際費等の側で判定します。
Q. 社員旅行の交通費や宿泊費はどの科目ですか?
A. 租税特別措置法61条の4第6項1号が「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」を交際費等から除いており、実務では福利厚生費に集めます。業務の出張ではないので旅費交通費には入れません。
Q. 交通系ICカードのチャージは、チャージした時に旅費交通費にしてよいですか?
A. 原則はできません。チャージは物品切手等の購入で非課税、乗車した時に課税仕入れになります(消費税法基本通達6-4-4注・11-3-7)。チャージ時は前払金などで受け、利用履歴で乗車分を旅費交通費へ振り替えます。
Q. 電車代に領収書がなくても経費にできますか?
A. できます。消費税は税込3万円未満の船舶・バス・鉄道・軌道について帳簿のみで仕入税額控除が認められ(施行令70条の9第2項1号・49条1項1号イ)、その場合は帳簿に特例の対象である旨を足します。法人税・所得税の側は日付・区間・金額・目的を精算書や出金伝票で記録します。タクシーと航空機はこの特例の対象外です。
Q. 国際線の航空券に消費税はかかっていますか?
A. かかっていません。国内と国外にわたる旅客輸送は消費税法7条1項3号で免税なので、買う側の仕入税額控除の対象にもなりません。会計ソフトの初期値が課税仕入れ10%のままだと控除しすぎになります。
Q. 個人事業主は自分の出張に日当を出して経費にできますか?
A. できません。所得税法9条1項4号は給与所得者の旅行についての非課税規定で、事業主本人には当てはまりません。実費の交通費・宿泊費が必要経費になり、自家用車のガソリン代などは所得税法施行令96条1号と通達45-2に従って業務使用分を明らかに区分して按分します。
出典
- e-Gov法令検索 法人税法施行規則(昭和四十年大蔵省令第十二号) — 第54条(取引に関する帳簿及び記載事項)、第57条(貸借対照表及び損益計算書)、第66条第2項(普通法人等の帳簿の記録方法)、別表二十四(十四)、別表二十五(二)、別表二十六。法人税法(昭和四十年法律第三十四号) — 第22条第3項第2号(損金の額)、第150条の2(帳簿書類の備付け等)
- e-Gov法令検索 所得税法(昭和四十年法律第三十三号) — 第9条第1項第4号・第5号(非課税所得:旅費・通勤手当)、第37条第1項(必要経費)、第45条第1項第1号(家事関連費等の必要経費不算入)。所得税法施行令 — 第96条第1号(家事関連費)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号) — 第61条の4第6項(交際費等の定義・同項第1号)。租税特別措置法施行令 — 第37条の5第1項(1人当たり1万円)・第2項第2号(会議に関連する飲食)
- e-Gov法令検索 消費税法(昭和六十三年法律第百八号) — 第7条第1項第3号(国際輸送の免税)、第30条第7項(帳簿及び請求書等の保存)、別表第二第4号ハ(物品切手等)。消費税法施行令 — 第11条(物品切手に類するものの範囲)、第49条第1項第1号(帳簿のみ保存の場合)、第70条の9第2項第1号(公共交通機関特例)。消費税法施行規則 — 第15条の4第2号・第3号(出張旅費等・通勤手当)
- 国税庁 消費税法基本通達 第6章第4節 6-4-4(物品切手等に該当するかどうかの判定・注「いわゆるプリペイドカード」)、第7章第2節 7-2-4(旅客輸送に係る国際輸送の範囲)、第10章第1節 10-1-11(個別消費税の取扱い)、第11章第3節 11-3-7(郵便切手類又は物品切手等の引換給付に係る課税仕入れの時期)、第11章第6節 11-6-4(出張旅費、宿泊費、日当等)・11-6-5(通勤手当)
- 国税庁 所得税基本通達 法第45条関係 45-1・45-2(家事関連費の主たる部分・業務の遂行上必要な部分)
- 国税庁 租税特別措置法関係通達(法人税編)61の4(1)-4(売上割戻し等と同一の基準により物品を交付し又は旅行、観劇等に招待する費用)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・税理士にご確認ください。