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敷金・保証金の経理 — 払っても費用にならない。返ってくる部分は資産、返ってこない部分は繰延資産で原則5年

結論から言うと、事務所を借りるときに払う敷金・保証金は、払った時点では1円も費用になりません。そして、この1件の入金は「返ってくる部分」と「返ってこない部分」で、処理が最後まで別々に進みます。返ってくる部分は差入保証金などの科目で資産に計上したまま動かさず、返ってこない部分(いわゆる敷引き・保証金の償却)だけが繰延資産になって、数年かけて費用に落ちていきます。

ここで実務がつまずくのは、契約書に書いてある名前では何も決まらないという点です。民法622条の2は敷金を「いかなる名目によるかを問わず」と定義しました。逆に税法の側を見ると、法人税法施行令にも法人税基本通達にも「敷金」という言葉は出てきません。処理を決めているのは名前ではなく、返還されるかどうかという一点です。

もうひとつ金額が動くのが償却期間です。返ってこない部分の償却期間は原則5年で、「契約期間が2年だから2年で落とす」は誤りになることがあります。法人税基本通達8-2-3が賃借期間を使ってよい場合に条件を付けているためです。以下、民法・法人税・所得税・消費税の順に、条文と通達で確認していきます。

結論 — 1件の入金が3つの箱に分かれる

敷金や保証金を払ったときの処理は、次の3つに分かれます。1件の振込が、契約の中身に応じて別々の箱に入っていくイメージです。

部分会計上の扱いいつ費用になるか消費税
返ってくる部分差入保証金(資産)費用にならない。返還時に現預金へ戻る不課税(対価性なし)
返ってこない部分(敷引き・償却)で20万円以上繰延資産(長期前払費用として表示することも多い)原則5年で月割償却権利の設定の対価。事務所なら課税、住宅なら非課税
返ってこない部分で20万円未満法人は損金経理すれば費用/個人は必要経費支出した年度に全額同上
敷金・保証金を支払う (名目は問わない) 契約が終わったら 返ってくるか? 返る 返らない 差入保証金(資産)/消費税は不課税 費用にならない。残高はそのまま残る 権利金と同じ扱い/消費税は対価に該当 20万円以上か? 以上 → 繰延資産・原則5年 未満 → 一時に費用
敷金・保証金の分岐。「返ってくるか」で最初に割れ、返ってこない部分がさらに20万円で割れる。
先に押さえる3点
  • 払っただけでは費用にならない。費用になるのは「返ってこないと決まった部分」だけ
  • 契約書の名前(敷金・保証金・建設協力金)では決まらない。返還条項で決まる
  • 返ってこない部分の償却期間は原則5年。賃借期間で落とせるのは条件を満たしたときだけ

民法622条の2 — 「いかなる名目によるかを問わず」

まず民法から確認します。敷金は長いあいだ条文に定義がなく、判例と慣行で運用されてきましたが、平成29年改正で条文に入りました。それが民法622条の2です。第1項の柱書は、括弧の中で敷金そのものを定義しています。

敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)

実務上いちばん効くのは冒頭の「いかなる名目によるかを問わず」です。契約書に「保証金」と書いてあっても、「預り金」と書いてあっても、賃貸借から生じる賃借人の債務を担保する目的で交付した金銭であれば、民法上は敷金として扱われます。科目を決めるときに契約書のタイトルだけを見ても答えは出ない、ということです。

もうひとつ、条文の作りとして見落とされやすいのが末尾の「以下この条において同じ」です。この定義は622条の2の中でだけ効くもので、民法の他の条文や、まして税法の条文に自動で及ぶわけではありません。実際、後で見るとおり法人税法施行令は「敷金」という語をそもそも使っていません。

条文を探すときの注意

民法の賃貸借の節を眺めると、601条には(賃貸借)、611条には(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)、621条には(賃借人の原状回復義務)というように、条文には見出しが付いています。ところが622条の2にだけ見出しが付いていません。見出しの一覧から「敷金」を探しても見つからないので、条番号で直接引く必要があります。

税法に「敷金」という言葉はほとんど無い

次に税法を見ます。ここが本題です。返ってこない敷金が繰延資産になる根拠は、法人税法施行令14条1項6号ロです。条文はこう書かれています。

資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立ちのき料その他の費用

この号を受けた法人税基本通達8-1-5は、具体例として次のものを挙げています。

建物を賃借するために支出する権利金、立退料その他の費用

どちらにも「敷金」という言葉は出てきません。出てくるのは「権利金」「立ちのき料(立退料)」「その他の費用」です。返ってこない敷金がここに入るのは、それが実質的に権利金と同じ性質を持つ支出だからであって、「敷金だから繰延資産」という条文があるわけではありません。だからこそ、判断の分かれ目は名前ではなく返還の有無になります。

細かい点ですが、施行令は「立ちのき料」、通達は「立退料」と表記が違います。検索で条文を探すときは、どちらの表記も試す必要があります。

個人事業主も同じ構造です。所得税法施行令7条1項3号ロが、法人と一字一句同じ「資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立ちのき料その他の費用」を繰延資産としています。法人と個人で、繰延資産の範囲そのものは変わりません。変わるのは、あとで見る20万円未満の扱いです。

一方、「敷金」という語を名指ししている一次資料が1つだけあります。消費税法基本通達5-4-3です。同じ支出について、法人税は名前を使わず、消費税は名前を使う。この非対称は後半の消費税のところで扱います。

返ってくる部分 — 資産のまま動かさない

契約終了時に返ってくる部分は、差入保証金(または敷金・保証金といった科目名)で資産に計上します。相手に預けているだけで、こちらの財産が減ったわけではないからです。したがって、この部分は償却もしませんし、期間対応で費用に振り替えることもしません。契約が続いているあいだ、貸借対照表に同じ金額が載り続けます。

貸借対照表のどこに置くかは、返還されるまでの期間で決まります。決算日の翌日から1年を超えて返ってこないなら固定資産の「投資その他の資産」、1年内に返ってくるなら流動資産に振り替えます。事務所の賃貸借は通常2年以上続くので、契約中はほとんどが投資その他の資産に載ります。

ここで、上場会社などが従う財務諸表等規則を見ると、少し面白いことが分かります。投資その他の資産の区分表示を定める32条1項は、投資有価証券・関係会社株式・長期貸付金・長期前払費用・繰延税金資産などを号で挙げていますが、「差入保証金」という項目は挙げられていません。列挙のいちばん最後にある15号「その他」で受けることになります。ただし同条2項が17条2項を準用しており、17条2項は次のように定めています。

前項の規定は、同項各号の項目に属する資産で、別に表示することが適当であると認められるものについて、当該資産を示す名称を付した科目をもつて別に掲記することを妨げない。

つまり、「差入保証金」という科目名で単独表示することは、規則が明示的に許していることになります。金額が大きい場合に「その他」へ埋めてしまうより、名称を付けて掲記するほうが読み手には親切です。中小企業の決算書でも同じ考え方で問題ありません。

返ってこない部分 — 繰延資産になる

問題は返ってこない部分です。関西を中心に「敷引き」、関東でも「保証金の償却」と呼ばれる部分で、契約書には「本保証金のうち20%は返還しない」「1年経過ごとに10%を償却する」といった形で書かれます。この部分は、返ってこないことが確定した時点で、こちらの財産が確定的に減っています。したがって費用の性質を持ちますが、その効果は賃借している期間に及ぶため、支出した年度に全額を落とすのではなく繰延資産として資産計上し、期間配分します。

繰延資産の償却限度額を定めるのは法人税法施行令64条1項2号です。同号は、14条1項6号の繰延資産について、繰延資産の額を「支出の効果の及ぶ期間の月数」で割り、その事業年度の月数を掛けるという計算を定めています。年単位ではなく月単位である点が実務では重要で、期の途中で契約した場合は初年度が月割りになります。端数の扱いも同条4項が決めています。

第一項及び前項の月数は、暦に従つて計算し、一月に満たない端数を生じたときは、これを一月とする。

1か月未満は切り上げです。3月決算法人が3月28日に契約して敷引きを支払った場合でも、その期の償却月数は0か月ではなく1か月になります。

なお、開業費や創立費といった別グループの繰延資産は、いつでも好きなだけ償却できる「任意償却」ですが、ここで扱っている賃借に伴う繰延資産は均等償却で、任意償却はできません。この違いは繰延資産とはで詳しく扱っています。

20万円未満 — 法人は選べて、個人は選べない

返ってこない部分が少額なら、繰延資産にせず支出時に一括で落とせます。ここが、法人と個人で条文の書き方が違うところです。まず法人税法施行令134条を見ます。

内国法人が、第六十四条第一項第二号(均等償却を行う繰延資産)に掲げる費用を支出する場合において、当該費用のうちその支出する金額が二十万円未満であるものにつき、その支出する日の属する事業年度において損金経理をしたときは、その損金経理をした金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。

条件は「損金経理をしたとき」です。損金経理とは、確定した決算で費用または損失として経理することをいいます。つまり法人の場合、20万円未満であっても会社が帳簿上で費用にしなければ、この規定は働きません。資産計上したまま5年で償却する処理も、それはそれで認められます。法人には選択の余地があるということです。

個人事業主の側、所得税法施行令139条の2はこう書かれています。

居住者が支出する第七条第一項第三号(繰延資産の範囲)に掲げる費用のうちその支出する金額が二十万円未満であるものについては、前款(繰延資産の償却)の規定にかかわらず、その支出する金額に相当する金額を、その者のその支出する日の属する年分の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入する。

こちらには「損金経理をしたとき」に当たる要件がありません。前款すなわち繰延資産の償却の規定にかかわらず必要経費に算入する、と言い切っています。個人は選べず、20万円未満なら支出年に必要経費になります。同じ「20万円未満」でも、法人は任意規定、個人は当然に適用される規定という違いがあります。

間違えやすい点

「20万円未満」で判定するのは返ってこない部分の金額だけです。敷金の総額ではありません。敷金300万円のうち返ってこない部分が15万円なら、判定に使うのは15万円です。総額で判定すると、本来一時に落とせるものを5年に伸ばしてしまいます。

償却期間は原則5年 — 「2年契約だから2年」ではない

返ってこない部分を繰延資産にしたとき、何年で償却するのか。ここが実務でいちばん間違いが多いところです。法人税基本通達8-2-3は、令14条1項6号ロの繰延資産のうち「建物を賃借するために支出する権利金等」について、3つの場合に分けて償却期間を定めています。多くの賃貸借が当てはまるのは3番目で、次のように書かれています。

5年(契約による賃借期間が5年未満である場合において、契約の更新に際して再び権利金等の支払を要することが明らかであるときは、その賃借期間)

読み方に注意が必要です。「5年と契約期間の短いほう」ではありません。原則は5年で、契約期間を使えるのは次の2つの条件を両方とも満たすときだけです。

  1. 契約による賃借期間が5年未満であること
  2. 契約の更新に際して再び権利金等の支払を要することが明らかであること

事務所の賃貸借は2年契約が一般的ですが、更新時に敷金の追加や再度の敷引きを求められる契約はそれほど多くありません。更新時の再支払いが契約書から明らかでないなら、2年契約であっても償却期間は5年です。「契約期間に合わせて2年で落とす」という処理は、この2つ目の条件を確かめずに行うと過大な償却になります。

なお、同じ8-2-3には5年にならない場合も定められています。建物の新築に際して支払った権利金等で、その額が賃借部分の建設費の大部分に相当し、実際上その建物の存続期間中賃借できる状況にあると認められる場合は建物の耐用年数の10分の7、明渡しに際して借家権として転売できることになっている場合は賃借後の見積残存耐用年数の10分の7です。建設協力金を差し入れて建ててもらうような契約では、前者に当たらないかを確認します。

ケース償却期間
一般的な事務所賃貸(更新時の再支払いは不明)5年
賃借期間3年 かつ 更新時に再び権利金等の支払を要することが明らか3年(=賃借期間)
新築に際し建設費の大部分を負担し、存続期間中賃借できる建物の耐用年数 × 7/10
明渡し時に借家権として転売できる賃借後の見積残存耐用年数 × 7/10

個人事業主の場合も、償却期間の考え方は同じです。所得税法施行令137条1項2号が「その繰延資産となる費用の支出の効果の及ぶ期間の月数で除し」と定めており、法人と同じ月割計算になります。

消費税 — 同じ1件の入金が不課税と課税に割れる

消費税では、法人税と違って「敷金」という語が通達に名指しで出てきます。消費税法基本通達5-4-3です。

建物又は土地等の賃貸借契約等の締結又は更改に当たって受ける保証金、権利金、敷金又は更改料(更新料を含む。)のうち賃貸借期間の経過その他当該賃貸借契約等の終了前における一定の事由の発生により返還しないこととなるものは、権利の設定の対価であるから資産の譲渡等の対価に該当するが、当該賃貸借契約の終了等に伴って返還することとされているものは、資産の譲渡等の対価に該当しないことに留意する。

1つの文の中で、同じ入金が2つに割れています。整理すると次のとおりです。

ここで終わりではありません。返還しない部分が「資産の譲渡等の対価」に当たるとしても、それが課税になるか非課税になるかは、借りている建物の用途で決まります。消費税法別表第二13号は、住宅の貸付けを非課税としています。同号は住宅を「人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分」と定義し、貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされている場合に限る、としています。

したがって、同じ「敷引き20万円」でも、事務所なら課税仕入れとして仕入税額控除の対象になり、社宅として借りた住宅なら非課税で控除できません。契約書の用途欄が、そのまま税額に効いてきます。

用途が混ざっている場合の扱いも通達にあります。消費税法基本通達6-13-5です。

住宅と店舗又は事務所等の事業用施設が併設されている建物を一括して貸し付ける場合には、住宅として貸し付けた部分のみが非課税となるのであるから留意する。

この通達には注が付いており、その場合は建物の貸付けに係る対価の額を、住宅の貸付けに係る対価の額と事業用の施設の貸付けに係る対価の額とに合理的に区分することとされています。店舗兼住宅を一括で借りて敷引きが発生したときは、敷引きの額も同じ考え方で区分することになります。

いつ課税されるか

5-4-3が対価に該当するとしているのは「賃貸借期間の経過その他当該賃貸借契約等の終了前における一定の事由の発生により返還しないこととなるもの」です。契約時点で「保証金の20%は返還しない」と確定しているなら契約時に、「1年ごとに10%ずつ償却する」という契約なら各年の経過時に、返還しないことが確定します。返還されるかどうかが未確定のうちは、まだ対価になっていません。

設例 — 事務所の敷金300万円・敷引き20%

3月決算の法人が、10月1日に事務所を借りたとします。契約期間は2年、更新時に権利金等を再び支払う旨の定めはありません。敷金は300万円で、契約書には「本敷金のうち20%は返還しない」と書かれています。経理方式は税抜経理とします。

項目金額扱い
敷金の総額3,000,000円
返還されない部分(20%)600,000円繰延資産。20万円以上なので一時損金にはできない
返還される部分(80%)2,400,000円差入保証金(投資その他の資産)
償却期間5年(60か月)契約は2年だが、更新時の再支払いが明らかでないため5年
1か月あたりの償却額10,000円600,000円 ÷ 60か月
初年度(10月〜翌3月の6か月)の償却額60,000円10,000円 × 6か月

仕訳は次のようになります。返還されない部分には消費税がかかるため(事務所なので課税)、税抜経理では600,000円が繰延資産の額、その10%が仮払消費税等になります。

支払時(10月1日)

借方金額貸方金額
差入保証金2,400,000普通預金3,060,000
長期前払費用(繰延資産)600,000
仮払消費税等60,000

決算時(3月31日)

借方金額貸方金額
長期前払費用償却60,000長期前払費用60,000

注意したいのは消費税の控除の時期です。返還されないことが契約時に確定しているので、仕入税額控除は契約した課税期間に一括で行います。繰延資産の償却に合わせて5年に分けるわけではありません。法人税は5年、消費税は初年度に全額という、ずれた動き方をします。

もし同じ物件を社宅として借りていたら、返還されない600,000円は住宅の貸付けの対価なので非課税となり、仮払消費税等は発生しません。繰延資産の額は消費税を含んだ600,000円のままで、5年償却という点は変わりません。

敷引きが少額のときは経理方式で判定が動く

返還されない部分が20万円前後のときは、税抜経理と税込経理で判定額が変わります。たとえば税込220,000円の敷引きなら、税抜経理では200,000円ちょうど(20万円未満ではない)、税込経理では220,000円です。どちらの経理方式を採っているかで一時損金にできるかが変わることがあるため、境界付近では自社の経理方式を確認してください。経理方式そのものの違いは税抜経理と税込経理で扱っています。

返してもらうとき — 明渡しが先、相殺は請求できない

契約が終わって敷金が返ってくるときの処理は、民法622条の2第1項の書き方に沿って考えます。同項は、賃貸人が敷金を返還しなければならない場合として、1号に「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」を挙げています。「かつ」で結ばれている点が重要で、契約が終わっただけでは返還義務は生じず、物件を明け渡して初めて返還請求権が現実のものになります。

だから「解約を通知したのに敷金が返ってこない」という状況は、多くの場合は正常です。会計上も、解約通知の時点ではなく明渡しが済んで返還額が確定した時点で、差入保証金から未収入金へ振り替える処理が実態に合います。

返還額から原状回復費用が差し引かれることがありますが、その範囲を決めているのが民法621条です。

賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

括弧の中で通常損耗と経年変化が除かれている点が要点です。普通に使っていて生じた床の色あせや壁紙の日焼けは、原則として賃借人の原状回復義務の範囲外です。差し引かれた金額が通常損耗に見えるときは、契約に特約があるかを確認することになります。差し引かれた原状回復費用は修繕費などの費用として処理し、差入保証金の残高からは減らします。

そしてもう1つ、実務でよく誤解されるのが「最後の月の家賃は敷金から引いてください」が言えるかです。民法622条の2第2項は次のように定めています。

賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。

前半で賃貸人には充当する権利があると定め、後半で賃借人からは請求できないと明示しています。片方向の権利です。したがって、退去月の家賃を「敷金から相殺で」と処理することは、賃貸人が応じない限り成り立ちません。決算のときに、未払家賃と差入保証金を勝手に相殺しないのは、この条文の帰結です。

なお、貸主が倒産するなどして敷金が回収できなくなった場合は、貸倒れの問題になります。金銭債権の貸倒れとして扱えるかどうかは事実関係によるため、貸倒損失の要件に当てはめて判断します。

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よくある質問

Q. 敷金を払いました。全額を費用にできますか?

A. できません。返ってくる部分は差入保証金として資産に計上し、費用にはなりません。費用になるのは、契約上返ってこないことが確定した部分(敷引き・保証金の償却)だけです。その部分も、20万円以上であれば法人税法施行令14条1項6号ロの繰延資産として、原則5年で月割償却します。20万円未満であれば、法人は損金経理をすることで、個人は所得税法施行令139条の2により当然に、支出した年度の費用になります。

Q. 契約書に「保証金」と書いてあります。敷金とは処理が違いますか?

A. 名前では変わりません。民法622条の2は敷金を「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義しており、名目ではなく機能で判断します。税務上も、法人税法施行令や法人税基本通達は「敷金」という語を使わず、返還されない部分を「権利金、立ちのき料その他の費用」として扱っています。処理を分けるのは名前ではなく、契約書の返還条項です。

Q. 契約期間が2年です。返ってこない部分は2年で償却してよいですか?

A. 条件を満たさない限り、2年ではなく5年です。法人税基本通達8-2-3は償却期間を原則5年としたうえで、賃借期間を使えるのは「契約による賃借期間が5年未満である場合において、契約の更新に際して再び権利金等の支払を要することが明らかであるとき」に限っています。2年契約であることは1つ目の条件を満たすだけで、更新時に再び権利金等の支払が必要であることが契約から明らかでなければ、償却期間は5年になります。

Q. 敷引きに消費税はかかりますか?

A. 借りている建物の用途で変わります。消費税法基本通達5-4-3は、返還しないこととなる部分を権利の設定の対価として資産の譲渡等の対価に該当するとしています。そのうえで、消費税法別表第二13号が住宅の貸付けを非課税としているため、事務所や店舗であれば課税仕入れとして仕入税額控除の対象になり、社宅など住宅として借りている場合は非課税で控除できません。なお、返還される部分は資産の譲渡等の対価に該当せず、不課税です。

Q. 消費税の仕入税額控除も5年に分けるのですか?

A. 分けません。仕入税額控除は、返還されないことが確定した課税期間に行います。契約時点で「20%は返還しない」と確定しているなら、その契約をした課税期間に全額を控除します。法人税では繰延資産として5年で償却しながら、消費税では初年度に全額を控除するという、期間のずれた処理になります。

Q. 退去する月の家賃を、敷金から差し引いてもらえますか?

A. 賃借人の側から請求することはできません。民法622条の2第2項は、賃貸人が敷金を債務の弁済に充てることができると定める一方で、賃借人からは充当を請求することができないと明示しています。したがって、家賃は通常どおり支払い、敷金は明渡し後に精算するのが原則です。会計処理でも、未払家賃と差入保証金を相殺せず、それぞれ総額で残高を持ちます。

Q. 解約を通知しました。差入保証金を未収入金に振り替えるのはいつですか?

A. 通知した時点ではありません。民法622条の2第1項1号は、返還義務が生じるのを「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」としています。契約の終了と明渡しの両方がそろって初めて返還請求権が現実化するため、明渡しが済んで原状回復費用の精算額が確定した時点で、返還される見込み額を未収入金へ振り替えるのが実態に合います。

Q. 返ってこないことになった部分の未償却残高は、解約時にどうしますか?

A. 償却期間の途中で契約を解約した場合、その繰延資産は支出の効果が及ぶ期間を残さずに終了することになります。未償却残高の処理は個別の事情によって判断が分かれるため、金額が大きい場合は税理士に確認してください。なお、償却期間の中途で解約した場合の未償却残額の一般的な考え方は繰延資産とはでも触れています。

Q. 個人事業主が事務所を借りた場合も同じですか?

A. 繰延資産の範囲は同じです。所得税法施行令7条1項3号ロは、法人税法施行令14条1項6号ロと同じ「資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立ちのき料その他の費用」を繰延資産としています。償却も所得税法施行令137条1項2号により、支出の効果の及ぶ期間の月数で割る月割計算です。違いは20万円未満の扱いで、法人が損金経理を要件とするのに対し、個人は施行令139条の2により当然に必要経費となります。

Q. 貸借対照表では差入保証金をどこに置きますか?

A. 決算日の翌日から1年を超えて返還されないものは固定資産の投資その他の資産に、1年内に返還されるものは流動資産に置きます。財務諸表等規則32条1項は投資その他の資産の項目を号で挙げていますが、そこに差入保証金という項目はなく、15号の「その他」に含まれます。ただし同条2項が準用する17条2項により、名称を付けて別に掲記することが認められているため、金額が大きい場合は「差入保証金」として単独表示するほうが読み手に分かりやすくなります。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の税務相談ではありません。実際の会計処理・申告の判断は、税理士など有資格者にご確認ください。

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