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食事補助はいくらまで非課税か — 所得税は50%で7,500円、社会保険は3分の2。同じ日に両方が改正された

結論から言うと、会社が食事を支給しても、本人が食事の価額の半分以上を負担していることと、会社の負担額が1か月7,500円以下であることの2つを両方満たしていれば、給与として課税されません。この7,500円は令和8年4月1日からの金額で、それまでは3,500円でした。所得税基本通達36-38の2が令和8年3月31日付の令8課法12-1、課個2-3、課審5-1により改正されたためです。

ただし、この2つの要件だけを見て制度を作ると、たいてい社会保険のところで足をすくわれます。社会保険にも食事の現物給与という同じ論点があり、そちらの基準は50%ではなく3分の2です。しかも分母になる価額が違います。所得税は実際に会社が払った弁当代や材料費で数えるのに対し、社会保険は厚生労働大臣が定める現物給与の価額という、都道府県ごとに決まった額で数えます。偶然にも、この価額も同じ令和8年4月1日に改正されました。

そのため、同じ1つの食事補助制度が、所得税では課税なのに社会保険では現物給与ゼロという結果になることがあります。後半の設例では、東京の事業所で本人負担を45%にしただけで、所得税では会社負担5,500円が全額給与になるのに、社会保険では報酬に1円も乗らない形を示します。制度設計をするときは、2つの物差しを別々に当てる必要があります。

令和8年4月1日に7,500円へ — 動いた通達は1本ではない

食事補助の非課税限度額を定めているのは、法律でも政令でもなく所得税基本通達36-38の2という1本の通達です。正式な見出しは(食事の支給による経済的利益はないものとする場合)で、次の1文だけで構成されています。

使用者が役員又は使用人に対し支給した食事(36-24の食事を除く。)につき当該役員又は使用人から実際に徴収している対価の額が、36-38により評価した当該食事の価額の50%相当額以上である場合には、当該役員又は使用人が食事の支給により受ける経済的利益はないものとする。ただし、当該食事の価額からその実際に徴収している対価の額を控除した残額が月額7,500円を超えるときは、この限りでない。

末尾に付いている改正記号は、昭50直法6-4、直所3-8追加、昭59直法6-4、直所3-7、令8課法12-1、課個2-3、課審5-1改正です。つまりこの通達は昭和50年に生まれ、昭和59年に一度動き、そこから42年ぶりに令和8年に動いたことになります。3,500円という金額が長く語り継がれてきたのは、それだけ長く変わらなかったからです。

実務で見落としやすいのは、同じ改正で動いたのが36-38の2だけではないことです。深夜勤務者に夜食の現物支給の代わりに渡す金銭の非課税額も、同じ令和8年3月31日付(課法12-3、課個2-4)で1回300円から650円に引き上げられています。こちらは基本通達ではなく、昭和59年7月26日直法6-5という個別通達です。食事補助の見直しを社内で通すとき、深夜勤務の夜食手当を別の担当者が管理していると、片方だけ更新して終わりがちです。

3つの日付を混同しない改正の日付は令和8年3月31日ですが、適用されるのは令和8年4月1日以後に支給する食事です。そして後述する社会保険の現物給与価額のうち、食事の価額は令和8年4月1日から、住宅の価額は令和8年10月1日からと、適用開始日が半年ずれています。

2つの要件 — 片方でも外れると会社負担の全額が給与になる

国税庁のタックスアンサー No.2594 は、上の通達を次の2つの要件として整理しています。要件1は本人が食事の価額の半分以上を負担していること、要件2は食事の価額から本人負担額を引いた残額が1か月あたり7,500円以下であることです。

ここで最も間違えやすいのが、要件を外れたときに課税されるのは超過分ではなく、会社負担額の全額だという点です。通達の書き方は、要件を満たす場合に経済的利益がないものとする、という形になっています。要件を満たさなければ経済的利益はそのまま存在するので、7,500円を超えた部分だけが給与になるのではありません。

No.2594 が挙げている具体例が、この構造をよく示しています。1か月の食事の価額が13,000円で本人負担が6,000円の場合、本人負担は46.2%で半分に届いていないため要件1を満たしません。その結果、差額の7,000円がまるごと給与として課税されます。会社負担額は7,500円以下なので要件2は満たしているのに、要件1を外しただけで7,000円が課税対象になります。

会社が食事にお金を出した 渡したのは食事そのものか (現物か、金銭か) 金銭なら全額が給与 深夜勤務の夜食に代わる 650円以下だけが例外 本人負担は食事の価額の50%以上か 所基通36-38の2 本文 会社負担は1か月7,500円以下か 所基通36-38の2 ただし書き(税抜で判定) 非課税(経済的利益はないものとする) いいえ いいえ 会社負担額 の全額が給与
所得税の判定は3段階。どの段で落ちても、課税されるのは超過分ではなく会社負担額の全額になる。

食事の価額の数え方 — 買うなら購入金額、作るなら直接費

50%を計算するときの分母、つまり食事の価額をどう数えるかは、隣の通達である所得税基本通達36-38(食事の評価)が決めています。

使用者が役員又は使用人に対し支給する食事については、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に掲げる金額により評価する。

そして次の2区分が置かれています。

(1) 使用者が調理して支給する食事 その食事の材料等に要する直接費の額に相当する金額
(2) 使用者が購入して支給する食事 その食事の購入価額に相当する金額

弁当を買って配るなら業者に払う金額、社員食堂で作るなら材料費や調味料など直接かかった費用の合計です。ここで重要なのは、社員食堂の場合に調理員の人件費や光熱費、厨房設備の減価償却費が分母に入らないことです。直接費だけを数えるので、分母は小さくなります。分母が小さければ、本人から徴収すべき50%の金額も小さくなり、要件を満たしやすくなります。自前で作る形が有利になるのは、この評価方法の帰結です。

No.2594 は、食堂の運営を外部業者に委託している場合についても補足しています。外部業者に社内の食堂や調理場等の施設を無償で使用させ、かつ食事の材料等を会社が提供しているときは、上記(1)と同じように直接費の合計を食事の価額として差し支えないとされています。外部業者が材料等の仕入れを行うこととしている場合でも、その業者が会社に請求する材料費その他の費用の内訳が適正かつ明確に区分されているときは同様です。つまり委託していても、請求書の内訳が分かれていれば直接費で数えられるということです。逆に言えば、内訳が一括で示される請求書しか出ない委託契約は、この扱いを使いにくくなります。

判定は税抜、課税されるのは税込 — 8%と10%が混ざるとき

7,500円以下かどうかの判定は、消費税および地方消費税の額を除いた金額で行い、10円未満の端数が生じた場合には切り捨てます。ここまでは No.2594 に書かれているとおりです。

見落とされやすいのは、その先です。国税庁は食事を支給したときの非課税限度額の判定という別ページで、弁当と契約食堂を併用した場合の計算を示しています。この設例が示している構造は次の2つです。

1つ目は、弁当と食堂で消費税率が違うことです。会社が弁当を単に購入して支給する場合、会社と弁当事業者の取引は飲食料品の譲渡なので軽減税率8%が適用されます。一方、食堂での食事は飲食設備のある場所で飲食料品を飲食させる役務の提供に当たるため標準税率10%です。弁当事業者が配膳等の役務の提供を伴う場合は、いわゆるケータリングとして標準税率になります。したがって税率ごとに分けて税抜金額を出し、そのあとで合計する必要があります。

2つ目が、実務でいちばん効く非対称です。設例では税込ベースの会社負担が月9,000円、税抜に直すと8,290円で、7,500円を超えます。このとき給与として課税されるのは税抜の8,290円ではなく、税込の9,000円です。判定には税抜を使い、課税には税込を使う——分けて考えないと、源泉徴収する金額を790円間違えます。

国税庁の設例(月20回)税率会社負担(税込)税抜換算
弁当の提供(900円のうち本人450円)×15日8%6,750円6,250円
契約食堂での食事(900円のうち本人450円)×5日10%2,250円2,045.454…円
合計(税抜は10円未満切捨て)9,000円8,290円
判定と課税額9,000円が給与8,290円>7,500円

税抜換算の合計は 6,250円+2,045.454…円=8,295.454…円で、10円未満を切り捨てて8,290円になります。切り捨ては合計してから1回だけ行う形で示されています。

現金で渡すと全額課税。ただし会社が店に直接払えば食事の支給になる

36-38の2 が対象にしているのは、あくまで食事を支給した場合です。食事代として現金を渡す場合は、後述する深夜勤務者の夜食に代わる金銭を除き、補助をする全額が給与として課税されます。

国税庁の質疑応答事例には、この線引きを正面から扱ったものがあります。照会されたのは、会社が指定した近隣の飲食店を昼食で利用した従業員が領収証を提出し、会社が食事代の50%相当額を月7,500円(税抜)を上限として翌月に本人の預金口座へ振り込む、という制度です。金額の作りは 36-38の2 の要件をそのまま写しています。それでも回答は、この負担金は給与所得の収入金額になるというものでした。理由は単純で、会社が支給しているのは食事ではなく金銭だからです。

ただしこの回答には、そのまま制度設計に使える一節が含まれています。使用者と飲食店との間の契約により使用人等の食事代を使用者が飲食店に支払う場合は、使用者が役員又は使用人に対し食事を支給する場合に該当するものとして取り扱って差し支えないと明記されているのです。つまり、同じ「近隣の店で昼食を食べる」制度でも、お金の流れが会社から店へ向かえば食事の支給、会社から本人へ向かえば金銭の支給になります。制度を作る側が動かせるのは、この一点です。

非課税か課税かを分けているのは金額ではない同じ月7,500円でも、店と契約して会社が店に払えば非課税の枠に乗り、本人の口座に振り込めば全額が給与になります。上限額の設計をどれだけ丁寧にやっても、支払経路が本人向きなら意味がありません。

残業・宿日直の食事は無料でも非課税 — 効いているのは括弧書き

ここまでの50%と7,500円は、通常の食事補助の話です。残業や宿日直のときに出す食事には、この枠が適用されません。36-38の2 の本文が、括弧書きで36-24の食事を除いているからです。除かれた先にある36-24は、次のように書いています。

使用者が、残業又は宿直若しくは日直をした者(その者の通常の勤務時間外における勤務としてこれらの勤務を行った者に限る。)に対し、これらの勤務をすることにより支給する食事については、課税しなくて差し支えない。

本人負担も上限額も出てきません。無料で出しても課税されないのが残業食の扱いです。

効いているのは真ん中の括弧書きで、その者の通常の勤務時間外における勤務としてこれらの勤務を行った者に限ると限定されています。裏返すと、宿直や日直がもともとの勤務時間の中に組み込まれている人は、この括弧書きから外れます。24時間体制のシフトを組んでいる職場で、夜勤が通常の勤務時間として設定されている場合、その時間帯に出す食事は残業食ではなく通常の食事として36-38の2 の側で判定することになります。同じ夜の食事でも、シフト表の作り方で根拠条文が変わるということです。

もう1つの限定が、これらの勤務をすることにより支給するという部分です。残業をした日に、残業とは無関係に配られている食事は、この文言に乗りません。

深夜勤務の夜食に代わる金銭650円 — 現金が非課税になる唯一の道

現金を渡して非課税になる唯一の例外が、深夜勤務者の夜食に代わる金銭です。根拠は昭和59年7月26日直法6-5、直所3-8という個別通達で、令和8年3月31日課法12-3、課個2-4により改正されました。本文は次の1文です。

深夜勤務者(労働協約又は就業規則等により定められた正規の勤務時間による勤務の一部又は全部を午後10時から翌日午前5時までの間において行う者をいう。)に対し、使用者が調理施設を有しないことなどにより深夜勤務に伴う夜食を現物で支給することが著しく困難であるため、その夜食の現物支給に代え通常の給与(労働基準法第37条第1項《時間外、休日及び深夜の割増賃金》の規定による割増賃金その他これに類するものを含む。)に加算して勤務一回ごとの定額で支給する金銭で、その一回の支給額が650円以下のものについては、課税しなくて差し支えないものとする。

1文の中に条件が4つ畳み込まれています。第一に対象者は深夜勤務者で、定義は正規の勤務時間の一部または全部を22時から翌5時までの間に行う者です。たまたま残業が深夜に及んだ人ではなく、労働協約または就業規則等でもともとその時間帯に働くと決まっている人を指します。第二に、現物で支給することが著しく困難であるという事情が要ります。通達は例として調理施設を有しないことなどを挙げています。第三に、勤務一回ごとの定額で支給する必要があります。実費精算や月額の手当ではこの形になりません。第四に、1回の支給額が650円以下です。

この650円が超えるかどうかの判定も、消費税および地方消費税相当額を除いた金額で行うと国税庁のページに補足されています。

前段の36-24(残業・宿日直の食事)とは対象者が違います。36-24は通常の勤務時間に残業・宿日直をした者、この通達は正規の勤務時間が深夜にかかっている者です。両者は重ならないので、どちらを使うかは勤務の作り方で決まります。

社会保険は3分の2 — 分母になる価額そのものが違う

ここからが、税務の記事にはあまり書かれていない側です。健康保険・厚生年金保険では、労働の対償として現物で支給されるものがある場合、その現物を通貨に換算して報酬に合算したうえで標準報酬月額を求めます。食事や住宅で支給される場合の換算には、厚生労働大臣が定める現物給与の価額という告示の額を使います。実際に会社がいくら払ったかではありません。

令和8年度の価額は都道府県ごとに定められています。東京の事業所の場合、食事で支払われる報酬等は1人1月当たり25,500円、1人1日当たり850円、内訳は朝食のみ210円・昼食のみ300円・夕食のみ340円です。この食事の価額は令和8年4月1日から適用されます(住宅の価額は令和8年10月1日から)。

令和8年度・食事の現物給与価額(抜粋)1人1月朝食のみ昼食のみ夕食のみ
東京・北海道・福井・鳥取・島根25,500円210円300円340円
神奈川・京都・石川・広島・高知・熊本25,200円210円290円340円
大阪・宮城・新潟・滋賀・福岡24,600円210円290円320円
愛知・埼玉・静岡・茨城24,300円200円280円330円
沖縄(最も高い)26,400円220円310円350円
群馬・長野(最も低い)23,700円200円280円310円

そして本人から食事代を徴収している場合の扱いが、所得税とはっきり違います。日本年金機構の案内は2つのパターンに分けています。徴収額が現物給与価額の3分の2未満のときは、現物給与価額から徴収額を引いた差額が現物給与の価額になります。徴収額が3分の2以上のときは、現物による食事の供与はないものとして取り扱われます。東京の1人1月25,500円で言えば、3分の2は17,000円です。徴収額が10,000円なら15,500円が報酬に乗り、17,000円ならゼロになります。

ここまでを並べると、2つの制度で基準の割合も分母も違うことが分かります。

所得税(給与課税)健康保険・厚生年金(報酬)
本人負担の基準価額の50%以上価額の3分の2以上
分母になる価額実際の購入金額または直接費厚生労働大臣が定める価額(都道府県別)
会社負担の上限1か月7,500円(税抜)上限という考え方がない
基準を外したときの効果会社負担の全額が給与価額と徴収額の差額が報酬
現金で渡した場合全額が給与(深夜の650円を除く)そもそも通貨の支払いとして報酬
所得税 分母=実際の食事の価額 本人 50% 会社 50% 会社側は7,500円までという別の天井つき 健康保険・厚生年金 分母=厚生労働大臣が定める価額 本人 3分の2 3分の1 上限という考え方は無い 東京・昼食のみ・月20日・弁当1食500円(税抜)の場合 所得税の分母 10,000円 / 社会保険の分母 300円×20日=6,000円 本人負担4,500円のとき 所得税は50%未満=会社負担5,500円が給与 同じ4,500円が、社会保険では6,000円の3分の2(4,000円)以上=現物給与ゼロ
分母が違うので、同じ本人負担額が片方では不足、もう片方では十分になる。

数字で並べると、ずれの大きさが分かります。以下は東京の事業所で昼食のみを月20日支給する設例です。社会保険側の分母は、昼食のみの1人1日当たりの価額300円を支給日数分積み上げた6,000円とし、その3分の2は4,000円になります。

設例(東京・昼食のみ・月20日)食事の価額(税抜)本人負担所得税社会保険の現物給与
A 弁当500円・本人60%負担10,000円6,000円非課税0円
B 弁当500円・本人45%負担10,000円4,500円5,500円が給与0円
C 弁当500円・本人30%負担10,000円3,000円7,000円が給与3,000円が報酬
D 弁当1,200円・本人50%負担24,000円12,000円12,000円が給与0円

Bでは所得税だけが課税されます。Cでは両方かかりますが、金額が7,000円と3,000円で違います。Dは逆で、会社負担12,000円が全額給与になるのに、社会保険の現物給与はゼロです。所得税では上限を超えた瞬間に全額が飛ぶのに対し、社会保険には上限という考え方がなく、告示の価額を基準に本人が3分の2以上を払っていれば足りるからです。高い弁当を出すほど、2つの制度の結論は離れていきます。

この設例で社会保険側の分母を「1人1日当たりの昼食のみの額×支給日数」としたのは、告示が朝食・昼食・夕食ごとに1日当たりの額を定めているためです。実際の集計方法は事業所の運用によって細部が変わり得るので、制度を作る前に管轄の年金事務所または社会保険労務士に確認してください。

現物給与を足した報酬月額で社会保険料がいくらになるか計算する

現物給与価額の改正は固定的賃金の変動に当たる

もう1つ、令和8年度の改正で実務が動く点があります。日本年金機構は、今回の現物給与価額の改正が固定的賃金の変動に該当すると案内しています。固定的賃金の変動とは、昇給・降給や住宅手当・役付手当等の固定的な手当の追加や支給額の変更を指す言葉で、随時改定(月額変更届)の入口になる要件です。

つまり、会社が何も変えていなくても、告示の価額が動いたことによって被保険者報酬月額変更届が必要になる人が出うるということです。給与計算のシステムに現物給与を登録している会社では、価額を差し替えた月が起算点になります。改正のタイミングで社会保険料が動く可能性があることを、あらかじめ社内に伝えておくと問い合わせが減ります。

あわせて、実務でよく迷う3点も同じ案内に答えがあります。第一に、現物給与は給与の締め日を考慮せず、その月の1か月分として計算し、その月の金銭の給与と合算します。15日締めでも、4月分は4月1日から4月30日までの1か月として数えます。第二に、勤務地と社宅の所在地が違う場合は勤務地の都道府県の価額で計算します。第三に、派遣労働者の場合は実際の勤務地ではなく派遣元の事業所が所在する都道府県の価額を使います。

給与から食事代を天引きするには労使協定が要る

36-38の2 の非課税は、本人から実際に徴収していることが前提です。徴収の方法としていちばん多いのは給与からの天引きですが、ここには労働基準法の側の要件がかぶさります。労働基準法24条1項は次のように定めています。

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

そしてただし書きが続きます。

ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

この1文の中に、食事補助に関係する要件が2つ別々に入っています。前半は通貨払いの例外で、通貨以外のもので支払うには法令または労働協約に別段の定めが要ります。後半は全額払いの例外で、賃金の一部を控除するには過半数組合または過半数代表者との書面による協定が要ります。

注意したいのは、この2つは要件が違うことです。前半で求められているのは労働協約、つまり労働組合との協約です。組合がない会社では労働協約を結べません。後半で求められているのは労使協定で、組合がなければ過半数代表者と結べます。食事代の天引きは後半にあたるので、組合がない会社でも書面による協定を整えれば行えます。

食事の支給そのものが賃金に当たるかどうかは、就業規則や労働契約での位置づけによって変わり、労働基準法の解釈の領域に入ります。本記事は条文の文言を示すにとどめ、個別の判断には踏み込んでいません。制度を作る際は社会保険労務士に確認してください。

仕訳と、残しておく記録

弁当を業者から購入し、本人負担分を給与から天引きする形の月次の仕訳は、一般に次のように起こします。食事の価額10,000円、本人負担6,000円、会社負担4,000円のケースです。

場面借方金額貸方金額
弁当代を業者に支払う福利厚生費10,000円未払金10,000円
給与から本人負担分を天引きする給料手当300,000円福利厚生費6,000円
(同上・残りの支給)預り金・普通預金294,000円

天引き分を福利厚生費の貸方に立てれば、損益計算書に残るのは会社負担の4,000円だけになります。雑収入で受ける方法もありますが、費用と収益が両建てになり、福利厚生費の金額から会社負担額が読み取れなくなります。7,500円という上限は会社負担額に対する基準なので、帳簿の側でも会社負担額がそのまま見える形にしておくほうが、月次で要件を監視しやすくなります。

残しておく記録は3つです。第一に食事の価額の根拠——弁当なら業者の請求書、社員食堂なら直接費の集計表です。第二に本人からの徴収額と徴収方法で、天引きなら給与明細に控除項目として現れます。第三に支給日数です。7,500円は月額基準なので、月の途中で入社・退社した人や、休職で食事を受けていない人は日数が変わります。

本人から徴収する食事代について、会社側で消費税をどう扱うかは、本記事では消費税法の一次情報に当たれていないため触れていません。福利厚生費と消費税の関係の全体像は福利厚生費とはを参照してください。

給与課税になった食事補助を足したときの源泉徴収税額を計算する

よくある質問

Q. 食事補助はいくらまで非課税ですか?

A. 令和8年4月1日以後に支給する食事については、本人が食事の価額の50%以上を負担していて、かつ食事の価額から本人負担額を引いた残額が1か月7,500円以下であれば、給与として課税されません。改正前は3,500円でした。7,500円以下かどうかの判定は消費税および地方消費税の額を除いた金額で行い、10円未満の端数は切り捨てます。

Q. 7,500円を超えたら、超えた分だけが課税されますか?

A. 超えた分だけではありません。所得税基本通達36-38の2は、要件を満たす場合に経済的利益がないものとするという書き方をしているため、要件を外れると会社負担額の全額が給与になります。国税庁 No.2594 の具体例でも、食事の価額13,000円・本人負担6,000円のケースで、差額7,000円の全額が給与として課税されるとされています。

Q. 食事代を現金で補助してもよいですか?

A. 深夜勤務者に対する夜食に代わる金銭を除き、補助をする全額が給与として課税されます。国税庁の質疑応答事例は、従業員が飲食店に支払った食事代の50%相当額を月7,500円を上限として本人の口座に振り込む制度について、支給しているのが食事ではなく金銭であるため所得税基本通達36-38の2の適用はなく、給与所得の収入金額になると回答しています。

Q. 会社が飲食店と契約して直接支払う形なら、食事の支給になりますか?

A. 同じ質疑応答事例が、使用者と飲食店との間の契約により使用人等の食事代を使用者が飲食店に支払う場合は、使用者が役員又は使用人に対し食事を支給する場合に該当するものとして取り扱って差し支えないとしています。お金が会社から店へ向かうか、会社から本人へ向かうかで扱いが分かれます。

Q. 残業のときに出す弁当も、7,500円の枠に含まれますか?

A. 含まれません。所得税基本通達36-38の2の本文が括弧書きで36-24の食事を除いており、その36-24は残業または宿直・日直をした者に対しこれらの勤務をすることにより支給する食事について、課税しなくて差し支えないとしています。本人負担も上限額も条件になっていないため、無料で支給しても課税されません。

Q. 夜勤の人に出す食事も残業食として無料で出せますか?

A. 勤務の作り方によります。36-24の対象者は括弧書きにより、その者の通常の勤務時間外における勤務としてこれらの勤務を行った者に限られています。夜勤が正規の勤務時間として設定されている人は、この括弧書きから外れるため、通常の食事として50%と7,500円の枠で判定することになります。深夜勤務者に現物の夜食を支給できず金銭で渡す場合は、昭和59年7月26日直法6-5により1回650円以下であれば課税されません。

Q. 社員食堂の食事の価額には、調理員の人件費も含めますか?

A. 含めません。所得税基本通達36-38は、使用者が調理して支給する食事について、その食事の材料等に要する直接費の額に相当する金額により評価するとしています。国税庁 No.2594 も、食事の材料費や調味料など食事を作るために直接かかった費用の合計額としています。人件費や光熱費は分母に入らないため、分母は小さくなります。

Q. 所得税で非課税なら、社会保険料の計算にも影響しませんか?

A. 別の基準で判定するため、影響することがあります。健康保険・厚生年金保険では、食事の現物給与を厚生労働大臣が定める価額で通貨に換算して報酬に合算します。本人からの徴収額がその価額の3分の2以上であれば現物による食事の供与はないものとして扱われますが、3分の2未満であれば価額と徴収額の差額が現物給与の価額になります。分母も基準の割合も所得税とは違うので、所得税で非課税でも社会保険では報酬が乗る組み合わせが生じ得ます。

Q. 令和8年度は社会保険側でも何か変わりましたか?

A. 食事の現物給与価額が令和8年4月1日から、住宅の現物給与価額が令和8年10月1日から改正されました。日本年金機構は、この改正が固定的賃金の変動に該当すると案内しており、被保険者報酬月額変更届が必要になる場合があるとしています。会社側で支給内容を変えていなくても、価額の改正だけで随時改定の要件に入り得る点に注意が必要です。

Q. 食事代を給与から天引きするのに手続きは要りますか?

A. 労働基準法24条1項が賃金の全額払いを定めており、その例外として賃金の一部を控除できるのは、法令に別段の定めがある場合か、過半数組合または労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合とされています。組合がない会社でも、過半数代表者との書面による協定を整えれば控除できます。具体的な進め方は社会保険労務士にご確認ください。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の税務についての助言ではありません。食事の支給が給与として課税されるかどうかは、支給の形態や徴収の実態によって判定が変わります。実際の処理については税理士に、社会保険の現物給与の集計方法や賃金控除の手続きについては社会保険労務士および管轄の年金事務所にご確認ください。数値例は理解のための設例であり、実際の税額や保険料を示すものではありません。

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