税金・経理・補助金ツールズ

雑損控除 — 詐欺の被害には使えない。条文が数えるのは災害・盗難・横領の3つだけ

結論から言うと、雑損控除が使えるのは「災害」「盗難」「横領」の3つだけです。所得税法72条1項が損失の原因をこの3語で限定しており、詐欺・恐喝・投資の失敗による損失は、どれだけ金額が大きくても雑損控除の対象になりません。「だまし取られたのだから盗まれたのと同じだろう」という感覚は通りません。ここは条文の文言そのもので決まっている場所です。

控除額の計算は、世の中では「①差引損失額 − 総所得金額等×10%」と「②災害関連支出 − 5万円」のいずれか多い方と説明されます。この理解で数字は合いますが、条文はまったく違う書き方をしています。72条1項は控除額そのものではなく「これを超えたら超えた部分を控除する」という基準額を、3つの号に分けて定めています。式としては同じものを、閾値の側から書いているだけです。この対応関係を知っていると、号がなぜ3つあるのかが読めるようになります。

実務でいちばん見落とされるのが盗難のときの原状回復費用です。所得税法施行令206条1項4号は、盗難・横領で壊された住宅家財等を元に戻すための支出を、損失に足せる「やむを得ない支出」として掲げています。ところが同条2項は、5万円の基準に使う「災害関連支出」を「第一号から第三号まで」に限定しており、4号はそこに入っていません。つまり、こじ開けられた玄関ドアの交換費用は損失の金額には足せるのに、5万円ルールの分子にはならないということです。同じ金額でも、災害で壊れた場合と盗難で壊された場合とで、控除額が変わります。

使えるのは災害・盗難・横領の3つだけ — 詐欺は入らない

所得税法72条1項の柱書は、次のように始まります。

居住者又はその者と生計を一にする配偶者その他の親族で政令で定めるものの有する資産(第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)及び第七十条第三項(被災事業用資産の損失の金額)に規定する資産を除く。)について災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合

損失の原因として挙がっているのは「災害又は盗難若しくは横領」の3つだけです。列挙のあとに「その他これらに類するもの」のような受け皿の文言が置かれていません。租税法の条文で原因を限定列挙しているところは、書かれていないものを読み込むことができない場所です。したがって次のような損失は、金額の大小に関係なく雑損控除の対象外になります。

「盗難」と「詐欺」の境目詐欺は本人が渡している点で、本人の意思に反して奪われる盗難と構造が違います。横領は、預けた財産を預かった側が自分のものにしてしまう類型です。たとえば管理を任せていた人に現金を持ち出された場合は横領に当たりえますが、うそを信じて自分で送金した場合は詐欺で、条文の3つに入りません。刑法上の呼び名がそのまま税法の適用範囲を決めているのが、この条文の特徴です。
損失の原因はどれか(所得税法72条1項) 災害 / 盗難 / 横領 → 雑損控除の入口に立てる 詐欺 / 恐喝 / 貸倒れ / 紛失 / 評価損 → 条文に書かれていない。金額に関係なく対象外 その資産はどれか 住宅・家財・車など生活に通常必要な資産 → 72条(雑損控除) 別荘・競走馬・30万円超の貴金属など → 62条(譲渡所得から控除) 事業用資産 → 70条3項(被災事業用資産の損失)
雑損控除は、損失の原因と資産の種類の2段階で入口が決まる。72条1項の括弧書きが、62条と70条3項の資産をあらかじめ除いている。

「災害」の中身は政令にある — 落雷もシロアリも入る

「災害」の定義は72条には書かれておらず、所得税法2条1項27号にあります。

震災、風水害、火災その他政令で定める災害をいう。

受けている政令が所得税法施行令9条です。ここまで読んで初めて、地震・台風・火事以外に何が入るのかが分かります。

法第二条第一項第二十七号(災害の意義)に規定する政令で定める災害は、冷害、雪害、干害、落雷、噴火その他の自然現象の異変による災害及び鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害並びに害虫、害獣その他の生物による異常な災害とする。

ここは3つのまとまりでできています。①自然現象の異変(冷害・雪害・干害・落雷・噴火など)、②人為による異常な災害(鉱害・火薬類の爆発など)、③生物による異常な災害(害虫・害獣など)です。実務で効くのは3つ目で、シロアリの食害による住宅の損壊やその駆除費用が雑損控除の対象になりうる根拠がここにあります。「災害=天災」だと思っていると、この号を読み落とします。

「異常な」がかかっている範囲②と③には「異常な」という限定が付いていますが、①の自然現象には付いていません。害虫・害獣は、通常起こりうる程度の被害では足りず、異常なものである必要があるという書き分けです。一般に、毎年の想定内の獣害と、家屋の構造材が食い荒らされるようなシロアリ被害とでは、この点の評価が変わります。

対象になる資産・外れる資産 — 別荘と30万円超の貴金属は別の条

72条1項の括弧書きは、62条1項の資産70条3項の資産をあらかじめ除いています。除かれる側の62条1項はこう書かれています。

居住者が、災害又は盗難若しくは横領により、生活に通常必要でない資産として政令で定めるものについて受けた損失の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)は、政令で定めるところにより、その者のその損失を受けた日の属する年分又はその翌年分の譲渡所得の金額の計算上控除すべき金額とみなす。

「生活に通常必要でない資産」の中身は所得税法施行令178条1項にあり、1号はこう始まります。

競走馬(その規模、収益の状況その他の事情に照らし事業と認められるものの用に供されるものを除く。)その他射こう的行為の手段となる動産

2号が別荘など趣味・娯楽・保養・鑑賞の目的で所有する資産、3号が「生活の用に供する動産で第二十五条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)の規定に該当しないもの」です。そこで受けている施行令25条を読むと、金額の線が出てきます。

法第九条第一項第九号(非課税所得)に規定する政令で定める資産は、生活に通常必要な動産のうち、次に掲げるもの(一個又は一組の価額が三十万円を超えるものに限る。)以外のものとする。

次に掲げるものは、貴石・半貴石・貴金属・真珠とその製品、べっこう・さんご・こはく・ぞうげ・七宝の製品(1号)と、書画・こっとう・美術工芸品(2号)です。整理すると、1個または1組の価額が30万円を超える宝石・貴金属・書画骨董は「生活に通常必要な動産」から外れ、その結果として62条の「生活に通常必要でない資産」に落ちます。盗難に遭ったのが30万円以下の腕時計なら雑損控除、40万円の指輪なら62条という分かれ方です。

62条に落ちた損失は、所得控除ではなく譲渡所得の計算上の控除になります。しかも施行令178条2項の順序に従い、まずその年の譲渡所得から引き、引ききれなければ翌年分の譲渡所得までで打ち切りです。譲渡所得がなければ実質的に使えません。「雑損控除が使えないだけ」ではなく、行き先が譲渡所得に変わるという理解が要ります。

資産根拠損失の行き先
住宅・家財・通勤用の車など所法72条雑損控除(所得控除・3年繰越)
別荘・競走馬・30万円超の貴金属や書画骨董所法62条/令178条・令25条その年と翌年の譲渡所得から控除
事業用の棚卸資産・固定資産所法70条3項必要経費(被災事業用資産の損失)

控除額は「超える部分」— 3つの号は同じ式の別の書き方

72条1項の柱書は、損失の金額の合計額が「次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に掲げる金額を超えるときは、その超える部分の金額を」控除すると書いています。つまり各号が定めているのは控除額ではなく、差し引かれる基準額です。号1はこうです。

その年における損失の金額に含まれる災害関連支出の金額(損失の金額のうち災害に直接関連して支出をした金額として政令で定める金額をいう。以下この項において同じ。)が五万円以下である場合(その年における災害関連支出の金額がない場合を含む。)その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の十分の一に相当する金額

災害関連支出が5万円以下(ゼロを含む)なら、基準額は総所得金額等の10分の1だけです。号2は災害関連支出が5万円を超える場合で、基準額が次のように変わります。

その年における損失の金額の合計額から災害関連支出の金額のうち五万円を超える部分の金額を控除した金額と前号に掲げる金額とのいずれか低い金額

号3は、損失の金額がすべて災害関連支出である場合で、基準額は「五万円と第一号に掲げる金額とのいずれか低い金額」です。

ここで、損失の金額の合計額を L、災害関連支出を R、総所得金額等の10分の1を T と置いてみます。号2の基準額は min( L −(R − 5万), T ) なので、控除額は L からそれを引いた L − min( L − R + 5万, T ) になります。min を外に出すと max に反転するので、これは max( R − 5万, L − T ) と同じ式です。つまり号2は、よく紹介される「①差引損失額 − 総所得金額等×10%」と「②災害関連支出 − 5万円」のいずれか多い方を、閾値の側から書き直したものにすぎません。号1は R が5万円以下なので R − 5万 が0以下になり、max のうち残るのは L − T だけ、という関係になっています。

なぜ条文はこんな書き方をするのか柱書が「超えるときは、その超える部分の金額を…控除する」という構文を採っているためです。控除の有無(超えるかどうか)と控除額を1つの文で決められるので、閾値の形にするほうが条文としては短く済みます。一方、申告書を書く人が知りたいのは控除額そのものなので、国税庁の解説は max の形に直して示しています。数字が合うのは当然で、同じ式です。

設例1: 台風で自宅が損壊した

令和8年分の総所得金額等が500万円、台風で自宅が損壊して損失(損壊直前の時価を基礎に計算したもの)が300万円、火災保険金が100万円、損壊部分の取壊し・除去費用が60万円だったとします。

max の形で検算すると max( 260万 − 50万, 60万 − 5万 ) = max( 210万, 55万 ) = 210万円で一致します。

損失の金額の合計額 L = 260万円 被害額 300万 − 保険金 100万 = 200万 + 災害関連支出 R = 60万(取壊し・除去) 号2の基準額 = いずれか低い金額 L −(R − 5万)= 260万 − 55万 = 205万 総所得金額等の10分の1 = 50万 ← こちらが低い 控除額 = 基準額を超える部分 260万 − 50万 = 210万円 max(L − 10%, R − 5万)= max(210万, 55万)と同じ 総所得金額等500万を超える部分は、3年間くり越せる(所法71条)
条文は控除額ではなく「超える基準額」を定める。号2の基準額は2つの金額の低い方で、結果は「10%を超えた分」と「関連支出−5万円」の多い方に一致する。

盗難の原状回復費は「災害関連支出」ではない

ここが本記事でいちばん踏み込む場所です。損失に足せる「やむを得ない支出」を定めているのは所得税法施行令206条1項で、号は4つあります。1号が取壊し・除去、2号が土砂の除去や原状回復、3号が被害の拡大を防ぐ緊急の措置、そして4号がこれです。

盗難又は横領による損失が生じた住宅家財等の原状回復のための支出その他これに類する支出

4号があるので、こじ開けられた玄関ドアの交換費用は損失の金額の合計額に足せます。問題はその先で、5万円の基準に使う「災害関連支出」を定義している同条2項が、次のように書かれています。

法第七十二条第一項第一号に規定する政令で定める金額は、その年においてした前項第一号から第三号までに掲げる支出の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補塡される部分の金額を除く。)とする。

「前項第一号から第三号まで」で切れています。4号は入っていません。したがって盗難・横領のときの原状回復費用は、損失には足せるのに災害関連支出にはならない。結果として、盗難の事案では災害関連支出が常にゼロになり、72条1項の号1(総所得金額等の10分の1だけを引く)しか使われません。

設例2: 空き巣に入られた

総所得金額等が500万円、盗まれた家財が40万円、こじ開けられた玄関ドアの交換費用が15万円、保険金はなしとします。

もし同じ15万円が災害関連支出に当たると考えて号2で計算してしまうと、基準額は min( 55万 − 10万, 50万 ) = 45万円になり、控除額は10万円と出ます。差は5万円で、方向は常に過大申告の側です。「原状回復費用は災害関連支出」と一括りに覚えていると、盗難の事案でこの誤りが出ます。

覚え方4号だけが「盗難又は横領」で始まり、1号から3号までは「災害により」で始まります。災害関連支出という名前のとおり、災害から生まれた支出だけが5万円ルールの分子になると読めば、条文の並びと一致します。

災害関連支出には期限がある — ただし全部ではない

施行令206条1項2号には、他の号にない時間の限定が入っています。

その災害のやんだ日の翌日から一年を経過した日(大規模な災害の場合その他やむを得ない事情がある場合には、三年を経過した日)の前日までにした次に掲げる支出その他これらに類する支出

2号が並べているのは、イ 土砂その他の障害物の除去、ロ 原状回復のための支出、ハ 損壊・価値の減少を防止するための支出の3つです。これらは災害のやんだ日の翌日から1年を経過した日の前日までに支出しないと、災害関連支出になりません。大規模な災害などやむを得ない事情がある場合は3年に伸びます。

読むときに注意が要るのは末日の書き方です。起算日は災害のやんだ日の翌日で、そこから1年を経過した日の前日が末日になります。1年後の同じ日までではなく1日手前で締まるので、期限ぎりぎりの支出では日付を数え直す価値があります。

そして重要なのは、この期限が2号にしか書かれていないことです。1号(取壊し・除去)と3号(緊急に必要な措置)には期限の限定がありません。3号は「まさに被害が生ずるおそれがある」段階で緊急に講じる措置なので性質上すぐ行われますが、1号の取壊し・除去に時間制限がないのは、条文を並べて比べないと気づけない差です。

生計を一にする親族は62万円以下 — 令和8年分から

72条1項は、損失を受けた資産の持ち主として本人だけでなく「生計を一にする配偶者その他の親族で政令で定めるもの」を挙げています。受けている政令が施行令205条1項です。

法第七十二条第一項(雑損控除)に規定する政令で定める親族は、居住者の配偶者その他の親族でその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額が六十二万円以下であるものとする。

令和8年分から、この金額は62万円です。令和8年12月1日施行の改正前は58万円でした。給与所得控除の最低額などが動いた改正に合わせて、所得の要件を置いている条文がまとめて引き上げられており、雑損控除の親族要件もその1つです。「48万円」「58万円」で覚えていると、令和8年分では判定を誤ります。

もう1つ、同じ親族と生計を一にする居住者が2人以上いる場合の割り振りが2項にあります。扶養控除の対象にしている人がいればその人の親族として扱いますが、誰の扶養にもなっていない場合はこうなります。

その親族が配偶者以外の親族に該当する場合には、これらの居住者のうち総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額が最も大きい居住者の親族とする。

選べません。所得がいちばん大きい人の親族と決まります。雑損控除は総所得金額等の10分の1を引く仕組みなので、所得が大きい人ほど基準額も大きく、控除額は小さく出ます。有利な人に寄せるという発想が働かない場所だという点は、実務で押さえておく価値があります。

年収から総所得金額と手取りを計算する(基準額の10分の1を出すのに使えます)

災害減免法との選択 — 法律の本文に「限る」と書いてある

災害で住宅や家財に被害を受けたときには、雑損控除のほかに災害減免法による所得税の軽減免除という道があります。両方は使えません。それを書いているのは通達ではなく、災害減免法2条の本文そのものです。

災害により住宅又は家財について甚大な被害を受けた者で被害を受けた年分の所得税法第二十二条に規定する総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額(以下「合計所得金額」という。)が千万円以下であるもの(当該災害による損失額について同法第七十二条第一項の規定の適用を受けない者に限る。)

括弧書きの「同法第七十二条第一項の規定の適用を受けない者に限る」が、選択適用の根拠です。「甚大な被害」の中身は災害減免法施行令1条にあります。

自己(所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第七十二条第一項に規定する政令で定める親族を含む。)の所有に係る住宅又は家財につき生じた損害金額(保険金、損害賠償金等により補てんされた金額を除く。以下第十四条第二項の場合を除き、同じ。)がその住宅又は家財の価額の十分の五以上である者

軽減の割合は災害減免法2条が3段階で定めています。合計所得金額が500万円以下なら所得税の全額、750万円以下なら10分の5、750万円を超えるなら10分の2.5です(延滞税・利子税・各加算税の額は除かれます)。

比べる点雑損控除(所法72条)災害減免法
原因災害・盗難・横領災害のみ
資産生活に通常必要な資産全般住宅・家財
被害の程度要件なし価額の10分の5以上
所得の上限なし合計所得金額1,000万円以下
効き方所得控除(課税所得を減らす)所得税額の軽減・免除
引ききれない分3年繰越し(特定非常災害は5年)繰越しなし
住民税住民税にも同様の控除がある住民税には及ばない

一般に、損失額が大きくてその年の所得では引ききれないときは、繰越しのある雑損控除のほうが総額で有利になります。逆に、損失が住宅・家財の価額の半分以上あって、しかもその年の所得税額そのものが小さくないときは、税額を直接落とす災害減免法が効くことがあります。どちらを選ぶかは、翌年以降の所得の見込みまで含めた比較になるため、税理士に確認してください。

引ききれない分は3年、特定非常災害は5年

雑損控除がその年の所得を超えた部分は、雑損失の金額として繰り越せます。所得税法71条1項です。

確定申告書を提出する居住者のその年の前年以前三年内の各年において生じた雑損失の金額(この項又は第七十二条第一項(雑損控除)の規定により前年以前において控除されたものを除く。)は、政令で定めるところにより、当該申告書に係る年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算上控除する。

これは青色申告でなくても使えます。純損失の繰越しと違い、雑損失の繰越しに青色の要件はありません。ただし2項に手続の要件があります。

前項の規定は、同項の居住者が雑損失の金額が生じた年分の所得税につき確定申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出している場合に限り、適用する。

「連続して」が要件です。損失が出た年に申告し、その後、所得がなくて納税額がゼロの年であっても申告書を出し続けなければ、繰越しは切れます。会社員が被災して雑損失を繰り越す場合、翌年に還付も納付もないからと申告を飛ばすと、そこで権利が失われる形になっています。

特定非常災害の被害については、所得税法71条の2が期間を伸ばしています。

確定申告書を提出する居住者が特定雑損失金額を有する場合には、当該特定雑損失金額の生じた年の翌年以後五年内の各年分における前条の規定の適用については

3年が5年になります。特定非常災害は、著しく異常かつ激甚な非常災害として個別に指定されるものです。なお施行令206条4項は、その年の雑損失は特定非常災害による損失から順次成ると定め、5項は控除するときは他の雑損失金額から順次控除すると定めています。積み上げる順番と使う順番が逆になっていて、長く繰り越せる特定雑損失金額が後まで残るようにしてあります。

所得控除はまず雑損控除から。年末調整ではできない

所得控除の順序は所得税法87条1項が決めています。

雑損控除と医療費控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除、寄附金控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、特定親族特別控除又は基礎控除とを行う場合には、まず雑損控除を行うものとする。

順序が明記されているのには理由があります。所得控除のうち繰り越せるのは雑損控除だけだからです。ほかの控除を先に使ってしまうと、その分だけ所得が減り、雑損控除で使い切れる額が増えてしまい、繰り越せる雑損失が減ってしまいます。まず雑損控除を行い、余った分を繰越しに回すという順序が、納税者に不利にならないように条文で固定されています。

もう1つ、雑損控除は年末調整では受けられません。所得税法190条2号が年末調整で差し引く控除をイからヘまで列挙していますが、そこに挙がっているのは社会保険料控除・小規模企業共済等掛金控除・生命保険料控除・地震保険料控除、障害者控除・寡婦控除・ひとり親控除・勤労学生控除・扶養控除、配偶者控除および配偶者特別控除、特定親族特別控除、基礎控除です。雑損控除・医療費控除・寄附金控除は列挙に入っていません。会社員でも、雑損控除を受けるには確定申告が必要になります。

証拠書類は捨てない災害関連支出については、支出したことを証する領収書の保存・提出が求められます。取壊し・除去や原状回復の請求書は、被害の直後で気が回らないまま処分してしまいがちです。被災した日付・被害の状況が分かる写真と、支出の領収書をセットで残すところまでが実務です。盗難・横領については、警察への届出をした事実が被害の裏づけになります。
医療費控除の計算ツール(同じく年末調整ではできない控除です)

よくある質問

Q. 振り込め詐欺で数百万円をだまし取られました。雑損控除は使えますか?

A. 使えません。所得税法72条1項は損失の原因を「災害又は盗難若しくは横領」と限定して書いており、詐欺はこの3つのどれにも当たりません。被害者が自分の意思で財産を渡している点で、意思に反して奪われる盗難とは構造が違うためです。金額の大小や悪質性は結論を変えません。

Q. シロアリの被害と駆除費用は対象になりますか?

A. 一般に対象になりえます。所得税法施行令9条が、政令で定める災害として「害虫、害獣その他の生物による異常な災害」を挙げているためです。ただし「異常な」という限定が付いているので、通常の範囲の被害では足りません。予防のための定期的な薬剤散布は被害が生じていないため、損失にも災害関連支出にも当たりません。

Q. 空き巣に壊された玄関ドアの交換費用は、5万円を超えた分が控除に効きますか?

A. 効きません。所得税法施行令206条1項4号により損失の金額には足せますが、同条2項が災害関連支出を「前項第一号から第三号までに掲げる支出」と限定しており、4号は含まれていません。したがって盗難の事案では災害関連支出がゼロとなり、72条1項1号の総所得金額等の10分の1だけを差し引く計算になります。

Q. 損失の金額は、買ったときの値段で計算してよいですか?

A. 原則として使うのは取得価額ではありません。所得税法施行令206条3項が「当該損失を生じた時の直前におけるその資産の価額」を基礎に計算すると定めています。同項1号は、減価する資産について、その日に譲渡があったものとみなして取得費とされる金額によることも認めており、実務ではこの方法で計算されることが多くなっています。

Q. 40万円の指輪を盗まれました。雑損控除の対象ですか?

A. 対象になりません。所得税法施行令25条は生活用動産のうち貴金属等で1個または1組の価額が30万円を超えるものを除いており、その結果として施行令178条1項3号の「生活に通常必要でない資産」に当たります。この損失は雑損控除ではなく、所得税法62条1項によりその年と翌年の譲渡所得の計算上控除すべき金額とみなされます。

Q. 被害を受けた年は無職で所得がありません。申告する意味はありますか?

A. あります。所得税法71条1項により雑損失は3年(特定非常災害に係るものは71条の2により5年)繰り越せますが、同条2項が、損失が生じた年分の確定申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出していることを要件としています。損失の年に申告していなければ、翌年以降に所得が出ても繰越控除は使えません。

Q. 生計を一にする親族名義の家財が被害を受けました。私の雑損控除に含められますか?

A. その親族のその年分の総所得金額、退職所得金額および山林所得金額の合計額が62万円以下であれば含められます(所得税法施行令205条1項・令和8年分)。ただし同じ親族と生計を一にする居住者が複数いる場合、扶養控除等の対象にしている人がいなければ、所得の合計額が最も大きい居住者の親族として扱われ、誰の控除にするかを選ぶことはできません。

Q. 雑損控除と災害減免法は、両方を受けられますか?

A. 受けられません。災害減免法2条の括弧書きが、対象を「当該災害による損失額について同法第七十二条第一項の規定の適用を受けない者に限る」と定めているためです。選択になります。一般に損失が大きく1年で引ききれないときは繰越しのある雑損控除、被害が住宅・家財の価額の10分の5以上でその年の税額が大きいときは災害減免法が有利になることがありますが、有利判定は税理士にご確認ください。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の申告についての助言ではありません。損失の金額の計算方法、災害関連支出に当たるかどうかの判断、雑損控除と災害減免法のどちらが有利かの比較は、被害の内容・資産の種類・その年および翌年以降の所得の状況によって結論が変わります。実際の申告については税理士にご確認ください。数値例は理解のための設例であり、実際の税額を示すものではありません。

この内容をXで共有