ひとり親控除と寡婦控除は、配偶者と離婚・死別した人や、未婚で子どもを育てている人の所得から、35万円または27万円を差し引ける所得控除です(所得税法81条・80条)。名前が似ていて取り違えやすいうえ、子どもの所得の上限が令和8年分から62万円に上がる、別れた相手の扶養に子どもを入れていると受けられないなど、細かい分かれ目がたくさんあります。上の計算機でどちらに当てはまるかが判定できます。以下では、2つの控除の違い、子どもの要件、そして控除より大きい「住民税非課税」のラインまで、条文にもとづいて解説します(一般的な計算方法の説明であり、個別の税務相談ではありません)。
使い方と前提
判定は所得税法2条1項30号・31号の要件をそのまま使います。節税額は、所得税を国税庁の速算表で計算し(控除で税率の段をまたぐ場合も正しく反映)、住民税の所得割は一律10%として概算します。復興特別所得税(所得税額の2.1%)の減少も含めています。
ひとり親控除と寡婦控除の違い
2つの控除は同時には受けられません。寡婦控除の条文が「ひとり親に該当しないもの」と定めているため、両方の要件を満たす人は自動的に額の大きいひとり親控除になります。分かれ目は「生計を一にする子どもがいるか」です。
| ひとり親控除 | 寡婦控除 | |
|---|---|---|
| 控除額(所得税) | 35万円 | 27万円 |
| 控除額(住民税) | 30万円 | 26万円 |
| 性別 | 問わない(父も母も) | 女性のみ(条文が「夫と離婚」「夫と死別」) |
| 未婚(結婚したことがない) | 対象になる | 対象にならない(離婚・死別・夫の生死不明のみ) |
| 子ども・扶養親族 | 生計を一にする子(所得62万円以下)が必要 | 離婚の場合は扶養親族が必要。死別・生死不明なら不要 |
| 本人の所得制限 | 合計所得500万円以下 | 合計所得500万円以下 |
| 事実婚の相手 | いると対象外 | いると対象外 |
「配偶者が生死不明」にあたるのは、この5つの場合です
「生死不明」は自己申告ではなく、政令(所得税法施行令11条・11条の2第1項)が次の5つを列挙しています。どれかにあてはまる人の配偶者(寡婦控除は妻)が対象です。
- 太平洋戦争の終結当時、もとの陸海軍に属していた人で、まだ国内に帰らない人
- 上記以外で、太平洋戦争の終結当時に国外にいて、まだ帰らず、同様の事情があると認められる人
- 沈没・転覆・滅失・行方不明になった船舶、または墜落・滅失・行方不明になった航空機に乗っていた人で、3か月以上生死が明らかでない人
- 死亡の原因となるおそれのある危難(災害・遭難など)に遭遇した人で、危難が去った後1年以上生死が明らかでない人
- 上記のいずれにもあてはまらず、3年以上生死が明らかでない人
子どもの要件 — 所得62万円以下・他の人の扶養に入っていないこと
ひとり親控除の「生計を一にする子」には、2つの条件があります(所得税法施行令11条の2第2項)。
「生計を一にする」は同居に限りません。進学で離れて暮らす子に仕送りをしている場合も含まれます。また子どもの年齢に制限はありません(16歳未満で扶養控除の対象にならない子でも、ひとり親控除の「子」にはなります)。
合計所得135万円以下なら住民税が全額かからない
ひとり親・寡婦に当てはまる人には、控除よりも大きな特典があります。前年の合計所得金額が135万円以下なら、住民税が全額非課税になるのです(地方税法24条の5第1項2号・295条1項2号)。
このラインを超えても、扶養している人数によっては住民税の非課税限度額(35万円×人数ベース)に入ることがあります。詳しくは住民税シミュレーターで計算できます。
本人の所得制限 — 合計所得500万円以下
ひとり親控除・寡婦控除とも、本人の合計所得金額が500万円以下であることが要件です(所得税法2条1項30号イ(2)・31号ロ)。給与収入だけの人なら年収677万7,777円以下がこのラインです(令和8年分の給与所得の求め方で換算)。
ここでいう「合計所得金額」は、純損失・雑損失の繰越控除を引く前の金額です(条文が70条・71条を「適用しないで計算した」金額と定めています)。前年からの赤字の繰り越しで所得を500万円以下に下げることはできません。
節税額の例
控除額に税率をかけた分だけ税金が減ります。課税される所得金額(すべての所得控除を引いた後の金額)ごとの目安です。
| 課税される所得金額 | ひとり親控除(35万円) | 寡婦控除(27万円) | ||
|---|---|---|---|---|
| 内訳 | 年間の節税額 | 内訳 | 年間の節税額 | |
| 150万円(税率5%) | 所得税17,500円+復興367円+住民税30,000円 | 47,867円 | 所得税13,500円+復興283円+住民税26,000円 | 39,783円 |
| 250万円(税率10%) | 所得税35,000円+復興735円+住民税30,000円 | 65,735円 | 所得税27,000円+復興567円+住民税26,000円 | 53,567円 |
| 400万円(税率20%) | 所得税70,000円+復興1,470円+住民税30,000円 | 101,470円 | 所得税54,000円+復興1,134円+住民税26,000円 | 81,134円 |
よくある質問
ひとり親控除と寡婦控除は、両方受けられますか?
受けられません。寡婦控除の条文(所得税法2条1項30号)が「ひとり親に該当しないもの」と定めているため、両方の要件を満たす人は自動的に額の大きいひとり親控除(35万円)だけが適用されます。たとえば夫と死別して所得62万円以下の子を育てている人は、寡婦控除ではなくひとり親控除です。差は所得税で8万円、住民税で4万円あるので、年末調整や確定申告でどちらの欄に印を付けるかは重要です。
未婚の母・未婚の父でも受けられますか?
ひとり親控除は受けられます。令和2年分の改正で「婚姻歴の有無を問わない」制度として作られたためで、結婚したことがない人でも、生計を一にする子(所得62万円以下・他の人の扶養に入っていない)がいて、本人の合計所得が500万円以下で、事実婚の相手がいなければ対象です。一方、寡婦控除は「夫と離婚した後」「夫と死別した後」の人だけの制度なので、未婚の人は子がいなければどちらの控除も受けられません。
男性(シングルファーザー)はどうなりますか?
生計を一にする子(所得62万円以下)がいれば、女性と同じひとり親控除35万円を受けられます。かつての寡夫控除(27万円)は令和2年分の改正で廃止され、ひとり親控除に統合されて父と母の差がなくなりました。ただし寡婦控除は条文が「夫と離婚」「夫と死別」と定めているため女性だけの制度で、子のいない男性は妻と死別していても控除はありません。
子どもを別れた夫の扶養に入れています。ひとり親控除を受けられますか?
受けられません。ひとり親控除の「子」は「他の者の同一生計配偶者又は扶養親族とされている者を除く」と定められているため(所得税法施行令11条の2第2項)、別れた夫が扶養控除の対象として子を申告している場合、あなたのひとり親控除の対象にはなりません。1人の子で控除を受けられるのは父母のどちらか一方だけです。扶養控除(38万円〜)とひとり親控除(35万円)をどちらが受けるかで世帯全体の税額が変わるので、収入のバランスを見て決めるのが得策です。
年収がいくらまでなら受けられますか?
本人の合計所得金額が500万円以下であることが要件で、収入が給与だけの人なら年収677万7,777円以下です(令和8年分の給与所得の求め方で換算)。この合計所得金額は純損失・雑損失の繰越控除を引く前の金額なので、過去の赤字の繰り越しで500万円以下に下げることはできません。500万円を1円でも超えると、ひとり親控除も寡婦控除も全額受けられなくなります(段階的な縮小はありません)。
子どものアルバイト収入が多いと対象外になりますか?
子の所得(総所得金額など)が62万円を超えると、その子はひとり親控除の「子」に当たらなくなります。収入がアルバイト給与だけなら年収136万円以下が62万円のラインです(令和8年分)。この上限は改正前の58万円から令和8年分に62万円へ引き上げられました。住民税のほうも、令和8年分の所得に対する令和9年度分から同じ62万円で判定されます。
住民税が非課税になると聞きました。本当ですか?
本当です。ひとり親・寡婦に当てはまる人は、前年の合計所得金額が135万円以下(給与収入だけなら年収209万円以下)であれば、住民税の所得割も均等割も全額非課税になります(地方税法24条の5第1項2号・295条1項2号)。障害者・未成年者にも同じ非課税措置があります。非課税かどうかは保育料や給付金の判定にも使われることが多いため、年収がライン近くの人は影響が大きいです。
出典
- 所得税法80条(寡婦控除・27万円)・81条(ひとり親控除・35万円)・2条1項30号・31号(定義) — e-Gov法令検索(現行版と令和8年12月1日施行版の両方で逐語確認・両版で同文)
- 所得税法施行令11条・11条の2(生死不明の範囲・ひとり親の子の要件) — e-Gov法令検索(62万円は令和8年12月1日施行版。令和8年政令第93号 附則2条で令和8年分以後に適用)
- 所得税法施行規則1条の3・1条の4(事実婚=住民票の「未届の夫・妻」の記載で判定) — e-Gov法令検索
- 地方税法34条1項8号・8号の2、314条の2第1項8号・8号の2(住民税の控除額 寡婦26万円・ひとり親30万円)、24条の5第1項2号・295条1項2号(合計所得135万円以下の非課税) — e-Gov法令検索
- 地方税法施行令7条の2の2第2項・46条の2の2第2項(住民税側の子の所得要件。令和8年政令第83号 附則2条・5条で令和9年度分以後62万円) — e-Gov法令検索
- 国税庁 タックスアンサー No.1171 ひとり親控除・No.1170 寡婦控除 — nta.go.jp
- 国税庁 タックスアンサー No.2260 所得税の税率(速算表) — nta.go.jp
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