遺族年金は2階建て — どちらが出るかで額が変わる
遺族年金と呼ばれているものは、国民年金から出る遺族基礎年金と、厚生年金から出る遺族厚生年金の2つです。亡くなった方が会社員・公務員だった場合は両方の対象になり、自営業などで国民年金だけだった場合は遺族基礎年金だけになります。
この2つは支給される条件がまったく違います。遺族基礎年金は「子のある配偶者」または「子」にしか支給されません。一方の遺族厚生年金には子の要件がなく、配偶者であれば受け取れます。そのため、同じ配偶者でも子がいるかどうかで受け取る種類と額が大きく変わります。
遺族基礎年金は「18歳年度末までの子」がいないと出ない
遺族基礎年金の額は、国民年金法38条が定める78万900円に改定率を掛けた額(100円単位に丸め)に、39条1項の子の加算を足したものです。子の加算は1人につき7万4,900円に改定率を掛けた額が原則ですが、かっこ書きで「そのうち二人までについては」22万4,700円に改定率を掛けた額に読み替えられます。
つまり低い額が本文の原則で、2人までだけが高い額に読み替えられているという構造です。全員を高い額で足す実装は、子が3人以上の世帯に過大な金額を出します。
| 項目 | 本則の額 | 令和8年度の額 |
|---|---|---|
| 基本額(国民年金法38条) | 780,900円 | 847,300円 |
| 子の加算 1人目・2人目(39条1項かっこ書) | 各 224,700円 | 各 243,800円 |
| 子の加算 3人目以降(39条1項本文) | 各 74,900円 | 各 81,300円 |
| 中高齢寡婦加算(厚生年金保険法62条1項) | 基本額の4分の3 | 635,500円 |
ここでいう「子」は、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子(または20歳未満で障害等級1級・2級に該当する子)です。高校を卒業する年の3月31日で終わるため、大学生の子は数に入りません。この要件に当たる子が1人もいない配偶者には、遺族基礎年金は1円も支給されません。
遺族厚生年金と、短期要件のときだけ効く300月みなし
遺族厚生年金の額は、厚生年金保険法60条1項1号により亡くなった方の報酬比例部分の4分の3です。報酬比例部分は、平成15年3月以前が「平均標準報酬月額×7.125/1000×月数」、平成15年4月以後が「平均標準報酬額×5.481/1000×月数」で計算します(平成15年4月から賞与も年金額に反映されるようになったため、平均のとり方と乗率が変わりました)。
ここでいちばん間違えやすいのが300月みなしの適用範囲です。60条1項1号のただし書は、「第五十八条第一項第一号から第三号までのいずれかに該当することにより支給される遺族厚生年金については」と主語を絞ったうえで、被保険者期間が300月に満たないときは300月として計算すると定めています。
亡くなった方がどちらに当たるかは、厚生年金保険法58条1項が4つの号で定めています。いずれか1つに当たれば遺族厚生年金の対象で、1号から3号が短期要件、4号が長期要件です。
- 1号 在職中の死亡 — 厚生年金の被保険者であるあいだに亡くなったとき(短期要件)
- 2号 資格喪失後の死亡 — 被保険者であった間に初診日がある病気・けがで、初診日から5年以内に亡くなったとき(短期要件)
- 3号 障害厚生年金の受給権者の死亡 — 障害等級1級・2級の障害厚生年金を受け取れる方が亡くなったとき(短期要件)
- 4号 老齢厚生年金の受給権者等の死亡 — 老齢厚生年金の受給権者、または受給資格期間(保険料納付済期間等が10年以上)を満たしている方が亡くなったとき(長期要件)
中高齢寡婦加算は4つの門を全部通らないと付かない
中高齢寡婦加算は、厚生年金保険法62条1項により遺族基礎年金の額の4分の3が遺族厚生年金に上乗せされるものです。令和8年度は年額635,500円と大きいので、付くか付かないかで生活設計が変わります。条件は次の4つで、どれか1つでも欠けると付きません。
- 受け取るのが妻であること — 62条1項は「妻」に加算すると定めています。夫には加算されません
- 40歳以上65歳未満であること — 権利取得時に40歳以上だったか、40歳に達した当時に18歳年度末までの子と生計を同じくしていた妻が対象で、65歳になると終わります
- 遺族基礎年金を受けていないこと — 受けているあいだは支給停止です(厚生年金保険法65条)。子が卒業して遺族基礎年金が終わってから始まります
- 長期要件のときは被保険者期間が240月以上あること — 62条1項かっこ書が、58条1項4号で支給されるもののうち被保険者期間が240月未満のものを除いています。短期要件にはこの制限がありません
4つ目は特に見落とされます。自営業の期間が長く、厚生年金の加入が20年に届かないまま老齢厚生年金の受給権者として亡くなった場合、遺族厚生年金は出ても中高齢寡婦加算だけが付かないことになります。このツールは、付かない場合にどの条件で落ちたのかを名指しで表示します。
65歳以降は自分の老齢厚生年金との組み合わせで決まる
受け取る方が65歳になり、自分自身の老齢厚生年金の受給権を持つと、遺族厚生年金の額の決め方が変わります。厚生年金保険法60条1項2号は、次の2つのうちいずれか多い額とすると定めています。
- ① 1号で計算した額(報酬比例の4分の3)
- ② ①の額の3分の2 + 自分の老齢厚生年金の額の2分の1
そのうえで、自分の老齢厚生年金は全額支給され、上の額との差額だけが遺族厚生年金として上乗せされます。したがって自分の年金が多い方ほど、遺族厚生年金として実際に増える分は小さくなります。なお同項ただし書により、遺族基礎年金を受けているあいだは①の額になります。
このツールが計算しないもの
次のものは、金額を出さずに範囲外として申告します。分からないことを、それらしい数字で埋めないためです。画面の結果欄にも同じ一覧を出しています。
- 受給できるかどうかの判定 — 保険料納付要件(死亡日の前々月までの1年間に未納がない等)と生計維持要件(原則として前年収入850万円未満)は、入力だけでは確定できません
- 寡婦年金・死亡一時金 — 国民年金の第1号被保険者が亡くなり遺族基礎年金が出ないときの給付(国民年金法49条・52条の2)で、別の納付要件の判定が要ります
- 経過的寡婦加算 — 中高齢寡婦加算が65歳で終わったあと、昭和31年4月1日以前生まれの妻に加算されるもので、生年月日ごとに額が決まっています
- 子自身が受け取る遺族基礎年金 — 配偶者が受け取れない場合は子が受給権者になり、加算の構造が変わります(国民年金法39条の2)
- 30歳未満で子のない妻の5年有期 — 年額は同じですが、受給できる期間が5年で終わります(厚生年金保険法63条1項5号)
- 令和10年4月施行の遺族厚生年金の見直し — 令和7年の年金制度改正法により、20代から50代の配偶者が新たに受け取る遺族厚生年金は原則5年間の有期給付になり、夫にも同じ要件で支給されるようになります(中高齢寡婦加算も段階的に縮小)。施行は令和10年4月1日で、令和8年度の額には影響しませんが、これから受給が始まる方には関わります
- 障害年金・老齢基礎年金との併給調整 — 組み合わせによって一方を選ぶ必要があります(国民年金法20条)
よくある質問
Q. 子どもがいない妻でも遺族年金は受け取れますか?
A. 遺族厚生年金は受け取れますが、遺族基礎年金は受け取れません。遺族基礎年金は「子のある配偶者」または「子」に支給されるもので(国民年金法37条の2第1項)、ここでいう子は18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子(または20歳未満で障害等級1級・2級の子)です。この要件に当たる子が1人もいない配偶者には支給されません。そのかわり、亡くなった方が厚生年金の被保険者だった場合は遺族厚生年金が支給され、妻が40歳以上65歳未満であれば中高齢寡婦加算が上乗せされます。
Q. 厚生年金の加入が短くても遺族厚生年金は300月で計算されますか?
A. 短期要件のときだけです。厚生年金保険法60条1項1号のただし書は、58条1項1号から3号まで(在職中の死亡、初診日から5年以内の死亡、障害厚生年金1級・2級の受給権者の死亡)に該当して支給される遺族厚生年金について、被保険者期間が300月に満たないときは300月として計算すると定めています。老齢厚生年金の受給権者などが亡くなった長期要件(58条1項4号)にはこのみなしがなく、実際の加入月数で計算します。同じ加入期間でも、どちらの要件かで額が大きく変わります。
Q. 子の加算は3人目からなぜ安くなるのですか?
A. 国民年金法39条1項が、子1人につき7万4,900円に改定率を掛けた額を加算すると定めたうえで、かっこ書で「そのうち二人までについては、それぞれ二十二万四千七百円に改定率を乗じて得た額」と読み替えているためです。つまり本文が定める低い額が原則で、2人までだけが高い額に読み替えられる構造です。令和8年度は1人目・2人目が各24万3,800円、3人目以降が各8万1,300円になります。全員を高い額で足すと3人目以降で過大な金額が出ます。
Q. 中高齢寡婦加算は子どもがいるあいだも受け取れますか?
A. 受け取れません。厚生年金保険法65条により、遺族基礎年金を受けられるあいだは中高齢寡婦加算が支給停止になります。子が18歳到達年度の末日を過ぎて遺族基礎年金が終わったあと、妻が65歳になるまでのあいだ加算されます。つまり両方を同時に受け取ることはなく、子がいるあいだは遺族基礎年金、子が卒業したあとは中高齢寡婦加算、という順に切り替わります。
Q. 中高齢寡婦加算が付かないと言われました。なぜですか?
A. 中高齢寡婦加算には4つの条件があり、どれか1つでも欠けると付きません。①受け取るのが妻であること、②40歳以上65歳未満であること、③遺族基礎年金を受けていないこと(厚生年金保険法65条)、④長期要件で支給される遺族厚生年金の場合は、厚生年金の被保険者期間が240月(20年)以上あること(同法62条1項かっこ書)です。とくに④は見落としやすく、自営業の期間が長かった方が老齢厚生年金の受給権者として亡くなった場合、加入が240月に届かず加算されないことがあります。
Q. 65歳になって自分の老齢厚生年金が出ると、遺族厚生年金は止まりますか?
A. 止まりませんが、額の決め方が変わります。厚生年金保険法60条1項2号により、老齢厚生年金の受給権がある配偶者の遺族厚生年金は、①報酬比例の4分の3の額と、②その3分の2に自分の老齢厚生年金の2分の1を足した額の、いずれか多い額になります。そのうえで自分の老齢厚生年金は全額支給され、その差額が遺族厚生年金として上乗せされます。したがって受け取る合計額は、自分の老齢厚生年金が増えても遺族厚生年金の分だけ単純に足し算されるわけではありません。
Q. 遺族年金に税金はかかりますか?
A. かかりません。国民年金法25条と厚生年金保険法41条2項が、給付として支給を受けた金銭には租税その他の公課を課することができないと定めており(老齢給付は除かれます)、遺族年金は所得税も住民税も非課税です。相続税もかかりません。したがって確定申告に含める必要はなく、扶養の判定に使う合計所得金額にも入りません。ただし国民健康保険料や高額療養費の区分では、自治体によって遺族年金を判定材料に含める制度があるため、窓口で確認してください。
出典
- 国民年金法(昭和三十四年法律第百四十一号) — 37条の2第1項(受給権者の範囲)/38条(遺族基礎年金の額・100円単位の丸め)/39条1項(子の加算と「二人まで」のかっこ書)/25条(公課の禁止)
- 厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号) — 58条1項(短期要件・長期要件の4号)/60条1項1号(4分の3と300月みなしのただし書)/60条1項2号(65歳以降の併給)/62条1項(中高齢寡婦加算と240月のかっこ書)/65条(遺族基礎年金を受けるあいだの支給停止)/41条2項(公課の禁止)
- 日本年金機構「遺族年金」 — 令和7年度の公表額(遺族基礎年金 831,700円/子の加算 239,300円・79,800円/中高齢寡婦加算 623,800円)。このツールは同じ式・同じ丸めに令和7年度の改定率を通してこの4つを1円まで再現できることを検算しています
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