年金額は3つの部品からできている
老齢年金は1つの数字ではなく、別々の条文で計算された部品の足し算です。この計算機が出すのは次の3つで、それぞれ根拠が違います。
端数処理は1円単位の四捨五入です(国民年金法17条1項が「50銭未満は切り捨て、50銭以上1円未満は1円に切り上げ」と定めています)。切り捨てで実装すると毎年わずかに少なく出ます。
免除期間は「率を掛ける」だけでは足りない
保険料を免除してもらった期間も、一定の割合で年金額に反映されます。納めていないのに反映されるのは、基礎年金の半分が国庫負担でまかなわれているためです。ここまでは多くの解説に書かれていますが、国民年金法27条ただし書には、率のほかに「号ごとの上限」があることはあまり書かれていません。
条文は納付済月数から順に、それぞれの号について「480月から、それより前の号の月数を引いた月数」を限度と定めます。そして限度を超えた分は捨てられるのではなく、一段低い率で拾われます——8分の7に対して8分の3、4分の3に対して4分の1というように、ちょうど国庫負担の2分の1を除いた率です。
★もう1つの急所は、上限の計算に使う月数です。条文は「保険料四分の一免除期間の月数」と書いており、限度を適用したあとの月数とは書いていません。つまり上限を消費していくのは各号の「もとの」月数です。ここを「実際に採用された月数」で計算すると、免除期間の長い方の年金額が過大に出ます。
なお学生納付特例と納付猶予の期間は、全額免除の一種ではありますが年金額には反映されません(27条8号のかっこ書が90条の3第1項の期間を除いています)。受給資格期間の10年には算入されるので「カウントされている」と誤解しやすいところです。追納すれば納付済月数になります。
満額は生年月日で2つある
老齢基礎年金の満額は、国民年金法27条本文の78万900円に、その年度の改定率を乗じた額です。この改定率が新規裁定者(65歳になったばかりの方)と既裁定者(すでに受けている方)で別に設定されるため、満額は同じ年度に2つ存在します。境目は昭和31年4月2日で、これより後に生まれた方が新規裁定者の額になります。
満額を1つしか持たない実装は、どちらかの利用者に必ず誤った額を出します。この計算機は生年月日から該当する満額を選び、どちらを使ったかを結果に表示します。
平成15年4月で乗率と分母が同時に変わった
老齢厚生年金の報酬比例部分は「平均標準報酬 × 乗率 × 月数」で出しますが、平成15年4月の総報酬制の導入で、乗率と、乗率を掛ける相手の意味が同時に変わりました。
- 平成15年3月以前の期間 — 平均標準報酬月額(賞与は年金額に反映されない)× 1000分の7.125(平成12年改正法附則20条1項1号)
- 平成15年4月以後の期間 — 賞与を含む平均標準報酬額 × 1000分の5.481(厚生年金保険法43条1項)
乗率が下がったのは給付の削減ではなく、賞与という分母が加わったことに合わせた調整です。片方の乗率だけで通すと、平成15年をまたいで働いた方ほど誤差が大きくなります。ねんきん定期便でも、この2つの期間は分けて記載されています。
繰上げ・繰下げは付加年金にもかかる
受け取り始める時期を早めれば1か月あたり0.4%減り(国民年金法施行令12条1項)、遅らせれば1か月あたり0.7%増えます(同令4条の5第1項)。ここで見落とされやすいのが付加年金にも同じ率がかかることです。施行令12条2項と4条の5第2項が、法44条の額に減額率・増額率を乗じると明記しています。付加年金だけ200円×月数のまま据え置く計算機をよく見かけますが、条文どおりではありません。
また老齢厚生年金は、繰上げでも繰下げでも老齢基礎年金と同時にしか請求できません(国民年金法附則9条の2第1項・厚生年金保険法附則7条の3)。「基礎だけ繰り下げる」という入力は制度上ありえないので、この計算機は1つの受給開始月から3つすべてを計算します。
繰下げにだけ120月の上限がある
繰上げと繰下げは対称に見えますが、条文の書き方が違います。施行令4条の5第1項には「月数が120を超えるときは120」というかっこ書があり、繰下げの増額率は最大84%で止まります。一方、繰上げの減額率(12条1項)には上限の定めがありません——60歳が請求できる下限なので事実上60月=24%減が最大になる、という形で決まっています。
この非対称を実装に写し損なうと、76歳以降の繰下げで増額率が青天井に増える計算機になります。繰下げの上限年齢そのものは75歳(国民年金法28条2項2号)なので、上限を入れ忘れても入力の範囲では見えにくく、境界を跨いだときだけ静かに誤るところです。
このツールが計算しない範囲
年金額は最終的に日本年金機構が決定します。このツールは老齢年金の本体部分だけを条文どおりに計算するもので、次のものは計算に入れていません。当てはまるかたは、出てくる金額が実際の額と変わります。「およそ当たっているはず」と黙って混ぜるより、入れていないものを名前で挙げるほうが役に立つと考えています。
- 加給年金額(厚年法44条)— 厚生年金の被保険者期間が20年以上あり、65歳未満の配偶者や18歳年度末までの子がいる場合の加算。生計維持関係の判定が要るため入力だけでは確定できません。増える方向です。
- 振替加算— 配偶者の加給年金が終わったあと、大正15年4月2日〜昭和41年4月1日生まれの方の老齢基礎年金に加算されます。生年月日ごとに額が細かく決まっています。増える方向です。
- 経過的加算(差額加算)— 厚生年金の加入期間のうち20歳前・60歳以後の期間などが老齢基礎年金に反映されない分を、老齢厚生年金に上乗せして埋める仕組み(昭和60年改正法附則59条)。増える方向です。
- 特別支給の老齢厚生年金(60代前半の年金)— 男性は昭和36年4月1日以前、女性は昭和41年4月1日以前に生まれた方が、生年月日に応じて60〜64歳から受け取れます。支給開始年齢が1歳刻みで違います。
- 在職老齢年金による支給停止(厚年法46条)— 年金を受けながら厚生年金に加入して働くと、基本月額と総報酬月額相当額の合計が支給停止調整額を超えた分の半額が止まります。止まるのは報酬比例部分だけで、老齢基礎年金は止まりません。減る方向です。
- 平成21年3月以前の保険料免除期間— 当時の国庫負担は3分の1だったため反映率が違います(全額免除は2分の1でなく3分の1、4分の3免除は2分の1、半額免除は3分の2、4分の1免除は6分の5)。★このツールは入力があれば金額を出さずに申告します。
- 昭和37年4月1日以前生まれの方の繰上げ— 減額率が1か月0.5%(改正前)で、このツールが使う0.4%と異なります。★生年月日から機械的に判定して金額を出しません。
- 昭和27年4月1日以前生まれの方の繰下げ— 上限が70歳(最大60月・42%増)で、このツールが使う75歳(120月・84%増)と異なります。★同じく判定して金額を出しません。
- 昭和16年4月1日以前生まれの方の加入可能年数— 40年より短く(昭和60年改正法附則8条)、分母が480月になりません。★同じく判定して金額を出しません。
- 第3種被保険者(坑内員・船員)の特例— 被保険者期間を3分の4倍・5分の6倍する期間があり、乗率の読替えも入ります。
- 厚生年金基金の代行部分— 基金に加入していた期間は報酬比例部分の一部を基金が支給するため、国から受け取る額はその分少なくなります。減る方向です。
- 合算対象期間(カラ期間)— 受給資格期間の10年には算入されますが、年金額の計算には一切入りません。
★また、実際に振り込まれる額からは介護保険料・国民健康保険料(または後期高齢者医療保険料)と、所得税・住民税が差し引かれます。このツールが出すのは差し引く前の年金額です。
★受給資格期間(10年)を満たしているかどうかはこのツールでは判定していません。満たしていない場合は、月数を入れれば金額が出ますが、実際には支給されません。
よくある質問
Q. 保険料を免除してもらった期間は、年金額にどれくらい反映されますか?
A. 全額免除なら2分の1、4分の3免除なら8分の5、半額免除なら4分の3、4分の1免除なら8分の7が反映されます(平成21年4月以後の期間)。納めていないのに半分が付くのは、基礎年金の半分が国庫負担でまかなわれているためです。ただし率を掛けるだけでは足りません。国民年金法27条ただし書は納付済月数から順に「480月からそれより前の号の月数を引いた月数」を各号の限度と定めており、限度を超えた分は捨てられるのではなく一段低い率(8分の7に対して8分の3など、ちょうど国庫負担分を除いた率)で拾われます。例外は全額免除で、こちらだけ超過分を拾う号が無いため、限度を超えた全額免除の月数は年金額に一切反映されません。なお学生納付特例と納付猶予の期間は、受給資格期間には入りますが年金額には反映されません(追納すれば納付済月数になります)。
Q. 繰上げ・繰下げをすると、付加年金も一緒に増減しますか?
A. します。国民年金法施行令12条2項と4条の5第2項が、付加年金の額にも同じ減額率・増額率を乗じると定めています。付加年金だけ200円×月数のまま据え置く計算機をよく見かけますが、条文どおりではありません。老齢厚生年金も同じで、繰上げ・繰下げは老齢基礎年金と同時にしか請求できないため(国民年金法附則9条の2第1項・厚生年金保険法附則7条の3)、この計算機は1つの受給開始月から3つすべてに同じ率を当てます。
Q. 繰下げは何歳まで、どれだけ増えますか?
A. 75歳まで繰り下げられ、1か月あたり0.7%増えます(国民年金法28条2項2号・施行令4条の5第1項)。ここで見落としやすいのが上限で、施行令4条の5第1項のかっこ書が「月数が120を超えるときは120」と定めているため、増額率は最大84%で止まります。一方、繰上げの減額率(1か月0.4%・施行令12条1項)には上限の定めがありません。60歳が請求できる下限なので事実上60月=24%減が最大になりますが、条文の書き方が繰上げと繰下げで違うので、繰下げに上限を入れ忘れると76歳以降で青天井に増える実装になります。
Q. 厚生年金の乗率が2つあるのはなぜですか?
A. 平成15年4月に総報酬制が導入され、乗率と、乗率を掛ける相手の意味が同時に変わったためです。平成15年3月以前の期間は「平均標準報酬月額」に1000分の7.125を掛けます(賞与は年金額に反映されません)。平成15年4月以後の期間は賞与を含む「平均標準報酬額」に1000分の5.481を掛けます(厚生年金保険法43条1項・平成12年改正法附則20条1項)。片方の乗率だけで通すと、平成15年をまたいで働いた方の額がずれます。乗率が下がったのは給付の削減ではなく、賞与という分母が入ったことに合わせた調整です。
Q. この計算機の金額は、実際に振り込まれる額と同じですか?
A. 違います。この計算機は老齢年金の本体部分(老齢基礎年金・付加年金・老齢厚生年金の報酬比例部分)だけを出します。加給年金額・振替加算・経過的加算・特別支給の老齢厚生年金・在職老齢年金による支給停止・厚生年金基金の代行部分などは入れていません。増える方向のもの(加給年金・経過的加算)と減る方向のもの(在職による支給停止)が両方あるので、多めにも少なめにもずれます。また実際の振込額からは介護保険料・国民健康保険料や所得税・住民税が差し引かれます。確定した額は日本年金機構の「ねんきんネット」か年金事務所でご確認ください。
出典
- 国民年金法(昭和34年法律第141号) — 27条(老齢基礎年金の額=78万900円×改定率、ただし書1号〜8号の反映率と号ごとの上限)/44条(付加年金=200円×付加保険料納付済月数)/17条1項(1円単位の四捨五入)/28条2項2号(繰下げの上限75歳)/附則9条の2第1項(繰上げは老齢厚生年金と同時請求)
- 国民年金法施行令(昭和34年政令第184号) — 4条の5第1項(繰下げの増額率=千分の七×月数。120を超えるときは120)・2項(付加年金も同じ増額率)/12条1項(繰上げの減額率=千分の四×月数。上限の定めなし)・2項(付加年金も同じ減額率)
- 厚生年金保険法(昭和29年法律第115号) — 43条1項(報酬比例部分=平均標準報酬額×1000分の5.481×月数)/44条(加給年金額)/46条(在職老齢年金の支給停止)/附則7条の3(繰上げの同時請求)
- 平成12年改正法(平成12年法律第18号) — 附則20条1項(平成15年4月1日前の期間は平均標準報酬月額×1000分の7.125、同日以後は平均標準報酬額×1000分の5.481)
- 日本年金機構「老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額」 — 満額の実額(令和8年4月分から)。★計算式が画像で置かれており、img の alt 属性は令和6年度の額のままだったため、画像そのものを読み、78万900円×改定率で別経路から検算しています。
条文は e-Gov 法令API v2 で取得した現行版を逐語で確認しています(2026年7月29日確認)。★現行版かどうかは施行日で判定しています(API の current_revision_status は現行版でも PreviousEnforced を返すため)。満額は毎年度の改定率で変わるので、毎年4月に取り直す前提のデータにしてあります。確定した年金額は日本年金機構の「ねんきんネット」または年金事務所でご確認ください。