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年金受給者の確定申告【令和8年分】400万円以下でも申告すると戻る額

結論から言うと、公的年金等の収入が400万円以下で、その全部が源泉徴収の対象で、年金以外の所得が20万円以下なら、所得税の確定申告をする義務はありません。所得税法121条3項の確定申告不要制度です。ただしこれは「義務がない」という意味で、「申告しても意味がない」という意味ではありません。

年金から源泉徴収されている人は、申告しないと戻らない額が構造的に残ります。年金からの源泉徴収が使っている控除は年間210万円分(65歳以上・令和8年分)で止まっているのに対し、確定申告では公的年金等控除110万円と基礎控除104万円の合計214万円が使えるからです。この4万円の差に5.105%を掛けた分が、申告しなければそのまま国に残ります。65歳以上・年金240万円・他に控除なしという最も単純な例で2,115円、年金300万円なら8,171円です。医療費控除や生命保険料控除がある人はもっと大きくなります。

この記事は、申告不要制度の3つの条件を条文で確かめたうえで、年金から実際にいくら引かれているのか、扶養親族等申告書を出さないと何が変わるのか(変わるのは税率ではありません)、遺族年金・障害年金が非課税である根拠はどの法律にあるのか、在職老齢年金や住民税とどう絡むのかを、令和8年分の実数で整理します。「確定申告がいくらから必要か」という全体の物差しは確定申告はいくらからで扱っているので、本記事は年金受給者に固有の判断だけを扱います。

年金受給者の判定は「収入400万円」と「他の所得20万円」の2本で決まる

先に全体を並べます。金額はすべて令和8年分(2026年1月〜12月の所得。申告は2027年2月16日〜3月15日)で、65歳以上・他に所得控除がない単純な例です。

状況所得税の確定申告根拠
年金400万円以下+年金以外の所得20万円以下義務なし。ただし源泉徴収されていれば還付申告で戻る額がある所得税法121条3項、122条
年金400万円超121条3項の対象外。所得税法120条1項で判定し直す所得税法120条1項
年金以外の所得が20万円超(パート給与94万円超など)121条3項の対象外。120条1項で判定し直す所得税法121条3項、措置法29条の4
年金が65歳以上で205万円未満(源泉徴収の対象外)そもそも源泉徴収されていないので還付はない。住民税の確認が残る所得税法203条の7、地方税法317条の2
遺族年金・障害年金だけ非課税所得なので所得に入らない。所得税の申告は不要国民年金法25条、厚生年金保険法41条2項
医療費控除・生命保険料控除などを使いたい義務はないが、申告しなければ反映されない所得税法122条

ここで数える単位が2種類あることに注意します。400万円は収入(公的年金等控除を引く前の額)で、20万円は所得(給与なら給与所得控除を引いた後の額)です。会社員の副業20万円ルールと同じ構造で、片方を間違えると結論が反転します。

① 公的年金等の収入が400万円以下か 遺族年金・障害年金は非課税なので数えない ② その年金の全部が源泉徴収の対象か 額が少なく源泉徴収を要しない年金も含む ③ 年金以外の所得が20万円以下か パート給与なら収入94万円まで(令和8年分) 給与所得控除の最低額74万円を引いた後で数える 所得税の確定申告は不要(121条3項) ただし源泉徴収税額があれば還付申告で戻る 住民税の申告が要るかを別に確かめる 地方税法317条の2。20万円の例外は無い 1つでも「いいえ」 所得税法120条1項の 原則の判定に戻る いいえ はい はい はい
①②③のすべてを満たしたときだけ所得税の申告義務が外れます。外れた人も、源泉徴収されていれば還付申告ができ、住民税の申告義務は別に残ります。

申告不要制度は所得税法121条3項。3つの条件を全部満たしたときだけ使える

根拠は所得税法121条3項です。令和8年12月1日施行版の条文は次のとおりです。

その年において第三十五条第三項(雑所得)に規定する公的年金等(以下この条において「公的年金等」という。)に係る雑所得を有する居住者で、その年中の公的年金等の収入金額が四百万円以下であるものが、その公的年金等の全部(第二百三条の七(源泉徴収を要しない公的年金等)の規定の適用を受けるものを除く。)について第二百三条の二(公的年金等に係る源泉徴収義務)の規定による所得税の徴収をされた又はされるべき場合において、その年分の公的年金等に係る雑所得以外の所得金額(利子所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、給与所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額、一時所得の金額及び公的年金等に係る雑所得以外の雑所得の金額の合計額をいう。)が二十万円以下であるときは、前条第一項の規定にかかわらず、その年分の課税総所得金額又は課税山林所得金額に係る所得税については、同項の規定による申告書を提出することを要しない。

読み解くと条件は3つです。

  1. 公的年金等の収入金額が400万円以下であること。収入なので、公的年金等控除を引く前の額で数えます。企業年金や恩給も公的年金等に含まれるので合算します。
  2. その公的年金等の全部が源泉徴収の対象であること。括弧書きで203条の7(額が少なくて源泉徴収を要しない年金)が除かれているので、少額で源泉徴収されていない年金があってもこの条件は壊れません。国税庁No.2020も、扶養親族等申告書の提出先であって年金額が一定に満たないため源泉徴収を要しないものは「源泉徴収の対象」に含まれると案内しています。逆に、外国の法令に基づく年金のように源泉徴収の仕組みが及ばないものを受けている人は、この条件を満たせません(国税庁No.1600の注3)。
  3. 年金以外の所得が20万円以下であること。利子・配当・不動産・事業・給与・山林・譲渡・一時・年金以外の雑所得の合計です。退職所得は入っていません。

3つのうち1つでも外れたら、この制度は使えません。ただし外れた瞬間に申告義務が生まれるわけではなく、所得税法120条1項の原則の判定に戻るだけです。120条1項は、所得の合計が所得控除の合計を超え、その税額が配当控除を超え、なおかつ源泉徴収税額や予定納税額で控除しきれる場合を除いたときに義務があると定めています。年金400万円を1円超えた人でも、社会保険料控除や医療費控除で所得控除の合計が所得を上回れば、義務はありません。「400万円を超えたら申告義務あり」ではなく「400万円を超えたら120条1項に戻る」が条文どおりの読み方です。

121条3項が外すのは所得税だけ「確定申告不要」という言葉は所得税法の中の言葉で、住民税には及びません。地方税法317条の2には20万円や400万円という例外がなく、条件も別に書かれています。この記事の最後の節で扱います。

公的年金等控除は65歳で110万円に変わる。所得税が0円になる線は214万円

年金の所得は「収入−公的年金等控除額」で計算します。控除額を定めるのは所得税法35条4項1号で、40万円と、収入から50万円を引いた残額に応じた額との合計です。この合計が60万円に満たないときは60万円が保障されます。そして65歳以上については、租税特別措置法41条の15の3第1項がその60万円を110万円に読み替えます。

年齢が六十五歳以上である個人が、平成十七年以後の各年において、その年中の所得税法第三十五条第三項に規定する公的年金等(以下この項及び次項において「公的年金等」という。)の収入金額がある場合における当該公的年金等に係る同条第四項(同法第百六十五条第一項において適用する場合を含む。)の規定の適用については、同法第三十五条第四項第一号中「六十万円に」とあるのは「百十万円に」と、「六十万円)」とあるのは「百十万円)」と、同項第二号中「五十万円」とあるのは「百万円」と、同項第三号中「四十万円」とあるのは「九十万円」とする。

年齢はその年の12月31日で判定します(同条4項)。誕生日が12月31日の人はその年から65歳以上として扱われます。公的年金等以外の合計所得金額が1,000万円以下の人の速算表は次のとおりで、この部分は令和7年分と令和8年分で変わっていません。

年金の収入金額65歳未満の雑所得65歳以上の雑所得
130万円以下収入−60万円(60万円以下は0円)収入−110万円(110万円以下は0円)
130万円超 330万円以下収入×75%−27万5,000円収入−110万円
330万円超 410万円以下収入×75%−27万5,000円収入×75%−27万5,000円
410万円超 770万円以下収入×85%−68万5,000円収入×85%−68万5,000円
770万円超 1,000万円以下収入×95%−145万5,000円収入×95%−145万5,000円
1,000万円超収入−195万5,000円収入−195万5,000円

令和8年分の基礎控除は、合計所得金額489万円以下なら62万円+42万円=104万円です(所得税法86条1項1号と措置法41条の16の2第1項1号イ、いずれも令和8年12月1日施行版)。ここから所得税が0円で収まる線が出ます。

この214万円は所得控除と釣り合う線で、納める所得税が実際に残る線はその少し上です。国税通則法118条1項と119条1項の端数処理を通すと、100円の所得税が出るのは65歳以上で年金収入214万2,000円から、65歳未満で175万6,000円からになります(この2本の線の分け方は確定申告はいくらからで詳しく扱っています)。介護保険料などの社会保険料控除がある人は、どちらの線もその分だけ上へ動きます。

年金から引かれている5.105%は概算。控除は年210万円分しか入っていない

老齢年金からは、支払のたびに所得税と復興特別所得税が源泉徴収されています。義務を定めるのは所得税法203条の2、税額の計算は203条の3です。柱書は税率を次のように書いています。

前条の規定により徴収すべき所得税の額は、公的年金等の金額から、次の各号に掲げる公的年金等の区分に応じ当該各号に定める金額を控除した残額に百分の五(第三号又は第六号に掲げる公的年金等の当該残額が十六万二千五百円に当該公的年金等の金額に係る月数を乗じて計算した金額を超える場合におけるその超える部分の金額及び第七号に掲げる公的年金等の当該残額については、百分の十)の税率を乗じて計算した金額とする。

老齢基礎年金・老齢厚生年金は5%で、これに復興特別所得税2.1%が上乗せされて合計税率5.105%になります(復興財確法28条、国税庁No.1600)。差し引く控除額は号ごとに決まっていて、令和8年分は租税特別措置法41条の16の2第3項・4項が金額を読み替えます。日本年金機構が配っている「年金にかかる源泉徴収税額」の令和8年分の数字は、この読替後の額と一致します。

区分(令和8年分)1か月あたりの控除額最低額
65歳未満・年金額213万円以下1か月分の年金支払額×25%+10万5,000円13万円
65歳未満・年金額213万円超1か月分の年金支払額×25%+10万円12万5,000円
65歳以上・年金額242万円以下1か月分の年金支払額×25%+10万5,000円17万5,000円
65歳以上・年金額242万円超1か月分の年金支払額×25%+10万円16万5,000円

年金は偶数月に2か月分ずつ支払われるので、「1か月分の年金支払額」は年額のおおむね12分の1です。ここで気づいてほしいのが、65歳以上の最低額17万5,000円×12か月=210万円という数字です。確定申告で使える公的年金等控除110万円+基礎控除104万円=214万円より4万円小さい。源泉徴収は月ごとの概算なので、年間で見ると控除が足りていません。

もう1つ、そもそも源泉徴収の対象にならない人がいます。所得税法203条の7と政令が最低額を定めており、日本年金機構によれば令和8年分は次のとおりです。令和8年分から大きく引き上げられたので、令和7年分まで源泉徴収されていた人が令和8年分から対象外になることがあります。

区分令和7年分まで令和8年分令和9年分以降
65歳未満108万円以上155万円以上164万円以上
65歳以上158万円以上205万円以上214万円以上
退職共済年金の受給者で老齢基礎年金が支給されている人80万円以上127万円以上137万円以上

65歳以上で年金が205万円未満の人は、令和8年分は源泉徴収されません。この人が確定申告をしても、戻る所得税がそもそも存在しません。「年金受給者は申告すれば戻る」という言い方は、源泉徴収されている人にだけ成り立ちます。自分がどちらかは、日本年金機構が毎年1月に送る「公的年金等の源泉徴収票」の源泉徴収税額欄を見れば分かります。ここが0円なら、還付される所得税はありません。

扶養親族等申告書を出さなくても税率は変わらない。変わるのは控除額

毎年9月ごろに届く「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」は、所得税法203条の6が定める申告書です。第1項の柱書は、何のために出すのかをはっきり書いています。

国内において公的年金等(確定給付企業年金等を除く。)の支払を受ける居住者が、第二百三条の三(第一号から第三号までに係る部分に限る。)(徴収税額)の規定による所得税の額の計算において同条第一号ロからトまでに掲げる金額のいずれかの金額の控除を受けようとする場合には、その公的年金等の支払者から毎年最初に公的年金等の支払を受ける日の前日までに、次に掲げる事項を記載した申告書を、当該公的年金等の支払者を経由して、その公的年金等に係る所得税の第十七条(源泉徴収に係る所得税の納税地)の規定による納税地(第十八条第二項(納税地の指定)の規定による指定があつた場合には、その指定をされた納税地)の所轄税務署長に提出しなければならない。

目的は、203条の3第1号のロからトまでに掲げる金額のいずれかの控除を受けようとする場合、と限定されています。ロからトまでは、障害者・寡婦・ひとり親・源泉控除対象配偶者・源泉控除対象親族・同一生計配偶者や扶養親族のうちの障害者という、人的控除の6つです。基礎控除相当と公的年金等控除にあたるイの部分は、申告書を出しても出さなくても同じ号の同じ算式で計算されます。

これが実務でいちばん誤解されている点です。提出しなくても税率は上がりません。日本年金機構は「提出した場合と提出しなかった場合で、所得税率に差はありません」「各種控除に該当しない方は、提出しなかった場合でも、申告書を提出された場合に比べ、多くの所得税、住民税が徴収されることはありません」と明記しています。同機構の「年金にかかる源泉徴収税額」でも、提出した場合と提出しない場合の計算式はどちらも合計税率5.105%で、違うのは差し引く控除額だけです。

では実際にいくら違うのか。令和8年分の月割控除額は次のとおりです(日本年金機構「年金にかかる源泉徴収税額」)。年額に直すと12倍になります。

控除の種類月割控除額年額5.105%を掛けた税額
一般の配偶者32,500円390,000円19,909円
老人控除対象配偶者40,000円480,000円24,504円
一般の扶養親族(1人)32,500円390,000円19,909円
特定扶養親族・特定親族(1人)52,500円630,000円32,161円
老人扶養親族(1人)40,000円480,000円24,504円
普通障害者(1人)22,500円270,000円13,783円
特別障害者(1人)35,000円420,000円21,441円
同居特別障害者(1人)62,500円750,000円38,287円
寡婦22,500円270,000円13,783円
ひとり親30,000円360,000円18,378円

65歳以上・年金300万円・70歳以上の配偶者を扶養している人で試算します。申告書を出していれば控除が月4万円増えるので、年間の源泉徴収税額は27,567円。出していなければ52,071円で、差は24,504円です。ただしこの24,504円は消えたわけではありません。翌年に確定申告をすれば、年税額19,300円との差額32,771円が還付されます。出した人の還付は8,267円で、1年を通した最終的な負担は同じです。

つまり扶養親族等申告書の未提出で起きるのは、税率の上昇ではなく資金繰りの前借りと、申告しなかった場合に取り戻せないという2点です。日本年金機構も「確定申告を行わないと障害者控除や配偶者控除等が受けられません」と書いています。そして住民税の側では、この申告書の内容が市区町村へ回るため、出さないと翌年の住民税でも人的控除が反映されないことがあります。扶養控除シミュレーターで、控除1人あたりの税額の動きを確かめてから判断できます。

扶養控除シミュレーターで、扶養親族1人でいくら税金が変わるかを令和8年分の税率で試算する

申告不要制度を選ぶと戻らない額 — 年金240万円で2,115円、300万円で8,171円

ここが本記事の中心です。年金以外に所得がなく、医療費控除も生命保険料控除もない、いちばん単純な人を考えます。この人は121条3項で申告不要です。では申告しなければ損はないのか。損はあります。

理由は前の節のとおりで、源泉徴収が使っている年間の控除額と、確定申告で使える所得控除の合計がずれているからです。65歳以上・扶養親族等申告書に人的控除の記載がない人の令和8年分で並べます(社会保険料は源泉徴収でも所得控除でも同じ額だけ引かれるので、差額には影響しません)。

年金収入源泉徴収の年間控除額源泉徴収税額(年)確定申告の年税額申告すれば戻る額
216万円210万円3,063円1,000円2,063円
240万円210万円15,315円13,200円2,115円
300万円198万円52,071円43,900円8,171円
360万円210万円76,575円70,700円5,875円

240万円の行を追います。1か月分の年金支払額は20万円なので、控除は20万円×25%+10万5,000円=15万5,000円。最低額17万5,000円の方が大きいので17万5,000円が採られ、年間210万円です。源泉徴収税額は(240万円−210万円)×5.105%=15,315円。一方で確定申告なら、公的年金等控除110万円と基礎控除104万円を引いて課税所得26万円、所得税13,000円に復興特別所得税273円を足して13,273円、100円未満を切り捨てて13,200円。差の2,115円が還付されます。

300万円で急に大きくなるのは、242万円を超えて最低額が16万5,000円(年198万円)に下がるからです。214万円との差が16万円に広がり、16万円×5.105%=8,168円に端数処理の分が乗ります。360万円で再び縮むのは、月30万円×25%+10万円=17万5,000円が最低額を上回って算式が動き出し、同時に公的年金等控除も110万円から117万5,000円へ増えるためです。差額を一般化すると次のようになります。

年金収入(65歳以上・令和8年分)控除の差申告すれば戻る額(端数処理前)
214万円超 242万円以下4万円2,042円
242万円超 312万円以下16万円8,168円
312万円超 330万円以下16万円から11万5,000円へ縮む8,168円から5,870円へ
330万円超 400万円以下11万5,000円5,870円

金額としては数千円です。ただし毎年発生し、申告しなければ毎年そのままです。10年で2万円から8万円になります。しかも還付申告は国税庁No.2030のとおり翌年1月1日から5年間できるので、気づいた年にさかのぼって5年分をまとめて出すこともできます。「不要制度があるから何もしなくてよい」と読んだ人が取りこぼしているのは、この帯です。

逆に申告すると増える場合もある上場株式の配当や特定口座(源泉徴収あり)の譲渡益は、申告不要を選べば合計所得金額に含まれません。申告に含めると合計所得金額が増え、基礎控除の段(489万円・655万円)や配偶者控除の所得要件、国民健康保険料・後期高齢者医療保険料の算定に影響することがあります。還付額だけでなく、合計所得金額がどこまで増えるかを見てから決める場面です。

申告した方が得な5つの場面と、その実数

源泉徴収の計算に入っている控除は限られています。入っているものと入っていないものを分けると、どこで申告が効くかが決まります。

控除年金の源泉徴収に反映されるか根拠
公的年金等控除・基礎控除相当される(月割の概算)所得税法203条の3第1号イ・第4号
社会保険料控除(年金から特別徴収された介護保険料・後期高齢者医療保険料など)される所得税法203条の5第1号
配偶者控除・扶養控除・障害者控除・寡婦控除・ひとり親控除扶養親族等申告書を出せばされる所得税法203条の3第1号ロ〜ト、203条の6
社会保険料控除(口座振替の国民健康保険料、家族の分を払った保険料)されない特別徴収ではないため203条の5に当たらない
生命保険料控除・地震保険料控除されない203条の3が列挙していない
医療費控除・雑損控除・寄附金控除されない203条の3が列挙していない

下の3行が、申告して初めて効く控除です。典型的な5つの場面を実数で並べます。

  1. 医療費控除がある。65歳以上・年金240万円・年間の医療費25万円(保険金なし)なら、総所得金額等は130万円。足切りは10万円ではなく総所得金額等の5%=6万5,000円なので、控除額は18万5,000円です。課税所得は26万円から7万5,000円に下がり、年税額は7万5,000円×5.105%=3,828円の100円未満を切り捨てて3,800円。源泉徴収された15,315円との差の11,515円が戻ります。源泉徴収税額の全額を取り戻すには課税所得を0円にする必要があり、そのためには医療費控除が26万円以上、医療費で言えば足切り6万5,000円を足した32万5,000円以上が要ります。所得200万円未満の年金受給者で医療費控除の効きが大きいのはこの5%の方が使えるからで、10万円で諦めるのは早すぎます。
  2. 社会保険料を年金天引き以外で払っている。国民健康保険料を口座振替にしている、あるいは同一生計の配偶者の後期高齢者医療保険料を自分の口座から払った場合、その分は源泉徴収に入っていません。年間12万円払っていれば12万円×5.105%=6,126円が動きます。仕組みは社会保険料控除の記事で扱っています。
  3. 生命保険料控除・地震保険料控除がある。新制度の一般生命保険料に年8万円超を払っていれば控除は4万円で、4万円×5.105%=2,042円。3区分の上限12万円まで使えば6,126円です。生命保険料控除シミュレーターで控除額を確かめられます。
  4. 扶養親族等申告書を出しそびれた。前の節のとおり、人的控除が源泉徴収に入っていません。老人控除対象配偶者1人で24,504円が余分に引かれたままです。申告すれば戻ります。
  5. 年の途中で亡くなった・年金以外に源泉徴収された報酬がある。亡くなった年の分は相続人が準確定申告をします。原稿料や講演料を受けていた人は、支払時に10.21%が引かれているので、年金と合算して精算します。
医療費控除 計算機で、年金収入と医療費から「いくら戻るか」を令和8年分の税率で試算する
前年9月 当年2月 当年12月 翌年1月 翌年2月 申告書が届く 源泉徴収が始まる 年6回で終わる 源泉徴収票 申告の受付 偶数月に2か月分ずつ 合計税率5.105%で徴収 源泉徴収票の源泉徴収税額が 0円なら還付する所得税はない 還付申告は翌年1月1日から5年間(国税庁No.2030) 納税がある申告と住民税の申告は3月15日まで
還付申告だけなら2月16日を待つ必要はありません。翌年1月1日から出せて、期限は5年後です。納税が生じる確定申告と住民税の申告は3月15日が期限です。

遺族年金・障害年金が非課税である根拠は所得税法ではなく年金の法律にある

遺族年金と障害年金に税金がかからないことは広く知られていますが、その根拠を所得税法9条(非課税所得)に探すと見つかりません。同条1項3号ロが挙げているのは「遺族の受ける恩給及び年金(死亡した者の勤務に基づいて支給されるものに限る。)」で、恩給法系の給付を指しています。現在の遺族基礎年金・遺族厚生年金・障害基礎年金・障害厚生年金の根拠は、年金の法律そのものの中にあります。国民年金法25条です。

租税その他の公課は、給付として支給を受けた金銭を標準として、課することができない。ただし、老齢基礎年金及び付加年金については、この限りでない。

厚生年金保険法41条2項も同じ構造です。

租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金銭を標準として、課することができない。ただし、老齢厚生年金については、この限りでない。

この2つは「公課の禁止」という見出しの条文で、原則が非課税で、老齢給付だけが例外という書き方になっています。所得税法の側で「これは非課税」と拾っているのではなく、年金法の側で課税を禁じている。だから障害年金・遺族年金は所得税法上の所得に一切入りません。実務では次の3つに効きます。

金額そのものは障害年金の金額遺族年金の受給要件で扱っています。1つだけ落とし穴があります。亡くなった受給者に支払われていなかった未支給年金は、遺族が自分の固有の権利として請求するものなので、国税庁No.1605のとおり遺族の一時所得になります。非課税ではありません。一時所得には50万円の特別控除があるので税額が出ないことが多いものの、他に一時所得がある年は注意が必要です。一時所得の記事で計算の順序を確かめてください。なお、非課税である遺族年金や障害年金を受けている人でも、所得や保険料の納付状況によっては年金生活者支援給付金の対象になります。この給付金も非課税で、確定申告の所得には入りません。

在職老齢年金で止まった分は課税されない。ただし給与94万円で制度から外れる

働きながら老齢厚生年金を受ける人は、厚生年金保険法46条1項により、総報酬月額相当額と基本月額の合計が支給停止調整額を超えると年金の一部または全部が止まります。令和8年度の支給停止調整額は65万円です(令和7年年金制度改正法により令和8年4月から51万円→65万円)。

税の側で大事なのは、支給が停止された部分はそもそも支払われないということです。支払われていない以上、公的年金等の収入金額に入らず、源泉徴収もされず、121条3項の400万円の判定にも入りません。年金証書上の額や手取りの振込額ではなく、支給停止後かつ税・社会保険料等の控除前の額である、源泉徴収票の「支払金額」で数えます。所得税や年金から天引きされる介護保険料は、この支払金額から差し引かれたうえで振り込まれます(所得税法施行規則94条の2第1項は、支払金額とは別に源泉徴収税額と社会保険料の額を記載させています)。通帳の入金額を足し上げても支払金額にはなりません。老齢基礎年金と経過的加算は停止の対象外なので、そのまま収入になります。

一方で、在職老齢年金の対象になる人には給与があります。給与所得が20万円を超えれば、121条3項の3つ目の条件が壊れます。令和8年分の給与所得控除の最低額は74万円(措置法29条の4第1項)なので、境目は給与収入94万円です。95万円なら給与所得21万円で、申告不要制度から外れます。支給停止調整額65万円に届くほどの給与がある人は、当然この線を大きく超えています。

設例(65歳以上・令和8年分)年金の支払額給与収入給与所得121条3項
週2日のパート240万円90万円16万円使える(申告不要)
週3日のパート240万円120万円46万円使えない。120条1項で判定
在職老齢年金で一部停止停止後の実額で数える600万円436万円使えない。120条1項で判定

2行目・3行目の人は、勤め先で年末調整を受けていても確定申告が必要になることが多い層です。会社員向けの121条1項1号(給与1か所・年末調整あり)も「給与以外の所得が20万円以下」を求めるので、年金の雑所得が20万円を超えていれば使えません。65歳以上なら公的年金等控除110万円を引いた後で20万円ですから、年金130万円を超えるとこちらも外れます。年金と給与の両方がある人は、どちらの申告不要制度にも当てはまらないのが普通だと考えておくのが安全です。停止額そのものは在職老齢年金 計算機で確かめられます。

在職老齢年金 計算機で、令和8年度の基準額65万円による停止額と実際の支払額を計算する

所得税の申告が不要でも、住民税の申告は別に要ることがある

ここまでの「申告不要」はすべて所得税の話です。住民税の申告義務は地方税法317条の2第1項が別に定めています。同項は3月15日までに申告書を提出しなければならないと書いたうえで、ただし書で外す人を挙げています。公的年金等支払報告書が市町村へ出る人で前年中に公的年金等に係る所得以外の所得がなかった人は原則として申告不要ですが、そのただし書にはさらに除外が付いています。条文が名指ししているのは、社会保険料控除額・小規模企業共済等掛金控除額・生命保険料控除額・地震保険料控除額・勤労学生控除額・配偶者特別控除額・扶養控除額・特定親族特別控除額の控除、またはこれらと併せて雑損控除額・医療費控除額の控除、純損失や雑損失の金額の控除、寄附金税額控除額の控除を受けようとする人です。

裏返すと、こうなります。

そして所得税の確定申告をした人は、地方税法317条の3第1項により住民税の申告書も出したものとみなされます。

第二百九十四条第一項第一号の者が前年分の所得税につき所得税法第二条第一項第三十七号の確定申告書(以下本条において「確定申告書」という。)を提出した場合(政令で定める場合を除く。)には、本節の規定の適用については、当該確定申告書が提出された日に前条第一項から第四項までの規定による申告書が提出されたものとみなす。ただし、同日前に当該申告書が提出された場合は、この限りでない。

つまり、還付が数千円でも確定申告をしておけば、住民税の申告は別に出さなくて済みます。手間の面でも確定申告を1本出す方が早いことが多い。

住民税は税額が出る線も低くなっています。令和8年分の所得に対する令和9年度の住民税の基礎控除は、地方税法314条の2第2項1号で43万円です。所得税の104万円との差は61万円あり、年金収入で言えば65歳以上で110万円+43万円=153万円を超えたところから課税所得が生じます。ただし実際に住民税がかかるかどうかは、その手前に置かれた非課税限度額で決まります。この限度額は市区町村の級地区分で変わり、日本年金機構が令和8年分の申告書の案内で示す単身者の額は次のとおりです。

級地区分65歳未満65歳以上
1級地105万円155万円
2級地101.5万円151.5万円
3級地98万円148万円

65歳以上で年金が205万円未満の人は所得税の源泉徴収がありませんが、この表の額を超えていれば住民税は生じます。「源泉徴収されていない=税金と無関係」ではありません。なお65歳以上で老齢等年金給付を受けている人の住民税は、地方税法321条の7の2により年金から特別徴収されます。制度の初年度は、年税額の半分を10月から翌年3月の年金から天引きし、残りを4月から9月に普通徴収する形です。世帯全体の非課税判定は住民税非課税世帯 判定シミュレーターで、税額そのものは住民税非課税のボーダー住民税の特別徴収で扱っています。

住民税非課税世帯 判定シミュレーターで、年金収入と世帯構成から非課税に当たるかを判定する

よくある質問

Q. 年金が400万円以下なら確定申告はしなくてよいのですか?

A. 所得税の確定申告の義務はありません。所得税法121条3項は、公的年金等の収入が400万円以下、その全部が源泉徴収の対象、年金以外の所得が20万円以下の3つを全部満たす人について申告書の提出を要しないと定めています。ただし義務がないだけで、源泉徴収されている人は申告すれば戻る額があり、住民税の申告は別に必要な場合があります。

Q. 扶養親族等申告書を出さないと税率が上がるのですか?

A. 上がりません。日本年金機構は、提出した場合と提出しなかった場合で所得税率に差はないと明記しています。合計税率はどちらも5.105%で、変わるのは配偶者控除や障害者控除などの月割控除額の方です。各種控除に該当しない人は、提出しなくても源泉徴収税額は同じです。

Q. 年金だけで他に控除もありません。それでも申告する意味はありますか?

A. 源泉徴収されている人にはあります。源泉徴収は年間210万円分の控除しか見ていないのに対し、確定申告では公的年金等控除110万円と基礎控除104万円の合計214万円が使えるためです。65歳以上・年金240万円の例で2,115円、300万円の例で8,171円が納め過ぎになります。

Q. 遺族年金や障害年金も400万円に含めて数えるのですか?

A. 含めません。国民年金法25条と厚生年金保険法41条2項が、老齢基礎年金・付加年金・老齢厚生年金を除いて課税を禁じているため、遺族年金と障害年金は非課税所得です。所得に入らないので、400万円の判定にも、20万円の判定にも、住民税の合計所得金額にも入りません。

Q. 年金をもらいながら働いています。申告は必要ですか?

A. 給与所得が20万円を超えると申告不要制度から外れます。令和8年分は給与所得控除の最低額が74万円なので、パート給与94万円が境目です。外れた後は所得税法120条1項の判定に戻り、所得の合計が所得控除の合計を超えて税額が源泉徴収税額を上回るときに義務が生じます。

Q. 医療費控除を受けたいのですが、還付申告はいつまでできますか?

A. 国税庁No.2030によれば、還付申告はその年の翌年1月1日から5年間提出できます。確定申告期間とは関係がなく、2月16日を待つ必要もありません。年金受給者は所得が200万円未満になることが多く、その場合の医療費控除の足切りは10万円ではなく総所得金額等の5%です。

Q. 所得税の申告が不要なら住民税の申告も不要ですか?

A. 別の制度です。地方税法317条の2第1項ただし書は、公的年金等以外の所得がなかった人を申告義務から外していますが、社会保険料控除・生命保険料控除・扶養控除・医療費控除などを受けようとする人はその例外から除かれています。所得税の確定申告をした人は317条の3で住民税の申告をしたものとみなされます。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・税理士にご確認ください。

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