確定申告はいくらから必要?【令和8年分】所得104万円・副業20万円・年金400万円
結論から言うと、所得税の確定申告が必要になるのは「収入がいくら」ではなく「所得の合計が所得控除の合計を超えたとき」です。所得税法120条1項が定めるのはこの1本の物差しで、会社員の副業20万円や年金受給者の400万円は、この物差しを使わなくてよい人を別に定めた121条の例外です。
そして令和8年分の基礎控除は、検索で見かける48万円でも、令和7年分の95万円でもありません。令和8年12月1日に施行される改正後の所得税法86条と租税特別措置法41条の16の2を読むと、合計所得金額489万円以下の人は62万円+42万円=104万円です。他に所得控除がない個人事業主なら、所得が104万円を超えたところから所得控除の線を越えます。ただし課税標準は1,000円未満、確定税額は100円未満を切り捨てる(国税通則法118条1項・119条1項)ので、納める所得税が残るのは所得104万2,000円からです。給与だけの人は、給与所得控除の最低額74万円を足した収入178万円が控除と釣り合う線で、所得税が出るのは収入178万2,000円からです。
この記事は、個人事業主・フリーランス、会社員の副業、給与が2か所、年金受給者、学生・パートの5つのケースで境目を1円単位の実数に落とし、所得税の申告が不要でも住民税の申告が要る場合と、義務がなくても申告した方が得な4つの場面まで整理します。年分はすべて令和8年分(2026年1月〜12月の所得)を基準にし、令和7年分の数字は対照として併記します。
ケース別の境目は1つの物差しから出る — 早見表
先に答えを並べます。金額はすべて令和8年分で、給与所得控除の最低額74万円と基礎控除104万円(合計所得金額489万円以下)を前提にした、他に所得控除がない単純な例です。社会保険料控除などがあれば、境目はその分だけ上へ動きます。もう1つ、所得控除を超えた額にそのまま税額が付くわけでもありません。課税標準は1,000円未満切捨て、確定税額は100円未満切捨て(国税通則法118条1項・119条1項)なので、所得控除を超える線と納める所得税が残る線は少しずれます。表では分けて書きました。
| ケース | 境目(申告義務・所得税が出る線) | 根拠 |
|---|---|---|
| 個人事業主・フリーランス(他の控除なし) | 所得(収入−必要経費)が104万円を超えると所得控除の線を越える。端数処理まで通して所得税が残るのは所得104万2,000円から | 所得税法120条1項、86条、措置法41条の16の2、国税通則法118条1項・119条1項 |
| 会社員(給与1か所・2,000万円以下・年末調整あり) | 給与以外の所得の合計が20万円を超えると申告不要制度を外れ、120条1項の判定に戻る(そこで税額が出れば義務) | 所得税法121条1項1号 |
| 給与が2か所 | 従たる給与の収入+給与以外の所得が20万円を超えると申告不要制度を外れ、120条1項の判定に戻る(150万円の例外あり) | 所得税法121条1項2号イ・ロ |
| 年金受給者 | 年金収入400万円超、または年金以外の所得20万円超で申告不要制度を外れ、120条1項の判定に戻る(そこで税額が出れば義務) | 所得税法121条3項、120条1項 |
| 学生・パート(給与だけ) | 所得税0円の線は給与収入178万1,999円まで(100円の所得税が出るのは178万2,000円から)。申告不要の線はこれとは別で、1か所・年末調整ありなら給与以外の所得20万円以下のあいだ(178万円を超えても)不要 | 税額0円は措置法29条の4・所得税法86条・国税通則法118条1項・119条1項/申告不要は121条1項1号 |
| 年金+パート給与(65歳以上) | パート給与94万円までは年金以外の所得20万円以下 | 所得税法121条3項、措置法29条の4 |
上の6行は別々の制度ではありません。120条1項の物差しが原則で、会社員と年金受給者だけに121条の申告不要制度が上書きされています。流れ図の順に確かめると、自分がどの行に当たるかが決まります。
申告義務の条文は「所得の合計 > 所得控除の合計」と書いている
所得税の申告義務を定めるのは所得税法120条1項です。令和8年12月1日施行版の第1項本文は次のとおりで、金額はどこにも書いてありません。
居住者は、その年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額が第二章第四節(所得控除)の規定による雑損控除その他の控除の額の合計額を超える場合において、当該総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額からこれらの控除の額を第八十七条第二項(所得控除の順序)の規定に準じて控除した後の金額をそれぞれ課税総所得金額、課税退職所得金額又は課税山林所得金額とみなして第八十九条(税率)の規定を適用して計算した場合の所得税の額の合計額が配当控除の額を超えるとき(第三号に掲げる所得税の額の計算上控除しきれなかつた外国税額控除の額がある場合、第四号に掲げる金額の計算上控除しきれなかつた同号に規定する源泉徴収税額がある場合又は第五号に掲げる金額の計算上控除しきれなかつた予納税額がある場合を除く。)は、第百二十三条第一項(確定損失申告)の規定による申告書を提出する場合を除き、第三期(その年の翌年二月十六日から三月十五日までの期間をいう。以下この節において同じ。)において、税務署長に対し、次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。
読み解くと、義務が生まれる条件は3段です。
- 所得の合計が所得控除の合計を超えること。ここでいう所得は総所得金額・退職所得金額・山林所得金額で、収入ではありません。所得控除は雑損控除から基礎控除までの全部の合計で、基礎控除だけではありません。
- その超えた部分に税率を掛けた税額が配当控除の額を超えること。配当控除で税額が消える人は義務がありません。
- 括弧書きの除外。源泉徴収税額や予定納税額が税額より多い(控除しきれない)場合は、義務そのものが外れます。納め過ぎの人に申告を強制しない、という設計です。この人は122条の還付申告で取り戻せます。
つまり「いくらから」の答えは、所得と所得控除を並べた差で決まります。収入が同じ300万円でも必要経費が違えば所得が違い、国民健康保険料や生命保険料の控除がある人とない人では所得控除の合計が違います。境目は人ごとに違うのが正しい姿で、この後のケース別の数字は他に所得控除がないと仮定したときの最低ラインです。
収入と所得の言葉の違いそのものは、収入と所得の違いの記事で10種類の所得区分と4段階の計算を整理しています。本記事では、その所得を申告義務の物差しに当てる部分だけを扱います。
令和8年分の基礎控除は48万円でも58万円でもなく104万円
「基礎控除48万円を超えたら申告」という説明は、令和6年分以前の数字です。令和7年度改正で本体が58万円に上がり、令和7年分は措置法の加算を足して最大95万円になりました。さらに令和8年度改正(令和8年法律第12号)が本体と加算の両方を書き換え、令和8年12月1日に施行されます。改正後の所得税法86条1項1号は次のとおりです。
その居住者の合計所得金額が二千三百五十万円以下である場合六十二万円
この62万円に、同じ日に施行される租税特別措置法41条の16の2第1項の加算が乗ります。柱書は次のとおりで、見出しも「令和八年分以後の各年分の基礎控除等の特例」に変わっています。
令和八年分以後の各年分において、居住者のその年分の所得税に係る合計所得金額(所得税法第二条第一項第三十号の合計所得金額をいう。第一号において同じ。)が六百五十五万円(令和十年分以後の各年分にあつては、百三十二万円)以下である場合における同法第八十六条第二項に規定する基礎控除の額は、同条第一項の規定にかかわらず、同項第一号に定める金額に次の各号に掲げる年分の区分に応じ当該各号に定める金額を加算した額とする。
同項1号は、令和8年分と令和9年分について、合計所得金額489万円以下なら42万円、489万円超(655万円以下)なら5万円を加算すると定めています。令和7年分の4段階(37万・30万・10万・5万)とは段の数も額も違います。年分ごとに並べると次のとおりです。
| 合計所得金額 | 令和6年分以前 | 令和7年分 | 令和8年分・令和9年分 | 令和10年分以後(現条文) |
|---|---|---|---|---|
| 132万円以下 | 48万円 | 95万円 | 104万円 | 99万円 |
| 132万円超 336万円以下 | 48万円 | 88万円 | 104万円 | 62万円 |
| 336万円超 489万円以下 | 48万円 | 68万円 | 104万円 | 62万円 |
| 489万円超 655万円以下 | 48万円 | 63万円 | 67万円 | 62万円 |
| 655万円超 2,350万円以下 | 48万円 | 58万円 | 62万円 | 62万円 |
| 2,350万円超 2,400万円以下 | 48万円 | 48万円 | 48万円 | 48万円 |
| 2,400万円超 2,450万円以下 | 32万円 | 32万円 | 32万円 | 32万円 |
| 2,450万円超 2,500万円以下 | 16万円 | 16万円 | 16万円 | 16万円 |
| 2,500万円超 | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 |
令和7年分の列は国税庁No.1199の表と現行の措置法41条の16の2(令和7年分以後の各年分の基礎控除等の特例)で、令和8年分の列は12月1日施行版の条文で確かめました。注意したいのは、本記事の確認時点で国税庁No.1199が「令和7年4月1日現在法令等」のまま、令和8年分を令和7年分と同じ95万円として表示していることです。令和8年度改正の施行日が12月1日なので、年の途中では改正前の額が並んだ資料が残ります。令和8年分の申告書を作るときは、104万円が反映された様式・作成コーナーかどうかを確かめる必要があります。
令和10年分以後は、条文上は加算が37万円(合計所得金額132万円以下)だけに戻り、本体62万円と合わせて99万円です。ただしこの部分は将来の改正で動く可能性が高いので、その年分になったら条文を引き直します。
個人事業主・フリーランスは所得が所得控除の合計を超えたら義務
事業所得や雑所得で暮らす人には121条の申告不要制度がないので、120条1項の物差しをそのまま当てます。所得は収入から必要経費を引いた額(青色申告なら青色申告特別控除も引く)で、これが所得控除の合計を超え、税額が出れば申告義務があります。令和8年分・合計所得金額489万円以下の例で並べます。
| 設例(白色申告) | 売上 | 必要経費 | 事業所得 | 所得控除の合計 | 申告義務 |
|---|---|---|---|---|---|
| A. 控除は基礎控除だけ | 300万円 | 190万円 | 110万円 | 104万円 | あり(課税所得6万円) |
| B. 国保・国民年金35万円を払っている | 300万円 | 170万円 | 130万円 | 139万円 | なし(所得が控除以下) |
| C. Bと同じ控除で経費が少ない | 300万円 | 150万円 | 150万円 | 139万円 | あり(課税所得11万円) |
AとBを見比べると、所得が高いBの方に義務がありません。社会保険料控除35万円が基礎控除104万円に上乗せされ、所得控除の合計が139万円になるためです。「基礎控除を超えたら申告」は、他に控除がない人にだけ成り立つ言い方で、国民健康保険料・国民年金保険料・小規模企業共済の掛金・生命保険料を払っている人の境目はそれより上にあります。
境目にはもう1段、端数処理が挟まります。国税通則法118条1項は課税標準の1,000円未満を切り捨て、同119条1項は確定金額の100円未満を切り捨てます(1円未満で切るのは源泉徴収の所得税だけで、同法施行令40条がその範囲を限っています)。基礎控除104万円だけ・源泉徴収も税額控除もない単純な例で、所得を1円ずつ上げると次のようになります。
| 所得(他に控除なし) | 課税標準(118条1項) | 算出税額(税率5%) | 確定金額(119条1項) |
|---|---|---|---|
| 104万円ちょうど | 0円 | 0円 | 0円 |
| 104万1円〜104万999円 | 0円 | 0円 | 0円 |
| 104万1,000円〜104万1,999円 | 1,000円 | 50円 | 0円 |
| 104万2,000円 | 2,000円 | 100円 | 100円 |
つまり104万円は所得控除を超える線で、納める所得税が実際に残る104万2,000円とは別です。中間の帯にいる人は、120条1項の1段目(所得>所得控除)と2段目(算出税額>配当控除)を形の上では満たすので申告書を出す側に残りますが、書いても納付税額は0円です。1円単位で境目を出すなら、この2本を分けて数えるのが正確な言い方になります。
青色申告の人は、ここに1つ循環があります。措置法25条の2第3項の55万円(4項の要件を満たせば65万円)の控除を引けば所得が所得控除の合計を下回る、だから申告しなくてよい、という理屈は成り立ちません。同条6項が、この控除は期限内に確定申告書を提出した場合に限って適用すると定めているからです。
第三項(第四項の規定により、同項第二号に掲げる要件を満たしている者について適用する場合を除く。)の規定は、確定申告書に第三項の規定の適用を受けようとする旨及び同項の規定による控除を受ける金額の計算に関する事項の記載並びに同項に規定する帳簿書類に基づき財務省令で定めるところにより作成された貸借対照表、損益計算書その他不動産所得の金額又は事業所得の金額の計算に関する明細書の添付があり、かつ、当該確定申告書をその提出期限までに提出した場合に限り、適用する。
控除を使うために申告するのですから、55万円・65万円の控除で税額が0円になる人も、実務上は期限内に申告書を出すことになります。同条1項の10万円の控除にはこの要件が付いていませんが、赤字を翌年に繰り越す純損失の繰越控除も申告が前提です。事業の年は、義務の有無より先に「申告した方が得か」で考えた方が結論が早くなります。
もう1つ、フリーランスに特有なのが源泉徴収です。原稿料・講演料・デザイン料などの報酬は、支払者が源泉徴収します。国税庁No.2795の算式は、支払金額が100万円以下なら支払金額×10.21%、100万円を超えるなら(支払金額−100万円)×20.42%+102,100円です。報酬200万円なら(200万円−100万円)×20.42%+102,100円=306,300円が先に納められています。この人の事業所得が140万円、所得控除の合計が134万円なら、課税所得6万円に対する所得税は3,000円ほどで、源泉徴収税額の方がはるかに多い。120条1項の括弧書きにより申告義務は外れますが、放置すれば約30万円が戻りません。122条の還付申告で取り戻す例の典型です。
会社員の副業は20万円。ただし数えるのは所得で、申告するなら全部
給与を1か所から受け、その給与の全部が源泉徴収され、年末調整で税額が確定する会社員には、所得税法121条1項1号の申告不要制度があります。
一の給与等の支払者から給与等の支払を受け、かつ、当該給与等の全部について第百八十三条(給与所得に係る源泉徴収義務)又は第百九十条(年末調整)の規定による所得税の徴収をされた又はされるべき場合において、その年分の利子所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額、一時所得の金額及び雑所得の金額の合計額(以下この項において「給与所得及び退職所得以外の所得金額」という。)が二十万円以下であるとき。
この号の主語は同項の柱書が定める、その年中に支払を受けるべき給与等の金額が2,000万円以下の居住者で、給与収入が2,000万円を超える人は最初から対象外です(国税庁No.1900の1)。また、ただし書により、勤め先に不動産を貸して賃料を受けているような同族会社の役員なども外れます。
数えるのは所得の合計です。副業の収入26万円から必要経費8万円を引いた所得18万円は20万円以下で、申告義務はありません。逆に収入が20万円以下でも、一時所得のように特別控除を引いた後の2分の1で数える所得や、複数の副業の合計で20万円を超えれば義務があります。この制度の細部と落とし穴は、副業の確定申告と20万円ルールの記事に譲り、本記事では3点だけ押さえます。
- 20万円は非課税枠ではない。国税庁No.1900の質疑応答は、この規定は確定申告を要しない場合を定めたもので、確定申告を行う場合に20万円以下の所得を申告しなくてよいという規定ではないと明言しています。医療費控除やふるさと納税で申告するなら、18万円の副業所得も申告書に載せます。
- 住民税には20万円の制度がない。後述のとおり、所得税の申告をしない人は市区町村へ住民税の申告をします。
- 20万円を超えたら、全体で120条1項の物差しに戻る。副業所得が21万円なら、給与所得と合算した所得の合計が所得控除の合計を超えていれば申告義務があり、年末調整で確定したはずの税額も申告書で計算し直します。
給与が2か所なら「従たる給与の収入+他の所得」で20万円
本業のほかにアルバイトの給与がある人は、121条1項2号で判定します。2号はイとロの2段構えです。イは次のとおりです。
第百九十五条第一項(従たる給与についての扶養控除等申告書)に規定する従たる給与等の支払者から支払を受けるその年分の給与所得に係る給与等の金額とその年分の給与所得及び退職所得以外の所得金額との合計額が二十万円以下であるとき。
ここで足し合わせるのは、従たる給与については収入(給与等の金額)、給与以外については所得です。1号と違って、副業の給与は給与所得控除を引く前の額で数えます。本業400万円(年末調整済み)、アルバイト15万円(年末調整なし)、他の所得なしなら、15万円+0円=15万円で申告不要。アルバイトが25万円なら、それだけで20万円を超えます。
ロは、イに当たらない人の救済です。その年の給与収入の合計が、150万円に社会保険料控除・小規模企業共済等掛金控除・生命保険料控除・地震保険料控除・障害者控除・寡婦控除・ひとり親控除・勤労学生控除・配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除・特定親族特別控除の合計を足した額以下で、かつ給与以外の所得が20万円以下なら申告不要です。国税庁No.1900の(注)が同じ内容を、所得控除の合計額から雑損控除・医療費控除・寄附金控除・基礎控除を除いた額として案内しています。基礎控除が含まれない点に注意すると、給与の合計がおおむね150万円台に収まる掛け持ちの人だけが対象だと分かります。
| 設例(他の所得なし) | 本業の給与 | 従たる給与 | イの判定額 | 結論 |
|---|---|---|---|---|
| 掛け持ちが少額 | 400万円 | 15万円 | 15万円 | 申告不要(イ) |
| 掛け持ちが20万円超 | 400万円 | 25万円 | 25万円 | 121条の申告不要制度の対象外(イもロも不成立)。義務の有無は120条1項で判定 |
| パートの掛け持ち | 100万円 | 40万円 | 40万円 | イは不成立。給与合計140万円が150万円以下ならロで不要 |
2行目で決まるのは、121条1項2号のイにもロにも当たらない、つまり申告不要制度を使えないということだけです。申告義務そのものは120条1項に戻り、所得の合計と所得控除の合計、算出税額と配当控除、源泉徴収税額の3段で判定します。社会保険料控除や生命保険料控除が大きい人、従たる給与から乙欄で多めに源泉徴収されている人は、そこで義務が外れることがあります。「20万円を超えたから申告義務あり」ではなく、「20万円を超えたから120条1項に戻る」が条文どおりの読み方です。
3行目のような人は、義務がなくても申告した方が得なことが多い例です。従たる給与は乙欄で高めに源泉徴収されるため、合計140万円なら給与所得は66万円で基礎控除104万円以下、税額は0円です。乙欄で引かれた税額は還付申告でしか戻りません。
年金受給者は400万円と20万円の2段で判定する
公的年金等を受けている人には、所得税法121条3項の申告不要制度があります。
その年において第三十五条第三項(雑所得)に規定する公的年金等……に係る雑所得を有する居住者で、その年中の公的年金等の収入金額が四百万円以下であるものが、その公的年金等の全部……について第二百三条の二(公的年金等に係る源泉徴収義務)の規定による所得税の徴収をされた又はされるべき場合において、その年分の公的年金等に係る雑所得以外の所得金額……が二十万円以下であるときは、前条第一項の規定にかかわらず、その年分の課税総所得金額又は課税山林所得金額に係る所得税については、同項の規定による申告書を提出することを要しない。
条件は3つで、①年金の収入が400万円以下、②その年金の全部が源泉徴収の対象、③年金以外の所得が20万円以下です。①は収入で、③は所得で数える点が、会社員の20万円と同じ構造です。国税庁No.2020は、年金額が少なくて源泉徴収を要しないとされている年金でも、扶養親族等申告書の提出先の年金なら②の対象に含めると案内しています。
③の20万円に効くのが、パートの給与です。令和8年分は給与所得控除の最低額が74万円なので、パート給与94万円までは給与所得が20万円以下です。95万円になると21万円で、③を外れます。令和7年分は最低額65万円だったので85万円が境目でした。年分で10万円ずれる数字です。
年金だけの人が所得税0円で収まる線も出しておきます。公的年金等控除額を定めるのは所得税法35条4項1号で、40万円と、年金収入から50万円を引いた残額に応じた額(残額360万円以下ならその25%)との合計です。この合計が60万円に満たないときだけ60万円が保障され、措置法41条の15の3が65歳以上についてその60万円を110万円に読み替えます。65歳以上は年金収入214万円まで110万円の保障が効き、所得は104万円で基礎控除104万円とちょうど釣り合います。65歳未満は保障が効くのが年金収入130万円までで、そこから上は算式が動き出します。164万円では控除68.5万円・所得95.5万円とまだ余ります。この帯の所得は年金収入の75%から27万5,000円を引いた額なので、基礎控除104万円に届くのは年金収入175万3,334円あたり、端数処理の後に所得税100円が残るのは所得104万2,000円にあたる年金収入175万6,000円からです。65歳以上は控除110万円が動かないので、同じ2本は年金収入214万円(所得104万円)と214万2,000円(所得104万2,000円)になります。介護保険料や国民健康保険料の控除がある人はさらに上です。
| 設例(65歳以上・令和8年分) | 年金収入 | 年金の雑所得 | 年金以外の所得 | 申告義務 |
|---|---|---|---|---|
| 年金だけ | 240万円 | 130万円 | 0円 | なし(121条3項) |
| 年金+パート94万円 | 240万円 | 130万円 | 20万円 | なし(121条3項) |
| 年金+パート95万円 | 240万円 | 130万円 | 21万円 | 120条1項で判定(所得が控除を超え税額が出れば義務) |
| 年金450万円 | 450万円 | — | 0円 | 121条3項の対象外。120条1項で判定 |
400万円を超えた人も、超えたら自動的に義務があるのではなく、120条1項の物差しに戻ります。所得の合計が所得控除の合計を超え、税額が源泉徴収税額を上回るときに義務が生まれます。年金の源泉徴収は扶養親族等申告書に基づく概算なので、医療費控除や生命保険料控除がある年は、義務がなくても還付申告で戻る例が多い層です(国税庁No.1600の注1)。
学生・パートは給与だけなら178万円まで所得税がかからない
アルバイトやパートで給与だけを受ける人は、所得の計算が「収入−給与所得控除」の1段で終わります。令和8年分・令和9年分の給与所得控除は、租税特別措置法29条の4第1項の特例で最低74万円です。
令和八年又は令和九年において、その年中の所得税法第二十八条第一項に規定する給与等(以下この項及び次項において「給与等」という。)の収入金額が二百二十万円以下である場合には、当該給与等に係る同条第三項に規定する給与所得控除額は、同項第一号の規定にかかわらず、七十四万円(当該収入金額が七十四万円に満たない場合には、当該収入金額に相当する金額)とする。
収入178万円なら給与所得は178万円−74万円=104万円で、基礎控除104万円を引くと課税所得は0円です。令和7年分は最低額65万円と基礎控除95万円で160万円でした(国税庁No.1800)。令和6年分以前の103万円(55万円+48万円)から2年で75万円上がっています。
| 年分 | 給与所得控除の最低額 | 基礎控除(最大) | 所得税0円の給与収入 |
|---|---|---|---|
| 令和6年分以前 | 55万円 | 48万円 | 103万円 |
| 令和7年分 | 65万円 | 95万円 | 160万円 |
| 令和8年分・令和9年分 | 74万円 | 104万円 | 178万円 |
この178万円も所得控除と釣り合う線で、税額の線はその少し上です。給与収入178万1,999円までは課税標準が1,000円以下で確定金額が100円未満となり所得税は0円、178万2,000円(所得104万2,000円・課税標準2,000円)から100円が出ます。いずれにせよ1か所で年末調整を受けている人は121条1項1号で確定申告が要りません。年の途中で辞めて年末調整を受けていない、あるいは月給が源泉徴収の対象になる額で税額が引かれたままなら、還付申告で取り戻せます。掛け持ちの場合は前の節の2号で判定します。
学生には勤労学生控除27万円(所得税法82条)がありますが、令和8年分の所得税ではこの控除が効く場面がほとんどありません。同法2条1項32号の勤労学生の要件が合計所得金額89万円以下(給与だけなら収入163万円以下)で、その所得は基礎控除104万円で既に消えているからです。控除が実際に効くのは、基礎控除が43万円と低い住民税の側です。勤労学生控除シミュレーターは、この所得税と住民税の効き目の差を年分ごとに計算します。
勤労学生控除シミュレーターで、バイト収入163万円までの判定と住民税への効き目を計算する178万円は所得税だけの数字です。住民税の基礎控除は43万円で、非課税の線は自治体の級地で変わり、社会保険の扶養は年収130万円という被扶養者の基準で別に判定します。よく並べて語られる短時間労働者への社会保険の適用拡大は、自分が勤め先の健康保険・厚生年金に加入するかどうかの話で、130万円の被扶養者基準とは別の制度です。給与の壁が何本あるかは年収の壁 早見表にまとめています。
所得税の申告が不要でも住民税の申告が要ることがある
ここまでの「申告不要」はすべて所得税の話です。住民税(市町村民税・道府県民税)の申告義務は地方税法317条の2第1項が別に定めていて、20万円や400万円の制度はありません。同項は、市町村に住所がある個人は3月15日までに申告書を提出しなければならないと定めたうえで、ただし書で申告しなくてよい人を挙げています。要約すると次の2種類です。
- 勤め先から給与支払報告書が、年金の支払者から公的年金等支払報告書が市町村へ出る人で、前年中に給与所得以外の所得(年金の人は年金以外の所得)がなかった人。ただし、この人でも医療費控除・雑損控除・寄附金税額控除などを受けるには同条3項の申告が要ります。
- 所得割の納税義務がないと認められる人のうち、その市町村の条例で定める人。
裏返すと、副業所得18万円の会社員や、年金以外に雑所得15万円がある年金受給者は、所得税の申告は不要でも、給与・年金以外の所得を持っているので住民税の申告義務があります。そして所得税の確定申告をした人は、地方税法317条の3第1項により住民税の申告書も出したものとみなされます。
第二百九十四条第一項第一号の者が前年分の所得税につき所得税法第二条第一項第三十七号の確定申告書(以下本条において「確定申告書」という。)を提出した場合(政令で定める場合を除く。)には、本節の規定の適用については、当該確定申告書が提出された日に前条第一項から第四項までの規定による申告書が提出されたものとみなす。
住民税は税額の出る所得の線も低い。令和8年分の所得に対する令和9年度の住民税の基礎控除は、地方税法314条の2第2項1号で43万円です。
当該納税義務者の前年の合計所得金額が二千四百万円以下である場合四十三万円
所得税の基礎控除104万円との差は61万円あり、所得が43万円超104万円以下の帯では、所得税は0円でも住民税の所得割が生じ得ます(実際の非課税の線は級地ごとの非課税限度額で決まります)。所得税の申告要否だけを見て「税金の手続は何もない」と決めないための2段目の確認です。市区町村ごとの様式・期限と、給与から天引きされる特別徴収への影響は、住民税非課税のボーダーと住民税の特別徴収の記事で扱っています。
住民税 計算機で、所得税が0円でも住民税の所得割が出るかを年収と家族構成から確かめる義務がなくても申告した方が得な4つの場面
所得税法122条1項は、源泉徴収税額・予定納税額・外国税額控除が税額から控除しきれない人が、還付を受けるための申告書を提出できると定めています。義務ではなく権利で、国税庁No.2030によれば、確定申告期間とは関係なく翌年1月1日から5年間提出できます。典型は次の4つです。
| 場面 | なぜ納め過ぎになるか | 戻る額の目安 |
|---|---|---|
| 1. 年の途中で退職し、年末調整を受けていない | 毎月の源泉徴収は12か月働く前提の税額表。退職後の月の分だけ控除が使われていない | 月々の源泉徴収税額の合計と年税額の差 |
| 2. 報酬から10.21%の源泉徴収を受けたフリーランス・副業 | 所得ではなく支払額に対して引かれるので、経費や所得控除を反映していない | 報酬200万円・税額3,000円の例で約30万円(源泉306,300円−税額3,000円) |
| 3. 医療費控除・寄附金控除・雑損控除がある | 年末調整ではできない控除。ふるさと納税はワンストップ特例を使えない人 | 控除額×税率(5%〜45%) |
| 4. 住宅ローン控除の初年度 | 初年度は確定申告でしか受けられない。2年目からは年末調整 | 年末残高×控除率(上限あり) |
1は、退職した年に再就職せず年末を迎えた人のほぼ全員が当てはまります。源泉徴収票の源泉徴収税額に数字が入っていれば、年税額との差が戻ります。2は前述のとおり、120条1項の括弧書きで義務が外れている人の典型で、義務がないことと戻らないことは別です。
3と4は、控除を使うために自分で申告する場面です。医療費控除がいくらから受けられるか(10万円は下限ではない)は医療費控除はいくらからで、還付申告と通常の申告の期限の違いは確定申告はいつまでで扱っています。医療費控除 計算機を使えば、申告する前に戻る額の見当がつきます。同じ表の3にある雑損控除は、所得税法72条1項が数えるのが災害・盗難・横領の3つだけで、詐欺や恐喝の被害は入りません。対象の範囲は雑損控除で扱っています。
医療費控除 計算機で、還付申告をする前に「いくら戻るか」を令和8年分の税率で試算する還付申告をするときに忘れやすいのが、前述の20万円以下の所得です。申告書を出す以上、給与所得だけでなく、申告不要制度で省けたはずの副業所得も載せます。その結果、還付額が数千円減ることはありますが、載せずに出した申告書は所得を過少に記載したものになります。
反対に、申告した方が得とは限らない場面もあります。上場株式の配当や特定口座(源泉徴収あり)の譲渡益は、申告不要を選べば合計所得金額に含まれず、申告すると含まれます。合計所得金額が増えると、基礎控除の段(489万円・655万円)や配偶者控除・扶養控除の所得要件、国民健康保険料に影響することがあります。還付額だけでなく、合計所得金額がどこまで増えるかを見てから決める場面です。
申告が必要と分かった後の準備・作成・提出・納税の流れは、確定申告のやり方にまとめています。年の途中で亡くなった人の分は相続人が準確定申告をします。
よくある質問
Q. 収入が103万円を超えたら確定申告が必要ですか?
A. 収入の額だけでは決まりません。判定に使うのは収入から給与所得控除や必要経費を引いた所得で、給与だけの人なら令和8年分は収入178万円までは所得が基礎控除104万円以下となり所得税がかかりません。勤め先1か所で年末調整を受けていれば、その範囲で確定申告は不要です。
Q. 副業の収入が20万円を超えたら必ず確定申告ですか?
A. 20万円で数えるのは収入ではなく所得です。収入26万円でも必要経費が8万円あれば所得は18万円で、給与1か所・2,000万円以下・年末調整ありの会社員なら所得税の申告義務はありません。所得が20万円を超えたら、給与と合算して所得税法120条1項の判定に戻ります。
Q. 基礎控除は48万円ではないのですか?
A. 48万円は令和6年分以前の額です。紛らわしいのは、検索で最初に出る国税庁No.1199が令和7年4月1日現在法令等のままで、令和8年分・令和9年分以後の欄まで95万円と表示していることです。改正後の額は同じ国税庁の「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」の側にあり、令和8年分の実額は本文の基礎控除の節のとおりです。
Q. 年金が400万円以下なら何もしなくてよいですか?
A. 年金の全部が源泉徴収の対象で、年金以外の所得が20万円以下なら所得税の確定申告は不要です。ただし住民税の申告が別に必要な場合があり、医療費控除や社会保険料控除で源泉徴収税額が戻る人は還付申告ができます。年金以外の所得が20万円を超えれば通常の判定に戻ります。
Q. 所得税の申告が不要なら住民税の申告も不要ですか?
A. 同じではありません。地方税法317条の2は、給与や年金以外の所得がなかった人などを除いて住民税の申告義務を定めており、20万円以下という例外はありません。所得税の確定申告をした人は住民税の申告をしたものとみなされますが、しなかった人は市区町村へ申告書を出します。
Q. 申告義務がないのに申告して損をすることはありますか?
A. 源泉徴収税額や予定納税額が税額より多い人は、還付申告で納め過ぎが戻るだけで、追加の税額は生じません。ただし申告する以上は20万円以下の所得も含めて計算するので、その分だけ還付額が減ることはあります。配当や特定口座の譲渡益を申告に含めると合計所得金額が増え、控除の要件や保険料に影響する場合があります。
Q. 学生でアルバイト収入が120万円あります。確定申告は必要ですか?
A. 給与だけなら不要です。令和8年分は給与所得が120万円−74万円=46万円で基礎控除104万円以下、所得税は0円です。月々の給与から源泉徴収されていて年末調整を受けていない場合は、還付申告で戻ります。勤労学生控除は令和8年分の所得税では効く余地がほぼなく、住民税の側で効きます。
出典
- e-Gov法令検索「所得税法」120条1項(確定所得申告)、121条1項・3項(確定所得申告を要しない場合)、122条(還付等を受けるための申告)、89条(税率)、86条(基礎控除)、82条(勤労学生控除)、35条4項(公的年金等控除)、28条(給与所得)、2条1項32号。API v2の令和8年12月1日施行版(340AC0000000033_20261201_508AC0000000012)で条文を確認。86条の62万円は現行版(20260812施行)の58万円と比較。
- e-Gov法令検索「租税特別措置法」41条の16の2(令和八年分以後の各年分の基礎控除等の特例)、29条の4(給与所得控除の最低控除額等の特例)、41条の15の3(公的年金等控除の最低控除額等の特例)、25条の2(青色申告特別控除)。令和8年12月1日施行版(332AC0000000026_20261201_508AC0000000012)で加算42万円・5万円と74万円を確認。現行版(20260812施行)は令和7年分の加算37万・30万・10万・5万円。
- e-Gov法令検索「地方税法」317条の2(市町村民税の申告等)、317条の3(確定申告書提出のみなし)、314条の2第2項(基礎控除43万円)。2026年9月時点の現行版(325AC0000000226_20260731_508AC0000000002)で確認。
- e-Gov法令検索「国税通則法」118条1項(課税標準の1,000円未満切捨て)、119条1項(確定金額の100円未満切捨て)。および「国税通則法施行令」40条(1円未満で切るのは源泉徴収の所得税等に限られること)。API v2(337AC0000000066_20260624_508AC0000000046、337CO0000000135_20260401_507CO0000000126)で確認。確認日:2026年9月8日。
- 国税庁「No.2020 確定申告」。申告が必要な人の定義、給与所得者と年金受給者の申告不要制度、源泉徴収を要しない年金の扱い。
- 国税庁「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」および同ページの質疑応答「確定申告を要しない場合の意義」。7つの類型、2か所給与の(注)150万円、確定申告する場合は20万円以下の所得も申告する旨。
- 国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」。年金400万円以下・他の所得20万円以下の申告不要制度、注1の還付申告、注2の住民税申告。
- 国税庁「No.1199 基礎控除」。令和6年分以前48万円、令和7年分95万〜58万円の表。確認時点では令和7年4月1日現在法令等として、令和8年分・令和9年分以後の欄も令和7年分と同じ95万〜58万円で表示。
- 国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」。基礎控除の引上げ・給与所得控除の最低保障額の引上げが令和8年12月1日施行で令和8年分以後の所得税に適用されること。確認日:2026年9月8日。
- 国税庁「No.1410 給与所得控除」「No.1800 パート収入はいくらまで所得税がかからないか」。令和7年分の最低額65万円と160万円、令和6年分以前の55万円と103万円。
- 国税庁「No.2030 還付申告」。翌年1月1日から5年間、中途退職・医療費控除・住宅借入金等特別控除などの具体例。
- 国税庁「No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき」。支払金額100万円以下はA×10.21%、100万円超は(A−100万円)×20.42%+102,100円。同ページの具体例は150万円で204,200円。確認日:2026年9月8日。
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