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収入と所得の違い — 年収・所得・課税所得・手取りは4つの別の数。分岐点は「何を引いたか」

結論から言うと、収入は「入ってくる総額」、所得は「収入から経費を引いた額」、課税所得は「所得から所得控除を引いた額」、手取りは「収入から社会保険料と税金を引いた額」です。4つは別の数で、給与所得者なら次のように並びます。月給30万円・賞与なし・35歳・東京都・独身の人を例にとると、年収は360万円ですが、給与所得は244万円、課税所得は87万1,000円、所得税は4万4,400円、手取りは287万6,160円です(令和8年分)。

この4つを混同すると、扶養の判定・住民税の非課税・保育料や給付金の所得制限で、どの数を見ればよいかが分からなくなります。特に厄介なのが「扶養」で、社会保険の扶養は収入(年130万円未満・見込み)で判定し、税の扶養は所得(合計所得金額62万円以下・暦年の実績)で判定します。同じ「扶養」という言葉で、見る数も、数え方も、年の区切り方も違うのです。

この記事では、所得税法21条が定める10種類の所得区分と「所得の金額」の計算式、給与所得控除の令和8年分の額、合計所得金額という語の定義がどこに書かれているか、そして年収・所得・課税所得・手取りがどの条文で分岐するかを、設例の数字とともに確かめます。手取りの計算そのものは手取りはいくら?、年収の壁の一覧は年収の壁 早見表、社会保険の扶養の3つの関門は社会保険の扶養の条件にあります。この記事は、それらの前提になる「収入」と「所得」という2つの語の境目に絞ります。

結論 — 4つの数を1つの設例で並べる

設例は月給30万円(賞与なし)・35歳・東京都・独身・扶養なし・給与収入のみです。社会保険料は協会けんぽ東京支部の令和8年度料率(健康保険9.85%+子ども・子育て支援金0.23%+厚生年金18.3%の労使折半、雇用保険は労働者負担0.5%)、税金は令和8年分の所得税法・租税特別措置法で計算しています。

呼び名何を引いた後の数か設例の金額(年)使われる場面
収入(年収)何も引いていない総額3,600,000円社会保険の扶養(130万円)、源泉徴収票の「支払金額」
所得(給与所得)収入 − 給与所得控除 1,160,000円2,440,000円税の扶養(62万円)、住民税の非課税判定、各種の所得制限
課税所得(課税総所得金額)所得 − 所得控除 1,568,840円(社会保険料控除 528,840円+基礎控除 1,040,000円)871,000円税率を掛ける土台。1,000円未満切捨て
所得税(復興特別所得税を含む)課税所得 × 5% = 43,550円、+2.1% = 44,464円 → 100円未満切捨て44,400円年末調整・確定申告で確定する額
住民税(翌年度に課税)所得割 145,600円+均等割 5,000円150,600円令和9年度に給与から特別徴収される
手取り収入 − 社会保険料 528,840円 − 所得税 44,400円 − 住民税 150,600円2,876,160円生活の実感に近い数。法律用語ではない

同じ人の同じ1年間の数字なのに、360万円から87万1,000円まで4倍以上の開きがあります。「所得制限」と書かれた制度の多くは真ん中の「所得」を見ており、「年収」で読み替えると判定を誤ります。給与だけの人なら、所得 = 年収 − 給与所得控除、という1本の引き算を覚えておけば、ほとんどの場面で足ります。

「手取り」は法律用語ではない

所得税法にも健康保険法にも「手取り」という語はありません。実務で手取りと呼んでいるのは、給与から社会保険料・所得税・住民税を差し引いた支給額のことです。したがって手取りは会社の給与計算の結果であって、税や社会保険の判定に使われることはありません。「手取りが130万円を超えたか」ではなく「収入が130万円を超える見込みか」で扶養は判定されます。

「所得」は10種類に区分してから計算する — 所得税法21条

所得税法は「所得」を1つの数として扱っていません。まず種類に分け、種類ごとに「所得の金額」を計算します。所得税法21条1項1号です。

次章第二節(各種所得の金額の計算)の規定により、その所得を利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得又は雑所得に区分し、これらの所得ごとに所得の金額を計算する。

10種類のそれぞれについて、23条から35条が「所得の金額」の計算式を定めています。「収入から何を引くか」が種類ごとに違うのが、収入と所得の違いを理解する鍵です。

所得の種類条文所得の金額 = 収入から何を引くか
利子所得23条2項収入金額そのまま(何も引かない)
配当所得24条2項収入金額 − 元本を取得するために要した負債の利子
不動産所得26条2項総収入金額 − 必要経費
事業所得27条2項総収入金額 − 必要経費
給与所得28条2項収入金額 − 給与所得控除額
退職所得30条2項(収入金額 − 退職所得控除額)× 1/2(短期退職手当等・特定役員退職手当等は別計算)
山林所得32条3項・4項総収入金額 − 必要経費 − 特別控除額(最高50万円)
譲渡所得33条3項・4項総収入金額 − 取得費 − 譲渡費用 − 特別控除額(最高50万円)
一時所得34条2項・3項総収入金額 − その収入を得るために支出した金額 − 特別控除額(最高50万円)
雑所得35条2項公的年金等は収入金額 − 公的年金等控除額、それ以外は総収入金額 − 必要経費

利子所得だけは収入がそのまま所得で、他の9種類は必ず何かを引きます。事業所得と不動産所得は実際にかかった「必要経費」を引き、給与所得は実費ではなく法律で決まった「給与所得控除額」を引きます。給与所得者に領収書の保存が求められないのは、経費が実費ではなく概算で決まっているからです。実費が概算を大きく超える場合の救済として特定支出控除がありますが、その判定額は給与所得控除額の2分の1と高く、実際に使える人は限られます(特定支出控除の判定額一覧)。

ここで押さえておきたいのは、「所得」と言ったとき、それが10種類のどれの「所得の金額」なのか、それとも全部を足した「総所得金額」「合計所得金額」なのかで、指す数が変わることです。副業の雑所得が20万円以下なら確定申告が要らないという話は雑所得の金額の話であり、扶養に入れるかどうかの62万円は合計所得金額の話です(後述)。

給与の「経費」は給与所得控除 — 令和8年分は最低74万円

給与所得の金額の定義は所得税法28条2項です。

給与所得の金額は、その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額とする。

その給与所得控除額は同条3項が収入金額の区分ごとに定めています。令和8年12月1日施行の版で、収入金額が360万円以下の区分(1号)はこうなっています。

前項に規定する収入金額が三百六十万円以下である場合八万円と当該収入金額の百分の三十に相当する金額との合計額(当該合計額が六十九万円に満たない場合には、六十九万円)

設例の年収360万円なら、8万円 + 360万円 × 30% = 116万円が給与所得控除額で、給与所得は 360万円 − 116万円 = 244万円です。なお28条4項により、収入金額が660万円未満の場合は別表第五(年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表)で求めることになっており、同表の「3,600,000円以上3,604,000円未満」の行は2,440,000円で、式の結果と一致します。

括弧書きの「六十九万円」は本則の最低保障額ですが、令和8年分と令和9年分に限り、租税特別措置法29条の4がこれを74万円に引き上げています

令和八年又は令和九年において、その年中の所得税法第二十八条第一項に規定する給与等(以下この項及び次項において「給与等」という。)の収入金額が二百二十万円以下である場合には、当該給与等に係る同条第三項に規定する給与所得控除額は、同項第一号の規定にかかわらず、七十四万円(当該収入金額が七十四万円に満たない場合には、当該収入金額に相当する金額)とする。

この特例は収入金額が220万円以下の人に適用されます。パート・アルバイトの扶養判定で使う数字は、本則の69万円ではなく、この74万円です。

給与等の収入金額(令和8年分)給与所得控除額根拠
220万円以下74万円(収入が74万円未満なら収入と同額)措置法29条の4第1項(令和8年分・令和9年分)
220万円超 360万円以下収入 × 30% + 8万円所得税法28条3項1号
360万円超 660万円以下(収入 − 360万円)× 20% + 116万円同項2号
660万円超 850万円以下(収入 − 660万円)× 10% + 176万円同項3号
850万円超195万円(上限)同項4号

220万円超360万円以下の区分は、本則の式そのままです(8万円+30%は220万円で74万円になり、特例と本則がちょうど接続します)。令和7年分の最低保障額は65万円、令和6年分以前は55万円でしたから、扶養判定の給与収入の上限は年分ごとに動いています(後述)。

年収 → 所得 → 課税所得 → 税額の4段階と、どこで何を引くか

所得税の計算は、21条1項が1号から5号までの順序で定めています。1号で所得を区分して所得の金額を計算し、2号で総所得金額を出し、3号で所得控除を引いて課税総所得金額を出し、4号で税率を掛けます。図にすると次のとおりです。

収入(年収) 3,600,000円 源泉徴収票の「支払金額」。社会保険の扶養(130万円)はここを見る − 給与所得控除 1,160,000円(所得税法28条3項1号) 所得(給与所得) 2,440,000円 「給与所得控除後の金額」。税の扶養(62万円)・所得制限はここを見る − 社会保険料控除 528,840円 − 基礎控除 1,040,000円(所得控除) 課税所得 871,000円 871,160円の1,000円未満を切捨て(国税通則法118条1項) × 5%(所得税法89条)= 43,550円、× 1.021(復興特別所得税) 所得税 44,400円 44,464円の100円未満を切捨て(同法119条1項) 手取り 2,876,160円 = 収入 3,600,000円 − 社会保険料 528,840円 − 所得税 44,400円 − 住民税 150,600円 社会保険料は「収入」(標準報酬月額30万円)に料率を掛ける。所得は見ていない 住民税は同じ所得に基礎控除43万円(地方税法314条の2)を当てて翌年度に課される
月給30万円・35歳・東京都・独身の設例。上から下へ「引く」たびに呼び名が変わる。手取りだけは所得を経由せず、収入から直接引く。

各段の根拠を確かめます。課税標準は総所得金額・退職所得金額・山林所得金額の3つです(所得税法22条1項)。

居住者に対して課する所得税の課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。

給与しかない人の総所得金額は、給与所得の金額そのものです(22条2項1号)。そこから所得控除を引いた残額が課税総所得金額で、89条2項が定義しています。

課税総所得金額、課税退職所得金額又は課税山林所得金額は、それぞれ、総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から前章第四節(所得控除)の規定による控除をした残額とする。

設例の所得控除は、社会保険料控除528,840円(本人負担の年額。月44,070円 × 12)と基礎控除1,040,000円です。基礎控除は所得税法86条1項1号の62万円に、租税特別措置法41条の16の2第1項1号イの加算42万円(令和8年分・令和9年分、合計所得金額489万円以下の場合)を足した額です。

その居住者の合計所得金額が二千三百五十万円以下である場合六十二万円

課税総所得金額は 2,440,000 − 528,840 − 1,040,000 = 871,160円で、国税通則法118条1項により1,000円未満を切り捨てて871,000円になります。

国税(印紙税及び附帯税を除く。以下この条において同じ。)の課税標準(その税率の適用上課税標準から控除する金額があるときは、これを控除した金額。以下この条において同じ。)を計算する場合において、その額に千円未満の端数があるとき、又はその全額が千円未満であるときは、その端数金額又はその全額を切り捨てる。

税率は所得税法89条1項の表で、課税総所得金額871,000円は195万円以下の区分なので5%、43,550円です。ここに復興特別所得税が加わります。

個人に対して課する復興特別所得税の額は、その個人のその年分の基準所得税額に百分の二・一の税率を乗じて計算した金額とする。

43,550円 × 2.1% = 914円で、合計44,464円。確定金額の100円未満は国税通則法119条1項で切り捨てるので、44,400円です。

課税総所得金額(所得税法89条1項)税率
195万円以下5%
195万円超 330万円以下10%
330万円超 695万円以下20%
695万円超 900万円以下23%
900万円超 1,800万円以下33%
1,800万円超 4,000万円以下40%
4,000万円超45%

この表は超過累進で、区分を超えた部分にだけ高い率が掛かります。年収が上がって税率の区分をまたいでも手取りが逆転しない理由と、区分ごとの控除額を使った速算は所得税率の一覧にあります。

設例の月々の天引きは、この年税額より多い

月給30万円から社会保険料44,070円を引いた255,930円を源泉徴収税額表(甲欄・扶養親族等0人)に当てると、月の源泉所得税は6,320円で、12か月で75,840円です。年税額44,400円との差31,440円は年末調整で戻ります。令和8年分は12月1日施行の改正で基礎控除と給与所得控除が動く一方、月々の税額表は改正前のままなので、この差は例年より大きくなります(後述)。月々の数字は手取り計算機で確かめられます。

「合計所得金額」の定義は寡婦の定義の括弧の中にある

扶養・配偶者控除・基礎控除の判定に使われる「合計所得金額」という語は、どこで定義されているのか。意外なことに、所得税法2条1項30号の「寡婦」の定義の中の括弧書きです。

第七十条(純損失の繰越控除)及び第七十一条(雑損失の繰越控除)の規定を適用しないで計算した場合における第二十二条(課税標準)に規定する総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額(以下この条において「合計所得金額」という。)

読み解くと、次の3点が分かります。

設例の人は給与所得だけなので、合計所得金額は給与所得の金額と同じ244万円です。この244万円が、基礎控除の額(489万円以下なので104万円)、配偶者控除や扶養控除を受ける側の所得要件、住民税の非課税判定に使われます。逆に、この人を誰かの扶養に入れられるかを判定するときも、見るのはこの244万円であって、年収360万円でも課税所得87万1,000円でもありません。

扶養親族の定義は2条1項34号で、令和8年12月1日施行の版では次のとおりです。

居住者の親族(その居住者の配偶者を除く。)並びに児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第二十七条第一項第三号(都道府県の採るべき措置)の規定により同法第六条の四(定義)に規定する里親に委託された児童及び老人福祉法(昭和三十八年法律第百三十三号)第十一条第一項第三号(市町村の採るべき措置)の規定により同号に規定する養護受託者に委託された老人でその居住者と生計を一にするもの(第五十七条第一項に規定する青色事業専従者に該当するもので同項に規定する給与の支払を受けるもの及び同条第三項に規定する事業専従者に該当するもの(第三十四号の五において「青色事業専従者等」という。)を除く。)のうち、合計所得金額が六十二万円以下である者をいう。

この62万円は、改正法(令和8年法律第12号)附則2条1項により令和8年分以後の所得税に適用されます。令和7年分は58万円でした。所得の判定額を給与収入に直すと、給与所得控除の最低保障額(令和8年分は74万円)を足して次のようになります。

判定に使う人条文合計所得金額の要件給与収入だけの場合の上限(令和8年分)参考: 令和7年分
扶養親族所得税法2条1項34号62万円以下136万円123万円(58万円+65万円)
同一生計配偶者(配偶者控除の対象)同項33号62万円以下136万円123万円
源泉控除対象配偶者同項33号の495万円以下169万円
配偶者特別控除の対象となる配偶者所得税法83条の2第1項133万円以下220万円超の区分に入るため式が変わる
源泉控除対象親族(19歳以上23歳未満)2条1項34号の5100万円以下174万円
勤労学生同項32号89万円以下(給与所得等以外が10万円以下)163万円

右から2列目の数字は、収入220万円以下の給与所得控除額が74万円であることから、所得の要件に74万円を足しただけです。「103万円の壁」という言葉が今も使われますが、それは令和6年分以前(給与所得控除55万円+合計所得48万円)の数字で、令和7年分は123万円、令和8年分は136万円に動いています。

社会保険の「収入130万円」と税の「所得62万円」は別のものを数えている

「扶養に入れるのは130万円まで」「103万円まで」という2つの数字が並ぶのは、見ている制度が違うからです。

社会保険(健康保険の被扶養者)税(扶養控除・配偶者控除)
見る数収入(年間収入)所得(合計所得金額)
基準130万円未満(60歳以上・障害者は180万円未満、19歳以上23歳未満は150万円未満)62万円以下(給与収入だけなら136万円以下)
期間の区切り認定時点からの今後1年間の見込み。給与なら月額108,333円が目安1月1日〜12月31日の実績。年末(12月31日)の現況で判定
何を数えるか非課税の通勤手当・失業給付・傷病手当金・遺族年金も数える非課税所得は数えない。給与所得控除を引いた後の数
根拠健康保険法3条7項と行政の認定基準。日本年金機構・協会けんぽの公表資料所得税法2条1項33号・34号、83条、84条

日本年金機構は、被扶養者の要件を「年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)」とし、年間収入とは過去の収入のことではなく、被扶養者に該当する時点および認定された日以降の年間の見込み収入額のことをいう、と説明しています。給与所得等の収入がある場合は月額108,333円以下であれば要件を満たす、という目安もこの見込みの考え方から出ています。協会けんぽも、被扶養者の年収が130万円未満でかつ被保険者の年収の半分未満であることを要件として挙げ、60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害を有する場合は180万円未満、令和7年10月1日以降は19歳以上23歳未満(配偶者を除く)の場合は150万円未満としています。

ここで「収入」と「所得」の差が実害になる場面を2つ挙げます。

収入に何を数えるかの一覧と、遡って扶養を外されたときの医療費の返還は社会保険の扶養の条件に、130万円の前後で手取りがいくら動くかは年収の壁 早見表年収の壁 手取り逆転シミュレーターにあります。

手取りは「収入」から引く — 社会保険料は所得を見ていない

設例の社会保険料528,840円は、給与所得244万円とは無関係に決まっています。健康保険料と厚生年金保険料は標準報酬月額(月給30万円は第22等級・30万円)に料率を掛け、雇用保険料は賃金の総額に掛けます。いずれも「収入」側の数字です。

項目(本人負担・月額)掛ける相手料率(本人負担分)金額
健康保険料標準報酬月額 300,000円9.85% ÷ 214,775円
子ども・子育て支援金標準報酬月額 300,000円0.23% ÷ 2345円
厚生年金保険料標準報酬月額 300,000円18.3% ÷ 227,450円
雇用保険料(一般の事業)賃金総額 300,000円0.5%1,500円
合計44,070円(年 528,840円)

35歳なので介護保険料(40歳から64歳)は掛かりません。この528,840円は全額が社会保険料控除として「所得」から引かれるので、社会保険料は収入から差し引かれると同時に、所得税・住民税の課税所得を減らすという二重の働きをします。年収の壁を超えて社会保険に加入すると税金が減るのは、この控除が生まれるからです。

住民税は同じ給与所得244万円から、社会保険料控除528,840円と基礎控除43万円(地方税法314条の2第2項1号)を引いた1,481,000円に、所得割10%を掛けて調整控除2,500円を引き、均等割5,000円(森林環境税1,000円を含む)を足した150,600円です。基礎控除が所得税の104万円ではなく43万円なので、住民税は所得税より低い所得から課税が始まります

当該納税義務者の前年の合計所得金額が二千四百万円以下である場合四十三万円

「前年の」とあるとおり、住民税は前年の所得に対して翌年度に課税されます。設例の150,600円は令和9年6月からの給与で特別徴収される額です。

月給と年齢・都道府県を入れて、社会保険料・所得税・住民税の内訳と手取りを手取り計算機で出す

令和8年分の落とし穴 — 12月1日施行と、令和10年分からの物価連動

令和8年分の給与所得控除(最低保障74万円)と基礎控除(62万円+加算)は、令和8年度税制改正によるもので、改正法(令和8年法律第12号)の附則1条4号により施行日は令和8年12月1日です。同附則3条は新28条を「令和八年分以後の所得税について適用」、9条は新86条を「令和八年分以後の所得税について適用」としています。つまり令和8年1月から11月までの給与から引かれる所得税は改正前の税額表のままで、12月の年末調整で1年分をまとめて精算します。「改正されたのに天引きが変わらない」のは正常で、差額は年末調整で戻ります。

さらに先の話として、同じ改正法の附則101条が基礎控除と給与所得控除の最低保障額を物価に連動させる方針を書いています。

令和十年分以後の所得税の基礎控除の額については、政府において、二年ごとに、直前の見直し後の所得税の基礎控除の額に当該見直し後二年間における総務省において作成する全国消費者物価指数の変化率を乗じて得た額を基準として見直しを行うことを基本とするものとし、給与所得控除の最低保障額についても、同様とする。

これが意味するのは、「年収いくらまで扶養」「年収いくらまで所得税ゼロ」という数字が、令和10年分以後は2年ごとに動くということです。年収の壁を固定の数字として覚えるのではなく、「所得の要件 + 給与所得控除の最低保障額」という式で覚えておけば、額が変わっても追えます。

年分で違う「給与収入だけの人が扶養親族でいられる上限」

令和6年分以前は103万円(給与所得控除55万円+合計所得48万円)、令和7年分は123万円(65万円+58万円)、令和8年分・令和9年分は136万円(74万円+62万円)です。令和8年の年末調整で扶養控除等申告書を見直すときは、令和7年分の123万円ではなく136万円で判定します。

源泉徴収票のどの欄がどの数か

この記事の4つの数は、給与所得の源泉徴収票の欄にそのまま対応します。

源泉徴収票の欄この記事の呼び名設例の金額
支払金額収入(年収)3,600,000円
給与所得控除後の金額所得(給与所得)= 合計所得金額2,440,000円
所得控除の額の合計額社会保険料控除+基礎控除1,568,840円
源泉徴収税額所得税(復興特別所得税を含む)44,400円

「課税所得」の欄は源泉徴収票にありません。「給与所得控除後の金額」から「所得控除の額の合計額」を引いて、1,000円未満を切り捨てた数が課税所得です。役所や金融機関から「所得を証明する書類」を求められたときに見せる数は、2行目の「給与所得控除後の金額」です。欄ごとの読み方は源泉徴収票の見方にあります。

よくある質問

Q. 収入と所得は、ひとことで言うと何が違いますか?

A. 収入は入ってきた総額、所得はそこから経費を引いた額です。給与の場合の経費は実費ではなく法律で決まった給与所得控除額で、所得税法28条2項が給与所得の金額を収入金額から給与所得控除額を控除した残額と定めています。年収360万円なら給与所得控除は116万円、給与所得は244万円です(令和8年分)。

Q. 「所得制限」がある制度は、年収と所得のどちらで判定しますか?

A. 制度ごとに条文で定められていますが、税や多くの給付では「合計所得金額」または「総所得金額等」という所得側の数を使います。年収360万円の人の合計所得金額は244万円なので、年収で読み替えると判定を誤ります。社会保険の被扶養者だけは例外的に「収入」(年間収入130万円未満の見込み)で判定します。

Q. 課税所得とは何ですか?

A. 所得から所得控除を引いた残額で、税率を掛ける土台になる数です。所得税法89条2項は課税総所得金額を、総所得金額から所得控除をした残額と定義しています。設例では給与所得244万円から社会保険料控除528,840円と基礎控除104万円を引いた871,160円で、国税通則法118条1項により1,000円未満を切り捨てて871,000円になります。

Q. 合計所得金額は、どこに定義がありますか?

A. 所得税法2条1項30号の寡婦の定義の括弧書きです。純損失の繰越控除と雑損失の繰越控除を適用しないで計算した総所得金額・退職所得金額・山林所得金額の合計額とされています。前年からの赤字を引く前で、所得控除も引く前の数です。給与だけの人は給与所得の金額と同じになります。

Q. 社会保険の扶養の130万円と、税の扶養の額は、同じ収入の数字ですか?

A. 違います。130万円は社会保険の基準で、認定時点からの今後1年間の見込みの年間収入で判定し、非課税の失業給付や通勤手当も数えます。税の扶養親族は合計所得金額が62万円以下(令和8年分)で判定し、給与収入だけなら給与所得控除74万円を足した136万円以下が目安です。前者は収入、後者は所得で、期間の区切り方も違います。

Q. 令和8年分の給与所得控除は、いくらから引かれますか?

A. 給与収入220万円以下の人は租税特別措置法29条の4により74万円(収入が74万円未満なら収入と同額)、220万円超360万円以下は収入の30%に8万円を足した額、360万円超660万円以下は収入から360万円を引いた額の20%に116万円を足した額、660万円超850万円以下は収入から660万円を引いた額の10%に176万円を足した額、850万円超は195万円です。74万円の特例は令和8年分と令和9年分に限られます。

Q. 手取りを増やすには、収入と所得のどちらを見ればよいですか?

A. 手取りは収入から社会保険料・所得税・住民税を引いた額なので、両方が関係します。社会保険料は収入(標準報酬月額)で決まり、税金は所得から所得控除を引いた課税所得で決まります。設例の月給30万円では、年間の社会保険料が528,840円、所得税が44,400円、住民税が150,600円で、税金より社会保険料のほうが大きくなります。

Q. 12月1日施行なのに、令和8年1月からの給与も新しい控除の対象になりますか?

A. なります。改正法の附則3条と9条が、新しい28条と86条を令和8年分以後の所得税について適用すると定めているためです。ただし月々の源泉徴収は改正前の税額表で行われ、12月の年末調整で1年分を精算するので、1月から11月の天引き額は変わりません。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の税務相談ではありません。設例の金額は令和8年分の所得税法・租税特別措置法と令和8年度の協会けんぽ東京支部の料率に基づく計算例で、賞与の有無・扶養親族・他の所得控除・住んでいる自治体によって変わります。実際の申告や扶養の判定にあたっては、源泉徴収票と各制度の要件を確認したうえで、顧問税理士・所轄の税務署・年金事務所または勤務先の担当部署にご確認ください。金額はいずれも記事作成時点の法令に基づき、将来の改正により変わることがあります。

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