令和8年4月に基準額が51万円から65万円へ上がった
在職老齢年金は、老齢厚生年金を受け取りながら厚生年金に加入して働いている方の年金を、収入に応じて一部止めるしくみです。この「止まり始める境目」を支給停止調整額(基準額)と呼びます。
令和7年年金制度改正法(令和7年法律第74号)により、令和8年4月分から、この基準額が月51万円から65万円に引き上げられました。日本年金機構は改正の趣旨を「平均寿命・健康寿命が延びる中で、働き続けることを希望する高齢者の方の活躍を後押しし、より働きやすい仕組みとすること」と説明しています。
計算式は1本だけ — 超えた額の半分が止まる
令和4年4月以降、65歳未満と65歳以上の式は統一され、次の1本だけになりました(厚生年金保険法46条1項)。
| 状態 | その月の老齢厚生年金 |
|---|---|
| 基本月額 + 総報酬月額相当額 ≦ 基準額 | 全額支給 |
| 基本月額 + 総報酬月額相当額 > 基準額 | 基本月額 -(基本月額 + 総報酬月額相当額 - 基準額)÷ 2 |
条文は「超えるとき」であって「以上」ではありません。合計がちょうど65万円のときは1円も止まりません。1円でも超えたところから、超えた額の2分の1が止まり始めます。
ここでいう基本月額は、加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額です。年金証書に書かれた年額を12で割った額と考えてください。
総報酬月額相当額はボーナスを12で割って足す
判定に使う収入は月給だけではありません。総報酬月額相当額 = その月の標準報酬月額 + その月以前1年間の標準賞与額の合計 ÷ 12 です(厚生年金保険法46条1項)。
ボーナスを忘れると、停止額を実際より少なく見積もることになります。たとえば標準報酬月額45万円・年間賞与120万円の方は、45万円+10万円=55万円が総報酬月額相当額です。基本月額20万円なら合計75万円で、基準額65万円を10万円超えるため、その半分の月5万円が止まります。賞与を0で計算すると「合計65万円ちょうどで全額支給」という誤った結論になります。
また、ここでいう標準報酬月額は厚生年金保険の等級表上の額であって、手取り額でも年収を12で割った額でもありません。給与明細の控除欄や「ねんきん定期便」で確認できます。
止まらないもの — 老齢基礎年金・経過的加算・加給年金
在職老齢年金で止まるのは老齢厚生年金の報酬比例部分だけです。日本年金機構は留意事項で「老齢基礎年金および経過的加算額は全額支給となります」と明記しています。老齢厚生年金が全額支給停止になった方でも、老齢基礎年金は満額受け取れます。
加給年金額の扱いは少し複雑で、2つの別々の規律があります。
- 判定には入れない — 46条1項が「第四十四条第一項に規定する加給年金額……を除く」と明文で除いています。加給年金額を足した額で基本月額を出すと、停止額が過大になります。
- 全部止まるときは一緒に止まる — 計算の結果、年金支給月額がマイナスになる場合は、老齢厚生年金は加給年金額を含めて全額支給停止になります(日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」留意事項)。
いつ止まり、いつ戻るか
支給停止は、基本月額と総報酬月額相当額の合計が基準額を超えている期間について行われます。停止額が変わるのは、総報酬月額相当額が変わった月、または退職日の翌月です。
- 退職改定 — 退職して1か月を経過すると、退職した翌月分の年金から支給停止がなくなり全額支給に戻ります。あわせて、退職までの厚生年金加入期間を追加して年金額そのものが再計算されます。ただし退職して1か月以内に再就職して厚生年金に加入した場合(転職など)は再計算されません。
- 在職定時改定 — 65歳以上70歳未満で9月1日に厚生年金の被保険者である方は、翌月の10月分から年金額が見直されます。前年9月から当年8月までの加入期間が年金額に追加されるため、年金額が増え、結果として停止額が変わることがあります。
- 70歳到達 — 70歳に達した翌月分から年金額が見直されます。70歳以降は保険料の負担がなくなりますが、適用事業所に勤めている限り支給停止は続きます。
このツールが計算しないもの
次のものは範囲外です。計算結果の下にもデータから同じ一覧を表示しています。
- 老齢厚生年金そのものの額 — このツールは「いくら止まるか」だけを出します。年金額の見込みは年金受給見込額 計算機へ。
- 高年齢雇用継続給付との調整 — 60歳台前半に高年齢雇用継続給付を受けると、在職老齢年金とは別にさらに標準報酬月額の一定割合が支給停止されます(厚年法附則11条の6)。
- 厚生年金基金に加入していた期間がある場合 — 代行部分を国が支払うべき年金額とみなして基本月額を出し直すため、年金証書の額をそのまま入れると基本月額が実際より小さくなります。
- 令和4年3月以前の65歳未満の在職老齢年金(低在老) — 基準額28万円・総報酬47万円で4分岐した旧制度です。令和4年4月に現在の式へ統一されたため、現在の受給額の計算には使いません。
よくある質問
Q. 在職老齢年金の基準額は今いくらですか?
A. 令和8年度は月65万円です。令和7年年金制度改正法(令和7年法律第74号)により、令和8年4月分から、それまでの月51万円が65万円に引き上げられました。なお厚生年金保険法46条3項の条文本則は「六十二万円」ですが、これは毎年度の改定前の額で、実際に適用されるのは改定後の65万円です。
Q. 改正で私の年金はいくら増えますか?
A. 基準額が14万円上がったので、停止されていた方は最大で月7万円(14万円の2分の1)ぶん支給停止が減ります。基本月額10万円の方の場合、全額支給となる総報酬月額相当額の上限が41万円から55万円へ上がります。もともと停止されていなかった方は変わりません。このページの計算機が、改正前後の差額を表示します。
Q. 老齢基礎年金も支給停止されますか?
A. されません。止まるのは老齢厚生年金の報酬比例部分だけで、老齢基礎年金と経過的加算額は全額支給されます。老齢厚生年金が全額支給停止になった方でも、老齢基礎年金は満額受け取れます。
Q. 加給年金額は基本月額に含めますか?
A. 含めません。厚生年金保険法46条1項が明文で除いています。ただし全額支給停止になる場合は、加給年金額も含めて全額が止まります。判定には入れないが、全部止まるときは一緒に止まるという関係です。
Q. ボーナスは在職老齢年金の計算に入りますか?
A. 入ります。総報酬月額相当額は「その月の標準報酬月額」+「その月以前1年間の標準賞与額の合計 ÷ 12」です。標準報酬月額45万円・年間賞与120万円なら55万円になります。賞与を忘れると停止額を少なく見積もることになります。
Q. 70歳を過ぎて働いている場合はどうなりますか?
A. 70歳以上は厚生年金保険の被保険者ではなくなり保険料の負担もなくなりますが、厚生年金の適用事業所に勤めている場合は支給停止の対象になります(46条1項の「七十歳以上の使用される者」)。計算式は同じです。
Q. 退職したら支給停止はいつなくなりますか?
A. 退職して1か月を経過すると、退職した翌月分の年金から全額支給に戻ります(退職改定)。ただし1か月以内に再就職して厚生年金に加入した場合は年金額の再計算は行われません。
出典
- 厚生年金保険法46条(e-Gov法令検索) — 支給停止のしくみ、総報酬月額相当額と基本月額の定義、2分の1の式、ただし書の全額支給停止、3項の支給停止調整額(本則62万円と毎年度の改定)
- 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」 — 令和8年度の支給停止調整額65万円、令和8年4月の改正(51万円→65万円・令和7年法律第74号)、老齢基礎年金と経過的加算が止まらないこと、在職定時改定・退職改定
- 日本年金機構「在職老齢年金早見表」(PDF) — 改正前後の停止額の数表。このツールの計算はこの表を再現できることで検算しています
条文はe-Gov法令API v2で逐語確認し、令和8年度の額は日本年金機構のページで確認しました。
関連ツール
- 年金受給見込額 計算機 — 老齢厚生年金・老齢基礎年金がそれぞれいくらになるかを先に出せます(このツールの入力に使えます)
- 社会保険料 計算機 — 標準報酬月額から健康保険・厚生年金の保険料を計算します
- 遺族年金 計算機 — 遺族基礎年金・遺族厚生年金・中高齢寡婦加算をまとめて計算します
- 手取り計算機 — 在職中の給与の手取りを計算します