副業・ダブルワークの「通算」— 労働時間は通算し、社会保険は合算し、雇用保険は合算しない
従業員が2社で働いているとき、担当者が最初に迷うのは「2社分を合わせて考えるのか、会社ごとに別々に考えるのか」という一点です。ところがこの問いには、制度ごとに違う答えが用意されています。1つの答えを覚えて他に流用すると、そのまま間違いになります。
結論から言うと、労働時間は通算します(労働基準法38条1項)。社会保険は報酬を合算します(健康保険法44条3項・厚生年金保険法24条2項)。雇用保険は合算しません(原則として主たる賃金を受ける1社だけで加入します)。同じ「掛け持ち」という事実に対して、3つの制度が3つの違う扱いをしている、というのがこの分野の見取り図です。
さらに実務で問題になるのが、社会保険料を各社がいくらずつ負担するのかです。これは健康保険法にも厚生年金保険法にも本則には書かれていません。両法とも「政令で定める」と委任しており、実際の計算式は健康保険法施行令47条と厚生年金保険法施行令4条まで降りて初めて出てきます。以下、条文の言葉どおりに順に見ていきます。
結論:3つの制度で「合わせるか」の答えが違う
先に全体像を置きます。掛け持ちの従業員について、2社分を合わせるかどうかは次のように分かれます。
| 制度 | 2社分を合わせるか | 根拠 | 何を合わせるのか |
|---|---|---|---|
| 労働時間 | 通算する | 労働基準法38条1項 | 労働時間(労働時間に関する規定の適用について) |
| 健康保険 | 合算する | 健康保険法44条3項 | 報酬月額 |
| 厚生年金保険 | 合算する | 厚生年金保険法24条2項 | 報酬月額 |
| 雇用保険 | 合算しない(原則) | 雇用保険法6条1号ほか | —(65歳以上の特例のみ例外) |
言葉づかいも制度ごとに違います。労働基準法は「通算する」と書き、健康保険法・厚生年金保険法は「合算額」と書きます。日常語ではどちらも「足す」ですが、足す対象が違います。前者が足すのは時間で、後者が足すのは報酬です。
労働時間は通算する — 労働基準法38条1項
根拠は労働基準法38条です。見出しは「(時間計算)」で、1項は次の一文だけです。
労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
短い条文ですが、読むべき点が3つあります。
1つめは、通算するのは「労働時間に関する規定の適用について」だという限定が付いていることです。あらゆる場面で2社の時間が1つになるのではなく、労働時間に関する規定を適用する場面での話だと条文自身が枠を切っています。
2つめは、条文が「事業場を異にする場合」としか書いていないことです。同じ会社の中の別の事業場なのか、まったく別の会社なのかを、この条文の文言そのものは区別していません。掛け持ち(別の会社での副業)にこの規定がどう及ぶかは、条文の文言だけからは決まらず、行政解釈によって補われている領域です。本稿は条文に書いてあることだけを扱う趣旨なので、その解釈の中身には立ち入りません。条文の側で確認できるのは「事業場を異にする場合」という言葉が置かれている、という事実までです。
3つめは、38条には2項があり、そちらは坑内労働の話だということです。「坑内労働については、労働者が坑口に入つた時刻から坑口を出た時刻までの時間を、休憩時間を含め労働時間とみなす」と定め、この場合は34条2項・3項の休憩の規定を適用しないとしています。38条を引くときは、通算の話は1項だと押さえておくと、条番号の引用を間違えません。
通算が効くと、何が変わるのか
労働時間に関する規定には、法定労働時間(32条)や割増賃金(37条)が含まれます。時間を通算した結果として法定労働時間を超える部分が出れば、そこは時間外労働として扱う場面が生じます。36協定や割増賃金の計算も、この通算を前提に考えることになります。
社会保険は報酬を合算する — 健康保険法44条3項・厚生年金保険法24条2項
健康保険と厚生年金保険では、条文の作りがほぼ同じです。まず健康保険法44条3項です。条の見出しは「(報酬月額の算定の特例)」で、合算は特例を定めた条の中に置かれています。
同時に二以上の事業所で報酬を受ける被保険者について報酬月額を算定する場合においては、各事業所について、第四十一条第一項、第四十二条第一項、第四十三条第一項、第四十三条の二第一項若しくは前条第一項又は第一項の規定によって算定した額の合算額をその者の報酬月額とする。
厚生年金保険法24条2項も、引く条番号が違うだけで文の骨格は同じです。
同時に二以上の事業所で報酬を受ける被保険者について報酬月額を算定する場合においては、各事業所について、第二十一条第一項、第二十二条第一項、第二十三条第一項、第二十三条の二第一項若しくは前条第一項又は前項の規定によつて算定した額の合算額をその者の報酬月額とする。
ここで押さえるべきは、合算されるのは「報酬月額」であって、標準報酬月額を2つ持つわけではないという点です。各事業所ごとにいったん報酬月額を算定し、その合算額をその人1人の報酬月額として扱います。標準報酬月額は、その合算後の報酬月額から1つだけ決まります。標準報酬月額の等級表を見るときも、当てはめるのは合算後の額です。
条文の主語に注意 — 「同時に二以上の事業所で報酬を受ける被保険者」
この規定の主語は被保険者です。つまり、両方の会社ですでに被保険者になっている人についての報酬月額の決め方を書いた条文であって、加入するかどうかを2社の労働時間や報酬を合算して判定する規定ではありません。加入要件は会社ごとに判定します。ここは実務でとくに誤解されやすい部分なので、後述でもう一度取り上げます。
保険料を各社がいくら持つかは、本則ではなく政令に書いてある
報酬月額を合算して標準報酬月額が1つ決まると、次に「その保険料を2社でどう分けるのか」という問題が出ます。健康保険法161条4項を読むと、こう書いてあります。
被保険者が同時に二以上の事業所に使用される場合における各事業主の負担すべき保険料の額及び保険料の納付義務については、政令で定めるところによる。
厚生年金保険法82条3項も同じ形で、「政令の定めるところによる」と書いて終わっています。つまり、両法の本則には按分の式が1つも書かれていません。法律だけを読んでいると、ここで手がかりが尽きます。
実際の式は健康保険法施行令47条と厚生年金保険法施行令4条にあります。健康保険法施行令47条1項は、各事業主の負担すべき標準報酬月額に係る保険料の額を、次の2つを掛けた額だと定めています。
- 1号:当該被保険者の保険料の半額(健康保険法162条が適用された場合は、保険料の額に事業主の負担すべき割合を乗じて得た額)
- 2号:各事業所について算定した額を、当該被保険者の報酬月額で除して得た数
厚生年金保険法施行令4条1項も、書き方の順序が違うだけで同じ構造です。各事業所について算定した額を報酬月額で除して得た数を、被保険者の保険料の半額に乗じる、としています。
言い換えると、各社の負担は「報酬の割合」で按分されるということです。具体的に当てはめてみます。
計算例:A社24万円・B社12万円のとき
各事業所について算定した報酬がA社24万円・B社12万円なら、合算後の報酬月額は36万円です。按分の割合は、A社が 24万 ÷ 36万 = 3分の2、B社が 12万 ÷ 36万 = 3分の1 になります。事業主負担分(保険料の半額)が仮に18,000円だとすれば、A社が12,000円、B社が6,000円を負担する、という配分です。
賞与についても同じ考え方が置かれています。健康保険法施行令47条2項・厚生年金保険法施行令4条2項は、標準賞与額に係る保険料について、その月に各事業主が支払った賞与額を、その月に当該被保険者が受けた賞与額で除して得た数を用いると定めています。分母が「本人がその月に受けた賞与額」である点が、報酬月額の場合と対応しています。
そして実務でいちばん効くのが3項です。健康保険法施行令47条3項・厚生年金保険法施行令4条3項は、各事業主が納付すべき保険料を、次のように定めています。
前二項の規定により各事業主が負担すべき保険料及びこれに応ずる当該被保険者が負担すべき保険料とする。
つまり各社は、自社の按分ぶんの事業主負担と、それに対応する本人負担ぶんを納めます。上の例なら、B社が給与から控除するのは全体の3分の1に相当する本人負担分であって、全額ではありません。どちらか1社がまとめて全額を控除するのではない、というのがこの3項の意味です。
船舶が絡むときだけ配分が変わる
厚生年金保険法施行令4条4項は、被保険者が船舶に使用され、かつ同時に事業所にも使用される場合について、船舶所有者以外の事業主は保険料を負担せず、納付義務も負わないとし、船舶所有者が保険料の半額を負担すると定めています。按分ではなく、船舶側に寄せる作りです。掛け持ちの一方が船舶であるケースは多くありませんが、按分の原則がそのまま当てはまらない場面として条文に明示されています。
雇用保険だけが合算しない
3つめの制度が雇用保険です。ここだけ向きが逆で、掛け持ちの時間は合算しません。2社ともそれぞれ週20時間以上働いていても、原則として主たる賃金を受ける1社だけが被保険者になります。
例外は65歳以上のマルチジョブホルダー制度(雇用保険法37条の5)だけで、この制度は本人がハローワークに申し出た日から被保険者になり、さかのぼりません。要件と手続きは雇用保険の加入条件の記事で詳しく扱っているので、そちらを参照してください。本稿では「3制度のうち雇用保険だけが合算しない側にいる」という位置づけの確認にとどめます。
ここまでを1つの表にまとめます。
| 労働時間 | 健康保険・厚生年金 | 雇用保険 | |
|---|---|---|---|
| 2社分を合わせるか | 通算する | 報酬月額を合算する | 合算しない(原則) |
| 根拠(本則) | 労基法38条1項 | 健保法44条3項/厚年法24条2項 | 雇用保険法6条1号ほか |
| 会社ごとの負担の決め方 | 条文に按分規定なし | 政令に委任(健保法161条4項/厚年法82条3項) | 1社のみが手続きする |
| 按分の式がある場所 | — | 健保令47条/厚年令4条 | — |
| 例外 | — | 船舶(厚年令4条4項) | 65歳以上(雇用保険法37条の5) |
間違えやすい点
1. 「合算する」と「加入要件を合算する」は別の話です。健康保険法44条3項の主語は「同時に二以上の事業所で報酬を受ける被保険者」です。すでに両方で被保険者になっている人の報酬月額の決め方を書いた条文であって、2社の労働時間を足して加入要件を満たすかどうかを判定する規定ではありません。加入するかどうかは会社ごとに判定します。要件そのものは社会保険の加入条件の記事で扱っています。
2. 労働時間の通算と、社会保険の合算を、同じ理屈で語らないことです。労働時間は労働基準法が「通算する」と書き、社会保険は健康保険法・厚生年金保険法が「合算額」と書きます。根拠法が違い、足す対象も違います(時間と報酬)。片方で成り立つ結論を、もう片方にそのまま持ち込めません。
3. 保険料の按分を法律の本則で探しても見つかりません。健康保険法161条4項・厚生年金保険法82条3項は「政令で定めるところによる」で終わっています。式は健康保険法施行令47条・厚生年金保険法施行令4条にあります。本則に書いていないことを「規定が無い」と読まないのが、この分野の条文の読み方です。
4. 所得税の扱いはまた別です。給与所得者の扶養控除等申告書を提出できるのは1か所だけで、提出のない側は源泉徴収税額表の乙欄で計算します。社会保険が合算する一方で、源泉徴収は会社ごとに別々に行われます。源泉徴収税額表の見方もあわせて確認してください。
まとめ
- 労働時間は通算する(労基法38条1項)。条文は「事業場を異にする場合においても」と書き、限定は「労働時間に関する規定の適用について」
- 社会保険は報酬月額を合算する(健保法44条3項・厚年法24条2項)。標準報酬月額は合算後の額から1つ決まる
- 雇用保険は合算しない。例外は65歳以上のマルチジョブホルダーのみ
- 保険料の按分は本則になく政令にある(健保令47条・厚年令4条)。各社は報酬の割合で負担し、それに応ずる本人負担分だけを控除する
- 合算の条文の主語は「被保険者」=加入要件を合算する規定ではない
よくある質問
Q. 2社で働いている従業員の労働時間は、本当に足して考えるのですか?
A. 労働基準法38条1項が「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。通算するという原則自体は条文に書かれています。ただし条文の文言は「事業場を異にする場合」であって、別の会社での副業なのか同じ会社の別の事業場なのかを条文自身は区別していません。掛け持ちの場面にこの規定がどう及ぶかは行政解釈によって補われている部分があるため、個別の運用については社会保険労務士または労働基準監督署にご確認ください。なお同条2項は坑内労働のみなしの規定で、通算の話ではありません。
Q. 2社で働くと、社会保険の標準報酬月額は2つになりますか?
A. 2つにはなりません。健康保険法44条3項と厚生年金保険法24条2項は、各事業所について算定した額の合算額をその者の報酬月額とする、と定めています。合算されるのは報酬月額で、標準報酬月額はその合算後の報酬月額から1つだけ決まります。たとえば各事業所について算定した報酬がA社24万円・B社12万円であれば、報酬月額は36万円として扱われ、そこから標準報酬月額が決まる形です。
Q. 保険料は2社でどのように分けるのですか?
A. 報酬の割合で按分します。健康保険法施行令47条1項は、各事業主の負担すべき保険料の額を、被保険者の保険料の半額に、各事業所について算定した額を当該被保険者の報酬月額で除して得た数を乗じた額としています。厚生年金保険法施行令4条1項も同じ構造です。報酬がA社24万円・B社12万円で報酬月額が36万円なら、割合はA社3分の2・B社3分の1になります。賞与についても、その月に各事業主が支払った賞与額をその月に本人が受けた賞与額で除して得た数を用いる、と同条2項が定めています。
Q. 保険料の按分について、健康保険法の本則を読んでも書いてありません。
A. 本則には書かれていません。健康保険法161条4項は、被保険者が同時に二以上の事業所に使用される場合における各事業主の負担すべき保険料の額及び保険料の納付義務については政令で定めるところによる、と定めて政令に委任しています。厚生年金保険法82条3項も同じ形です。実際の計算式は健康保険法施行令47条と厚生年金保険法施行令4条にあります。法律の本則に見当たらないときは、委任先の政令や省令まで降りて探す必要があります。
Q. 掛け持ちしている従業員の給与から、当社が全額の社会保険料を控除するのですか?
A. 全額ではありません。健康保険法施行令47条3項と厚生年金保険法施行令4条3項は、各事業主が納付すべき保険料を、各事業主が負担すべき保険料及びこれに応ずる当該被保険者が負担すべき保険料とすると定めています。各社は自社の按分ぶんの事業主負担と、それに対応する本人負担分を納める形になります。按分の割合がA社3分の2・B社3分の1であれば、B社が控除するのは3分の1に相当する本人負担分であって、全額ではありません。
Q. 雇用保険も2社分を合算して加入するのですか?
A. 原則として合算しません。2社ともそれぞれ週20時間以上であっても、主たる賃金を受ける1社だけで被保険者になるのが原則です。例外は65歳以上を対象とする雇用保険マルチジョブホルダー制度(雇用保険法37条の5)だけで、この制度は本人がハローワークに申し出た日から被保険者となり、さかのぼりません。社会保険が報酬を合算するのと扱いが逆になるため、混同しないよう注意が必要です。
Q. 2社で働くと、社会保険の加入要件も合算して判定されますか?
A. 合算して判定する規定ではありません。健康保険法44条3項の主語は同時に二以上の事業所で報酬を受ける被保険者であり、すでに両方で被保険者となっている人について報酬月額をどう算定するかを定めた条文です。加入するかどうかは、それぞれの事業所ごとに要件を満たすかどうかで判断することになります。したがって、2社の労働時間を足せば加入要件を満たす、という読み方はこの条文からは出てきません。
出典
- e-Gov法令検索「労働基準法」(昭和二十二年法律第四十九号)第38条(時間計算)第1項・第2項。法令API v2 で取得
- e-Gov法令検索「健康保険法」(大正十一年法律第七十号)第44条(報酬月額の算定の特例)第3項、第161条(保険料の負担及び納付義務)第4項。法令API v2 で取得
- e-Gov法令検索「厚生年金保険法」(昭和二十九年法律第百十五号)第24条(報酬月額の算定の特例)第2項、第82条(保険料の負担及び納付義務)第3項。法令API v2 で取得
- e-Gov法令検索「健康保険法施行令」(大正十五年勅令第二百四十三号)第47条(二以上の事業所に使用される場合の保険料)第1項・第2項・第3項。法令API v2 で取得
- e-Gov法令検索「厚生年金保険法施行令」(昭和二十九年政令第百十号)第4条(二以上の事業所又は船舶に使用される場合の保険料)第1項・第2項・第3項・第4項。法令API v2 で取得
- e-Gov法令検索「雇用保険法」(昭和四十九年法律第百十六号)第6条第1号、第37条の5。法令API v2 で取得
この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案についての助言ではありません。掛け持ち勤務の労働時間管理、社会保険の届出や保険料の按分の実際の取扱いについては、社会保険労務士、年金事務所または労働基準監督署にご確認ください。