移転価格税制とは|国外関連者・算定方法とローカルファイルの確認表
移転価格税制は、国外関連者との取引価格を独立企業間価格と照らし、所得の海外移転に対応する税制です。
経理の確認は、相手が国外関連者か、取引価格の根拠を説明できるか、同時文書化の対象か、の順です。同時文書化が免除されても、移転価格税制そのものの対象外になるわけではありません。
以下では日本の法人による国外関連取引を扱い、価格算定に使う資料と手続きを整理します。個別商品の適正価格や利益率は示しません。
同時文書化の対象を確認する早見表
判定は国外関連者ごとに行い、受取額と支払額を相殺せず合計します。グループ全体の売上高や、海外取引全体の純額で判定するものではありません。
次表は、前事業年度があり、相手が前期から国外関連者で前期取引もある法人について、相手先ごとの前事業年度の受払合計で判定します。全取引額には無形資産取引も含みます。
| 前期の取引額の組合せ | 同時文書化の扱い |
|---|---|
| 国外関連取引が50億円以上 | 対象。無形資産取引額の大小を問わない |
| 国外関連取引は50億円未満だが、無形資産取引が3億円以上 | 対象 |
| 国外関連取引が50億円未満、かつ無形資産取引も3億円未満 | 同時文書化は免除。税制の適用と調査時の書類対応は別 |
根拠は租税特別措置法66条の4第6・7項です。同時文書化対象のローカルファイルは、当該事業年度について自社に適用される法人税確定申告書の提出期限までに作成または取得し、保存します。
前期がない・新たに関連者となった場合
前事業年度がない場合と、相手が当期に新たに国外関連者となった場合は、当期の取引額で判定します。
これらに該当せず、前期から国外関連者である相手との前期取引がない場合には、同時文書化義務の免除規定があります。買収などで関係が変わったときは、まず関連者となった時点を分けて確認します(租税特別措置法施行令39条の12第11・12項)。
同時文書化が免除された取引でも、税務調査で独立企業間価格の算定に重要と認められる書類の提示・提出を求められる場合があります。受領した依頼の対象書類と指定日を確認し、免除を理由に資料を処分しないようにします。
国外関連者は海外子会社に限らない
国外関連者とは、自社と法定の特殊な関係にある外国法人です。海外子会社という呼称ではなく、資本・支配関係を確認します。判定時点はそれぞれの取引が行われた時の現況です。
資本関係の判定では、取引時の現況により、自己株式等を除く発行済株式等の直接保有割合と法定の間接保有割合の合計が50%以上かを確認します。間接保有割合は、連鎖する出資割合を単純に掛け合わせる計算とは限りません。
以下は国外関連者の判定で確認する主な関係の例です。資本関係に加え、実質的な支配とそれらの連鎖も対象となり得ます。関係の全要件は施行令39条の12第1〜4項を確認します。
| 関係の例 | 確認する資料 |
|---|---|
| 日本法人と海外の親会社・子会社 | 双方の株主名簿、出資関係図、自己株式の状況 |
| 同一の者に支配される日本法人と外国法人 | 共通支配者まで遡った資本関係図 |
| 事業方針を実質的に決定できる関係 | 役員兼務、取引依存、資金調達や保証の状況など |
| 資本関係と実質支配が連鎖する関係 | 途中の法人を省略しない関係図と各社の実態 |
共通支配者が個人の場合は、その個人と法定の特殊関係にある個人を含めて判定します。資本関係の基準に届かなくても実質支配で該当する場合があるため、出資比率だけで対象外と決めないことが重要です。
対象取引と価格の点検
商品売買以外も点検します。会計科目の名称より、何を提供し、何の対価を受け払いしているかを整理します。
次表は国外関連者との取引を洗い出すための一般例です。契約と実際の活動を照らし、独立企業間価格の検討に必要な情報を集めます。対価の要否や額をこの表だけで判定するものではありません。
| 取引の例 | 価格の根拠として整理する事項 |
|---|---|
| 商品・製品の輸出入 | 品目、数量、取引段階、引渡条件、在庫・保証の負担 |
| 技術支援・管理業務などのサービス | 実際の提供内容、担当者、受益、費用と配分方法 |
| 特許・商標・ノウハウの使用許諾など | 権利と使用内容、開発等の活動、リスク、契約条件 |
| 金銭貸付などの金融取引 | 契約、通貨、期間、利息、資金使途、信用・保証の条件 |
取引価格と所得計算の関係
次表は、日本の法人と、日本に恒久的施設を持たない国外関連者との直接の商品売買を想定します。対価の差額が寄附金に当たる場合を除いた、法人税の所得計算上の扱いの例です。
| 実際の対価と独立企業間価格の関係 | 法人税の所得計算 |
|---|---|
| 受取対価が独立企業間価格より少ない | 独立企業間価格で取引したものとみなして計算する |
| 支払対価が独立企業間価格より多い | 独立企業間価格で取引したものとみなして計算する |
たとえば、海外子会社向けに同じ製品を安く販売していても、一般顧客との単価差だけでは結論を出せません。数量や販売段階、輸送・保証の負担など、価格に影響する条件の違いを調べます。反対に、契約書の単価が一般顧客と同じでも、実際の条件が異なれば比較の検討が必要です。
主な例外・別扱い:恒久的施設を有する国外関連者の政令所定の国内源泉所得に係る取引は除外されます。非関連者を通じる取引でも、法定の要件で国外関連取引とみなされる場合があります。国外関連者への寄附金は別規定で扱います(租税特別措置法66条の4第1・3・5項)。
独立企業間価格の算定方法
算定方法は、国外関連取引の内容や当事者の果たす機能などを踏まえ、最も適切な方法を選びます。以前から使っている方法、社内目標の利益率、親会社の指定だけでは、選定の根拠を説明できません。
以下は代表的な算定方法の考え方です。棚卸資産の売買には法定の方法を、それ以外の取引には同等の方法を用います。比較対象との条件差がある場合には差異調整を検討します(租税特別措置法66条の4第2項、施行令39条の12)。
| 方法 | 考え方の概要 |
|---|---|
| 独立価格比準法 | 同様の条件で行われる非関連者間の取引価格と比べる |
| 再販売価格基準法 | 非関連者への再販売価格から通常の利潤を控除する |
| 原価基準法 | 取得原価に通常の利潤を加算する |
| 取引単位営業利益法 | 比較対象取引の営業利益に関する割合を基礎に算定する |
| 利益分割法 | 対象取引に係る所得を、法定の方法で当事者に配分する |
| ディスカウント・キャッシュ・フロー法 | 予測利益を合理的な割引率で現在価値へ割り引く |
実務では、方法の名前に加えて、なぜその方法を選んだか、比較対象をどう選んだか、条件差をどう扱ったかを残します。営業利益を使う方法では、検証する取引に係る損益を帳簿から辿れるようにしておくことも必要です。
たとえば、海外向け販売と国内販売が混ざった全社損益しかない場合、国外関連取引の利益を確認しにくくなります。取引に係る売上・原価・販管費の範囲と、その集計・配分の過程を説明できる形に整理します。
ローカルファイルで集める資料
ローカルファイルは契約書の束ではなく、取引内容と価格算定の根拠を説明する資料です。法定項目は租税特別措置法施行規則22条の10第6項、準備する書類の一般例は国税庁のローカルファイル作成に当たっての例示集で確認できます。
次表は資料回収の分担例です。必要な内容は取引の内容・規模・重要性等で変わり、この表の書類を揃えれば足りるというものではありません。担当部署も各社の体制に合わせて置き換えます。
| 説明する内容 | 集める資料の例 | 回収先の例 |
|---|---|---|
| 取引と契約 | 取引関係図、契約書、請求明細、価格交渉の記録 | 営業・購買・法務 |
| 機能・リスク・使用資産 | 業務分担、実際の活動、在庫や為替等のリスクの負担 | 事業部・海外拠点 |
| 取引に係る損益 | 売上・原価・費用の明細と集計過程、配分基準 | 経理・管理会計 |
| 市場と事業 | 市場環境、事業方針、組織図、関連する他の取引 | 事業部・経営企画 |
| 算定方法と比較 | 選定理由、比較対象の選定過程、差異調整、計算資料 | 税務担当・外部専門家 |
海外側のファイルをそのまま使えるか
日本の法定項目を満たす部分は、取引時または日本法人の申告時に利用可能な最新情報に基づき国外関連者が作成した書類で代用できます。必要に応じて日本語訳を求められることもあります。
国外関連者が作成した相当書類を日本法人のローカルファイルとして使う場合、双方の決算期が異なることで生じる作成時期の差異は調整を要しません。ただし、海外の親会社が資料を保有していることと、日本法人の必要項目を説明できることは別です(移転価格事務運営要領 第2章)。
作成・保存と申告書添付を分ける
同時文書化義務の作成・保存と、調査時の提示・提出は別の手続きです。また、国外関連者との取引を行った法人は、相手の名称・所在地等の事項を記載した書類を確定申告書に添付します。ローカルファイルを作れば申告書への添付情報も済んだ、とは扱いません(租税特別措置法66条の4第25項)。
文書化と事前確認の使い分け
ローカルファイルは価格の根拠を説明する資料、事前確認は算定方法とその具体的内容について税務当局の確認を受ける手続きです。文書を作成しただけで、税務当局が方法を認めたことにはなりません。
事前確認には相互協議を伴うものと、伴わないものがあります。以下は制度の役割の比較です(国税庁「よくあるご質問とその回答」)。
| 対応 | 役割・確認点 |
|---|---|
| ローカルファイル | 取引と算定の根拠を説明。作成しても当局の確認を受けたことにはならない |
| 相互協議を伴う事前確認 | 日本と外国の税務当局の合意に基づき、算定方法等を確認する |
| 相互協議を伴わない事前確認 | 日本の税務当局が確認。外国税務当局からの課税リスクは残る |
事前確認は、事前相談を経て申出書と資料を提出し、審査を受けます。対象取引の流れ、機能・リスク・使用資産、算定方法、重要な前提条件などを説明する資料が必要です。
申出書本体は、郵送を含め、最初の確認対象事業年度の開始の日までに提出先への到達が必要です(日曜・祝日その他の所定休日等に当たる場合はこれらの日の翌日)。対象年度を決める前に、事前相談で資料と日程を確認します。
事前確認の申出書の提出先は、調査課所管法人は納税地の管轄国税局、それ以外は納税地を所轄する税務署です。事前確認の申出書は、郵送の通信日付印の日を提出日とする扱いはありません(国税庁の事前確認Q&A)。
事前確認の申出書の添付資料の一部は、期限内に提出できなかった相当の理由があれば、通常の提出所要日数を踏まえ、45日を超えない範囲で当局が設定する期限まで提出を猶予されることがあります。この猶予で申出書本体の到達期限は延びません。
確認後も、確認を受けた事業年度の対象取引について、確認内容に適合する申告と報告書の提出が必要です。重要な前提条件が変わった場合には、改定の申出を行います。申出をしただけで課税リスクが消える制度ではなく、相互協議での合意成立も保証されません。
決算前の確認手順
最初に作るのは、相手先別の取引一覧と、価格の根拠資料の所在表です。文書をまとめる担当だけでは分からない業務実態があるため、事業部と海外拠点にも確認します。
- 相手先の範囲を決める。関係図に取引時点の資本・支配関係を反映し、新たに関連者となった相手を分けます。
- 取引を集める。商品代金だけでなく、役務・使用料・貸付などの取引も一覧にし、受取と支払を分けて集計します。
- 価格の根拠を集める。契約、交渉、原価、業務分担、損益、比較資料を取引と結び付けます。
- 文書化の扱いと期限を確認する。通常の前期判定と当期判定を区別し、資料の不足と回収先を残します。
- 申告との整合を確認する。国外関連者に関する添付情報と、説明に使った取引・損益の内容を照合します。
換算レートと期末換算は外貨建取引の換算で整理しています。
課税所得を整理した後の法人税・地方法人税の目安は、対象範囲を確認して計算機で試算できます。入力した所得金額を使うツールで、所得金額そのものは計算しません。
法人税・地方法人税の概算を確認する取引時点の関係図、相手先ごとの取引集計、価格の決定過程、取引に係る損益と算定資料などを揃えます。同時文書化の免除と、税制の適用・調査時の書類対応を区別します。
よくある質問
中小企業なら移転価格税制の対象外ですか?
中小企業という理由だけでは対象外になりません。国外関連者との国外関連取引について、受取対価が独立企業間価格に満たない場合や、支払対価がこれを超える場合が対象です。恒久的施設に係る除外や寄附金の別扱いなどは「対象取引」の注を確認してください。
同時文書化が免除なら資料を残さなくてよいですか?
免除は申告期限までの同時文書化義務の話です。移転価格税制そのものの適用は別であり、調査で独立企業間価格の算定に重要と認められる書類の提示・提出を求められる場合があります。
海外親会社が作ったファイルで代用できますか?
日本の法定項目に該当する部分は代用できます。取引時または日本法人の申告時に利用可能な最新情報に基づくことが前提で、必要に応じて日本語訳を求められる場合があります。
ローカルファイルを作れば、算定方法は認められますか?
作成しただけで税務当局の確認を受けたことにはなりません。取引内容と機能などに応じて最も適切な方法を選び、その理由と計算根拠を説明する資料です。算定方法等について当局の確認を受ける制度は事前確認です。
出典
- 財務省「移転価格税制の概要」
- e-Gov法令検索「租税特別措置法66条の4」(国外関連者との取引に係る課税の特例)
- e-Gov法令検索「租税特別措置法施行令39条の12」
- e-Gov法令検索「租税特別措置法施行規則22条の10」
- 国税庁「移転価格事務運営要領」第1章 定義及び基本方針、第2章 国別報告事項、事業概況報告事項及びローカルファイル、第6章 事前確認
- 国税庁「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(ローカルファイル)作成に当たっての例示集」
- 国税庁「よくあるご質問とその回答」(事前確認)
この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する税務相談ではありません。実際の判断は税務署・税理士にご確認ください。
個別の税務・労務相談には応じられません。