時価とは?会計上の定義と算定方法・レベルの確認表
日本基準の時価算定基準でいう時価は、算定日の市場参加者間の秩序ある取引を想定した、資産の売却で受け取る価格・負債の移転で支払う価格です。買った値段や、売却手数料を引いた手取り額とは分けて考えます。
この記事は日本基準の時価算定を扱います。時価をどう求めるかと、帳簿を時価に直す必要があるかは別の問題です。まず対象を確認し、次の表から算定の手順をたどれます。
時価の算定と時価評価の要否を分ける
時価算定の基準は、対象の値段を求めるためのルールです。保有する資産をすべて時価に置き換えるルールではありません。
日本基準の企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」の適用範囲と、決算で確認する事項を分けた表です。
| 対象・場面 | 算定基準との関係 | 先に確認すること |
|---|---|---|
| 金融商品会計基準における金融商品 | 時価算定基準の対象 | 保有区分等に応じた計上額・開示のルール |
| トレーディング目的で保有する棚卸資産 | 時価算定基準の対象 | 棚卸資産会計基準上の保有目的 |
| 通常の販売用在庫・固定資産 | この算定基準の対象ではない | 棚卸資産の評価や固定資産の減損など、個別の基準 |
| 実務対応報告の対象となる暗号資産 | この算定基準の対象ではない | 暗号資産に関する会計処理の定め |
例えば、市場価格のない株式等には、金融商品会計基準で時価評価しない取扱いがあります。「金融商品だから、見積額で帳簿を書き換える」とは判断しません。算定と評価要否の区別は、時価算定基準の「範囲」の結論の背景でも説明されています。
簿価は帳簿に記録された価額です。両者に差があっても、その差を損益にするか、別の表示にするか、時価の開示だけをするかは、対象の会計処理・開示の基準で確かめます。
「今売ったらいくら」を会計上の定義に直す
日本基準の時価算定基準では、実際に売る予定がなくても、算定日の市場参加者間の秩序ある取引による出口価格を見積もります。自社だけの保有方針や希望する売値を、そのまま時価にはしません。
市場参加者とは、主要な市場又は最も有利な市場における、互いに独立して関連当事者ではなく、必要な知識・取引能力・自発的な取引意思のある買手と売手です。秩序ある取引は、通常かつ慣習的な市場活動ができるよう、算定日前の一定期間、市場にさらされていることを前提とし、強制清算や投売りは該当しません。
関連当事者が市場参加者に含まれないことと、その取引価格を使えないことは別です。市場条件で行われた証拠がある関連当事者との取引価格は、算定のインプットに利用できます。
負債は、返済して消滅させるのでなく、市場参加者へ移転し、譲受人が履行する仮定で考えます。不履行リスクは移転の前後で同一と仮定して反映し、自社の信用リスクだけに限定しません。
負債の対象別の計算は適用指針の「負債又は払込資本を増加させる金融商品の時価」で確認します。
主要な市場と、控除する費用を確認する
使うのは企業が算定日に利用できる主要な市場で、主要な市場がない場合は、算定日に利用できる最も有利な市場です。主要な市場は、対象の取引数量・頻度が最も大きい市場であり、受取額が最も高い市場という意味ではありません。
次の表は、企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」による、算定日に企業が利用できる市場を前提とした確認表です。市場参加者が考慮する所在地や売却制約など、資産・負債の特性も反映します。
| 確認項目 | 扱い |
|---|---|
| 利用できる主要な市場がある | 主要な市場を使う |
| 主要な市場がない | 算定日に利用できる最も有利な市場を使う |
| 最も有利な市場の判定 | 取得・売却の付随費用を考慮して比べる |
| 時価として使う市場の価格 | 取得・売却の付随費用は調整しない |
| 所在地が資産の特性である場合 | 現在地から市場までの輸送費用を調整する |
通常取引している市場は、反証できる場合を除き、主要な市場又は最も有利な市場と推定されます。より高い価格が別の市場にあるという理由だけで、利用できる主要な市場を飛ばすことはしません。
相場価格と保有数量を掛ける設例
活発な市場で取引される金融商品は、相場価格の調整が必要な場合を除き、相場価格に保有数量を掛けて時価を算定します。大量保有を一括売却した場合の価格低下を理由とする調整はしません。
架空の国内円建て上場株式の設例です。算定日に企業が利用できる活発な主要市場の同一株式の無調整相場を使い、相場を調整すべき事情はないものとします。
| 設例の項目 | 設例の値・計算 |
|---|---|
| 算定日の相場単価 | 1株当たり1,200円 |
| 同じ算定日の保有株数 | 100株 |
| 算定日の保有分の時価 | 1,200円 × 100株 = 120,000円 |
この設例の時価から、売却に要する手数料は引きません。費用や税を差し引いて実際に入金される額と、会計上の時価は別です。評価差額の仕訳は、保有区分などの会計処理を別に確かめて決めます。
活発な市場の相場も、算定日時点の時価を表さない場合など、適用指針で認められる事情があれば調整します。相場価格が載っていれば、どの価格でも数量を掛けてよいという意味ではありません。
評価技法はデータに合う方法を使う
時価の算定には、状況に応じて十分なデータが利用できる評価技法を使います。インプットは、市場参加者が時価の算定に使う仮定を指し、無調整で時価に使う相場価格も含みます。関連性のある市場データから観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にします。
次は評価技法のアプローチの例です。好みや算定結果の大小で選ぶ区分ではなく、対象と利用できるデータから適切性を検討します。
| アプローチ | 何を基礎にするか |
|---|---|
| マーケット | 同一・類似の資産や負債の市場取引価格等 |
| インカム | 将来の利益・キャッシュフロー等に対する現在の市場の期待を、現在の価値に割り戻して示す |
| コスト | 資産の働きである用役能力を、再調達するために現在必要な金額 |
複数の評価技法を使う場合は、それぞれの結果による合理的な範囲を考慮して、時価を最もよく表す結果を決めます。異なる方法で出た額を、単純に平均すればよいわけではありません。
評価技法は毎期継続して適用しますが、技法やその適用方法を変更する場合は、会計上の見積りの変更として処理します。複数の技法の重み付けを変える場合も含み、変更の旨と理由は年度末の財務諸表に注記します。新しい情報が使えるようになった、市場の状況が変わった、といった変更の事情も整理します。
インプットのレベルと時価全体の分類
評価技法の名前と、使うインプットのレベルは別の区分です。
日本基準の時価算定に用いるインプットの優先順位を示します。算定日に入手できる情報を対象に、関連性と観察可能性を確認します。
| インプットの区分 | 内容 |
|---|---|
| レベル1のインプット | 活発な市場における、同一の資産・負債の無調整相場価格。最も優先する |
| レベル2のインプット | 直接又は間接に観察可能で、上の無調整相場に当たらないインプット |
| レベル3のインプット | 観察できないインプット。関連性のある観察可能なものを入手できない場合に使う |
レベル2のインプットでは、契約期間のある対象について、そのほぼ全体を通じた観察可能性を確認します。指針で認められた調整をレベル1のインプットに行った場合、調整後の時価はレベル2又はレベル3に分類します。
観察できないインプットにも、市場参加者が用いる仮定を反映します。入手できる最良の情報を使い、自社データを使う場合も、合理的に入手できる情報から他の市場参加者との差や自社固有の特性が分かれば調整します。
時価全体の分類は、算定に重要な影響を与えるインプットで判断します。異なるレベルの重要なインプットが複数ある場合は、その中で優先順位が最も低いレベルに時価を分類します。
例えば、観察可能な価格を出発点にしても、重要な調整に観察できないインプットを使えば、時価の分類が変わる可能性があります。「市場価格を一部使った」「金融機関の価格だから」というだけで分類は決まりません。
受け取った価格と算定根拠を照合する
通常の市場活動に比べて取引数量にも頻度にも著しい低下がない場合は、会計基準に沿った算定と判断した第三者価格を時価算定に使えます。受領した価格のほか、算定日・対象・方法が対応しているかを確認します。
次は、通常の第三者価格の利用を検討するための確認表です。社内の確認資料の例であり、決まった様式の提出義務を示すものではありません。
| 資料・確認欄 | 照合する内容 |
|---|---|
| 残高明細・価格回答書 | 同じ対象・算定日・通貨・数量単位か |
| 市場・価格の出所 | 利用できる市場か。相場の日時、取引の活発さ、参考価格か取引可能価格か |
| 算定方法の説明 | 技法、用いた市場データ、調整の内容、市場参加者の仮定との対応 |
| 比較・推移の資料 | 自社推定値、他者の価格、類似対象、過去の推移との整合性 |
| 前期との比較 | 技法・データ・調整を変えた場合の理由 |
第三者価格の検討手続は、適用指針の「第三者から入手した相場価格の利用」の結論の背景に例示されています。状況に応じて選ぶもので、すべての手続を毎回実施するという説明ではありません。
次の表は、通常は観察可能な市場が存在する資産・負債について、取引数量又は頻度が通常の市場活動に比べ著しく低下したと判断した場合の確認です。取引の減少だけで、相場が時価を表さないと判断するものではありません。
| 状況 | 確認・扱い |
|---|---|
| 第三者から相場価格を受領 | 現在の秩序ある取引を反映する情報か、市場参加者の仮定を反映した評価技法によるかを確認 |
| 価格提供者と実際に取引可能な価格 | 参考価格より高い程度で時価算定に考慮する |
| 自社が当事者でない取引で、秩序ある取引かの判断情報が不足 | 時価を表さない可能性を踏まえ、取引価格を考慮する |
| 自社が取引当事者である | 秩序ある取引かを判断する十分な情報を有するとみなす |
| 時価を表さないと判断した価格を算定の基礎に使用 | 市場参加者が不確実性の対価として求めるリスク・プレミアムを調整する |
主な例外として、一定の非金融企業等の特定のデリバティブには、条件を満たす第三者価格を時価とみなす取扱いがあります。投資信託にも個別の取扱いがあります。適用時は適用指針の「その他の取扱い」で対象・要件・適用時期を確認します。
会計の時価を税務評価へそのまま移さない
相続・遺贈・贈与で取得した財産は、相続税法22条により、同章に特別の定めがあるものを除き、財産取得時の時価で評価します。会計の決算日を基準にした時価算定と、同じ条件ではありません。
税務に使う場合は、取得原因・評価時点・財産の種類に応じた定めを別に確認します。ここで説明した会計上の評価技法を、そのまま相続税の財産別評価方法として使うことはしません。
固定資産の評価損と税務の扱いは減損損失の解説、投資信託の単価と自分の保有額の読み分けは基準価額の計算で扱っています。
決算で確認する順番
対象の会計処理・開示の要否を確かめ、時価算定の対象範囲、市場、技法、インプットの順に根拠を残します。時価の算定額と、帳簿への計上額・税務の評価額・売却後の手取り額は分けて照合します。
比率を別に検算するときは、元になる価額の基準日と定義をそろえてから計算します。次のツールは割合の計算用で、時価そのものを査定するものではありません。
割合・増減率を計算するよくある質問
時価が分かったら、帳簿もその額に直しますか?
算定額が分かっただけでは、帳簿を直すかは決まりません。時価評価の要否と計上・開示の方法は、対象に適用される会計基準で確認します。
市場価格がなければ、時価は求められませんか?
市場価格がないことだけで算定不能とはしません。時価算定基準の対象では、十分なデータが使える評価技法と市場参加者の仮定により算定を検討します。ただし、市場価格のない株式等の時価評価の要否は、金融商品会計基準の取扱いと分けて確認します。
売却手数料を引いた額が時価ですか?
この時価算定基準では、取得・売却の付随費用を市場の価格から調整しません。ただし、所在地が資産の特性である場合の市場までの輸送費用は調整します。
評価技法を選べば、時価のレベルも決まりますか?
時価のレベルは技法の名前ではなく、算定に重要な影響を与えるインプットで決まります。異なるレベルの重要なインプットが複数あれば、その中で優先順位が最も低いレベルに分類します。
出典
- 企業会計基準委員会「企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準」:市場価格のない株式等の取扱い
- 企業会計基準委員会「企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準」:範囲と保有目的
- 企業会計基準委員会「企業会計基準第30号 時価の算定に関する会計基準」:範囲、定義、評価技法、インプット、結論の背景
- 企業会計基準委員会「企業会計基準適用指針第31号 時価の算定に関する会計基準の適用指針」:算定の前提、評価技法、第三者価格等
- e-Gov法令検索「相続税法」22条:相続・遺贈・贈与の財産評価
会計基準と適用指針の範囲で時価の算定を説明しています。株式の金額は計算方法を示す架空の設例です。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は公認会計士・税理士などにご確認ください。個別の税務・労務相談には応じられません。