実質的支配者とは|確認基準・定款認証の申告・リスト制度の書類表
実質的支配者は、法人の経営を実質的に支配できる関係にある者です。社長や筆頭株主という肩書だけで決まらず、議決権、配当・分配を受ける権利、事業への影響力などを、法人の区分に応じて確認します。
経理担当者が書類を用意するときは、金融機関等の取引時確認、定款認証時の申告、法務局のリスト制度を分けると、対象者や添付書面を取り違えずに進められます。このページは、そのための確認表です。
手続きごとの対象と提出先
同じ実質的支配者の情報でも、提出先と確認する範囲は異なります。まず依頼された手続きに合う書類を選びます。
| 手続き | 対象・確認する内容 | 提出先・成果物 |
|---|---|---|
| 金融機関等の取引時確認 | 金融機関等から求められた実質的支配者の本人特定事項を申告 | 取引先の金融機関等に申告。指定書類も確認する |
| 設立時の定款認証 | 株式会社・一般社団法人・一般財団法人の、成立時に実質的支配者となるべき者等を申告 | 定款認証を依頼する公証人 |
| 実質的支配者リスト制度 | 資本多数決法人である内国株式会社・特例有限会社が、議決権保有基準の対象者について申し出る | 本店所在地の管轄法務局。登記官の確認後、問題がなければ認証文付きの写しを受け取る |
取引時確認の根拠は犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下、犯収法)4条です。通常の実質的支配者確認は、法人の代表者等から申告を受ける方法によります。
取引時確認には、厳格な確認を要する取引、確認記録の作成・保存等の条件を満たす既確認取引、国等の特例があります。取引を行う担当者の本人確認も別に行うため、実質的支配者の申告だけで手続きが終わるとは限りません。
金融機関から求められた確認票は、その指定に沿って用意します。法律の実質的支配者の範囲と、金融機関が追加で確認する経営者・取引権限者の範囲を混同しないことがポイントです。
法人の区分と確認基準
株式会社などの資本多数決法人と、それ以外の法人で、確認する権利が違います。資本多数決法人は、議決権が株式の保有数や割合に応じて与えられる法人で、定款の定めによってこの形になる法人は除かれます。
株式会社・投資法人・特定目的会社などが資本多数決法人に当たり、合同会社などの持分会社、一般社団法人・一般財団法人などはそれ以外の区分です。根拠は犯収法施行規則11条です。
次は犯収法施行規則の確認基準です。自然人は個人を指し、国等及びその子会社の法定のみなし区分も含みます。議決権・配当等の割合と除外条件は、この表の後で説明します。
| 法人の区分 | 先に確認する者 | 該当者がいない場合 |
|---|---|---|
| 資本多数決法人 | 議決権保有基準に該当する者 | 出資・融資・取引その他の関係で支配的影響力を有する者。それもいなければ法人を代表し業務を執行する者 |
| 資本多数決法人以外 | 収益配当・財産分配を受ける権利の基準に該当する者と、出資・融資・取引その他の関係で支配的影響力を有する者の両方 | 両方とも該当者がいなければ、法人を代表し業務を執行する者 |
資本多数決法人は議決権を先に見る
資本多数決法人の議決権は直接保有と支配法人経由を合計し、50%超の自然人がいればその者、いなければ25%超の自然人を確認しますが、支配意思又は能力がないことが明らかな者は除きます(自然人とみなされる者を含む)。
過半数の議決権保有者が支配意思又は能力を欠く場合、四分の一超の保有者へ繰り下げる扱いにはしません。
「超」は、その割合ちょうどを含みません。半数ちょうどの保有者についても、半数を超える者として扱わず、四分の一超の基準と除外条件を確認します。
株式数と議決権数が一致するとは限りません。法令上行使できない議決権を含める一方、役員等(会計監査人を除く)の選任と定款変更の議案の全部について行使できない株式の議決権は除かれます。
例えば、普通株式だけを発行する株式会社で、社長個人が議決権を全部持つなら、その社長の支配意思・能力を確認します。代表者の肩書ではなく、議決権の保有関係から確認する例です。
資本多数決法人以外は権利と影響力を併せて見る
資本多数決法人以外の法人では、事業の収益又は財産の総額の四分の一超の配当・分配権を持つ自然人(法定のみなしを含む)が対象ですが、明らかに支配意思又は能力がない者と、他の自然人が二分の一超の権利を持つ場合の者は除きます。
配当・分配権の対象者がいても、支配的影響力の確認は省略しません。
合同会社の出資額だけを見て、株式会社と同じ議決権判定をする扱いではありません。分配の定めと事業への影響力を確認します。社員・代表社員の役割や定款の損益分配は合同会社の記事にまとめています。
個人までたどらない法定のみなし区分
実質的支配者は個人を確認するのが基本ですが、国、地方公共団体、人格のない社団・財団、上場会社等及びその子会社などには自然人とみなされる区分があります。一般の非上場会社が株主というだけで、そこで確認を終えることはできません。
具体的な範囲は法務省「実質的支配者リスト制度Q&A」でも確認できます。法人株主がいるときは、まずみなし区分に当たるかを区別します。
直接保有・間接保有の確認
資本多数決法人の議決権判定は、本人と支配法人の各段階の割合を掛けず、本人の直接保有割合に支配法人が対象法人に持つ議決権割合を足します。
資本多数決法人の議決権判定でいう支配法人には、本人が議決権の過半数を持つ法人のほか、本人と一つ又は複数の支配法人、又は一つ若しくは複数の支配法人だけで、合計で議決権の過半数を持つ法人も含まれます。
多段階の保有や複数の保有経路があるときは、関係図と各社の議決権の資料を対応づけます。
持分会社への出資額の割合を、そのまま支配法人を判定する議決権割合に置き換えないようにします。
定款認証時に申告すること
株式会社・一般社団法人・一般財団法人の定款認証では、法人成立時に実質的支配者となるべき者を申告します。根拠は現行の公証人法施行規則46条です。
| 事項 | 申告する内容 |
|---|---|
| 法人成立時の対象者 | 実質的支配者となるべき者の氏名・住居・生年月日 |
| 指定された者への該当性 | 暴力団員、国際テロリスト、大量破壊兵器関連計画等関係者に該当するか否か |
対象者がこれらに該当し、又は該当するおそれがあると公証人が認めるときは、嘱託人又は実質的支配者となるべき者に必要な説明が求められます。具体的な申告書の様式や本人確認資料は、依頼する公証人の案内に合わせて準備します。
定款案を確認する際は、設立後の保有関係の予定と申告する対象者が合っているかを照合します。定款に書く事項や認証の要否は定款の記事で確認できます。
リスト制度の対象と申出手順
法務局のリスト制度は、取引時確認でいう実質的支配者の全類型を扱う制度ではありません。利用できるのは資本多数決法人である内国株式会社・特例有限会社で、対象者は議決権保有基準に該当する者です。
自然人とみなされる者も含まれますが、支配的影響力や代表・業務執行の基準だけで該当する者はリストの対象外です。持分会社、一般社団法人・一般財団法人、その他の資本多数決法人、外国会社も利用対象に含まれません。
会社の代表者又は代理人が、本店所在地を管轄する法務局へ申出書、実質的支配者情報一覧、添付書面を提出します。登記官が申出内容を確認し、問題がなければ保管して認証文付きの写しを交付します。制度の手数料は無料です。初回の郵送申出では、本店所在地又は申出人・代表者欄の住所を送付先に記載して切手を貼った返信用封筒を添付します。
| 作業 | 確認すること |
|---|---|
| 対象を確認 | 対象法人か、議決権保有基準の対象者がいるか、自然人みなしに当たるかを確認 |
| 情報一覧を作成 | 直接保有・間接保有に合うひな形を選び、裏付けの書面と記載を照合 |
| 申出書を作成 | 会社法人等番号などを記入。設立登記申請と同時の申出なら番号の記載は不要 |
| 書面を添付し提出 | 下の添付書面表で準備し、本店所在地の管轄法務局へ提出 |
| 写しを受け取る | 交付された認証文付きの写しを、指定された金融機関等へ提出 |
様式と直接・間接保有の記載例は法務省の「手続の流れ・様式」から確認できます。書面の写しを受け取ることと、金融機関等の審査が完了することは別です。
オンライン申出には登記申請との同時性が必要
オンラインによる登記申請と同時に行う場合は、リストの申出もオンラインでできます。リストだけの単独オンライン申出はできず、写しの受取は郵送又は窓口です。
申出書情報と添付書面情報の電子署名・電子証明書などの条件は、法務省のオンライン申出の案内で確認します。オンライン登記と同時のリスト申出で、添付書面が電磁的記録で作成されていない場合は、書面に申請番号を記載するか書面により提出した添付情報の内訳表を添えて、提出又は送付できます。
リスト制度の添付書面
内容を証する書面、申出会社の代表者の本人確認書面、代理権限の書面を分けます。実質的支配者本人の確認書面が任意添付でも、代表者の本人確認まで不要になるわけではありません。
保管・写し交付の申出では、次の表から各行の条件を満たすいずれかを添付します。
| 書面 | 添付の要否・範囲 |
|---|---|
| 内容:株主名簿 | 申出日における申出会社の株主名簿の写し |
| 内容:公証人証明 | 申告受理及び認証証明書。設立後最初の事業年度を経過していない場合に限る |
| 内容:法人税別表二 | 申出日の属する事業年度の直前事業年度に係る明細書の写し |
次はリストの保管及び写しの交付を初めて申し出る場合の、その他の添付書面です。申出会社の代表者の本人確認と、実質的支配者本人の任意確認を分けています。
| 書面 | 添付の要否・範囲 |
|---|---|
| 不一致の理由 | リストと内容を証する書面の記載が合致しないときに必要。定款、代表者作成の証明書等で理由を明らかにする |
| 代表者の本人確認 | 申出書又は委任状に代表者印が押印されている場合を除き、代表者の氏名・住所を確認できる書面が必要 |
| 代理権限 | 代理人による申出の場合に必要。委任状など |
| 支配者本人の確認 | 任意。自然人の例:国内の公務員が職務上作成した、本人の氏名・住居と一致する証明書の原本 |
| 支配法人の確認 | 間接保有の場合に任意添付。例:申出日現在の株主名簿の写し。不一致なら代表者作成の理由書面、外国会社の書面には訳文も添付 |
間接保有の任意添付書面に公証人の証明書を使う場合も、支配法人の設立後最初の事業年度を経過していないことが条件です。法人税別表二の明細書の写しは、申出日の属する事業年度の直前事業年度のものを用います。
代表者の本人確認に免許証等の写しを用いる場合は、対象書類・表裏の範囲・原本と相違ない旨の記載等も公式案内で確認します。一方、株主名簿等の写しに代表者が原本と相違ない旨を記載する必要はありません。
添付書面の区分と具体例は法務省の「添付書面について」、株主名簿の扱いは法務省Q&Aの「添付書面について」で確認できます。
提出前の照合と社内管理の例
株主名簿をそのまま転記せず、議決権と裏付け資料を対応づけます。次は経理担当者が資料を取りまとめる作業例です。提出先が求める法定様式に代わるものではありません。
| 手元の状況 | 照合するもの・次の作業 |
|---|---|
| 法人が株主になっている | 自然人みなしの区分と、支配法人の議決権の保有関係を確認。関係図と資料を対応づける |
| 株式数と議決権の割合が違う | 種類株式や定款を確認し、リストと添付書面の不一致の理由を明らかにする |
| 増資後の登記がまだ済んでいない | 登記情報とリストの整合を確認。登記未了の上申書だけでは申出できない |
| 保管済みリストの再利用 | 内容と提出先の指定を確認。商号・本店・作成者である代表者が変わっていれば、単なる再交付はできない |
| 税務の同族会社判定の資料がある | 資料の年度と内容を確認。税務の判定結果をそのまま実質的支配者の確認結果に置き換えない |
登記情報との不一致は法務省Q&Aの申出手続・添付書面の項目、再交付できない変更は同Q&Aの再交付の項目に説明があります。再交付は最新の申出に基づく写しが対象です。
社内の控えには、提出先、確認した時点、使った株主名簿等、提出した申告書・リスト、受取済みの写しをまとめると、後日の照会に対応しやすくなります。これは社内管理の例であり、独自の一律保存期限を定めるものではありません。
同族会社に関する税務の判定は同族会社の記事で確認します。会社の課税所得から税額を試算する場合の関連ツールは次のとおりで、実質的支配者の該当性を判定するものではありません。
法人税・地方法人税の簡易計算へ- 依頼された手続きを先に特定し、その対象・様式に合わせる。
- 法人の区分を分け、保有関係と除外条件を確認する。
- リストの内容を証する資料と、代表者の本人確認・代理権限の資料を分ける。
新しい情報把握制度の法案について
新しい情報把握制度の法案を、施行済みの手続きと混同しないようにします。2026年10月30日確認時点の衆議院の審議経過では、法人等の実質的支配者に係る情報の把握等に関する法律案は2026年10月23日受理と記載され、公布年月日・法律番号欄は空欄です。
この記事は、上記の現行の取引時確認、定款認証、リスト制度を対象としています。新制度については成立・公布・施行日と対象・様式を確認してから、必要な手続きを区別して反映します。
よくある質問
社長なら実質的支配者ですか?
社長という肩書だけでは決まりません。資本多数決法人は議決権保有基準を先に確認し、該当者がいなければ支配的影響力、それもなければ法人を代表し業務を執行する者を確認します。資本多数決法人以外は配当・分配権と支配的影響力を併せて確認します。
株主が法人なら、その法人名を書けばよいですか?
法人株主というだけでは判断できません。国等・上場会社等及びその子会社の自然人みなしに当たるかを確認し、それ以外は個人への支配関係をたどります。資本多数決法人の間接保有では、支配法人に当たるかも確認します。
合同会社も法務局のリスト制度を使えますか?
合同会社はリスト制度の対象外です。ただし、金融機関等の取引時確認で実質的支配者の申告が不要という意味ではありません。資本多数決法人以外の基準で確認します。
株主名簿の写しに原本相違ない旨を書く必要がありますか?
リスト制度に添付する株主名簿等の写しには、その記載は必要ありません。申出会社の代表者の本人確認に使う免許証等の写しの扱いとは異なるため、書面ごとに確認します。
リストの申出だけをオンラインでできますか?
単独ではできません。オンラインによる登記申請と同時にする場合にオンライン申出ができ、写しの受取は郵送又は窓口です。写しがオンラインで交付される制度ではありません。
出典
制度確認日:2026年10月30日。取引時確認、定款認証、リスト制度を手続き別に整理しています。
- e-Gov法令検索「犯罪による収益の移転防止に関する法律4条」(取引時確認)
- e-Gov法令検索「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則11条」(実質的支配者・直接保有と間接保有)
- e-Gov法令検索「公証人法施行規則46条」(定款認証時の申告)
- 法務省「実質的支配者リスト制度」(対象法人・対象者・手順・添付書面・様式)
- 法務省「実質的支配者リスト制度Q&A」(株主名簿・登記情報の整合・再交付)
- 法務省「オンラインによる実質的支配者情報一覧の保管及び写しの交付の申出について」
- 三菱UFJ銀行「法人のお客さまの「実質的支配者」確認方法」(金融機関の確認票の例)
- 衆議院「法人等の実質的支配者に係る情報の把握等に関する法律案・審議経過」
この記事は一般的な情報提供であり、個別の税務相談ではありません。具体的な申告や判断は、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。実質的支配者の確認・申告書類は、提出先の金融機関、公証人、管轄法務局等にご確認ください。