化学物質管理者とは|選任・資格・職務の確認表
化学物質管理者は、リスクアセスメント対象物を製造・取り扱う事業場で、化学物質の管理を担う担当者です(対象外のケースは下の表)。選任の要否は従業員数ではなく、対象物質と事業場の業務で確認します。
選任した後は、仕事を管理する権限を与え、氏名を関係労働者へ周知します。
選任が必要な事業場と対象外のケース
最初に、製品がリスクアセスメント対象物か、どの事業場で製造・取扱い・表示等の管理をしているかを確認します。SDSは安全データシートのことで、製品の危険有害性や取扱い上の情報を伝える資料です。
次の表は、リスクアセスメント対象物に関する化学物質管理者の選任範囲です。製造・取扱いと、ラベル・SDS作成等を行う場所が異なる場合は、役割を分けて確認します。
| 事業場・業務の実態 | 選任の扱い |
|---|---|
| 対象物を製造する工場、取り扱う店舗・作業場 | 事業場ごとに選任(対象外は表の下の注)。労働者数による裾切りはない |
| 対象物の工程が自動化・密閉化され、ばく露のおそれがない | 取扱い作業が存在する以上、選任対象 |
| 対象物の製造・取扱いはないが、ラベル・SDSを作成・管理する | その業務を行う事業場でも選任する |
| 直接取扱いも表示等の管理実態もなく、営業窓口だけを担う | その営業窓口では選任義務なし。本社で一括管理するなら本社の管理者が支社分も管理 |
製造・取扱いの対象からは、主として一般消費者の生活用の製品だけの取扱い、容器を開閉しない密閉製品の保管だけ、応急対策のためだけの臨時取扱いを除きます。譲渡提供に係る表示等の管理は別に確認します。
「少量だから」「工場ではないから」という理由だけでは判定できません。製品名と使用部署を整理し、製品に添付されたSDSや供給者への照会で対象物かを確認するところから始めます。
建設工事の請負人について、出張作業先に位置付けられる現場まで選任を求める趣旨ではありません。工場・店社等の事業場単位で見る扱いです。根拠は厚労省の施行通達・第4の1です。
製造と取扱いで異なる資格・講習の要件
製造事業場以外でも、職務を担当するための能力は必要です。「国家資格が要件にない」と「経験や知識を確認せず選べる」は違います。
選任する人は事業場内の労働者から選び、対象物を扱う事業場の区分で資格要件を確認します。講習時間は科目免除がない場合です。製造事業場の講習修了に代わる同等以上の能力や、所定講習の告示による科目免除の該当性は、候補者の資格証等を添えて講習実施機関・労働局等に確認します。
| 区分 | 選任できる人 | 講習の位置付け |
|---|---|---|
| リスクアセスメント対象物を製造する事業場 | 厚生労働大臣が定める講習の修了者、又は同等以上の能力を有すると認められる者 | 製造事業場向けの専門的講習は、講義9時間以上・実習3時間以上 |
| 製造事業場以外の事業場 | 上記の人のほか、化学物質管理の職務に必要な能力を有すると認められる者 | 製造事業場以外では、準ずる講習の学科6時間の受講を推奨。受講を選任の必須条件とはしない |
製造事業場以外の「必要な能力を有すると認められる者」には、化学物質管理者の担当業務の経験がある人が含まれます。適切に業務を行うため、講習等の受講が望ましいとされています。
講習の申込み前に、自社の作業が製造に当たるかを確認すると、区分の取り違えを防げます。次の例は厚労省Q&Aの化学物質管理者の項によります。
リスクアセスメント対象物について、化学物質管理者の資格要件を判断する際の「製造」と「取扱い」の例です。製造に当たらなくても、取扱い事業場としての選任義務まで消えるわけではありません。
| 作業の例 | 区分の考え方 |
|---|---|
| 譲渡・提供を目的とし、組成の変更を伴う混合・精製を行う | 製造事業場に該当 |
| 小分け・破砕を行う | 取扱いに該当 |
| 事業場内で混合・調合し、そのまま消費する | 製造事業場には該当しない |
| 製造・取扱いをせず、ラベル・SDSを作成する | 製造事業場ではないが、その作成業務に係る選任は必要 |
職務は実作業ではなく管理を中心に分担する
化学物質管理者が実作業を抱え込む必要はありません。従前の担当者が作業を続け、化学物質管理者がその業務を管理する体制も取れます。選任した事業者は、職務を遂行できる権限を与えます。
次は、製造・取扱い事業場の化学物質管理者が管理する事項です。表示等とそれに係る教育管理を別事業場で行う場合、その部分は別事業場の管理者が管理します。製造・取扱いのない譲渡提供事業場の職務は、他の事業場で行う部分を除き、表示等とその教育管理です。
| 管理する事項 | 社内で分担を決める例 |
|---|---|
| ラベル表示・文書交付・SDS等の通知 | 作成担当、確認担当、製品変更時の連絡先を決める |
| リスクアセスメントの実施 | 作業内容を現場から集め、評価の担当と実施状況を確認する |
| ばく露低減等の措置の内容・実施 | 評価結果に対応する対策と、実施の担当を決める |
| 対象物を原因とする労働災害への対応 | 応急措置等の訓練内容や計画も管理する |
| リスクアセスメント結果の記録・保存・周知 | 記録の置き場所と、関係者への伝達方法を決める |
| 措置等の記録・保存、所定事項の周知 | 周知対象は措置状況と意見聴取状況。ばく露状況等の記録と区別する |
| 表示等・評価・対策・災害対応に必要な労働者教育 | 教育計画等を管理する。外部教育機関の利用も可能 |
この表の右欄は社内分担の例で、法定の様式ではありません。製品・工程・管理部署に合わせ、担当者と管理者がどの記録を見て進捗を確かめるかまで決めておくと、役割を引き継ぎやすくなります。
選任後は権限付与と氏名の周知まで行う
化学物質管理者は、選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任します。これは労働基準監督署への提出期限ではなく、社内での選任期限です。休日の前後にかかる場合も後回しにせず、余裕を持って手配します。
化学物質管理者の選任について、労働基準監督署への届出は不要です。ただし、関係労働者への氏名の周知は必要です。見やすい場所への掲示のほか、氏名が分かる腕章・帽子、社内イントラネット等による周知方法があります。
社内の管理メモには、事業場名、担当する業務、候補者の能力を確認した資料、選任日、与えた権限、氏名の周知方法を残す運用が考えられます。このメモは会社側の管理例であり、法定の選任届ではありません。
兼務・外部委託と他の役割を取り違えない
他の職務との兼務は、化学物質管理者の職務の遂行に影響しない範囲で可能です。管理者には業務を管理できる権限を与え、兼務で管理がおろそかにならないよう担当範囲を確認します。
外部専門家に任せられるのは、化学物質管理者の管理の下で行う具体的実務の一部です。専門家に評価作業を依頼しても、社内の管理者が業務を管理する体制は残します。複数の管理者で分担するときは、業務の抜けがないよう連携します。
衛生管理者や有機溶剤作業主任者とは役割が異なります。化学物質管理者を選任しただけで、それらの役職の選任を済ませたことにはなりません。人数・業種に応じた体制は、安全衛生推進者等の解説と分けて確認します。
化学物質管理者を選任した事業者が、リスクアセスメント結果に基づく措置として保護具を使用させるときは、保護具着用管理責任者も選任します。その選任要件と職務は労働安全衛生規則の保護具着用管理責任者の規定で確認できます。
総務・経理で体制整備を進める際は、化学物質管理を現場任せにせず、製品を購入する部署、作業を行う部署、教育の手配をする部署の連絡先をつなぐと、製品変更時の確認がしやすくなります。
関連する労務費の確認:法定福利費を計算するよくある質問
少人数の事業場でも選任が必要ですか?
リスクアセスメント対象物を製造・取り扱う事業場では、労働者数による裾切りはありません。一般消費者向け製品だけの取扱いや、容器を開閉しない密閉製品の保管だけ、応急対策のためだけの臨時取扱いは除外されます。表示等を管理する事業場の扱いは、製造・取扱いとは別に確認します。
製造・取扱いで講習の位置付けは違いますか?
違います。リスクアセスメント対象物の製造事業場には、所定講習の修了又は同等以上の能力という要件があります。製造事業場以外では、講習の受講自体を選任の必須条件とはしていません。職務に必要な能力は求められます。
SDSを作成する本社にも選任が必要ですか?
リスクアセスメント対象物のラベル・SDSを本社で作成・管理するなら、本社側にも選任が必要です。製造工場と別の事業場で表示等を管理する場合は、それぞれの管理者の担当を分けます。直接取扱いも表示等の管理もない営業窓口だけの拠点は、同じ扱いではありません。
選任したら労働基準監督署へ届け出ますか?
化学物質管理者の選任については届出不要です。ただし、氏名を関係労働者に周知する必要があります。掲示・腕章・社内イントラネット等を使い、関係者が氏名を確認できるようにします。
管理者が教育の講師も務める必要がありますか?
化学物質管理者自身が講師を務める必要はありません。管理者は必要な教育の計画等を管理し、外部の教育機関を利用することもできます。施行前に必要な教育を実施済みの場合に、施行後に改めて同じ教育を求める趣旨でもありません。
出典
- 厚生労働省「労働安全衛生規則」第十二条の五・第十二条の六・第五百七十七条の二:選任、資格区分、権限付与、氏名周知、保護具の管理、記録と周知の範囲。
- 厚生労働省「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について」第4の1:対象外の扱い、兼務、外部専門家、教育の管理。
- 厚生労働省「化学物質による労働災害防止のための新たな規制に関するQ&A」化学物質管理者の選任義務化:製造と取扱いの区分、ラベル・SDS作成拠点、届出。
- 厚生労働省「化学物質の管理に関する講習」の告示:講習科目、時間、科目免除。
- 東京労働局「化学物質管理者の選任について」:講習の区分と時間。
この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する助言ではありません。対象物質、事業場の範囲、選任資格に疑問がある場合は所轄の労働基準監督署・労働局等へご確認ください。個別の税務・労務相談には応じられません。