安全衛生推進者 — 常時10人で選任義務が発生する。「50人未満だから何も要らない」は誤り
結論から言うと、安全衛生管理の義務が始まるのは50人からではなく、10人からです。労働安全衛生規則12条の2が、安全衛生推進者(業種によっては衛生推進者)を選任すべき事業場を「常時十人以上五十人未満の労働者を使用する事業場」と定めています。従業員が10人になった時点で、選任義務が発生します。
この義務は、実務でいちばん見落とされているもののひとつです。理由ははっきりしていて、衛生管理者や産業医と違って、労働基準監督署に選任報告を出す手続きが無いからです。届出がないので、外から指摘される機会がありません。会社の側に「やっていない」という自覚が生まれないまま、何年も過ぎます。
もうひとつ、あまり知られていない事実があります。この選任義務には罰則がありません。労働安全衛生法120条1号は、総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医の選任義務を罰金の対象として名指ししていますが、安全衛生推進者の根拠である12条の2だけが、その列挙に入っていません。とはいえ罰則が無いことと義務が無いことは別です。この記事では、誰を・いつまでに・どういう資格の人から選ぶのか、業種で名称がどう変わるのか、そして50人に達したときに何が積み上がるのかを、条文の順に整理します。
選任義務の範囲は「常時10人以上50人未満」。会社単位ではなく事業場単位
根拠は労働安全衛生法12条の2と、それを受けた労働安全衛生規則12条の2の二段構えです。まず法律の側が、対象になる事業場の規模を厚生労働省令に委ねています。
事業者は、第十一条第一項の事業場及び前条第一項の事業場以外の事業場で、厚生労働省令で定める規模のものごとに、厚生労働省令で定めるところにより、安全衛生推進者(第十一条第一項の政令で定める業種以外の業種の事業場にあつては、衛生推進者)を選任し、その者に第十条第一項各号の業務(第二十五条の二第二項の規定により技術的事項を管理する者を選任した場合においては、同条第一項各号の措置に該当するものを除くものとし、第十一条第一項の政令で定める業種以外の業種の事業場にあつては、衛生に係る業務に限る。)を担当させなければならない。
そして規則が、その規模を数字で埋めます。
法第十二条の二の厚生労働省令で定める規模の事業場は、常時十人以上五十人未満の労働者を使用する事業場とする。
ここで押さえるべき点が2つあります。ひとつは数える単位が「事業場」であって会社ではないことです。本社20人・支店15人・工場30人という会社は、合計65人ですが、どの事業場も50人に届いていないので、3つの事業場それぞれに安全衛生推進者等を選任することになります。逆に、本社8人・支店6人の会社なら、どちらの事業場も10人に届かないので選任義務は生じません。合計14人であってもです。
もうひとつは「労働者」に雇用形態の区別が無いことです。労働安全衛生法2条2号は、この法律でいう労働者を次のように定義しています。
労働基準法第九条に規定する労働者(同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者及び家事使用人を除く。)をいう。
正社員に限る、という書き方はどこにもありません。パート・アルバイト・契約社員も労働者です。したがって正社員6人・パート5人の事業場は、11人として扱うのが条文の読み方になります。「正社員は9人だから10人未満」と数えて義務を免れている、と思い込んでいる事業場は少なくありません。
条文は「常時十人以上」としか書いておらず、繁忙期だけ人が増える場合や、週1日だけ来る人をどう数えるかまでは書いていません。この部分は行政解釈の領域で、法令本文からは一義に導けません。季節変動が大きい事業場や、短時間労働者が多い事業場は、自分で判断せず所轄の労働基準監督署に確認してください。本記事では、条文から確実に言えるところまでを書いています。
業種で名前が変わる。安全衛生推進者と衛生推進者の分かれ目
同じ10〜49人の事業場でも、業種によって選任するものの名称と、担当させる業務の範囲が変わります。法12条の2の括弧書きが「第十一条第一項の政令で定める業種以外の業種の事業場にあつては、衛生推進者」としている部分です。
11条1項の政令、つまり労働安全衛生法施行令3条はこう定めています。
法第十一条第一項の政令で定める業種及び規模の事業場は、前条第一号又は第二号に掲げる業種の事業場で、常時五十人以上の労働者を使用するものとする。
そこで参照される施行令2条1号・2号の業種に当たるかどうかが、名称の分かれ目になります。この2つの号に載っている業種なら安全衛生推進者、それ以外(施行令2条3号の「その他の業種」)なら衛生推進者です。
| 施行令2条の区分 | 業種 | 10〜49人のとき選任するもの | 担当させる業務 |
|---|---|---|---|
| 1号 | 林業、鉱業、建設業、運送業及び清掃業 | 安全衛生推進者 | 法10条1項各号の業務(安全と衛生の両方) |
| 2号 | 製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゆう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゆう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業及び機械修理業 | ||
| 3号 | その他の業種(一般の事務所、飲食店、医療業、金融業、サービス業など) | 衛生推進者 | 法10条1項各号の業務のうち衛生に係る業務に限る |
担当させる業務の中身は、法10条1項が総括安全衛生管理者について挙げている次の各号です。
一 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること。 二 労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること。 三 健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること。 四 労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること。 五 前各号に掲げるもののほか、労働災害を防止するため必要な業務で、厚生労働省令で定めるもの
つまり、健康診断を実施すること、その結果を踏まえた措置、安全衛生教育、労災が起きたときの原因調査と再発防止といった仕事に、担当者を1人立てなさい、という構造です。50人未満の事業場でも、これらの業務そのものは免除されていません。免除されているのは、それを衛生管理者という免許保持者に管理させることと、産業医を選任すること、衛生委員会を開くことです。
施行令2条3号の業種は衛生推進者となり、担当業務は衛生に係るものに限られます。ただし、これは担当者に担当させる範囲の話であって、事業者が負う他の義務が消えるわけではありません。健康診断(労働安全衛生法66条)も、労働災害が起きたときの労働者死傷病報告も、事業場の規模や業種にかかわらず事業者の義務として残ります。
14日以内・その事業場に専属。資格は「講習修了者」だけではない
選び方の要件は労働安全衛生規則12条の3にあります。まず、どういう人から選ぶかという部分です。
法第十二条の二の規定による安全衛生推進者又は衛生推進者(以下「安全衛生推進者等」という。)の選任は、都道府県労働局長の登録を受けた者が行う講習を修了した者その他法第十条第一項各号の業務(衛生推進者にあつては、衛生に係る業務に限る。)を担当するため必要な能力を有すると認められる者のうちから、次に定めるところにより行わなければならない。
ここは読み方に注意が要ります。「講習を修了した者」だけが対象ではありません。条文は「講習を修了した者その他……必要な能力を有すると認められる者」という書き方をしていて、講習修了は資格を満たす経路のひとつとして例示されています。何をもって必要な能力があると認めるかの基準は、規則ではなく厚生労働大臣の告示(安全衛生推進者等の選任に関する基準)に置かれています。本記事は告示の本文を一次情報として確認できていないため、実務経験年数などの具体的な基準は書きません。実際にどの経路で要件を満たすかは、講習を実施している都道府県労働局や労働基準監督署に確認してください。
次に、期限と専属性の2つの要件です。
安全衛生推進者等を選任すべき事由が発生した日から十四日以内に選任すること。
その事業場に専属の者を選任すること。ただし、労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタントその他厚生労働大臣が定める者のうちから選任するときは、この限りでない。
14日の起算点は「選任すべき事由が発生した日」です。人数が10人に達した日であり、あるいは前任者が退職した日です。決算や年度とは無関係に、事実が起きた時点から数え始めます。この「14日以内」は衛生管理者(規則7条1項1号)や総括安全衛生管理者(規則2条1項)とまったく同じ期限で、安全衛生管理体制の選任期限は横並びに14日で統一されています。
専属とは、その事業場に所属していることです。したがって本社の総務部長が支店の安全衛生推進者を兼ねる、という形は原則として認められません。支店には支店の所属者から選ぶ必要があります。ただし外部の労働安全コンサルタント・労働衛生コンサルタントから選任する場合は、ただし書きによってこの限りではありません。
労基署への選任報告は無い。作業場に掲示して周知する
ここがこの制度のいちばん実務的な特徴で、同時に義務が忘れられる原因でもあります。選任した後にすることを定めているのは労働安全衛生規則12条の4です。
事業者は、安全衛生推進者等を選任したときは、当該安全衛生推進者等の氏名を作業場の見やすい箇所に掲示する等により関係労働者に周知させなければならない。
宛先は労働基準監督署ではなく、その事業場で働いている人たちです。掲示する等により周知する、という方法だけが書かれていて、行政庁への届出は一切出てきません。
これは50人以上の体制とはっきり対照をなしています。たとえば衛生管理者については、規則7条3項がこう定めています。
事業者は、衛生管理者を選任したときは、遅滞なく、電子情報処理組織を使用して、次に掲げる事項を、都道府県労働局長の免許を受けた者その他第十条各号に定める資格を有する者であることにつき証明することができる電磁的記録を添えて、所轄労働基準監督署長に報告しなければならない。
総括安全衛生管理者(規則2条2項)も同じ構造で、選任したら遅滞なく所轄労働基準監督署長に報告します。安全衛生推進者等については、規則12条の2から12条の4までのどこにも「報告」「様式」「監督署」という語が出てきません。本記事の作成にあたり、規則全文431,471字から該当部分を抜き出して機械的に数え、これらの語の出現が0回であることを確認しています。
| 選任するもの | 規模 | 期限 | 選任後の手続 |
|---|---|---|---|
| 安全衛生推進者・衛生推進者 | 10人以上50人未満 | 14日以内 | 作業場に掲示等で周知(届出なし) |
| 衛生管理者 | 50人以上 | 14日以内 | 所轄労働基準監督署長に報告 |
| 産業医 | 50人以上 | 14日以内 | 所轄労働基準監督署長に報告 |
| 総括安全衛生管理者 | 業種により100・300・1,000人以上 | 14日以内 | 所轄労働基準監督署長に報告 |
届出が無いということは、選任していなくても行政の側に情報が上がらないということです。裏を返せば、労働基準監督署の臨検があったときや、労働災害が起きて調査を受けたときに、初めて選任していなかったことが表に出ます。労災が起きた場面で「安全衛生推進者を選任していなかった」という事実が同時に判明する、という順序になりやすい。これがこの義務の実務上の怖さです。
罰則の列挙に12条の2だけが無い。ただし義務であることは変わらない
労働安全衛生法120条は、五十万円以下の罰金に処する場合を各号で列挙しています。その1号には、安全衛生管理体制に関する条文が並んでいます。本記事では、罰則の条(116条から123条まで)を条単位で取り出し、そこに現れる条番号を機械的に拾って数えました。結果は次のとおりです。
| 選任義務の根拠 | 選任するもの | 120条1号の列挙に載っているか |
|---|---|---|
| 法10条1項 | 総括安全衛生管理者 | 載っている |
| 法11条1項 | 安全管理者 | 載っている |
| 法12条1項 | 衛生管理者 | 載っている |
| 法12条の2 | 安全衛生推進者・衛生推進者 | 載っていない |
| 法13条1項 | 産業医 | 載っている |
| 法17条1項 | 安全委員会 | 載っている |
| 法18条1項 | 衛生委員会 | 載っている |
120条1号が名指ししている条番号は32個あり、その並びは「第十条第一項、第十一条第一項、第十二条第一項、第十三条第一項、第十五条第一項……」と進みます。第十二条と第十三条のあいだを、12条の2が飛び越されている形です。前後の条がすべて載っているなかで、この条だけが入っていません。書き落としとは考えにくく、罰則の対象から外すという立法上の選択と読むのが自然です。
12条の2は「選任し……担当させなければならない」と書かれた義務規定です。罰金の対象になっていないというだけで、義務そのものは変わりません。労働基準監督署の臨検で選任していないことが判明すれば、是正勧告や指導の対象になります。また、労働災害が起きた後に安全衛生管理体制の不備が問われる場面では、選任していなかった事実は事業者にとって不利にしか働きません。「罰則が無い=リスクが無い」ではありません。
なお、ここで数えたのは「120条1号の列挙に12条の2が含まれるか」という一点です。他の条文や他の法律による不利益(たとえば助成金の支給要件や入札参加資格における法令遵守の確認)まで調べたわけではありません。不在を確認したのは罰則の列挙についてだけである点は、はっきりさせておきます。
50人に達すると何が積み上がるか
安全衛生推進者等の義務は50人未満の事業場のものなので、50人に達した時点で役割が入れ替わります。施行令4条は衛生管理者を選任すべき事業場を次のように定めていて、業種を問いません。
法第十二条第一項の政令で定める規模の事業場は、常時五十人以上の労働者を使用する事業場とする。
50人に到達すると、次のものが一度に発生します。数え方はここでも事業場単位です。
- 衛生管理者の選任(法12条1項)。14日以内。業種によって必要な免許の種類が変わり、施行令2条1号・2号のうち規則7条1項3号イに挙げられた業種では第二種衛生管理者免許では足りません
- 産業医の選任(法13条1項)。産業医の職務と選任の実務で詳しく扱っています
- 衛生委員会の設置(法18条1項)。毎月1回以上の開催が必要です。安全衛生委員会・衛生委員会を参照してください
- ストレスチェックの実施(法66条の10)
- 定期健康診断結果報告書の提出。健康診断の種類と会社の義務で扱っています
- 施行令2条1号・2号の業種であれば、50人以上で安全管理者の選任も加わります(施行令3条)
実務として重要なのは、49人と50人のあいだの落差が大きいことです。人を1人増やす判断をするとき、増える負担は給与と社会保険料だけではありません。産業医との契約料、衛生委員会の運営、ストレスチェックの実施費用が同時に発生します。採用計画を立てる段階で、この境界を意識しておくと後から慌てずに済みます。
経理・総務側の実務
経理として関わるのは、主に費用の処理と、人数の把握の2点です。
講習費用の処理。安全衛生推進者等の養成講習を受講させる場合、その受講料と、受講のために要した旅費は、法令上の要請にもとづいて会社が従業員に受けさせる講習の費用です。会社が負担した場合、一般に福利厚生費あるいは研修費・教育訓練費として処理し、その事業年度の損金に算入します。受講者本人に対する給与として課税する性質のものではないと整理するのが一般的です。ただし、実際の勘定科目の選択や損金算入時期は、自社の経理規程や契約の内容によって変わりますので、顧問税理士に確認してください。
人数の把握。選任義務の起点は「常時10人以上」なので、事業場ごとの労働者数を継続的に見ておく必要があります。この数字は、経理・労務が別の目的ですでに持っていることが多いものです。労働保険の年度更新で申告する労働者数、賃金台帳と労働者名簿の登載人数がそれにあたります。事業場ごとに分けて数えられる形になっているかを一度確認しておくと、10人・50人の境界を越えたことに気づけます。会社合計しか見ていないと、支店が10人を超えたことに誰も気づきません。
選任の記録。届出が無い制度なので、選任した事実を社内に残すのは会社の責任です。選任日、選任した者の氏名、事由が発生した日、掲示した場所と日付を記録に残しておくと、臨検や労災調査の際に14日以内の選任であったことを示せます。掲示物そのものは更新すると前のものが失われるので、掲示した状態を残しておく運用にしておくと確実です。
法定福利費の会社負担額を計算するよくある質問
Q. 従業員が10人になりました。何から手を付ければよいですか?
A. まず自社の業種が労働安全衛生法施行令2条の1号・2号に当たるか、3号のその他の業種かを確認してください。1号・2号なら安全衛生推進者、3号なら衛生推進者を選任することになり、担当させる業務の範囲も変わります。次に、その事業場に所属している人の中から選任する人を決めます。外部の労働安全コンサルタント・労働衛生コンサルタントに依頼する場合を除き、専属であることが求められるためです。期限は事由が発生した日から14日以内です。選任したら、氏名を作業場の見やすい箇所に掲示するなどして働いている人に周知します。労働基準監督署への届出は不要です。
Q. 会社全体では60人いますが、各事業場は50人未満です。衛生管理者は必要ですか?
A. 労働安全衛生法施行令4条は、衛生管理者を選任すべき事業場を「常時五十人以上の労働者を使用する事業場」と定めており、判定の単位は事業場です。したがって、どの事業場も50人に達していないのであれば、衛生管理者の選任義務は生じません。代わりに、10人以上50人未満の事業場それぞれについて、安全衛生推進者または衛生推進者を選任することになります。会社全体の人数で判定する規定ではないため、合計60人であることは結論を変えません。なお、事業場として独立していると評価できるかどうかが問題になる場合がありますので、判断に迷う組織形態のときは所轄の労働基準監督署に確認してください。
Q. パート・アルバイトも10人の数に入りますか?
A. 労働安全衛生法2条2号は、この法律でいう労働者を労働基準法9条に規定する労働者と定義しており、正社員に限るという限定はありません。したがってパート・アルバイト・契約社員も労働者として数えるのが条文の読み方です。正社員だけで数えて10人未満だから義務がない、という整理は条文の裏付けを欠きます。ただし条文は「常時」十人以上としか書いておらず、繁忙期だけ増える人員や週にごく短時間だけ勤務する人をどう数えるかまでは書かれていません。この部分は行政解釈によりますので、短時間労働者が多い事業場や季節変動が大きい事業場では、所轄の労働基準監督署に確認してください。
Q. 選任しなかった場合、罰則はありますか?
A. 労働安全衛生法120条1号の列挙には、安全衛生推進者等の根拠である12条の2が含まれていません。総括安全衛生管理者の10条1項、安全管理者の11条1項、衛生管理者の12条1項、産業医の13条1項はいずれも列挙されているなかで、12条の2だけが入っていない形です。したがって選任義務違反そのものに対する罰金の定めはありません。ただし12条の2は「選任し……担当させなければならない」と書かれた義務規定であり、義務であることは変わりません。労働基準監督署の臨検で選任していないことが判明すれば是正勧告や指導の対象になりますし、労働災害が起きたときに安全衛生管理体制の不備として問われる可能性もあります。
Q. 本社の総務部長が、支店の安全衛生推進者を兼任できますか?
A. 労働安全衛生規則12条の3第1項2号が、その事業場に専属の者を選任することを求めています。専属とはその事業場に所属していることを意味しますので、本社に所属する人が支店の安全衛生推進者を兼ねる形は、原則として要件を満たしません。支店については支店に所属する人の中から選任することになります。同号にはただし書きがあり、労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタントその他厚生労働大臣が定める者のうちから選任するときは専属でなくてもよいとされています。外部の専門家に委嘱する場合がこれに当たります。具体的にどの範囲の者が厚生労働大臣が定める者に該当するかは告示によりますので、所轄の労働基準監督署に確認してください。
Q. 選任した人が退職しました。いつまでに次の人を選任すればよいですか?
A. 労働安全衛生規則12条の3第1項1号は「安全衛生推進者等を選任すべき事由が発生した日から十四日以内に選任すること」と定めています。前任者の退職は、新たに選任すべき事由が発生した日に当たると読めますので、その日から14日以内に後任を選任することになります。届出が無い制度であるため、後任の選任が漏れても外部から指摘される機会がありません。退職手続きのチェックリストに安全衛生推進者等の後任選任を入れておくと、抜けを防げます。選任し直したら、掲示している氏名も忘れずに更新してください。
Q. 講習を受けていない社員を選任してもよいのですか?
A. 労働安全衛生規則12条の3第1項は、選任の対象を「都道府県労働局長の登録を受けた者が行う講習を修了した者その他法第十条第一項各号の業務……を担当するため必要な能力を有すると認められる者」としています。講習修了は要件を満たす経路のひとつとして例示されており、それだけが唯一の道という書き方にはなっていません。何をもって必要な能力があると認められるかの基準は厚生労働大臣の告示に置かれています。本記事はその告示の本文を確認できていないため、実務経験年数などの具体的な基準は記載していません。自社の候補者が要件を満たすかどうかは、講習を実施している都道府県労働局または所轄の労働基準監督署に確認してください。
Q. 50人未満なら健康診断や安全衛生教育もしなくてよいのですか?
A. いいえ。50人未満の事業場で免除されているのは、衛生管理者や産業医を選任すること、衛生委員会を設けること、ストレスチェックを実施することであって、健康診断や安全衛生教育の実施義務そのものではありません。労働安全衛生法10条1項が挙げる業務には、労働者の安全または衛生のための教育の実施に関することと、健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関することが含まれており、安全衛生推進者等はまさにこれらを担当します。つまり業務は残ったまま、それを担当する体制が簡素化されているという構造です。50人未満だから何もしなくてよい、という読み方は条文と合いません。
出典
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法」(昭和四十七年法律第五十七号)。法令API v2 から全文119,821字を取得。参照したのは2条2号(労働者の定義)、10条1項各号(総括安全衛生管理者が統括管理する業務)、11条1項(安全管理者)、12条1項(衛生管理者)、12条の2(安全衛生推進者等)、120条1号(五十万円以下の罰金)。本文中の引用はこの取得結果からの逐語である
- 同上について機械的な確認を行った。罰則の条(116条から123条まで)を条単位で取り出したうえで条番号を正規表現で全数拾い、120条1号が名指しする条は32個であること、そこに「第十二条の二」が0回であり、一方で第十条第一項・第十一条第一項・第十二条第一項・第十三条第一項・第十七条第一項・第十八条第一項はいずれも1回ずつ出現することを確認した。対照実験として同じ切り出しに「罰金」が7回現れることを確認しており、検索経路が生きていることを裏付けている
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法施行令」(昭和四十七年政令第三百十八号)。法令API v2 の
law_data/347CO0000000318から全文52,204字を取得。参照したのは2条(総括安全衛生管理者を選任すべき事業場・業種の1号から3号までの区分)、3条(安全管理者を選任すべき事業場)、4条(衛生管理者を選任すべき事業場) - e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」(昭和四十七年労働省令第三十二号)。法令API v2 から全文431,471字を取得。参照したのは2条1項・2項(総括安全衛生管理者の選任と報告)、7条1項・3項(衛生管理者の選任と報告)、12条の2(安全衛生推進者等を選任すべき事業場)、12条の3(選任の要件)、12条の4(氏名の周知)
- 同上について機械的な確認を行った。12条の2から12条の4までの本文548字を切り出し、「報告」「様式」「監督署」の出現がいずれも0回であること、一方で「十四日」「専属」「掲示」が各1回、「周知」が2回出現することを確認した。対照実験として同じ切り出しに「推進者」が10回現れることを確認している。また、公開中の全379ページを走査し、「安全衛生推進者」「衛生推進者」の出現がいずれも0回(対照として「衛生管理者」39回・「産業医」167回)であることを確認したうえで本記事を作成した
- この記事で扱っていない事項について。安全衛生推進者等の選任に関する基準(厚生労働大臣の告示)の本文は一次情報として取得できていないため、講習以外の経路で要件を満たす場合の実務経験年数などの具体的な基準は記載していない。同じ理由で、12条の3第1項2号ただし書きにいう「厚生労働大臣が定める者」の具体的な範囲も断定していない。「常時」使用する労働者の数え方に関する行政解釈、事業場として独立していると評価できるかどうかの判断基準も、法令本文からは一義に導けないため断定していない。選任していなかった場合の是正勧告の実際の運用も所轄署の判断による
この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する助言ではありません。選任義務の有無、事業場の範囲、労働者数の数え方は事実関係によって変わりますので、実際の判断については所轄の労働基準監督署にご確認ください。安全衛生管理体制の整備や社内規程については社会保険労務士へ、講習費用の税務上の取扱いについては税理士へご相談ください。