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マタハラとは — 均等法9条と11条の3は別の条文。禁じられていることと、防ぐ義務があること

実務で「マタハラ」と呼ばれているのは、妊娠・出産等を理由に不利益に扱うことや、上司・同僚の言動で働く環境が害されることです。法律の上では1つの制度ではなく、性格の違う2本の規定でできています。

前者は「会社がやってはいけないこと」、後者は「会社が他人にやらせないために整えること」で、名宛人も効果も違います。混ぜると「ハラスメント禁止を就業規則に書いたから9条も満たす」「不利益な扱いはしていないから11条の3は関係ない」という2つの誤りが起きます。

本文の条番号は令和8年9月30日までのものです。10月1日からの番号は条番号の入れ替えの節の表にまとめました。数字と条番号は2026年9月8日時点の施行版で確認しました。

禁止規定と措置義務は別の条文 — 一覧で見る違い

先に全体を並べます。マタハラに関わる規定は均等法と育児・介護休業法にまたがり、さらに労働基準法の解雇制限が重なります。同じ「妊娠した従業員への不当な扱い」でも、どの条文で見るかによって、誰が名宛人か・違反したときに何が起きるかが変わります。

条文何を定めているか対象効果
均等法9条1項婚姻・妊娠・出産を退職理由として予定する定めの禁止女性労働者行政の助言・指導・勧告、勧告不服従なら公表(30条)
均等法9条2項婚姻を理由とする解雇の禁止女性労働者同上
均等法9条3項妊娠・出産等を理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止女性労働者同上。私法上も無効と判断されうる
均等法9条4項妊娠中・産後1年以内の解雇を無効とする(証明責任は事業主)女性労働者民事的効力。行政の勧告・公表の対象外
均等法11条の3妊娠・出産等に関する言動で就業環境が害されないための雇用管理上の措置義務女性労働者行政の助言・指導・勧告、勧告不服従なら公表(30条)
育介法25条育児休業等の制度利用に関する言動で就業環境が害されないための措置義務男女の労働者行政の助言・指導・勧告、勧告不服従なら公表(56条の2)
育介法10条ほか育児休業等の申出・取得を理由とする不利益取扱いの禁止男女の労働者同上
労基法19条1項産前産後休業期間とその後30日間の解雇禁止産前産後の女性解雇の効力を否定。違反は119条1号の刑事罰の対象

ここで押さえるべきは、会社が自分でやるマタハラは9条、他人がやるマタハラを止めるのが11条の3という切り分けです。9条は事業主自身の行為を禁じ、11条の3は上司や同僚の言動から職場環境を守るための体制を要求します。

指針もこの関係を書いています。事業主が行う妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いは、就業環境を害する行為を含めて既に9条3項で禁止されています。こうした不利益取扱いを行わないため、当然に自らの行為の防止に努めることが求められる、としています。

職場で起きた「妊娠・出産を理由とする不当な扱い」 誰がやったのかで、当てる条文が分かれる 事業主自身がやった 均等法9条3項 解雇・雇止め・降格・減給 不利益な配置変更・自宅待機 就業環境を害することも含む =「してはならない」(禁止) 上司・同僚がやった 均等法11条の3第1項 制度等の利用への嫌がらせ型 状態への嫌がらせ型 相談体制の整備・事後対応など =「講じなければならない」(措置) この2つは29条の報告徴収・助言・指導・勧告の対象 勧告に従わなければ、30条により会社名を公表できる 9条4項:妊娠中・産後1年以内の解雇 は無効。証明責任は事業主が負う 民事の効力。30条が挙げるのは 9条1〜3項までで、4項は対象外 育介法25条1項:男女を問わず対象 育児休業等の制度利用への言動が対象 (施行規則76条の11制度) 勧告・公表は同法56条・56条の2 上司・同僚の言動:業務上の必要性に基づくものは該当しない(指針)。請求の拒否は別。 会社 人
同じ出来事でも、行為者が事業主自身か上司・同僚かで当てる条文が分かれる。左は禁止規定、右は措置義務。勧告と公表が掛かるのは9条1〜3項と11条の3第1項で、9条4項は民事の効力なので30条の公表には入らない。番号は令和8年9月30日までのもの(10月1日以降は本文の該当節を参照)。

2つの型 — 制度等の利用への嫌がらせ型と状態への嫌がらせ型

11条の3が防ぐ「職場における妊娠、出産等に関するハラスメント」は、厚生労働省の指針(平成28年厚生労働省告示第312号)で2つの型に分けられています。制度等の利用への嫌がらせ型と状態への嫌がらせ型です。この2つは、対象になる事由が均等法施行規則2条の3のどの号から来ているかで分かれます。

制度等の利用への嫌がらせ型は、指針が次の6つの制度を名指ししています。

この型に産後休業が単独で出てこないのは、5号の産前休業と同じ号に産後の就業制限が入っており、指針は制度側では産前休業を、状態側では産後の就業制限を挙げて振り分けているからです。

状態への嫌がらせ型は、次の5つの事由です。

指針は9号の「妊娠又は出産に起因する症状」を、つわり、妊娠悪阻、切迫流産、出産後の回復不全等と例示しています。

典型例は限定列挙ではない

指針は両方の型について、典型的な例として挙げたものは限定列挙ではないと明記しています。挙がっていない言動でもハラスメントに当たることはあります。逆に、挙がっている型に形式的に当てはめれば自動的に該当するわけでもなく、制度等の利用を阻害するものは「客観的にみて」阻害されるかで、嫌がらせ等は「就業する上で看過できない程度の支障」が生じるかで判断するとされています。

典型例の書きぶりは、誰が言ったかだけでなく、どの典型例かでも変わります。下の表のとおり、制度等の利用への嫌がらせ型の③「利用をしたことによる嫌がらせ」は上司又は同僚が繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をすることと書かれていて、上司も「繰り返し」の側に入っています。②「請求・利用の阻害」では、上司についての2例に回数の記載がなく、同僚についての2例だけが「繰り返し又は継続的に」です。

「意に反することを明示しているのに更に言う」ことを含む、という括弧書きも同じ形です。②では同僚についての例にだけ付き、③では「当該上司又は同僚に明示しているにもかかわらず」と、上司と同僚の両方に掛かっています。

典型例上司の言動同僚の言動
①解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの回数の記載なし典型例に挙がっていない
②制度等の利用の請求等・利用を阻害するもの回数の記載なし繰り返し又は継続的に
③制度等の利用をしたことにより嫌がらせ等をするもの繰り返し又は継続的に繰り返し又は継続的に
状態への嫌がらせ型①示唆するもの回数の記載なし典型例に挙がっていない
状態への嫌がらせ型②妊娠等したことにより嫌がらせ等をするもの繰り返し又は継続的に繰り返し又は継続的に

ここで押さえるのは、回数は該当性の要件ではなく、典型例の書きぶりだということです。研修資料でここを1行に畳むと、③を「上司なら1回でも該当」と教えてしまいます。

この線を引いておかないと、「1回だから大丈夫」と「上司なら1回でもアウト」を、どちらも根拠なく言うことになります。

「契機として」いれば原則違反。例外は2つだけ

9条3項が禁じるのは、妊娠・出産等を「理由として」する不利益取扱いです。指針はこの「理由として」を、妊娠・出産等と不利益取扱いとの間に因果関係があることだと説明しています。問題は、その因果関係を誰がどう示すかです。

厚生労働省の施行通達(平成18年10月11日雇児発第1011002号。平成28年6月14日改正)は、妊娠・出産等の事由を契機として不利益取扱いが行われた場合は、原則として妊娠・出産等を理由として不利益取扱いがなされたと解される、としています。そのうえで、原則の外に出るのは次の2つだけだと書いています。

  1. 業務上の必要性による例外:次の2つを両方満たすとき
    • 円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障があるため、当該不利益取扱いを行わざるを得ない
    • その必要性の内容や程度が、9条3項の趣旨に実質的に反しないと認められるほどに、不利益取扱いにより受ける影響の内容や程度を上回ると認められる特段の事情がある
  2. 本人の同意による例外:次のすべてを満たすとき
    • 契機とした事由または当該取扱いにより受ける有利な影響が存在し、かつ労働者が同意している
    • 有利な影響の内容や程度が不利な影響を上回る
    • 事業主から労働者に対して適切に説明がなされる等、一般的な労働者であればその取扱いについて同意するような合理的な理由が客観的に存在する

1つ目は、業務上の必要性があるだけでは足りず、その必要性が不利益の内容や程度を上回る特段の事情まで要ります。人手が足りないという事情だけでは、後段の比較に答えていません。

2つ目も、同意があれば済むという話ではありません。指針も別の箇所で、勧奨退職や正社員から非正規社員への変更は、表面上の同意を得ていても真意に基づくものでないと認められる場合には、労働契約内容の変更の強要に該当すると書いています。同意書があること自体は、例外の入口にすぎません。

「契機として」は時間的な近さで判断する

通達は「契機として」の判定を、基本的に当該事由が発生している期間と時間的に近接して不利益取扱いが行われたかで判断するとしています。例として挙げているのが人事考課です。

定期的に人事考課・昇給を行っている会社では、この例がそのまま日付で確かめられる目安になります。

妊娠中と産後1年以内の解雇は、会社が証明しない限り無効

9条には、行政指導とは別に、裁判所で直接効く項があります。4項です。条文はこうなっています。

妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

通常、解雇の有効性を争うときは、解雇された側が不当性を主張し立証していきます。9条4項はその向きを入れ替えていて、施行通達も、妊娠中および出産後1年以内に行われた解雇を裁判で争うまでもなく無効にするとともに、解雇が妊娠・出産等を理由とするものではないことについての証明責任を事業主に負わせる効果があると説明しています。会社が証明しない限り無効のままで、労働契約は存続します。

ここで対象になる期間を取り違えないでください。9条4項が見るのは妊娠している間と、出産後1年を経過するまでであって、産前産後休業を取ったかどうかは関係ありません。休業を取らずに働き続けた人にも、産休明けにすぐ復職した人にも、同じようにかかります。なお通達は9条1項の「出産」を、妊娠4か月以上(1か月は28日として計算するので85日以上)の分娩をいい、生産のみならず死産も含むとしています。

労基法19条とは別の期間で重なる

労働基準法19条1項は、産前産後の女性が65条の規定によって休業する期間およびその後30日間の解雇を禁じています。こちらは休業していることが前提で、均等法9条4項が見る出産後1年とは長さも数え始めも違います。

たとえば産後休業を8週間取った人なら、労基法19条の解雇制限はその終了から30日間で切れますが、均等法9条4項は出産後1年を経過するまで効きます。施行通達も、9条3項と労基法19条は目的・時期・罰則の有無を異にするが、重なり合う部分については両規定が適用されるとしています。

産前産後休業そのものの日数の数え方は、産前産後休業(産休)はいつからいつまでで扱っています。産前6週間(多胎妊娠は14週間)は請求して初めて始まるのに対し、産後8週間は請求の有無にかかわらず就業させてはならず、本人が希望するだけでは働かせられません。例外は、産後6週間を経過した女性が請求し、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせる場合だけです(労基法65条2項ただし書)。この非対称が、そのまま解雇制限の期間にも効いてきます。

産前産後休業を取ったときに健康保険から出る出産手当金の額を、標準報酬月額と休業日数から計算する

事業主が必ず講じる措置 — 4本柱と、併せて講じる2つ

11条の3第1項は、措置の中身を条文には書かず、指針に委ねています。

指針は「講じなければならない」措置を4本の柱に整理し、さらに4本すべてに併せて講じる措置を2つ置いています。柱の下の項目は(1)が2つ・(2)が2つ・(3)が4つ・(4)が1つで9つ、これに併せて講じる2つを足して合計11項目です。

柱やること指針が挙げる「認められる例」
(1) 方針の明確化と周知・啓発ハラスメントの内容・背景、行ってはならない旨の方針、制度等の利用ができる旨を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発する就業規則等に規定して周知/社内報・パンフレット等に記載して配布/研修・講習の実施
ハラスメントに係る言動を行った者について厳正に対処する旨の方針と対処の内容を、就業規則その他の服務規律等を定めた文書に規定し、周知・啓発する就業規則等に懲戒規定を定めて周知/現行の懲戒規定の対象になる旨を明確化して周知
(2) 相談に応じ適切に対応するための体制の整備相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する担当者をあらかじめ定める/制度を設ける/外部の機関に委託する
窓口の担当者が内容や状況に応じて適切に対応できるようにする担当者と人事部門が連携する仕組み/マニュアルに基づく対応/担当者への研修
(3) 事後の迅速かつ適切な対応事実関係を迅速かつ正確に確認する双方から確認し、主張に不一致があれば第三者からも聴取/確認が困難なら18条の調停など中立な第三者機関に委ねる
被害者に対する配慮のための措置を適正に行う職場環境の改善・制度等の利用に向けた環境整備・関係改善の援助・行為者の謝罪・産業保健スタッフ等による相談対応
行為者に対する措置を適正に行う就業規則等の規定に基づく懲戒その他の措置/調停その他の紛争解決案に従った措置
再発防止に向けた措置を講じる方針の改めての掲載・配布/研修・講習の改めての実施。事実が確認できなかった場合も同様
(4) 原因や背景となる要因を解消する措置業務体制の整備など、実情に応じた必要な措置を講じる周囲の労働者への業務の偏りを軽減する業務分担の見直し/業務の点検と効率化
(5) 併せて講じる措置相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を周知する必要な事項をマニュアルに定める/担当者への研修/保護している旨を社内報等に掲載
相談等を理由として解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、周知・啓発する就業規則等に規定して周知/社内報・パンフレット等に記載して配布

条文(11条の3第1項)は次のとおりです。

事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

読むときに落としやすいのが2つあります。1つは(3)の再発防止が、事実を確認できなかった場合にも要ることです。調べたが黒とは言えなかった、で終わらせると措置義務を満たしません。もう1つは(4)で、これは相談窓口の話ではなく業務分担の話です。指針は、妊娠した労働者が体調不良で労務提供できないことにより周囲の労働者の業務負担が増大することも背景の要因の一つだとして、周囲の労働者の業務負担等にも配慮することが重要だと書いています。窓口を作っただけでは(4)を満たしません。

もう1つ、(5)の2つ目は条文にも根拠があります。11条の3第2項が11条2項を準用しており、相談を行ったことや相談への対応に協力して事実を述べたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁じています。指針は17条2項(紛争解決の援助を求めたこと)と18条2項(調停を申請したこと)も併せて挙げ、労働局に相談したことを理由とする不利益取扱いも禁じられる旨を定めて周知するよう求めています。

指針は加えて、望ましい取組としてセクハラやパワハラの相談窓口と一体的に設置し、一元的に相談に応じられる体制を整えることを挙げています。義務ではありませんが、指針自身が、他のハラスメントと複合的に生じることも想定されることを理由に挙げています。

育児・介護休業法25条は型が1つ。「早期の復帰を促す」の一行がある

均等法11条の3は「その雇用する女性労働者」に対する言動を対象にしています。男性が育児休業を取ることへの嫌がらせは、この条文には入りません。受け皿は育児・介護休業法25条1項です。

事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

「厚生労働省令で定める制度又は措置」は施行規則76条にあり、1号から11号までの11の制度・措置です。

  1. 育児休業
  2. 介護休業
  3. 子の看護等休暇
  4. 介護休暇
  5. 所定外労働の制限
  6. 時間外労働の制限
  7. 深夜業の制限
  8. 育児のための所定労働時間の短縮措置
  9. 育児休業に準ずる措置または在宅勤務等の措置・始業時刻変更等の措置
  10. 介護のための所定労働時間の短縮等の措置
  11. 23条の3第1項の措置(柔軟な働き方を実現するための措置)

均等法側と比べたときの違いは2つあります。1つ目は型が1つしかないことです。均等法側には制度等の利用への嫌がらせ型と状態への嫌がらせ型の2つがありますが、育児・介護休業法側の指針(平成21年厚生労働省告示第509号)が定めるのは制度等の利用に関する言動だけです。育児休業には「妊娠している状態」に当たるものがないので、状態への嫌がらせ型が置かれていません。

2つ目は、均等法側の指針には無い一行が入っていることです。制度等の利用の申出等または利用を阻害するものについて、育児・介護休業法側の指針は「ただし、労働者の事情やキャリアを考慮して、早期の職場復帰を促すことは制度等の利用が阻害されるものに該当しないこと」と書いています。均等法側の指針の同じ箇所に、この但し書きはありません。

つまり「そろそろ戻ってこないか」と声をかけること自体は、育休については阻害に当たらないと明記されているわけです。ただしこれは労働者の事情やキャリアを考慮した場合の話で、人員が足りないから戻れという趣旨なら該当しません。

育児休業給付の金額や期間の数え方は育児休業給付金はいくら?、産後パパ育休の申出期限の実務は産後パパ育休(出生時育児休業)で扱っています。制度の中身を知らないまま窓口を作っても、担当者が「その制度は使えません」と誤答してしまえば、それ自体が阻害になります。

就業規則には何を書くのか(労働基準法89条9号)

結論は、ハラスメントをした人への懲戒の種類と程度を就業規則に書いておくことです。

指針は「就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書」への規定を、柱(1)の方針の明確化、柱(3)の行為者への懲戒、柱(5)の不利益取扱いの禁止の3か所で求めています。ここで効いてくるのが労働基準法89条です。同条は常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成と届出を義務づけ、記載事項を1号から10号まで(3号の次に「三の二」があるので実際は11項目)列挙しています。

このうちハラスメント規定に直接効くのが9号で、「表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項」です。制裁すなわち懲戒は、定めをする場合に就業規則へ書かなければならない相対的必要記載事項です。懲戒の種類と程度が就業規則に書かれていなければ、指針が求める「厳正に対処する旨の方針及び対処の内容」を規定したことになりません。方針だけを掲示しても、対処の内容が空欄のままだからです。

書き方は2通りが指針に示されています。1つはマタハラ専用の懲戒規定を新設する方法、もう1つは現行の懲戒規定の適用対象になる旨を明確化する方法です。後者なら既存の懲戒条項に手を入れず、ハラスメント防止規程の側で「本規程に違反した者は就業規則第◯条の懲戒の対象とする」と受ければ足ります。就業規則そのものの効力や届出については就業規則とはを参照してください。

10人未満でも措置義務は消えない

労基法89条の作成・届出義務は常時10人以上の事業場にかかりますが、均等法11条の3と育介法25条の措置義務に人数の線はありません。10人未満の事業場では、就業規則がなくても「職場における服務規律等を定めた文書」を作って周知すれば指針の求めを満たせます。逆に、就業規則が無いことを理由に方針の明確化を省くことはできません。

対象の事由は9つずつ。ただし6つの号で言葉が違う

制度の利用を「請求しようとすること」自体を事由に含めているのは、11条の3(ハラスメント)の側だけです。請求前でも、妊娠したこと等を理由とする不利益取扱いは9条3項の対象です。違いは、2つの事由を定めた省令の文言にあります。

均等法9条3項の「厚生労働省令で定める」事由は施行規則2条の2にあり、1号から9号までの9つ。11条の3第1項の事由は施行規則2条の3にあり、こちらも1号から9号までの9つです。号の数も並び順も同じで、一見すると同じ条文の写しに見えます。

しかし、3号から8号までの6つの号で言葉が違います。2条の2が「措置を求め、又はこれらの規定による措置を受けたこと」と書いている箇所を、2条の3は「措置を求めようとし、若しくは措置を求め、又はこれらの規定による措置を受けたこと」と書いています。休業や請求についても同じで、2条の3にだけ「請求しようとし」「申出をしようとし」が加わっています。1号(妊娠したこと)、2号(出産したこと)、9号(症状)の3つは、状態を指す事由なので両者で同じ文言です。

号事由2条の2(9条3項=不利益取扱いの禁止)2条の3(11条の3=防止措置義務)
1号妊娠したこと同じ同じ
2号出産したこと同じ同じ
3号母性健康管理措置求め/受けた求めようとし/求め/受けた
4号坑内業務・危険有害業務の就業制限申出をし/従事しなかった申出をしようとし/申出をし/従事しなかった
5号産前休業・産後の就業制限請求し/休業した請求しようとし/請求し/休業した
6号軽易な業務への転換請求をし/転換した請求をしようとし/請求をし/転換した
7号時間外・休日・深夜業の制限請求をし/労働しなかった請求をしようとし/請求をし/労働しなかった
8号育児時間請求をし/取得した請求をしようとし/請求をし/取得した
9号妊娠・出産に起因する症状同じ同じ

この差は言い回しの揺れではありません。指針の典型例が「制度等の利用の請求等をしたい旨を上司に相談したところ、上司が当該女性労働者に対し、当該請求等をしないよう言うこと」を挙げているのは、この2条の3の文言に対応しています。

たとえば産前休業を取りたいと相談した段階で請求をしないよう言われ、結局請求を出さなかった場合です。請求そのものが存在しないので9条3項の土俵には乗りにくい一方、11条の3の側では指針が典型例として名指ししている場面にそのまま当たります。請求書が1枚も出ていない事案こそ、11条の3で見るべきものだと、省令の文言が示しています。

数字で見る — 相談・是正指導・援助申立てで構成比が違う

厚生労働省が公表した令和7年度の都道府県労働局雇用環境・均等部(室)における施行状況から、均等法の数字を抜きます。相談件数の合計は21,320件で前年度比11.4%増、是正指導は雇用管理の実態把握を行った4,270事業所のうち違反が確認された1,924事業所に対し4,120件でした。

内容相談件数(令和7年度)是正指導件数(令和7年度)労働局長の援助申立(令和7年度)
婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い(9条関係)5,721件(26.8%)27件(0.7%)158件(54.1%)
妊娠・出産等に関するハラスメント措置義務(11条の3関係)1,663件(7.8%)1,092件(26.5%)10件(3.4%)
妊娠・出産等に関するハラスメント事業主の責務(11条の4関係)—429件(10.4%)—
セクシュアルハラスメント措置義務(11条関係)8,723件(40.9%)1,056件(25.6%)97件(33.2%)
母性健康管理(12条、13条関係)2,984件(14.0%)178件(4.3%)21件(7.2%)
合計21,320件4,120件292件

読み取れることが2つあります。1つ目は、同じ条文でも、相談・是正指導・援助申立てで構成比がまるで違うことです。

ただし、ここから言えるのは構成比が異なることまでで、その理由はこの集計だけでは分かりません。公表資料は相談・是正指導・援助申立てをそれぞれ区分別に集計したもので、相談として持ち込まれた案件がその後どの手続へ進んだかを追跡した資料ではないからです。

2つ目は、11条の3関係の是正指導1,092件に、事業主の責務を定める11条の4関係の429件が続いていることです。措置義務と責務規定を合わせると1,521件で、均等法の是正指導4,120件の約37%を占めます。同じ構図は育児・介護休業法にもあります。令和7年度の同法の是正指導23,622件のうち、25条関係(休業等に関するハラスメントの防止措置)は育児関係1,144件・介護関係1,100件でした。不利益取扱いを禁じる10条・16条ほかの関係は、育児13件・介護0件です。

この数字が意味しないこと

是正指導の件数は、労働局が計画的に実態把握を行った事業所から出たものです。世の中で起きたマタハラの件数ではありませんし、9条違反が少ないことを示すものでもありません。9条関係の指導が少ない理由も、この集計からは分かりません。件数の多寡から違反の多寡を推し量ることはできません。

違反したときに起きること — 助言・指導・勧告・公表・過料

均等法に違反したときの流れは、条文に順序で書かれています。まず29条1項で、厚生労働大臣は必要があると認めるときに事業主へ報告を求め、または助言・指導・勧告をすることができます。この権限は2項により一部を都道府県労働局長に委任できるとされており、実務で労働局から連絡が来るのはこの委任によるものです。

勧告に従わなかったときが30条です。

厚生労働大臣は、第五条から第七条まで、第九条第一項から第三項まで、第十一条第一項及び第二項(第十一条の三第二項、第十七条第二項及び第十八条第二項において準用する場合を含む。)、第十一条の三第一項、第十二条並びに第十三条第一項の規定に違反している事業主に対し、前条第一項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。

ここで名指しされている条文をよく見てください。9条1項から3項までと、11条の3第1項の両方が入っています。不利益取扱いをしたことでも、防止措置を講じなかったことでも、勧告に従わなければ公表の対象になるということです。一方で9条4項は入っていません。4項は解雇の民事的効力を定めた規定で、行政が勧告や公表で動かす仕組みではないからです。

罰則は33条にあります。29条1項の報告をせず、または虚偽の報告をした者は20万円以下の過料で、過料は刑罰ではなく秩序罰です。マタハラそのものに刑事罰はありません。刑事罰があるのは労基法19条の解雇制限や65条の産前産後の側で、同法119条1号が6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金を定めています。こちらは労働基準監督署の管轄です。均等法の窓口は労働局雇用環境・均等部(室)で、監督署とは別の役所です。

育児・介護休業法も同じ構造で、56条が報告の徴収・助言・指導・勧告、56条の2が公表、66条が20万円以下の過料です。56条の2が名指しする条文には25条1項・2項が含まれています。

行政の系統とは別に、労働者が使える手続が2つあります。令和7年度の件数も並べます。

調停案を出す前の和解が44件と、受諾勧告の4件を大きく上回っているのが、この手続の実際の使われ方です。

令和8年10月1日、均等法の条番号が総入れ替えになる

ここまで「11条の3」と書いてきましたが、この番号は令和8年9月30日までのものです。令和8年10月1日に施行された令和7年法律第63号による改正で、均等法の枝番号が解消され、11条の2から後ろの条番号が繰り下がりました。1条から11条まではそのままで、不利益取扱いを禁じる9条も、セクハラの措置義務を定める11条も動きません。防止措置義務の中身も、これまでの11条の3第1項と新しい15条第1項は一字一句同じです。動くのは番号と、次に書く第2項の書きぶりだけです。

内容令和8年9月30日まで令和8年10月1日から
婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止9条9条(動かない)
セクハラの雇用管理上の措置等11条11条
セクハラに関する国・事業主・労働者の責務11条の212条
求職活動等における性的な言動に関する措置等(新設)—13条・14条
妊娠・出産等に関する言動の雇用管理上の措置等11条の315条
妊娠・出産等に関する言動の国・事業主・労働者の責務11条の416条
妊娠中および出産後の健康管理に関する措置12条・13条17条・18条
紛争の解決の援助17条23条
調停の委任18条24条
報告の徴収並びに助言、指導及び勧告29条35条
公表30条36条
20万円以下の過料33条39条

番号のほかに1か所だけ、条文の書きぶりが動きます。第2項です。

禁止される中身は同じで、準用が書き下しになるだけです。就業規則やハラスメント防止規程で「法第11条の3第2項(法第11条第2項の準用)」のように準用まで書き写している場合は、その括弧書きが不要になります。

令和8年9月30日まで 禁止=9条3項/措置義務=11条の3/公表=30条 過料=33条/援助=17条/調停=18条 令和8年10月1日から 禁止=9条3項(不動)/措置義務=15条 公表=36条/過料=39条/援助=23条 改正法の公布 令和7年6月11日 施行 令和8年10月1日
条番号の移動。禁止規定の9条は動かず、防止措置義務は11条の3から15条へ動く。改正法は令和7年法律第63号(公布は令和7年6月11日)。

実務への影響は1つに絞られます。就業規則やハラスメント防止規程に条番号を書き込んでいる会社は、その記載が10月1日に古くなることです。「法第11条の3に基づき」と書いた規程は、その日から実在しない条を指すことになります。規定そのものが無効になるわけではありませんが、社内で参照を辿れなくなるので、10月1日の前後で一度差し替えるか、そもそも条番号を書かない書き方にしておくのが安全です。不利益取扱いを禁じる9条は動かないので、9条だけを引用している規程は影響を受けません。

同じ日に労働施策総合推進法も改正され、こちらはカスタマーハラスメントへの措置義務が新設されるとともにパワハラの措置義務が30条の2から31条へ動きます。詳細はカスハラ対策の義務化はいつからで扱いました。マタハラ・パワハラ・カスハラの防止措置は、方針の明確化・相談体制・事後対応・再発防止という骨格が同じなので、規程を1本にまとめている会社ほど、この日に一斉に条番号がずれます。

間違えやすい点

よくある質問

マタハラは何人以上の会社から義務になりますか?

人数の線はありません。均等法11条の3の措置義務も9条3項の不利益取扱いの禁止も、労働者を雇う事業主であれば規模を問わず適用されます。人数で分かれるのは就業規則の作成・届出義務(労働基準法89条の常時10人以上)の方で、10人未満の事業場でも措置義務そのものは免除されません。

「人手が足りないから休みは無理」と言うのもマタハラですか?

指針は、業務分担や安全配慮等の観点から客観的にみて業務上の必要性に基づく言動はハラスメントに該当しないとしています。ただし免れるのは言い方ではなく中身で、産前休業や母性健康管理措置のように労働者が請求できる制度そのものを断ることは、業務上の必要性があってもできません。時期の相談と請求の拒否は別のことです。

妊娠を伝えた直後の降格は、必ず違法になりますか?

必ずではありません。厚生労働省の施行通達は、妊娠・出産等を契機として不利益取扱いが行われた場合は原則として9条3項違反と解するとしています。例外は、業務上の必要性が影響を上回る特段の事情があるときと、有利な影響が上回り本人の同意に合理的な理由が客観的に存在するときです。例外に当たることを示せるのは会社の側です。

相談窓口は社内に置かないといけませんか?

社内である必要はありません。指針は相談窓口をあらかじめ定めていると認められる例として、担当者を定めること、制度を設けること、外部の機関に委託することの3つを挙げています。求められるのは窓口の場所ではなく、あらかじめ定めて労働者に周知し、担当者が内容や状況に応じて適切に対応できる状態にしておくことです。

マタハラで会社名が公表されることはありますか?

あります。均等法30条が、9条1項から3項までや11条の3第1項に違反する事業主へ勧告をし、その勧告に従わなかったときに公表できると定めています。順序は報告の徴収・助言・指導・勧告が先で、公表はそれに従わなかった場合の措置です。育児・介護休業法にも同じ仕組みが56条の2にあります。

男性の育休に対する嫌がらせも均等法のマタハラですか?

均等法11条の3は「その雇用する女性労働者」に対する言動を対象にしているので、男性の育児休業への嫌がらせはこちらには入りません。根拠は育児・介護休業法25条1項で、こちらは男女を問わず、施行規則76条が挙げる11の制度・措置の利用に関する言動を対象にします。相談窓口を分ける必要はなく、指針も一元的な体制の整備が望ましいとしています。

就業規則には条番号を書いた方がよいですか?

条番号は書かなくても規定は有効ですし、書くなら更新の予定が要ります。令和8年10月1日から均等法の枝番号が解消され、防止措置義務は11条の3から15条へ動きます。中身は変わらず番号だけが動くので、「法第11条の3に基づき」と書いた規程はその日から古い引用になります。不利益取扱いを禁じる9条は動きません。

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出典

男女雇用機会均等法・育児介護休業法・両法の施行規則の条文(e-Gov法令検索)と厚生労働省の指針・施行通達・施行状況の生資料に基づく。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)、労働基準法の論点については労働基準監督署、または社会保険労務士・弁護士にご確認ください。

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